目次
はじめに
今回は、『おこしやす京都AC vs 阪南大Revolution』の試合を観て、対5-4-1への攻撃について考察していく。今季、後方からの保持で相手を押し込み攻撃していく形をとった吉武先生率いるおこしやす京都AC。ただ、相手もそれを織り込み済みで、自陣にリトリートして強固なブロックを築いた。特に多く見られたのが5-4-1でのミディアム~ローブロック。お京都に限らず、人数をかけてスペースを狭くしたDFに対して、それを崩すことはどんなチームでも時間とパワーがいる。手間暇をかけている間にミスをしてカウンターを許したり、失点しまうことでさらにやりづらくなる。こんな連鎖がシーズン通して続いたように見受けられた。とはいえ、何も一方的にやられていたわけではなく、後方の保持と押し込み、崩しへのトライ、片鱗は見えたと思うのでここに記録する。
大前提
ポジションNo.表記について
それぞれのポジションにそれぞれの役割があって、それを簡易に説明したい際、ポジションNo.を使用する。基本的なオーガナイズは3パターン。役割の参考元は、2010年のペップバルサの4-3-3から。
対5-4-1攻撃について
④移動を使った4-4-2→3-1-4-2可変
まず、お京都の基本的なオーガナイズは、4-4-2であるのだけれどボールを保持し攻撃フェーズに移ると3-1-4-2に変わる。これは、CB寺田樹生が一列上がってアンカー位置にポジションをとるためである。⑧‐④‐⑥の3人で中盤を形成し、5-4-1の2MFとFWに対してボール保持を図る。呼応して、両SBがハーフスペースに絞ることでバック3化するため、3-1で後方の保持を担うことになる。
バック3の両サイド(佐々木、小島)が相手FWの横スペースを活用しつつ、2MFに対しては、インサイドMFとFWの4人で負担をかける。ウィングは、できる限りワイドに高い位置。これがお京都の基本的な攻撃フェーズ時のオーガナイズだ。
インサイドMFの外流れ2パターン
攻撃時のインサイドMFは、山本と岩見である。中央→タッチライン方向へオフボールランしていく外流れについて、1.相手陣への前進フェーズと2.相手ゴール前への押し込みフェーズとで2パターンある。
まず1.についてなのだけれど、バック3がボールを持ってこれから相手陣に前進していくなかで、ハーフスペースからサイドに流れていくプレーがある。
阪南大の両サイドは、バック3化した小島、佐々木へのプレッシャー意識が強く、ボールを持つと前掛かりでプレッシングをかけていった。一方で、後方のスペース管理は後方の味方に任せているようで、そこをお京都のインサイドMF(山本、岩見)は使っていた。サイドに外流れすることで、中央MFからのプレッシャーも受けにくく、またウィングが高い位置でピン刺しすることでスペースと時間があった。ウィングのピン刺しとFWのハーフスペース活用とも相互作用しているので、後述したいと思う。相手がバック5のため、両CBからの縦に激しく素早い迎撃も受けにくい場所にポジションをとることで、相手DFを崩しにかかった。
2.のパターンは押し込みつつあるなかで、ウィングに対面でDFするSBの背後への外流れだ。
ウィングが落ちて相手のSB‐WBで段差をつくり、背後をインサイドMFが外流れしていく。中央の枚数を削って、本来使いたいハーフスペースを3rdマンが使う。相手の中央MFが2人しかいないため、たとえば逆展開でボールサイドが変わった後だと、長い距離をスプリントして対応する必要がでてくる。また、本来中央でDFしてほしい選手がサイドに引っ張られることで、5-4-1の中央の分厚さを消すようなプレーになる。
さて、ウィングやハーフスペースでのプレーも関連してくることが分かってきたので、そちらについても言及していく。
ウィングの高さ調整とピン刺し
お京都のウィングのポジションは、ワイドに高い位置をとる。相手バック5の両サイドを前方向のベクトルを出させず、スタートのポジションをキープさせる効果がある。ワイドに高い位置とピン刺しである。高い位置で相手SBをピン刺しすることで、手前のエリアでボール保持しやすくなる。これは前述したインサイドMFの外流れと関連する。また、ボールの逆展開後、あえて低い位置に落ちてボールを受けることで相手SBを引っ張りだし、その後方にスペースを創る、バック5に段差をつくる。いずれにしても、味方のボール保持を助け、相手DFを切り裂くプレーを誘発するような、高さ調整とピン刺しである。
実は、この点についてサッカー指導者である北野誠さんが言及されている。以下はブログから引用。
3−1−4ー2の横浜FCは5−3−2の守備オーガナイズで組織を組むのに対し、サンフレッチェ広島は攻撃時に2−3−5の様な並びになる。今風に言うハーフスペースの攻防で、このスペースを獲るのが上手なのは 吉武博文さんだ。いわゆる『ポケット』への侵入と攻略だ。
どんな前戯を入れて、左右のCBを引き出すかは監督のやり方だが、相手が3バックでも4バックでも考え方は同じだ。肝はタッチライン側にいるWBやSBを何処にピン留めするかになる。
北野さんの言葉を借りつつ、試合の事象を照らしてみるとこんな具合だろう。どこにピン留め(ピン刺し)するか。それによって、本当に使いたい「ハーフスペース」の使い方も変わってくるはずだ。
ハーフスペースを使う
いよいよハーフスペースの活用について。まずはボールサイド側から観ていく。インサイドMFが外流れした後、相手の中央MFがプレッシャーをかけてくる。アンカーになった寺田が横サポートしながら、ハーフスペースをFW高田淳平が落ちてくる。ボールを1タッチ、2タッチで移動させつつ、ブラッシングで逆展開。相手がサイドに引き出されているなかで、逆サイドの選手もボールサイドに寄って圧縮していく。相手も味方も入り混じる密集地帯を抜けていく技術として、ブラッシングがある。
次は、逆展開やオープンにサイドでボールを持った際。サイドでボールを受けた選手、たとえばウィングからハーフスペースに斜めに刺す。前述通り、インサイドMFの外流れで相手CBをサイドに引き出したり、あるいはSB(特に小島)がアンダーラップで相手のSB背後に抜けていく。そんな時も、ハーフスペースにサイドからボールを刺すのである。逆展開後だと、リポジションが間に合わず、ここまでうまくいったシーンはあまりなかったかもしれない。それより、右サイドでオープンにボールを持った際に、似たような形はあったと思う。
まあこんな感じで、ボールサイドの密集地帯での使い方とオープンサイドでの使い方とで、ハーフスペースへの入り方、ボールの入れ方は変わっていると感じた。北野さんの言う「どこにピン留めするか」によって、ハーフスペースの使い方も変わってくるのだと思う。
まとめ
つまるところこんな感じだと思う。
- 静的なポジションで相手を縦に引き出す(④移動)
- 動的なポジションで中央の選手をサイドに引き出す(外流れ)
- ウィングの高さ調整
- 逆展開
- 本来使いたいハーフスペースを相手を動かしてから使う
ブラッシングはあくまで技術だが、どの選手もある程度実行していたので、密集地帯やプレッシング回避の術として身に着けているのかなと感じた。特に、高田淳平のブラッシングからの逆展開は別格だ。
片鱗の意味
全体的に正確さだったり、スピードだったりはまだまだ不十分にも感じる。せっかくボールサイドを変えても、そこに辿りつくまでに多くの味方が関与しているため、リポジションが間に合わなかったりする。速度を上げてサポートに入る、逆サイドからの攻撃を開始するなどあるが、技術的なミスもあったりするので、そう簡単にうまくいくわけでもない。また、ウィングの攻撃のプレー幅が多いと、より相手DFに負担をかけられるようにも感じる。サイドからゴール方向に向かって抜けるプレーがあると、空けたサイドのスペースを外流れしたインサイドMFや後方のSBがリサイクルもできる。どちらかというと「DFを中央→サイド」に引き出す思想なので、思想違いかもしれないのだけれど……それにマンチェスターシティのDFだって、中央→サイドに外流れする選手をマーキングして中央のエリアを空けて失点したりしている。やはり必要なのは展開後のスピードなのかもしれない。そういう意味で、まだまだ片鱗だなと感じた次第である。