蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【ZERO】Jリーグ 第33節 ベガルタ仙台vs大分トリニータ (2-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか!ホーム最終戦、大分戦のゲーム分析!すべての終着駅、ホームユアスタ。今季、数々のシアターオブユアスタを見せた戦いもこれにて終劇。そして、トップディビジョンへの挑戦は続く。理想と現実。狭間で揺れる思い。未来を語る青年監督と戦い抜いた戦士達。すべてのひとの思いを乗せて、フォルツァ仙台。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。FWに石原先生、CHに椎橋が入った。

 大分は3-1-4-2。小塚と岩田はいいぞ。ちなみに大分のビルドアップ分析はこれ。

sendaisiro.hatenablog.com

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

アンカー落としの椎橋

  この試合でも、ボール保持をひねり出していく。数少ない、ボール保持攻撃のなかで、この試合の大きな変化点は、松下の代わりに左CHに椎橋が入ったことだ。利き足も違うなら、タイプも異なるMFになる。

 椎橋は、SBが高い位置を取って空いたスペースに降りて、擬似3バックを形成。アンカーロールを富田に任せ、アンカー落としを敢行。相手2トップ脇で数的優位が作れる3vs2の状態をつくった。ただ、試合全体を見れば、SBを低めの位置に立たせる策もあり、なかなか同じような状況が見られなかった。

 松下と椎橋でどちらがいいかというよりは、どちらのタイプを採用すれば、自分たちにとって有利になるのか、相手がより不利な状態に持ち込めるのかを考えた方が健全な気がする。気がするだけ。関口がトムキャット可変で、左ハーフレーンに立つこと、石原先生がボールキープすることとセットで継続していれば、ボール保持時においても効果的な時間を創り出せたかもしれない、そうじゃないかもしれない。

ポジティブトランジション一閃

 2点目のゴールは、ピッチ中央でボールをカットしたところから始まるミドルトランジションだった。特に、攻撃面で力を発揮していた大分左WB田中の背後を強度勝負で勝利した蜂須賀からのクイッククロスが見事だった。大分は、左WB田中が高いボール操作能力を見せ、いわゆる違いを生みだしていた。

 ただし、その分の反作用として、大分のネガティブトランジション時には後方に広大なスペースを創ってしまうという高い税金を払っていた。その埋め合わせを左ハーフディフェンダー羽田がワイドレーンまで出て対応するため、ボックス内は2CBしかいないシーンがまあまあ見られた。

 そんなこんなで、大分の構造的な痛点と今のチームの強みである「締まった守備」「前へのパワー」が出た2点目だった。 

ボール非保持時

アンカー長谷川を消し込む「先生」と2トップつるべの動きプレス

 ベガルタのボール非保持時陣形は4-4-2。ご存知。説明不要。両親の顔より見ているかもしれない。対する大分は、アンカーが存在する3-1-4-2。ガンバ戦の延長でもあった。そのためか、ベガルタの準備は用意周到であった。

 この試合、FWとして起用されたのは石原先生だった。今季、チーム戦術変更の煽りをもろに食らったのが石原直樹という選手生命も晩年のエースストライカーだった。そんな石原先生に課せられたタスクは、大分アンカー長谷川を消し込むことだった。ジョーカーポジションで、第2レイヤーにポジショニングすることで、「焦点のプレー」効果を生み出すこの選手を抑えることがベガルタ仙台にとっては至上命題になる。

図1

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 長沢がボールサイドを限定するプレッシャーコースをたどれば、石原先生は、中央レーンへのパスレーンを警戒してアンカーにつく。こうなると、大分としても、両ハーフディフェンダーがボールを持ってどうにかする時間が増える。ベガルタとしてはそれでOK。ボールを持たれたとしても、4-4-2のブロック外、ワイドゾーンで持たれる分にはそれほど怖くないという算段だ。

 また、石原先生がCBにプレスをかけにいく場合でも、長沢がアンカーを見ることで警戒網を緩めなかった。2トップがつるべの動きでプレッシャーをかけることで、3CBをスポイル。大分は、ボールを持つのだけれど、後方に3枚も余ることでファイナルサードに人数をかけにくくなった。当然、2枚、1枚と後方人数を減らして前方を数増しする策もあるのだけれど、今のベガルタには必殺のカウンターがある。強度負けしようものなら、あっという間に失点するリスクがある。その戦いにはなかなか踏み切れず、試合を通して大分は3バックビルドアップを継続した(当然流れの中でセンターやGKがまざることもあった)。

図2

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図3

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ロジカルに2トップ脇をジャンプ台にサイドチェンジキックを蹴る大分  

 さて大分の対抗型。後方の人数を堅持したまま、前方を数増しするには、支配エリアを広げてカウンター距離を長くするしかない。つまりは、ベガルタを陣内に押し込んで攻撃し続けることだった。

 まず使ったのは、2トップ脇。もっといえば、石原先生脇とも言える。アンカーを見る石原先生を横目に、左ハーフレーン入口を小塚が降りて利用。道渕がCBとWBを警戒するため、時間とスペースがある。道渕も無暗に飛び込めないため、後方へとリトリートするしかない。こうなると、全体としてブロックが下がっていく。逆サイドでもそう。大分のハーフディフェンダーがドライブでボール前進することで、関口を正対でピン止め。WBとIHと縦関係にあるFW三平とでスクエアをつくり、エリア一帯をフリーズさせることに成功。そこから、左WBでウィングロールの田中にぴったりとサイドチェンジキックを蹴り込んだ。

図4

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 サイドチェンジには、相手ブロックを下げさせる効果がある。横のスライドは、サイドチェンジキックのボールの目的地向かってスライドするため、目的地が高い位置にあれば、真横というより斜め後方にスライドすることになる。それを2回も蹴られれば、当然、全体のブロックは自陣リトリートする。大分は、極めてロジカルに、4-4-2の空いている場所を攻めてきた。2トップ脇。サイドタッチライン付近のワイドゾーン。それでも最後に崩れなかったのは、クロスをはね返す力と中央3レーンを締めたベガルタの守備力があったからだと思う。そうでなければ、やられていてもおかしくなかった気がする。気がするだけ。

図5

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考察

ボールを持たない時の力の使い方

 ボールを持たなくても、主導権は握れる。ボールを持っている時に主導権を握れるのは当たり前というか、ボールがなければ得点できなければ失点もしないので当然といえば当然なのだけれど、相手を窮屈にする、やり方を変えさせる、強要させるとかとかとか、持ってなくてもやりようがある。今季のベガルタにおいては、この部分に強みを持っているわけだし、一度ボールを失っても取り返していく力がある。ひとつバランスを取るために、この戦い方で得られた成果をいずれやってくるボールを持った戦いに活かしてほしいと思う。 

おわりに

 どうすればよかったんだろうね。なんでこんなサッカーを見せるんだって泣いて、怒って、チームを困らせればよかったのかね。それとも、「今そこにあるサッカーを愛せ」と何でも笑顔で受け入れればよかったのかね。監督にあんなことを言わせないようにするには、何が必要だったんだろうね。選手がやりたいことを思いっきりさせるためにはどうすればよかったんだろうね。時間があればよかったのかな。お金があればよかったのかな。人がいっぱい集まればよかったのかな。有名な選手やコーチを呼べばよかったのかな。

 苦悩の苦渋の決断を表現していることは、今のチームのサッカーを観れば誰だってすぐに分かる。だからこそ、その決断を受け取って、変な煽りや非難はしないようにしてきたつもりだ。でもそれでよかったのか。逃げるな、戦えと言えただろうか。ひとつでも勝利を掴もうとするチームに、言えただろうか。もう一度、考えてみようか。時計の針がゼロに戻ったのなら、また進めればいい。最終戦がその一歩目になる。盛大にいこう。

 

 「すべてを疑い尽くした後にこそ、なにかを本当に信じることができる。」こう言ったのは、スパイク・スピーゲルだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html