蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【天使の梯子】Jリーグ 第7節 ベガルタ仙台 vs ヴィッセル神戸 (0-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム神戸戦のゲーム分析。迷いながら、苦しみながら、それでも桜舞う季節がやってくる。桜の花びら散るたびに、ベガルタ仙台は前に進んでいく。わずかな薄明光線を目指す。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

f:id:sendaisiro:20210406225303p:plain
 

ゲームレポート

縦志向の序盤戦

  ベガルタ仙台は、4-4-2。西村、赤﨑という、明確なFWタイプを最前線に置く形をとる。ボールを持つビルドアップ時には、シマオ、Qちゃんの2CBに富田がドロップで3on-lineを形成。松下がアンカーポジションにつく逆丁字型を採用。ウィングの氣田、マルティノスがハーフレーンへのレーンチェンジに合わせるように、両フルバックがワイドに高い位置を取る。

 ここまでは、これまで仙台が4-4-2でセットアップした時に採用している型で、いつも見慣れた形だ。ただ、バックラインでボールを持つと、最前線の西村、赤﨑、時にはマルティノスをターゲットに、ロングキックを蹴りこむ。また、ビルドアップ以外でも、ローブロックでボールを奪うと、最前線にロングボールを送り込む縦志向の強い攻撃を見せる。この試合、神戸も同じく4-4-2を採用。前線からのプレッシングを基調に、仙台の陣形に噛みあわせてきた。後方で時間とスペースができないなかで、そこで時間とスペースを創るよりは、最前線に素早くボールを送る選択をしたのかもしれない。しかし神戸としては、ロングボールが送り込まれようが、菊池、山川のセンターバックが弾き返せるので、仙台が高い位置でポイントを作れたかというと、そうではないと言うしかない、そんな最序盤だった。

 そんな神戸も、ボールを持てば仙台同様4-4-2からフルバックがワイドにポジションを取りながら、ウィングがハーフレーンに絞るようなポジション取りをする。その形からこれもまた、ウィングを主軸としたサイドへの縦志向の強い攻撃でポイントを取ろうとする。仙台と神戸。かつてパスとオフボールラン、ポジショニングで新進気鋭のサッカーを披露していた両チームが、まったく異なるサッカーで再び交差することになった。ただこの試合においては、前線からのプレッシングでポイントを取った神戸が優勢となる序盤だった。そんな序盤で、古橋のクロスカウンターが刺さり、CKから追加点を許す。仙台は、形勢どころか、スコアで、あっという間に差をつけられてしまった。

 

西村のハーフスペース攻撃。攻略目標はセルジ・サンペール

 2点リードした神戸。4-4-2を堅持したまま、前線からのプレッシング、ウィングを中心としたサイドから縦志向の強いサッカーを継続。目新しさは無いが、手堅い。そして、今の仙台にとって強力だ。仙台は、自陣深くのGKクバを含めたビルドアップでプレッシングをかわせると、逆サイドへボールを運ぶ。疑似カウンター的な攻撃の一手は、相手の守備陣形を崩す手間を省き、より広いエリアを使った攻撃になる。もちろん、そこからのスピードアップに苦労している印象で、カウンターが一閃したシーンは無いから上手くいっている、狙い通りとは言えないと思う。

 そんな針の穴に糸を通すようなミッションインポッシブルのなかにある仙台に、雲の切れ目から一筋の光が差し込む。相手フルバックセンターバックとの間。ハーフスペースだ。後半開始から、西村が何度もハーフスペースをオフボールランを繰り出す。セントラルMF松下、フルバックのタカチョーという、キックに優れた選手から槍のようなパスが西村に通る。これには、神戸のDFシステムに一因がある。神戸はリトリート時に、4-4-2を組むのだけれど、対人意識の強いゾーナル守備を採用しているように見える。脅威となっているCB菊池、山川は自陣ゴール前からサイドに離れるような動きは見せない。一方で、フルバックである櫻内は、ワイドに張る氣田を監視するようにサイドまで迎撃に出てくる。当然、センターバックフルバックとの間が空いてくるわけだ。本来なら、センターバックのスライドで間隔を維持するのだけれど、神戸の場合は、「センターバックには自陣ゴール前で仕事をしてほしい」という約束事の束がある。そうなると一般的には、セントラルMFが埋めたりするのだけれど、そこにいるのはセルジ・サンペール。サンペールは、対人DFやスペース消し魔人ではなく、DFでも良いポジションを取りボールカットを狙うタイプだ。ただしそうなると、周りの味方と噛み合ってこなくなる。仙台は、いや、西村拓真はそこを突いた。

 神戸も、前線からのプレッシングは強いがリトリートすると脆いチームの類だったようで、いや、リトリートが脆いから前線からのプレッシングで奪いきってしまおう、ボールを持ったら速く前線に届けようとしているのかもしれない。その姿は、まるで、昨季のベガルタ仙台を思い出される。

f:id:sendaisiro:20210406225154p:plain
 サンペールの背後のスペース、すなわち、フルバックセンターバック間にできる神戸のDFシステム上の穴。そして、左ハーフスペースを主戦場とするフォワード西村のオフボールラン。そこに、氣田、赤﨑が関係してペナルティエリアボックス角から斜めに侵入を試みる。セントラルMF化したファントムタカチョー、天才松下がボール供給する。交代で入った力也さん、加藤千尋もオフボールランの使い手。右サイドでも神戸のスペースを突く動きと呼応して、Qちゃんのミドルが炸裂する。相手ファイナルラインの背後を狙う、相手と相手との間を狙うことで、相手DFにストレスを与え、味方に安堵を与える。「2人で1人を困らせよう」としている仙台は、ボールホルダー付近に味方が寄りすぎて大渋滞を起こし、自ら窒息する地盤沈下攻撃が通常なのだけれど、このわずかな時間だけは「1人で相手2人を困らせる」攻撃を見せる。

 そこから、皆川、平岡の投入でパワープレー模様の仙台。神戸も交代でクロージングに入ったこともあるけれど、天使の梯子を自らの手で払いのけた。

 

考察

 表現したいサッカーと選手のキャラ、可変前と可変後などなど、いろいろと噛み合っていない仙台。特に、ウィングを落としてボールゲームに参加させるやり方で、本当に氣田とマルティノスは輝くのだろうか。氣田は合いそうだけれど、加藤千尋ぐらいしか適役が見当たらない。あとは上原力也か。西村や赤﨑のスペースアタッキングの間に、中盤に人数をかけてボール支配するやり方を取るのなら、もっとキャラにあった選手が居る気がする。気がするだけ。DF時のスピードなら、たしかに、あっているのかもしれない。いずれにせよ、ビルドアップ時のボール進行ルートがU字になって真瀬、タカチョー、ハチのところで詰まろうが、氣田とマルティノスがボールホルダー大集合しようが、相手の背後に抜けてストレスをかける選手は必要だ。踊りながら、羽ばたくための舞台で這いつくばっていても。もういろいろが噛み合わないなか、逆に言うと、噛みあったところにすべてを噛みあわせていくしかない。その最初の一噛みが、もしかすると、西村拓真なのかもしれない。

 

おわりに

 今季、残りの時間が多いのか少ないのかは分からない。ただ一つ言えるのは、今季は4チームがJ2へと降格していく。これは事実だ。時間が多かろうが、少なかろうが、これは変えられない。我々が合わせこむしかない。環境に適応ではなく、適合するしかない。もうひとつ分かることは、選手のサッカー人生は短いということだ。これは残り時間が少ない。すべてを残留の為に捧げろというのは、それでも選手はスパイクを履くのだろうけれど、我々はそんな彼らの少ない時間に何を貢献できただろうか。報えただろうか。そんなことを考えてしまうわけで、少しでも、その貴重な時間のなかで、サッカーが上手くなって、ひとつでも極められたか思ってしまうんだ。今年も、4分の1が終わり、あとは4分の3だ。リーグ戦はもっと短い。桜の花びらもすぐに散り終わる。命は、我々が思っているよりも速く、そして我々が想像している以上に、鮮やかに燃えるものだ。

 

「死にに行くわけじゃない。俺が本当に生きてるかどうか確かめにいくんだ」こう言ったのは、スパイク・スピーゲルだ。