蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【新たな皇帝CB】成長を止めない金正也。「最初のレイヤー」からゲームを動かす。

はじめに

  どうも僕です。今回は、初めてのプレー分析、ベガルタ仙台DF金正也選手(以下、ジョンヤ敬称略)のボールを持った時の立ち振る舞いを見ていきます。使用するフレームワークは、5レーン&4レイヤー理論。なにせ初めて一人の選手にスポットを当てて文章にするので、どういう顔して書けば良いか分からないのだけれど、「このプレーいいな」「感動しちゃったな」のプレーを主にしています。そんな、「親の目ゲーゲン」で9節ガンバ戦の全タッチを見直して書いています。よろしければどうぞ。では、レッツゴー。

5レーン&4レイヤー理論

sendaisiro.hatenablog.com

CB(センターバック)を巡るあれこれ

最終ラインに彼の玉座は無かった

 いわゆるCBとは、ゴールを守り、相手と競り合い、ボールを奪いあう星のもとに生まれた戦士だ。ジョンヤも例外ではない。もっといえば、対人守備に優れ、良い意味でファイトできるタイプのCBだ。CBらしいCB。そんな彼がベガルタに加入して、目の当たりにしたのは、自分の力を「闘い」以外に使うことだった。

 エレガントにボールを繋ぎ、相手の立ち位置を動かし、自分たちが優位に立つためのボールとひとの移動が必要だった。ジョンヤは苦しんだ。少なくとも、継続的にはスターティングメンバーに入れなかったし、今シーズン彼がメンバー入りする姿を想像するひとは少なったように思える。申し訳ないが、少なくとも、僕はそうだった。

皇帝の帰還

 今時、CBがボールを持って、自らアクションを起こしていくこと自体、特段不思議なことではない。ピケだ、フンメルスだ、もちろんそれぞれタイプが異なるのだけれど、大枠で言えば、ボールを持っても苦にしないタイプだ。むしろ、彼らが最終ラインからゲームを創る。今流行り、というより、チームにとって標準装備だ。ボールを扱う技術そのものは、伸ばそうと思えば伸びるものだと思う。ただし、じゃあ誰に、いつ、どのようにボール出しをするのかは、また別の話だ。やりたくても自分の技術ではできないこともある。「足元のあるCB」だなんて簡単に言うのだけれど、難しい話だ。

 そんななか、ジョンヤは帰ってきた。ルヴァンで名乗りを上げ、上向かないチームの快進撃を支える、狼煙を上げるべく帰ってきた。加入以来、長い苦難と努力の果てに、チームが最も必要としているものを携え、いや、強力な武器を持って立ち上がった。

 その武器とは、二つのパスだ。

皇帝・ジョンヤ

第2レイヤーへ面とベクトルを操るおびき出しパス

 ジョンヤの基本ポジションは、FWの前。いわゆる最初のレイヤーだ。ここからボール供給を行うのだけれど、むやみにレイヤースキップを狙ったり、DF背中(最後のレイヤー)に送ったりはしない。そこで引っかけられて、前掛かりになったチームがカウンターを受けていては、攻撃の勢いがそがれてしまう。

 急がば回れ。まずは、最初-第2レイヤー間のボール交換だ。しかも、FWがCH(アンカー)の選手をケアしていようが、まずはボールをレイヤー移動させる。つまりは、前にボールを進めることだ。相手がCHにチェックにくれば、リターンパスを受ける。これによって、ジョンヤ周囲のエリアがクリアリングされる。FWが急いでジョンヤにプレッシャーをかけにくれば、今度は、逆サイドのCBが空いている。または、チェックに来たFWが空けたスペース(第2レイヤー)でCHが受け直すことができる。

 一連のジョンヤのパス交換は、一見地味に見える行動なのだけれど、よく効いている。ポイントは以下だ。注目なのは、これが「対人守備が強い」と呼ばれていたDFがやっていることだ。すでに30歳。学びに限界はない。

  • 恐れず、FWの間を通してCHにボールをつけることから見える、ボールを前進させる意識
  • リターンパスを受ける技術的、精神的な余裕
  • 相手と味方のベクトル、立ち位置を操る。また、マークを預けたり引き受けたりを繰り返す

図1

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図2

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第3レイヤーへ「刺す」スキップパス

 そして、ジョンヤの真骨頂。レイヤーを飛び越すパス、レイヤースキップパスを通せる。レイヤーをスキップさせると相手のスライドが遅れるので、ボール保持側の展開がスピードアップする。しかも、最初のレイヤーから第3レイヤーへのスキップとなると、ボールを受けたレシーバーが勝負するのは、DFファイナルラインだけになる。いわゆるバイタルエリアが丸裸になる。

 前述のおびき出しパスで相手を引き出したり、警戒させつつ、スキップパスを刺す。もちろん前進すれば、DF背中の最後のレイヤーへもパスを通す射程範囲に入る。長短のパスで展開を操り、会心の一撃も持ち合わせる新たな皇帝CBだ。

 

図3

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図4

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おわりに

 この試合のジョンヤを見て、シンプルに感動してしまったのが事の発端です。正直、ほかのボール扱いが上手いDFと比較したら大したことないのかもしれないのですけれど、彼から色んなことが学べると思います。自分の不得意なことから逃げずに克服することの大切さ、学びに年齢は関係ないこと、新時代のDFに求められる2つのパスとかとかとか。まだまだな部分もありますけれど、彼ならきっと打ち克つでしょう。

 今回は、ガンバ戦のボール保持だけでしたが、ぜひ色んなジョンヤを見たいなと、これからも見たいなと思いました。フィールドプレーヤーの一番後ろから味方を一望しながら、いま、彼は黄金に輝いている。それでは、また。

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 板垣晴朗さんのジョンヤの記事。「パスワークの号砲」は、良い言葉だなと思いました。

www.jsgoal.jp