蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【狭間】Jリーグ 第28節 ベガルタ仙台vs松本山雅FC (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム松本山雅戦のゲーム分析。ついに戦いの幕があがった。前節マリノスに追撃し、反撃の狼煙を上げたベガルタ仙台。次なる戦いがディビジョンを懸けた戦い。監督を失い、戦い方が変わるチームもあるなか、変わらない戦いで生き残りを図る松本。ただ、ピッチに映し出されたのは、ベガルタが長年突きつけられている最後の問題だった。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2。CBにはシマオの代わりに皇帝ジョンヤがスタメン入り。ボール保持時もお任せといったところだ。

 一方の松本山雅。3センターに町田、杉本とボール操作に長けた選手が入る。彼らにも彼らなりの課題があって、解決しようとしているのだと思う。でも、目の前の一勝も必要。狭間。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

ぺナ幅5バックと3センターの壁を超えろ

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CH中心のボックス型、逆丁字型ビルドアップが中心だった。富田の列降ろしで、平岡、ジョンヤが2トップ脇のハーフレーンに立つか、松下が2トップ脇に立つかでビルドアップ型が変わったぐらいの変形だった。

 対する山雅の対抗型。5-3-2のブロッキングなのだけれど、特徴はペナルティボックス幅、いわゆるぺナ幅、長辺の長さで5バックのブロックを組んだ。加えて3センターが鬼スライドでサイド対応、アンカーがトムキャットウィンガーのレーンチェンジに対応するので、ボールサイドで非常に強固なブロックが出来上がった。松本城

 3センターのサイドスライド対応によって、WBがゴール前のスペース管理に頭を使うことができるので、仮にサイドに出ても、問題なく対処できることになる。 

図1

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 ベガルタの特徴的な攻撃戦術として、FWのカットアウトランがある。中央から、SB背後へのランニングでボールを引き出すやり方があるのだけれど、WBが初めから使いたいスペースを埋めているとなると、そこにボールを出してもクリーンにFWがボールを持てなくなる。また、3センターのスライド対応で、SBからのクロス、アンカー藤田によるウィングのハーフレーン封じでボールサイドを完全に窒息しにかかってきた。恐るべき反町山雅。これで完全に攻撃の初撃を封じられたベガルタ。じゃあシンプルに、「相手が守ってないところを攻めましょう」だ。

サイドチェンジでWBと1on1を生み出す

  5-3-2圧縮と鬼スライドにはそれなりに弱点がある。逆サイドだ。5人がボックスベタ張り、3センターがサイド対応となれば、当然構造的な痛点は空いた逆のサイドになる。ベガルタは、ボールが詰まれば、松下や富田、2CBを使って、逆サイドへの振り替えを実行した。

図2

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図3

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 右サイドが詰まれば、永戸、関口サイドが空いている。レーンスキップパスを使って、スピードアップさせてサイドチェンジして、なんとかWBをボックス前から引っぺがし永戸や蜂須賀と勝負させる展開に持ち込もうとした。

 それによって、WB背後のスペースが解放され、FWが飛び込んでいくスペースも生まれる。また、そのままドリブルで突っ込んでいくこともできる。攻撃に奥行きが生まれる。55分の攻撃も、中央3レーンに相手が密集することを利用して、左ハーフレーンを中心に相手を寄せて、右ワイドレーンで構えていた蜂須賀に展開してる。こうなると3センターでは時間的に対応できない。仕方なくWBが対応することになる。あとは芋づるだ。

「ミチ」「ハチ」のハーフレーン攻略

 前半開始から見せていた形、23分に素晴らしい形を見せた右サイド、道渕、蜂須賀のワイドコンビによるハーフレーン攻略。これもまた、WBを狙い撃ちにしたやり方だった。まずは蜂須賀。いわゆる偽SBなんても呼ばれるアラバロール、「SBのハーフレーンへのレーンチェンジ」を見せる。

図4

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 ここで偽SB、アラバロールの狙いを簡単におさらい。そもそも、偽SBの狙いは相手のワイドポジションの選手を中央に押し留め、味方ウィングへのパスレーンを空けること。そして、初めからハーフレーンに立つことでカウンターを受けた際の防波堤になる(サイドはゴールから遠いので、直線的なカウンターより後手対応でも時間を稼ぐことができる)。

 この試合の蜂須賀についても似たような役割な気がする。気がするだけ。サイド対応の杉本を中央に押し留めて、ミチがWBと勝負できる展開を作りたかったのだと思う。ここに松下が加わってトライアングル形成することで、一気に攻撃の型を作ったのが23分の攻撃だった。

図5

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 2トップ脇に構える松下。松下から離れてハーフレーンを駆け上がる蜂須賀。逆に松下に寄る道渕。スペーシングだ。サイド対応の杉本がサイドに出るが、さすがに対面する道渕を無視はできないWB。どうする。どうする。そんなことを考えている間に、蜂須賀が迫っている。この一瞬の戦術負荷がWB背後にわずかにスペースを生むことになる。

 三角形ならWBが余る対応で問題なかった山雅。逆三角形で強く当たられると、誰がどう見るか光速脳内相談が始まっていた。例えば、ここに4人目の男がオフボールでランニングしてくると、たちまち大混乱だったのだけれど、ベガルタもそこまでのリスクテイクをせず。また、時間経過するにつれて、ハーフレーン道渕、ワイドレーン蜂須賀のいつもの形に戻っていった。しかも蜂須賀のクロス連続攻撃付きで。

 久々のボール保持攻撃。随所に良い記号が見え隠れする。そう隠れるのだ。今のチームのストロングを出すためのボール保持攻撃なら全く問題ないはずだ。実際、この試合でその片鱗を見せている。隠さず、爪を出し続けてほしかったなと思う。でもサッカーは難しい。

絶望の5-4-1

 そうこうしているうちに、65分に隼磨が入ってくる。山雅のブロックが5-4-1に変形する。これが結果的には、投了図になった。サイド対応で負荷をかけて逆サイドへの展開でスライドを強要させていたのだけれど、4ハーフ相手にはあまり効かない。WBとの勝負機会も減ってしまうことに。ここで頭を切り替えて、ハーフレーンを中心とした中央3レーン攻略に軸足を移せばよかったのだけれど、ブレーキも方向転換もかからず。今季のチームの特徴なのだけれど、こっちと言ったらこっちに行ったきりだし、あっちと言ったらあっちばかり行ってしまうし、とても極端だ。その間に、狭間に常識があるのかなと思っていたりしているなどして過ごしている。 

ボール非保持時

シマオが剣を突きつけた日

 この試合、これまでスーパーなディフェンスを表現していたシマオが不在だった。ある意味、ボール保持が増える展開が予想され、ジョンヤへの期待が大きかった。ただ、先制点の場面にシマオに頼り切っていたチームの現状が出る。セルジーニョに刺されたパスをジョンヤが潰し切らずにそのまま繋がれ、最後は彼にゴールまで許している。もちろん、ジョンヤが悪いということを言いたいのではない。平岡もカバーするそぶりも見せないし、前線のプレス隊はまるでDFラインに刺されることを許容しているようなゾーンの開き具合だった。

 僕はいつだったかの記事で、松下依存が進むのではと思っていたがそれはシマオになりそうだと書いた気がする。気がするだけかもしれないのだけれど、この試合はそれが現実になってしまった。正直なところ、防衛網が崩壊していた守備陣に光明をもたらしたのが、シマオ・マテとヤクブ・スウォビクの2人だ。彼らが「最後は」なんとか繋がれてきた負のバトン、小さなズレから膨らんだ大きなずれ、守備のツケを取り払ってくれた。この試合、山雅もベガルタも、じゃあシマオがいないとどうなの?は気にしていたはずで。それを試さない反町監督ではないはずで。それがあっさりとゴールをスーペルゴラッソだとしても、それまでの過程があまりにも怠惰すぎる。冗談でしか言っていないのだけれど、「締まった良い守備」がシマオだけにならないことを今後祈っている。

考察

ボールを保持していくことについて

 これがベガルタ仙台に問いかけられている「最後の問題」だと思っている。J2時代から、テグの時代から、アーニーで挫折したあのころから、10年単位の問題であって、挑戦者、持たざるもの、弱者としてのベガルタには独特の力がある。シアターオブユアスタの力もあって、不思議な力が湧いて来る。じゃあ、持つ側に回ったら?その問いかけに様々な監督が色んな解法を用いて解き明かそうとトライしたのだけれど、結局のところ今何かが見えているかと言われたら何とも言えない。この3年間。5レーンを導入して、ポジショニングやボール交換という「解法」でもって、この最後の問題に取り組んでいる最中だ。今が一番ボールを持たない時間を大事にしているし、数少ないチャンスをものにすることには長けているかもしれない。極端とは言ったのだけれど、極端に振れながら、最後は振り子が中央に来てくれれば良いなと思う。残りの試合も、ボールを持てそうだなと思うチーム、持てなさそうだなと思う、どっちでもないけど渡しそうだなと思うチームとかとかとかとか。ひとつも、無駄な試合は無いと思う。結果も成果も。 

おわりに

  「なつかしさとそしておもしろかった。」こう言ったら多分、僕は怒られるだろうし、自分でも何言ってんだと思う。もちろん結果は満足してないし、試合内容の全てがそうだとは言わない。でも、後半開始15分間は、主導権を握って相手を動かして、自分たちが優位に立てる戦い方を実行していた。できるしやれる。これが僕の思いだ。だから、逃げずに戦ってほしい。失われたものは大きすぎるのだけれど、死は背中から鋭く迫ってくるのだけれど、それでも歩みを止めてしまってはそれこそ、死が恐ろしく早く背後から突き刺してくる。手は手でなければ洗えない。得ようと思ったらまず与えよと言ったのはゲーテなのだけれど、間違うことができないワンチャンスをものにするサッカーより、何度も何度も失敗してトライして成功し続けるサッカーにもう一度だけ挑戦してほしいなと思う。きっと僕の理想が届くことはない。ないけど、言ったていいじゃない。狭間にいる彼らがきっと僕の理想以上のそれを表現してくれるのだから。

 

「結局、自分の運は自分でつかまないとね。」こう言ったのは、フェイ・ヴァレンタインだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html