はじめに
さあ、いきましょうか。ホームマリノス戦のゲーム分析。ついに、Jリーグ王者がユアスタへとやってきた。ユアスタの強力なサポートが叶わないなか、奮闘するベガルタ仙台戦士たち。流星の如くディフェンスラインを統率する者。ゴール前で幾度となく決定機をつくる者。それぞれの野心を抱えながら奮戦するベガルタに、絶対王者は容赦のない攻撃の雨を降らせる。闘いの業火は、90分間の死闘を、激戦へと昇華させていく。その時、ベガルタが見た世界は。今回もゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。
目次
オリジナルフォーメーション
ベガルタは、フォーメーションを4-2-3-1へと変更。セントラルMFに椎橋と吉野、バック4を柳とタカチョーのフルバックに、平岡とコンビを組むのは特別指定のアピアタウィア久だった。アタッキングMFには関口、ウィンガーは西村とジャメのサイドが左右逆になっている。センターFWは、攻守にわたって欠かせないエキストラプレイヤー長沢が入る。
一方のポステコアタッキングフットボール革命解放戦線ことマリノス。前線はケガなどで予想が難しかったが左ウィンガーには仙頭が入った。右センターバックには、フルバック(サイドバック)が本職の松原が入って、ストッパーは畠中1人の攻撃的な形。GKの朴はケガから復帰の初戦となる。
概念・理論、分析フレームワーク
- 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
- 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
- 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
- ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。
ボール保持時
息継ぎのできないポジティブトランジション
ベガルタのビルドアップは、2CB+2CMFのボックス型。ここに両フルバック(サイドバック)が深めに位置するいつもの形。センターバックがボールを持てば、スイッチパスである「ウィングへのパス」を放つ。特に、ポジティブトランジション、ボールを奪ってからの4秒間において、ベガルタにとって重要なパスになる。
ただこの試合においては、後述するボール非保持時の守備の狙いから、両ウィングの位置がかなり低い。ボールを持っても高い位置に翼が羽ばたいていないので、翼を剣にすることが難しくなる。また、マリノスの立ち位置も関係する。昨季のように、フルバックが高い位置を取らず、センターバックに近い位置やセントラルMFと同じ高さにポジショニングしたことで、ボールを奪われてカウンターされても対処できる「カウンター予防」を図ることでカウンターへ対抗してきた。ハイラインとオフサイドもひとつ狙いであるところから、ポステコ革命解放軍のボスが目指しているだろう「間違えず光速でボールを回し攻撃していく」理想に、非常に現実的な対処法も仕込んでいるとうかがえる。
よって、ベガルタの攻撃ルートであるワイドレーンで突破が難しくなった。センターFWに入った長沢は、ボールを奪った後のカウンターオープニングパスを受けようとしたが、それをカットして防ぎ続けたのがこの日センターバックに入った松原だった。こうなると、チーム構造的にも個人的な部分でも、ベガルタの4秒間速攻がロックされることになった。
このまま押し切られるかと思われたベガルタ仙台。しかし、この試合、彼らを支えたのは彼らが武器にしていたウィングアタックでも、4秒間速攻でもない。Jリーグ王者相手に用意したのは、伝統的で、革新的で、先進的な守備。あの「4-4-2」で勝負をしかけた。
ボール非保持時
人基準守備の4-4-2ベガルタ仙台ブロック
ベガルタの守備は、4-4-2。厳密には4-4-1-1とも言えるが所詮は電話番号。しかも、相手選手へのマーキングやプレッシング、つまりは「人」をターゲットとした守備を敢行。ミハイロ・ペドロビッチフットボール原理革命軍が前節マリノス相手に実行したマンツーマン守備を先生としたかのような戦い方を対抗型として組んだ。ただし、これだけでは、「限界までスピードアップするがお前たちはついてこれるのかい?」をどの対戦相手にも強いて来るポステコ革命解放軍には不十分だ。パスカットを狙ったり、ボールが選手に渡らないようにするマンツーマンのような守備のやり方は、相手がそのパスカットやプレスを外そうと動くので、局面が高速化するしダイナミックになる。守備側が攻撃側の攻撃を促進させてしまう逆説型守備に繋がる。
図1
そこでベガルタが用意してきたのは、人基準でありながら、マリノスが使いたいエリアを徹底的に潰すやり方を取った。マリノスの使いたいエリア。それは、「4つのビルドアップエリア」と「2つのアタッキングゾーン」の2つである。
ビルドアップエリアとアタッキングゾーンを警戒するベガルタ
図2
図2にあるように、マリノスはセントラルMFとフルバックを中心に、センターバックと連携してビルドアップを実行。一方、アタッカーは、5レーンで言うところのハーフレーン、あるいはスライドしている場合は選手間を狙い撃つ攻撃戦術を取っている。
図3
ビルドアップエリアを4人の選手がポジションチェンジやエリア移動をすることで、センターバックとボール交換しながらビルドアップする。ここで相手がプレッシャーをかけてくれば外して、前線のアタッキングゾーンへとボールを供給していく。アタッキングMFである天野やRWGの水沼、RBの小池が前半から積極的にこのエリアを使っていた。マリノスとしては、昨季のように前線にリソースをかけ続けるやり方から、ポジショニングを整理してから、前線へのパスを供給していく、アタッカーがが勝負をしかけている気がする。気がするだけ。
図4
さて、ベガルタの対抗型。まずは、4人のMFが4つのビルドアップエリアに入る選手をきっちりとマークする、プレッシャーをかけていた。ただ、2つのアタッキングゾーンに入っていく選手を警戒することを優先してか、セントラルMFがアタッキングゾーン、2人のFWが中央のビルドアップエリア2つを監視する形を取った。よって、マリノスセンターバックには、多くの時間とスペースが生まれる結果に。さらに、ベガルタのプレッシャーを外そうとポジションチェンジや選手の入れ替えを目まぐるしく行った。まさに、「マンツーマンが攻撃を加速化させる」のままの展開に。加えて、柳とタカチョーのフルバックも、これまでファイナルラインとして専守防衛だったが、この試合では相手WGを潰すために迎撃守備体勢。センターバックとの距離が空くが、そこをカバー範囲が広い平岡、Qちゃん、吉野をカバー役に任命したのはまさしく「木山采配」といったところか。誰一人が欠けてもいけない。みんながみんなに与えられた任務を遂行することで、チーム全体が勝っていく。そんなサッカーを木山監督は目指しているのだと思う。
ただ、攻撃面でのカウンター距離が遠いのと、90分間続けるにはやはり体力面で続かない。前半だけで、ベガルタの選手のシャツは汗でぐしゃぐしゃだ。相手が使いたいエリア、人を制限することで勝機を見出したベガルタ仙台。なんとかゼロで抑えた守備を継続したまま攻撃に転じる難しいミッションを果たさなければいけない。
そこで、後半、ベガルタが仕掛けた。駆け引きを仕掛けた。今季再開後、このチームを支えた「新しい守備」で勝負に出た。
ウィングの縦切りと「斬り合い」
後半、ベガルタはウィングの立ち位置を修正する。これまで、相手フルバックに地の果てまでついていったがそれを止めたのだった。相手WGへのパス一本を防ぎつつ、相手CBにも機を見てプレッシャーをかける守備へと変身した。
図5
これはある意味で、勝負であり、賭けだった。サイドで時間とスペースを与えれば、そこに入るのがフルバックだろうがセントラルMFだろうが、マリノスの4人は殺傷能力高いパスを出せるし、アタックを仕掛けられる。ただ、ベガルタは、サイドに出れば横スライドとブロックを深くすることで対応。丁寧に、しかし狡猾に、自分たちがカウンター攻撃を仕掛ける機会を伺った。
こうなるとマリノス。「ブロックを組まれるのが苦手」がJリーグ各チームには知れているのだと思うのだけれど、「プレッシャーに来ないのなら、ビルドアップではなくアタッキングを担当しよう」とばかりに、両フルバックが高い位置を取りアタッキングゾーンを使い始める。前半のように、ボールを奪おうと素早くプレスをかけると、取られないとばかりにさらに素早くボールを回しポジションを取ろうとするが、無視すると守備側を無視して攻撃的なポジションを取ろうとするのがとても面白かった。前後半のマリノスの反応をまるで想定していたかのような、ベガルタ仙台の対応だった。
これが本当の「ミラーゲーム」。自分たちの対応で、相手を動かそうと、「ベガルタ仙台がマリノス」に仕掛けたのだった。もちろんこれは駆け引きで、あまりにもカウンターが刺さるようなら対応しないとダメなんじゃない?とでも問うているようでもあった。
図6
図でまとめると上記のように。両WGが相手センターバックへプレッシングをかけるシーンも出て来て、交代で入った蜂須賀がボールを奪ってフルバックの背後のエリアを爆速で駆け上がったのは象徴的なシーンといえるだろう。ただひとつ難しかったのは、というより予想外だったのは、GK朴だろうと思う。これは説明不要なのだけれど、彼がスイーパ―ポジションでことごとくボールをスイープしたのは、ベガルタが狙うカウンター攻撃の何本かを事前に止める結果となった。ベガルタとしては、王者相手に勝負をしかけ駆け引きをしかけて仕留めにかかった。リザーブでチーム得点王のマルコスが出てくるまでの勝負だったかもしれない。最後はそのマルコスに、ゴールを刺された。大将の首を取れたら勝ちだったが、あと一歩、届かなかった。
考察
ボールを持てなくても攻撃的な仕掛け
守備で押し込まれると不安があるなか、それでも相手が狙いとしている部分を消し込み前へとアタックしようとする姿勢は、再開後どの試合でも見せている。強豪相手にも。ある程度相手の攻撃を誘発したり、許容するなかで自分たちも攻撃していく姿勢だ。どんな分野でも、攻撃はカウンターの方が有利だ。そして、カウンターを繰り出すには、相手に隙を見せて攻撃させなければ仕掛けられない。この試合でも、相手の良い部分を消す戦いと自分たちが勝つために仕掛ける部分とを表現できたのではと思う。それは、ボールを持っても、持たなくても同じ。攻撃と守備なんて、便宜的に分けてるに過ぎない。ボールなんか無くても、いくらでも攻撃できる。そんな、試合だった。
最後の仕留める作業
であれば、やはり最後に仕留める作業をきっちりしたい。これまで、ベガルタはどのチームにもそのチームのストライカー、エースにゴールを奪われている。西村がいなければ問題を西村を獲ることで解決し、ジャメが最も目立ち輝く戦術でジャメをストライカーにしてしまう作戦をしているのだから、結果の部分で表現したい。あとは、攻守で奮闘するセンターFWの長沢がゴールしやすいボールを上げたいなと思うのは、個人的な感情。
おわりに
誰が何と言おうと、この試合のベガルタ仙台は、攻撃的で、先鋭的で、高次元的な駆け引きを王者相手に仕掛けた。勝った負けただけなら、なんなら前節の焼き直しでもいい。おそらく実行できる。そうじゃなくて、勝った負けたを勝った勝ったにするための努力とトライをチームは取り組んでいる。 サッカーをプレーする以上は、プレーしてほしい。プレーするとは、駆け引きすることも含まれる。相手を、状況を、よく観察して肌で感じ取って、思考して何度も実行する。体調が良いだけじゃだめだ。でも、70分ごろの疲れた状態でも、きちんと駆け引きできるか。そう言った、人間としても深みのある、高みを目指す人間になるその道を歩いているのだと思う。ならば、勝負に負けたのなら、また歩き出せばいい。深く、高いサッカーへ。歩き続けるんだ。
「いくらごまかしてもいずれ気付く、自分がどんな人間か。自分の生き方は”誰でも”、自分に返ってくる」こう言ったのは、リボルバー・シャラシャーシカ・オセロットだ。
参考文献
silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com