蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

ディナイ不要とサッカー③ ~サッカーへの貢献~

はじめに

  どうも、僕です。これまで①②と続いたバスケにおけるディナイ不要をサッカーで見た時にどうかの解釈をしてきました。今回は、実際にサッカーの文脈で見た時に、具体的にどう落とし込めるのかをまとめました。あくまで僕の今時点の解釈ですし、すべてを圧しつけるつもりもないです。ただ実感としては、ゾーナルディンフェスやマンツーマーンディフェンスなどの言葉を使わなくても、きちんと原則を抑えておけば、現象の理解や対処、エラーを理解できるのだと感じています。ということで、長文ですがよろしければどうぞ。では、レッツゴー。

↓前回、前々回のおさらい

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

 

目次

 

ディナイとディナイ不要(ディナイレス)のサッカーへの貢献

 これまでは、ディナイ不要論を通して、バスケにおけるディナイディフェスとディナイ不要を確認しました。確認したうえで、サッカーへの変換と解釈を実施してきました。まずは、ディナイ、ディナイレスのサッカーへの変換と解釈を整理します。

 

  • ディナイディフェンス ・・・人が基準。自分と相手とでボールの所有権が五分五分の状態でボールを奪いにいく。

                いわゆる「デュエル」と呼ばれるプレーなど。

  • ディナイレスディフェンス ・・・選択肢が基準。「奪いにいかないで奪う」守備。

                  相手のパスやドリブルを誘導する。ゾーナルディフェンスに近い考え方。 

*また、footballhackでも以下のように解釈されていますのでご参考まで。

footballhack.jp

 

 さて、変換と解釈と言っても、ディナイレスディフェンス=ゾーナルディフェンスだなんて言うつもりはなくて、重要なのは、このディフェンスの原理原則です。原理原則を理解したうえで、バスケではディナイ不要、サッカーではゾーナルと呼ばれているにすぎないのですから。到達するべき未来は同じです。ということで、ディナイディフェンスとディナイレスディフェンスの原理原則を見ていきます。ディナイはバスケ用語ですので、最終的にどうなるのかは別として、現時点ではサッカー用語で代わる言葉が見当たらないので、たとえばディナイなら人基準の守備、ディナイレスならカバーやコースを守ると言った表現で整理に取り組んでいきます。

 

人基準の守備(ディナイディフェンス)

  この守備は、定義は非常に明確で、「マーカーにボールが渡らないようにする、あるいは渡ってもすぐに奪える状態で守備をする」ことです。具体的には、ボールホルダーへのプレッシングやホルダーからパスが出てボールが転がっている間に、出し先の相手へプレッシングをかけるやり方などです。前線からのプレッシング、転じて前プレなどの構造も同じものと思います。

 人基準の守備では、ボールを受け取った選手が使える時間が圧縮され、スペースや選択肢も限定された状態からプレーを開始する必要があります。守備側としては、相手選手へのプレッシングでボールを奪うことと同時に、相手に「窮屈にプレーしてるな」と思わせる(実際そうする)ことが目的になります。相手とフォーメーションを同じにする「ミラーゲーム」と呼ばれるやり方で、マンツーマン守備のように守ったり、相手陣でのビルドアップを邪魔しようと相手陣にいる選手めがけてプレッシングをかける「ビルドアップ妨害」などが具体的実践になるかと思います。

 享受できる効果としては、

 ①相手にプレーさせない

 ②奪ったら速攻をかけられる

 ③「激しく戦う」姿勢を見せることができる

だと思います。③は酔狂で書いているわけではなく、実際にこう言ったプレーを見せられると味方としては頼もしいですし、相手からすると脅威になります。また、観客からの応援を受けやすいプレーとも言えます。シンパシーを感じやすいプレーと言いますか。

ただ一方で、

 ①1vs1の選手個人の実力差に依存する

 ②勝った負けたに結論がいきやすい

 ③ケガが増える

がデメリットとして挙げられます。

 

 どれも気になるデメリットなのですが、特に③が個人的に気になります。必然的にボディコンタクトが起きやすいので、接触時にケガするリスクは物理的に増えます。ケガすると代わりに控え選手が出ることになりますが、①が際立つ結果になりがちで、最終的には②に帰結していくループに入りかねないです。見かける実践例としては、激しいプレーでボールを奪いにいったけどケガをして控え選手と交代→交代した選手が相手選手からボールを奪えず失点に絡む→「守備が悪いから負けた!」かなと。あとはシンプルに、選手を守りたいですし、少しでもサッカーという競技を長く続けてほしいと思っています。

 人基準のプレッシング、パスカットは、実は相手の攻撃を加速させる副次効果があります。我々の生活においても、たとえば目の前を急に自転車が通過したら身体を素早く、とっさに避けるでしょう。また、ボールが目の前を通ったらすぐに立ち止まるでしょう。人間は、脊髄反射があるように、素早い動きに素早く反応するクセがありまうす。パスを受けようとしていたら、相手が素早くプレッシャーをかけてきたら「奪われないように素早くパス(ドリブル、シュート)しないと!」と行動が速くなります。攻撃側のプレーが速くなれば、人基準の守備ですから、守備側もさらに速くプレッシャーをかけるなど対応して、サッカーが高速化していきます。

 ドイツやイングランドといった、身体的に対応可能であれば別ですが、この高速化の行き着く先は身体機能の優劣に帰結しやすいです。ドイツのプレッシング系のチームが連戦で疲労がたまるとプレッシングが効かなくなったり、イングランド代表がブラジルなど暑い国でのプレーを苦手とするなど、環境面にも大きく影響を受けます。

人基準の守備(ディナイディフェンス) ~加速する攻撃~

 また、攻撃を加速させるのと同時に、円滑にさせる場合もあります。プレッシングをかければ、当然マーカーを外そうと「外す」動きをかけてきます。具体的には、ペドロビッチ監督のチームのように、センターバックの間にMFを落としたり、ウィングバックを高い位置に押し上げたりなど、「選手のポジションをダイナミックに変化させることで、人基準の守備にズレを作る」などでマーカーを外そうとしていました。当然、守備側も「ミラーゲーム」的にフォーメーションを合わせて外されないようにしますが、単なるいたちごっこに過ぎず、FWが落ちたりすることでさらに外す動きを促進させるだけです。

 よって、ペドロビッチ監督のチームとの対戦は、非常にオープンなゲームになりやすく、攻守の入れ替わりも激しかったりするなど、そのなかでも勝てるチームを作っているのだと思います。なお、2019年に優勝したマリノスも、ダイナミックにポジションを入れ替えることで、攻撃を加速化させています。

 あとは、風間八宏さんが率いたチームも、選手個人がプレッシャーを外したり、背中を取る動きが際立っていました。ディナイ不要でも言及されていましたが、人基準のプレッシングやパスカット狙いの守備は、背後にスペースを空けやすく、バックドアカットやパラレラなどの裏抜けに滅法弱いです。なお、ミゲル・ロドリゴの『フットサル戦術パーフェクトバイブル』にも「パスが出る先にプレスをかける。ただプレスがかかっていなければ裏を取られないようラインを維持する」とあります(そこでディナイ不要と繋がってくる)。

 こう言った、ライン裏を狙う動きも誘発して、「がんばってボールを奪おうと闘っているのに一向に奪えないしライン裏ばっかり突かれる」現象が起きてしまいます。結果、試合にも負けてしまって「1vs1に負けたからだ!」と自分を追い詰めて、守備を練習して、また上手くいかなくなっての無限ループになります。何度も言いますが、バランスが重要で、相手選手に前線から激しくプレシャーをかければサッカーの守備はOKというほど、平べったいものではないですがそもそもその局面になったら負けないように戦うのが大前提です。

 

奪わないで奪う守備(ディナイレスディフェス)

  さて、人基準の守備に対して、選択肢を守る守備とでも言いましょうか。ボールを奪いにいかず奪う守備です。パスコースを切りながらボールサイドを限定したり、縦のコース切ったり、パスを出す選択肢を限定するなどの守備です。3ラインを基本に、選手と選手との距離を均等に保ちながら、相手とボールの進行ルートを限定したり、誘導したり防いだりします。

 原則としては、

  ①横切り(ホルダーへのプレッシャーでサイド限定およびライン維持の息継ぎパスをさせない)

  ②6:4ボディバランスでの縦切り(ベースラインを抜かせない)

  ③中央カバー(ホルダーとゴールとを一直線上で結んだラインにパスさせない、ドリブルさせない)。

 の「奪わず奪う守備三原則」があると解釈しています。

 

 具体的な実践例を見ていきましょう。今のJリーグですとロティーナ監督のセレッソが奪わず奪う守備を実践している素晴らしいチームです。ちなみに②縦切りは、厳密にはコースを完全に切るわけではなくて、パスを出されることを許容します。それは、ボールをサイドにあればリスクが減る、サイドにボールが流れると分かれば選択肢を限定できて守りやすいメリットがあります(6:4ボディバランスが必要な理由)。

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 奪わずに奪う守備のメリットは、相手の攻撃(スペーシング)が悪ければ、わざわざ人基準で守備する必要がなく効率的に、また消費エネルギーを抑えて、選手個人の負荷を抑えてディフェンスすることができます。ケガの抑止にも繋がります。たとえば、マリノスがいわゆるブロックを組んだ守備やゾーナルディフェンスに手を焼いているのは、相手の守備をスイッチに加速できないからではないかと推測しています。相手がついて来れないスピードまで加速して振り切るのがマリノスのサッカーの真骨頂ですが、そもそも奪いにいかなければ、相手のプレッシングや守備スピードは上がりません。逆に、誰も守っていないエリアでポジションチェンジやホルダーのサポートを増やしても、守備側に特にダメージを与えられないままになります。

 そうなると、よりポジショナルプレー的思考が必要になってきます。タイミングや動作、良いスペーシングでポジショニングし、選手個人の質的優位性を高めてるやり方です。ポジショナル的思考も、ゴールを奪いにいかずゴールを奪うと、強引に言えるのだと思います。じゃあどこで奪いにいくのか、奪わないのかの攻防が見られ、高次元的な駆け引きになり、サッカーがより深く、高いレベルへとレベルアップしていきます。

奪わないで奪う守備(ディナイレスディフェス) ~駆け引きをしていく~

 2020年ベガルタ仙台のように、ハイブリッドのように見えるやり方もあります。FWがサイドを限定して、その先のスペースへ誘導。ここまでは、奪わず奪う守備(ディナイレスディフェンス)ですが、そのパスコースの先に待つ選手にはマークしてパスカットを狙う人基準(ディナイディフェンス)になります。おそらくは、人基準守備が前提にあり、それを活かすためにサイドやエリアを限定する必要があって、そのための奪わず奪う守備なのだと思います。しかしチーム全体の練度が高まっていないと、選手個人の負担が高かったり体力的に厳しい状況になると、簡単に背中を取られ守備が破綻するリスクがあります。まとめると以下のように。もちろん、速攻で勝つメリットとの天秤にかけることになります。何度も言いますが、駆け引きです。

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 選択肢を守りパスやドライブコースをカバーするような、奪わず奪う守備には、チーム全体が原則を共有し守る必要があります。そのなかで、最後にボールを奪う局面ではフィジカルコンタクトが発生したり、パスカットするロジックです。その一瞬をバックドアカットで狙われたり、フェイクで外されたりするので、サッカーが非常に面白く、高度な駆け引きが繰り広げられるのだと思います。相手の選択肢を限定して相手陣にボールを下げさせたら人基準守備のビルドアップ妨害へ移行。なんて守備をシームレスにやっているチームがあったりします(マルセリーノのバレンシアなど)。そこまでできればプレーしている選手も面白いでしょうし、何より勝負できます。勝負すると駆け引きが生まれ、賭けるプレーが出てリスクとメリットのせめぎ合いが発生します。この正のスパイラルをどんどん回していくことで、選手もチーム、自分も相手もより高い次元のサッカーへと昇華していきます。

 完全に余談ですが、将棋の森内九段は、あえて指し手の多い(=選択肢の多い)手を指します。指し手が多いと、最善手の候補が多いことになりますから、時間制限があるなかでそれらを考えてるのは非常に負担になります。当然ですがミスをする機会も増えます。ディナイ不要の考え方、奪わないで奪う守備の考え方の基本は、まさに森内九段の指し手のような、複数の選択肢を相手に与えてあたかも「自由にプレーできる」と錯覚させることなのかと思います。味方にプレッシャーがかかっていないように見えるからと言ってパスを出すと……あとは分かりますよね。

 

おわりに

 僕がこのディナイ不要論に出会って、実際に何度か文章を読んだり、他の人の解釈を読んだり自分で解釈していくなかで気づいたのは柔術の考え方に近いなと。「競技というひとつの表現方法を通じた自己と他者の相互成長」なのかなと。競技レベルも上がるし、プレーしている本人たちも成長する。正しい技術には、正しい身体が必要で、それらを正しく扱うには正しい精神が必要になります。長らく日本の中盤を支える長谷部誠が整っていると言われる由縁が分かる気がします。また、「相手の無駄な力を利用する」考え方に基づいたプレーが重要になるのかなと。相手の運動エネルギーを使って、相手を倒せれば、自分のエネルギーは使わないですから非常にエコですし、効率的ですし、スマートだと思います。

 何度も言いますが、ディナイだろうがディナイ不要だろうがマンツーマンだろうがゾーナルディフェンスだろうが、それがすべてではなくて、それらはひとつの表現方法に過ぎず、プレーを通して自分たちのプレーをより深く、高いものにしていくのが最も重要なのだなと思います。これからも、サッカーを深く、そして高くしていけるような気づきや学びを見つけていきたいと思います。それにはまず、日々の取り組みを継続することなのだと思います。それでは、また。