蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【駆引】Jリーグ 第8節 ベガルタ仙台 vs 横浜・F・マリノス (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホームマリノス戦のゲーム分析。ついに、Jリーグ王者がユアスタへとやってきた。ユアスタの強力なサポートが叶わないなか、奮闘するベガルタ仙台戦士たち。流星の如くディフェンスラインを統率する者。ゴール前で幾度となく決定機をつくる者。それぞれの野心を抱えながら奮戦するベガルタに、絶対王者は容赦のない攻撃の雨を降らせる。闘いの業火は、90分間の死闘を、激戦へと昇華させていく。その時、ベガルタが見た世界は。今回もゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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  ベガルタは、フォーメーションを4-2-3-1へと変更。セントラルMFに椎橋と吉野、バック4を柳とタカチョーのフルバックに、平岡とコンビを組むのは特別指定のアピアタウィア久だった。アタッキングMFには関口、ウィンガーは西村とジャメのサイドが左右逆になっている。センターFWは、攻守にわたって欠かせないエキストラプレイヤー長沢が入る。

 一方のポステコアタッキングフットボール革命解放戦線ことマリノス。前線はケガなどで予想が難しかったが左ウィンガーには仙頭が入った。右センターバックには、フルバック(サイドバック)が本職の松原が入って、ストッパーは畠中1人の攻撃的な形。GKの朴はケガから復帰の初戦となる。 

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

息継ぎのできないポジティブトランジション

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CMFのボックス型。ここに両フルバック(サイドバック)が深めに位置するいつもの形。センターバックがボールを持てば、スイッチパスである「ウィングへのパス」を放つ。特に、ポジティブトランジション、ボールを奪ってからの4秒間において、ベガルタにとって重要なパスになる。

 ただこの試合においては、後述するボール非保持時の守備の狙いから、両ウィングの位置がかなり低い。ボールを持っても高い位置に翼が羽ばたいていないので、翼を剣にすることが難しくなる。また、マリノスの立ち位置も関係する。昨季のように、フルバックが高い位置を取らず、センターバックに近い位置やセントラルMFと同じ高さにポジショニングしたことで、ボールを奪われてカウンターされても対処できる「カウンター予防」を図ることでカウンターへ対抗してきた。ハイラインとオフサイドもひとつ狙いであるところから、ポステコ革命解放軍のボスが目指しているだろう「間違えず光速でボールを回し攻撃していく」理想に、非常に現実的な対処法も仕込んでいるとうかがえる。

 よって、ベガルタの攻撃ルートであるワイドレーンで突破が難しくなった。センターFWに入った長沢は、ボールを奪った後のカウンターオープニングパスを受けようとしたが、それをカットして防ぎ続けたのがこの日センターバックに入った松原だった。こうなると、チーム構造的にも個人的な部分でも、ベガルタの4秒間速攻がロックされることになった。

 このまま押し切られるかと思われたベガルタ仙台。しかし、この試合、彼らを支えたのは彼らが武器にしていたウィングアタックでも、4秒間速攻でもない。Jリーグ王者相手に用意したのは、伝統的で、革新的で、先進的な守備。あの「4-4-2」で勝負をしかけた。

 

ボール非保持時

人基準守備の4-4-2ベガルタ仙台ブロック

   ベガルタの守備は、4-4-2。厳密には4-4-1-1とも言えるが所詮は電話番号。しかも、相手選手へのマーキングやプレッシング、つまりは「人」をターゲットとした守備を敢行。ミハイロ・ペドロビッチフットボール原理革命軍が前節マリノス相手に実行したマンツーマン守備を先生としたかのような戦い方を対抗型として組んだ。ただし、これだけでは、「限界までスピードアップするがお前たちはついてこれるのかい?」をどの対戦相手にも強いて来るポステコ革命解放軍には不十分だ。パスカットを狙ったり、ボールが選手に渡らないようにするマンツーマンのような守備のやり方は、相手がそのパスカットやプレスを外そうと動くので、局面が高速化するしダイナミックになる。守備側が攻撃側の攻撃を促進させてしまう逆説型守備に繋がる。

図1

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 そこでベガルタが用意してきたのは、人基準でありながら、マリノスが使いたいエリアを徹底的に潰すやり方を取った。マリノスの使いたいエリア。それは、「4つのビルドアップエリア」と「2つのアタッキングゾーン」の2つである。

 

ビルドアップエリアとアタッキングゾーンを警戒するベガルタ

図2

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 図2にあるように、マリノスセントラルMFフルバックを中心に、センターバックと連携してビルドアップを実行。一方、アタッカーは、5レーンで言うところのハーフレーン、あるいはスライドしている場合は選手間を狙い撃つ攻撃戦術を取っている。

 

図3

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 ビルドアップエリアを4人の選手がポジションチェンジやエリア移動をすることで、センターバックとボール交換しながらビルドアップする。ここで相手がプレッシャーをかけてくれば外して、前線のアタッキングゾーンへとボールを供給していく。アタッキングMFである天野やRWGの水沼、RBの小池が前半から積極的にこのエリアを使っていた。マリノスとしては、昨季のように前線にリソースをかけ続けるやり方から、ポジショニングを整理してから、前線へのパスを供給していく、アタッカーがが勝負をしかけている気がする。気がするだけ。

 

図4

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 さて、ベガルタの対抗型。まずは、4人のMFが4つのビルドアップエリアに入る選手をきっちりとマークする、プレッシャーをかけていた。ただ、2つのアタッキングゾーンに入っていく選手を警戒することを優先してか、セントラルMFがアタッキングゾーン、2人のFWが中央のビルドアップエリア2つを監視する形を取った。よって、マリノスセンターバックには、多くの時間とスペースが生まれる結果に。さらに、ベガルタのプレッシャーを外そうとポジションチェンジや選手の入れ替えを目まぐるしく行った。まさに、「マンツーマンが攻撃を加速化させる」のままの展開に。加えて、柳とタカチョーのフルバックも、これまでファイナルラインとして専守防衛だったが、この試合では相手WGを潰すために迎撃守備体勢。センターバックとの距離が空くが、そこをカバー範囲が広い平岡、Qちゃん、吉野をカバー役に任命したのはまさしく「木山采配」といったところか。誰一人が欠けてもいけない。みんながみんなに与えられた任務を遂行することで、チーム全体が勝っていく。そんなサッカーを木山監督は目指しているのだと思う。

 ただ、攻撃面でのカウンター距離が遠いのと、90分間続けるにはやはり体力面で続かない。前半だけで、ベガルタの選手のシャツは汗でぐしゃぐしゃだ。相手が使いたいエリア、人を制限することで勝機を見出したベガルタ仙台。なんとかゼロで抑えた守備を継続したまま攻撃に転じる難しいミッションを果たさなければいけない。

 そこで、後半、ベガルタが仕掛けた。駆け引きを仕掛けた。今季再開後、このチームを支えた「新しい守備」で勝負に出た。

 

ウィングの縦切りと「斬り合い」

 後半、ベガルタはウィングの立ち位置を修正する。これまで、相手フルバックに地の果てまでついていったがそれを止めたのだった。相手WGへのパス一本を防ぎつつ、相手CBにも機を見てプレッシャーをかける守備へと変身した。

図5

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 これはある意味で、勝負であり、賭けだった。サイドで時間とスペースを与えれば、そこに入るのがフルバックだろうがセントラルMFだろうが、マリノスの4人は殺傷能力高いパスを出せるし、アタックを仕掛けられる。ただ、ベガルタは、サイドに出れば横スライドとブロックを深くすることで対応。丁寧に、しかし狡猾に、自分たちがカウンター攻撃を仕掛ける機会を伺った。

 こうなるとマリノス。「ブロックを組まれるのが苦手」がJリーグ各チームには知れているのだと思うのだけれど、「プレッシャーに来ないのなら、ビルドアップではなくアタッキングを担当しよう」とばかりに、両フルバックが高い位置を取りアタッキングゾーンを使い始める。前半のように、ボールを奪おうと素早くプレスをかけると、取られないとばかりにさらに素早くボールを回しポジションを取ろうとするが、無視すると守備側を無視して攻撃的なポジションを取ろうとするのがとても面白かった。前後半のマリノスの反応をまるで想定していたかのような、ベガルタ仙台の対応だった。

 これが本当の「ミラーゲーム」。自分たちの対応で、相手を動かそうと、「ベガルタ仙台マリノス」に仕掛けたのだった。もちろんこれは駆け引きで、あまりにもカウンターが刺さるようなら対応しないとダメなんじゃない?とでも問うているようでもあった。

図6

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 図でまとめると上記のように。両WGが相手センターバックへプレッシングをかけるシーンも出て来て、交代で入った蜂須賀がボールを奪ってフルバックの背後のエリアを爆速で駆け上がったのは象徴的なシーンといえるだろう。ただひとつ難しかったのは、というより予想外だったのは、GK朴だろうと思う。これは説明不要なのだけれど、彼がスイーパ―ポジションでことごとくボールをスイープしたのは、ベガルタが狙うカウンター攻撃の何本かを事前に止める結果となった。ベガルタとしては、王者相手に勝負をしかけ駆け引きをしかけて仕留めにかかった。リザーブでチーム得点王のマルコスが出てくるまでの勝負だったかもしれない。最後はそのマルコスに、ゴールを刺された。大将の首を取れたら勝ちだったが、あと一歩、届かなかった。

 

考察

ボールを持てなくても攻撃的な仕掛け

 守備で押し込まれると不安があるなか、それでも相手が狙いとしている部分を消し込み前へとアタックしようとする姿勢は、再開後どの試合でも見せている。強豪相手にも。ある程度相手の攻撃を誘発したり、許容するなかで自分たちも攻撃していく姿勢だ。どんな分野でも、攻撃はカウンターの方が有利だ。そして、カウンターを繰り出すには、相手に隙を見せて攻撃させなければ仕掛けられない。この試合でも、相手の良い部分を消す戦いと自分たちが勝つために仕掛ける部分とを表現できたのではと思う。それは、ボールを持っても、持たなくても同じ。攻撃と守備なんて、便宜的に分けてるに過ぎない。ボールなんか無くても、いくらでも攻撃できる。そんな、試合だった。

 

最後の仕留める作業

 であれば、やはり最後に仕留める作業をきっちりしたい。これまで、ベガルタはどのチームにもそのチームのストライカー、エースにゴールを奪われている。西村がいなければ問題を西村を獲ることで解決し、ジャメが最も目立ち輝く戦術でジャメをストライカーにしてしまう作戦をしているのだから、結果の部分で表現したい。あとは、攻守で奮闘するセンターFWの長沢がゴールしやすいボールを上げたいなと思うのは、個人的な感情。

 

おわりに

 誰が何と言おうと、この試合のベガルタ仙台は、攻撃的で、先鋭的で、高次元的な駆け引きを王者相手に仕掛けた。勝った負けただけなら、なんなら前節の焼き直しでもいい。おそらく実行できる。そうじゃなくて、勝った負けたを勝った勝ったにするための努力とトライをチームは取り組んでいる。 サッカーをプレーする以上は、プレーしてほしい。プレーするとは、駆け引きすることも含まれる。相手を、状況を、よく観察して肌で感じ取って、思考して何度も実行する。体調が良いだけじゃだめだ。でも、70分ごろの疲れた状態でも、きちんと駆け引きできるか。そう言った、人間としても深みのある、高みを目指す人間になるその道を歩いているのだと思う。ならば、勝負に負けたのなら、また歩き出せばいい。深く、高いサッカーへ。歩き続けるんだ。

 

「いくらごまかしてもいずれ気付く、自分がどんな人間か。自分の生き方は”誰でも”、自分に返ってくる」こう言ったのは、リボルバー・シャラシャーシカ・オセロットだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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ディナイ不要とサッカー③ ~サッカーへの貢献~

はじめに

  どうも、僕です。これまで①②と続いたバスケにおけるディナイ不要をサッカーで見た時にどうかの解釈をしてきました。今回は、実際にサッカーの文脈で見た時に、具体的にどう落とし込めるのかをまとめました。あくまで僕の今時点の解釈ですし、すべてを圧しつけるつもりもないです。ただ実感としては、ゾーナルディンフェスやマンツーマーンディフェンスなどの言葉を使わなくても、きちんと原則を抑えておけば、現象の理解や対処、エラーを理解できるのだと感じています。ということで、長文ですがよろしければどうぞ。では、レッツゴー。

↓前回、前々回のおさらい

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目次

 

ディナイとディナイ不要(ディナイレス)のサッカーへの貢献

 これまでは、ディナイ不要論を通して、バスケにおけるディナイディフェスとディナイ不要を確認しました。確認したうえで、サッカーへの変換と解釈を実施してきました。まずは、ディナイ、ディナイレスのサッカーへの変換と解釈を整理します。

 

  • ディナイディフェンス ・・・人が基準。自分と相手とでボールの所有権が五分五分の状態でボールを奪いにいく。

                いわゆる「デュエル」と呼ばれるプレーなど。

  • ディナイレスディフェンス ・・・選択肢が基準。「奪いにいかないで奪う」守備。

                  相手のパスやドリブルを誘導する。ゾーナルディフェンスに近い考え方。 

*また、footballhackでも以下のように解釈されていますのでご参考まで。

footballhack.jp

 

 さて、変換と解釈と言っても、ディナイレスディフェンス=ゾーナルディフェンスだなんて言うつもりはなくて、重要なのは、このディフェンスの原理原則です。原理原則を理解したうえで、バスケではディナイ不要、サッカーではゾーナルと呼ばれているにすぎないのですから。到達するべき未来は同じです。ということで、ディナイディフェンスとディナイレスディフェンスの原理原則を見ていきます。ディナイはバスケ用語ですので、最終的にどうなるのかは別として、現時点ではサッカー用語で代わる言葉が見当たらないので、たとえばディナイなら人基準の守備、ディナイレスならカバーやコースを守ると言った表現で整理に取り組んでいきます。

 

人基準の守備(ディナイディフェンス)

  この守備は、定義は非常に明確で、「マーカーにボールが渡らないようにする、あるいは渡ってもすぐに奪える状態で守備をする」ことです。具体的には、ボールホルダーへのプレッシングやホルダーからパスが出てボールが転がっている間に、出し先の相手へプレッシングをかけるやり方などです。前線からのプレッシング、転じて前プレなどの構造も同じものと思います。

 人基準の守備では、ボールを受け取った選手が使える時間が圧縮され、スペースや選択肢も限定された状態からプレーを開始する必要があります。守備側としては、相手選手へのプレッシングでボールを奪うことと同時に、相手に「窮屈にプレーしてるな」と思わせる(実際そうする)ことが目的になります。相手とフォーメーションを同じにする「ミラーゲーム」と呼ばれるやり方で、マンツーマン守備のように守ったり、相手陣でのビルドアップを邪魔しようと相手陣にいる選手めがけてプレッシングをかける「ビルドアップ妨害」などが具体的実践になるかと思います。

 享受できる効果としては、

 ①相手にプレーさせない

 ②奪ったら速攻をかけられる

 ③「激しく戦う」姿勢を見せることができる

だと思います。③は酔狂で書いているわけではなく、実際にこう言ったプレーを見せられると味方としては頼もしいですし、相手からすると脅威になります。また、観客からの応援を受けやすいプレーとも言えます。シンパシーを感じやすいプレーと言いますか。

ただ一方で、

 ①1vs1の選手個人の実力差に依存する

 ②勝った負けたに結論がいきやすい

 ③ケガが増える

がデメリットとして挙げられます。

 

 どれも気になるデメリットなのですが、特に③が個人的に気になります。必然的にボディコンタクトが起きやすいので、接触時にケガするリスクは物理的に増えます。ケガすると代わりに控え選手が出ることになりますが、①が際立つ結果になりがちで、最終的には②に帰結していくループに入りかねないです。見かける実践例としては、激しいプレーでボールを奪いにいったけどケガをして控え選手と交代→交代した選手が相手選手からボールを奪えず失点に絡む→「守備が悪いから負けた!」かなと。あとはシンプルに、選手を守りたいですし、少しでもサッカーという競技を長く続けてほしいと思っています。

 人基準のプレッシング、パスカットは、実は相手の攻撃を加速させる副次効果があります。我々の生活においても、たとえば目の前を急に自転車が通過したら身体を素早く、とっさに避けるでしょう。また、ボールが目の前を通ったらすぐに立ち止まるでしょう。人間は、脊髄反射があるように、素早い動きに素早く反応するクセがありまうす。パスを受けようとしていたら、相手が素早くプレッシャーをかけてきたら「奪われないように素早くパス(ドリブル、シュート)しないと!」と行動が速くなります。攻撃側のプレーが速くなれば、人基準の守備ですから、守備側もさらに速くプレッシャーをかけるなど対応して、サッカーが高速化していきます。

 ドイツやイングランドといった、身体的に対応可能であれば別ですが、この高速化の行き着く先は身体機能の優劣に帰結しやすいです。ドイツのプレッシング系のチームが連戦で疲労がたまるとプレッシングが効かなくなったり、イングランド代表がブラジルなど暑い国でのプレーを苦手とするなど、環境面にも大きく影響を受けます。

人基準の守備(ディナイディフェンス) ~加速する攻撃~

 また、攻撃を加速させるのと同時に、円滑にさせる場合もあります。プレッシングをかければ、当然マーカーを外そうと「外す」動きをかけてきます。具体的には、ペドロビッチ監督のチームのように、センターバックの間にMFを落としたり、ウィングバックを高い位置に押し上げたりなど、「選手のポジションをダイナミックに変化させることで、人基準の守備にズレを作る」などでマーカーを外そうとしていました。当然、守備側も「ミラーゲーム」的にフォーメーションを合わせて外されないようにしますが、単なるいたちごっこに過ぎず、FWが落ちたりすることでさらに外す動きを促進させるだけです。

 よって、ペドロビッチ監督のチームとの対戦は、非常にオープンなゲームになりやすく、攻守の入れ替わりも激しかったりするなど、そのなかでも勝てるチームを作っているのだと思います。なお、2019年に優勝したマリノスも、ダイナミックにポジションを入れ替えることで、攻撃を加速化させています。

 あとは、風間八宏さんが率いたチームも、選手個人がプレッシャーを外したり、背中を取る動きが際立っていました。ディナイ不要でも言及されていましたが、人基準のプレッシングやパスカット狙いの守備は、背後にスペースを空けやすく、バックドアカットやパラレラなどの裏抜けに滅法弱いです。なお、ミゲル・ロドリゴの『フットサル戦術パーフェクトバイブル』にも「パスが出る先にプレスをかける。ただプレスがかかっていなければ裏を取られないようラインを維持する」とあります(そこでディナイ不要と繋がってくる)。

 こう言った、ライン裏を狙う動きも誘発して、「がんばってボールを奪おうと闘っているのに一向に奪えないしライン裏ばっかり突かれる」現象が起きてしまいます。結果、試合にも負けてしまって「1vs1に負けたからだ!」と自分を追い詰めて、守備を練習して、また上手くいかなくなっての無限ループになります。何度も言いますが、バランスが重要で、相手選手に前線から激しくプレシャーをかければサッカーの守備はOKというほど、平べったいものではないですがそもそもその局面になったら負けないように戦うのが大前提です。

 

奪わないで奪う守備(ディナイレスディフェス)

  さて、人基準の守備に対して、選択肢を守る守備とでも言いましょうか。ボールを奪いにいかず奪う守備です。パスコースを切りながらボールサイドを限定したり、縦のコース切ったり、パスを出す選択肢を限定するなどの守備です。3ラインを基本に、選手と選手との距離を均等に保ちながら、相手とボールの進行ルートを限定したり、誘導したり防いだりします。

 原則としては、

  ①横切り(ホルダーへのプレッシャーでサイド限定およびライン維持の息継ぎパスをさせない)

  ②6:4ボディバランスでの縦切り(ベースラインを抜かせない)

  ③中央カバー(ホルダーとゴールとを一直線上で結んだラインにパスさせない、ドリブルさせない)。

 の「奪わず奪う守備三原則」があると解釈しています。

 

 具体的な実践例を見ていきましょう。今のJリーグですとロティーナ監督のセレッソが奪わず奪う守備を実践している素晴らしいチームです。ちなみに②縦切りは、厳密にはコースを完全に切るわけではなくて、パスを出されることを許容します。それは、ボールをサイドにあればリスクが減る、サイドにボールが流れると分かれば選択肢を限定できて守りやすいメリットがあります(6:4ボディバランスが必要な理由)。

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 奪わずに奪う守備のメリットは、相手の攻撃(スペーシング)が悪ければ、わざわざ人基準で守備する必要がなく効率的に、また消費エネルギーを抑えて、選手個人の負荷を抑えてディフェンスすることができます。ケガの抑止にも繋がります。たとえば、マリノスがいわゆるブロックを組んだ守備やゾーナルディフェンスに手を焼いているのは、相手の守備をスイッチに加速できないからではないかと推測しています。相手がついて来れないスピードまで加速して振り切るのがマリノスのサッカーの真骨頂ですが、そもそも奪いにいかなければ、相手のプレッシングや守備スピードは上がりません。逆に、誰も守っていないエリアでポジションチェンジやホルダーのサポートを増やしても、守備側に特にダメージを与えられないままになります。

 そうなると、よりポジショナルプレー的思考が必要になってきます。タイミングや動作、良いスペーシングでポジショニングし、選手個人の質的優位性を高めてるやり方です。ポジショナル的思考も、ゴールを奪いにいかずゴールを奪うと、強引に言えるのだと思います。じゃあどこで奪いにいくのか、奪わないのかの攻防が見られ、高次元的な駆け引きになり、サッカーがより深く、高いレベルへとレベルアップしていきます。

奪わないで奪う守備(ディナイレスディフェス) ~駆け引きをしていく~

 2020年ベガルタ仙台のように、ハイブリッドのように見えるやり方もあります。FWがサイドを限定して、その先のスペースへ誘導。ここまでは、奪わず奪う守備(ディナイレスディフェンス)ですが、そのパスコースの先に待つ選手にはマークしてパスカットを狙う人基準(ディナイディフェンス)になります。おそらくは、人基準守備が前提にあり、それを活かすためにサイドやエリアを限定する必要があって、そのための奪わず奪う守備なのだと思います。しかしチーム全体の練度が高まっていないと、選手個人の負担が高かったり体力的に厳しい状況になると、簡単に背中を取られ守備が破綻するリスクがあります。まとめると以下のように。もちろん、速攻で勝つメリットとの天秤にかけることになります。何度も言いますが、駆け引きです。

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 選択肢を守りパスやドライブコースをカバーするような、奪わず奪う守備には、チーム全体が原則を共有し守る必要があります。そのなかで、最後にボールを奪う局面ではフィジカルコンタクトが発生したり、パスカットするロジックです。その一瞬をバックドアカットで狙われたり、フェイクで外されたりするので、サッカーが非常に面白く、高度な駆け引きが繰り広げられるのだと思います。相手の選択肢を限定して相手陣にボールを下げさせたら人基準守備のビルドアップ妨害へ移行。なんて守備をシームレスにやっているチームがあったりします(マルセリーノのバレンシアなど)。そこまでできればプレーしている選手も面白いでしょうし、何より勝負できます。勝負すると駆け引きが生まれ、賭けるプレーが出てリスクとメリットのせめぎ合いが発生します。この正のスパイラルをどんどん回していくことで、選手もチーム、自分も相手もより高い次元のサッカーへと昇華していきます。

 完全に余談ですが、将棋の森内九段は、あえて指し手の多い(=選択肢の多い)手を指します。指し手が多いと、最善手の候補が多いことになりますから、時間制限があるなかでそれらを考えてるのは非常に負担になります。当然ですがミスをする機会も増えます。ディナイ不要の考え方、奪わないで奪う守備の考え方の基本は、まさに森内九段の指し手のような、複数の選択肢を相手に与えてあたかも「自由にプレーできる」と錯覚させることなのかと思います。味方にプレッシャーがかかっていないように見えるからと言ってパスを出すと……あとは分かりますよね。

 

おわりに

 僕がこのディナイ不要論に出会って、実際に何度か文章を読んだり、他の人の解釈を読んだり自分で解釈していくなかで気づいたのは柔術の考え方に近いなと。「競技というひとつの表現方法を通じた自己と他者の相互成長」なのかなと。競技レベルも上がるし、プレーしている本人たちも成長する。正しい技術には、正しい身体が必要で、それらを正しく扱うには正しい精神が必要になります。長らく日本の中盤を支える長谷部誠が整っていると言われる由縁が分かる気がします。また、「相手の無駄な力を利用する」考え方に基づいたプレーが重要になるのかなと。相手の運動エネルギーを使って、相手を倒せれば、自分のエネルギーは使わないですから非常にエコですし、効率的ですし、スマートだと思います。

 何度も言いますが、ディナイだろうがディナイ不要だろうがマンツーマンだろうがゾーナルディフェンスだろうが、それがすべてではなくて、それらはひとつの表現方法に過ぎず、プレーを通して自分たちのプレーをより深く、高いものにしていくのが最も重要なのだなと思います。これからも、サッカーを深く、そして高くしていけるような気づきや学びを見つけていきたいと思います。それにはまず、日々の取り組みを継続することなのだと思います。それでは、また。

 

 

 

ディナイ不要とサッカー② ~サッカー的解釈~

はじめに

  どうも、僕です。前回、バスケのディナイ不要について、サッカー的な目線で解釈してきました。今回はその続きです。どうぞ。

 

↓前回のおさらい

sendaisiro.hatenablog.com

 

目次 

 

ディナイ不要とサッカー

「ディフェンスをしながらオフェンスをする」とサッカー

nbanotdankudake.com

  ずいぶん懐かしいカードですね(笑)僕は、罠カードをよく使っていました。経験ある方なら、罠を「トラップ」と読んでもらえたと思います。さて、まずは引用から。

ディナイ(ディフェンス)を練習しているチームは、プレッシャーをかけてボールを奪って速攻に繋げることで勝てる試合もあります。でも、それは逆に言えば、「ディナイが通用しなかったら勝てなくなる」ということです。問題は、この後です。

「オフボールはディナイをするべきもの」だと常識だと鵜呑みにしてしまっていると、試合に負けた原因を「ディフェンス練習が足りなかったからだ」と考えてしまいがちです。確かに、それは一理あるでしょうし、それをカラーとしているなら、そこを高めることは必要です。でも、実際は、それ以上に大きな割合を占めているのが「ディナイを練習することで、オフェンスが上達していない」ということです。ディナイを盲信していしまうと、ここに気づけなくなります。こうなると、どうなるのか。悪循環が生まれてしまいます。

 

 ここで重要なのは「ディナイ(人基準でのプレッシングや攻守切替時のデュエル)を盲目的に鵜呑みにしてはいけない」ということです。また、これはサッカーでもよく見かけるのですが、「選手が戦っていなかったから負けた」「戦う気持ちが見られない」と、人を基準としたディフェンスのいわゆる「球際」と呼ばれる攻守がどちらに転ぶか分からない局面のデュエルに敗因を求めたりします。また、「オフェンスが上達しない」というのは、少し分かる気がします。2019年のベガルタ仙台も、いわゆるディナイディフェンスのように、ホルダーへの激しいプレスやオフボールのレシーバーへ1vs1のプレッシングをかけて、攻守の「切替」「走力」「球際」で勝てるサッカーを実践していました。ただ、当時の渡邉元監督が仰っているように、それまで積み上げてきたボールを保持した攻撃やポジショニング(良い立ち位置)をベースとしたやり方から、上記のような戦いにシフトするなかで、ディフェンスの練習が多くなりこれまで積み上げてきたものも薄れてきたと言及されています。

 ↓この動画でも語られてます。

www.youtube.com

  「良いとこ取り」という言葉がありますが、これは言葉があるだけで実態とは伴っていないです。組織や構造、仕組み、ルールが変わればそれまで「是」とされてきたことや良かったことの価値基準が変わりますから、新しい構造のなかでは邪魔者扱いされて本来然るべきなんです。やってきた事実、経験がそうさせているだけであって、大枠としては今やっていることが最善なんです。

 さて、話がそれましたが、ディナイにしろディナイ不要にしろ、それがすべてのように語られることがおかしいということなのだと思います。バスケ、サッカーにかかわらず、そういった一元的な、平面的な見方でしかスポーツを体験できないのは不幸だということです。また、自分たちにすべて責任があってダメなんだと内省するのは自傷行為であり何も生み出しません。相手のオフェンスが悪ければ、「相手の攻撃がよくない」と判断すれば良いです。サッカーで言えば、人をターゲットにプレッシングをしていくことも、ゾーナルブロックを組んで、背後のスペースをカバーすることも、すべては相手の攻撃次第になります。そして、自分たちがどう守りたくて、どう攻めたいのかが来ると思います。そこまで自分のチームで、「選手を守るのかパスコースやドライブコースなのどの選択肢を守るのか」を状況別に観察して判断して、自分たちの狙いを実行できれば、相手にとっても脅威になりますから、ただロングボールを蹴れば良い、ドリブルで抜けばいいといった一次元的な攻撃から脱却して、ライン間やライン背後、良い立ち位置を取る、相手を引き寄せて裏へ蹴るなど、「ポジショナルプレー思考」的な考えでサッカーをプレーできるのだと思います。相手も自分も思考の好循環を回すことで、記事中の言葉を借りれば、サッカーを高次元に持っていくことができるのだと思います。 

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 イビチャ・オシムが考えるサッカーを標榜していました。また、吉武博文が相手と相談すると言っていました。相手を観察して、必要ならプレッシングを前線から各選手へかけていく。場合によっては、相手を誘導して、ゾーナルに守った方が良い場合もある。相手が人目掛けてプレッシングをしてくるなら、プレスを外して裏へパスを通すなど、相手を観察しながら考えてプレーできるのだと思います。記事でも盛んに言われているのはいわゆる「脳死状態」の思考停止でプレーをすると、プレーしていても面白くないし自傷的になる。競技そのもののレベルも上がらない。ここはかなり柔術的な考え方に近くて面白かったです。いずれ、この視点についてもまとめるつもりです。

 

「ゾーン禁止とバックドアカットの価値」とサッカー

nbanotdankudake.com

今、ミニバスと中学生ではゾーンが禁止されています。また、ゾーンのような守り方、マークマンから大きく離れる守り方も制限されています。コミッショナーという新たな審判のような人がいて、コミッショナーの判断で「マンツーマンではない」となったら旗が上がり、注意を受けるというもの。ディナイが半強制的に義務付けられているようなものだというコメントをもらいました。国際的にも強豪国は15歳以下でのゾーンを禁止しているようで、JBAの方針として「個の力を高めるため」としています。

 

 これは知らなかったので素直に驚きました。驚いたのと同時に、一時期、日本のサッカーにおいても「個の力」がやたらとクローズアップされました。「世界と戦うには選手個人の力をもっと底上げる必要がある」といった文脈でした。個人的には、そこはアグリーでぜひとも個の力とやらを上げてほしいとは思いますが、それはいわば当たり前のことであって、これまで「組織力」や「団結力」などの言葉でぼやかされていた部分なのでやっていけばいいと思います。ただ、これまでの記事群でも語られているように、「それだけ」やれば、日本サッカーが世界に勝てるわけではないです。また、穿った見方をすれば「世界で勝てない理由や責任をすべて選手個人に背負わせている」とも取れます。「お前のせいで負けた」という言説は、プロアマ問わず、スポーツ問わず聞こえてくる「選手を石化させる呪いの言葉」だと僕は思っています。責任や失敗要因を過度に個人へ向けると、「自分はダメなんだ」と過度に内省的で自己責任的になってしまいます。重要なのは、「原因を正しく認知する(=原因帰属理論)」だと思います。相手のせいでもあるし、もちろんやっぱり自分が悪かったということもあります。環境のせいだってあります。それぞれを起きた事象と原因を紐づけられていますか?ということを僕は問いたいと思います。

 とはいっても、若い世代にいきなり言っても悩ませてしまうかもしれませんし、記事でも言われていますが、大人が子どもに先に答えを教えたくなってしまいます。そうではなくて、いったんその道を歩かせてみて自分の肌で風を感じて、舌で味を確かめて、頭で考えてから出した答えの方が、より意味を持ちます。僕はこれを「経験値化」と呼んでいます。人間はたいてい「体験」をします。その体験したことを自分なりに振り返って「経験」にします。それらの経験の積み重ねが「経験値」になり、これらの一連のプロセスを「経験値化」と呼んでいます。大人が子どもにやりがちなのは、この経験を先に教えてしまって、教えたつもりになることです。子どもからしたら他人が振り返った体験を教えられても決して経験値にはなりません。なってもその瞬間だけです。

 たとえば、デュエルと呼ばれる球際のボールの奪い合いも、まずはそれがどういうものなのかを体験して、実際デュエルを90分間続けるのか?そもそも必要なのか?鍛えられるのか?などの自問自答を通じた振り返りで経験値にしてしまった方が良いと思います。その結果、「この場面は無暗にプレッシングをかけてデュエルに持ち込んでもかわされて背後のスペースを使われてしまう。だからもっとパスコースやドリブルコースをカバーして相手の選択肢を狭めよう(=ゾーナルディフェンス思考)」になれば、良いのだと思います。そして今度はゾーナルディフェンス(=ディナイ不要守備)を体験して経験にして……その繰り返しなんだと思います。繰り返していけば若年世代でも久保建英のような「経験値のある選手」が育っていくと思います。記事中でイチローの言葉が引用されていましたが、深みのある人間になるのだと思います。

 また、記事中で言及されているディナイも、サッカーで言うところの球際、デュエル、人基準守備も、「ボール保持が前提」となっています。この前提のままだと、やはり「奪えるか抜けるか」になりますし、「勝ったか負けたか」の一元的な評価でしかサッカーもバスケを見ることができず深みがでないです。そこで出てくるのが「バックドアカット」です。まさに「ボールを持っていない1v1」がピタリとはまるプレーです。サッカーでは、ライン裏へのオフボールラン、裏抜けなんて言葉で言われるプレーになります。ただ、個人的には、それを相手ファイナルラインに対して発動するので、ゴールへの直接的なプレー、裏抜け=バックドアカットになると解釈されそう認識されていますが、「相手ライン背後へ飛び込むオフボールラン」はバックドアカットだと思います。サッカーにおいては、「ライン裏・ライン間に潜る」プレーだと、僕はバックドアカットを解釈しています。アウトサイドからインサイドへ、ファーからニアへライン裏やライン間へオフボールランを繰り出すプレーと考えます。だから僕は「潜る」とか、潜ったままたとえばオフサイドエリアにいることを「潜伏」と呼んでいます。

 バックドアカットが強力な理由のひとつは、ボール保持側(=攻撃側)に主導権があることです。相手DFがディナイディフェンス(人基準に守っている)していると、背後のスペースやパスコースをカバーする意識が低いですから、そこへボール保持側のタイミングでバックドアカットを仕掛けることができます。こうなるとボール非保持側(=守備側)が後手に回ります。また、バックドアカットした選手へついていくので、守備に必要なライン形成を維持できず、ぐちゃぐちゃの状態になってしまいます。こうなると、たとえボールをはね返してもセカンドボールを回収しにくいですし、カウンター攻撃を繰り出そうにもポジションがバラバラになってしまいます。いずれにせよ、前述したとおり、攻撃側がバックドアカットを繰り出してくるのなら守備のやり方を変える必要があります。それがディナイ不要守備へと繋がっていくわけです。

 

「相手のスペーシングが良かったら打たれ放題じゃないか!」とサッカー

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  まあ、こう言った言説はよく飛び交いますね(笑)。サッカーですと、失点しようものなら「1v1を逃げてる」とか、「ちゃんとマークしてないから」とか言われますね。ただしこれについても、やはり相手をきちんと観察する必要があると言いますか、たとえばパス出しがうまいセンターバックとそうではないセンターバックとでは、ボールを持たれた時にプレッシングをかけるのかどうするのかは変わってくると思います。また、パスを出されても出した先を潰せる算段(相手より身長や体重で勝るDFを揃えているのでハイボールで勝てる)があるなら、ホルダーに密着マークするような真似はしない(ディナイ不要守備)と思います。何度も言いますが、大事なのは、きちんと相手のオフェンスを観察して自分たちのディフェンスを決めることです。自分たちにとって一番得なやり方で、相手にとって一番不利なやり方を実行していくことが重要だと思います。実は、この考え方こそが、ボール非保持(守備)時には「ゾーナルディフェンス(ゾーンディフェンス)」、ボール保持(攻撃)時には「ポジショナルプレー」と呼ばれるものの正体です。「チャレンジ&カバーしましょう」とか「三角形を作りましょう」とかはあくまでオペレーション、実行段階のキャッチーな言葉であって、本質とは違います。ディナイ不要論でも何度も言われているように、目的と手段をはき違えず、攻撃でも守備でもやれること、手札は多い方が良いですし、何を繰り出すのか?が相手との駆け引きになります。その駆け引きのレベルが上がれば、競技のレベルが上がっていきます。究極的な目的はそこになります。自分と相手との、競技を通じたコミュニケーション。競技をより深く高いものにしていくひとつの表現方法なのだと思います。

 実際、2019年後半のベガルタ仙台は、「1vs1を制して速攻で勝つ」チームでした。守備の練習時間も増えたと聞きます。記事中にあるように、オフェンス練習へのウェイトが減ったのです。実のところ、記事の著者である原田さんには申し訳ないですが、僕はサッカーにおいては守備戦術が勝敗を決めると思っています。すみません(笑)。でも、サッカーはバスケと違って80点も入るスポーツではなく、多くて3点、4点です。しかも、最後は1点を争い、相手より1点多ければ勝つスポーツです。90分間競技をしてたった1点で勝敗が決まる残酷なスポーツです。一方で、守備戦術のやり方はある程度何通りかのやり方があって、あとはどうやって実行するのかが大事になるのですが、攻撃戦術、オフェンスについてはある程度の定型化はあっても形が自由です。そうい意味では、攻撃が守備を強くするのかもしれません。無限にあるように思える攻撃を少しずつ限定していって、自分たちの攻撃へ変換するのが、サッカーのボール非保持時における醍醐味だと思っています。バスケとサッカーの共通項は、「1人じゃプレーできない」競技です。ボールが1個、自分と相手の2人がいればこの地球上のどこでもプレーできます(特殊な場所とかは別)。ある意味、ボールを使った、2人の競技者による勝負でもあるし、作品でもある、表現方法なのだと思います。

 

おわりに

 ここまで記事をサッカー的に解釈する作業を進めてきました。大変です。疲れました(笑)。原田さんのバスケ記事はめちゃくちゃ面白いので好きな記事は何度も読んだり、動画を見たりするのですが、いかんせんバスケ未経験なので分からないものは分からないで通ってきています。でもこうした異なる分野や文化でも、共通項がある、普遍性があることを学んでいくことがいわゆる「多様性を理解して、他者を理解し、人類の普遍性を理解する」に繋がるのかと思います。ということで記事解釈はこれにて終了。次回は、これらの解釈をもとに、具体的にブレイクダウンさせてゴリゴリのサッカー話を書きます。いわゆる実践的コントリビューションですね。では、また。

 

 

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【反転】Jリーグ 第7節 柏レイソル vs ベガルタ仙台 (5-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ柏戦のゲーム分析。夕闇の日立台。連戦最後の週末に、黄色と白色のユニフォームが集まる。降り注ぐ矢玉。歯を食いしばりながら反撃するも、柏の圧倒的な攻撃を前に、次々とゴールを許すベガルタ仙台。これが彼らが目指してきた場所なのか。いや、戦いは開始してすでに、策士ネルシーニョの術中にあった。定められた運命を全うするなか、すべてに抗い逆らう男の逆襲の一撃が放たれる。今回も、ゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは4-3-3。センターバックにジョンヤ、LBに柳が入る。左インテリオールに中原が、センターFWに赤﨑が入って、左ウィングにゲデスと4-5-1のミドルブロックからのカウンターを狙った浦和戦に近い構成に。

 柏は4-2-3-1。自陣のビルドアップではボールを繋ぐが、カウンターもハイプレスもなんでもござれ。策士の狙いを実行できるメンバーだ。アタッキングMFの江坂。とんでもねえ江坂。オンボールもオフボールも違いを生みだせる稀有なアタッカーだ。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

左サイドのローテアタックと柏の「罠」

 ベガルタのビルドアップは、左右センターバック+アンカーの三角形に、左インテリオールの中原が、柏2FW横に降りることで、潰れた台形のようなボックス型ビルドアップで組んできた。これまで松下が担ってきた役割を中原が実行した形になる。中原のキャラとの相性もいい。さらに、この日のベガルタの左サイドには優位性があった。左センターバックのジョンヤ、左ウィンガーのゲデスとボール保持時に力を出せる技術ある選手が入っている。幅取りはLBの柳。中原と組んで、スクエアを形成した。

図1

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図2

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 また、オリジナルのポジションのままではなく、お互いがレーンチェンジするなどローテーションアタックを繰り出す。ローテーションのなかには、LBの柳も組み込まれているので、彼の立ち位置もこれまでのベガルタフルバックの高さに比べて高かった。基準となるアンカー椎橋より高く、かなり攻撃的な立ち位置を取った。当然、柏の右ウィンガーを牽制する意味もあり、守備で誰をマーキングするかを迷わせる狙いもあったと思う。ただ、不気味だったのは、ネルシーニョ柏が動じない。柏の右サイドが飽和攻撃を受けているのにも関わらず。20分間ほどベガルタのペースで試合が進み、そのまま中盤戦に入るかというところで、すでにベガルタネルシーニョの幻術の中にいた。

 柏のセット守備は、4-4-1-1。アタッキングMFの江坂がアンカーを警戒。オルンガがホルダーのセンターバックにサイドを限定するような、中央からサイドに向けてプレッシングする仕組みだった。ただ、オルンガのプレッシング自体はそれほど激しくもなくムラもあった。しかも左センターバックは、皇帝ジョンヤである。簡単にボールを持って、前線にパスを刺していた。さらに、左インテリオールの中原がドロップで柏の右ウィンガー貼りつけているのでなおさらだった。ただし逆に言えば、ベガルタの攻撃方向をかなり限定できたと言える。赤﨑のファイナルライン背後へのバックドアカット、ハーフレーンのゲデスへの楔を警戒する条件をつけて、ベガルタの左サイドアタックを許容した。結果、赤﨑のバックドアカット自体はそれほど出てこず、ゲデスに対してはRBの古賀が決闘勝ちして封殺した。そんななか、最初の失点を中原のパスを古賀がカットしてカウンターが一閃した。アンカー椎橋が「柳の高さに合わせるように」ボールサイドに寄っていき中央が空いた。全体が前に前に「守備のポジション」を崩しているところにカウンターが刺さった形だ。こうなると、ファイナルラインも所詮は人の集まりに過ぎなくなる。中盤から前線の守備の束がバラバラなのだから、失点も当然の結果だった。

図3

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 実際に、ネルシーニョが「あえて右サイドを攻めさせてカウンターを狙っていたか」は分からないけれど、あれほどベガルタは左サイドを制圧していたにも関わらずそれを受け入れていたようにも見えたし、実際ベガルタもボールを持ってポジションを変えてパスを出してと「気分は良いけど、『気分』だけが良い」状態で、柏のファイナルラインを崩壊させるに至らなかった。しかも、これまで、ボールを奪われた瞬間のポジションを意識するように、守備陣形を整えて攻撃していたが、この日は柳も椎橋も高い位置を取っていた。なお、ボールを持って引き寄せて、ライン裏へオフボールランを繰り出せると怖さが出たが、前半の赤﨑はまるでゴルフ選手のショットを見守るかのように静かだった。後半になると、RBの古賀が前に潰しに行った背後を狙ったりと動きは変わっていった。西村のゴールもそう言った文脈から生まれたと言っても良いと思う。でも、この日は、それまでだった。

ハーフレーンに絞るゲデスの苦悩

 左ウィンガーに入ったゲデスは、この試合だと、ワイドレーンにタッチラインいっぱいに開いているわけではなく、RBの古賀とマッチアップするようにセンターバックとの間にポジションを取った。自陣からのハイボールも、そのゲデス目掛けて蹴られていた。センターFWの長沢の代わりと言ったらアレだけれど、そういった役割も求められていたのかもしれない。ただ、これまで、幾度となくボールを収めていたゲデスも「せーの」でハイボールを競るとなると状況が変わってくる。右ウィンガーのジャメもそうだけれど、やはりオープン状態で、相手との1vs1を制する選手がウィングに入っているのでなかなか難しい。そのために、ボールを持って攻撃をした…とも解釈できるのだけれど、敵陣プレッシング、ミドルカウンターを極めている途中で、正直ボール保持攻撃には手が付いていない印象。たしかに再現性ある左サイドアタックだけれど、あれだけ上手い奴が集まれば、左偏重になってもしょうがないとも思える。ウィンガーにボールがついてからが勝負のベガルタ仙台。そもそものウィンガーにボールがつかなくても攻撃できればまたワンランクアップできると思うけれど、今それを求めるのは酷な気がする。気がするだけ。あとは、「意図的に五分五分のボールを出してネガティブトランジションを発生させる」高等テクニックもまた、これから先やっていくことだと思う。

 

ボール非保持時

4-5-1のミドルブロックと噛み合う中盤

 ベガルタのセット守備は、4-5-1。柏の両フルバックが高い位置を取るので、両ウィングがそれを警戒する形で対抗型を組んだ。センターFWの赤﨑がホルダーへ中央からサイドへプレッシングをかけてサイドを限定する。縦に出たところで3センターとファイナルラインで奪い取る計画だ。柏のボール保持攻撃が4-2-3-1だったので、ベガルタの3センターの逆三角形とがっちり噛み合った形になった。フルバックも高い位置を取るので、中盤列が5枚vs5枚になる。ただ、ウィンガーがサイドを気にするので、隙間を刺されてハーフレーンに絞る柏のウィンガーにボールが渡るシーンもあった。噛み合っていると何が有効か。それは、ポジションチェンジである。特に、アタッキングMFの江坂が、サイドへカットアウトすることでフルバックセンターバック間のチャンネルにオフボールランを繰り返した。特にベガルタの右サイドは狙い撃ちされ、後半に右サイドを総とっかえする必要さえあった。

もう一度4-3-3のハイブロックを

 川崎も柏も高い位置にフルバックを上げることで、ベガルタ仙台の武器であるウィングを牽制した。体力的な厳しさもあるとは思うのだけれど、パスコースを守っていたウィングがこの2試合は人を守っている。より高い位置で戦うことを旗印に掲げるのであれば、再開後に見せていた4-3-3の高い位置でのプレッシングを披露してほしいと思う。ある意味、高い位置でウィングがプレッシングをかけるやり方は、背後のスペースをカバーできていないと効果がない。カバーするのは3センターのスライドになるけれど、現状そこまでできていないのと、最終的にゴール前で後手を踏むのであれば最初からウィングにカバーしてもらうという手は理解はできる。カウンターエリアも広がる。ただ段々と試合を重ねるごとにウィングが消えてきたことも事実だと思うので、もう一度、ボールを持っていない時、守備でのウィングポジションを高く、高く羽ばたいてほしいと思う。

 

考察

やりたいことを「やられた」

 率直に、柏のような戦い方をベガルタとしては表現したかったし、チャレンジしていることだと思う。ネルシーニョがあえてそういう「ミラー」のような戦い方で来たのかは定かではないのだけれど、少なくともこの試合でベガルタが挑戦しているサッカーを表現できていたのは対戦相手の柏の方だったと思う。ベガルタとしても、自分たちが狙っていることを相手が色々な手で防いでくるので、やはり手は多い方が良いのだと思うし、正直そこまで手が回っていないというのも事実のようだ。ただ、その下地になりそうな戦いは表現しているので(ミドルカウンター、ボール保持攻撃)、このまま続けていくしかない。いずれにせよ、ミラーゲームやリトリート、逆にハイプレスをしてくるチームも出てくるので、避けては通れない道になる。

 

人対人のやり方について

 3失点目のシーンは、椎橋が江坂に振り切られたところからスタートしている。こういったリスクは、今取り組んでいるサッカーにはつきものだと思う。敵陣では人基準でハイプレスをかけるベガルタであって、椎橋が江坂に勝ったら「表現したいことができて称賛されるプレー」として語られるのだろうし、成功と失敗は表裏一体ということだ。また、ゲデスが古賀に勝てなかった部分、センターバックが晒され続けて失点を5つもした部分など、どうしても人対人がクローズアップされる試合ではあった。木山監督も試合後コメントでは戦術ではなく個人のレベルアップを促すようなコメントを残していたのだけれど、それはひとつ正解としてやはり今のベガルタは組織的な束で守ったり攻撃したりしないと、簡単に崩壊してしまうのだなと感じる。

 これは、サッカーを高次元に押し上げる取り組みであって、個人なのか組織戦術なのか、勝利なのか内容なのかではない。すべての物事には表があって裏があり、良いところ悪いところがある。重要なのはそれらをきちんと理解して取り組んでいるか、だと思う。この試合も、5失点したから、センターバックがやられたから、守備をがんばるんだ!ではより「負のスパイラル」に入る。お前のダメな部分だと指摘して指導しても選手は失敗を恐れる。失敗を恐れると身体が硬直化する。身体が硬直化するとまた失敗する。失敗するとお前はダメだと言われる。その無限ループになる。こうなると、サッカーを楽しめない、勝負を楽しめない、賭けられない選手になってしまう。ダメだったからダメだというのは簡単だし、それは解決策の提示ではなくただの現象のなぞり書きだ。それに単純だ。この試合を決したのは、ストライカーの差だというのに。

 4-3-3の高い位置でのプレスを推奨するのは、決して人基準ではなく、組織だってパスコースを消したり相手の選択肢を削ぐことができるからだ。今のベガルタはどうしても最後の選手vs選手の部分に振り切れてしまっているような気がする。気がするだけ。いずれにしても、もう一度組織で守る、攻めるをやること。そのなかで当然、勝負なわけであって、相手がそれを崩すように仕掛けてくる。その時、人対人でやらないといけない部分だってある。それはやればいいと思う。重要なのは繰り返すが、どちらか一方に振り切れることではなくて、もっとサッカーを高次元に持っていく作業をやり続けるべきだ。人対人で負けてしまえば、カウンターを許して負ける、だから人対人に強い人を連れてきます、選手を鍛えますだなんて、あまりにも単純で一元的で平面的な解決策だ。小学生の反省文じゃないんだ。どうしても、強敵と当たれば、いわゆる「球際」と呼ばれる部分で勝った負けたが出て来るし、負ける方が多くなる。そこに依存しなくても良いやり方を表現できるのだから、突き詰めてほしいと思っている。

 もちろん言うのは簡単。けれど、組織で守れるところ選手で守れるところがあって、それぞれの良い部分を理解してサッカーをプレーしてほしいと思っている。組織としても伸びて、個人としても伸びるべきだ。それが一番、勝てるやり方だし、勝ち続けるやり方だ。サッカーをもっと高次元に、高いレベルに押し上げる。レベルの高いことに挑戦するというのは、元来、アスリートにとって、スポーツ選手にとってやりがいがあるはずだし、面白いはずだし、楽しいはずだし、ゾクゾクするはずだ。そういう野心をもって、挑戦してほしい。

 

 

おわりに

 僕からは特にもう無い。君たちが一番分かっているはず。僕はいけないけれど、ユアスタ、ホームユアスタだ。1試合でも多く、このユアスタという素晴らしいホームスタジアムで、君たちのサッカーを表現してほしい。野心をもって、プレーを、勝負を楽しんで、決して自分を追い込むな。誰のものでもない君たちのユアスタのピッチで、サッカーをプレーしてくれ。ユアスタのこと、頼んだぞ。いつだってそこは、「劇場」なのだから。

 

 「信じるものは自分で探せ。そして次の世代に伝えるんだ」こう言ったのは、ソリッド・スネークだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

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ディナイ不要とサッカー① ~サッカー的解釈~

はじめに

 どうも、僕です、今回は、バスケから学ぶサッカー戦術です。すでに、Footballhackで取り上げられていますが、自分の血肉にするために解釈していきます。要点だけ確認したい方は、以下の記事とディナイ不要の各記事を読んでください。では、レッツゴー。

footballhack.jp

 

目次

 

ディナイ不要とサッカー

ディナイの有効性とサッカー

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 まずディナイとは何か。以下が記事からの引用です。また、ネットで画像を拾ってきました。これで視覚的なイメージがかなりつかめます。

ボールマンとマークマンを結んだ直線状に手もしくは体を入れて、マークマンに簡単にパスを渡さないようにするためのディフェンスです。「deny」という英単語は「否定する」という意味があるため、パスが通らないように、通ったとしてももらいたい場所でもらわせないようにする守り方です。一般的にボールを持っていない選手の守り方として最初に教わるのがディナイだと思います。

 

 

 ようするに、オフボールプレイヤー(パスレシーバー)をマークすることで、パスが来た時にパスカットできるようディフェンスしていることになります。サッカーにおいては、いわゆる「人につくマーク」のように考えた方が分かりやすいかもしれません。ハーフライン付近でブロックを作りながら、マンツーマンのような形で守るやり方。あるいは、相手陣内でのビルドアップ妨害などが想定しやすいでしょうか。

 さらに突っ込んで言えば、「ボールホルダーにも、ホルダー以外のオフボールプレイヤーにもマークやプレッシングをかけるディフェンス」がディナイディフェンスと定義できそうです。一時期サッカー界隈をにぎわした、「トランジション」、「インテンシティ」や「デュエル」と言った、相手ボールになるかならないかの局面での「球際の守備」と「守備で相手のポゼッションを妨害してカウンター攻撃へ繋げる」のが、いわばディナイディフェンスの理想型だと考えます。2019年後半のベガルタ仙台は、このディナイディフェンスで勝ち点をもぎ取っていったのではと考えます。

 「ディナイ不要」を語るのですから、「ディナイ必要」をまずは語る必要があって、ディナイの有効性について掘り下げています。サッカーにおける個人vs個人の局面を勝っていくことは、決して否定されるべきでは無いですし、本来サッカーの醍醐味であるどちらにボールが転がるか分からない不確定さの神髄でもあります。

 

ディナイをするなんてもったいない!とサッカー

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 まずは記事内の引用から。手段と目的が変わってしまっているという現象は、サッカーやバスケにかかわらず発生している現象ですね…

これは単純な話で、ディナイをしているとヘルプに行けなくなります。だから、ボールマンがドライブをしたとき、一番守らないといけないゴールを守らずに、人を守っていることになってしまいます。だから、ディナイをする必要はないのです。ディナイをすること自体が目的ではなく、ディナイをすることで相手のシュート率を落とさせることが目的のはずです。そのためには人よりも優先させるのは、ボールマン。ゴールに向かっていく相手プレイヤーを守るべきです。

 たとえば、イビチャ・オシムが良く言っていたのは、「日本人は責任を回避する。自分の仕事が終われば後は関係ない。上司が責任を取ってくれると考えている」といった趣旨の話をしていました(すみません、ディティールは違うかもしれませんが概ねこう言ったことを話していました)。ディナイ、つまりは、自分のマーク担当の相手選手に「プレッシングをかけている」「マークしている」で完結しているシーンをサッカーでもよく見ますよね。アリバイ守備だなんて揶揄されたりもしています。また、確かにマーク担当の相手選手にパスが渡ることを防いだとしても、その裏のスペースを使われてシュートチャンスを作られるなんてもことも、まあまあ良く見ます。相手に前進させない、ゴールさせないためのディナイが必要であって、「ディナイをしたから今日は定時で帰ります」は少し考える必要があります。

 また、相手はカラーコーンではないので、ディナイしていたとしても、それを「外す」動きを必ずかけてきます。風間八宏さんが指導した川崎フロンターレ名古屋グランパスなど、相手の背中を取る動きや、相手DFの視界に入ったり消えたりしてマークを外そうとします。ただ、現実的にはそういう動きをできる選手やチーム単位でできるチームはなかなかなく、結局は「個人vs個人のプレスで慌てさせてボールを持てなくしてやる」のが特にJリーグでは有効だったりします。要するに、オフボールの動きが無い、外す動きが無いので、駆け引きで守ることも必要ないと言うロジックです。

 Jリーグにおいて、よく「ゾーンディフェンス(ゾーナルディフェンス)が無い」という言説を見かけますが、これと非常に繋がっていると感じます。なぜなら、必要に迫られないからです。ゾーンディフェンスの要諦が、「チーム全体で帯状の守備陣形を整え、相手の選択肢を限定し、守りの優先順位付けをすること」であるなら、相手にオンボール、オフボール問わず選択肢を持っていることが前提になります。ただ、実態としては、フリーな状態(時間とスペースがある状態)ならボールを扱える選手も、ひとたびプレッシャーがかかると慌ててしまって全くボールを前に運べない選手がいます。今でこそかなり相手に接近されても(むしろ接近された方が得意だという大島僚太のような選手もいます)問題ない選手が出ていますが、全体としては、長い期間通していえばなかなかいなかったのが実情です。特に中盤のセントラルMFのポジションです。なら、「前でホルダーを潰せばいいじゃん?わざわざ待つ必要なくない?」というのが、Jリーグで良く見かけるイケイケドンドンプレスの正体だと思います。2012年躍進したベガルタ仙台も、こういった前線からのプレッシング戦術で2位になっています。同時にリトリートして相手に持たせても、勝手にミスするのを「待つ」やり方もあって、森保監督が率いたサンフレッチェ広島あたりが猛威を振るったと記憶しています。

 ただ、近年のJリーグの守備戦術を見ると、こういった守備が無くなりつつあります(正確には使い分けている)。記事にもあるように、「ディナイすることがもったいない」と気づき始めたチームが増えてきた印象です。先ほどの「待ち」戦術とも違ったエリアやポジションを守っていくやり方、ホルダーの選択肢を削るやり方で守るチームが増えたと思います。こういった守備戦術の進化の背景には、川崎フロンターレ、ミシャ広島・浦和、湘南ベルマーレ横浜Fマリノスなど、攻撃力のあるチームが増えたことがあると思います。選手個人の能力でも、チームとしても相手ブロックを崩してしまうような、「やみくもにプレスをかけてもかわされる」、「待っていてもミスしない」、「ミスしてもやり返す」ので守備側としても非常に難しい時代になったのだと考えます。

 

敵を味方に変える守り方とパックラインディフェンスとサッカー

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 では、ディナイをしない(人基準のプレスをしない)というのは、実践的にはどういったものになるのか。こちらも引用させていただきます。

ディナイをしない守り方とは、つまり、「相手のドライブをカバーすることを優先する守り方」ということです。形としては以下の図のようになります。名称は「オープンディナイ」「サギング(下がって守ること)」などがあります。

 ホルダーがゴールや自陣に向かって前進してくるのを防ぐ守備と言い換えられるでしょうか。記事内でも「優先順位」という言葉が使われている通り、ゾーンディフェンスにおいても、どこで何を守るのか?がチームとして統一されている必要があります。先ほどのディナイディフェンスのサッカー版では、「とにかくホルダーにプレスだ!」「人も守れ!ゴール前も守れ!」「走れ!気合を見せろ!」という言説が飛び交います。人間完璧ではないです。すべてを手に入れることも、まあ、不可能です。では、ここは守らないといけないってどれ?を日々のトレーニングで仕込む必要があって、それは状況やスコア、相手陣内なのか自陣内なのかでも変わってくると思います。

 そこで、「パックラインディフェンス」が出てきます。詳しくは記事や単語で調べてほしいですが、要するにホルダーに縦に前進させない(=ラインを超えさせな)、相手がドライブやパスで進入してくるのをカバーして守るがサッカー的な解釈だと思います。イメージしてほしいのは、サイドでの守備です。相手ウィンガーがフルバックとの1vs1を制して縦に突破したとします。そうすると、センターバックセントラルMFがカバーしてきますが、肝心の中央のエリア、ゴール前のエリアにスペースができます。また、本来中央で力を発揮してほしい守備的なセンターバックセントラルMFをサイドの広大なスペースに晒すことになり、チームとしての守備力も減衰してしまいます。ただ、ディナイを基本とするなら、人基準になりますから、ホルダーをとにかく潰せ!となってしまいます。そのうえゴール前の競り合いでも負けるな!と言われると、さすがに選手も嫌になってしまうのは想像しやすいですよね(スタンドからそう言った声が聞こえなくもないですが…)。

 また記事内の画像を引用させていただきます。

 

 〇で囲まれた1がホルダーで、x1がDFになります。矢印がドライブの進行方向になりますが、これを見て思い出したのは「外切りのプレッシング」です。サイドへのパスコースを切りながら、ホルダーへ中央に誘導するプレッシングですが、味方のカバーで囲い込んで守れる、また、守った場所がそのままカウンター開始地点になるなどメリットの多いプレッシング戦術として、クロップのドルトムントリバプールが実践して結果を残しています。

 なお、x1のプレス方法としては、Footballhackのブスケツ記事が一番分かりやすいと思います。6:4ボディバランスで、縦に行かれても4割守れるように、中央へのドライブに6割行けるように構えておくのが重要だと考えます。

silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

 

 また、以下の引用文章で僕はハッとしました。

ディナイをしていると、オフェンスの心理としては「ボールをもらえないから動こう」といってディナイされていない側に動いてポジションチェンジをしたり、バックドアカットをしようとして動き回ります。その結果、自然とオフェンスに動きが生まれます。ディフェンスのおかげでオフェンスに動きが生まれる。

 ポステゴクルー監督が率いるマリノス相手に、ディナイ守備(人基準で前線からのプレス)をすると守備をズタズタにされてしまうのは、この「ボールをもらえないから動こう」の真理が働いているのではと思います。いわゆるポジショナル的思考に則れば、動かないいわば「ディナイ不要のオフェンス版」のような思考が是とされていますが、マリノスについては良く動き、ボールを交換し、ポジションを入れ替えてを実行して攻撃します。相手がそれについていけばついていくほど、マリノスの攻撃は活性化してゴールを奪います。一方、4-4-2などブロックを組んでゾーンディフェンスをするチームには不思議と分が悪くなるのは、何となくですが繋がってくる気がしています。サッカーには「ボールを速く蹴ると速く自分のところにボールが戻ってくる」という言葉があります。自分が速いと相手もあわせて速くなるので、対応が大変になるということですね。なお、現時点で、ディナイ不要的な思考の守備戦術を実践しているのは、ロティーナ監督が率いるセレッソ大阪が最有力ではないかと考えます。

 エースコンバットゼロというゲームで、「俺とお前は鏡のようなものだ」という台詞があって、正確にはここで言いたい意味とは違うのですが、何か勝負事で相手と対面する時、鏡映しの自分と戦っているのかなと考えます。激しく動けば、鏡のなかの自分も激しく動きます。一方、激しく動いても、相手が動かなければ、おかしいな?と感じるのが駆け引きであって、スポーツゲームの面白さでもあります。いずれにせよ、ディナイディフェンスでパスを出させない、ホルダーにプレスをかけると相手もそれに反発して外そうとしてきますから、相手の攻撃を誘発することになります。逆に、ディナイ不要的な攻撃(ポジショナル)vsディナイ不要的な守備(ゾーナル)で、達人の居合のような試合も増えてきているのも実態なので、すべてがそうだとはもちろん言うつもりはないです。

 

おわりに

 ということで、ディナイ不要①-③をサッカー目線で解釈してきました。骨太記事ですので、残りの記事についてはまた次回にまとめようと思います。すでに気づきと面白さ満点で頭が熱いですが、なんとか続けようと思います。ただやはり一番は「やっている選手が楽しくプレーできる」が大事であって、それをよく感じる記事でした。せっかく好きなスポーツをやっているのだから楽しんでほしいですよね。では、またどこかで。

 

 

 

sendaisiro.hatenablog.com

 

【相手を囲い込め】木山ベガルタ プレッシング戦術分析 -『三角形とトラバサミ』編-

はじめに

 どうも、僕です。今回は、木山ベガルタのプレッシング戦術について。比較対象として、クロップが率いたドルトムントを引き合いに、ベガルタのプレッシングを見ていきます。面白い共通項があるのと、先生がいると理解も進むと思い記事にしました。同じところ、違うところを見ていけたらなと思っています。では、レッツゴー。

 

クロップ・ドルトムントの三角形ディフェンスと香川真司のポジショニング

アタッキングMF・ウィンガー・セントラルMFの三角形

 いくつかクロップが率いたドルトムントの試合を観ていますが、2012年のバイエルン戦から取り上げます。動画は以下です。

www.youtube.com

ドルトムントのボール非保持時は、4-4-1-1。4-4-2系のゾーナル守備でブロックを組みます。アタッキングMF(トップ下)には、我らが香川真司。彼の「ボールホルダーと同じ高さに立つことでパスコースを限定する守備」を中心に、ボールサイドのウィンガー、セントラルMFと三角形を作ってディフェンスします。

図1

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 図にするとこんなイメージです。ボールホルダーへのプレッシャーへは五分五分程度。ホルダーにはある程度時間がありますが、出せるタイミングを圧縮することで「時間はあるけど『時間』が無い」状況を作ります。

図2

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3人のタスクをざっくりと分けると図2のイメージです。ホルダーに対して、それぞれ「壁」を作ることで、目には見えない迷宮を創り上げます。スペースがあって侵入しても、壁が迫ってきます。肌感覚的には城。狭く、直線を避けて構造化することで、相手の侵入を防ぎ、侵入されても侵入速度を減衰させます。

 

セントラルMFを軸に閉じる『トラバサミ』

図3

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 仮にホルダーがそのままドライブでスペースへ前進した場合、アタッキングMFとウィンガーがホルダーを挟み込むようにプレッシャーをかけます。ホルダーを3つの壁で挟み込むようにして、空いていたスペースを圧縮させます。トラバサミのハサミのように、ホルダーに罠をしかけ仕留めます。

図4

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 ホルダーが三角形を迂回してパスを出すのであれば、「水流が岩にぶつかった」ように、隙間へとパスが流れていきます。フルバック(サイドバック)へ出れば、攻撃をサイドへ遠ざけ縦に細くでき、センターバックへパスが出れば前からのプレッシングへ移行することができ、相手の攻撃を減衰することができます。なお、中央へのパスを強行したとしても、すでに防衛網が構えられてますので、プレッシングの嵐を浴びせます。

 

図5

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ベガルタ仙台のプレッシングメソッド

 さて、ベガルタ仙台のプレッシングですが、4-3-3が主体となります。香川ロールはセンターFWの長沢で、ウィンガーがワイドに立つ選手へのパスコースを切りながら中央に立つホルダーへプレッシャーをかけていきます。また、長沢がアンカーやセントラルMFへのコースを塞ぎながら、ホルダーにプレッシャーをかけます。

図6

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図7

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図8

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 セントラルMFを軸に、ウィンガーとセンターFWがホルダーを挟み込んでいきます。図は理想型ですが、実際的には迂回したり、サイドへ展開されたりとしていますが、原理的、構造的にはクロップドルトムントとの類似性が見られます。相手を中央へ誘導する、パスコースを縦へ限定するなど、前線からのプレッシングの狙いが見て取れます。

図9

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 三角形を迂回された際の予防策も構えているように見えます。サイドへ展開されたら、ウィンガーとセントラルMFがスライドして、三角形とタッチラインでボールを圧迫します。また、アンカー(椎橋)とセントラルMFが中央で迂回先を守り、逆サイドのウィンガーは前線からのプレッシングを継続させます。試合によっては、逆サイドのプレッシング担当がセントラルMFの場合があります。いずれにしても、ピッチ中央へ誘導することでカウンター開始地点とし、サイドや敵陣へ迂回させることで、ゴール前に迫られるリスクを低減させます。木山監督が「攻守にアグレッシブなサッカー」と目指すべき哲学を述べていますが、「攻撃のための守備、守備のための攻撃」とも言えますし、「攻守表裏一体」を体現しようとしているとも言えます。

 

おわりに

 クロップがリバプールを率いて、リーグ、CLを制覇しました。陣形的には4-3-3との親和性で見れば、今のベガルタリバプールには似たような点があります。ただ、原則的なところは大きく変わっていないと思いますし、実際、クロップが率いたドルトムントには沢山の気づきがありそうでした。まだまだ再開後の数試合ですので、ベガルタの完成度ももっとこれから上がってくると思いますので、現状と理想とでさらにレベルの高いプレッシングが見られるのではと期待しています。「ボールを持っていなくても攻撃できる」をぜひとも、仙台の地で披露してほしいなと思います。では、またどこかで。

 

 

【挑戦】Jリーグ 第6節 ベガルタ仙台 vs 川崎フロンターレ (2-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム川崎戦のゲーム分析。再び激突する盟友。圧倒的なボール支配と光の速さで迫るプレスで、ベガルタ仙台ベガルタ陣内へと追い込んでいく。格の違いを前に、彼らが選んだ選択は。新しい剣を手に、相手で覆われ、矢の雨が降り注ぐ大空を切り裂いていけ。今回も、ゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは4-3-3。左ウィンガーは西村、左セントラルMFに道渕が入る。松下がリザーブにも入っておらず、ケガかコンディション面で問題があるのか心配だ。そして、GKには、クバ様が帰ってきた。シュートストップに期待。

 一方の川崎も4-3-3。現状のベストメンバーと言えるだろう。リザーブには小林悠が待機。田中碧は前目のポジションで見たいのが個人的な感情だけれど、今のメンバーを考えたらアンカーは妥当といえば妥当かもしれない。要注意。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

針の穴を通す4秒間速攻

 ベガルタ仙台のビルドアップは、2センターバック+アンカー+セントラルMFのいつもの形。フルバックはワイドで深めの位置、ウィンガーもワイドに開き高い位置を取っている。ポゼッションによるボール保持攻撃の機会が圧倒的に少なかったゲームだったのだけれど、ミドルサードセンターバックが落ち着いてボールを持った際には、相手3センター脇・ウィンガー背後のエリアに、関口と道渕が構えることで構造的痛点を突いた。そこから、3FWの川崎ファイナルライン背後へのオフボールランでゴール前に迫った。

図1

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  この試合も、ボールを奪った直後の4秒間、ポジティブトランジション局面において右ウィンガーのジャメを主体とした3FWへの縦に強いランは狙っていた。ただし、この試合においては付帯条件があって、川崎にとってのボールを失ってからの6秒間、ネガティブトランジション時のゲーゲンプレスが速く、あっという間にボールを奪い返されてしまった。ボールを蹴っても、アンカーやセンターバックに回収されてしまい、いつもの「4秒間速攻」を繰り出しにくい展開を作られた。川崎は、ベガルタ陣内に送り込む選手の数がこれまで戦ったチームより多く、また技術も高い。ロストポイントへのプレッシャーアプローチ、蹴りだされた後の回収がほとんどセットのように見えた。相手へのプレスが強みのベガルタは、川崎のプレスに圧倒されたというのは、別におかしな話ではなく、ボール持つチームはボール持つチームに弱いのに通じる。自分がやる側だったのに、やられる側になるとたちまち弱さを見せるのは、実生活でもよく見かける気がする。気がするだけ。

 よって、ベガルタのカウンター攻撃も針の穴を通す精度で完結させる必要があった。数は少なかったが、右ウィンガーのジャメが急先鋒となり、車屋と登里の間、CB-LB間へランニングしていった。再開後の試合では、何発か撃ち込んだカウンター攻撃が決まらずに実家へ帰ってくるシーンが多かったけれど、この試合はそもそものカウンター攻撃機会が少ないのが、大きな壁になった。得意手を封じられる。これは、ベガルタのボール非保持での狙いも関係するので後述するのだけれど、いずれにしても、1本あるかないかのチャンスを1本決めたこと、また、非保持時のビルドアップ妨害でも1点決めたことは大きいことだと思う。

 

ボールを持つプラン

 片鱗を見ただけなので、詳しくは書かないのだけれど、後半になってゲデス、中原、浜崎が入ってきてベガルタのポゼッション機会が増えた。ゲデスは1トップで、トッティのようにふるまうし、中原は、いわゆるアンカー的に中央のポジションを維持するために人生のすべてを注ぐような選手ではなく、ボールと一緒に汗をかくタイプのセントラルMFだ。また、浜崎のキック精度は相変わらず高く、中原と一緒に背後へ精度の高いボールを供給していた。試合も終盤だったので、本当のところは分からないのだけれど、いわゆる「ボールを持つ」プランも選手の組み合わせ次第では十分に狙えるのではないかと。これから、リトリートして自陣にブロックを組み、カウンタースペースを消し込むチームが出てくると思う。その時の対抗策として、可能性を感じたので取り上げた。僕はいつでも準備できている。ポゼッション率80%、シュート本数30本、5ゴールのプランCを。あとは神々の審判を待つのみ。まあ、そこまでいくと、それはもうプランCではないけれど。

 

ボール非保持時

4-5-1ディフェンスと変更したウィンガーのプレス基準

 川崎のボール保持攻撃時のビルドアップは、両フルバック・ウィンガーが高い位置を取り、2人のセントラルMFがライン間で受けようとするので、2センターバック+アンカーの三角形型ビルドアップというストロングスタイル。「止めて蹴れたら間違えない」、「間違えてもすぐに奪い返す」と無言で宣言しているようなものだったし、実際にそれを実行している。また、家長、長谷川の両ウィンガーがボールを持って時間を作れるので、全体のコンパクトさを維持したまま押し上げることもできた。あとは大島、脇坂、田中碧が中央に。皆まで言うなである。

 さて我らベガルタ解放戦線。ボール非保持時は、4-5-1を対抗型に採用。4-3-3前プレスが1本目の武器なら、この試合は2本目の武器で対抗したことになる。木山監督は試合後に「もっと前から行くつもりだった」とコメントしていたけれど、ウィンガーのプレス基準が変わっていおり、「前から行く」のニュアンスがどういう文脈なのかは少し分からなかった。なので、想像、解釈の域を超えないのだけれど、ベガルタの両ウィンガーに課せられた最大のタスクは、「山根と登里を止めろ」だった。

図2

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4-5-1vs2-3-2-3の図

 

図3

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 1トップの長沢は、これまでの試合同様、アンカーの消し込みとセンターバックへのカバーシャドウでボールサイドの限定がタスクだった。ただ、センターバックへのカバーシャドウは、ウィンガーのタスクでもあり、フルバックやウィングバックへのパスコースを切りながら、相手を中央へと挟み込むようなプレスのかけ方だった。この試合は、西村、ジャメのポジションが低く、とてもセンターバックへプレスにいける距離では無かった。代わりに、4-5-1で5レーンを埋めてスライド幅を極端に減らし、スピードのあるジャメと西村でサイドへの対応の効率化を図った。

 なお、この試合では、吉野、平岡、椎橋、長沢以外の選手はウィンガー的な要素のある選手(ワイドのポジションを担当できる文脈)が多数メンバー入りしており、スピードと技術のある川崎相手に、縦横のスライド、ボールを奪った際のカウンター、プレスバックやリトリートを何度も求められることを想定したメンバー構成だったのではと予想している。特に、左ウィンガーをゲデスではなく西村にしたのは、ボールがなかなか持てないなかで、オフボール時のランニングでカバーするための狙いだったのでは?と考える。まあ、西村が「ワーキングウィンガー(走り回る労働者的なウィンガー)」で計算されているとしたら、少し悲しい気持ちにはなるが。

 いずれにせよ、相手センターバックを監視した役を担ったのは、アンカーへのコースを切りながら長沢が担当し、代わりに関口、道渕の2人のセントラルMFがプレッシャーをかけた。ボールと逆サイドのセンターバックには、逆サイドにいるセントラルMFがボールが出るのに呼応してプレスをかけた。

図4

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仙台のプレス構造。両ウィンガーは自陣深くまで戻るシーンも多かった。

 

「背中(うしろ)をとる」川崎。中央から外への展開の対応で…

 そこで川崎の対応。本来、インサイドレーン(ぺナ幅3レーン)を守る3センターを誘き出せるのであればそれを活用しようとばかりに、関口や道渕が空けたスペースへボールを刺してきた。特にハーフレーンをFWのダミアンやウィンガー、大島が使うことで、ベガルタ守備陣形にダメージを与えた。椎橋とバック4で堪えていたので、タカチョーと柳がこれでサイドも対応となったら決壊は早かったかもしれない。そのためのウィンガーの労働者化はある程度理解できる。カウンターポジションが低くなって、打開が難しくなった副作用もあったけれど、守備で決壊するのと、カウンターを刺すのとで天秤をかけたら極めて繊細なバランスを取りそうな気もする。気もするだけ。

図5

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背中をとる川崎。風間理論。

 

 後半は、家長が中央に入り、ワイドプレーヤーを2人配置することで左サイドがスピードアップした。西村は完全に5バック化。ウィング化した山根を止める手としてはこれが最善手だった気もする。圧力を完全に受ける形となる。また、背中を取る選手が家長となるのだからなおさらだ。ボールは「中央→外」へと渡っていくインサイドアウトで、小林悠の得点能力もあるけれど、あっという間にファイナルラインが決壊した。

 これは個人的な感情なのだけれど、ヤヒロさんと中村が目を揃えたのなら、鬼木さんは小林と目を揃えている気がする。ストライカーからの逆算、といえば、別に目を揃えるなどというそれっぽい言葉で語らずとも、シンプルである意味当然というべき考え方である。ダミアンがゴール前へ直線的なオフボールを繰り出すが、川崎の選手はそこにはつけず、その背後の選手に出して相手の「目を揃わなく」する作業を挟む。ダミアンからしたら、ゴール前で勝負するのは自分の仕事だと思っているのだろうけれど、川崎の呼吸の仕方とは異なる気がする。小林がファーに抜けて、もう一度ニアに入ってくるオフボールランを見て、少しだけ、そう少しだけ思ったり、思わなかったりするのである。

図6

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加速する川崎。大島と田中碧もポジションチェンジするなど動きのある後半になった。

 

 ベガルタとしても、フルバックが我慢してラインを形成するなど、粘り強く守ったのだけれど、あれだけハーフラインをめちゃくちゃにされてはボールを奪ってもカウンターをしたくてもなかなか難しくなる。ベガルタのマークやプレス基準は、わりとシンプルで、FWはFWに、MFはMFにつくと考えられる。面白いのは、それをファイナルサードミドルサードで極力維持して、サイドの選手への対応は自陣深くで対応する際にするなど、なるべく前線の5人が高い位置をキープできるようなプレス構造だ。すべての守備は攻撃のために、攻撃は守備のために。「攻守にアグレッシブなサッカー」の『攻守』には、あらゆる意味が込められている気がする。多分。

 

考察

取り組んできたことで2ゴール

 相手のミスもあったとはいえ、敵陣プレスとカウンター攻撃で2ゴールを前半取ったのは大きいと思う。しかも2試合連続。やりたいことの表現はできているし、あとは結果なのだけれど、それも少しずつ出て来ている。しかも相手は川崎。欲を言えば、前半のうちに3点とって決着をつけてしまう急戦スタイルを身に着けたいところだ。

 

どうゲームをコントロールするのか

 連続2失点は、さすがに3点目はスーパーゴールだったとしても、戦い方として課題といえる。札幌戦も2点を追いつかれてしまっている。ゲームをどうクローズさせるのか、コントロールしていくのかは、3点目、4点目を狙いにいくという大きな狙いはあるのだけれど、そのやり方をどうやっていくのかは、まだまだ課題だと感じる。それだけに、前述した先に3点取って試合を終わらせたい思いがある。ローブロックからのカウンターも強力だということを証明できているので、後半は相手に攻めさせてカウンター!という手もアリなんじゃないかと思う。ただ、今は自分たちのスタイル構築の時期でもあるので、変な変化をつけないこともチームが伸びていくことにおいては大事だ。そこのバランスをどう取っていくのかも含めて、チームの成長になっていけばと思う。

 

おわりに

 「交代で入ってきた選手が凄い」「相手は強いチームだ」。こういった言説が目立ちがちな文脈の試合だった。前の試合も含めて。でもそれは、試合をしなくても、近くの本屋で選手名鑑を買って読めば明らかになることだ。それに、「だからって、あなたはその運命を受け入れるんですか?」という、まあ、消えかけたなけなしの僕の野心と反骨心が、僕にそう囁く。 この文脈は、「仙台にサッカークラブがあればいい」「J1にいてくれるだけでいい」というクラブを取り巻く言説に似ているなと感じる。オンライン、オフライン問わず、僕にもこの手の言説には聞き覚えがある。でもそれだって、大多数の関係者の血の滲む努力のおかげで手にしている栄光であって、角砂糖の表層を舐めるように幸せを味わっていれば満足だと、たとえばまったく努力していない僕が言えるのかという問いかけを僕が囁いて来る。「できないのは分かった。では、やるために何ができるか」をこの10年間をかけて、ベガルタ仙台というクラブとチームは示してきて、素晴らしいことに、新しい指揮官もまた、「諦めずチャレンジする」と公言している。そしてこれも素晴らしいことに、新生ベガルタは、「応援したくなるチーム」、「愛されるチーム」になる要素がある。激しいプレス。鋭いカウンター。攻守の切替の混沌と秩序。元来人類は、サッカーの前に、こういったプレーに心情的に弱く「面白い!」と感じてしまう悲しい種族なのである。感情的な爆発との親和性も高い。

 抗ってほしい。受け入れないでほしい。納得しないでほしい。拒絶してほしい。何度も何度も、迫りくる現実に、カウンターを入れてほしい。運命に、挑戦し続けてほしい。

 

「どちらかが死に、どちらかが生きる。勝ち負けではない。私達戦士とはそういう宿命。生き残った者がボスの称号を受け継ぐ。そしてボスの名を継いだ者は、終わりなき闘いにこぎ出してゆくのだ」こう言ったのは、ザ・ボスだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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