蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【ベガルタ仙台】ひたむきに、全力で。【'24 J2 #1大分,#2長崎,#3水戸】

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はじめに

2024年シーズンの開幕。新生ベガルタ仙台は、森山佳郎を新監督に招聘し、圧力を全面に出した応援されるチームへと再起を図る。平均年齢も若くなり、実績より未来への投資に舵を切ったと見るかはこれからの歴史が証明することになるだろう。今回は、開幕九州連戦とホーム開幕戦の様子を評していく。では、レッツゴー。

 

目次

 

開幕節 vs 大分トリニータ

スターティングメンバ―

ベガルタ仙台

GK    33    林 彰洋
DF    2    髙田 椋汰
DF    22    小出 悠太
DF    5    菅田 真啓
DF    39    石尾 陸登
MF    17    工藤 蒼生
MF    37    長澤 和輝
MF    27    オナイウ 情滋
MF    14    相良 竜之介
FW    7    中島 元彦
FW    9    中山 仁斗

大分トリニータ

GK    32    濵田 太郎
DF    2    香川 勇気
DF    25    安藤 智哉
DF    27    松尾 勇佑
DF    31    ペレイラ
DF    34    藤原 優大
MF    6    弓場 将輝
MF    10    野村 直輝
MF    26    保田 堅心
FW    11    渡邉 新太
FW    29    宇津元 伸弥

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総評

予想通り、大分が後方のボール保持、仙台はミディアムブロックで構えつつ隙をみて前線からのプレッシングに切り替えていく展開に。大分は、プレッシングを受けるとGKからトップの宇津元へロングセカンドを狙うことで、仙台のプレッシングの背後を突こうとした。一方で仙台も、菅田、小出といった昨季からのCBコンビでハイボールを処理。大分のロングセカンドを防ぎ、技術的なミスを突いてハイプレッシングの傾向が強めていく。仙台の先制点も前線からのプレッシングから。仙台としては、いいゲームの進め方ができた。

ただ30~60分くらいまでハイプレッシングを続けた影響や、大分がトップに長沢を投入して背後へのロングセカンドを手当すると、ローブロックでリトリートする時間が増えてくる。ゴリさんは、交代やジョージ、髙田を右サイド→左サイドにユニットごと変更することでテコ入れしたけれど、もう一度ミディアムブロックで構えたところを中央突破され失点。仙台としては痛い同点弾になってしまった。大分は、試合開始から仙台の中央圧縮に手を焼き、サイド迂回で窮屈なプレーエリア、ボール進行ルートをとらされていたので、この同点ゴールは意味のあるゴールに思える。

 

仙台のミディアムブロック

大分は、4-2-3-1からMF弓場がハーフスペースに高いポジションを取ろうとするため、4-1-3-2のような配置になる。SBがワイドに低い位置で幅取りすることで、仙台のウィングやSBを引き出し、その背後への抜けを狙う。仙台がワイドのポジションへの意識を強めれば、中央~逆サイドへの密度が下がり、中央の3人が中央三線を攻撃する。バック4を維持しながら中央で近い距離を保つため、ボール保持の配置がそのままカウンター予防、カウンタープレスのポジションになっている。このポゼッション循環は、片野坂がJ1で経験した結果だと察する。

対する仙台は、2トップを相手陣にMFがハーフライン付近に構えファイナルラインも追従して、中盤にコンパクトなブロックを形成する。ゴリさんのコンセプトであるミディアムブロックである。アンカーポジションの保田を背中でカバーしつつ、トップの中山大観音、中島元彦が中央→サイド、サイド→逆サイドなど、ホルダーである大分CBのパスコースを限定していく。仙台の両ウィングは、ジョージと相良というスピードのあるタイプ。中央でMFやトップと近い位置を取りながら、サイドにボールが渡るタイミングを見計らって、横方向のプレッシャーをかけていく。呼応して、SBの髙田、石尾がフォローに入るウィングへプレッシャーをかけてボール周辺の密度を上げた。大分は、実質保田が1人でMFを担当するため、サイドに迂回すると並行サポートが遅れてしまう。なので、高い位置をとる弓場や野村が列降りでフォローに入るものの、前向きの仙台とベクトルが合ってしまいもろにプレッシャーを受けることになった。

大分もGKまでボールを下げたり、サイドからDF背後へボールを蹴ったりするなどリスクを抑えたプレーでやり直していたけれど、それでも発生する技術的ミスを見逃さず仙台は次第にハイプレッシングを強めていった。中盤の密度あげて最も危険な中央のルートを警戒しながら、相手のミスから前掛かりになったり、背後へのボールをケアするために自陣にリトリートするミディアムブロック。ハイプレッシングで早くて速い攻めを続けるには体力リソースや受けきられてしまう課題がある。一方、リトリートもそもそもゴールまでの距離が遠く、ボール非保持の時間が長いとボールを奪った瞬間のプレーに迷いが生まれやすい。こちらは精神的なリソースが支配的だ。背後をケアしながら前掛かりの機会を伺うのは、そもそもチーム全体の統率が必要で難しいのだけれど、開幕戦としては仙台の完成度は上出来だと思う。先制後、ハイプレッシング傾向になったのでもう一度自分たちが得意とするレンジに引き戻せるか、あるいは前掛かりになって追加点を奪っていくのか、このあたりが今後の積み上げポイントになっていくだろう。

 

大分の配置

後半の大分。選手交代後、後方の保持も形を変える。4-2-3-1から3-1-4-2のようなポジションをとる。右SBがウィング化、保田のアンカーポジションは変わらず、弓場、野村or中川がハーフスペースにポジションをとることで中盤が3人になる。バック3になること、中盤が3人になることで仙台の2トップのプレッシャー、工藤蒼生、長澤和輝の2MFのプレッシャーを避ける配置になる。バック3に仙台のウィングがプレッシャーをかければ、ウィング-MF間に弓場や野村がポジションをとるので、仙台としてはややズレた形に。前線は仙台のバック4にトップ4を当てるような状態のまま、後方の保持をもう一度整理した印象だ。見事な背中のカバーを見せていた中山大観音、中島元彦に消されていたアンカー保田を活用するために、2トップの背後を利用するコンセプトにも想像できる。背中のカバーで消されたパスラインをあえて利用するのは、ロベルト・デ・ゼルビのブライトンのコンセプトに似る。脱線だけれど、いわゆる疑似カウンターで一世を風靡した片野坂とデ・ゼルビのコンセプトが似るのは、ある意味当然なのかもしれない。仙台も、バック3に保持させ4-4-2で中盤の密度を維持していれば、もう少し展開も変わっていたかもしれない。ただ、選手交代やポジションチェンジもしていて、選手としてもチームのコンセプトを実現しようと圧力をかけ続けたように見えた。たとえば郷家友太のフルスプリントなど。両チームとも、相手のやりたいことへの対抗にも見えるが、開幕戦ということもあってキャンプから取り組んできた自分たちのやりたいことを表現していたのかなと思う。

 

第2節 vs V・ファーレン長崎

スターティングメンバ―

ベガルタ仙台

GK    33    林 彰洋
DF    2    髙田 椋汰
DF    22    小出 悠太
DF    5    菅田 真啓
DF    39    石尾 陸登
MF    17    工藤 蒼生
MF    37    長澤 和輝
MF    11    郷家 友太
MF    27    オナイウ 情滋
FW    7    中島 元彦
FW    98    エロン

 

V・ファーレン長崎

GK    31    原田 岳
DF    24    山田 陸
DF    29    新井 一耀
DF    5    田中 隼人
DF    23    米田 隼也
MF    17    秋野 央樹
MF    13    加藤 大
MF    14    名倉 巧
FW    8    増山 朝陽
FW    9    フアンマ デルガド
FW    33    笠柳 翼

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総評

準備期間の短さから発展途上の長崎と、新たにスタメンに入った選手たちとのチームプレーが見られた仙台といった構図だった。長崎は、4-3-3からボール保持4-1-2-3とほぼ配置を変えず自陣からボール出しを開始。後方の保持4-1-2あるいは2-3-2のような配置で仙台のプレッシャーを回避し、両SBから3トップへロングを供給。仙台ファイナルライン背後への抜けを狙って行った。対する仙台は、前節同様4-4-2のミディアムブロックで対抗。エロン、中島元彦の2トップがプレッシャーのやり方を変えながら、中央を圧縮。両ウィングがホルダーとなるCBに6:4プレッシャーをかけることでサイドへの迂回を誘発。プレスバックとMFの横圧縮、SBの縦迎撃でボール周辺の密度上げ長崎に簡単にプレーさせなかった。

長崎は、ボールを奪われると4-4-2の守備陣形でパスラインを管理。仙台のバックスには時間とタイミングがある程度あった。この試合もバック3の左右CBからのロングセカンドを狙う。特に左ウィングに入ったジョージに対して、石尾、小出がロングボールを配球。そのまま長崎DFを押し込み、MFがカウンタープレスのポジションを取るために高い位置にポジションをとった。前半終了間際に中島元彦のFKから菅田のヘッドで先制、後半に交代で入った相良の突破から中山大観音のジャンピングボレーで2点目を奪いゲームの先手を取り続けた。終盤失点するがCB知念がMFに入って5-3-2になるなどの総力戦で長崎の追従を許さず、ゴリ仙台の初勝利となる。一戦必勝のトーナメンターである森山佳郎の面目躍如でもあった。

 

2トップと郷家のプレス方法

試合序盤から、中島元彦がアンカー秋野をカバーして、エロンがCBに対してサイド限定のためにプレッシャーをかけていた。ただ、長崎の左インサイドMFである名倉のサリーダによって2トップの背後にはにわかに危険な香りがしていた。大分戦でも、後半から2トップの背後を使われ、結果論にはなるのだけれど待ち合わせされて失点にまでつながっている。仙台の2トップによるプレッシャーは、前線からのプレッシングのキーとなるのと同時に、ミディアムブロックの密度も担保している。彼らが前掛かりになれば、MFとの関係性が途切れてしまうリスクがある。当然、長澤、工藤蒼生のMFは次のホルダーを予測して制限をかけにいくが限度がある。試合序盤は、その密度がやや下がった状況にあった。

ただし、試合も中盤になってくると仙台の2トップはアンカー秋野を背中でカバーすることに徹底。仮に自分たちの背後を利用されても、MFと連携してすぐさまプレッシャーをかけられる位置にポジションを修正した。

同時にウィングのジョージ、郷家のプレッシャーが気になってくる。特に郷家は、サリーダする名倉をケアしつつ、SBへのパスを誘発させプレスバックを敢行。1人で2人か3人を守るようなプレッシャー方法をとる。外切りでSBへのパスラインを完全に切って中央へ誘導、MFでボール奪取するやり方もあるけれど、ゲームの進み方としては展開が速くなる。ハーフスペースでの攻守切替になるため、両チームの選手のアラートが上がるためだ。仙台としては、ハーフスペースで攻守切替を起こせば一気にカウンターチャンスを得られる一方、長崎3トップがファイナルラインに対してストレスをかけくる状況にどれだけリスクを取れたかと言うと難しかったと思う。誘導しているが、あくまでホルダーが長崎にあるため最悪ケース名倉に前を向かれたり、レイオフから背後への抜けを狙われかねない。郷家のプレッシャーは、そこへのカバーともう少し展開がゆっくりになるサイド迂回を選んだ形に見えた。実際、迂回させてSBにボールを持たせたあと、プレスバックと横圧縮でさらに選択肢を狭めていき、クリーンな形でのボール前進を妨害していった。

 

ロングセカンドのターゲット

左ウィングのジョージへのロング供給が多かったが、後半からは少し工夫を凝らす。特にGKアキさんからのゴールキック含めたロング供給だ。中央でCBとの攻守切替を行っていたエロンが、非保持4-4-2の左MFとなる秋野とロングの競り合う。ボールをホールドすると仙台は一気に左サイドへ逆展開。ワイドに高い位置でポジションをとるジョージの攻撃につなげる。

さらには、長崎のプレッシングが仙台の3-1-1-5にあわせて4-2-3-1でプレッシャーをかけるため、高い位置にいるウィングの背後であり2人のMF横に時間とスペースが出来ていた。長崎の右ウィング増山の背後をロングセカンド攻撃。今度は、右MF加藤がサイドへカバーに入るが、中央の密度を落としてしまう。仙台としては、前節と違って左ウィングに入ったジョージを使ってボール前進したい、アタックをかけたい狙いだった。いかにいい状態で攻撃できるかが問題で、右SB髙田の加勢が無い分、手間をかけたように見受けられた。

 

第3節 vs 水戸ホーリーホック

スターティングメンバ―

ベガルタ仙台

GK    33    林 彰洋
DF    2    髙田 椋汰
DF    22    小出 悠太
DF    5    菅田 真啓
DF    39    石尾 陸登
MF    17    工藤 蒼生
MF    37    長澤 和輝
MF    27    オナイウ 情滋
MF    14    相良 竜之介
FW    7    中島 元彦
FW    98    エロン

 

水戸ホーリーホック

GK    21    松原 修平
DF    88    長井 一真
DF    33    牛澤 健
DF    4    山田 奈央
DF    3    大崎 航詩
DF    42    石井 隼太
MF    8    落合 陸
MF    15    長尾 優斗
MF    23    甲田 英將
MF    13    野瀬 龍世
FW    9    安藤 瑞季

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総評

同型対決と目された仙台x水戸。水戸の濱崎とゴリさんは旧知ともあって、お互いがお互いを意識した試合になった。大味な戦前予想としては、「両チーム長いボールを使って局面のプレッシャーや切替でゲームが進む」だったが、時間経過とともに細かな対策が見えてきた。水戸は、仙台がボールを持つとプレッシャーをかけるものの、まずは4-4-2のローブロックをセット。仙台がサイドを使って進行してくるのに対してのケア。ウィングのジョージ、相良へのアラートは高く、ほとんどウィングとSBの2人で縦と横への前進をカバーしていた。水戸の4-4-2-0ローブロックは、前の試合も見せており基本コンセプトのように感じる。低い位置でボール奪取し保持を開始しても、MFのサリーダで3-1-4-2のようになり、仙台の2トップのプレシャーを配置ズレで回避しようとする。水戸の基本コンセプトとしては、ボール周辺に人数をかけて、個人が広いエリアに晒されるのを予防しているように感じた。DFにおいても保持においても。なので、全体的に体力リソースの消耗が激しく、早い時間帯に先制点、2点目を取り切りたいところ。

一方の仙台は、いつものように右SB髙田が高い位置にポジションをとるので、バック3で保持、ボール前進を開始。工藤、長澤のMFが縦にポジションを取り、長澤が水戸の2トップの目の前あたりにサリーダ。この試合の序盤は、トップの中島元彦が常に高い位置にポジションをとるわけではなく、工藤と長澤とのつながるように彼も6番高さへサリーダ。試合序盤は3-3-4のような配置で水戸のプレッシャーを回避しようとする。そこからウィングを使って押し込みを図るが、前述の通り水戸のリトリートも速く、いったん下げても2トップとボールサイドと逆のウィングが強烈なプレッシャーをかけて、全体がプッシュ。ほとんどの互角のような戦況であった。

前半終盤になると、仙台は中島元彦や長澤のサリーダをやめて右SB髙田がハーフスペースへインバート。3-2-2-3で配置。2トップの背後、2MFの背後を使いながら水戸の中央へのアラートを上げさせて、ワイドレーンや4-4-2の袖を空けようと試みる。これが後半への布石になった。

後半、仙台は右ウィングに郷家を投入。左右ハーフスペースを中島、郷家がポジションをとることで水戸のアラートは最大レベルに高まる。4-4-2-0のグリッドは狭くなり、サイドを2人でカバーするのには、移動時間が足りなくなる。仙台は、小出、石尾が左ウィング相良への展開を狙うなか、高い位置までプレッシングをかけた攻守切替でその相良がゲット。寒かったユアスタが一気に熱狂に包まれる。水戸は、配置ズレを狙うためのポジション移動、素早いリトリートが見事だったが、やはり体力リソースの消費は避けられず徐々に勢いが減退していく。仙台がミディアムブロックで中央エリアを支配しながら、リソース確保・維持を目指す一方で、水戸は常にボール周辺に人数をかけ続けなければいけない。勢いに乗ったりゴールがあると手がつけられなくなるが、後手に回ると盛り返すリソースが足りなくなる。仙台は、おなじみのボラン知念で5-4-1ローブロックを形成。試合終盤でマインドもフィジカルも体力消耗著しいフェーズで、選手の混乱によるエラーを防ぐかのように分かりやすく「耐えて守り切る」戦術を選択。ゴリさんを取り巻く文脈は、切替や運動量といったワードが飛んでいるのだけれど、こういった細かな戦術行為を状況に応じて最適化させているのも森山佳郎の強みだと思う。

 

おわりに

開幕から3試合が終わり2勝1分。結果としては、ほぼ完璧と言ってもいい。ゲームの進め方も、ゴリさんのチームらしさが出ていた。攻守切替、ミディアムブロック、プレッシングとリトリートへのシームレスな移行など。一方で、大分、長崎といった、後方の保持を基本コンセプトにするチームに対しては、ある程度仙台のやり方が刺さるように思えるが、水戸のようにリトリートやハイプレッシングのチームには競った展開になるように感じる。局面での1対1交換が続き、ハイボールが飛び交うようになると体力リソースを削られミスを招く可能性が出てくる。それは相手も同じなので、仙台としてはライフレースで負けないチームをキャンプから作りこんできている。ゲームの進め方もミディアムブロックを基本とし、中盤エリア、時間、体力をコントロールすることで、パワーをかけないといけない局面への備えとしてリソースを確保している。おそらくJ2の各チームとも、ハードワークを基調としてラフなロングボールもOK、人数をかけて攻める、守るがはっきりとしているように感じる。序盤から得点を重ねてアドバンテージを得られると強いが、失点したり後手に回ると跳ね返す余力が無いとも言える。仙台としては、そういったチームを受けきって、消耗したところで一気に攻め切ってしまうゲームの進め方を期待したい。大分や長崎のような保持型に対しては、ある程度やれるはずなので、自分たちと共通項の多い水戸のようなチームへの差別化、チームとしてのアドバンテージを長いシーズン通して構築していってほしい。