蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【Here's to you】Jリーグ 第36節 ベガルタ仙台 vs 湘南ベルマーレ (0-2)

晩秋の仙台。

七北田川から吹き抜ける風は、街を歩くひと達のコートの襟を立たせるのに十分だった。

この1か月の雨、風で、季節の針は2歩も3歩も進んでしまった印象だ。

11月20日の泉中央。

ペデストリアンデッキから望む、八乙女、黒松へと延びる国道4号線沿いの並木は、この日を待ちわびていたかのように、黄色く染まっていた。

まるで、ベガルタゴールドのカーテンように。

人数制限とはいえ、駅周辺、もちろんスタジアム周辺は人混みができている。

理由は当然、決戦である。

この日のユアスタの空は、蒼い。

日陰で座っていると寒いが、身体を動かす選手たちにとっては最高のコンディションに違いない。

特に、ボールを追い回すこと、味方と連携してコンパクトであり続けるには、良い環境だったと言える。

記者席に近い席だったこともあって、遠巻きながら記者の方々も目に入ってくる。

試合前のアップをじっと見守る姿に、この試合が持つ意味と、今季ここまで歩んできた軌跡を感じる。

多くのことを近い目線で見てきたのだから、この試合に懸ける想いはきっと、選手かそれ以上だったのだと思う。

キックオフ直前。

不思議な緊張感は、ついに最高潮に達する。

ボールがセンターサークルから飛び出すと、青い戦士たちが深緑のピッチに解き放たれた。

 

仙台は、いつもの通り4-4-2。CBでアピとコンビを組むのは福森だった。左ウィングには西村が入り、前節ハーフスペースで躍動した再現を狙う。上原力也、富田のセントラルMFの組み合わせ。FWは富樫、赤﨑と、シーズン最終盤でもセンターラインが決まらない不安が残る。

仙台のテーマは、3-4-2-1の湘南に対して、かみ合わせ不一致の4-4-2で3バックにどうプレッシャーをかけていくか、どこでボールを奪うかだった。

いつものように4-4-2でミドルブロックを敷き、MFには赤﨑がつき、ホルダーには富樫がサイドへ追い込むように制限をかける。

あとは、ボールサイドの選手が相手へのマンツーマーキングが始まる。WBに対しては、サイドバックが縦迎撃して、シャドーに富田、上原が根性でマーキングし続ける。オフボールのスプリントと攻守切替が特徴の湘南に対して、非常に攻撃的な基調だった。

ホームユアスタの「レッツゴー」コールを背負い、仙台が攻勢をしかける。相手陣で、前線からプレッシングをかけ、パスラインをサイドに限定したところで奪い切るDFを見せ、早々にCKを獲得するなど、まさにホームチームの振る舞いだった。

ただそのCKからの戻り。仙台のマーキングにズレが出る。ゾーナル主体のマンツーマーキングである以上、マークがズレたり、定まらないと途端に目標を失う。ラインが雑然としていたところにクロスが入る。ウェリントンのヘディングは、仙台にとって重く、残留に向けて現実に戻される一撃だった。

失点後は、ボールを持つ時間も増えた仙台。

ボール非保持時には、5-3-2で前線からのプレッシング、中盤からの押し上げを実行する湘南に対して、2バックのまま2人のMFでビルドアップをする仙台。

湘南の2FWと3セントラルMFのプレッシャーターゲットになり、ルックアップしてボールを持つ時間とスペースが少ない。

GKクヴァを含めて、CBが左右に広がると中盤にフリーマンを見つけ、ボールを前進させられたのだけれど、今の仙台はボール保持を是としながらGKを経由するビルドアップを是としていない。

この制度的制約のなかで、フォローアップに来るのは真瀬、タカチョーの両サイドバックだし、富田が福森の横に降りるようなこともある。加えて、関口あるいは西村のウィングの選手すらも、センターラインを越えて自陣中央にポジションを移している。

DAZNの画面では確認しにくいが、湘南はハイプレッシング以上に、ハイラインが非常に印象的なチームだった。前線からプレッシングに行くのだから、後方もそれに追従してラインが高くしてコンパクトさを維持していた。

従来であれば、FW富樫やWG西村が背後に抜けるオフボールランでファイナルラインにストレスをかけるのだけれど、この日は相手ラインの背中ではなく腹側で受けようと、ボールを待っていたように見えた。

もちろん、卵か鶏が先かの話ではないけれど、ボールを出す元の状況が湘南のプレッシングとGKを極力使わない仙台側の要因で、非常に時間もスペースも少ないことも影響していたと言える。

関口が2度、3度、右サイドから中央あるいは逆サイドに向けて、ライン背後へのランニングを見せていたが、おそらく打開策として本人の判断だったのだろう。迷いの見える福森も、背後へのランニングには躊躇なくボールを供給した。

今季ここまで、「じっくり時間を使って攻撃するのか?」、「縦志向で相手陣のスペースを素早く使って攻撃するのか?」をまるで禅問答のように、あちらとこちらとを行き来してたけれど、本来そのような二元論的にサッカーの攻撃は成り立っていないはずという前提はさておいて、まだこの一戦においても迷っている、躊躇しているように見えた。

仙台の前半が終わる。開始10分の電光石火でゴールを奪われてから、35分間で得点も失点も無し。残り45分が仙台の運命を決める時間になる。

後半から仙台は全開でアタックする。

WGの西村はゴールに近いポジションを取り、富樫はライン背後へのランニングが増えた。

5-3-2で守る湘南に対して、2FWの横をCBとMFが使い、ウィングポジションよりやや低めにタカチョーと真瀬が立ち位置を取ることで、積極思考の湘南DFを逆手に取りWB背後にスペースを創りだす。ハーフスペースには西村、関口、赤﨑がいて、左右CBの間を富樫や西村が狙っていく。

ボールも最前線の選手へ供給されていくため、相手を押し込んで攻撃を開始することもできた。

ただ、バックラインから各駅停車のパスが多く、ワイドへのミドルキックが無いこともあって、ボール周辺の湘南の密集密度は高い。その分、背後が空くといったトレードオフだけれど、紙一重でもあった。

かつて渡邊がプレッシャーラインを超えるパスを「切るパス」と呼んだように、かつて木山がワイドに高い位置にウィンガーを置きパス一本で1on1を仕掛けさせたように、相手DFを一閃するようなパスがひとつでもあれば、仙台の攻撃はさらに速くそして、華々しいものになっただろう。

仙台のDFは、サイドに「細く」限定することで成立する以上、自分たちの攻撃も細くなる構造的な弱点があった。失点を防止するために、細いまま攻撃していたおかげで、サイド、コーナーフラッグ付近までボールを運ぶが相手にとっての脅威も半減する攻撃になっていたのが今季の仙台だった。逆サイドに開いた時こそ、仙台の攻撃は速度が上がって相手ゴールまで迫るものになっていった。できるようでできなくて、非常にもどかしいのが今季だった。

それでも、青い炎たちは、湘南のDFに飛び込んで行く。すべては勝利のために。

カルドーゾとフォギーニョが交代で入る。

攻勢を強める仙台。

一瞬だった。

湘南、岡本にボールを奪われたかと思ったその時には、仙台サポーターの目の前で、ゴールネットが揺れた。

鐘の音が聞こえる。

時計の針が、長針と短針が、文字盤の12を指した。

試合終盤、吉野をCBに入れてアピを最前線に。破れかぶれでも、パワープレーでもなんとしてでも得点を重ねて勝利を目指すベガルタ仙台

ボールは、自陣と相手陣を行ったり来たりしながら、主審の時計の針を進めた。

抵抗空しく、高々と青空へと上がったボールを見上げながら、試合終了の笛が吹かれた。

僕は足早にスタジアムを去る。

これ以上、彼らが苦しむ姿を見たくなかった、のかは、自分でもよく分からない。

個人的な感情は…いや、分からない。

怒りも悲しみも、まったくと言っていいほど、湧き上がらなかった。

ただ、0-2と刻まれたスコアボードを目に焼き付け、階段を降りコンコースへと出ていった。

メイン側コンコース、七北田公園の方角から差し込む初冬の黄昏時の太陽に、凍えた僕を暖める力はもう、残っていなかった。

 

試合後、清水の勝利が確定。

この結果をもって、断頭台のギロチンが仙台の首を落とした。

0-2のスコア以上に、ディビジョンの差すら意識させられる試合に、悔しさと奇妙な納得感があった。

ただひとつ、悔しいとすら思う権利が無い自分が悔しかった。

 

試合から数日後、手倉森誠監督の退任が発表。

まずは火中の栗を拾い上げた監督には感謝を述べたい。

クラブの先行きも分からないなか、荒波に飛び込んだ同氏をまずは褒めたたえるべきだ。

そんなテグですらも飲み込んでしまうほどに、歴史の軋轢というものは大きくて、彼から持ち味の陽気さや「ダジャレ」が消えてしまったのが残念だった。

それが無い以上、テグには監督とは別の場所で働いてほしいと願っていたが、クラブもその決断をしたようだ。

ひとつの時代が終わりを告げる。

僕たちは、いつの間にか、無理をし過ぎていたのかもしれない。

ひとつひとつの傷を気にしていない振りをしていたのかもしれない。

あまりに多くのものを失った。

でもそれももうじき終わる。

また、新しく始める。

 

「Here's to yo」とは、映画「死刑台のメロディ」の主題歌である。

縁起でもない映画のタイトルだけれど、その主題歌の一節に、「That agony is your triumph」という歌詞がある。

望まない形ではあるが、「本来のベガルタ仙台」とは何かを失って痛いほど理解させられた。

すべてをあるべき姿へ。

自らを新生させる闘いが、始めなければいけない。

次の時代に備える戦いは、1分、1秒後の世界から始まっている。

 

【考察】「呼吸を整える」について

Mr.Childrenの「Starting Over」という曲がある。

その曲に「さあ 乱れた呼吸を整え 指先に意識を集めていく」という歌詞がある。

息が上がっていると、集中できないことは往々にして存在している。

それを一度立ち止まったり、深呼吸することで整え、次のアクションに備える。

これは、僕たちが普段の生活のなかで実践していることだ。

本来集中したいもの、こと、に向けて落ち着く。

Chillが最近の流行りであるけれど、慌てて何かをしてもたいていのことはうまくいかないということだ。

 

さて、サッカーにおいて、ピッチにおいて「呼吸を整える」ことってどんなことがあるだろうか。

最近、Xaviがバルサに監督として帰還した。

Al Saddで選手キャリアを終え、そのまま監督として指導者のキャリアを歩みだしたXavi。

まさに、満を持してのバルサ監督就任と言える。

そんなAl Saddだが、3-4-2-1、4-3-3でボールを保持しながら、良いポジションを取り、ゲームをコントロールするプレーを志向している。

いわゆる、ポジショナルプレー思考にもとづくサッカーだ。

いきなりだが、そんな彼らが失敗する時とはどんな時かから書きたい。

なぜなら、失敗は必然であり、成功は偶然であるからだ。

もっと突き詰めていえば、チームスポーツにおいて、失敗する時の大半は全員がミスをしている可能性が高いし、成功する時は相手のミスだったり瞬間的に良いプレーが出来たり、偶発的な環境要因が影響するからだ。

だから、失敗や敗因を分析し、考察、改善していくことは、大事なことである。

前置きが長くなったが、Al Saddはそのプレー特性から、時間やスペースが制限されていると、彼らのプレー速度も上がり正確なプレーや正しいポジショニングができなくなる傾向にあった。

相手DFが素早く距離を詰めて、Al Saddの選手のプレー時間総体そのものを少なくしようとプレー、この場合ならプレッシングになるが、そういったプレーの影響から手持ちの少ない時間のなかで「正しい」とされているプレーを表現しなければいけないプレッシャーがあった。

自分たちのプレー原則だったり、ゲームモデルに首を絞められる瞬間である。

蹴り飛ばしてしまえば楽になるし、実際に蹴り飛ばしているシーンもある。

ただそうなると、Al Saddのプレー速度は上がり、同時に比喩ではなく選手の物理的な意味合いにおける心拍数もあがった。

こうなると、彼らが普段から行っているプレーとは異なるし、そういった異なる状況でのプレーとなると、選手のこれまでの生い立ちが試されるというか、Ivica Osimの言葉を借りれば「最後まで走れる子に育っているか」が大事になってくる。

そんな時、Al Saddがどうやって、自分たちのプレースピードを取り戻すか。

それがロンドだった。

 

いわずもがな、Xaviはロンドを信仰している。

ただこれは半分くらい比喩的に書いてしまっているので、もう少し奥歯で噛み砕けば、バックラインやGKを中心としたパス交換、ポジショニングで、もう一度自分たちのスピードに戻そうとするプレーだ。

その間に、前線もXaviが信条とする「インサイドMF(シャドー)のハーフスペースへのポジショニング」、「ウィングがワイドに高い位置を取る」を実行する時間が生まれる。

こうしてだんだんと自分たちのスピードに減速させていく。

落ち着く、Chill、ゆっくりやる。

まあこんな言葉がとてもしっくりくる。

でも僕は文字通り、心拍を落ち着かせる、ひいては荒くなった息をいったん落ち着かせる、「呼吸を整える」プレーだと思った。

おそらくだけれど、観客が入っていないことも要因としてあるかもしれない。

速度の速い、落ち着いてないなかでプレーをミスし、それに観客がネガティブな反応を示せばさらに選手は落ち着かなくなりさらにミスを…そんな可能性もあったかもしれない。

 

監督であるXaviの呼吸とチームの呼吸は合う。

あとは相手と観客、サポーターがどうなるかだ。

相手はしょうがない、プレーを邪魔してくるに違いない。

でもサポーターについては味方だ。

自分たちのプレーへの理解、支援。

まあそういったところをチームのプレーと結果で集めていくことが必要で、それがある意味監督の次の仕事のような気がする。

長々と書いたけれど、とにかく自分たちには自分たちが心地よい、もっとも良い結果を出せるスピードがあって、それは心拍であり呼吸の速さのようなもので、それが荒ぶるとたいていうまくいかなくなる。

もちろん、寝かせられるほど落ち着いてしまえば、Chill outしてしまうのもまた、問題なのだけれど。

 

だから、整えることが必要で、整えるためには整える方法を知っていて、それを普段から実践していることが大事になる。

いかに試合を、90分間の予測不可能性を日常の延長にできるか。

非日常を少しでも日常のものとするために、僕たちは深呼吸するのだと思う。

そして、弾倉に弾を込めるのである。

 

たった一人のサポーターより息子たちへの一通の手紙

今日、君がどんな夜を過ごすのか。

明日に向けて、どんな準備をしてきたのか、少しばかり気にしているところだ。

でも君のことだ。

きっと明日も、電光石火のごとく、その闘いへ身を投じるのだろうと思う。

思うし、確信している。

気負うことは大事なことだ。

成功しようと野心をもつ君の姿勢に、僕はいつも感服しているし、尊崇している。

僕から言えることはかなり少ないが、ひとつだけ、左脳の片隅に置いておいてほしいことがあって、何事も度を過ぎるのは好ましくない、ということだ。

責任感の強い君のことだ。

気負い、背負い、失敗すれば世界が終わる覚悟で、その「任務」にあたるだろ。

ただ君が負えば負うほど、身体は固くなり、心は縮み、視野は狭くなるだろう。

大事なのは、何事も過ぎない、ことなんだ。

自然体であり「過ぎる」のもまた、難しいことに具合がよくなかったりする。

とにかく、言いたいことは、君も十二分に分かってることだと思うが、その大いなる成功への野心と、明日のことだって楽しんでやろうという、良い楽観主義は共存するはずだ。

野心と楽観との間に、常識と、平常心が存在する。

常に冷静に、目の前のことに集中して、そして必ず成功してやろうという気概でもってあたれば、君に向かうところ敵なしだ。

無敵だ。

僕たちはそうして、数々の苦難を打ち砕いて来た。

明日だってできる。

成功する。

必ず勝つと、僕は、確信している。

がんばって。

 

そしてもうひとつ。

明日何が起こっても、人生は終わりじゃない。

これからも人生は続き、君はたくさんの失敗をして、そして、その失敗以上に数多くの成功を収めるだろう。

いや、大成功を収めるだろう。

明日のことも、君がスパイクを脱ぐ時には、懐かしい思い出になっているだろうし、同じ経験をした者同士で再結集して、後身たちの大いなる手本となれるだろう。

これからの人生でも、明日と同じような機会は、おそらく2度、3度やってくる。

それを乗り越えるための糧にしてほしいと思っている。

幾千もの思い出の山に明日のことが埋もれていくだろう。

それは時間がすべてを忘れさせてくれる良い側面でもある。

でも、やはり君の心に、それでも心のなかに留めておいてほしいことがある。

 

忘れられない一日にしよう。

 

どんな結果が待っていようと。

僕は大事な試合の前に「人生最高の90分間にしよう」と言っている。

明日はきっと、その試合なんだと思う。

まあ、そんなことは、君が一番分かってるだろう。

「青春に捧ぐ」の歌詞にもあるような、祭りのあとの寂しさを味合うのは、いかに僕たちが明日という日を祭れるかにあると思う。

だから、良い一日にしよう。

さあ、行こう。

そして、決して忘れることのない、忘れることのできない試合にしよう。

明日を思い出す日は、必ず訪れる。

 

仙台が、ある限り。

 

小さく微力なサポーターより。

【何を躊躇ってるのさ!】Jリーグ 第32節 大分トリニータ vs ベガルタ仙台 (2-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ大分トリニータ戦のゲーム分析。この日も勝ち点を争う一戦。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

別途

 

ゲームレポート

2021年シーズンを表すもの

 仙台は、4-4-2。一方の大分は、3-4-2-1から、MFのドロップで時々4バックのビルドアップを見せるが、基本型としてはオリジナルポジションを守っていた。仙台のDFは、2FW+WGで、相手3バックへとプレッシングをかけていく。相手陣深くより、ミドルサードでの中盤からの押し上げが主軸であった。

 大分は、3バック+2MFの5人でボール保持攻撃をするため、簡単にボールを奪われない構造となっていた。また、シャドーがFW-WGライン上に出現するため、中盤でボールを持つ時間と空間が存在していた。

 仙台は、FW赤﨑、カルドーゾが相手CBの利き足からのパスラインを制限しつつ、ボールサイドを限定するいつものDF。ターゲットに左右CBがいるので、WG関口、加藤千尋は果敢にプレッシャーをかけていく。かけていくが、関口は縦に素直にプレッシャーをかける突撃で、左サイドバック福森も、ワイドに低い位置に構えるWB松本に縦迎撃するため、ボールが逃げやすく後方にスペースを空けていた。

 一方の右サイドは、加藤千尋がCBとWBの二度追いという根性DF。おかげで、真瀬は後方のスペースを牽制しながら、前に行くか行かないかを判断していた。もっとも真瀬は、うまくごまかしながらスペースを管理しつつ、ボールが相手陣深いところまで入るとWBへプレッシャーをかけていた。セオリー通りだからこそ、強力なDF方法だったと思う。

 仙台の左サイドが前に前にの傾向で、加えて奪える構造になっていなくて(福森のプレッシャー距離は遠くボールを奪うというマインドを相手に植え付けるには程遠いものに思えた)、左→右→左とサイドチェンジを加えられると、仙台は自陣に撤退しないといけなくなる。サイドチェンジが2回入るとリトリートは、これもまた鉄則である。大分は、左に展開したあとマイナスパスからのクロス(アスピリクエタクロス)から何度かチャンスを作った。

 仙台も飲水後あたりから、関口がWBをカバーする形に変更。おかげで大分の両CBには時間とスペースができたし、MFがバックラインに加わることも、シャドーが落ちてくることもできた。まさに自由自在。中盤は完全に支配され、自陣で守る時間と状況が続いた。

 攻撃については、何を、どう見ればいいのか、まったくわからなかったのが正直なところだ。何を狙っていて、これまで何をやってきていて、何ができて、何ができていなくて、何がテーマで、そう言った部分が「何かしらあるのは完全に理解している」うえで、何をしているのか分からない。いくら準備してきたところで、臆して何もできないのなら、それは何もしてこなかったのに等しいと思うのだが、僕が生きてきた環境が過酷だったからそう思わせるのか、それが当たり前なのか、それすらもよく分からない。批評とか内省とか改善とかそういうフェーズなのか?というところまでしか、申し訳ないが僕のレベルでは突き詰められなかった。

 

考察

 DFであれだけ押し込まれしまえば、それを是として試合に入ってない以上、押し返すのは非常に難しかったし大きなパワーがいる作業だったと思う。中盤からの押し上げにおいて、ボールを前目で奪うのか、もう少し引き込んでハーフスペースで奪うのか、そのあたりもぼやけたまま試合が進んでいった。攻撃が上手くいっていないときは、守備を見直せ、が定石であるけれど、ボールをどこで奪うのか、それがサイドなのかとか相手陣深くなのかとかいろいろあるけれど、僕ははじめからDFについて深化させるべきだと思っていたし書いてきたし、長い中断もDFの詰めに使ってほしいと願っていた。どんなシステムだろうが、DFで駆け引きして、自分たちの土俵に持ち込みゲームコントロールする姿を望んでいた。

 でもそれがDFのディティールもそこそこに、敵陣プレッシングとボール保持攻撃へと傾倒していった。攻撃も、守備も、手札が少ないまま10月も終わろうとしている。でも僕が本当に気に食わないのは、その少ない手札でもやらなければいけなくて、せめて貫いてくれよと、躊躇うことなくやりぬけよと、そう思うのである。

 

おわりに

 何をいまさら、保守的になっているのか。失うものすら何もないというのに。すべてのプライドの旗も破られ、心の錦すら弱弱しくはためく。勝てればいい。でも勝つためには、相手よりうまくないといけない。うまくなるためには練習と準備をしないといけない。勝つためにはもっと良い努力をしないといけない。よい努力とは何かを常に自問しながらボールを追いかけないといけない。勝ちたいなら、たくさん準備して、よい努力をする必要がある。試合でうまくいってもうまくいかなくても、それでもいい。でも勝つためには、相手よりも準備しないといけない。何度もいう。もっとサッカーをうまく、もっとサッカーを極めてほしい。それが勝つための、最短で最善で永遠の方法だと尊崇している。そのためにはもっと、準備をしないといけない。もっとうまくならないといけない。上手いとは何かを追求しないといけない。でなければ、それは光よりも速く、やってくる。

 

「身構えている時には死神は来ないものだ」こう言ったのは、アムロ・レイだ。

 

【行けども獣道獅子よ虎よと吠え】Jリーグ 第31節 柏レイソル vs ベガルタ仙台 (1-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ柏レイソル戦のゲーム分析。この日も勝ち点を争う一戦。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

柏の難しさ

 仙台は、残留を争う清水、徳島に連敗と厳しい戦いが続いた。今シーズン、課題となっている得点までの形作り、攻撃方法は、いまだに模索が続いている。そんななか、途中加入の富樫がゴールを挙げていることは、仙台にとって希望の星になっている。一方の柏。前節まで3連敗。仙台との勝ち点差は開いているが、このまま順位を後退するような状況は避けたいはずだ。そんな一戦。

 仙台はいつもの4-4-2。対する柏は、椎橋をアンカーとした4-3-3でセット。ボール保持時には椎橋が左CB横へドロップしてバック3化。ウィングがハーフスペースを使うことで3-4-2-1へと攻撃陣形を変える。仙台の4-4-2の痛点である、「FW横」「WG横」「SB-CB間」を活用する狙いであり、4-3-3の攻撃陣形としては定石型である。

 アンカーとして、いや、実質的には左CBとして陣形変更のタクトを握ったのは元仙台の椎橋。そして、左ハーフスペースを鬼活用したのもまた、元仙台の椎橋。柏の攻撃の要諦を担うのが元仙台戦士とは、なかなかに感傷的ではないか。

 ただし、柏として難しかったのは、椎橋が左CBのポジションからどうゲームを作っていくのかがあまり見えてこなかったことか。彼の特徴である、縦に刺すパスというのは、一撃で2ラインを無効化する必殺技である。ただしそれは、中央、センターサークルでこそ発揮されるべき技であり、バックラインのポジションとなると、もう少し長いボール、逆サイドへのサイドチェンジキックやファイナルライン背後へのボールが重要になってくる。柏のサイドチェンジは、ボールがもう少し前進したタイミング、仙台の4-4-2が仙台陣1/3でリトリートしたタイミングで、ボールサイドと逆サイドへの大きな展開が主であった。

 また、武藤が前半で負傷したのも柏にとっては痛かった。ハーフスペースからタッチライン平行のラン、パラレラで後方からボールを引き出す術は彼の真骨頂であり、対面するSB真瀬に問題を起こそうとしていた。いろんな意味で、柏の攻撃は分かりやすかった。3-4-2-1攻撃、サイドチェンジ、クロス。ただ、3-2ビルドがそれほど仙台にダメージが少なかったことと、武藤の交代が前半尾を引いたと思える。前半途中から椎橋は、オリジナルであるMFのポジションを取り、3-2から2-2のビルドアップに変わった。2人のMFが仙台のFW背後でポジションを取ることでCBに時間を作ろうとした。

 

お互いの陣形変更の決着

 仙台としては、前半に富樫のゴールで先制し精神的には優位に立っていたはずだ。柏は独力で打開できる力を持った選手がいる。そこへの警戒も非常に高かった。仙台のボール回収地点が自陣深かったが、松下を中心としてポゼッションで時間を作る。ゆっくり攻めるというやつだ。これまで赤﨑が9.5番として、MFタスクをこなしていたが、ある程度そこを松下に任せ、富樫に近いポジションを維持しようとしていた。攻撃時間自体は少ないが、まったくないのではなく、逆に言えば確実にあるのでそのなかでどう攻撃するか、コントロールしようかという意思を感じた。

 後半になると、柏は左CB福森を中心としたエリアめがけてロングボール攻撃を開始する。仙台の左サイドは、SBタカチョー、CMF松下と、ボール保持時、攻撃時に力を発揮するタイプがいて「高いボール」「フィジカル」が勝負になった時、どうなるのか?というのは試合前から気になっていた。ただ、試合が始まると柏もそこを重点的に攻めるわけでもなく、問題ないかのように思えた。

 でも後半は見逃してくれず。仙台の対抗型としても、富樫、松下の負傷交代もあるけれど、平岡を投入して3バックで人数かけて守るというものだった。タイミング、策としてはある程度有効なものだと思えた。少なくとも悪手とは言えない。ただ、3バックのマークズレ、WBが高い位置までプレッシングに行かず後方待機がメインだったことで、MFラインの背後でボールを持たれるようなシーンが増えた。その結果が失点だったのだけれど、準備はしていたはずだが…というのが率直な感想だ。

 

考察

 最終スコアは1-1ドロー。前半終了間際に関口が放った一撃をビッグセーブで防がれたのが、仙台としてはラストチャンスだったし、それが決まってあとはのらりくらりと守れていたらと思うと惜しいなと感じる。柏とはよく似たチームという印象を持ったが、FWのプレスバック意識は仙台の方が高かったし、ゴールへ向かう意識、シュート意識というのは柏の方が高かったのように見えた。内向的というわけではないと思うけれど、加入して日の浅い富樫のオフボールには常にゴールが意識されているように見える。あとは真瀬。

 なんというか、言葉にするのは難しいけれど、守ろう守ろう間違えないよう間違えないようと思えば思うほど、身体は固くなるし固くなればミスが起きやすくなる。間違えないようにって思ってたのにミスしてしまった!となるとますます身体が硬直する悪循環。そもそもチャレンジできる回数が少ないからなのだけれど、サッカーは自分のプレーでミスをミスでなくすることができる良いスポーツだ。「ミスじゃなくなっただろ」「上手くなればミスしなくなる」。こんなメンタリティでプレーしてくれたらと願っている。

 

おわりに

 勝ち点3を取らなければ、我々に未来は、無い。

 

「俺は明日がほしい」こう言ったのは、ルルーシュランペルージだ。

 

Firefly

01

蛍が一匹、夜空を飛んでゆく。

その光は弱弱しく、消えそうであった。

僕は、その光を追いかけて、両の手に収めようとした。

その瞬間、蛍の光は大きく光り輝き、辺りを照らし始めた。

女の子がいた。

彼女は、じっと、僕を見つめていた。

蛍の光越しに。

黒い目が、まるで夜のようで、僕を飲み込んでいく。

光は消え、再び、闇の世界が訪れる。

それでも彼女は、僕を見つめていた。

ある夏の、物語である。

 

02

夏。

絵に描いたような、日本の夏。

僕は普段通り学校へと通う。

高校生。

ただの、日本の高校生。

普段と違うのは、僕の隣に、席が出来たこと。

その正体は、8時30分のチャイムで始まる朝礼で表した。

 

神田ひかり。

彼女はそう紹介された。

転校生だ。

ハッとするほど凛として、しゃんとしていた。

そんな印象をもった。

長い髪を束ねたポニーテールを揺らしながら、教室にあるたったひとつの空席へ歩き着席した。

 

休み時間は彼女への質問タイムとなった。

好きな食べ物、入りたい部活、趣味とかとかとか。

喧噪であまり聞く気にもならなかった。

結局、彼女とは一言も会話せず、その日は終わった。

あまり自分からは話しかけないタイプなのか。

でも転校初日だし。

こんなものか。

 

03

彼女は、あっという間に帰宅する。

部活にも入らないようだ。

どうやら怪我していて、運動ができないらしい。

かといって文化系の素質も無いみたいな話を昼休み中に女子たちと会話していた。

切れ目の彼女には、弓道が似合うとかバスケが良いとか、勝手なことを言っていた連中も「仕方ないね」で一蹴された。

 

僕は個人的にせいせいしていた。

自分たちの都合だったり、仲間を作りたいエゴで転校したての女子ひとりを囲おうとする行為がどうも好きになれなかったからだ。

そのころから、僕は神田に興味を持ち始めた。

聞かれたら答えてはいるが、どこかベールに包まれているような感覚がある。

何か重大なことは、話していないように思えた。

 

帰り際、僕はようやく謎の転校生と会話することができた。

「神田」

「……何?」

「えっと…」

話しかけたのは自分なのに、口ごもってしまった。

すべてを弾き返さんとばかりに、見えない壁みたいなものが目の前に立ち塞がったように思えた。

「えっと、僕は千鳥ヶ淵千鳥ヶ淵レン。隣の席なのに、自己紹介がまだだったなって」

「そう…親切にありがとう」

……

会話下手である。

とりあえず何か話そうと思って声をかけた手前、これ以上特にない。

でも彼女もまた、会話を進めようとしていない。

問われたら答える。

やっぱりそうなんだと思う。

「何か困ったことがあれば言ってよ。隣の席だし、手伝えることがあれば協力するから」

「ありがとう」

そう言って、神田は立ち上がった。

「じゃあ。また明日」

「ああ、また明日」

神田が教室を後にした。

 

04

僕にはひとつ趣味がある。

それは、僕の家の近くを流れる川に、毎年夏になると蛍が飛びまわるのを眺めることだ。

趣味というか、毎年の恒例行事だと言っていい。

幼いころに、父から蛍という存在を教えてもらって以来、蛍鑑賞が僕の毎年の楽しみのひとつとなっている。

非常に小さな、せせらぎと言うべきその小川に、無数の蛍が飛びまわり、その光で埋め尽くされる光景は何にも代えがたい。

「じゃあ僕もそろそろ帰るわ」

「おう。じゃあな。今夜も見に行ってみるのか?」

「うん。そうする。多分、今日も見れないと思うけど」

「まあ、毎年見れてるんだから、待ってたら見れるよきっと」

「そうだな」

どういうわけか、今年はその光景がまだ見れていない。

例年であれば、その姿をみかけ、辺りを星空にしてしまうのだが、今年にいたってはただの一匹すら飛んでいない。

いつしか僕は焦っていた。

見逃してしまったのではないか、蛍たちが絶滅してしまったのではないか、と。

だから毎晩、それこそ夜な夜な小川周辺を徘徊している。

生物部での活動だって、その研究報告がひとつだ。

みんなは大丈夫って言うけれど、僕は内心穏やかではない。

 

夏特有の陽の長さも終わり、すっかりと夜がやってきた。

僕は、スマホを片手に、夜の世界へと消えていく。

 

05

小川までは歩いて数分。

でもその数分が、とても長く感じる。

早く到着したいが、昨日と同じだったらと思うと、早く行きたくないとも思った。

それでもいつも見慣れた光景が、すぐ眼下に広がった。

ただ静かに、虫たちが鳴き、せせらぎの音が、ここが大自然のなかであることを証明していた。

帰ろう。

また明日来て、確認しよう。

なかばすがるように、明日に期待を持たせた。

その時。

目の端に、光る何かが見えた。

僕はその方向へ急いで向かった。

 

蛍が一匹、夜空を飛んでいた。

その光は弱弱しく、消えそうであった。

僕は、なんとかして、両手にその光を収めようとした。

その瞬間、蛍の光が大きく光った。

そして、闇夜の世界を照らし出した。

そこには見慣れた女の子がいた。

いや、最近見慣れた、と言うべきだろう。

彼女は、じっと、僕を見つめている。

気づくと大きくなっていた光は消え、今度は夜が大きく広がっていた。

それでも彼女は、僕を見つめていた。

 

「神田?」

彼女は黙っている。

「おい神田だろ?どうしてこんなところに」

「ち」

「ち?」

千鳥ヶ淵…君…」

「そうだよ」

「何?」

「何はこっちのセリフだよ。僕は家が近くて、ここで蛍を観察してるんだ」

「蛍?」

「そう。今年はまだ見れてなくて、心配してるんだ。あと千鳥ヶ淵でいいよ。君付けはいらない」

「そう」

だから神田こそ何してるんだと言いそうになったが、僕は彼女の重大な何かを知ってしまった。

神田はスポーツウェアを身にまとっている。

怪我で運動できないはずの神田が。

そして、足元に何かがある。

ボール。

サッカーボールだ。

「神田…お前…」

「誰にも言わないで」

「…え?」

「お願い。私と千鳥ヶ淵だけの秘密にして」

「…え?え?」

まさか、運動、サッカーバリバリにできることを隠したいってことか。

「私、元サッカー部だったの。でも試合中に怪我をして、もうサッカーできないって言われて。それが嫌でこうしてリハビリ練習しているの」

意味が分からなかった。

サッカー部?怪我?できない?

それって引退ってことじゃ。

 

「私、絶対に諦めたくないの」

 

蛍が一匹飛んでいる。

「だから、誰にも言わないって約束して」

その微かな光はたしかに蛍の光だ。

「必ず復活するから」

僕の、僕たちの夏が始まった。

 

 

 

 

黒松華憐に花束を。 #4

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01

黒松華蓮が何かをやっている。

教室の隅で。

遠巻きに覗いているが、よく見えない。

しっかりと、この夏も暑い。

それでも黒松華蓮はいつもと変わらない。

変わらず凛として、涼しげでいる。

そう、そんな風に見える。

 

何かを終えた彼女は顔を上げ、周りを見渡す。

そして、俺を見つけ、席を立ちあがる。

こちらへ向かって歩いてきて、きっとこう言い放つだろう。

「長町」

たったひとこと、俺の名前を呼ぶ。

「なんだ黒松」

俺はこうこたえる。

それが、俺と黒松華蓮のはじまりである。

 

02

「黒ユニ?」

「そう」

「限定ユニのことか?」

うんうん。

と頷く。

「……この前ユニ買ったろ?」

「うん……」

「また2万とかするぜ。バイトでもしないと無理だろ」

「うん」

そう言うと、スマホを見せてきた。

「え?」

そこには、着ぐるみバイトの求人ページだった。

スーパーで、風船をくばるやつだ。

「なあ黒松」

「?」

あまりにその殺人的な広告に、俺はついに殺害予告でもされているのかとさえ思った。

「こんな暑いのに、わざわざ着ぐるみなんか着なくてもいいじゃないか?」

「そうなんだけどな…でもな…その…」

良く見ると、なるほど。

「……『仙台レオン公式マスコット、レオン君と一緒に風船をくばってもらいます』ね…」

「レオン君に会えるんだぞ」

それがなんだと言うのか。

週末スタジアムへ行けば、嫌と言うほど目に入るクラブマスコット。

そいつとクソ暑い中働かなくてもいいだろ。

「黒松。わざわざ一緒に働かなくても、スーパーへ行って会えばいいじゃないか」

「!!」

重大なことに気づいたかのようなリアクションだ。

同時に、ちょっと気負ったかのような反応に、俺が返す言葉は少ない。

そもそもバイトの目的は、ユニを買うんじゃなかったのか?

というか、それはある意味口実だったと、遅まきながら気づいた。

仕方ない。

「はいはい。一緒に行ってやるから。それでいいだろ?」

うんうん!

と、見るからに嬉しそうにする黒松華蓮。

こうして、クラブマスコットを見に、スーパーへ行くことになった。

 

03

市内某所。

某スーパー、エオン〇〇店。

俺たちは、休日の貴重な時間を使って、きぐるみ…いや、クラブマスコットを見にやってきた。

黒松華蓮はもちろんいる。

2時間前に到着する気合の入れようで、しかも少し緊張しているようだ。

「黒松」

「!」

「驚きすぎだろ…」

「長町は、緊張しないのか?」

「しないよ。マスコットに緊張するって、どういうことだよ」

「だって、あのレオン君だぞ。私はレオン君が好きなんだ。緊張だってする」

好きだから、緊張する。

まるでアイドルに会うかのような発言だ。

 

アイドル―――

でもレオン君は、いつもサポーター席の最前列で、俺達にまざってアップ中に檄を飛ばしている。

こんな平和な休日のスーパーが、あいつの戦場じゃない。

あいつも一緒に戦っていて、戦友なんだ。

俺たちの心が折れそうなときも、多くは語らないが、姿勢で、態度で、支えてくれた。

あいつは、クラブにかかわるすべての人間の、サポーターなんだ。

そんなレオン君を、あいつらは、あの時あんな風に……

「長町?」

「…ああ、いや、ごめん、少しぼーっとしてた」

「もうすぐやってくるぞ」

もうはちきれんばかりのうれしさで、顔をいっぱいに埋め尽くしている黒松華蓮がそこにいた。

そして、渦中の男がやってきた。

 

04

レオン君がやってきた。

元ネタはライオン。

碧の獅子、の異名をもつ、仙台レオンの公式クラブマスコットだ。

当たり前だが、キッズたちに風船を渡している。

いつも通り。

スタジアムで、戦闘態勢に入る前の彼は、コンコースでああやって愛想を振りまいている。

そこへ混じる高校生2名。

なんていうか、すごく恥ずかしい。

1人、2人と順番に渡され、ついに、黒松華蓮の番がやってきた。

彼女は今にも倒れそうなな勢いだったが、さすがに彼の前になると、その瞬間を味わおうと必死に立っていた。

風船を渡され、ぽんぽんと頭をたたかれると、黒松華蓮のすべてがはじけきった。

心底よかったなと、俺は思うのであった。

それで、次は俺の番。

 

―――レオン君が、ホワイトボードを取り出した。

彼のコミュニケーション方法のひとつであるボード芸。

多くは語らないが、彼がボードを出したってことは、すごく大事な時なんだって、俺たちは知っていた。

真っ新なボードに、文字を書き連ねる。

一体、何を書いているんだ。

 

俺は、長い間、休眠していた緊張を味わった。

動悸を感じる。

ドクドクと、俺の鼓膜は自分の心臓の音で埋め尽くされた。

身体全体が心臓のように思えた。

とても大事な儀式を、俺は目の前で見ている。

感覚がそう伝える。

そして同時に、思い出したくない、忘却の檻へと詰め込んだそれが、眼を覚まそうとしているのを感じた。

俺はいまにも、心臓が爆発して、全身の血液をまき散らすんじゃないかと感じた。

マッキーが、止まった。

ボードを俺に見せる。

 

『元気だった?またスタジアムで会おうぜ」

 

俺は、その文章から、目が離せなくなった。

俺は、いったい、何を見ているんだ。

お前はなんで、なんで、俺を覚えてるんだ。

どうして、俺なんかを。

どうして。

お前さえも裏切った俺を。

 

「……ッ…どうして!」

声にならなかった。

でも、お前は、右手でグーのポーズをとった。

 

風船くばりは続く。

また1人、2人と、風船を渡していく。

何人もの子どもたちが集まったそのイベントで、ボードを出したのは、唯一、俺だけだった。

俺だけだった。

 

05

帰り道。

恍惚としていた黒松華蓮も、我に返りつつある。

「長町」

……

俺は、あの出来事で頭が支配されていた。

「レオン君が見せたのって、何が書いてあったんだ?」

当然の疑問だった。

でも、俺も分からない。

俺がサポーターを辞めたのが小学5年の時。

あいつはそれまでずっと俺のことを覚えていたってのか。

「長町?」

「……昔、レオン君が叩かれたことがあって、俺、スタジアムで直接あいつに言ったんだ」

「?」

「『元気出せよ!またスタジアムで会おうぜ!』って」

「そんなことがあったのか…」

「でもそのあと、俺もサポを辞めちまって、その約束、破ったんだ」

「……」

「俺は…本当に最低な奴だと思う」

黒松華蓮は言った。

いつも通り、唐突に。

 

「じゃあ、レオン君はずっと、長町のことを待ってるんだな」

そう。

「―――スタジアムで」

待ってるんだ。

 

夏の夕暮れ。

まだ太陽は、輝きを放っている。

その暑さを取るかのように風が、珍しく吹いている。

あいつは、ずっと待っている。

2万人分の1人のサポーターの帰りを。

ずっと。ずっと。

俺はいつでもサポーターを辞められる。

選手だって、監督だって、クラブを、チームを辞められる。

でもレオン君は?

新しくやってくる者たちを迎え入れ、旅立つ者たちを激励する。

そして、離れていった者たちを待っている。

あいつは、あそこで、ずっと、あいつであり続ける。

ずっと。

仙台が、ある限り。

 

「うらやましいな。誰かが自分の帰りを待っててくれるなんて。それが応援するチームのマスコットだなんて」

うらやましいなぁ…と染みるようにつぶやく黒松華蓮。

彼女にとっては、スタジアムへ行くのに、十分すぎる理由なのかもしれない。

 

俺に、

とっても。

 

登場人物

黒松華蓮 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、スタジアム観戦。

長町花江 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、特になし。

 

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