蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【Man City v Chelsea】ハーフスペースを巡る攻防【21/22 | Premier】

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目次

はじめに

今回は、『21/22 22節 マンチェスターシティvsチェルシー』の試合を観て考察していく。試合は、シティがリーグ戦を破竹の勢いで進撃している最中で、このシーズン優勝している。当時、チェルシーの監督はトーマス・トゥヘル。ペップvsトゥヘルの名指導者対決でもあった。そんな試合を時系列で振り返りつつ、ポイントを書き出してみた。レガシーというにはまだ日が浅く、最新スタンダードは、さらにその先を行くと思うのだけれど、モダンと言っても差し支えないはず。

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争点はハーフスペース

最序盤のキックアンドラッシュが終わり、徐々にピッチが落ち着きはじめ……的な、オープニングは無く。試合開始とともに、両チームのメッセージが鮮明であった。いわゆる、ハーフスペースの攻防である。攻めるシティと守るチェルシー。まずは、両チームの登場人物と役割から観ていこう。

両チームの初期ポジション

チェルシーは、5-4-1でミディアムブロックを組みつつ、ファイナルラインを高めに設定して中盤を圧縮する。ミッドライン(左からツィエク、コヴァチッチ、カンテ、プリシッチ)の4人の距離は近く、シティに対して狭いグリッドを形成した。FWルカクは、アンカー番としてロドリをマーキング。中央CBチアゴ・シウバは、神出鬼没のシティFWフォーデン番を務めながら、スイーパーのようにファイナルライン背後へのボールへアラートを強めた。マクロはこんな感じなのだけれど、個とグルーピングで守るので、詳細は後述する。

一方のシティ。ロドリをアンカーに4-3-3を維持して、チェルシーの5-4-1に挑んだ。スターリング、グリーリッシュの両ウィングはワイドに高い位置を取り、チェルシーのWBの高さを固定。ベルナルド・シウバとデブライネのインサイドMFが、相手MFの死角となる背中の斜め後ろにポジションをとるはずだった。でも実際には、2人ともハーフスペースからやや外れた外側の位置に基本ポジションを取った。

実際のポジションはこんな感じ

チェルシーのDFにおけるグルーピングと個

ペップシティにハーフスペースでのポジションを警戒させたトゥヘルチェルシー。前述した通り、ミッドラインが絞ることでグリッドを狭くし、中盤を圧縮している。加えて、左サイドは【ツィエク-サール-コヴァチッチ】、右が【プリシッチ-リュディガー-カンテ】がハーフスペースへの警戒を強めた。特にシティのインサイドMFがポジションをとったり、ボールを持つと素早くチェックをかける。そもそもグリッドが狭く警戒も強いため、試合開始からシティはハーフスペースを経由地として利用できず、回避することになった。

SH-R/LCB-MFのグルーピングかつ、カンテとコヴァチッチのチェックスピードは速く、デブライネもシウバもプレッシャーを受けづらいやや外側にポジションをとることとなった。ただ、そんなことは百も承知と言わんばかりのシティ。右ウィングのスターリングが、早速外から内に向かって背後への抜けを狙う。ハーフスペースに強固なブロックが存在するなら、それを避けて、避けてというかなぞるようにボールを進める。CBストーンズやSBウォーカーがボールを持ち、シウバがサイドに向かって離れていけば、チェルシーの右サイドのグループは引き出されていく。左CBサールの背後をスターリングやFWフォーデンが抜けを狙うのだ。それでもチェルシーは、WBアロンソアスピリクエタがマーキングして追いつくし、中央CBチアゴ・シウバが最後の掃除役としてボール落下地点に対して素早くアプローチしてしまうのだ。

チェルシーのDF

ウィングの抜けを狙うシティ

ペップシティに対して、ハーフスペースを簡単に使わせないことに成功したトゥヘルチェルシー。グリッド内のパスとコントロール、入れ替わりなど、シティの土俵での勝負を極力抑えにかかった。回避策としてのロングボールや背後への抜けは、対人戦に強いアロンソアスピリクエタに対応させながら、最後はチアゴ・シウバに処理させるのは相当ズルいなと思った。ただ、そもそもカンテやコヴァチッチなどグリッド内の勝負でも戦える選手がいて成立しているので、個の能力があってこそ関係性が成立するとも言える。

シティのリスクテイク

ボールを保持する時間は少なく、決定機もまばらに訪れるチェルシー。カウンターに転じても、DF時間が長いせいもあってか単発で終わっていた。ただ防戦一方な状態ではありながら、シティに自分たちのDFは危険であると認めさせたことで、最序盤から序盤戦の戦いには勝ったか五分まで持ち込んだように見えた。強力な個が形成する強力なグルーピングに対して、攻め始めたのはデブライネであった。

グリッドでポジションをとるデブライネ

11分ごろから、デブライネはポジションを変えはじめる。本来、ポジション取りしたいハーフスペースでありカンテの背中斜め後ろにポジションを取った。呼応して、左ウィングのグリーリッシュもハーフスペースに移動。チェルシーの狭いグリッド内で2vs4を作る。グリッドの外で待つカンセロから、ファイナルライン背後へボールが供給される。一度、グリッド内でボールを受けて目を集め、外に意識をそらしてから背後へランニングしていく。デブライネもグリーリッシュも、リュディガーの背後への抜けを繰り出した。右サイドはさらに活発に。スターリングの抜けだけでなく、フォーデンの抜け、セットプレーやスローインで右残りしたデブライネまでチアゴ・シウバの横へ抜けていく。シティの攻撃は、①警戒されいてるハーフスペースを回避して背後への抜けを狙う、②グリッド内の人数を数増しして密度を上げる、だ。そもそも、5-4-1という人数の多いかつ内側に絞って圧縮しているDFに対して、加勢させて攻撃に関わる人数を増やすのは定石だ。

11分ごろの象徴的なプレー例

前半通してこんな感じのポジション

そんなこんなで、前半はこんな感じに。両ウィングは内側への意識、抜けを強めて、SBはワイドに低い位置に構えることでSH or WBを引き出す。ハーフスペースの守りを固めるチェルシーに対して、サイドに引き出すことでDFを崩しにかかった。危険地帯を認識しながら少しずつ攻めたポジションを取るのが印象的だった。

膠着した試合を決めたのは

後半からシティのポジションは、4-3-3の初期ポジションに忠実になっていた。最序盤に見せていた形だ。ウィングによるハーフスペースに向かう背後への抜けとWBとの1on1を中心に攻撃する。チェルシーも変わらず。5-4-1の圧縮は変わらない。凄まじい練度だ。ほとんどボール保持され、カウンター機会も散発に終わっているにも関わらず、極小化されたグリッドに変化はない。スターリングとグリーリッシュによる攻撃で、後方のウォーカーとカンセロは時折ワイドに高い位置をとる。「ペップは最後までハーフスペースを攻略できずサイド攻撃に活路を見出したのか」そんなことを思った70分。GKケパからのロングボールに前がかかりにプレッシングをかけたチェルシーアスピリクエタがハーフラインを超えてポジションを取り、リュディガーはサイドのグリーリッシュへの意識を強めていた。交代で入ったヴェルナーがラポルテと競り合ったボールをシティが回収。それまでグルーピングで警戒していたハーフスペースが一瞬、カンテひとりになった。背中でボールを隠しながらハーフスペースを横断するデブライネ。カンテのスライディングに倒れることのない強さを見せ、コントロールショットをゴール右隅に決めた。

感想

いかにハーフスペースを攻め、守るかのポジションやプレーに見ごたえのあった試合だった。シティは、ウィングが背後への抜けを狙ったり、SBがワイドに低い位置にいることでチェルシーのDFを引き出そうとした。デブライネが警戒されているハーフスペースであえてボールを受けて意識を集めたり、瞬間的な加勢で数増ししたり、神経質になっているチェルシーDFに対してイレギュラー対応を強いることでDFを崩しにかかった。ゆっくり保持しながら、素早く背後をとったり。ワンタッチでボールをグリッド内に経由させてみたり。カウンターリスクを共有しつつ、それを回避したり、どこまで、誰ならそのリスクを冒してでも攻めたポジションを取れるのか。それを試合中探りながらプレーしていたのが印象的であった。

チェルシーとトゥヘルも見事だった。5-4-1で中盤を高圧縮に守り、その練度も途切れることなく継続していた。3人のグルーピングでハーフスペースを守り、ウィングやFWが抜けてきても、アスピリクエタアロンソチアゴ・シウバが最後まで着いていく。カンテとコヴァチッチの素早いプレッシャーと整然としたポジションなど、個人能力を大いに発揮できるオーガナイズであった。一方的にチェルシーが殴られ続けたともとれる試合ではあるのだけれど、シティ相手に危険性を認識させた時点で、チェルシーも勝利に値する。

結果論ではあるのだけれど、果敢にリスクテイクしたデブライネが決勝ゴールを決めたのがなんとなく、サッカーっぽいなあと思った次第だ。