蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【原点】Jリーグ 第12節 セレッソ大阪 vs ベガルタ仙台 (2-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイセレッソ戦のゲーム分析。手に入れたクリーンシート。一歩、そしてまた一歩と前へと歩み進めるベガルタ仙台。そんな彼らに、リーグ最強の盾が立ちふさがる。堅牢な守備は、ベガルタが羽ばたく空を狭くする。真夏の連戦を戦う戦士たちが見つけようとした答えとは。何が起こるか分からない世界で、この試合もまた戦い続ける。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、神戸戦からスタメンとフォーメーションを固定。ベンチにケガからゲデスが帰ってきている。ボール非保持時には4-4-2のブロックを組んで相手を受け止め、攻撃時には変わらずウィングからスタートする。特に、左WGの西村が攻撃の一番槍を任されている。

 セレッソは、4-4-2。前節川崎戦で大量失点したがパスコースを消し、ボールホルダーには時間とスペースがあるにも関わらず攻撃を限定する「奪わず奪う守備」でリーグ2位につけている。元仙台の心臓である奥埜が前線からのプレッシングで全体のプレッシングのスイッチになり、代表クラスの清武がフリーマンのように振る舞い攻撃の全権を託されている。 

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

堅牢なブロックの隙間へと

 ベガルタのビルドアップは、2センターバック+2セントラルMFのボックス型。左フルバックの蜂須賀が低めの位置を取ることで、ボックス型+1をとるいつもの形。右サイドのフルバックである柳は、高い位置を取るウィングロールかハーフレーンへレーンチェンジするファントムアタックで、前線へのプレッシングを仕掛けてくる傾向にある左サイドハーフの清武の背後を狙った。また、左サイドは、左ウィングの西村、アタッキングMFの関口がCMF横を狙う立ち位置を取った。自陣でのポゼッション志向が強く、GKを含めてのビルドアップはマリノス戦からの継続である。ただし、ウィングへの縦のキーパスは変わらずなので、セレッソがボールを持つ時間を与えてくれたことがあるけれど、メンバーが戻ってきて気温も下がってくれば自陣でのプレス回避からの擬似カウンターへ軸足を移していくのかもしれない。

 一方、セレッソのセット守備の基本原則は、FW-SH-CMFの3人で三角形のブロックを形成することにある。たとえば、FWに入る奥埜が横パスをさせないようホルダーの横に立ち封鎖。それに呼応するように、SHが縦ののコースを切り、ホルダーのスピードアップを阻止して減速、CMFが中央に入るパスをカバーする守備だ。ホルダーに激しいプレッシャーがかかっておらず、ある程度の時間とスペースがあるにも関わらず、選択肢を限定され、中央へパスやドライブを強要される。

 セレッソが守備的だとか、ロースコアを狙っているという言説は表面をなぞっているにすぎず、高い位置から多段にも防御壁を作って自陣防衛する攻撃的な主張だと見える。攻撃とか守備とかそういう言葉ではなくて、駆け引きするなかでゲームを有利に進めようとするのが、今のロティーセレッソだ。そういうチームが、この日のベガルタの前に立ち塞がったということになる。

 

ボールの進行方向はサイド。課題はゴールへの直線的な攻撃か。

 そんなセレッソの守備原則をうけて、ベガルタとしても、浜崎、椎橋のCMFに時間とスペースがあるなかでボールを持つことができた。また、左サイドについては、かなり警戒されているなかハーフレーンに立つ関口や西村を狙った縦パスが入っていたので、ボールが入ったあとの展開でゴールに仕掛ける攻撃だとより怖さがでたか。攻撃では、ウィングや関口、西村にボールが入るとスイッチが入るのだけれど、そこから2、3人の連携でサイドを崩す意識の方が強く、連携しながらでもゴールへ直線的にボールを運んでいくルートはなかなか見いだせていなかったし、木山監督のコメントにあったように、4-4のブロックの外側からの攻撃と対応された後に空くスペースが狙いだったとすれば、やむなしといったところか。ブロックのなかで息継ぎしながらプレーできる選手がいれば、もっと相手を中央へ寄せてから外への展開、ウィングやフルバックにボールが渡った後に中央のスペースを突くなどのバリエーションも期待できたのではないかと思う。ボール非保持を度外視するのなら、佐々木匠あたりが得意とするプレーの気がする。気がするだけ。

図1

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ボール非保持時

フリーマンを使ったビルドアップ vs 4-2-3-1プレッシング

   ベガルタのセット守備は、4-4-2。敵陣では両WGが相手CBへ、ミドルサードでは柳、蜂須賀の両FBがウィングロールのFBへプレッシングをかけていく攻撃的な守備。選手個人をターゲットとした守備がかなり色濃く出ている。積極的なプレッシングを実行するワイドプレイヤーに対して、2FWは相手CMFを背中でカバーしながらボールのサイド限定する。2人のCMFは、両FBがワイドレーンへプレッシングをかけたことで出来る後方のスペースを埋めるために自陣へのランも実行。セレッソも、両SHがハーフレーンへのレーンチェンジ攻撃やチャンネル(FB-CB間)をオフボールランで攻撃するので、4-2-3-1と2人のセントラルMFがいるメリットを活かした形になる。これまでは、ファイナルラインの4人がペナルティエリア幅でラインを作って守る形だったのだけれど、フルバックセントラルMFも、スペースへ入ってくる選手へプレッシングをするようになり、柏戦、ルヴァンのセレッソ戦での大量失点やクリーンシートが湘南戦と清水戦の2試合だけなのを気にしているのだと予想される。

 一方のセレッソの攻撃は、4-4-2の陣形をなるべく崩さない形で、2CB+2CMFのボックス型を基本に、GKキムジンヒョンと左SHの清武をプレッシングから逃げるビルドアップの息継ぎポイントにした。セレッソ陣でベガルタの前プレ隊と見合っても、両CBはペナルティエリア幅いっぱいに広がりGKと擬似3バックを形成。一方で両フルバックはワイドに構えるので、ベガルタの西村、真瀬の両WGのプレッシングを分散させることに成功。加えて、両SHがCMF横までドロップするので、特にオンボールに優れた清武を誰見るんだ?問題が発生。浜崎は、真瀬に指示出しをしながら、清武と対面する藤田を監視。最終的には、2CMFでセレッソ両SHを見る形をとることになる。

図2

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図3

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 ベガルタの4-2-3-1プレッシングでのギャップを清武のポジショニングとGKキムジンヒョンで無効化し、時間とスペースを創った。できた時間とスペースで、逆サイドの坂元やFWのブルーノ・メンデスへの中長距離パスで一気にベガルタ陣へと侵攻していった。

 

人で圧をかけるも……

 ベガルタとしては、GKとCBの時間とスペースはある程度許容して、2人のCMFを背中でカバーすることに注力。清武には浜崎が管理するように修正。ミドルサードでの攻撃へ移行させれば、2CMFがハーフレーンへレーンチェンジするSHへつく形に完全移行した。西村と真瀬のWGは、ボールを持つCBからの縦パスを妨害するよう縦のパスライン上に立ち、ワイドレーンに立つフルバックへボールが出ればプレッシャーをかけていった。ベガルタのプレッシングの特徴である「ウィングがCBへプレッシングをかける」は、4-2-3-1になっても変わらない基本原則なのが確認できた。

図4

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 ただ、左サイドについては、西村が対面する松田へのプレッシャーが曖昧というかムラがあり、縦に強くプレッシャーをかけけるのはLBの蜂須賀だった。SH坂元がハーフレーンではなく、オリジナルポジションであるワイドに立ち位置を取るとかなり苦しくなり、2失点目のシーンも敵陣深くプレッシングにいった蜂須賀が必死に自陣まで戻ってきたが間に合わなかった。1失点目も、蜂須賀の後方スペースを使われ、本来中央を守ってほしいCMFがサイドへ誘き出される形になっている。

 ウィングとフルバックという、ワイドプレイヤーが高い位置からプレッシングをするのは今のチームの特徴なのだけれど、外された時や上手くいかない時のリカバリー策にかなり苦慮している印象だ。たとえば、一段目のプレッシングを外されたWGが、中央のスペースをカバーするなど「行ったきり戻ってこない現象」に少し手を入れたい気もする。でも、攻撃の時にカウンターの急先鋒としておきたいウィングの西村。この試合において、攻守の収支バランスがかなり微妙な感じで、清武とは対照的な印象になる。清武もフリーマンとは言うものの、ボール非保持時は中央へ絞ってカバーしている。ボールを奪えば、ゴールへ一番近い3線(中央3レーン上)にいる攻守表裏一体ポジションを取っている。セレッソは守備的ではないと主張したいもう一つの理由にもなる。

 WGの守備は、かなり低い位置まで守備する仕組みにはなっていて、それが守備力を安定させてはいるのだけれど、攻撃との両立という側面でおいて言えば、やや守備的に振り過ぎてるとも取れる。だから、エリアによっては高い位置からプレッシングをかけていく判断も分かる。前線からのプレッシングで、攻撃力を補いたいというのも分かる。ただ、プレッシングの基本原則は、①噛み合わせ、②裏を取られない、③コンパクトさがある。2失点目は、ビルドアップのミス→前プレ移行→前プレ外されるから生まれていて、すべてがバラバラだった。さらに、リトリートして自陣を埋めるルーティンも守られていないとなると、話は難しくなってくる。GKへプレッシングをかけたのに、真瀬が追従しておらず天を仰いだ長沢と同じように、故郷の空を思い出しながら坂元のゴールを見届けるしかなかった。

 

考察

「最後は外」攻撃の精緻化

 マリノス戦から、GKを使ったビルドアップに注力しているベガルタ。前節同様、ボールをしっかりと握って攻撃したい姿勢をプレーやコメントからも見聞きできる。ボール保持攻撃については、いずれ取り組むべき課題だと思っているので、遅かれ早かれやる必要はあるしましてやセレッソ相手となると、ボールを持つ時間も長くなるのは自明だ。ただ、前節清水戦では4-4-2のブロックにスペースや時間があっても、最後の局面で崩すに至らなかった背景から、セレッソ相手に崩せるものだとは正直思っていなかった。だからボール保持攻撃が課題とは思わない。ただ、最後は結局外からのクロスボールになるのなら、そのクロスの精度やパターン、駆け引きにはこだわりたい。

 いくら固いセレッソでも、クロスに対してフルバックセンターバックとでギャップができることがあったり、川崎との対戦でセットプレーから失点を食らっていることから、「自陣で深く守ってはね返す」ことについてはそこまで強さは無いのかなと(それでも高い守備力ではある)。であれば、この日の狙いというのも理解はできる。理解できるからこそ、もう少しクロスのコースやパターン、クロスと「見せかける」プレーをもっと増やしたいと感じる。柳と蜂須賀が持ったらクロスが来る、と思われたら、守る側としては予測しやすい。

 

このチームの怖さ、つよみとは

 ボールを持っても結局は「ウィングへの縦のパス」「大外からのクロス」がゴールの前の目標であるなら、そこをもっと極めればいいし、守備においても前線からのプレッシングや奪われた後のカウンタープレスも極めていけばいい。いずれにせよ、「ベガルタって〇〇が怖いよね」ってなれば、我々としては大成功なのである。さらにもっといえば、ウィングへの縦パスに対して相手DFが「攻撃したいけどまずはちゃんと逃げずに対応して勝たないといけない」と思わせるぐらいやってほしいのである。相手が警戒すれば、固さが出て、固さが出れば瞬間の対応に遅れやズレが出る。ズレが出ればチャンスになる。もちろん、相手も成長したり研究して上回ってこようとするなら、それは「相手チーム・選手を成長させることを手伝った」と捉えればいい。ベガルタとしては、それを上回ればいい。そうやって、サッカーが深くなっていく。でもその前に、自分たちが表現したいことを整理して、何ができて、何ができないのかを明確にして潰し込んでいけばいい。あとは、失点やケガ人が続いたチームで選手の士気が下がっていないかが心配である。

 

おわりに

 みなさんは、CLの決勝をフルタイムでご覧になったでしょうか。僕はサッカー観戦者底辺なので、しっかり見逃し配信で見ました。よく日本では、海外に勝つために素早くプレーするなんて言われますが、画面で繰り広げられていたのは、速く、強く、思考も速くを90分間連続で繰り返す2チームでした。読みも予測も、対応も最後の一歩も段違いでした。サッカーは難しいです。難しいですが、難しいからこそ、世界中にはサッカーを理解しようとし、技を磨こうとする人がたくさんいると改めて実感しました。

 僕の個人的な感情を言わせてもらえれば、サッカーにはいろんな可能性があると思っています。ある監督は4-4-2のゾーナルブロックを表現し、ある監督は3バックと3フォワードでポゼッションとポジショニングでサッカーはできると、ベガルタJリーグで表現してきました。今は、また新たに、ウィングというポジションを置き、攻守の切れ目ないアグレッシブなサッカーを表現しようと挑戦しています。まったく異なるサッカーでも、勝ったり負けたりを繰り返しながらも、ベガルタ仙台というクラブは成長してきましたし、間違いなく表現してきたサッカーの幅は広がっています。

 そのたびに僕たちサポーター、観戦者は、知らなかったことに理解を深め、できなかったことができたことに喜び、結果も成果も得られず不甲斐ない戦いをすれば「何やってる!?」と叫んできました。遠い欧州の地で繰り広げられたサッカーにはまだ遠いかもしれないですが、彼らと同じように少しずつでもサッカーを理解し、技を高めてきたのだと思います。クラブも僕たちも。でも「勝てなければ」のこだわりからは逃れられないですし、僕の理想は、「相手も味方も完璧な状態で完全に勝利すること」です。その理想の実現はまあ、まだまだ先ですね。難しいことだらけなのがサッカーなので、難しいなら少しずつ理解していけばいいし、そうやって「サッカーを極めて」いけたら僕はいいと思っています。

 そんなこんなで、この試合の彼らへのひとことは、僕が尊敬する心の師匠の一人から言葉を借ります。

 

「そんなんじゃ ねェだろ!!俺が求めた 武の極みは」こう言ったのは、アイザック・ネテロだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

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silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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