【静寂の闇を】Jリーグ 第19節 ベガルタ仙台 vs セレッソ大阪 (2-3)【切り裂くように】
はじめに
さあ、いきましょうか。ホームセレッソ戦のゲーム分析。逆風吹き荒れる杜の都。クラブの存続をかけた闘いに漕ぎ出すなか、チームは三度、セレッソと刃を向け合う。静かな刺し合い。訪れる歓喜。すべての闇を打ち払うべく、金獅子のフォワードの二撃が、理不尽な世界への抵抗を示す。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。
目次
オリジナルフォーメーション
ベガルタは、ここ2試合採用していた3-4-2-1から、4-2-3-1に変更。アウェイ限定のフォーメーションだったことを試合後に明かした木山監督。原点のウィングが帰ってきた。右ウィングに道渕、左フルバックにはパラが入る。
セレッソは、いつもの4-4-2。セントラルMFに藤田ではなく木本、左サイドハーフで攻撃の全権を握る清武はリザーブ。
ゲームレポート
4-4-2 vs 4-4-2
アディショナルタイム。桜色の10番が放ったシュートは、鮮やかにゴールネットを揺らす。1週間の準備と関東連戦、逆転の2ゴールを挙げたベガルタ仙台を絶望の底へと叩き落とすのには、十分すぎるほどの、決勝ゴールとなった。ただ、これまで幾度となく味わってきた絶望とは違う。手も足も出ない、ゲームを成立させるので手一杯の情けなさも悔しさでもなく、自分たちが表現したいことのマックスをたった一本のゴールで上回れた悔しさだ。ここまで、戻って来たのである。挑戦できる場所まで。
ベガルタは、この試合、関東連戦で採用した3-4-2-1、ボール非保持時5-2-3ではなく、4-2-3-1を採用。ボール非保持時には4-4-2で、ゲデス、関口の2人がセレッソのCMFを基準としながら、ホルダーになるセンターバックへプレッシングをかけていく。ボールサイドが決まれば、ウィング-セントラルMF-フルバック-センターバックのユニゾンスクエアで、サイドのボール前進を妨害。セレッソがボールを自陣へと下げるのを合図に、4人のアタッカーがプレッシングの号令をかける。セレッソ陣内に侵入すると、噛み合わせるかたちで同数プレッシングでビルドアップを妨害する。
セレッソも4-4-2。攻撃の形は、4-4-2の形をある程度維持したまま実行する。ビルドアップも、2+2(CMF+CB)のボックス型。嵌りやすい形でもある。ボールを奪えば、縦への速攻よりは、きちんとプレッシングの波を外しながら、ボールを維持するポゼッション志向。お互いの4-4-2は、前線からのプレッシングとディフェンスに3人、4人と連動する多段守備。加えて、ボールを持って攻撃していくまさに「ミラーゲーム」のようなゲームになった。
ドロップで打開を図る両チーム
膠着状態には、小さなズレが大きなズレを作るのが定石型である。バタフライエフェクト。くしゃみをすればどこかの森で蝶が乱舞する。まずは、ベガルタ。セントラルMF椎橋が、バックラインへ降りて、セレッソの前線からのプレッシングを外す。場所は、センターバックとフルバックの間。左フルバックのパラは、高い位置を取り、左ウィング西村が相手フルバック-センターバック間のゴールに寄り近い位置でプレーすることが可能になる。ビルドアップの押し上げである。
対するセレッソも、ボックス型ビルドアップから、セントラルMFをバックラインに落ちることで1+3の逆丁字型で噛み合わせにズレを起こそうとする。前半、ベガルタはこの噛み合わなさに、一時撤退を余儀なくさせられる。逆丁字型の影響で、よりワイドで高い位置を取るフルバックに、両ウィングが対応し、ゲデス、関口も1人残ったセントラルMFを監視するとなると、バックラインへのプレッシングが効かなくなる。時間とスペースのあるバックラインから、サイドチェンジのキックやピッチを広く使ったポジショナルアタックが繰り出されるのは、ある意味必然だった。
ただベガルタも、飲水タイムで問答無用の修正が入る。ゲデス、関口とボールサイドのウィングで同数プレッシング。アンカーロールには椎橋がつき、フルバックにはフルバックが縦に迎撃する顔面ファイアープレッシングで対応。意地でも、前線から圧をかけることに拘り実行した。セレッソは、ベガルタの広く空いたセントラルMF横へ顔を出し息継ぎポイントを作る。こうなると、ベガルタとしてもまずはリトリートとなるが、もちろん前でカットできれば、武器である超ショートカウンターが炸裂する。決してオープンではないけれど、一歩間違えれば刺されるやり取りがピッチ上で繰り広げられた。その口火を切ったのは、本来担当する列から下がるドロップだった。
図1
前に圧がかからないセレッソの中盤と空いたスペースを有効活用できないベガルタ
もちろん、セレッソとしては、ベガルタの対応は織り込み済み。すかさずウィングが前線へとプレッシングへ駆け上がり、噛み合わせを維持する。そもそもセレッソの場合は、ウィングがホルダーの縦へのコースを切り、フォワード(特に奥埜)が横パスを制限する立ち位置を取る。そうなると、ホルダーにはバックパスで下げるか、中央のエリアにリスク覚悟でパスを刺すかの選択肢が「あえて」与えられる。バックパスならセレッソのプレッシングトリガーを引くことになるし、中央へのパスは2人のセントラルMF(特にデサバト)が大きな口を開けて待っている。その「縦を切る」ウィングが戦線を上げることになっても、多段守備が維持できている以上は、より前への圧が強まるメリットしかない。いつもの風景になるはずだった。ベガルタのフルバックが、インサイドにいなければ。
ベガルタは、椎橋のドロップと、パラのレーンチェンジの合わせ技で、セレッソのサイドの多段守備を崩しにかかる。右ウィング坂元は、パラへのコースを制限しながら椎橋への圧をかけたいが、肝心のパラはもとのワイドなポジションからインサイドにいる。こうなると、右CMFデサバトも、パラに対応しながら坂元のプレッシングに追従しなければいけないというダブルスタンダードを突きつけられる。また、デサバトには、背後にウィング西村、アタッキングMF関口がオフボールランを繰り出す、そのカバーにもする必要があり、非常に戦術的なストレスフル状態になる。
図2
この連戦を6試合(途中交代含めて)で続けているチームの中心であるCMFデサバト。先の戦術的負荷と体力的負荷からか、前線との距離が伸び、コンパクトさを維持できなくなってしまう。ベガルタとしては非常に有利な状態で、戦術的なポジショニングで使えるスペース、奥埜、坂本、デサバトの三角形が間延びしたエリアを有効に使って攻撃したいところ。実際、CMF浜崎がボールを受け、前線へと供給する。ただ、逆サイドのパターンもそうだけれど、椎橋、浜崎のパスの殺傷能力が上がらない。背後に抜けるボールなのか、間受けさせるボールなのか、前線と合わないシーンが見られる。また、非常に基本的なトラップであったり、パスの1本1本がズレるなど、せっかく相手の状況を利用して自分たちでつくったエリアを有効に活かし切れてないように見えた。
結局、後半にはセレッソのFWが下がり目のポジションを取ることで、全体のコンパクトさを取り戻し、使えるスペースというのは限定されることに。ただし、同点ゴールは逆に時間とスペースができた平岡からの攻撃であり、横も縦も制限がかからないなか、前半から続けたパラのポジショニングとの合わせ技のゴール。だからまあ、サッカーは簡単ではないってことだ。2点目は多少のズレはあったが、最終的には西村のPKを誘発。これは前述の空いたエリアを使えたシーンだったと言える。
サイドからの打開
この試合、膠着する両チームがドロップで時間とスペースを創り、打開を図ったのがサイドだった。お互いコンパクトな4-4-2。ボールサイドに人数をかければ、逆サイドのエリアが大きく空いて来る。セレッソは、バックラインからロングキックを蹴る。また、ベガルタがリトリートすると、セレッソ同様、横パスの制限がかからなくなり、ショートパスでもサイドを変えることができるようになる。
ベガルタも、左サイドでポジショニング勝ちをして時間とスペースができると、逆サイドを駆け上がる柳に何度もボールを供給。ボールサイドの転換で、チャンスを作り出す。
間延びする75分以降
スタートから、統率の取れた4-4-2ディフェンスだったベガルタ。前線からの圧力を維持し続けようとしていたが、ラインが上がりづらくなってくる。交代も使いながらなんとかプレー強度を維持したまま戦いたかったけれど、同点、逆転と失点を許してします。防戦一方ではなく、ポゼッションでの「回復モード」を設けることで、全体のコンパクトさ、前線からのプレッシングを維持しようと取り組んでいるような気がする。気がするだけ。そのバランスについては、再開後の試合で最もよかったのではと思える完成度だった。それでも、相手が相手なら見逃してはくれないし、一発で局面を打開されてしまう怖さがある。最前線と最終防衛線とを繋ぐのは、中盤だと思うし、全体がコンパクトさを維持しながら前線からのプレッシングを支えるのは、4-4-2であればセントラルMFになるのかなと思う。ロティーナの、セレッソ大阪を見て、なお一層、そう思うのである。
考察
Good!
全体が連動したプレッシング、後手に回らないディフェンス、奪ったらボールを握りながらスペースを創り使う攻撃など、メンバーが入れ替わるなかそれでも十何試合とやってきた積み上げを見せることができた。関東連戦用フォーマットと、ホーム用フォーマットを準備した木山ベガルタ。さすがとしか言えない。しかもそれは決して継ぎはぎパッチワークではなく、きちんとチームの設計図たるゲームモデル、選手の行動指針であるプレー原則をもとに、ズレの修正、個別対策をやってのけた。対策する余裕がないと書いて申し訳ない気持ちしかない。
Bad…
中盤のスペースしかり、75分以降のゲームコントロールのところもそうだけれど、やはり自分たちでつかみ取ったチャンスやペースを活かし切ってほしいと思うし、そのために血みどろの努力をしているわけで。もちろんそれはこれからの課題であって、これはまだ、まだ一歩に過ぎないのだと思う。やるべきことをやってきたチームなのだから、これからもきっと変わらず続けていけばいい。
Next
先鋭的でポジショナルなサッカーを披露し、4-4-2のコレクティブディフェンスを見せた渡邉前監督は、そのサッカーとは裏腹に、非常に「人間臭い」チームだったように思える。西村、野津田、奥埜、板倉、富田、道渕、関口、シマオなどなど。チームとして表現することが変わっても、どこか選手個人が輝くような、逆を言えば、そこが突き抜けられなければ、青天井を迎えてしまうなど。その分、木山監督のサッカーはどこかドライで、システマチックで、冷徹さを感じるかもしれない。ただ、1人いるいないが大きな影響を及ぼし、チームがやれることにまで影響するようなことはなく、チームの設計図であり、目指すべき絵がこのチームの主役だ。この明確な絵を選手がみんな共有して、輝くからこそ、西村はゴール後に芝生の上を滑りゴローと抱き合い、パラは胸を叩いて吠えたのである。どちらかが良い悪いなんて当然ない。どちらも、良いのである。
おわりに
さて、いろんなことが今のベガルタを取り巻いていて、正直試合どころじゃねえって言う感想もあるかと思う。けれどそれは、これまでもずっと言われてきたことであって、今年はさらにあのクソッタレが世にはびこっていることもある。 必ず訪れる災難には必ず立ち向かう必要があって、やってくる試合にもまた、立ち向かわなければいけない。そんなことを考えられるくらいに、この日のチームは最高だったし、サッカーに神様がいるって信じたくなる結果にはなったけれど、彼らの良い挑戦を微力ながら支える三下の三下として、また進みたいと思っている。
「Always be yourself, express yourself, have faith in yourself, do not go out and look for a successful personality and duplicate it.(常に自分らしくし、自分を表現し、自分を信じろ。どこかの成功者のお手本なんてマネするな)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。
参考文献
silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com