蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【強い自分取り戻して】Jリーグ 第25節 サガン鳥栖vsベガルタ仙台 (2-1)

はじめに

 では、いきましょうか。アウェイ鳥栖戦のゲーム分析。ついに決戦に決着がつく。自分たちの戦う舞台を決める戦いに身を投じるベガルタサガン鳥栖。リードされながら、攻防逆襲の一手を放った鳥栖。防戦一方のベガルタに失点は時間の問題だった。身を削る戦い。斬るか斬られるかの戦いの果てに辿り着いたひとつの未来。いまベガルタに問われている答えとは。ベガルタの本当の戦いがはじまる。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは前節同様、左ウィングにジャメを起用する4-4-2。

 鳥栖も4-4-2。金崎とクエンカが2トップ。シーズン途中登板の金監督に去年からのダブルを食らいたくはなかった。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

狙う場所と狙いたい場所の一致

 ベガルタのビルドアップは、いつもの2CB+2CHのボックス型。最近は特に、2CBからFWへのDF背後のボールが多くなっている。この試合も例外ではない。左サイドは、永戸、松下、ジャメの左利きが揃うことでボール循環はスムーズにいく。ハーフレーンを中心に立ち位置をとり、相手に選択を迫って戦術的負荷をかけ右SB金井の背後をジャメが狙う仕組みだ。右サイドの場合は、ミチがハーフレーンでインテリオール役を担うので長沢か石原先生のFWがSB背後を狙う形が多かった。

 今のベガルタにとって、SB-CB間はさほど重要ではない。もっと言えば、ハーフレーンだってそれほど優先順位の高いエリアではない。SBを誘き出した後にできたエリアを前線4人が狙うこと、相手がケアすれば、永戸と蜂須賀がフリーになる。2人からゴール前にクロスを送る。簡単に書いてしまえば、これがベガルタの攻撃戦術になる。鳥栖戦については、このSB背後という使いたい場所がわりと空くので積極的に使った形だ。

図1

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攻撃することとの向き合い方

 鳥栖2CHが中央レーンを警戒意識が高いこともあって、逆サイドに展開した際、SHが孤立して守備することになる。そこでスクエアを作って、エリア全体をピン留めすることでジャメの背後へのランニングが生きてくる。ある意味これはポジショナルプレー。自分たちは極力楽に。相手は極限まで過酷に。歩いて勝てるならそれに越したことは無い。止まっていればなおさら。

 与太話はさておき、ただこの2人称の崩しが今のベガルタにとっては精一杯で、ジャメが空けたスペースに誰かが入るわけでもなく、サイドにボールがつけば、ゴール前でクロス乞食が口を開けて待っているわけだ。先制点のシーンも、ミチと石原先生がハーフレーンからセントラルレーンに斜めランしたことで、ウィングレーンのハチが空いた。1本のパスですべてが解決できるのであれば、いいのだけれど、相手だって自分と同じくらい負けたくないはずであって、簡単にはやらせてくれない。ならばスペーシングで、位置的優位性を持続させ、新たな優位性を生み出すことが必要になる。

 小野の投入でセット守備を4-5-1で守って来た鳥栖に対して、5レーンを埋められると途端に攻撃力が落ちる脆さも相変わらず見せた。待っていればできるようになるのか。少なくとも今は、少し待たなければいけない。 

ボール非保持時

小野の登場。攻防の銀。

 ベガルタはセット守備を4-4-2で構える。後半、鳥栖は4-3-3に変更して、初期立ち位置を変更してきた。投入は小野。左インテリオール。これがこの試合を決める最善手であり、正解であり、良主であり、攻防に利く一手だった。0-1の状況で、鳥栖としてはこれ以上リードを広げられるわけにはいかない。でも、最低1点、もしくは2点取りに行く状況で、最も守備力のある攻撃、攻撃力のある守備はなにかと問われた金監督。答えは小野のインテリオール起用だった。

図2

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 まずは、小野の列降ろし。4-4-2の痛点である、2トップ脇、ハーフレーン入口にポジションを取り始める。ベガルタの対抗手。アンカーをFWが見るだった。結果これが悪手に。小野に時間とスペースを与えることになり、右ウィングのミチに高負荷状態を強いることなる。鳥栖は、合わせで、SBがウィングレーン/第3レイヤーに進行しウィングロールに。クエンカがレーンチェンジで、ハーフレーンに立つローテーションでベガルタサイドハーフレーン一帯を支配した。

 この一連の問題は、ベガルタのブロック全体にも影響を及ぼす。全体的に中央に絞ることで支配エリアによって、守備が分断されないように踏ん張った。これがさらに問題を引き起こす。右サイドのアンと金井に時間とスペースを与えることになる。結論、小野が2トップ脇に立つだけで、ベガルタがボールを持っていない、陣形が整った状態での守備に対して、これだけの問題を引き起こした。

図3

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図4

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 小野はさらに、ハーフレーン入口から出口へと縦に抜ける、インテリオール突撃を敢行。クエンカもウィングポジションからカットインランを繰り出すことで、ベガルタの右サイドに対して、前への推進力を奪い取った。小野の投入とクエンカの復活。ボックス内での仕事に徹する金崎。そして、縦に強く主張するこで、ベガルタの右サイドからのカウンターを封殺し、ボックス磔の刑が完成した。後半の残り20~30分が耐える時間だったベガルタは、完全に翼をもがれた鳥になった。

考察

鳥栖と異なるファイナルサードの崩し

 ハーフレーンを有効活用する鳥栖に対して、クロス乞食を量産するベガルタのファイナルアタッキング。あまり詳しくないので勝手なことは言えないのだけれど、カレーラス前監督が採用しようとした4-3-3アタッキングも決して無駄ではなかったのかなと思う。多分。一方のベガルタは、積み上げた立ち位置攻撃の3年。自らそれを押し殺し、あえてカオスの道を選んでいる。

Get wild and tough

 積み上げって何だろうか。継続とは何だろうか。連続性って何だろうか。短い時間でも表現できているポジショナルな裏への攻撃。これだって立派な継続の結果だと思う。なぜそれを徹底しないのだろうか。ボールを持ったら蹴らないといけないルール改正があったのだろうか。鳥栖の自陣への戻りが遅いのに、攻撃を遅くしてわざわざ相手守備陣形を崩すような戦い方を選ぶのだろうか。相手がブロックを固めているのにわずかなスペースに蹴り込むのだろうか。ボールから遠いと真っ先に離れていくのに、ボールが近いと我先にと近寄るのだろうか。目指していたものは何で、やりたいことは何なのか。できることは何なんだろう。少なくとも勝つために、幾千もの選択のなかから、針の穴を通すような精度で勝ち筋を見出した鳥栖に対して、何か主張できただろうか。表現できただろうか。それでももっと上の格で戦うのは自分たちだと言い張ることはできたのだろうか。

 そろそろ、思っていることを、自分を吐き出したらどうだろう。僕は、新しいことに臆することなく挑戦して、いつもなにかを提案する渡邉ベガルタが面白く、そして貴重な存在だと思っている。ジョンヤと常田のCBには感動を覚えたし、ウィングの可変も痺れた。ミシャ式じゃないモダンな3バックだってそう。それが今度は、カウンターの槍を新たな武器として提示するならそれでもいい。でも、僕たちが見ているのは、彼らが表現しているのは一体なんなんだろう。僕には、君が何を言っているのかが分からない。だから、もう一度、しっかり顔を洗ってしゃんとして、教えてくれればそれでいい。

 

おわりに

  決戦の終幕は第三幕の終わりも同時に告げた。第三幕とはつまり、お辞儀をして決闘する今の戦いのことだ。まさかこれで終わりではないだろう。序破急にしては、出来が悪い。それに、サッカーは続く。次の試合。遠い北海道の地で、彼らがどんなことを表現するのか。第三幕の続きか、新たな戦いの舞台か。見届けるよりほかない。怒っていても、文句を言っていても仕方ない。良く寝て、よく食べて、いつもと同じように試合とチームと関わって、いつものように激励すればいい。さあ、シーズン最終章を見届ける準備はいいか。

 

 「失敗してもせいぜい死ぬだけよ。」こう言ったのは、ヴィクトリア・テルプシコレだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html