蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【我が行方迷いながらも描きかけの今】Jリーグ 第30節 ヴィッセル神戸vsベガルタ仙台 (2-0)

はじめに

 さて、いきましょうか。アウェイ神戸戦のゲーム分析。終わりのはじまり。この世のすべてに始まりがあれば、終わりもまたやってくる。長きにわたる激闘にも終止符が打たれようと今日もまた決戦へと足を運ぶベガルタ。強敵相手に自らの正当性を主張するためにも、そして、この舞台で戦い続ける未来を手に入れるためにも、覚悟と武器を持って立ち向かった。戦いの果てに見えたのは、かつての自分たちだった。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

f:id:sendaisiro:20191106212106p:plain

 ベガルタは、ハモンに代わってジョンヤ起用。陣形も5-2-3のような形で対抗する。

 神戸は、3-1-4-2を採用。アンカーには、サンペールではなく山口。イニエスタベガルタに照準を合わせるように復帰した。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

還ってきたベールクト型3-2-5

 ベガルタのボール保持時、相手の陣形が整っている時と整っていない時なのだけれど、まずは先に整っていない時、ポジティブトランジション時について。これは、いままでの攻撃の形同様、長沢を中心として構成。さらには選手間距離が短くなっている分、関口と道渕が参加してカウンターを繰り出した。 32分には、ロングトランジションから関口のシュートまで持ち込んでいる。3バックの脇を使う形。ただ、前目で奪って攻撃を狙っていたと思われるこの試合においては、どこまでやりたかったことなのかは少し分からなかった。本当は、前プレで嵌めてうまくいかない状況を作って、ミドルからショートトランジションを繰り出したかった気がする。気がするだけ。

 さて、ボール保持セット攻撃。ポジショナルアタック。意外と時間が取れたこの試合の攻撃。随所に、在りし日の3バック攻撃を見せた。もはや懐かしさすら感じると思ったのだけれど、元号も変わってるし、それはそうだと思った。相手を敵陣に追い込み、3バック+2センターでビルドアップとカウンター予防の下地を作り、WBがウィングロールで5トップを形成するベールクト型3-2-5だ。左サイドでは、CHの松下がハーフレーン/第2レイヤーに立ち、シャドーとWBとCBのトライアングルの中間に立ち、ボール保持の錬成陣を描いた。右サイドの主役は、平岡。まるで鎖を外されたように、ハーフレーン突撃、WB追い越しのオーバーラップを見せた。平岡が高い位置を取ることの有効性は、高い位置でボールを回収できる可能性が高くなることだ。もちろん、攻撃的な理由もあるのだけれど、ボールロストしてもゲーゲンプレスに参加するのがDF平岡となれば、回収確率も上がる。セカンドも拾える。カウンターも予防できる。とかとかとかとかとかとかとかとかとか良いことずくめじゃないか!

 シマオのカバーをするだけが彼の強さのひとつじゃないとか何億回言っても、多分届かないのだろうし、そういうことを言っている状況でもない。

「西村問題」は最後の問題へのヒントになるかもしれない

 結局は、攻略できなかったのが結論だ。どれだけベールクトだ、平岡だで、僕が鼻息荒くブヒブヒ言ったところで結果はノーゴール。1点も入らなかった。結局は、「西村がいなくても点数が取れるサッカーをしていれば西村が現れる」の西村がいなくても点数が取れるサッカーを構築できずに、僕らは2度目の冬を迎えようとしている。たしかに、ロシアほどの寒さを感じる問題ではないのかもしれないのだけれど、ベガルタ仙台が長年に抱えている「自分たちが主導して全員が攻撃と守備を実行すること」の問題解決に繋がるんじゃないかと思っている。

 特に攻撃面。ここ3年間の取り組みなんて序章。今季の躓きなんて遅いくらい。そのくらい根が深い、問題の闇深さ、いや闇の問題なのかもしれない。今季のカウンター攻撃が実は解法かもしれないし、そうじゃないかもしれない。そんなことを久々に思い出させてくれた平岡のボックスへのランニングでしたとさ。敵陣に相手を磔にしながら。 

ボール非保持時

特化型5-2-3ディフェンスと前プレ

 ベガルタのボールを持っていない時の陣形は、5-2-3でセットした。しかも、ただの5-2-3ではなく、対神戸決戦兵器の特化型。無理くり因数分解すれば5-1-1-2-1だった。電話番号。長沢、道渕、関口の3トップユニット、松下と富田がそれぞれ山口とイニエスタを監視。蜂須賀と永戸のWBは、不用意に前にボールを奪いにいかず後方待機。スペースを空けず、相手FWやインテリオールのカットアウトを防ぐ。

 さらには、5-2-3で前プレを選択。後方で沈没するか奇跡が起こるのを待つかを選ばず、自ら勝利と自由を手にするべく、前へ出た。開始2分にお辞儀の代わりに、神戸の3バックビルドアップに対して、関口、長沢が前プレ。これに道渕も呼応。3バックに顔面からプレスを浴びせて、窒息させることが狙いだった。こうなると3トップの背後を使われるのだけれど、残念、人狩り富田と天才松下がいる。アンカーポジションの山口に対して、松下がマークにつき、フラフラとお散歩魔神と化すイニエスタには、首切りバーサーカー富田がついた。ビジャ、古橋、小川に対しては、3バックが担当することで、前線「5人の侍」が決闘できる下地を作った。

図1

f:id:sendaisiro:20191106212154p:plain

 こうなると神戸としてもベガルタが守っていないところを探す。3トップ脇、2センター脇。ワイドレーン。WB。酒井も藤谷もやや下がり目のポジションで、ハーフディフェンダーからのボールを受けるために降りた。だけどいかない。蜂須賀も永戸もいかない。いけばテトリスブロック崩しをされるので、いかない。寄せずに、誘き出されずにオリジナルポジションを堅持。代わりに関口と道渕のスライド対応で、側面から圧迫した。ボールが下がれば連動して、敵陣でのビルドアップ妨害へと移行。今度は、WBも敵陣までおでかけして人数をかける。①前プレによる妨害、②ゴール前をブロッキング、③敵陣窒息が渡邉ベガルタの用意した神戸攻略フォーマットだった。

図2

f:id:sendaisiro:20191106212218p:plain

 こうして、ディフェンスライン5人のスペース埋めと3トップ+2センター5人の決闘プレッシングで神戸のポジショナルアタックに対抗。自らがボールの主であるとアウェイの地で宣言した。

イニエスタがCB-WB間に立つという一手

 レーンチェンジ。今いるレーンから別のレーンに移ることなのだけれど、この試合において、ベガルタの用意した対抗型には痛点があった。それは、3トップと2トップの脇を守るのに物理的に時間がかかってしまうことだ。本来というか、従来というか、WBが後方にDFが多いことの優位性を利用して高い位置まで迎撃守備を実行する。ワイドレーンに蓋をして、ボールを追い返す。むしろ、サイドに誘導して地獄万力でタッチラインに圧縮するのが目的だったりする。とても怖い。ただ、この試合において、その役割を果たすのは、あくまでボールを相手陣地に押し込んで窒息させる時だ。相手がボールを持ったら、うかつには飛び込まない。ましてやボールを持つのがイニエスタならなおさらだった。

図3

f:id:sendaisiro:20191106212258p:plain

 ハーフディフェンダーとWBとの間に立つ。4バックでも、SBとSHとの間にCHが立って、時間とスペースを確保するやり方として、非常にスタンダードなやり方だ。いわゆる手筋というやつに近い。この試合においても、イニエスタは、日課のポジショナル散歩を繰り出しつつ、この場所に立った。さすがのサッカー版和製切り裂きジャックの富田ですら、そこまで張りつくことができなかった。松下を置いていくことになる。そうなれば、もっとも警戒しているハーフレーンをズタズタに引き裂かれてしまう。代わりに対応したのは、ウィング?シャドー?に入った関口と道渕だった。彼らがCB監視とWBへのスライドにアディショナルで与えられた仕事がフラっとブラタモリしてるイニエスタへのプレッシャーだった。

 ただ、構造的に不備がある。そもそも、CBを妨害している2人がこの何とも絶妙なポジションに立つマエストロの時間とスペースを制限するには、時間的な余裕が無い。距離も長い。自然と陣形は、特化型5-2-3から、5-3-2、5-4-1のような形へと変わる。15分の出来事だった。蜂須賀は、WBにピン留めされていて前に出れない。CH含めたディフェンスラインは、数的同数を受け入れることになる。しかもイニエスタには、時間がある。相手CBにも狙いとしている前プレもかかりにくくなれば、前進を許すことになる。こうして、ベガルタの特化型5-2-3ディフェンスは、少しずつスポイルされていった。 

考察

対策なのか貫き通すためなのか

 この試合においては、とても対策色の強い戦い方を敷いてきたベガルタ。たとえば、マリノス戦とかもそうなのだけれど、相手を非常に気にしている戦い方をすることがある。しかも、かなり露骨に。それを表現することに集中して、結局、試合を落とすこともあったのだけれど、この試合においてはそれだけにはとどまらなかった。後方にブロックラインを敷くやり方もあるなか採用したのは、前線からのプレス。これが何を意味するのか。少しでも、相手のボール保持時間を減らすことだったのだと思う。ボールを持ったら強いチームからボールを取り上げてしまえばいいとばかりに。 

 取り上げたあとがなかなかうまくいかなかったので、「サッカーって難しいなあ みつを。」みたいな結果になってしまったのだけれど、もうあとはこの3年間表現してきた、貫いてきたことのバランスを取ることなのだと思う。選手も入れ替わるなかで難しさはある。でもそれが、クラブづくりであり、チームづくりであり、国づくりの根幹だと思う。譲れないものは、なんだ。

おわりに

 春先に問うた。「戦う理由は見つかったか?」と。ボール保持のためのボール保持。相手に打撃を与えるためではなく、弱さを補うためのサポート。走らないボール。動かない味方。一体、何のために戦っているのか。それが分からなかった。いつしか、チームには明確に戦う理由ができた。生き残ることであり、負けないことだった。負けるのは死ぬほど悔しいから。

 今こそ、この「戦う理由は見つかったか?」を問いたいと思う。今季、様々な障害にぶつかりながら、その形を変化させながら生き残ることを第一優先に走り続けていた。では、これからも生き残れるのだろうか。生き残るために、生き残ろうとしていなだろうか。生きて、存在して、この地に何を残したいのだろうか。何のためか。戦いにあけくれるチームに、何が見えているのか。見えてきたのか。宮城のため、仙台のため、クラブのため、家族のため、恩人のため、サポーターのため、タイトルのため。クラブへの誓いかサポーターへの情か。

 主導権を握ろうと勇敢に立ち向かい、自らの意思で戦うことの決意。少しずつ、挑戦していけばいい。見つければいい。振り返れば随分、高い山に登っているじゃないか。

 

 「己がなすべきことは、己自身が見つけるもの。」こう言ったのは、ロジャー・スミスだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html