蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

ナベショナルプレーのすべて

はじめに

  どうも、僕です。今回は、戦術理論について。ベガルタ仙台渡邉晋元監督の戦術について、読み解いていこうと思います。いくつかの媒体で、彼が表現したいこと、実践してきたことを語っていましたので、彼の言葉を軸に考察していこうと思います。考察するためのスケール(基準)は、もちろん、『ポジショナルプレー』です。では、レッツゴー。

交差する渡邉晋とポジショナルプレー

 ポジショナルプレーは、優位性を効率的に保ち、相手の優位性を削ぎ落すためにチーム全体でポジションを取り続ける考え方です。いわゆる概念です。なので、実践するためには、より具体的にする必要があります。

 高めるべき優位性には3つあり、①位置的優位性、②質的優位性、③数的優位性です。①②は、チェスからの援用になります(Positional advantage、Material advantage)。そこに、サッカー要素の強い数的優位性が加わっています。いわゆる2vs1というやつです。これらの優位性を高めるためのポジショニングを取り続けるのが、ポジショナルプレー概念の具体的実践の第一歩だと考えています。

 「~性」とは性質のことですから、これだけでは、実のところ具体的なピッチへの落とし込みは難しいです。「優位性を高めるポジショニングって何?」という疑問が、まずは浮かんでくると思います。そこで、『レーン』が出てきます。

 レーンとは、一般的に、縦に4本線を引きピッチを5分割にした『5レーン理論』があります。隣り合うレーンに同じ列で並んではいけない、必ず一つ高いor低い列いるなどのルールがあります。チームや監督によっては、「ピッチ3分割」だったり、「6レーン」だったり、隣り合ってもOKなどもありますが、5レーンが一般的に浸透していると思います。このレーンに沿ってポジショニングすることで、自然と位置的優位性を保ち、質的優位性、数的優位性も確保していくことになります。

 当然、相手もプレッシャーをかけたり、ブロックを組むことで、優位性を削ぎ落してきます。そのたびに、ポジションを修正して、優位性を確保し『続けて』……をピッチ上で繰り返していくのだと思います。いわゆる5レーンは、選手が実際的に動けるように助け、ポジショナルプレー概念を実践するために必要な道具と言えると思います。

 

ナベショナルプレー

 さて、ここでベガルタ仙台での、渡邉晋のチーム戦術を振り返っていきます。ここでは、本人がポジショナルプレーだと自称していませんが、上記のように、ポジショナルプレー概念、ポジショナルプレー的な考え方で演繹的に見た時に、「渡邉晋ベガルタはポジショナルプレーを実践している」ことを前提に書いていきます。これは、すべてに通ずる考え方ですが、いわゆる「〇〇戦略」と実践している本人が言っているわけではなく、あくまで、体系化・理論化する側が名付けているという考え方です(特に経営戦略論においては、その考え方がベースになります)。

 2017年、渡邉晋は3-4-3(3-4-2-1)を導入。その後、3-5-2(3-1-4-2)も併用していましたが、3バック・3フォワードを基本としていきました。今回、このフォーメーションを軸に、監督在任中、退任後に彼から出てきた言葉から、チーム戦術やゲームでの狙いを紐解いていこうと思います。

 

良い立ち位置

 まさに代名詞。「良い立ち位置を取ることがすべて」だと、彼が言い切っているぐらい重要な言葉です。たとえば、『楔パスを受けるための立ち位置』、『パスを出すための立ち位置』、『楔パスを受けた選手の落としを受けるための立ち位置』、『楔パスにかかわる選手を助けるための立ち位置』など、チーム全体が有利、優位になるような良い立ち位置を取っていきます。これはまさに、ポジショナルプレー概念における、位置的優位性を高めることになると考えます。

 

3つのレーン

 3-4-3ですと、1トップ・2シャドーがオリジナルのポジションになります。3人が被ったり、連動して動けないと、前線に張りついたままアクションが無くなるように、一気に攻撃が機能不全を起こします。先ほど書いたように、1トップが楔パスを受けたなら、2シャドーはその後のプレーが続くような立ち位置を取る必要があります。

 そこで、渡邉晋は、4本線を引いて3レーンに分けたそうです。「被るな!」と叫ぶより、「このレーンから出ないように」と具体的に明示した方が、選手の理解度と実践度が段違いに異なってくると感じ、実行したようです。当然、この3レーンに、サイドのスペースも合わせれば、自然と『5レーン』になるわけです。3-4-3なので、サイドのレーンはWBが担当になりますが、1トップ・2シャドーとあわせて前線5人で5レーンアタックを仕掛けることになります。ポジショナルプレー概念における5レーン理論であることに間違いはないのですが、面白いのは、「レーンを『中央3本』で区切った」という考え方です。つまりは、渡邉晋の戦術にとって、5レーンと呼ぶより、『ペナルティ幅を3レーンで区切る』と解釈した方がより正しいと読み解けます。おそらく、フォーメーションが4-4-2になったとしても、この考え方が活きているのだと思います。「WBがいるから5レーン」。ペナルティ幅中央3レーンをより重要視していたと考えられます。

 

5ゾーン

 そもそもの話として、『レーン』呼びをする以前、相手DF間を『ゾーン』と呼んでいたそうです。4バックなら3本、サイドも含めれば5本のゾーンがあることになります。渡邉晋は、このDFとDFの間のスペースを有効活用するように指導していたそうです。5レーンは、非常に「静的」、つまりピッチに線引かれたものだとすれば、ゾーンが相手DFの立ち位置によって変化する「動的」なものだと解釈できます。

 2018年後期型においては、「静的」なレーンで見ると選手同士が被っているようにも見えるシーンがありましたが、相手ブロックが圧縮されるなかで非常に狭いゾーンを攻めていた可能性があります。本来は、その狭いゾーンで前を向ける選手がいれば良かったのかもしれませんが、ボールロストのリスクをネガティブに捉えた結果、サイドで空いているWBに早いタイミングでボールが渡っていたのだと推測できます。

 

WBの横

 1トップ・2シャドーが中央3レーンおよび3ゾーンで輝くためには、相手ブロックを横に広げ、ゾーンを広くとる必要があります。その幅取り役として任命されたのが、3-4-3だとWB(ウィングバック)でした。渡邉晋は、WBにボールがつくなら、『WBの横』に立ち位置を取るように指導していたようで、いわゆるその『WBの横』がポジショナルプレー概念における5レーン理論の『ハーフスペース』と呼ばれる場所になるそうです。

 ハーフスペースは、5レーンにおけるセントラルレーンとワイドレーンの中間に位置する場所で、ポジショナルプレー概念における5レーン理論のもっとも重要なレーンだと言われています。ボールを持てば、セントラルレーン、ワイドレーンへ自然と斜めパスが可能になりますし、ボールを持っていなくても、その2本のレーンへ斜めのランニングを繰り出すことができます。高い位置でワイドレーンのWBがボールを持てば、その横のレーンは、必然的に『ハーフスペース』になります。「そこには位置取りしてね」は、幅取りとハーフスペースの活用がセットだっと伺えます。

 

『1人で相手2人を困らせる』

 数的優位というのは、一般的に、2vs1、3vs1など、相手より数が勝っている際によく使われる言葉です。ただ、1人で2人を相手にしていれば、どこかで味方の誰かが1人余っていることになります。そうなると、チームとしては、数的優位な状態と言えるでしょう。また、1トップ・2シャドーが、3レーンあるいは3ゾーンに位置取りすることで、相手のDFを『1人で2人相手する』状態になります。相手にとっては、どちらの選手がプレッシャーをかけるのか、またはサイドを誰が見るのかなど、「困らせる」ことができます。これも、いわゆる位置的優位性になると考えられます。一方で、レーンやゾーンが被ってしまうと、逆に相手DF1人で2人を見れる(=守備できる)状態になってしまい、チーム全体が非効率的な攻め方になってしまいます。

 この考え方は、数的優位性の考えと同時に、質的優位性にも言及する必要があります。簡単な話、1人では止められない選手を対面した場合、誰か1人が抜かれた場合のカバーに入ります。2人で1人を止めるというやつです。たとえば、シャドーにそのような選手が入れば、相手DFも簡単にはディフェンスできないでしょう。ゴールを重ねたアンタッチャブルな存在となった西村は、おそらく、この戦術のなかで生まれ、活きた選手だったのだと思います。ただし、ビッグクラブのように、資金が潤沢にないベガルタ仙台にとって、質の高い選手をチーム編成に維持するのは並大抵のことではありません。2年や3年で入れ替わりがあり、そのたびに選手の特徴も変わります。方向性は同じでも、ミクロ的な部分での差異はどうしても発生してしまいます。これが『西村がいなくなってもゴールできるやり方をすれば西村が生まれる問題』に決着がつかなかった背景かもしれません。結局は、『西村拓真』、『ハーフスペース』、『1人で2人を困らせる』が噛み合った総合芸術だったのかもしれません。

 

3-4-2-1と3-1-4-2

 最後にフォーメーションについて。語っても、あまり意味はないですが、3バックをベースに3トップか2トップ、アンカーか2セントラルハーフかが大きな違いでした。ただし、3-4-2-1時でも、2シャドーの1人はFWタイプ、もう一人はMFタイプを入れたケースが多く、ベースの考え方は2トップだったのではないかと思います。また、2セントラルも、片側はもともとアタッカーを務めるようなタイプ(三田、奥埜、野津田)を起用していたことから、セントラルハーフの1人は前線に飛び出していくような役割だったのかと推測します。WBは前述の通り、幅を取る役としてレーンを駆け上がれるようなタイプが起用されました。左WBについては中野や関口のようにカットインできるタイプも起用していたので、非常に攻撃的なやり方だったと思います。

 

考察

 渡邉晋式ポジショナルプレーにおいて、もっとも重要だと思ったのは、相手ライン間・選手間でボールを受けることだと思いました。それを実行するためには、「ライン間に立て!」では選手も混乱してしまうので、ゾーン呼びをしたり、レーンを導入することでより明示的にしたのだと思います。そのための合言葉として『良い立ち位置』があるのだなと。決して、立ち位置をするためにサッカーをするのではなくて、「相手のライン・選手間でプレーすることで、時間とスペースを確保し、相手の守備を困らせたい」のが根底にあるのかなと解釈しました。あとは、創出した時間とスペースを有効活用できる選手がいることで、非常に効果的な攻撃ができるのだなと考えます。 

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おわりに

 『ナベショナルプレー』

 もちろん僕がつくった造語です。渡邉晋のポジショナルプレーだから『ナベショナルプレー』。安直ですよね、分かっています。いつかどこかで彼が目指したサッカーをまとめたいと思っていましたが、監督在任中、退任後に彼からチームを振り返るような媒体に出会い、このような形でまとめました。数年が経って、「ああ、あの時こういうことを目指していたのか……」なんて後悔したチームが他にいくつかありまして、せっかくなので渡邉元監督のベガルタ仙台についてもまとめたい想いがありました。「渡邉晋ベガルタはポジショナルプレーを実践している」ことを前提に書いて来ましたが、今度は帰納法的に彼の言葉を読み込んでいくと、これはポジショナルプレーの考え方だと理解できると思います。そういった背景もあって、このような造語をつくった次第です。

 渡邉元監督の強みのひとつは、やりたいこと、表現したいこと、目指したいことなどを概念化して、それらを実現するために言語化したことにあります。言語化が大事ではなくて、概念化してまとめなければ、「言葉が滑っていく」だけですので。改めて、そのような渡邉元監督に習って、『ナベショナルプレー』と名付けさせていただいたと自負しております。ベガルタ仙台なのか、他のクラブなのか、日本代表!なのか、どこかで彼がチームを率いる時に、さらなる進化を遂げていると思いますので、それを楽しみに待ってようと思います。

 

 それでは、また。

 

 参考文献

www.footballista.jp

 

www.kanzen.jp