蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。3

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学校。

放課後。屋上。いつもの場所。

開く扉の先に座るは、肩近くまで伸びる黒髪をたなびかせる美少女。

頭脳明晰。成績優秀。近寄り難し。心の壁。その話題以外は。

座る。隣。貫く無言。読み続ける本。

グアルディオラ総論』

分厚く白い本と黒髪のコントラスト。ユーヴェ。

「……今日は何を読んでるんです?」

無言。無心。夢中。

「…………あら?」

「気づいてくれました?ずいぶんと夢中なようでしたけど。」

「そろそろ朗君が来るはずなのだけれど。まったく、女性を待たせるなんて気づかいのかけらもないものね。」

「いるから!華麗に無視するのやめてって!」

開戦。はじまりはじまり。

「あら!これはこれは失礼したわ。あまりにもステルスすぎて分からなかったわ。サイドバックの才能でもあるんじゃないかしら。」

「某ベガルタの25番にはなれませんよ!」

4-3-3について

「詩さん、今日なんですけど。」

「なにかしら。残念なのだけれど、夜なら空いていないわ。どうしても空けてほしいというのなら、そうねざっと200万でどうかしら。」

「200万も持ってないし。あと別に夜の予定を聞いたわけでもないんですけど…」

「そうだったの?ずいぶんと意味深な入りをしたから、ついにサッカーの話以外もディープな世界観でやるのかと思ってしまったわ。」

「サッカーだけで十分です…」

正す姿勢。

「それで、今日がどうかしたかしら?今度こそ真面目に聞かせていただくわ。」

「え?ああ、いや、今日話したいことなんですけど4-3-3で…」

「………」

「あれ僕変なこと言いました?」

溜息。

「…なんでもないわ。ほんとそういうところよね、朗君。」

「勝手に失望しないで!」

「4-3-3?4-3-3のなにが知りたいのかしら。」

「4-4-2はある程度動きがイメージできるんですけど、4-3-3ってどんな感じなのかなって。ほら、4-4-2はバランスがいいから見やすいと言うか。」

「4-3-3なら、2人のセントラルハーフとトップ下がいる方でまずはいいかしら。アンカーがいる逆三角形の方はまたあとで。」

「あれ、意外とあっさり話してくれるんだ。」

「別になにも。ちょーーーーーーーーーーーーーーっとだけムカついたから、少し真面目にお話してあげようかと思ってねえ…」

覇道。狂気。逆立つ髪。

「えええ!!!なんでなんで!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

3人のフォワード

「えーっと、まずは4-3-3の特徴を教えてください。」

「4-4-2との対比でいいかしら。まずは、FWの枚数。1トップと2ウィングの形をとっているわ。2トップとの大きな違いね。」

「そうですね。中央に2人のフォワードがいるとセンターバックからすると警戒を怠れないというか。ゴール前なので気も抜けないですよね。」

「そうね。しかも、1人がサイドに流れたりしても、1人がゴール前に残れるのが2トップのひとつのメリットになるわ。」

「でも4-3-3って、3トップとはいえ純粋に中央にいるフォワードは1人だけですよね。中央にいるのか、サイドに流れるのかって結構難しいような。ウィングはタッチラインに張っているわけだし。」

「まったくその通りね朗君。もう私がなにかお話しすることなんてないんじゃなくって。」

「いやいや、そんなことないですって。」

「そうやって、純真無垢な心優しいオタクを装って知らないふりをして清廉な女の子に近づくモテテクニックを惜しげもなく披露するなんて。教本にして売りさばいては印税で余生を過ごすつもりなのかしら。もし実現するのなら、私にも一声かけてほしいものね。」

「装ってないし!!そんなテクニックも持ってないし、どっちかというと犬走プレスで無駄に消耗するタイプだからやめて!!それにシレっとあやかろうとしないで!!」

「あら、私を実験台にしたのだから、分け前があって当然よね胴元さん。」

「どんどん人聞きが悪くなってるから!」

3トップのウィング

「そこで朗君。ウィングの出番よ。」

「おお!タッチラインギリギリに構える孤高の戦士!白線を踏んでスパイク裏を豆大福のように白くしろと言われるチームを前進させる翼!ですね!」

その言葉。湯水の如く。

「ま、まあ、これもほとんど正解ね…」

センターフォワードが1人の分、2人のウィングがいますよね。」

「そう。その2人のウィングが相手のサイドバックと対峙することになる。そうなるとどうかしら、何が起こると思う?」

「ん?そうだなー、きっとサイドバックは裏を抜かれたくないし、まずはウィングにボールが入ったら守ろうと考えるんじゃないですか。」

第一、二話を参照。宣伝。

「ええそうよ。そうやってあなたが攻めたてるから、私はこうしてなすがままに蹂躙されて…明日からどんな顔して外を歩けばいいのかしら…」

「サッカーの話だよね!そうなんだよね!」

飛躍。飛躍の年にしたいのか。

サイドバックが守ろうとすると、DFライン全体はどうかしら。あまり前にポジションを取れなくなってしまわないかしら。」

「そうですね…ああ、そうか!2トップならその役割をセンターフォワードがやるけど、3トップはウィングがやっているのか。そうやってDFラインが高くならないように牽制しているというか。」

「2トップが本来相手センターバックとの駆け引きで、裏に抜けたり、ボールを収めたりしていることをウィングもやろうとするのよ。」

「なるほど…」

「しかもそれが両サイドで。センターフォワードもいる。DFライン全体を攻撃するから、3トップはとても攻撃的なやり方なのよ。」

「す、すごい。戦線を拡大して、戦場をエリア全体に広げるわけですね。そうするとDF側もどうやって対応するかいうと、4-4-2ならまずは4バックが対応することになるから、今度は中盤から前線の支配力が足りなくなる、ということですね!」

「えーっと、オタク特有の早口と単語の高速エネルギー弾グミ撃ちのおかげで、あまりよくは分からないのだけれど、多分あっていると思うわ…」

ナンバー10・トップ下

「そして、上なのか下なのかよく分からないポジションについてなのだけれど。」

「トップ下のことですね…テストの点数みたいな言い方しないでください。」

「あら、テストの点数に下はなくって?」

「はいはい、暇を持て余した神々の遊びは僕の人生には一ミリも関係ないですよっと。」

「神ぐらい誰でもなれるわ。」

大胆不敵。八百万の神

「詩さん、その言葉はたしかにこの世の理を突いているように思えるのだけれど、おおよそテストの話からは大きく逸れているということに関していえば、とても傲慢で、そして純粋です。」

神々しいやりとり。知らんけど。

「それで、3人のアタッカーを支えるのがトップ下になるわ。ライン間で受けたり、2人のセントラルハーフと強力して、中盤のエリアを制圧する。」

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「3トップにも対応しなきゃいけないのに、トップ下までいたら、DFラインは相当厳しいじゃないですか。」

「そうよ。特にセンターバックサイドバックの間にポジションを取られると、相当苦しくなるわね。」

「いやー、ほんとそうですね。誰が見るんだ。」

「まあ、私は、朗君をもっと苦しめたいと思っているのだけれど。そうね、三日三晩硫酸に漬けて首を絞めあげるなんてどうかしら。それとも、屋上から大声で思いを果たす告白を全校生徒の前でやるとか。」

犯行声明。学校企画。

「えーっとそういうのはさておいて、3人のフォワードと1人のトップ下がお互い協力することで、相手DFを恐怖に陥れるんですね。」

「そうよ。そのどちらかが欠けてもいけない。『サッカーは、ひとりではできない』のよ。私たちが普段生活しているように。」

「キタ!『宮城野原詩』節!」

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。朗とは同級生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。サッカーの話になる(朗との話になると?)と冗談多め、饒舌(毒舌)多め。成績がいい。普段の学校生活では無口。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。詩とは同級生。

 やっぱりサッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。からかわれ上手?ツッコミ能力だけは日々向上。一応普通?の男子高校生。わりと友達はいる方(サカオタ含む)。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。2

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冬。

勾当台公園。寒い。とにかく寒い。

「そもそもの話をしてもいいですか?」

「なにかしら?どうして私たちが出会ったのか、それとも、出会ってしまったのかを話そうと言うのかしら。いいわ。あなたがそれを望むというのなら、いくらでも相手してあげる。でも、残念ね。これが世界の選択だということを骨の髄まで知ることになるわ。」

「なんでそんなに壮大な話になっちゃうんですか…」

大げさ。癖。

「なによ違ったの?。それは残念ね。」

「残念って…いや、中央からサイドへのカットアウト戦術は分かりました。でも、ハーフスペースに移動したウィングがそのままハーフスペースを使うやり方もありますよね。というか、攻撃側としてはそっちの方がメインというか…」

不用意。スイッチ。オン。

「そう…そうよね…?

「詩さん…?」

そう!ウィングのハーフスペース攻撃こそ、4-4-2攻撃の要諦っ!(2カメ)花形っ!(3カメ)相手のセンターバック-サイドバック-セントラルハーフ-サイドハーフの四角形の中心で受ける『焦点のプレー』!1人で4人の相手に選択を迫ることで、守備陣形を崩壊させる一手になる…。なんて恐ろしいのかしら…。あと、セントラルハーフとサイドハーフの背中で受けられたらもうたまらないわ。あッ、セントラルハーフとサイドハーフもだけれど、観ている私もね…フフッ!ああでもでも、あえて前で受けてからバックステップで視野から消えるようにして相手を引き連れれば、ボールホルダーに時間とスペースを与えることができる。ポゼッションっていうのは、『ボールを持っていなくてもポゼッションできる』のよ…ふふふ…でも、そのまま目の覚めるような楔パスをいとも簡単にターンで前を向く時なんて…ああ…私こんなに贅沢していいのかしら!」

圧倒。圧縮。圧勝。

「(完全にスイッチ入っちゃったよ…)」

「それからそれから…あーでもそれは私のなかでも結論が出ていなくて…ふふふ…」

一時停止。幽体離脱解除。

「ストップ!ストップ!分かりました、分かりましたから、ひとつずつ説明をお願いします!」

「…!…ごめんなさい。それで、なんだったかしら?」

「(完全にオタクモード全開だったな…)ウィングのハーフスペース活用術を教えてください…」

 4-4-2ウィングのハーフスペース活用術

「順を追って話していきましょう…」

「そうね。何事も順序というものがあるわ。朗君みたいにいきなり迫っても、こちらとしては対処に困ってしまうわ。まずはお友達から始めましょう。でも、そういうやり方、私嫌いじゃなくってよ…」

「ち、ちょ、待てよぉ!(CV:木村拓哉)最終的に僕のせいになる理論に名前をつけてもらえませんかね!」

新理論提唱。アインシュタイン

「まずは何から話せばいいのかしら?ゲームメイカータイプがウィングに入った時の素晴らしさについていかがかしら。動ける司令塔なんて激萌えよ。ダビド・シルバ?それとも、トマーシュ・ロシツキーのほうが好みかしら?私はどちらでも…いえ、決められないわ…!」

恍惚。予防。

「はいストップ。えーと、『ウィングがハーフスペースを使う』って、具体的にどんな良さがあるんです?」

「そんなの、大体分かるでしょう。」

投げやり。ほかに話したい萌えポイントがある。

「いやいや、そんな分からないですよ…」

「まったく…こんなものを読む読者は大体変わり者か変態のどれかと決まっているのだから分かってるはずよ。」

「詩さん、あんまりメタメタしいこと言わないでください!読者ってなに!!僕分かりません!!みなさん好きですよ!!」

本当にやめてほしい。ドキッとする。作者が。

「まあいいわ。とても簡単に言えば、2人以上の選手間に立つことで、どう対応するのか相手を迷わせることができる。」

「たとえば、ウィングならサイドバックが見るのが基本ですけど、サイドバックセンターバックの間に立つと、どっちがついていくか判断しないといけないってことですよね?」

「そうね。もちろん、そのままサイドバックがついていくこともあるわ。でも、本当に守らなければいけない所ってどこかしら。」

「あ…それは…」

「ねえ朗君。私だって守ってほしい時ぐらいあるわ。これでも一応、白馬の王子様の登場を待ちわびるような純真無垢な乙女心を持ち合わせる大事なお年頃なのよ。そうやって恥ずかしげもなく全部言わせようというのなら、デリカシーをミキサーにかけて毎日飲むことをおススメするわ。」

翻弄。でも、やっぱり壮大。

「だから!変な方向にもっていくのやめてって!DFラインの背後!裏のスペースのことでしょ!」

動揺。そろそろ、慣れろ。

「……冗談通じないわね、その通りよ。」

「もっと冗談っぽく言ってくださいって…」

ウィングの焦点のプレー

サイドバックがついていけば、『本当に守らなければいけないDFラインの裏=ゴール前』が空くことになるわ。センターバックやセントラルハーフがカバーに入るけど、本当はゴール前中央を守ってほしいわよね。」

「そうですね。一番大事なゴール正面を守る選手がいなくなる…」

「でもどうかしら。いつも朗君が私へするように、無視して放置プレイで快感を感じるのなら別だと思うのだけれど、ことサッカーに関していえば、そのままハーフスペースで前を向かれることがどれほど危険で、恐ろしいほどに傲慢か。」

特殊な性癖の持ち主。十人十色。

「放置プレイもしないし、快感も感じてないから!!いや、無視するわけにはいかないと思いますよ。だって、DFラインとの勝負になるじゃないですか。それで突破されたらGKしか守る選手がいないですし。」

違ったらしい。冷たい風が吹く。

「そうね。相手選手間でボールを受ける『焦点のプレー』は、守備側にとってとても厄介なプレーになるわ。誰がついていくのか、いかないのか。瞬時に複数人に判断させることになる。」

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「それでさっきのカットアウトに繋がるんですね。守備側は、中央にボールが入って『焦点のプレー』を防ぎたいと考えるから、サイドが、ワイドレーンが空くんですね。」

「そう。でも、少しでもサイドに張ってる選手が気になるようなものなら、ロンギヌスなのかカシウスなのかは分からないのだけれど、槍のように『焦点のプレー』のウィングに楔のパスが突き刺さるわ。」

「そういう駆け引きというか、攻防って、こういうのが分かって観るとすごく面白くなりますね!」

帰路

寒い。午後の勾当台公園

「そうね。ただ、私の個人的な感情を言わせてもらえれば、朗君だって、私を突き刺してもらって構わないのよ。そちらのほうが張り合いがあるってものよ。私はいつでも突き刺される用意があるわ。さあ…」

スルー。冷める120円。

「……あの、コーヒー飲まないんです…?」

「あらごめんさい。話に熱中してしまったわね。でも私、こう見えて猫舌だから丁度いいかもしれないわね。ありがたくいただくことにするわ。」

「どう見たら猫舌って分かるんですか。とういか暖かいものがほしいって言ったのは詩さんでしょ!せっかく買ってきたのに!」

お開き。またどこかで。

「あら?そうだったかしら?」

「もう!!帰る!!」

「そうね帰りましょう。こんな激寒な公園でサカオタ歓喜の会話しかできないなんて、健全な男女2人の高校生がするべきことではないのだから。」

「もういい!!!帰って移籍ネタ漁るもん!!!」 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。朗とは同級生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。サッカーの話になる(朗との話になると?)と冗談多め、饒舌(毒舌)多め。隠しスイッチがある。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。詩とは同級生。

 やっぱりサッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。からかわれ上手?ツッコミ能力だけは日々向上。

【清く、そして正しく】セリエA 第19節 ウディネーゼvsサッスオーロ(3-0)

はじめに

  どうも、僕です。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。さて、新年一発目は、高速レビューチャレンジです。セリエAから。では、レッツゴー。

前半

 サッスオーロは、4-2-3-1。ボール保持時は、4-2-3-1の陣形を維持したままポジショナルアタックに移行。ビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。加えて、両SBがハーフライン付近と低く構えるため、6枚のビルドアップ隊と底堅い型。ネガティブトランジション対策と相手プレスの分散化を目的としていると考える。ミドルサードからファイナルサードでの攻撃については、相手5バックを崩すことができず。右サイドは相手WBがSBをプレスターゲットにするため高い位置でプレスを敢行。右ウィングのボガがフォローで低い位置まで降りてくるので、顔面からプレスを受けることになる。逆側左サイドは3センターのスライドの時間分、時間とスペースに余裕があったため、ヤードゲインに成功。左から中央、右にボールをもっていくことで5バックを崩そうとしたが、決定打にはならず。得意技のレイオフ攻撃、ハーフレーンに刺す楔パスで打開を図りたい。

 対するウディネーゼは、5-3-2を対抗型として準備。2トップはハーフラインからプレス開始し、CBをスポイル。陣形全体をコンパクトに保つことで、サッスオーロの楔パスを警戒。左サイドはWBが低めに構えるSBまでプレスに行くことで、窒息させた。断続的に、4-4-2のような守備陣形を見せる。右サイドは、3センターがSBに対してスライドで対抗。5バックが相手4人のアタッカーに対して数的優位もあり、決定機を作らせず。ボール保持攻撃は、3バック+アンカーの逆丁字型ビルドアップ。そこにインテリオールが降りることで、相手の3-1プレスを回避。40分ごろは、WBが低くなって相手のプレス回避しビルドアップの出口になる。ただ、プレスが厳しくなれば、前線2トップ、特にカカオにボールを蹴ることでヤードゲインを図った。先制点もCKからの得点と狙い通りに見える。後は後半どうやってクローズさせるか。仕留めるのか、守り切るのかは、チームの色が出る気がする。気がするだけ。

後半

 両チームともメンバー変更なし。ウディネーゼのボール非保持陣形も5-3-2のまま変わらず。サッスオーロは、ポイントを作っていた左サイドにボガ、トップ下にジュリチッチを配置変更。ボガにシンプルにウィングロールを任せることで、WBをピン留め。さらにジュリチッチが左ハーフレーンを出入りするのでハーフディフェンダーもピン留めに成功。左SBがボールを持つ時間とスペースを与える。3センターのスライドで物理的に時間がかかるため。ボガとジュリチッチはローテーションを織り交ぜながら前進。SBとCHが同じ高さでカウンター予防しつつ、ボールを前進させた。右サイドがアイソレーションで空いている場所を使うものの、最終的になゴールシーンまで作れず。

 サッスオーロとしては、ハーフレーンを封鎖されレイオフができずにいたり、前プレがこないため擬似カウンターが発動できず、課題と思われるファイナルサードでの崩しにもってこられた。ウディネーゼも5バックで構え、また前線の選手もリトリートで帰ってくるためさらに手厚い形になった。2点、3点目もサッスオーロが人数をかけて攻撃してきた背後をロングトランジションのカウンター攻撃で仕留めた形になった。ウディネーゼとしては、シンプルにフィジカルで勝つ場面を作ったり、リトリートはしっかりして、最後はゴール前中央を固める「清く正しい弱者戦術」で勝ち点をもぎとった。デ・ゼルビサッスオーロも、一時期に比べればネガティブトランジションを意識した攻撃にはなっていたものの、ボックス内やゴール付近でアンタッチャブルな存在が見当たらず、得点0に終わってしまった。

おわりに

 非常にセリエAの精密な守備の部分、攻撃しがいがあるウディネーゼディフェンスが見られました。そこを緻密にどう崩すかをサッスオーロに期待していましたが順位も降格圏付近に沈んでることもありかなり守備を意識したやり方になっていました。ここは、外野の自分が攻められるところではないので、ただ個人的な感情を言えば少しでも長くデ・ゼルビのサッカーを観たいなと思っています。

 

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。

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序 

冬。

仙台。勾当台公園

ベンチ。高校生。男女2人。

「こんな寒いところで話さなくてもいいんじゃないですか?」

「嫌なら止めてもいいのだけれど。それか、暖かいものでもあれば、少しはマシになる気がするのだけれど。そうね、たとえばホットチョコレートとかいい気がするわ。気がするだけかしら?」

「はいはい…」

自販機。コーヒー。2缶。合計240円。

「おかしいわね朗君。チョコ要素が一ミリも無いのだけれど。」

「勘弁してくださいよ…詩さんの要望通り、『真冬の外』、『暖かいもの』で条件は揃えましたよ。」

「まあいいわ。冗談で朗君をいじめるのもこのぐらいにしておきましょうか。」

吹き出る。120円。

「じょ、冗談だったんですか…!」

 4-4-2の攻撃戦術

「それで、もっぱらオフシーズンは移籍ゴシップネタに毎日ブヒブヒ言ってるだけのサカオタ朗君が、昼夜逆転の欧州サッカー観戦で血走った眼を輝かせながら、何を話したいのだったかしら。」

「それ絶対馬鹿にしてますよね…?」

「あら、最大級の賛辞のつもりよ。」

風になびく。黒髪。少しだけ。

「4-4-2ですよ、4-4-2。この前学校で話してくれたじゃないですか。あれの続きを聞きたいんですよ。」

「ああ、あの話?ほんのチラッと話しただけだったと思うのだけれど。」

「あれが超面白くて!あの時は休み時間だったからそれほど聞けなかったけど、もう少し詳しく聞きたいんですよ!」

風が止む。静寂。

「別に構わないのだけれど、それほど面白い話でもないわ。それでもいいかしら。」

「まったく問題ナシ!何卒、よろしくお願いします!」

一呼吸。バッサリ。

「サイド一点突破。以上。」

「嘘でしょ!!!」

 4-4-2と5レーン

「なによ。これでもかなりシンプルに、かつ具体的にお話させていただいたつもりなのだけれど。どこか不満だったかしら?」

「不満だらけですよ!それじゃプレミア万歳じゃないですか。」

「そうとも限らないわ。4-4-2のサイド攻撃は奥が深いのよ。あなたが4-4-2を知らないだけ。もっと優しく接してくれなきゃ、『彼女』も心を開かないわ。」

「あの…フォーメーションを擬人化するのやめてもらってもいいですか…」

「あら、妙案だと思うのだけれど。サカオタなら、萌えだの、尊いだの『〇〇単推し!異論は認めないナリ!』とか言ってすぐにとびつくと思うのだけれど。でも、最後は散々弄んだ挙句にオワコンだなんだって捨てるんでしょ。」

独断。偏見。訂正。

「ええっと…なにかあったんですか…?」

「いいえ別に。私はただ、悪いオタクにはなりたくないと思っているだけよ。」

ダメージ。かいしんのいちげき。こうかはばつぐんだ。

「そ、そんなことより、詳しく教えてくださいよ。4-4-2のサイド攻撃って、いわゆる5レーンで言うところのワイドレーンのことを言ってます?」

「最終的にはそうね。半分正解。」

「もう半分は?」

「……ハーフスペース。」

説明しよう。ピッチをワイドレーンx2、セントラルレーン、ハーフスペースx2と縦に5分割したサッカー戦術オタク必殺の5レーン理論だ。

「おお!やっぱりハーフスペースが重要になるんですね。セントラルレーンとワイドレーンの中間。パスもランニングも斜めのダイアゴナルになる魅惑のエリア。ハーフスペース万歳!」

丁々発止。有頂天。訂正。

「よくもまあ、読者への説明セリフ満載の恥ずかしい長文を噛まずにしゃべれるわね。感心してしまったわ。『感心してしまったで賞』で100ガバスあげましょうか。」

「いらないですよ!ファ〇通でしか使えないじゃないですか…」

軌道修正。

「最終的には、4-4-2のウィングがワイドレーンを突破するのが、4-4-2の攻撃、サイド攻撃の要になるわ。ボール出しは、サイドバックだったりセントラルハーフだったりするのだけれど。ただ…」

「ただ?」

「ハーフスペースを使うのもまた、ウィングなのよ。」

「どういうことです?同時に2つのレーンを使うなんて、物理的に不可能ですよ。」

「そう。でも原則は変わらない。『使いたいところを最後に使う』のよ。」

4-4-2のカットアウト戦術

「でた!『宮城野原詩』節!」

「…やめてもらえないかしら。ひとを歩くサッカー語録みたいに言うの。」

「それで『使いたいところを最後』ってことは、ハーフスペースを使ってから『本命』のワイドレーンを使うってことなんですよね?相手DFをひきつけてから、本命を狙うって感じなんですよね。」

「概ね正解ね。4-4-2のままワイドレーンを攻撃しようとすると、パスレーンもランニングコースも相手に警戒されていて突破しにくいの。だから、まずは警戒網から解放する作業が必要になるわ。」

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「それがハーフスペースを使うこと、ですか。」

「そう。レーンを変えること、つまりレーンチェンジでハーフスペースへ移動することで、相手DFは中央3レーンにボールが入ることを警戒するの。その時、ワイドレーンはいったん『捨てられる』のよ。」

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「そうか。ゴールに近い中央3レーンを守ることが守備側にとって一番優先されるのか。」

「ええ、あなたが私にしたように…」

「ち、ちょっと待ってくださいよぉおぉ!(CV:森久保祥太郎)全く身に覚えのないことで勝手に妄想ふくらますのやめてもらってもいいですか!」

慌てる。しかし、動じない。

「あら朗君、私と話すのではなくて、サッカーの話さえ聞ければいいのでしょう。サッカーの話をしている時が一番楽しそうにしゃべっている気がするのだけれど。気がするだけかしら?」

「そ、そ、それは…いやいやいや!詩さんとサッカーの話をするのが楽しいんですって!」

慌てる。これは、カウンター一閃。

「な、なによ急に…と、とにかく、ゴールに近い中央を捨ててサイドに立ったままなんてあまり考えられないわ。だから、攻撃側としてはそこを利用するのよ。パスレーンとランニングコースが空いたら、今度こそ、ワイドレーンにウィングが飛び込んでいくわ。」

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「そうなると、自然と斜めのランニングになるのか!」

「その通りよ朗君。ボールはタッチラインと並行にパスされ、ハーフスペースからワイドレーンに斜めにランニングしてきたウィングにボールがつく。一連の攻撃をウィングのインナーラップだなんて呼ぶわ。」

「あとは場面を切りぬけばフットサル用語からパラレラ、チャンネル(SB-CB間)を狙うからチャンネルラン、カットインの対義語としてカットアウトとかとか。まあ、なんて呼ぶかはそれぞれのオタクに任せるのだけれど。」

「詩さんはなんて呼んでるんです?」

「私は…そうね…インがあるのにアウトがないと気分が良くないから、カットアウトかしら。」

「あの…すごくぽいです!僕もそう呼びます!」

「だから、あなたは私をなんだと思っているのかしら…?」

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。朗とは同級生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。甘党。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。詩とは同級生。

 やっぱりサッカーオタク。見る将。詩は畏怖を込めて「さん」付け。 

 

【いつでも探しているよ、どっかに君の姿を】2019年 ベガルタ仙台 加入選手分析 振り返り

はじめに

 どうも、僕です。今回は、年始に上げた新加入選手分析を分析してみます。自分の記事を分析するという狂人しかやらない作業に着手してみようと思います。「あの男」がいたかどうか。では、レッツゴー。

すべてのはじまり

 これが年始に上げた新加入選手分析です。なぜか読んだ方の感想が「アグエロ」になる不思議な記事です。

sendaisiro.hatenablog.com

 実際は、「オールアグエロ理論」のせいなのですけれど。ここで取り上げた選手たちの「アグエロ度」がストロングゼロなのかほろよいなのかを確認したいと思います。さて、アグエロみが尊いのは誰でしょうか。

100秒で分かる2019年新加入選手振り返り

飯尾 竜太郎 →アグエロみ ☆☆☆

 スリーテイルズの一角。実質アグエロのゴールを持っていましたが、ケガでほとんど出場できず。来季に期待。「ドラゴンは、最後にやってくる」って書くと小説のタイトルっぽくないですか?

石原 崇兆 →アグエロみ ★★☆ 萌袖は正義度 ★★★★★★★★★★★★★★

 いわゆるタカチョー。一時は、スタメン常連に。ワイドレーン、ハーフレーンどちらでも戦えるテクニカルウィンガー。ただ、5バック化とカウンター急先鋒のワーキングウィンガーには不適でスタメンを外れるようになる。ガンバ戦の長沢へのパスは、とんでもなく素晴らしかった。アグエロみが深い。

兵藤 慎剛 →アグエロみ ★★☆ 一家に一台度 ★★★★★★★★★★★

 兵さん。持ち駒に銀があるような安心感。交代手として攻防に利く一手になる。序盤は、ビルドアップを全部ぶん投げられて、転職してきたのに組織が抱える課題を全部投げられた感がすごくてしんどかった。

松下 佳貴 →アグエロみ ★★★ 天才度 測定不能

 天才。空間把握能力および危機察知能力に優れたソナー。それであり、必殺パスを通すマエストロ。天才がすぎるので味方が追いつけないほどのIQの持ち主。スタメン常連も松下にとっては未知の世界だったの思いますので、常に全力投球だったのかなと。それでこそ、ベガルタ仙台の8番だ。

道渕 諒平 →アグエロみ ★★★

 シーズン途中の戦術変更を転機に、右ウィングに定着。ハードワーカーでありながら、ハーフレーンの攻略法に熟知しており、ローテーション攻撃も可能。現代サッカーに求められるポゼッションでもカウンターでも戦える選手です。来季も頼みます。あと、タオマフ買いました。

吉尾 海夏 →アグエロみ ★☆☆

 正直もっと見たかったです。ケガさえなければ、中央もサイドも対応可能な万能型アタッカーになる素質があります。日本平で放った一撃が、そのすべてを物語っています。必殺の「カイナターン」。一発でファイナルラインに致命的な一撃を加えるプレーをもっと見たかったです。もっと。もっと。来季は町田で世界中を照らしてほしい。スリーテイルズの一角。

長沢 駿 →アグエロみ ★★★ 長身だけど足元へ度 ★★★★★★★★★★★★

 長身のワンタッチゴーラー。どんな体勢でもゴールにねじ込む姿に、ストライカーの神髄を見ました。加えて、サイド誘導のワイパープレスを装備したことで、攻守において欠かせない存在になりました。ぜひとも、二桁得点をば。でなければ、タイに行くことになる。

シマオ マテ →アグエロみ ★★★ 島尾摩天 ★★★★★★★★★★★★★★

 スリーテイルズのヤバい人。とんでもない危険察知能力でスペースおよび人をカバー。強靭なフィジカルで決闘。そのほとんどを勝利で終えています。盾で殴るとはこのことかと。ついた呼び名が「島尾摩天」。第六天魔王みが深くてよい。ファイナルファンタジー的には、デモンズウォール。

田中 渉 →アグエロみ ★☆☆

 最終節の広島戦ではリャンとスタメンに。ハーフレーンを舞台に、とんでもねえ激萌えパスを出すなど将来は有望。来季頼むぜ。

照山 颯人 →アグエロみ ★☆☆ キミッヒみ ★★★★★★★★★★★★★★★

 ルヴァンを見たひと達がもろ手を挙げて称賛していたテル君。そのプレーを見た者は、「…テルだ…テルが帰ってきたんだ…」と口にするとかしないとか。奥州のキミッヒは、来季を飛躍の年としたい。え?アグエロじゃないのかって?

ヤクブ・スウォビク →アグエロみ ★★★ 最強GK度 ★★★★★★★★★★★

 シーズン途中での加入。ダンの代わりを十二分に埋める活躍。すべてのセーブがスーパーセーブ。というか、決められて仕方ないゴール以外全部止めるマン。スーパーセーブ過ぎて、ベストセーブの基準が引き上げられたとかそうではないとか。そのイケメンプレー、イケメンフェイスから、「クバ様」と呼ばれる。ファイナルファンタジーから、「しょうかん『ク ヴ ァ 神』」とも呼ばれている気がする。気がするだけ。

中原彰吾 →アグエロみ ☆☆☆ なんかヘディング強そう度 ★★★★★★★★

 シーズン途中加入。髪を染めているので実質アグエロです。パス出せる系セントラルMFとして入団しましたが、ほとんどスタメンに絡めず。来季新体制にもなるので、心機一転スタメン争いに絡んでほしいです。

ジオゴ・アコスタ →アグエロみ ☆☆☆ ユアスタ度 ★★★★★★★★★★★

 シーズン途中加入。アトレティコ・マドリー所属のジエゴ・コスタと名前が似ているので実質アグエロです。秘密兵器は使わないからこそ兵器としての価値があることを教えてくれたのが今回の「ジオゴ」でした。平和の象徴。代わりはいるもの(綾波並の感想)。仙台という土地に来てくれてありがとう。慣れない土地での生活だけでも大変だったと思います。

おわりに

 シンプルに活躍した選手が多かったですね。奥埜、野津田、板倉と主力クラスを引き抜かれているので、当然といば当然かもしれません。また、苦しいシーズンで、何度も形態変化して生き残ってきたので、もしかしたら、みんなにチャンスがあったのかもしれません。理想とは違う戦い方を選んだ2019ベガルタ仙台。向かいのスタンド。路地裏のフラッグ。こんなところにいるはずもないのに。さあ、来季は、どこに「彼」がいるでしょうか。では、また。

【杜都の四星剣】ベガルタ仙台 2019年シーズン分析

はじめに

 どうも、僕です。今回は、ベガルタ仙台2019年シーズンを振り返ります。戦術フォーマットの視点で見ていきます。フォーマットなんて、カッコいい感じに言ってますが、簡単に言うとカッコいいです。冗談はさておいて、フォーメーション、選手、戦い方をひとまとめにしてフォーマットと呼んでいるだけです。特に目新しさはないです。

 なんでこの呼び方をするというと、今季ベガルタの戦い方は、3バックや4バックで簡単に層別できないと、後半戦は別として、春先から大きくメンバーが変わっています。それぞれに強みがあって、弱さがありました。今季ベガルタ仙台が披露した4本の剣を振り返ります。 

J1リーグ34節のみの振り返りになります。ご了承ください。

目次

4種類の戦術フォーマット

開幕節 浦和戦~ 「翼をもがれたベールクト」

 オリジナルフォーメーションは、3-4-2-1。渡邉晋式ポジショナルプレー必殺フォーメーション。ファーストサードでのビルドアップは、GKを含めて、左右ハーフディフェンダーの片方だけを上げる擬似4バックやCH1人が「アンカー落とし」することでの擬似4バック化、3バック化して逆丁字型ビルドアップが基本型だった。左ハーフディフェンダーには、永戸が入っていたこともあり、永戸と大岩とCH、GKダンでスクエアのビルドアップも見せていた。ワイドレーンにレーンチェンジしている平岡を出口役として拝命した。

 4節湘南戦あたりから、「CH1人のアンカー落とし」と「左右ハーフディフェンダーのワイドレーンへのレーンチェンジ」で「ミハイロ・ペトロヴィッチ式ビルドアップ」を発動。通称「ミシャ式」でエリア全体のビルドアップを安定化させ、ボール前進を図った。

 ただ、これがうまくいかなかった。CBには大岩、CHにシマオを起用することで、ミシャ式時に「2バック」がこの二人になると途端に展開力が落ちた。代わって兵藤が入っても、アンカーシマオが中盤のハブになれず、後方のスペースと時間を前方に持っていけない。そうなると、シャドーポジションに入った選手が降りてくる。前にボールを運びたいのに、後ろに人が降りてくる逆転現象が発生。結果、ボールエリア周辺にプレスを誘発し、クリアリングに苦慮。いわゆる、ボールを持っても、ボールが回らない、人が動かせない状態に至った。出口は、大きく開いた左右ハーフディフェンダーになるのだけれど、相手からすれば中央3レーンに刺される危険が減ってい状態でサイドに出されても特別怖くない。しかも、シャドーが降りている状況でワイドレーンにいるのが永戸と平岡しかいないのであれば尚更。

図1

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 良い攻撃の入口であるビルドアップで大きく躓いたベガルタ仙台。西村去った後、「西村がいなくても点数を取れるやり方をやっていれば西村が現れる」に挑戦していたのだけれど、西村が現れる前に、そもそものやり方の部分でビハインドがあった。相手がブロックを組んでくることに対して、5レーンアタックだけでは崩せなくなってきた昨季。相手を誘き出すために、手前でボールを回すも誘き出すための構造が相手にとってあまり効果的ではなく、逆に相手のプレスターゲットになって自分たちを苦しめる逆機能となった。奥埜、野津田の移籍、椎橋の不在でポジショナルとトランジショナルを支えていたメンバーのいない中、新加入選手と攻撃構築するのは至難の業だったと想像する。ただし、天皇杯決勝で隠れた昨季中盤~終盤の課題が結局のところ解消できなかったともいえる。

 こうして、雪の降る春の5節セレッソ戦にて、今季の準備フォーマットは、死に至った。ちなみに、攻守において、絶望的な感情を抱いたのが5節のセレッソ戦だった。開幕からうまくいっていない状態とホームでの完敗。当時の肌感覚で、監督交代およびチームの解体を覚悟した試合だった。 

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6節 鳥栖戦~ 「擬似シン化形態・ナベショナルプレー」

 6節鳥栖戦は、まさに運命の一戦だった。チームは、フォーマットを変更。前輪駆動型人海守備決戦兵器3-1-4-2を採用。3バックには、右から平岡、常田(クォーターバック)、皇帝ジョンヤで組み直した。同じ3バックでも、前述したフォーマット「翼をもがれたベールクト」と大きく異なるのが、常田とジョンヤという、キックに優れた選手が入ったことだ。

 3バックビルドアップによるポゼッションにおいて、大きな落とし穴がCBのキック力だ。SBあるいはWBが高い位置を取るためには、CBに入る選手のキック力が高くないとそもそも届かない。届かないと相手にカットされ、トランジション機会を与える。与えないために、今度は、SBあるいはWBが降りてくる(=CBに近づく)。これがフォーマット「翼をもがれたベールクト」の大きな欠陥だった。ボールを持つバックラインの選手にどんどん前線の選手が近づいて、神罰のボールホルダー代行を務めようとする。あとは、前述の通りだ。

 取り入れたミシャ式は、「低い位置でCBのフォローもつけたいけど、高い位置でウィングもほしい」という何とも欲張りなことをした結果、CBをワイドレーンにWBを高い位置に取るやり方だ。ただ、こんな傲慢なことが許されるほど、今日のJ1も緩くはないということ。

*3バックポゼッションについて

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図2

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 常田の必殺の「角行シャビアロンソフィード」とジョンヤの「誘き出しパス+レイヤースキップパス」でボール前進させた。これにより、ビルドアップ型も3バックを堅持。余分な人余り現象を一気に解消させた。Jリーグフォーマットのアンチを組むなら、「キック力(=パス距離)」は断然ひとつの優位性になる。数的、質的、位置的の3つの優位性があるのなら、Jリーグには4つ目のパス距離的優位性がある気がする。気がするだけ。

 さらに、2トップに変更。選考も、ジャメとハモンのカットアウト系FWを選択。相手SB-CB間を狙い撃ちした。ビルドアップを潰そうと前プレをかけてくるなら、その裏をシンプルに狙うとばかりの攻撃戦術だった。ボールも人も後ろ向きのチームに、「CBのキック」と「FWのオフボールラン」で一気に前向きにした。この変更は、実は、後述する今季を支えたフォーマット以上に、大胆で、それでいてこれまでの積み重ねの上にあって、提案型で、攻撃的な変更のように思える。一手であらゆるソリューションになることこそ、イノベーション的思考だ。

図3

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 ただ恐ろしいのは、7節大分戦、8節鹿島戦ですでにメタを張られてしまった。ここが今季の、いや、最近のJ1リーグの恐ろしいところだと思う。大分は5バックでWBが後方待機して、2トップのカットアウトを防ぐ。鹿島は、4バックだけど、4-4-2のブロックを中央3レーンに敷くことで、2トップと2インテリオールを窒息させた。追いついたと思ったら、すぐに追い越されていく。先に先に手を打っていきたいが結局は後追いになるところが、今季序盤で本当に苦しいところだったと思う。

 そういう意味においては、完全版ナベショナルプレーではなく、あくまで今いるメンバーと積み上げのMAX地点だったように思える。「擬似シン(神・進・晋)化形態」。

 大分、鹿島とポイントを落としたことで、チームはひとつの決断を下す。次節。ホームユアスタ。再び、あの伝統的フォーメーションが出現する。 

9節 G大阪戦~ 「光速のトムキャット型4-4-2」

  9節のガンバ戦で、4-4-2を採用。再び、ユアスタに、4-4-2が出現する。ボール非保持には、4-4-2ブロックを組むのだけれど、攻撃時には形を大きく変える可変型だった。両ウィングがハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット可変を敢行。代わりに、両SBがウィングロールとして高い位置を取る。松下がアンカー落としで3バックビルドアップを開始する。そうなると、前述した3バックビルドアップの失敗例であるキック力不足を補うことができる。なぜなら、CBにはジョンヤと常田が入っているからだ。松下、常田、ジョンヤの3人で後方のエリアおよび前線へのパスレーンを支配。高い位置を取る蜂須賀と永戸、ハーフレーンで待つウィングに縦に刺すパスが可能に。

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 こうなると、後方での人余りはなくなり、全体として高い位置でコンパクトさを出せることに成功した。両ウィングも、タカチョーとカイナというテクニカルなタイプが入ったことで、ハーフレーンでの必殺「タカチョードリブル」や「カイナーターン」が炸裂する。また、2トップもハモン、ジャメを継続。前への推進力という点では大きな力となった。

図4

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 可変型のメリットとして、相手が自分の担当だと想定している選手が離れていったり、別の選手が目の前に来た時に「選択」させることができる。それを連続することで、相手の守備の約束の束を解かせることができる。ひとつ手順を間違えれば、ブロックを崩せることを相手にチラつかせることで、戦術的負荷をかけることができる。頭が疲労すれば、こちらの勝ちだ。

 難しかったのが、若いメンバーだったり、フルシーズン出ていないメンバーが多かったこともあって、アジャストするのに苦労していた。ルックアップしても前線が走り出していない、受ける状態にないのにパスが出て来たり、パスミスや余計なカウンターを食らうシーンが多かった。特に、CBに抜擢された常田は、中央へのパスコースと前線にフリーな選手が見つからないと途端に窒息した。13節灼熱の日本平で行われた清水戦では、北川のカバーシャドウ守備への対応に苦しみ、自陣でロストするなど壁にぶつかった。常田については、川崎戦でもパスカットからカウンターをくらっており、それが良い挑戦と経験になれば良かったのだけれど、チーム状況もありスタメンから外れることになる。

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 常田の相棒、皇帝ジョンヤも負傷で離脱。チームは、ここで、大きな決断を下す。「光速のトムキャット型4-4-2」も、4バックに変更したといっても、ボール保持を優先的に考えたうえでのフォーメーション変更だった。戦い方としては、たしかに2トップが高速アタッカーになったが、マイナーチェンジ程度。前述したウィングにボール保持への意思を感じる。ある意味、これが渡邉晋式ポジショナルプレーの最後のあがきだったかもしれない。あるいは、来る「決戦」へ準備する時間稼ぎだったのかもしれない。両方かもしれない。いずれにせよ、理想的な形での4-4-2への移行ではなかったのは確かな気がする。気がするだけ。

 選手、やり方も大きく変えたフォーマット変更が結果として、今季のベガルタ仙台を支えることになる。シーズン序盤の苦戦により、圧倒的不利な状況に陥ったベガルタ仙台の切り札になったのが、伝統的4-4-2とあの男だった。 

14節 名古屋戦~ 「衝撃の決闘型4-4-2」

  ベガルタは、14節の名古屋戦からフォーマット一新を決断。これは、同時に、残りの試合すべてを残留のために勝ち点をもぎ取る作業に注ぐことを意味した。

 フォーメーションは、4-4-2のままで、ウィングにハードワークウィンガーの関口と道渕が入る。そして、CBには平岡とシマオがコンビを組んだ。前線の吉尾以外は、最終節まで戦ったメンバーと変わらない。この試合で勝利したこともあり、今季の分岐点になった。(18節浦和戦の椎橋退場以降、センターハーフも決まった)

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 大きな特徴は、ボール保持時間が短く、ブロックラインを後方に構えてハーフライン付近からのプレッシングになった。また、両ウィングが相手SBに合わせて低い位置まで追いかけて5バック、6バックを形成。また、CBやSBの迎撃が目立つかなり「人につく」やり方だった。そのなかでも、ファイナルラインに入ったシマオは、その身体的な特徴とリーガで鍛えた危機察知能力でいわゆるデュエル局面で「決闘」勝ちしていく。格が違った。球際、切替といったトランジション局面を制圧することで、自分たちの守備陣形は維持したまま、相手の陣形が崩れた状態で戦うことができる。一騎打ち。終止符打ち。1on1の決闘に持ち込み、「勝利、さもなければ死しかない」精神で戦った。

図5

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 一方のボール保持攻撃は、かなりシンプルに。ビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。そこから、ハーフライン付近に構えるSBを経由して、カットアウトするFWやウィングにボールを供給する「棒銀戦法」が主の攻撃戦術となった。ワイドレーンを1点突破する形は、これまでも見られたのだけれど、主戦術になった。

 ポジティブトランジション攻撃は、相手をワイパープレスで中央3レーンを切りつつサイドへと誘導。相手SBにボールが付いたタイミングでウィング、あるいはSBが縦に強く当たることでボールを奪取。一気にミドルトランジションに持ち込む戦い方を徹底。長沢、ハモンの守備のオフボールランが上達していくのがよく見て取れた。

 良い守備は良い攻撃を。それを地で行った今季後半のベガルタ。ボール非保持時の4-4-2リトリートとどこにボールを誘導して、どこで奪うかを明確にしたことで、もともと迷いがあった守備に強さが生まれた。誘導して縦パスが入ってもシマオが何とかしてくれる質的優位性とワイドレーンへの誘導で窒息させる位置的優位性が武器になった。完全に、シマオシステム。ソファ幅で鬼神の如きプレーを見せるシマオに、部屋全体を守らせるわけにはいかない。それがシマオCH起用で得た教訓だった。だから、彼が「葉巻をくゆらせながら座るソファに誘導してあげれば良い」と改善したのがFWのワイパープレスからの誘導だった。

 また、「衝撃の決闘型4-4-2」導入当初は、かなり人につくまさに決闘型だったのだけれど、シーズンが進むにつれ、相手への対策も兼ねてスペースを守るやり方や誘導の仕方を身に着けていった。いかに、120%の力で決闘できるかを最優先項目にして守備構築していたのが今季のほとんどだったと言える。

図6

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 ただ、書いてしまえばそれをやり切っただけとも言える。ボール非保持時、つまりは守備時のやり方はかなりロジカルだし、決まり事さえ決まればあとはそれを実行するだけになる。それ以上でもそれ以下でもない。たとえば4-4-2ゾーンディフェンスがあれば当然良いのだけれど、「で、それで?」と聞かれたら、まあ、何も言えなくなる。相手がボールを持たせる、トランジション局面を減らしてきた場合、どう抵抗するのかがこのクラブが抱える課題であって、伝説の監督手倉森ですらその答えは出せていない。

 20節セレッソ戦、24節湘南戦、28節山雅戦で見たように、まるで鏡のようなやり方で対抗型を組んできた相手に対しては、これ以上解が見えないような戦い方になった。相手からすればアンチを組みやすい。棒銀のように。シンプルで戦う理由を見つけたのだけれど、相手も同じ。渡邉元監督が時計の針を元に戻すといったのは、このことで、結局、自分たちがボールを持った時に何ができるのか?という問いかけを少なくとも2013年にされているのだけれど、同じ問いかけを2019年にされたことになる。「6年間を2年で追いついて、追い越す」のもイノベーションだし、「全く別のアプローチで6年間分に追いつき、追い越す」のもイノベーションだ。

 ただ逆に、23節川崎戦、26節札幌戦、27節マリノス戦のように、対ボール保持型チームに対しては、良い戦い、結果(勝ち点5)を得たのだからサッカーと言うのはそう簡単にはいかない。14節名古屋戦、16節FC東京戦に勝利してトップハーフへの挑戦権があることを示した時は、心が躍った。いわゆる、どちらのボールになるか分からない、あるいは「持っている相手」から奪いアップセットを起こしていくやり方は、素直にエモーショナルだ。ユアスタとの相性もいい。28節山雅戦のブログのタイトルのように、狭間なのだと思う。 

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おわりに

  チームも言っているように、かなり顔色が変わったシーズンになりました。最後の最後で、戦えるフォーマットを見つけたのは素晴らしいことだと思いますし、それを実行しようと決断したこともまた素晴らしいことだと思います。

 ただ、クラブとしては、きちんと今季序盤の不調について分析していく必要があると思います。14節以降のフォーマットで結果が出たからといって、「じゃあなぜ最初からできなかったのか」「できなかったのか、見つかってはいたけどしなかったのか、しないという選択はなぜか」などなど、監督が代わったから全部忘れてリセットでは、クラブとして、それこを積み上げにならないのかと思います。

 当然、これが渡邉元監督の限界だとして、実績ある木山新監督への交代に踏み切ったのであれば、きちんと「こうこうこういゆう理由でここが課題だからここを目指すためにこうやって解決しようとする」という絵(ビジョン)を打ち出すべきかと思います。(「ここ」ばかりでお前は鶏か)

 僕の個人的な感情を言わせてもらうと、もがいていたシーズン序盤こそ、発見があったり可能性が見いだせたり、実験的で、挑戦的で、提案的なサッカーが観られたのかなと思います。来季もまた、そんなサッカーが、誰もが羨むサッカーが観られたら、とてもいいなと思っています。では、また来季。

 

(というかこの記事だって14節以降の文章のタッチが全然違うだろ!というツッコミを界隈から受けそうです(笑)まあ良くも悪くも分岐点だったということでひとつ) 

おまけ

今季ベストゲーム

第9節 ガンバ大阪

再び出現した4-4-2とユアスタ劇場。永戸のゴールでありえないものを見た感覚になり、まだ終わってないと確信した。久しぶりに「ベガルタ仙台」を見た。まさに、すべてを解決する魔法のような。銀の弾丸

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今季ワーストゲーム

第25節 サガン鳥栖

どちらが生き残るか、決死の覚悟できた鳥栖に対して温い対応の前半。攻防の銀、小野の投入という戦術的にも優位に立たれ逆転負け。メンタルでもインテリジェンスでも負けたことが、なにより悔しく不甲斐なかった。

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今季MVP

 DF 背番号4番 蜂須賀孝治

3バックでも4バックでも、SBとWBでレギュラーで試合に出場し続けたことは、チームにとって非常に大きな助けになった。永戸のような急成長感はないのだけれど、いないといないで困る存在。水を運ぶ人に。バランスとりがちだなと思った時もあったのだけれど、ユニットを組むウィングが変わるなかそれもやむなし。来季は、相手陣での攻撃で力を発揮できればいいな。 

作業用BGM

今季の執筆を支えた曲です。見直す時、文章書く時に聴いてました。一騎打ち感が出ます。リーグ最終戦記事のタイトルにも使用。

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こっちはライブバージョンらしい。こちらもよい。

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【その船を漕いでゆけ】Jリーグ 第34節 サンフレッチェ広島vsベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。リーグ最終戦アウェイ広島戦のゲーム分析。すべての終わり。戦い続けた者たちに訪れる休息。走り続けた先に辿り着いたひとつの未来。失ったものも手にしたものも、すべてはあなた達だけのもの。痛みも傷もなにもかもを抱えて、再び、走り出す。最後も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタ仙台は、4-4-2。両翼にリャン、ワタル。右SBには大岩が入る。

 広島は3-4-2-1。すごくベガルタっぽかった。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

渾身のトムキャット可変4-4-2。両翼にはリャンとワタル

  ベガルタのボール保持攻撃におけるビルドアップは、椎橋がCB脇に降りて富田がアンカーポジションに入る逆丁字型ビルドアップ。広島のセット守備4-5-1に対して、2枚優位の状況を作る。広島も人基準で前プレを仕掛けてきたこともあり、CHが飛び出して5-3-2のようになる。永戸、蜂須賀はウィングロールとして、相手WBをピン留め。そうなると、椎橋目掛けてプレスをかけるとそのスペースを誰が見るんだい?問題が発生する。

 この試合、両ウィングに入ったのはリャンとワタルだった。2人とも、タッチラインには張らず、ワイドレーンからハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット可変で広島ブロックを崩そうとした。特に、前述の広島前プレ後方のスペースを使ってボールを持とうとした。おかげで2トップは、2トップのポジションで役割を果たせることになるし、1人が降りてきても誰が見るんだと選択肢を迫ることができる。

図1

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「ハーフスペース」を攻略すること

 どんなにシステムが変わろうとも、選手が変わろうとも、やり方が変わろうとも、徹底的に狙ったのがハーフスペース(トレーラーゾーン)だった。いわゆる選手間の場所である。相手の守備にとって、焦点のプレーをしかけることができるので、ブロックを崩す小さなズレを生み出しやすい。ここを狙うのは、現代サッカーにおいて、非常に重要になっており、それをまさか仙台の地で見ることができるとは思わなかった。

 この試合でも、クラブのレジェンドとクラブの未来がそろってハーフスペースを攻略しようとする姿を見せた。タスキは、繋がっている。 

ボール非保持時

かつての自分たちである3-4-2-1への抵抗

 ベガルタのボール非保持時陣形は、4-4-2。相手の2センターに2トップが基準を置くやり方だ。3バックには時間とスペースを与えるが、その先では与えないやり方だ。広島は、3-4-2-1から3-2-5のような形になり、ベガルタの4-4-2ディフェンスに対してポジショナルアタックをしかけたきた。

 特にベガルタの右ハーフレーンは、散々に攻撃された。右ウィングのワタルがWBへのパスレーンを気にするところを狙って、背後に降りてくるシャドーにボールを刺した。富田が対応するのだけれど、今度は、シャドーが縦にランニングして富田をファイナルラインに吸収させる。  こうなると、シャドーが空けたスペースを誰かがカバーしなければいけないのだけれど、それが出来なかった。

図2

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 椎橋は、日曜の勾当台公園を散歩するみたいにセントラルレーンをジョグ。相手CHにスペースを使われ続けた。それでも、後半の深い時間までゼロだったのも、かつての自分たちが抱えていたように、広島がミドルサードからファイナルサードで相手を動かす、攻略法があまり明確ではなかったのもあった。

それでも直らなかった守備の立ち位置

 ただ、後半になると、自陣に張りつけられる時間が増える。また、広島もクロスを増やす、横と縦にポジションを入れ替えることを使って、守備陣形を崩してきた。特にサイドでローテーションされると、DFラインの縦迎撃とCHのマンマークが最悪の食べ合わせになって、2ラインがぐちゃぐちゃになった。失点シーンはそれを象徴するシーンだった。

 結局のところ、「迎撃」と「人につく」ぐらいしか守備のロジックが無いことに変わりはなかった。かわされると、もう一度ラインセットするのは至難の業。大体は、味方にディフェンスコース遮られたり、近くの相手にプレスかければいいのか、戻るべきなのか思考停止して、途中でフリーズしてしまう。だから、相手陣に押し込む、即時奪回する、が今季のテーマだった。相手を自陣に引き込むなら、ここを徹底的に鍛え直すほかない。これは、逃げられない。

考察

今季の、これまでの総仕上げ

 この試合は、形と試合への姿勢こそ、今季のほとんどを戦ってきたやり方だったのだけれど、ボールを持てばある程度相手を押し込んだり、ボールを動かしたりしていた。もちろん、必殺パスを持つ天才松下がいない以上、スペースに即ボール出しできるかと言われればそうではないと思う。でも、戦い方としては、これまで積み上げてきたものを少しでも表現しようとした90分間だった。

 ただ、守備については、もうこれ以上の何かは無いようにも見えた。時計の針を元の位置に戻すかのように、4バックでも縦迎撃で相手を迎え撃った。ただ、それだけだった。そこで散々にやられたのが、昨季であり、今季序盤であった。「時計の針は進めたものの元の止まった位置に戻っただけ」だった。いうなれば、その時に突きつけられた問題に対して、答えを出せずいる。これは攻撃時のゴールに迫るやり方もそう。たしかに時計の針は戻った。でも、元の位置に戻したからと言って、そこから進められる道筋も結局のところ分からなかった。あとは、残った人間で、解決するしかない。逃げるは恥だが役に立つが、逃げるだけでは解決しない問題もある。気がする。気がするだけ。

 

おわりに

 今季も終わりましたね。 みなさん、ありがとうございました。1シーズンを書ききるのは、自分にとっても初めての経験で、なんなら昨季の倍書くわけですから正直大丈夫なのかなと思うところもありました。春先、セレッソ戦あたりで少し心折れかけましたし、清水戦のあたりか、その前ぐらいでわりと暗黒面でした。それでも、チームが戦い続けるわけで、サポーターのみなさんも応援するわけですから、僕も負けてられないなと思い書き続けてきました。

 あと、これは個人的なことなので、ここに書きますが、ベガルタ仙台戦術藩が一過性のブームで終わらず、定着するかはある意味僕が書き続けられるかにかかっていると、昨年末にちょっとした呪いをかけられまして。僕は単純ですから、それを今年の使命にしたんですよね。絶対に書ききると。どんな時でも、どんな長文でも、感想文でも、読んでくれる多くの方々、感想を言ってくださる方々。とても、とても力になりました。好き勝手書いているものに、貴重な時間を使って読んでもらえて、とてつもなく背中を押されました。謹んで、感謝申し上げます。ありがとうございました。

 ベガルタ仙台というクラブは、間違いなく、大きな節目を迎えています。ひとつの組織が25年続いたという節目。10年間トップディビジョンにいるという節目。そして、監督が変わる節目。そんな、大きなうねりのなかで、サッカー戦術ブログを通して、ベガルタ仙台という価値にひと手間加えて、新しい価値を生み出す作業を僕や戦術藩藩士がやっていることなのだと思います。そして、またそこから新しい価値が生まれて、生まれてを続けて、ベガルタ仙台を母体として広く根強いネットワークが生まれていくと思っています。今後も、みなさんと一緒に、この小さな地方クラブの開花期を見届けていければいいなと思っています。では、またどこかで。フォルツァ

 

「それでも!!!!!」こう言ったのは、バナージ・リンクスだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

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東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html