蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【反転】Jリーグ 第7節 柏レイソル vs ベガルタ仙台 (5-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ柏戦のゲーム分析。夕闇の日立台。連戦最後の週末に、黄色と白色のユニフォームが集まる。降り注ぐ矢玉。歯を食いしばりながら反撃するも、柏の圧倒的な攻撃を前に、次々とゴールを許すベガルタ仙台。これが彼らが目指してきた場所なのか。いや、戦いは開始してすでに、策士ネルシーニョの術中にあった。定められた運命を全うするなか、すべてに抗い逆らう男の逆襲の一撃が放たれる。今回も、ゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは4-3-3。センターバックにジョンヤ、LBに柳が入る。左インテリオールに中原が、センターFWに赤﨑が入って、左ウィングにゲデスと4-5-1のミドルブロックからのカウンターを狙った浦和戦に近い構成に。

 柏は4-2-3-1。自陣のビルドアップではボールを繋ぐが、カウンターもハイプレスもなんでもござれ。策士の狙いを実行できるメンバーだ。アタッキングMFの江坂。とんでもねえ江坂。オンボールもオフボールも違いを生みだせる稀有なアタッカーだ。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

左サイドのローテアタックと柏の「罠」

 ベガルタのビルドアップは、左右センターバック+アンカーの三角形に、左インテリオールの中原が、柏2FW横に降りることで、潰れた台形のようなボックス型ビルドアップで組んできた。これまで松下が担ってきた役割を中原が実行した形になる。中原のキャラとの相性もいい。さらに、この日のベガルタの左サイドには優位性があった。左センターバックのジョンヤ、左ウィンガーのゲデスとボール保持時に力を出せる技術ある選手が入っている。幅取りはLBの柳。中原と組んで、スクエアを形成した。

図1

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図2

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 また、オリジナルのポジションのままではなく、お互いがレーンチェンジするなどローテーションアタックを繰り出す。ローテーションのなかには、LBの柳も組み込まれているので、彼の立ち位置もこれまでのベガルタフルバックの高さに比べて高かった。基準となるアンカー椎橋より高く、かなり攻撃的な立ち位置を取った。当然、柏の右ウィンガーを牽制する意味もあり、守備で誰をマーキングするかを迷わせる狙いもあったと思う。ただ、不気味だったのは、ネルシーニョ柏が動じない。柏の右サイドが飽和攻撃を受けているのにも関わらず。20分間ほどベガルタのペースで試合が進み、そのまま中盤戦に入るかというところで、すでにベガルタネルシーニョの幻術の中にいた。

 柏のセット守備は、4-4-1-1。アタッキングMFの江坂がアンカーを警戒。オルンガがホルダーのセンターバックにサイドを限定するような、中央からサイドに向けてプレッシングする仕組みだった。ただ、オルンガのプレッシング自体はそれほど激しくもなくムラもあった。しかも左センターバックは、皇帝ジョンヤである。簡単にボールを持って、前線にパスを刺していた。さらに、左インテリオールの中原がドロップで柏の右ウィンガー貼りつけているのでなおさらだった。ただし逆に言えば、ベガルタの攻撃方向をかなり限定できたと言える。赤﨑のファイナルライン背後へのバックドアカット、ハーフレーンのゲデスへの楔を警戒する条件をつけて、ベガルタの左サイドアタックを許容した。結果、赤﨑のバックドアカット自体はそれほど出てこず、ゲデスに対してはRBの古賀が決闘勝ちして封殺した。そんななか、最初の失点を中原のパスを古賀がカットしてカウンターが一閃した。アンカー椎橋が「柳の高さに合わせるように」ボールサイドに寄っていき中央が空いた。全体が前に前に「守備のポジション」を崩しているところにカウンターが刺さった形だ。こうなると、ファイナルラインも所詮は人の集まりに過ぎなくなる。中盤から前線の守備の束がバラバラなのだから、失点も当然の結果だった。

図3

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 実際に、ネルシーニョが「あえて右サイドを攻めさせてカウンターを狙っていたか」は分からないけれど、あれほどベガルタは左サイドを制圧していたにも関わらずそれを受け入れていたようにも見えたし、実際ベガルタもボールを持ってポジションを変えてパスを出してと「気分は良いけど、『気分』だけが良い」状態で、柏のファイナルラインを崩壊させるに至らなかった。しかも、これまで、ボールを奪われた瞬間のポジションを意識するように、守備陣形を整えて攻撃していたが、この日は柳も椎橋も高い位置を取っていた。なお、ボールを持って引き寄せて、ライン裏へオフボールランを繰り出せると怖さが出たが、前半の赤﨑はまるでゴルフ選手のショットを見守るかのように静かだった。後半になると、RBの古賀が前に潰しに行った背後を狙ったりと動きは変わっていった。西村のゴールもそう言った文脈から生まれたと言っても良いと思う。でも、この日は、それまでだった。

ハーフレーンに絞るゲデスの苦悩

 左ウィンガーに入ったゲデスは、この試合だと、ワイドレーンにタッチラインいっぱいに開いているわけではなく、RBの古賀とマッチアップするようにセンターバックとの間にポジションを取った。自陣からのハイボールも、そのゲデス目掛けて蹴られていた。センターFWの長沢の代わりと言ったらアレだけれど、そういった役割も求められていたのかもしれない。ただ、これまで、幾度となくボールを収めていたゲデスも「せーの」でハイボールを競るとなると状況が変わってくる。右ウィンガーのジャメもそうだけれど、やはりオープン状態で、相手との1vs1を制する選手がウィングに入っているのでなかなか難しい。そのために、ボールを持って攻撃をした…とも解釈できるのだけれど、敵陣プレッシング、ミドルカウンターを極めている途中で、正直ボール保持攻撃には手が付いていない印象。たしかに再現性ある左サイドアタックだけれど、あれだけ上手い奴が集まれば、左偏重になってもしょうがないとも思える。ウィンガーにボールがついてからが勝負のベガルタ仙台。そもそものウィンガーにボールがつかなくても攻撃できればまたワンランクアップできると思うけれど、今それを求めるのは酷な気がする。気がするだけ。あとは、「意図的に五分五分のボールを出してネガティブトランジションを発生させる」高等テクニックもまた、これから先やっていくことだと思う。

 

ボール非保持時

4-5-1のミドルブロックと噛み合う中盤

 ベガルタのセット守備は、4-5-1。柏の両フルバックが高い位置を取るので、両ウィングがそれを警戒する形で対抗型を組んだ。センターFWの赤﨑がホルダーへ中央からサイドへプレッシングをかけてサイドを限定する。縦に出たところで3センターとファイナルラインで奪い取る計画だ。柏のボール保持攻撃が4-2-3-1だったので、ベガルタの3センターの逆三角形とがっちり噛み合った形になった。フルバックも高い位置を取るので、中盤列が5枚vs5枚になる。ただ、ウィンガーがサイドを気にするので、隙間を刺されてハーフレーンに絞る柏のウィンガーにボールが渡るシーンもあった。噛み合っていると何が有効か。それは、ポジションチェンジである。特に、アタッキングMFの江坂が、サイドへカットアウトすることでフルバックセンターバック間のチャンネルにオフボールランを繰り返した。特にベガルタの右サイドは狙い撃ちされ、後半に右サイドを総とっかえする必要さえあった。

もう一度4-3-3のハイブロックを

 川崎も柏も高い位置にフルバックを上げることで、ベガルタ仙台の武器であるウィングを牽制した。体力的な厳しさもあるとは思うのだけれど、パスコースを守っていたウィングがこの2試合は人を守っている。より高い位置で戦うことを旗印に掲げるのであれば、再開後に見せていた4-3-3の高い位置でのプレッシングを披露してほしいと思う。ある意味、高い位置でウィングがプレッシングをかけるやり方は、背後のスペースをカバーできていないと効果がない。カバーするのは3センターのスライドになるけれど、現状そこまでできていないのと、最終的にゴール前で後手を踏むのであれば最初からウィングにカバーしてもらうという手は理解はできる。カウンターエリアも広がる。ただ段々と試合を重ねるごとにウィングが消えてきたことも事実だと思うので、もう一度、ボールを持っていない時、守備でのウィングポジションを高く、高く羽ばたいてほしいと思う。

 

考察

やりたいことを「やられた」

 率直に、柏のような戦い方をベガルタとしては表現したかったし、チャレンジしていることだと思う。ネルシーニョがあえてそういう「ミラー」のような戦い方で来たのかは定かではないのだけれど、少なくともこの試合でベガルタが挑戦しているサッカーを表現できていたのは対戦相手の柏の方だったと思う。ベガルタとしても、自分たちが狙っていることを相手が色々な手で防いでくるので、やはり手は多い方が良いのだと思うし、正直そこまで手が回っていないというのも事実のようだ。ただ、その下地になりそうな戦いは表現しているので(ミドルカウンター、ボール保持攻撃)、このまま続けていくしかない。いずれにせよ、ミラーゲームやリトリート、逆にハイプレスをしてくるチームも出てくるので、避けては通れない道になる。

 

人対人のやり方について

 3失点目のシーンは、椎橋が江坂に振り切られたところからスタートしている。こういったリスクは、今取り組んでいるサッカーにはつきものだと思う。敵陣では人基準でハイプレスをかけるベガルタであって、椎橋が江坂に勝ったら「表現したいことができて称賛されるプレー」として語られるのだろうし、成功と失敗は表裏一体ということだ。また、ゲデスが古賀に勝てなかった部分、センターバックが晒され続けて失点を5つもした部分など、どうしても人対人がクローズアップされる試合ではあった。木山監督も試合後コメントでは戦術ではなく個人のレベルアップを促すようなコメントを残していたのだけれど、それはひとつ正解としてやはり今のベガルタは組織的な束で守ったり攻撃したりしないと、簡単に崩壊してしまうのだなと感じる。

 これは、サッカーを高次元に押し上げる取り組みであって、個人なのか組織戦術なのか、勝利なのか内容なのかではない。すべての物事には表があって裏があり、良いところ悪いところがある。重要なのはそれらをきちんと理解して取り組んでいるか、だと思う。この試合も、5失点したから、センターバックがやられたから、守備をがんばるんだ!ではより「負のスパイラル」に入る。お前のダメな部分だと指摘して指導しても選手は失敗を恐れる。失敗を恐れると身体が硬直化する。身体が硬直化するとまた失敗する。失敗するとお前はダメだと言われる。その無限ループになる。こうなると、サッカーを楽しめない、勝負を楽しめない、賭けられない選手になってしまう。ダメだったからダメだというのは簡単だし、それは解決策の提示ではなくただの現象のなぞり書きだ。それに単純だ。この試合を決したのは、ストライカーの差だというのに。

 4-3-3の高い位置でのプレスを推奨するのは、決して人基準ではなく、組織だってパスコースを消したり相手の選択肢を削ぐことができるからだ。今のベガルタはどうしても最後の選手vs選手の部分に振り切れてしまっているような気がする。気がするだけ。いずれにしても、もう一度組織で守る、攻めるをやること。そのなかで当然、勝負なわけであって、相手がそれを崩すように仕掛けてくる。その時、人対人でやらないといけない部分だってある。それはやればいいと思う。重要なのは繰り返すが、どちらか一方に振り切れることではなくて、もっとサッカーを高次元に持っていく作業をやり続けるべきだ。人対人で負けてしまえば、カウンターを許して負ける、だから人対人に強い人を連れてきます、選手を鍛えますだなんて、あまりにも単純で一元的で平面的な解決策だ。小学生の反省文じゃないんだ。どうしても、強敵と当たれば、いわゆる「球際」と呼ばれる部分で勝った負けたが出て来るし、負ける方が多くなる。そこに依存しなくても良いやり方を表現できるのだから、突き詰めてほしいと思っている。

 もちろん言うのは簡単。けれど、組織で守れるところ選手で守れるところがあって、それぞれの良い部分を理解してサッカーをプレーしてほしいと思っている。組織としても伸びて、個人としても伸びるべきだ。それが一番、勝てるやり方だし、勝ち続けるやり方だ。サッカーをもっと高次元に、高いレベルに押し上げる。レベルの高いことに挑戦するというのは、元来、アスリートにとって、スポーツ選手にとってやりがいがあるはずだし、面白いはずだし、楽しいはずだし、ゾクゾクするはずだ。そういう野心をもって、挑戦してほしい。

 

 

おわりに

 僕からは特にもう無い。君たちが一番分かっているはず。僕はいけないけれど、ユアスタ、ホームユアスタだ。1試合でも多く、このユアスタという素晴らしいホームスタジアムで、君たちのサッカーを表現してほしい。野心をもって、プレーを、勝負を楽しんで、決して自分を追い込むな。誰のものでもない君たちのユアスタのピッチで、サッカーをプレーしてくれ。ユアスタのこと、頼んだぞ。いつだってそこは、「劇場」なのだから。

 

 「信じるものは自分で探せ。そして次の世代に伝えるんだ」こう言ったのは、ソリッド・スネークだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

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silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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