蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

ナポリのボール保持攻撃

はじめに

 どうも、僕です。こんなものを書きました。ローマvsナポリのゲーム分析です。

sendaisiro.hatenablog.com

  ローマサイドの記事は、ボール保持も非保持も書いたので、今回はナポリ目線。ボール保持攻撃にフォーカスをあてます。こっちは、ローマの分析記事。 

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ナポリのボール保持攻撃

 

ボックス型ビルドアップとM字型ビルドアップ

 ナポリの基本陣形は、4-4-2。ハーフライン付近、ゾーン2からのビルドアップにおいては、2CB+2CHのボックス型に片側SBが加わる形を採用。逆側SBが高い位置で幅取り(ウィングロール)、ウィングがハーフレーンに立つことで2トップと近い距離を取ります。

 ビルドアップについては、CHが高い位置を取ったSBの元いたスペースに移動したり、自陣に残るSBを逃げ口にしながら、チャンスがあればCBがハーフレーンに立つウィングに楔パスを刺すことを狙います。ボックス型のメリットとして、相手プレス要員を1人か2人にすることができます。また、自陣に入ってくる相手の人数を制限し、カウンター要員を減らす効果も期待できます。まさに、攻守表裏一体です。さらに、CB脇のスペースは、相手プレッシャーがかかりにくい場所なので、誰かが使うことで、小さなズレを生み出すことが期待できます。

 CBがボールを持った時にも力を発揮できるタイプであれば、なおさら、相手2トップのプレッシャーを分散させることができます。ナポリであれば2CHですが、「2CHをマークしておけばよろし」にさせないだけでも、2トップに対して、高い負荷をかけることができます。ナポリであれば、コスタス・マノラスがインサイド表の使い手なので、同じキックモーションから2つのパスレーンにボールを通すことができます。まあ、それはまた、どこかで。

図1

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  ナポリは、片側SBをCB化させることで3バックビルドアップも繰り出します。2CHとM字型を描くことで、パスレーンを増やし、2トップのプレッシャーをこれまた分散させます。また、はじめからハーフレーンに立つことで、楔パスを警戒させ、ワイドレーンにスペースを創ります。ワイドレーンにボールがつけば、相手はスライドして対応するので、中央3レーンが空いてきます(ローマ記事でも書きましたがそこを埋めるチームもいますし、ただ常に合理的には動けないことも事実かなと思います)。相手2トップに対しても数的優位になり、また相手SHが前プレを支援しにくるのであれば、敵陣にスペースができます。こうして、ボックス型とM字型(3バック)を使い分けることで、相手のプレッシャーを分散させ、前線でハーフレーンに待ち構えるカジェホン、インシーニェ、メルテンス、ミリクの強力アタッカーにボールを供給していきます。

図2

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おわりに

 いかに良い形でゴール前に迫るか。それは、現代サッカーにおいて、後方でのビルドアップで良い形を作れるかにかかっています。様々なビルドアップがあるように、その妨害の仕方も日々進化しているように思います。プレッシャーを分散、回避して、ボールを前進させる術をボール保持系のチームだけでなく、今やどんなチームでも標準装備しているような気がします。

 

【我が行方迷いながらも描きかけの今】Jリーグ 第30節 ヴィッセル神戸vsベガルタ仙台 (2-0)

はじめに

 さて、いきましょうか。アウェイ神戸戦のゲーム分析。終わりのはじまり。この世のすべてに始まりがあれば、終わりもまたやってくる。長きにわたる激闘にも終止符が打たれようと今日もまた決戦へと足を運ぶベガルタ。強敵相手に自らの正当性を主張するためにも、そして、この舞台で戦い続ける未来を手に入れるためにも、覚悟と武器を持って立ち向かった。戦いの果てに見えたのは、かつての自分たちだった。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、ハモンに代わってジョンヤ起用。陣形も5-2-3のような形で対抗する。

 神戸は、3-1-4-2を採用。アンカーには、サンペールではなく山口。イニエスタベガルタに照準を合わせるように復帰した。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

還ってきたベールクト型3-2-5

 ベガルタのボール保持時、相手の陣形が整っている時と整っていない時なのだけれど、まずは先に整っていない時、ポジティブトランジション時について。これは、いままでの攻撃の形同様、長沢を中心として構成。さらには選手間距離が短くなっている分、関口と道渕が参加してカウンターを繰り出した。 32分には、ロングトランジションから関口のシュートまで持ち込んでいる。3バックの脇を使う形。ただ、前目で奪って攻撃を狙っていたと思われるこの試合においては、どこまでやりたかったことなのかは少し分からなかった。本当は、前プレで嵌めてうまくいかない状況を作って、ミドルからショートトランジションを繰り出したかった気がする。気がするだけ。

 さて、ボール保持セット攻撃。ポジショナルアタック。意外と時間が取れたこの試合の攻撃。随所に、在りし日の3バック攻撃を見せた。もはや懐かしさすら感じると思ったのだけれど、元号も変わってるし、それはそうだと思った。相手を敵陣に追い込み、3バック+2センターでビルドアップとカウンター予防の下地を作り、WBがウィングロールで5トップを形成するベールクト型3-2-5だ。左サイドでは、CHの松下がハーフレーン/第2レイヤーに立ち、シャドーとWBとCBのトライアングルの中間に立ち、ボール保持の錬成陣を描いた。右サイドの主役は、平岡。まるで鎖を外されたように、ハーフレーン突撃、WB追い越しのオーバーラップを見せた。平岡が高い位置を取ることの有効性は、高い位置でボールを回収できる可能性が高くなることだ。もちろん、攻撃的な理由もあるのだけれど、ボールロストしてもゲーゲンプレスに参加するのがDF平岡となれば、回収確率も上がる。セカンドも拾える。カウンターも予防できる。とかとかとかとかとかとかとかとかとか良いことずくめじゃないか!

 シマオのカバーをするだけが彼の強さのひとつじゃないとか何億回言っても、多分届かないのだろうし、そういうことを言っている状況でもない。

「西村問題」は最後の問題へのヒントになるかもしれない

 結局は、攻略できなかったのが結論だ。どれだけベールクトだ、平岡だで、僕が鼻息荒くブヒブヒ言ったところで結果はノーゴール。1点も入らなかった。結局は、「西村がいなくても点数が取れるサッカーをしていれば西村が現れる」の西村がいなくても点数が取れるサッカーを構築できずに、僕らは2度目の冬を迎えようとしている。たしかに、ロシアほどの寒さを感じる問題ではないのかもしれないのだけれど、ベガルタ仙台が長年に抱えている「自分たちが主導して全員が攻撃と守備を実行すること」の問題解決に繋がるんじゃないかと思っている。

 特に攻撃面。ここ3年間の取り組みなんて序章。今季の躓きなんて遅いくらい。そのくらい根が深い、問題の闇深さ、いや闇の問題なのかもしれない。今季のカウンター攻撃が実は解法かもしれないし、そうじゃないかもしれない。そんなことを久々に思い出させてくれた平岡のボックスへのランニングでしたとさ。敵陣に相手を磔にしながら。 

ボール非保持時

特化型5-2-3ディフェンスと前プレ

 ベガルタのボールを持っていない時の陣形は、5-2-3でセットした。しかも、ただの5-2-3ではなく、対神戸決戦兵器の特化型。無理くり因数分解すれば5-1-1-2-1だった。電話番号。長沢、道渕、関口の3トップユニット、松下と富田がそれぞれ山口とイニエスタを監視。蜂須賀と永戸のWBは、不用意に前にボールを奪いにいかず後方待機。スペースを空けず、相手FWやインテリオールのカットアウトを防ぐ。

 さらには、5-2-3で前プレを選択。後方で沈没するか奇跡が起こるのを待つかを選ばず、自ら勝利と自由を手にするべく、前へ出た。開始2分にお辞儀の代わりに、神戸の3バックビルドアップに対して、関口、長沢が前プレ。これに道渕も呼応。3バックに顔面からプレスを浴びせて、窒息させることが狙いだった。こうなると3トップの背後を使われるのだけれど、残念、人狩り富田と天才松下がいる。アンカーポジションの山口に対して、松下がマークにつき、フラフラとお散歩魔神と化すイニエスタには、首切りバーサーカー富田がついた。ビジャ、古橋、小川に対しては、3バックが担当することで、前線「5人の侍」が決闘できる下地を作った。

図1

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 こうなると神戸としてもベガルタが守っていないところを探す。3トップ脇、2センター脇。ワイドレーン。WB。酒井も藤谷もやや下がり目のポジションで、ハーフディフェンダーからのボールを受けるために降りた。だけどいかない。蜂須賀も永戸もいかない。いけばテトリスブロック崩しをされるので、いかない。寄せずに、誘き出されずにオリジナルポジションを堅持。代わりに関口と道渕のスライド対応で、側面から圧迫した。ボールが下がれば連動して、敵陣でのビルドアップ妨害へと移行。今度は、WBも敵陣までおでかけして人数をかける。①前プレによる妨害、②ゴール前をブロッキング、③敵陣窒息が渡邉ベガルタの用意した神戸攻略フォーマットだった。

図2

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 こうして、ディフェンスライン5人のスペース埋めと3トップ+2センター5人の決闘プレッシングで神戸のポジショナルアタックに対抗。自らがボールの主であるとアウェイの地で宣言した。

イニエスタがCB-WB間に立つという一手

 レーンチェンジ。今いるレーンから別のレーンに移ることなのだけれど、この試合において、ベガルタの用意した対抗型には痛点があった。それは、3トップと2トップの脇を守るのに物理的に時間がかかってしまうことだ。本来というか、従来というか、WBが後方にDFが多いことの優位性を利用して高い位置まで迎撃守備を実行する。ワイドレーンに蓋をして、ボールを追い返す。むしろ、サイドに誘導して地獄万力でタッチラインに圧縮するのが目的だったりする。とても怖い。ただ、この試合において、その役割を果たすのは、あくまでボールを相手陣地に押し込んで窒息させる時だ。相手がボールを持ったら、うかつには飛び込まない。ましてやボールを持つのがイニエスタならなおさらだった。

図3

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 ハーフディフェンダーとWBとの間に立つ。4バックでも、SBとSHとの間にCHが立って、時間とスペースを確保するやり方として、非常にスタンダードなやり方だ。いわゆる手筋というやつに近い。この試合においても、イニエスタは、日課のポジショナル散歩を繰り出しつつ、この場所に立った。さすがのサッカー版和製切り裂きジャックの富田ですら、そこまで張りつくことができなかった。松下を置いていくことになる。そうなれば、もっとも警戒しているハーフレーンをズタズタに引き裂かれてしまう。代わりに対応したのは、ウィング?シャドー?に入った関口と道渕だった。彼らがCB監視とWBへのスライドにアディショナルで与えられた仕事がフラっとブラタモリしてるイニエスタへのプレッシャーだった。

 ただ、構造的に不備がある。そもそも、CBを妨害している2人がこの何とも絶妙なポジションに立つマエストロの時間とスペースを制限するには、時間的な余裕が無い。距離も長い。自然と陣形は、特化型5-2-3から、5-3-2、5-4-1のような形へと変わる。15分の出来事だった。蜂須賀は、WBにピン留めされていて前に出れない。CH含めたディフェンスラインは、数的同数を受け入れることになる。しかもイニエスタには、時間がある。相手CBにも狙いとしている前プレもかかりにくくなれば、前進を許すことになる。こうして、ベガルタの特化型5-2-3ディフェンスは、少しずつスポイルされていった。 

考察

対策なのか貫き通すためなのか

 この試合においては、とても対策色の強い戦い方を敷いてきたベガルタ。たとえば、マリノス戦とかもそうなのだけれど、相手を非常に気にしている戦い方をすることがある。しかも、かなり露骨に。それを表現することに集中して、結局、試合を落とすこともあったのだけれど、この試合においてはそれだけにはとどまらなかった。後方にブロックラインを敷くやり方もあるなか採用したのは、前線からのプレス。これが何を意味するのか。少しでも、相手のボール保持時間を減らすことだったのだと思う。ボールを持ったら強いチームからボールを取り上げてしまえばいいとばかりに。 

 取り上げたあとがなかなかうまくいかなかったので、「サッカーって難しいなあ みつを。」みたいな結果になってしまったのだけれど、もうあとはこの3年間表現してきた、貫いてきたことのバランスを取ることなのだと思う。選手も入れ替わるなかで難しさはある。でもそれが、クラブづくりであり、チームづくりであり、国づくりの根幹だと思う。譲れないものは、なんだ。

おわりに

 春先に問うた。「戦う理由は見つかったか?」と。ボール保持のためのボール保持。相手に打撃を与えるためではなく、弱さを補うためのサポート。走らないボール。動かない味方。一体、何のために戦っているのか。それが分からなかった。いつしか、チームには明確に戦う理由ができた。生き残ることであり、負けないことだった。負けるのは死ぬほど悔しいから。

 今こそ、この「戦う理由は見つかったか?」を問いたいと思う。今季、様々な障害にぶつかりながら、その形を変化させながら生き残ることを第一優先に走り続けていた。では、これからも生き残れるのだろうか。生き残るために、生き残ろうとしていなだろうか。生きて、存在して、この地に何を残したいのだろうか。何のためか。戦いにあけくれるチームに、何が見えているのか。見えてきたのか。宮城のため、仙台のため、クラブのため、家族のため、恩人のため、サポーターのため、タイトルのため。クラブへの誓いかサポーターへの情か。

 主導権を握ろうと勇敢に立ち向かい、自らの意思で戦うことの決意。少しずつ、挑戦していけばいい。見つければいい。振り返れば随分、高い山に登っているじゃないか。

 

 「己がなすべきことは、己自身が見つけるもの。」こう言ったのは、ロジャー・スミスだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

フォンセカ・ローマ 選手間の広いビルドアップ

はじめに

 どうも、僕です。ローマ分析の続きをやっていきます。今回は、ボール保持時、攻撃の部分でビルドアップになります。では、レッツゴー。

  ボール非保持の4-4-2守備はこちら。 

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 試合レビューはこっち。

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ゾーン1のビルドアップ

 ローマのゾーン1(自陣)からのビルドアップは、ボールを繋ぐポゼッション型になります。2CBが大きく広がり、GKを含めてボールを後方から繋ぐ方法を取っています。相手のビルドアップ妨害に応じて、CHの1人がCB間に「アンカー落とし」することで、プレッシャーを分散させます。また、片側のSBを自陣に残すことでカウンターを予防しています。よって、2CB+2CH+SBの5人とGKがビルドアップ隊として、相手のプレッシャーをかわし、前線にボールを供給する下地を作っています。

図1

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 ここで特徴的なのは、選手間の距離です。CBが広がりますが、1人はタッチライン付近のワイドレーンまで広がります。もともと、CBがいた場所にはCHが降りて、もう1人のCHはアンカーポジションに、SBはワイドレーンのまま立ちます。少し大きめの五角形、W字型を作り、綺麗に5レーンに立つことでビルドアップしていきます。選手間距離を広くとることのメリットとして、相手に広いエリアを守らせることができます。当然ボールの方が速いですから、追いつかない局面を作ることができます。また、距離が短いことで、ボール付近に味方も相手も選手を乱立させない状態を作ることができます。

 ボール付近のエリアを「クリアリング」することで、時間とスペースを創り、①ボールホルダーに余計な負荷をかけさせない、②難易度の高いプレーをさせないことができます。それでいて、相手には広いエリアを守らせて、守るなら1人で2人を見させることで負荷を高めています。ナポリ戦においても、CBがワイドレーンに立つことで、相手FWがプレスをかける距離を長くして時間を捻出。前線にボールを供給することができました。

おわりに

 ボールを動かしたり、ポゼッションを高めたりすることにおいては、それが目的ではなく、まずは一番遠いところが空いているか、守っていないとこはどこか、そこにダイレクトにボールを出すことが重要になります。もちろん、相手もやられないためにブロックを低くしたり、選手間、ライン間を狭くして守ってきます(ローマの守備がそのように)。そんな相手を誘き出すやり方として、ボールを動かしてポゼッションするやり方がります。自陣付近で動かせば、相手もカウンターチャンスと見て出てきます。そうなれば、ローマとしても使えるスペースが増えるわけですから、チャンスを作ることができるというロジックになります。

 

フォンセカ・ローマの4-4-2守備

はじめに

 どうも、僕です。今回は、チーム分析。パウロ・フォンセカ監督のローマになります。シャフタール時代も、ソリッドな4-4-2の使い手として知られていたパウロ・フォンセカですが、今季はローマの監督に就任。イタリアの地でも、その手腕を発揮しています。ボール非保持に注目して、簡単にまとめます。では、レッツゴー。

 試合レビュー記事はこちら。

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圧縮型4-4-2による中央3レーン封鎖

 ローマの基本陣形は、4-2-3-1ですが、ボール非保持には4-4-2になります。特徴は、ウィングがピッチを縦5分割にした「5レーン」に則ると、中央とサイドのレーンの中間に位置するハーフレーン(ハーフスペース)に立ち、相手のボール供給を防いでいることにあります。2トップが中央のアンカーを警戒し、ウィングがハーフレーンに入ってくる相手選手を「背中で」監視します。後ろにも目をつけるやつです。もちろん、針の穴を通す精度で、ハーフレーンに楔パスを通すことも可能ですが、逆に言えばそこしか通せないので、守っているローマの選手としては注意する場所がわかりやすくなります。こうして、ピッチに起きる様々な可能性、選択肢を削り、絞ることで自分の力を競り合いやボール奪取のところに十二分に発揮することが可能になります。

図1

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 また、ゾーナルにピッチを守ることで、相手選手の侵入およびボールの前進を防いでいます。相手としては、ボールを前進できる場所としてサイド、ワイドレーンになりますが、ハーフラインとディフェンスラインがスライドすることで、サイドのスペースを「縦に細く」圧縮します。こうすることで、相手のプレーの選択肢を削り、ボールを下げさせ自陣から遠ざけることができます。ここでも、2CHのスライドにプラスして、ボールサイドとは逆サイドのウィングが中央にスライドして守ることで、中央3レーンの警戒レベルを維持したままサイドも守ることができます。

図2

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 練度の高い圧縮型4-4-2は、ボールを持っていない時の陣形として非常に強力でありますが、やはりワイドレーンを大きく空けていること、サイドが気になって中央が空くことが弱点としてあります。人間は最も合理的な選択ではなく、より合理的な選択をする生き物ですから、その時々で迷ったり、瞬間の判断を誤ったりしてしまいます。こういうことをサッカーにおいて、よく「隙を見せる」なんて言葉で片付けられてしまいますが、その「隙を突く」ことは容易ではありません。

おわりに

 現代サッカーにおいて、プレーの選択肢が多くなる中央3レーンの重要性、特にハーフレーン(ハーフスペース)の重要性は高まっています。ボールを持っていない側の守備についても、ここをいかに守るかが大きなテーマになっており、圧縮型4-4-2のゾーン守備はひとつの解になっているのかなと思っています。

 

 

【似ているようで似ていない】セリエA 第11節 ローマvsナポリ(2-1)

はじめに

 どうも、僕です。今回は、久しぶりの高速レビューチャレンジ。というよりは、ハーフタイム15分、試合終了後15分でまとめるチャレンジです。試合は、セリエAのローマvsナポリ。では、レッツゴー。

前半

 ローマのオリジナルフォーメーションは、4-2-3-1。ボール保持時には、2CB+2CHに片側のSBが加わる形で、自陣(ゾーン1)からボールを繋ぐ形でビルドアップ開始。CB間にCHが1人降りるアンカー落としで、3CBでビルドアップを安定させていいた。一方のボール非保持時には、4-4-2でセット。2人のウィングがハーフレーン入口に立つことで、ナポリの楔パスを警戒。2トップも、相手CHに基準を置き、CBへのプレッシャーは厳しく与えず、時間とスペースを与えた。

 対するナポリ。オリジナルは、4-4-2でボール非保持時も同じ形。ボール保持時も同様の形に近いのだけれど、ビルドアップは、ローマと似ていて2CB+2CHに片側SBをCBに加える左右非対称のビルドアップ。ローマにハーフレーンを警戒されるものの、ウィングのインシーニェ、カジェホンは、SH-CH間の隙間を狙ってポジションを取った。よって、陣形としては4-2-2-2に近い形になる。また、ナポリのハーフレーン攻略は、インシーニェだけでなく、2トップの一角に入ったメルテンスも実行。インシーニェがワイドレーンに張っているのであれば、メルテンスがハーフレーンに立つことで、ローマのコンパクトな4-4-2ブロックを少しでも開ける作業と大きく開かなくても隙間で受けられるよう準備をしていた。サッリ時代を思い出させるようにナポリのボール保持攻撃は、左サイドを中心に攻撃されていた。

 一方で、ボール非保持時については、ビルドアップ妨害時にローマの選手と1対1が作れるようにポジションを取る。降りるCHにはCHがついていき、2トップ+トップ下のような形になる。ウィングも片側に残るSB、高い位置を取るSBにそれぞれをマークすることで、左右非対称なローマのビルドアップに合わせる形で左右非対称にビルドアップ妨害を実行。ただし、18分の先制シーンはそのほころびを突かれることになる。DFラインは、ゾーン意識が高く、ハーフライン以降がローマの選手が基準になることで、ビルドアップ妨害を外され、トランジション局面のようないわゆる擬似カウンターでナポリ左サイドを突破されゴールへと繋がった。

 ローマもゴール後は、ナポリの攻撃を受ける時間が続き、PKストップ、ポストやバーに救われるシーンがあったものの無失点で前半を終える。4-4-2で中央3レーンを守っているのだけれど、空いているワイドレーンも使ってくるナポリに対して、我慢してハーフレーンを守り続けることができるか。あるいは、サイドですり潰す、クロスをはね返すといった守備ができるのかが鍵になる気がする。ナポリは、左からの攻撃での一点突破と圧縮守備への定石であるサイドチェンジを有効に使いたい。

 ローマが1-0でナポリをリードして前半終了。

 後半

 開始から、ローマが前プレの姿勢を見せる。4-4-2圧縮の痛点である大外からの攻撃への対応は、つまるところ、ボールを奪うエリアを一段上げたことになる。こうなると、ナポリ同様、外された後にカウンターを受けることになるのだけれど、前で取り切ってしまう策なのだと思う。対するナポリも、サッリ時代から散々ビルドアップ妨害への回避はやってきているので、当時ほどではないのだけれど、ロンド回避でボールを前線に運んでいく。そのなかで、58分のPKによるローマの追加点は、ナポリにとっても痛いものだった。

 ただ、ナポリも、上記の狙いとは少し違うのだけれど、中盤でのトランジション斬り合いでボールを奪い、DFラインをさらして右サイドを突破。最後は、ローポストからのセグンドクロス、ファー詰めで追撃に成功している。ナポリとしては、前線のミリク、メルテンス、インシーニェ、カジェホンの4人のアタッカーが攻撃の核になるだけあって、ボール非保持時のリトリートディフェンスにリソースを割きたくない思いがあるのかもしれない。むしろ、ビルドアップ妨害の前プレで、ショートトランジションによるカウンターからの形の方が合っているのかもしれない。

 一方のローマは、4-4-2で中央3レーンを守りつつ、サイドに誘導して奪っていくやり方が基本型なのだけれど、前線からのプレッシャーも標準装備しているところを表現した。ただやはり、2センター脇、ハーフレーンで受けようとする選手にはボールが通るので、ナポリ同様、ボールが出る元を潰し込むか、出た先で消し込むかを落とし込む必要がある。特にナポリは、CBにクリバリがいて、前線が人基準でボールを誘導して楔パスを出させるのもクリバリのところで回収できる算段があるからかもしれない。

 そんなこんなで、最終スコアは、ローマが2-1でナポリを下している。同じ4-4-2でボール非保持に構える両者でも、自チームや相手との都合、状況によって、ボールの奪うポイントが設計されているように見えた。

おわりに

 とても面白い試合でした。自分たちのボール回収ポイントの設定イコール攻撃の開始地点になることをはっきりと教えてもらえる試合でした。ナイフを突きつけても、その先にあるナイフが自分の方を向いている。そんな試合でした。逆に言うと自分たちのロストポイントが分かっていないと、なかなか守っているのも大変なのだと改めて痛感しました。ぜひお時間ある時にでも見てみてください。では、また。

 

【振り向くな、突き進め】Jリーグ 第29節 名古屋グランパスvsベガルタ仙台 (0-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか!アウェイ名古屋戦のゲーム分析!ユアスタでの敗北。それでも時は待ってはくれない。敗戦のショックと未来への希望を抱え、次なる戦いへと挑むは瑞穂。どんな理由があれ、負けるわけにはいかない。どちらかが生き、どちらかが死ぬ。私たちはそういう宿命。生き残りをかけた戦いの先に見えてきた世界は。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。CBにシマオが復帰。ハモンはコンディションの良さが継続できているのか、今日もスタメンに。

 一方の名古屋。風間八宏革命軍は解散され、FC東京鳥栖で実績のあるマッシモ・フィッカデンティを招聘。フォーメーションも4-3-2-1と、よく言えばバランスの良い、ひねくれた言い方をすれば、後方が重いやり方で臨む。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

数少ないボール保持で見せた4-4-2攻略のお手本

 ベガルタのボール保持時、相手の守備陣形が整っている場合は、3-1-4-2へと変形。 試合序盤はFW前田がアンカーケアをしていたのだけれど、シャビエルがトップ下になってからは、強度が低くなったこともあって松下がボールを持つ時間とスペースができた。43分に永戸のアイソレーションからあわや決定機を創り出すなど4-4-2の弱点であるワイドゾーンを利用してボールを前進させた。また、アンカー松下の脇のスペースを道渕が有効活用。トムキャット可変で下がって受けて、そのままCHポジションでボールを受け直すシーンもあった。CBがワイドに広がり、蜂須賀が高い位置を取るので、5レーンの原則からするとなんら問題はない。富田と道渕がCH、松下がより高い位置にポジション取りした場面もある。道渕は、トランジション、ボールを持つ・持たないが切り替わる局面における速度、初速が非常に速い。たとえば、ポジション移動していても、ボールを奪われたら奪い返す、奪ったら前に出る速度がチームでも高速だ。この「トランジションの初速」のおかげで、自分の持ち場を離れていてもすぐにリカバリーできる気がする。気がするだけ。

図1

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ボール非保持時

名古屋の左右非対称攻撃と4-4-2ゾーナル守備

 ベガルタのセット守備は、4-4-2のまま。2トップが相手CH、アンカーに基準を置いて、CBにはスペースと時間を与えるやり方だ。自陣近くでボール回収できる自信と算段が無い限りは、採用にはリスクが伴うのだけれど、我々にはシマオ・マテがいる。基本は、というより、札幌戦から表現しているCBからCHへのパスレーンを切りながら、ボールサイドを限定して、CBがパスを出した先で決闘して潰し込むやり方だ。前節山雅戦では、誘導してパスを出させてもシマオがいないことがもろに出てしまった。この試合では、2週間の準備とシマオの復帰で、ボールを持っていない時の振る舞いについては、ほぼ完璧なブロッキングを見せた。

 対抗する名古屋は、4-3-2-1なのか、4-3-シャビエル-2なのか、4-4-1-1なのか、シャビエルのポジションがフリーロールっぽいので、なかなか数列表記にするのが難しい。電話番号。総じていえば、4-4-2系のチームで捉えておけば良いと思う。さらには、シャビエルがいる左サイド、前田がいる右サイドで攻撃構造が少し違っていた。

図2

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 名古屋左サイドの攻撃は、SB吉田が高い位置を取るウィングロール。シャビエルがハーフレーンや列降ろしでポジションを変える。CHの米本とハーフレーンで協働して、ベガルタ4-4-2の痛点である2トップ脇、ハーフレーンを利用して、ボール前進を図っていた。対するベガルタ。関口の5バック化で吉田のウィングロールに対抗。初めから使いたいスペースを埋めるやり方だ。こうなると名古屋にとっても、左サイドが埋められている状況で、しかも守備バランスの大義名分でカウンター予防にひとを割くことで、ブロックを決壊させるまでには至らなかった。であればと、サイド振り替えで右サイドにボールを移動させる。

図3

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 その名古屋右サイド攻撃。こちらは、FWの前田がハーフレーンからSB背後へ飛び出していくカットアウトでベガルタ守備を混乱させようとしていた。実際、ベガルタの陣形が整っていない、トランジション局面においては、シマオをサイドに誘い出すシーンもあり有効であった(開始54秒の初撃は新体制において狙いの形だったのではと思う)。ただ、ベガルタもリトリート速度が速く、攻撃時に陣形が崩れていてもボール付近にゲーゲンプレスをかけることで、リトリート時間を稼ぐことができた。できるだけ名古屋に「ベガルタの陣形が整った状態で攻撃させる」ことで、相手を焦れさせ、守備を意識した攻撃陣形を崩して攻めてくれることを誘った。前田、太田の2人称攻撃においては、蜂須賀と道渕がスペースと時間を圧縮するような守備で対応。2トップもCHを監視することで、相手が「守備バランスを崩して攻めたくなる守備」を表現できていたと思う。

4-4-2の痛点「2トップ脇」を構造で突く名古屋

 対する名古屋の攻め手。サイド振り替えるものの、ベガルタとしては想定通り。クロスを上げても中央には、シマオ含めたCBとSBが構えている。でも守備陣形は崩せない。となると、構造的に時間とスペースがあるところから攻めるしかない。それがベガルタ2トップ脇だった。そもそも、2vs3で数的不利で理論上ボールを持てる場所だ。そして実践上でも持った。それが3センターのひとり和泉だった。和泉は、2トップの脇、道渕の正面、ハーフレーン入口からハーフレーンに侵入。太田を意識する道渕に対して選択を迫った。蜂須賀が対応するシーンもあったのだけれど、もちろんその裏を太田に使われている。

 ベガルタの対抗型は、全体のブロックラインを下げることだった。和泉の前進を許しつつ、太田に出たら対応。そうなると前進された分押し込まれて、よりリトリート現象が進む。これが前半の途中あたりから、自陣での守備を強いられた要因だと思う。引き付けて受けるとは聞こえは良いのだけれど、自陣で窒息しかねないやり方で、長沢、ハモンの出口があったからまだ成立していた。アウェイマリノス戦のように、「自陣回収→ロングキックで陣地回復狙う→収まらず相手ボール」の無間地獄になりかねない。長沢とハモンがボールを収められ続けた理由は、少し分からなかった。日ごろの行いが良かったことにする。するだけ。

図4

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 後半、名古屋がネットと赤崎を投入して、明確な4-4-2で攻めるようになってからは、4-4-2vs4-4-2の展開らしくプレスも嵌り、剥がすか剥がされないかの個人の戦いになった。ネットがアンカー落とで3バックビルドになるので、やはり2トップ脇からボールを前進させられた。結果としては押し込まれたのだけれど、ではそこからのクロスで危ないシーンは、まあ2回くらいあった気がするけど、破綻するようには見えなかった。最後はジョンヤを投入して5-4-1に、椎橋投入で5-3-2にしてクロージング成功。「勝ちをもぎ取る作業」を徹底して達成した。

考察

勝ち点を得るサッカー

 この試合の得点は、CKとPKの2点。スタッツで見てもボール支配率もパス成功率も相手を下回る。まあ言ってしまえば、結果だけをもぎ取った、とも言える数字になる。前節山雅戦、今節名古屋戦は、ボールを持ってがテーマになる、なりそうな試合だった。前節敗戦を喫したことも影響があってなのか、この試合は徹底的にボールを持たない時に注力した。今シーズンは、春先の咎を受けていることから、勝ち点を得る作業に重きが置かれているし、実行できたりできなかったりしている。残り5試合についても同様で、ルヴァンや天皇杯で置いてきた勝利を得ることに対してのチャレンジングなテーマになるのだと思う。

おわりに

 いつのまにか、霧雨は止み、曇天の瑞穂になっていた。灰色の世界に、赤と黄金と芝の緑が見事なコントラストを描いていた。たなびく旗。覚悟を決めたチャント。ベガルタ仙台コール。時折訪れる静寂の瑞穂には十分すぎるほどに響き渡った。名古屋に訪れる静寂は、静観か、不安か、それともビッグクラブの矜持か。試合後の道中、感情が消えた名古屋サポーターの子どもを相手に、休日のイベントとしての思い出写真を嬉々として撮ろうとする両親。サッカーは勝ち負けの結果でしかないと同時に、それが僕たちの人生まで浸食するものではない。

 それでも、相手がどうあれ、僕たちは勝った。サッカーで勝った。一体何が正しいのか分からないこの世の中において、こと、サッカーの試合においては勝ち負け引き分けが正当に線引きされる。その線引き作業を自ら突き進んで行うのだと、チームが意思表明するのであれば、僕たちもまたそれが折れないように支えるほかない。何よりこのクラブには勝利が足りない。もっと貪欲に、何が何でも勝利を。もっともっと。ここで止まるわけにはいかない。サポーターに挨拶を終えた選手たち。ロッカールームに引き上げる背中。進め。

 

「You just wait. I’m going to be the biggest Chinese Star in the world.(覚えてろよ、俺は世界一の中国人スターになる。)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

【狭間】Jリーグ 第28節 ベガルタ仙台vs松本山雅FC (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム松本山雅戦のゲーム分析。ついに戦いの幕があがった。前節マリノスに追撃し、反撃の狼煙を上げたベガルタ仙台。次なる戦いがディビジョンを懸けた戦い。監督を失い、戦い方が変わるチームもあるなか、変わらない戦いで生き残りを図る松本。ただ、ピッチに映し出されたのは、ベガルタが長年突きつけられている最後の問題だった。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2。CBにはシマオの代わりに皇帝ジョンヤがスタメン入り。ボール保持時もお任せといったところだ。

 一方の松本山雅。3センターに町田、杉本とボール操作に長けた選手が入る。彼らにも彼らなりの課題があって、解決しようとしているのだと思う。でも、目の前の一勝も必要。狭間。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

ぺナ幅5バックと3センターの壁を超えろ

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CH中心のボックス型、逆丁字型ビルドアップが中心だった。富田の列降ろしで、平岡、ジョンヤが2トップ脇のハーフレーンに立つか、松下が2トップ脇に立つかでビルドアップ型が変わったぐらいの変形だった。

 対する山雅の対抗型。5-3-2のブロッキングなのだけれど、特徴はペナルティボックス幅、いわゆるぺナ幅、長辺の長さで5バックのブロックを組んだ。加えて3センターが鬼スライドでサイド対応、アンカーがトムキャットウィンガーのレーンチェンジに対応するので、ボールサイドで非常に強固なブロックが出来上がった。松本城

 3センターのサイドスライド対応によって、WBがゴール前のスペース管理に頭を使うことができるので、仮にサイドに出ても、問題なく対処できることになる。 

図1

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 ベガルタの特徴的な攻撃戦術として、FWのカットアウトランがある。中央から、SB背後へのランニングでボールを引き出すやり方があるのだけれど、WBが初めから使いたいスペースを埋めているとなると、そこにボールを出してもクリーンにFWがボールを持てなくなる。また、3センターのスライド対応で、SBからのクロス、アンカー藤田によるウィングのハーフレーン封じでボールサイドを完全に窒息しにかかってきた。恐るべき反町山雅。これで完全に攻撃の初撃を封じられたベガルタ。じゃあシンプルに、「相手が守ってないところを攻めましょう」だ。

サイドチェンジでWBと1on1を生み出す

  5-3-2圧縮と鬼スライドにはそれなりに弱点がある。逆サイドだ。5人がボックスベタ張り、3センターがサイド対応となれば、当然構造的な痛点は空いた逆のサイドになる。ベガルタは、ボールが詰まれば、松下や富田、2CBを使って、逆サイドへの振り替えを実行した。

図2

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図3

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 右サイドが詰まれば、永戸、関口サイドが空いている。レーンスキップパスを使って、スピードアップさせてサイドチェンジして、なんとかWBをボックス前から引っぺがし永戸や蜂須賀と勝負させる展開に持ち込もうとした。

 それによって、WB背後のスペースが解放され、FWが飛び込んでいくスペースも生まれる。また、そのままドリブルで突っ込んでいくこともできる。攻撃に奥行きが生まれる。55分の攻撃も、中央3レーンに相手が密集することを利用して、左ハーフレーンを中心に相手を寄せて、右ワイドレーンで構えていた蜂須賀に展開してる。こうなると3センターでは時間的に対応できない。仕方なくWBが対応することになる。あとは芋づるだ。

「ミチ」「ハチ」のハーフレーン攻略

 前半開始から見せていた形、23分に素晴らしい形を見せた右サイド、道渕、蜂須賀のワイドコンビによるハーフレーン攻略。これもまた、WBを狙い撃ちにしたやり方だった。まずは蜂須賀。いわゆる偽SBなんても呼ばれるアラバロール、「SBのハーフレーンへのレーンチェンジ」を見せる。

図4

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 ここで偽SB、アラバロールの狙いを簡単におさらい。そもそも、偽SBの狙いは相手のワイドポジションの選手を中央に押し留め、味方ウィングへのパスレーンを空けること。そして、初めからハーフレーンに立つことでカウンターを受けた際の防波堤になる(サイドはゴールから遠いので、直線的なカウンターより後手対応でも時間を稼ぐことができる)。

 この試合の蜂須賀についても似たような役割な気がする。気がするだけ。サイド対応の杉本を中央に押し留めて、ミチがWBと勝負できる展開を作りたかったのだと思う。ここに松下が加わってトライアングル形成することで、一気に攻撃の型を作ったのが23分の攻撃だった。

図5

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 2トップ脇に構える松下。松下から離れてハーフレーンを駆け上がる蜂須賀。逆に松下に寄る道渕。スペーシングだ。サイド対応の杉本がサイドに出るが、さすがに対面する道渕を無視はできないWB。どうする。どうする。そんなことを考えている間に、蜂須賀が迫っている。この一瞬の戦術負荷がWB背後にわずかにスペースを生むことになる。

 三角形ならWBが余る対応で問題なかった山雅。逆三角形で強く当たられると、誰がどう見るか光速脳内相談が始まっていた。例えば、ここに4人目の男がオフボールでランニングしてくると、たちまち大混乱だったのだけれど、ベガルタもそこまでのリスクテイクをせず。また、時間経過するにつれて、ハーフレーン道渕、ワイドレーン蜂須賀のいつもの形に戻っていった。しかも蜂須賀のクロス連続攻撃付きで。

 久々のボール保持攻撃。随所に良い記号が見え隠れする。そう隠れるのだ。今のチームのストロングを出すためのボール保持攻撃なら全く問題ないはずだ。実際、この試合でその片鱗を見せている。隠さず、爪を出し続けてほしかったなと思う。でもサッカーは難しい。

絶望の5-4-1

 そうこうしているうちに、65分に隼磨が入ってくる。山雅のブロックが5-4-1に変形する。これが結果的には、投了図になった。サイド対応で負荷をかけて逆サイドへの展開でスライドを強要させていたのだけれど、4ハーフ相手にはあまり効かない。WBとの勝負機会も減ってしまうことに。ここで頭を切り替えて、ハーフレーンを中心とした中央3レーン攻略に軸足を移せばよかったのだけれど、ブレーキも方向転換もかからず。今季のチームの特徴なのだけれど、こっちと言ったらこっちに行ったきりだし、あっちと言ったらあっちばかり行ってしまうし、とても極端だ。その間に、狭間に常識があるのかなと思っていたりしているなどして過ごしている。 

ボール非保持時

シマオが剣を突きつけた日

 この試合、これまでスーパーなディフェンスを表現していたシマオが不在だった。ある意味、ボール保持が増える展開が予想され、ジョンヤへの期待が大きかった。ただ、先制点の場面にシマオに頼り切っていたチームの現状が出る。セルジーニョに刺されたパスをジョンヤが潰し切らずにそのまま繋がれ、最後は彼にゴールまで許している。もちろん、ジョンヤが悪いということを言いたいのではない。平岡もカバーするそぶりも見せないし、前線のプレス隊はまるでDFラインに刺されることを許容しているようなゾーンの開き具合だった。

 僕はいつだったかの記事で、松下依存が進むのではと思っていたがそれはシマオになりそうだと書いた気がする。気がするだけかもしれないのだけれど、この試合はそれが現実になってしまった。正直なところ、防衛網が崩壊していた守備陣に光明をもたらしたのが、シマオ・マテとヤクブ・スウォビクの2人だ。彼らが「最後は」なんとか繋がれてきた負のバトン、小さなズレから膨らんだ大きなずれ、守備のツケを取り払ってくれた。この試合、山雅もベガルタも、じゃあシマオがいないとどうなの?は気にしていたはずで。それを試さない反町監督ではないはずで。それがあっさりとゴールをスーペルゴラッソだとしても、それまでの過程があまりにも怠惰すぎる。冗談でしか言っていないのだけれど、「締まった良い守備」がシマオだけにならないことを今後祈っている。

考察

ボールを保持していくことについて

 これがベガルタ仙台に問いかけられている「最後の問題」だと思っている。J2時代から、テグの時代から、アーニーで挫折したあのころから、10年単位の問題であって、挑戦者、持たざるもの、弱者としてのベガルタには独特の力がある。シアターオブユアスタの力もあって、不思議な力が湧いて来る。じゃあ、持つ側に回ったら?その問いかけに様々な監督が色んな解法を用いて解き明かそうとトライしたのだけれど、結局のところ今何かが見えているかと言われたら何とも言えない。この3年間。5レーンを導入して、ポジショニングやボール交換という「解法」でもって、この最後の問題に取り組んでいる最中だ。今が一番ボールを持たない時間を大事にしているし、数少ないチャンスをものにすることには長けているかもしれない。極端とは言ったのだけれど、極端に振れながら、最後は振り子が中央に来てくれれば良いなと思う。残りの試合も、ボールを持てそうだなと思うチーム、持てなさそうだなと思う、どっちでもないけど渡しそうだなと思うチームとかとかとかとか。ひとつも、無駄な試合は無いと思う。結果も成果も。 

おわりに

  「なつかしさとそしておもしろかった。」こう言ったら多分、僕は怒られるだろうし、自分でも何言ってんだと思う。もちろん結果は満足してないし、試合内容の全てがそうだとは言わない。でも、後半開始15分間は、主導権を握って相手を動かして、自分たちが優位に立てる戦い方を実行していた。できるしやれる。これが僕の思いだ。だから、逃げずに戦ってほしい。失われたものは大きすぎるのだけれど、死は背中から鋭く迫ってくるのだけれど、それでも歩みを止めてしまってはそれこそ、死が恐ろしく早く背後から突き刺してくる。手は手でなければ洗えない。得ようと思ったらまず与えよと言ったのはゲーテなのだけれど、間違うことができないワンチャンスをものにするサッカーより、何度も何度も失敗してトライして成功し続けるサッカーにもう一度だけ挑戦してほしいなと思う。きっと僕の理想が届くことはない。ないけど、言ったていいじゃない。狭間にいる彼らがきっと僕の理想以上のそれを表現してくれるのだから。

 

「結局、自分の運は自分でつかまないとね。」こう言ったのは、フェイ・ヴァレンタインだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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birdseyefc.com

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html