蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【フェアリーテイルの端っこで】Jリーグ 第9節 ベガルタ仙台 vs 横浜・F・マリノス (0-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホームマリノス戦のゲーム分析。少しずつ、また少しずつ立ち返る場所へと還り始めるベガルタ仙台。無い止まないレッツゴーの手拍子をその背中に受けながら、トリコロールの革命軍を討伐するべく、ピッチを駆け抜ける。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

扇原、天野が繰り出す左サイドからのクロス

  仙台は、この日も4-4-2を採用。ボール非保持時には、フォワードが相手セントラルMFを基準に、サイドにボールが出たら横切りプレッシングで限定し、ウィングの縦切り、CMFの中央カバーで強固なブロッキングを生みだす。特に、仙台の右サイドは、WG加藤千尋、CMF上原力也、フルバックに真瀬、センターバックは吉野と、リトリート時に堅陣を敷く。ミドルからローブロックでマリノスを引き込み、相手フルバックが高い位置を取った背後をロングレンジのカウンターで仕留める一撃必殺4-4-2フォーメーションだ。

 一方のマリノス。フレキシブルにポジションが入れ替わり、素早いオフボールランで相手を振り切るアタッキングサッカーで日本サッカーのトップディビジョンを席巻していたが、今季はよりリスク管理と攻守バランスを重視したポジショニングでここまで戦っている。基本フォーメーションである4-2-3-1の骨格から、2CB+フルバック、あるいはCMFのバック3ビルドアップを基調にWGがワイドに高い位置をキープしたり、ハーフレーンに移動するなどのポジションチェンジを見せる。アタッキングMFに入った天野純もワイド、ハーフレーンに移動するため、ボール進行ルートは自ずとサイドからの攻撃になったのがマリノスだった。

 そのなかで、仙台右WG加藤千尋の背後を使う選手がいた。扇原と天野だ。彼らは、ハーフレーンだと監視する仙台CMFにつかまることを警戒してか、よりサイドに、ワイドレーンにまで移動。バック3で広がったビルドアップ隊からボールを受け取ると、ゴール前の快速アタッカー前田大然めがけて高速クロスを供給。仙台としては、セントラルMFが横切りもしているし、フルバック真瀬も縦をカバーしているので攻撃ルートとしてはより選択肢が少ない「縦に細く」状態で守れているのだけれど、マリノスもそれを分かってか、間髪入れずにゴール前にクロスボールを入れていった。

 ベガルタがボールサイドに寄れば、逆サイドのブロック外が空いてくるし、GKとCBとの間にボールが入れば、あの前田である。一発で仕留める能力はある。ただこの日のCBコンビは吉野に平岡。特にカバー能力の高い平岡相手に、どこまで有効打になったのかはあまり分からなかった。

 

攻撃方法に変化を加えるマリノスに、耐えの5-4-1

 仙台としては、中央3レーンであるインサイドレーンを4-4-2ブロッキングで押し出し、相手攻撃ルートをサイドに迂回させたのは成功だったと言える。もちろん、マリノスがリスクを嫌ってサイド進行策を取ったのも相乗だと思うのだけれど、それでもインサイドレーンを一気通貫させなかったのは大きいと言える。そこでマリノス。攻撃の品数の多さに定評がある。往年の技であるチャンネルアタックを繰り出す。フルバックセンターバックとの間であるチャンネル。ここをAMF天野、CMF扇原、WGエウベルがオフボールランで攻撃する。マリノスは、基本陣形である4-2-3-1から、「FW横でボールホルダーになる」、「ワイドに開く」、「ハーフレーンでWG背後を使う」、「チャンネルアタックを繰り出す」役割を課された4人が中心となってサイド攻撃を実行する。ワイドに開くのが天野の時があれば、高野や扇原の時もある。

 この「ポジションと役割のなかで自由闊達なサッカーを実行する」という、おおよそマリノスの洗濯機のようなグルグルとひととボールが旋回していくサッカーからは予想されないような、きちんとしたといったら失礼かもしれないのだけれど、ずいぶんと大人になった印象だ。

 また、そうしてマリノス左サイドを攻撃しながら、バック3で逆サイドにボールを持っていくと、今度はマリノス右サイドで高い位置を取る松原、仲川に長いボールが蹴りこまれる。特に、仙台のDFは、WG氣田、加藤千尋が相手フルバックをターゲットとしていたこともあって、フルバックがバック3に加わると、仙台WGは前線からプレッシングを仕掛ける。空けた背後を使われる形でロングキックが入る。

 こう書くと防戦一方な仙台。ただ実態としては、仙台右サイドを勝ち割られることはなかった。例のチャンネルアタックも吉野が横切りしながら真瀬の背後をカバー。時折松下が右CMFに入ることで、地の果てまで追いかけるDFで対応。仙台左サイドのDFも、WG氣田がドライブするCBに対応するかの迷いが見られたが、自分のターゲットはフルバック松原だと再調整。松原がワイドに高い位置を取るのなら、氣田はバックラインに入ることを厭わなかった。こうして仙台は、強固な4-4-2DFで右サイドを、耐久5-4-1で左サイドを守り切った。

 

西村拓真のレイオフと9.5番の赤﨑秀平

 仙台のDF型の特性上、ボール奪取地点は自陣深くが多くなる。フルバックの真瀬、タカチョーがボールを奪うと、最前線の2人である西村、赤﨑を探すべくルックアップする。特に西村への楔打ち込みを徹底。西村も極端に高い位置を取らず、やや下がり目で受けレイオフ。相手DFが食いつく隙を与えず、ボールを味方へと繋ぎながら、相手ファイナルラインの後方にスペースを創る動きを見せる。しかも、トランジションのクソ忙しい時にだ。相手からしたら厄介極まりない。

 西村、赤﨑のコンビは明確に縦関係を築く。西村が高い位置でボールを落とすのなら、受けるのは赤﨑。相手DFの間を見つけ出し、ボールを受けるとフォローアップに入るCMF松下、上原にボールを渡す。まさにバトンだ。今度は、サイドを駆け上がるフルバックやウィングへボールが供給される。松下、上原は中距離パスの名手だ。オーバーラップするタカチョーや真瀬にボールが渡り、カウンターの急先鋒になる。誰かが少しずつ創った時間とスペース。それをバトンのように手渡してく。ゴールめがけて。

 特に真瀬やタカチョーがボールカットして、西村にボールが入るのを狼煙に、両ウィングがスプリント開始。赤﨑が息継ぎ役として時間を作ると、今度はフルバックがスプリントする。ドンと1人ポストプレーができる選手がいるなら、それに越したことはないのだけれど、別にポストプレーは1人でしかできないだなんて、誰が言ったんだ?ウィングがポストプレーできるし、メッシや香川がライン間でボールレシーブするのだってポストプレーだ。FW2人による共同合作ポストプレーで、自陣深くに押し込まれていた鷲が檻から飛び立つ。

 

考察

 本来なら立ち返る場所として機能するはずだった4-4-2リトリートDF。ボール保持時のポジションの悪さ、ネガティブトランジションの悪さばかりが目立ち、ここまでたくさんの勝ち点を落としてきた。ようやく計算の立つ、自分たちの土俵が出来たと言える。ただし、そのボール保持だって、相手が仙台に持たせたとも言えるし、このDFの明確な欠点である「攻撃しながら守備できない」をどう克服するのかは、きっとすぐ立ちはだかる壁として現れるだろう。攻撃陣形で4-4-2リトリートDFを披露できない時、2021ベガルタ仙台の真価が問われるのだと思う。

 

おわりに

 何が正解なのか分からない世界で、自分がやっていることを正解にするしかなくて、そう信じて進んできた先に何があるのかは分からないのだけれど、立ち止まると、後で取り返すのは容易ではない。進み続けるしかない。誰が、なんと言おうと、止まるわけにはいかない。こうして、そうして、なんとか進んできた。であれば、止まることなく前進するしかない。前進した方角があっているのか?という常識的な批判については、じゃやその方角があっているのか合っていないのかは、目撃者たる僕たちも担うべきだし、声は大にできないけれど、まあ小ぐらいにはできるはずだ。そういうところまで、ようやく進んできた。そんなことを、26番の若造の背中を画面越しに見ながら、ぼんやりと思うのである。

 

「一番良いのは、やって後悔しないことだ」こう言ったのは、神原駿河だ。