蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【Freude, schöner Götterfunken】Jリーグ 第13節 清水エスパルスvsベガルタ仙台 (4-3)

はじめに

 さて、いきましょうか。アウェイ清水戦のゲーム分析。灼熱の日本平。静岡決戦2ndレグ。まさに光る宇宙。撃ちあいの試合は衝撃的な結末を迎えました。パスカット型ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、長沢がスタメンに。あとは変わらず4-4-2。

 清水は、監督交代後初のホーム。手堅く4-4-2からカウンターが現実的な路線か。2トップが強力。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時 -ビルドアップ-

北川vsベガルタビルドアップ隊

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHの基本型。志向としては、ダイレクト志向。ハモンを中心として、シンプルに2トップに当てる形だ。対して、清水のビルドアップ妨害は、基本は2トップが縦にならび、ボールを持っているCBに対して、パスレーンを限、4-4が網を張ることで出しどころに困らせる作戦だ。いわゆる、4-4-1-1ディフェンス。レスターの岡崎が輝いた策だ。よくある型なのだけれど、強力だ。特に、ボールを「持たせる」CBの質がもろに出る。また、たとえボールが出ても、個人の決闘デュエル)が待っている。勝負。

 特に、北川は、背中にも目をつけることでCHを監視しつつ、CB常田をチェックした。俗にいう、カバーシャドウ。1人で2人を守るやり方だ。常田のパスレーンをSB方向に限定することで、ベガルタの攻撃の入口を邪魔することに成功。さすが、日本代表といったところだ。

図1

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第2レイヤーに出現するSHが相手CHをピン留め

 では、ベガルタはどうするか。簡単だ。基準を増やして、選択肢を増やして、局面を複雑にすることで相手に戦術的負荷をかけること、頭を沸騰させることだ。まずは、SH。8分ごろから、タカチョーが相手SB-CH付近に降りる焦点のプレーで、相手に選択を迫った。タカチョーにボールがつけば、ハーフレーンで前を向ける。それを邪魔するなら、ウィングレーンとセントラルレーンが空くハーフレーンのメリットを存分に活かせる。あとは、タカチョーからレイオフでCHに落とせば、北川のカバーシャドウを無効化できる。

 ただ、結果として、常田のミスも響いてしまった。彼が細かくボール交換して、相手のベクトルを操作する操作系CBではないこともある。あとは、常田にボールが回るように仕向けてきたのは北川であり、清水だ。そこにどう対応するかも、サッカーの魅力のひとつだ。全てができる人間なんてこの世にいない。いや、メッシがいた。いたけど、彼は神だ。やっぱり、そんな人間そうそういない。なので、「みんなで攻めれ」ばいい。

図2

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椎橋とダンによる擬似3バックビルドアップ

 ひとつの解決策だ。2CB+2CHのボックス型ビルドアップの底の枚数を変えることで、相手に選択を迫れば良い。まずは、椎橋がCB大岩とSB蜂須賀の間に降りることで3バックになり、2トップでは追いきれない状況を創った。対する清水も、場面によっては、SHが3バック撲滅を図るシーンもあったのだけれど、基本的には2トップに任せていた。そこまで整備されていないと取るか、自分たちの狩場で獲物を捕らえたいのかは、少し分からなかった。そのどちらのような気がする。気がするだけ。

図3

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 椎橋だけでなく、ダンも加わってビルドアップに参加していた。ただ、こうなると流石に清水も前線に枚数を送り込んで、ビルドアップ妨害を図ってくる。今や懐かしい光景なのだけれど、かつて(シーズン開幕後何試合かは)、ベガルタはCHが降りるは、シャドーが降りるは、WBが降りてくるはで大変だった時代がある。相手もぞろぞろ引き連れて、大学生の飲み会ではないのだから、そんなことでは自陣で窒息してしまう。なので、この試合のように、CHが降りてきたり、SHが降りたりするのはCBを助ける意味においては大きいのだけれど、それが全てを解決してくれる神のご加護ではない、ということだ。難しい。

吉尾のレーンチェンジとハモンのカットアウト

 そんななか、希望が見えそうな形がウィングレーンで縦パスを送る「1レーンアタック」だ。有効か?と聞かれたら、「とても有効だ」と答えよう。キーになるのは、SH吉尾が担当するウィグレーンからハーフレーンにカットイン、自分がいたスペースを空けることで、「誰か」が走り込む場所とボールが移動できる場所を提供。吉尾のこの動きで、2つの効果があるのだからお得。そして、その誰かとは、2トップの1人、ハモン・ロペス。相手SBが吉尾におびき出されれば、その裏を、出されなくても、SBに出現して担当者に激務を課すことができる。パラレラ、インナーラップの効果と同じで、タッチラインと並行にボールを受けられるので、ロストしにくいし、なによりボールロストしてもサイドなので危険なカウンターを浴びにくい。しかも、相手陣深くにボールが入るため、そこからポゼッション組み立て、ゲーゲンプレスへの移行など、良いことだらけだ。サイドの田楽刺しは、さながら、棒銀戦法のように論理的だった。 

図4

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考察

やるべきことは変わらない

 試合全体を通して見れば、お互い4-4-2からダイレクトに組み立て、同点・逆転されたタイミングからベガルタがビルドアップの形からボールを持ち始める。細かなミスもあって、なかなかうまくいかなかった部分もあったのだけれど、前半で同点までもっていけたのは大きい。だからこそ、前半終了間際の失点はもっと大きかったのだけれど。

 だからこそ、後半に同点に追いつき、選手のコンディションもあるなかで押し込み続け勝利をつかみにいったチームの姿勢は、尊敬と称賛を集めるべきた。でもそれを美しい敗戦でまとめたくない自分もいるし、神は細部に宿るのをまたも実感する試合だったように思える。 

おわりに

  灼熱だった。スタンドがだ。対面するゴール裏、清水サポーターが陣取るスタンドは、とても降格圏にいるような、監督交代というショック治療を行ったチームの熱量には見えなかった。もちろん、席には空席も目立った。静かに戦況を見守りながら、選手がファイトすれば歓声を上げ、ゴールを奪えば、さらに大きな歓声をあげ、旗がたなびいた。試合後、日本平の夕陽は、一段とオレンジ色に輝いていた。

 僕も3度ガッツポーズを繰り出した。とびきりのやつだ。でも、何かが足りない。多分、足りなかったんだと思う。そのプレーを、一瞬を喜び、声を上げることができたのか。サッカーを、ベガルタを観る喜びをかみしめてますか?頭にしわを寄せることだけが、人生を生き抜く秘訣ではない。その時、その一瞬に生命を燃やしているか。これから、僕は僕自身に問い続けたいと思う。誰にも強要はしない。今度のガッツポーズは、最高のやつを用意したいと思う。試合には負けたのだけれど、日本平の海は、輝いていた。

 

 「苦悩を突き抜ければ、歓喜に至る」こう言ったのは、ベートーヴェンだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html