蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【Head shot】Jリーグ 第27節 ベガルタ仙台vs横浜・F・マリノス (1-1)

はじめに

  さあ、いきましょうか!ホームマリノス戦のゲーム分析。ついにこの時がやってきた。昨年、ユアスタで屈辱的な敗北をもたらしたマリノスを再び招き入れる時が。時は巡り、メンバーも変わっている。ただ、変わらない大敗という事実。意思をもって攻める相手に、ベガルタも意思貫き通すことを選ぶ。逆転を信じて走り続けたチームにもたらす未来とは。そして、サポーターは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2。右SBに大岩が入っている。ハモンも2試合連続スタメン出場。

 一方のマリノス。喜田、ティーラトンが出場できず。4-2-3-1のマルコス王様フォーメーション。仲川が1トップを張っている。怖い。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

マテウスの外への意識の裏を取るSB大岩

 ベガルタの数少ないボール保持時間は、いつものトムキャット型4-4-2。この試合、おそらくはボールを持っていない時への期待で起用されたSB大岩。僕の解釈は、マテウスのボールを持っていない時、つまりは守備時の判断があまり良くないところを突いていくためにも起用されたのかなと思っている。ハチは、良くも悪くもバランスをとって、味方が突っ込んだ後のフォロー、あとは頑張り屋が出て、とにかく何枚も剥がそうとドリブルしていく。大岩は、どちらかというと、オフボールでの動きだしが良い。ミチがハーフレーンにレーンチェンジして、シマオからボールが刺される。長沢へのワンタッチパスで相手SBからのプレスを回避。SB背後を大岩が突いた。

 ここでは、シマオがボールを持った際に、マテウスは大岩へのパスレーンを警戒して、体が開いている。シマオも基本的には、SBへのパスが多いのだけれど、この試合は、ハーフレーンへ刺すパスが多かった。また、38分ごろには、ミチから大岩にSB背後を取るボールが出されている。このシーンも、マテウスが大岩を気にして、ミチへの警戒が薄れている。マテウスがミチを見た瞬間に、大岩は裏に思い切りよく走り込んでいる。

 ボールを持つ時間が短いというのもあるのだけれど、そのため、守備時のがんばりがクローズアップされるが、この再現性には大岩が攻撃時の背後のスペースを狙っていたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。狙っていた気がする。気がするだけ。多分。

 2トップの槍

 もちろん、相手が攻撃陣形時にボールを奪えば、いわゆるポジティブトランジション時には、すばやくハモン、長沢へとボールを供給する。マリノスは、2バックだったり、3バックだったりするのだけれど、自陣に広大なエリアがある。GK含めて守る姿勢を見せるものの、明らかに、極端に高い位置を取るSB後方のエリアを攻める策を取った。そしてそれは、ほぼ成功を収めている。前半11分ごろのハモンの決定機がゴールになっていれば展開的にもかなり理想だったと思う。ただ、そこで折れず、焦れず、貫き通したことにこのチームの成長を感じた。 

ゴール前の両大外が空くマリノスと事前研究で攻めるベガルタ

 70分を過ぎたあたりから、ベガルタが相手ゴールに迫るシーンが増える。最終的には89分に永戸のゴールが生まれるのだけれど、マリノスはボールサイドのワイドレーンと逆サイドのワイドレーンが大きく空く。中央を締めるといったら聞こえは良いのだけれど、だんだんとボールに集まって密集守備し始めるので、ペナルティエリア内でもマーク番がいない選手が生まれてしまう。事前スカウティングでも分かっていたのか、交代で入ったジャメ、蜂須賀は右サイド、ゴールを決めた永戸は起点となるパスをその右サイドに送っている。おそらく、徹底的に研究したのだと思う。SB裏といい、敵陣ゴール前の両ワイドといい、研究で勝てた部分も大きかった。

ボール非保持時

「13-4」への回答は、4-4-2ゾーナルブロッキング

 ベガルタの非保持時の陣形は、4-4-2のフラットタイプ。意識は、ゾーンを守る意識が強い4-4-2だった。今季のチームは、かなり人への強い意識、いわゆる決闘重視の守り方が主軸だった。シマオや富田のような、ボール奪取能力が高い選手が相手と1対1の競り合える状況をピッチ各所で作った。これは、渡邉ベガルタの特徴ともいえる。「球際、切替、走力」を守備のプレー原則に掲げる監督のもと、チームは、「人」という明確な戦う基準があると迷いなく守備ができる反面、縦横のポジション移動、瞬間的、局地的な密集とローテーションを組まれると途端に頭が沸騰してしまい、高い戦術負荷をかけられたまま敗着するケースが多かった。その代表例がマリノスだった。昨年の2試合合計スコア「13-4」は、そのすさまじさ、相性の悪さを感じるのには十分な数字だ。

図1

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図2

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 だからこの試合の研究手、対抗型が何でくるのかに注目が集まった。まるで、ペップバルサ相手にどんな策で臨むのか注目されたように。答えは、ゾーナル守備。ボールサイドと逆サイドのウィングは、中央レーンまで移動して、まるで3CHのような立ち振る舞いをする。2トップは、相手のアンカーポジションの選手(厳密には、SBやマルコスなど、3列目に入ってくる選手といったところか) へのパスレーンを警戒して、CBにはある程度時間とスペースを与えるスポイル策を取った。

マリノスのビルドアップの不思議。学習するベガルタ

 マリノスは、両SBがハーフレーンに移動して、しかも第3レイヤーのライン間に立つこともあるいわゆる偽サイドバック。可変インテリオールと言った方がよさそうなくらいにSBポジションにはいなかった。右SB松原は、CB化して3バック形成することもあるが、CH扇原がCB間にアンカー落としするのなら、高い位置を取る。

図3

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図4

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図5

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 マリノスのビルドアップは、とても不思議だ。相手を嵌める前、自分たちあるいは相手と調律する前に、「可変して外してしまう」のだ。本来、相手が守っているところを確認するソナータイムが10分間ほどあって、それから、相手が守っていないところから、ズレを創っていくのがいわゆるポゼッション型ポジショナルプレーチームの基本型。ベガルタが4-4-2で守るなら、あえて2バックでポゼッションして、4-4もあえてマークしやすくポジショニングして「嵌める」作業をする。そしてベガルタが守備の「今日の守備のやり方」に慣れてきたころにそれを「外す」作業が入る。そうなると、ベガルタに混乱が起きて、ズレが生まれるというロジックだ。もちろん、守備側のベガルタも生きているので、マリノスの立ち位置やスペーシングロジックを「観察」して、どこを守るか相談して決めることになる。

 そして今度はマリノスが…といったぐあいに、目が離せない戦術的なやり取りが発生するのだけれど、マリノスの場合は、最初はグーの段階でグーもチョキも、パーも出してくるので、ベガルタは慌てず、チョキのタイミングでグーを目押しして出せば良くなる。この試合のベガルタのゾーナル守備は、まさにその沢山の手を変え品を変えに付き合わず、大事だエリアを守るやり方をとった。そしてそれが、昨年13失点した相手に、たった1点しか取られなかった要因になったのだと思う。 

考察

戦い続けた90分

 攻守での狙いを明確に、そして確実に実行した試合だった。擬似カウンター現象のような形で先制は許したものの、最後までその意思を貫き通した。これまで、マリノスに主導権を握られ、思うがままにやられていたのだけれど、この試合は相手を観察しながらでも自分たちの意思を忘れず戦えていたと思う。やはり、大なり小なり、札幌やマリノスのような、大正義を掲げて攻めてくる方がやりやすいのかもしれない。そうであれば、次節の松本戦が持つ重要性というのは、またチームの新たな側面を問われる戦いになるかもしれない。

おわりに

 試合開始前。アウェイゴール裏から轟音が鳴り響く。まるで波のように歌うマリノスサポーター。鳥肌が立つ。ここユアスタ。あれほどの相手の賛歌を聞いたのは初めてだった。対照的に、衝撃的な敗北を重ねたチームを見たベガルタサポーターは、先制を許すとトーンは抑えめ。 トラップミス、パスミスをすれば「あああ」の声が屋根から降ってくる。どちらのボールか分からないトランジション局面こそ、今のチームの醍醐味というのに。でも、その心情はよく理解できる。当然の感情だと思う。

 そして、また声が降ってきた。前半終了間際、同点直後のレッツゴーは、ひときわ大きく、そしてスタジアムを制圧した。このクラブに、このサポーターには、まだまだ勝利が必要なのだなと思う瞬間だった。上手くいきそうなら声は大きく、いかなそうなら残念そうに。当たり前かもしれない。単純かもしれない。でも、ゴールを奪って、勝利すれば、声はどこまでも大きくなるということなのでしょう?であれば、僕たちは、とても野心に溢れている証拠で、もっともっともっともっともっと勝って、タイトルも獲って、もっと大きな声を上げれば良いと思う。まだまだ僕たちには可能性がある。大きな可能性がある。一番怖いのは、勝利への野心が無くなった時だと思う。そうなった時、屋根から声は降らなくなる。降るなら、雨と声でいい。この日のように。でも、雪とひょうは嫌だ。寒くて痛いのは、僕が嫌いだからだ。

 

「あたしはもう、ここにはいない。 でも、この日のあたしは、ずっとここから あなたを応援している。 たった一人の、あたしへ」こう言ったのは、フェイ・ヴァレンタインだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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birdseyefc.com

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【逃げなければその場所が前線】Jリーグ 第26節 コンサドーレ札幌vsベガルタ仙台 (1-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか!アウェイ札幌戦のゲーム分析!敗北の九州決戦。それでも試合は待ってくれない。今度は、長年の呪縛がベガルタに襲いかかる。それでも目の前の試合に、ボールに、すべてを注ぐ。厚別に灯った勝利がもたらす未来とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。左ウィングに関口がアメリカンコミックに出てくるスーパーヒーローになって復帰。また、FWにはハモンが入っている。

 さて札幌。3-4-2-1ではあるのだけれど、ここから可変して形が変わる。CB進藤が抜けたことが痛手か。それでも、控えメンバー含めて非常に強力な陣容。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

崩せないなら崩れている時に攻撃すれば良いじゃない

  こう言ったのは、僕でマリーのオマージュなのだけれど、今のチームにおいて相手陣形が整っている状態での崩しについてはそれほど重要視というか、優先順位は高くない。どちらかというと、相手がボールを持ってブロックを崩した状態で自陣に引き込みその背後を狙うやり方に傾倒している。仮に陣形が整っていたとしても、ちょっとしたズレや背後を狙って、その穴を拡大することを第二目標としている。

 この試合、ミシャ率いるコンサドーレ革命軍に対して、札幌がボールを持った時の可変後の立ち位置の脆さを突くことが知将・渡邉晋が選んだ策だった。GK含めたビルドアップやマンチェスター・シティが見せるようなゴールキック時の特殊な立ち位置には、やはり実行する側の大いなる意思があり、実行するだけの力がある。ただ、唯一の弱点としては失敗は許されないということだ。つまりは、ボールを奪われれば、ゴールを守ること、スペースを守ることに関しては最適化されていない、選手一人ひとりの担当エリアが広く、ピッチいっぱいに広がっている状態での守備はなかなかに難しいものがある。

 札幌についても、その独特な攻撃陣形は相応のリスクがある。ボールがベガルタに移った瞬間の立ち位置が勝負を分けることになる。しかも一瞬。ベガルタはその「立ち位置」を咎め続けた。

図1

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 主役はハモン。これまで中央からサイドに流れる「カットアウトラン」は、ある意味彼の十八番なのだけれど、いかんせんその先がない。せいぜい、エリア深い位置からのバッティングセンタークロスだった。ただこの試合、ある程度その改善というか、もう少し弱いクロスやニアクロスも見られた。練習でも調子が良く、状態としても余裕があったのかもしれないし、別にそうじゃないかもしれない。いずれにせよ、可変後のCBミンテ脇を撃ち抜き続けた。札幌としては、せっかく選手がピッチ全体に広がるのだけれど、ミスすれば徹底的に狙い撃たれれば守備における構造的な欠陥に化けてしまう。それでも大きく手を入れた様子があまり見られなかったのがミシャらしさといえばそうなる。

図2

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 ハモンが狙い撃つ前段で、中央でCHがいなくなったエリアを活用してトランジション時の息継ぎに使っていた。こうやって、ロングキック一本槍ではなく、相手が守っていないエリアを使ってリズムを整える、息を整えることが重要で、今のチームになってから縦に急ぐ傾向があったなかで、相手が空けた場所とはいえ有効に使えていたと思う。

ボール非保持時

準備してきた守備の研究手

 当然というか、チームとしては試合前の準備段階でボールを持たれることを予想していただろうし、もっといえばその状態で相手の弱点を突くことが第一優先となっただろうと思う。ハモンも調子が良い。では、どうやって最大化するか。答えは、4-4-2で罠に誘い込むことだった。  

図3

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図4

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図5

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図6

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 図3のように、2トップの一角が片側のCBをマーク。もう一人がアンカーロールを警戒しつつ、ミンテが右足でボールを出せるようにプレス。カバーシャドウ。背中で見る。1人で2人守る守備だ。そうすると関口や松下が網を張り、前線には門番・シマオが完全にブロッキングする。こうなると、たとえボールが出たとしても、パスレーンも限定されて予想しやすく、後方のマーカーもさらに強く当たることができたのだと思う。当然、ボールを奪えば、カウンターの地獄の門が扉を開く。

図7

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 最終的にまとめると図7のようなイメージに。ハモンの攻撃力、シマオの守備力を最大化する攻守表裏一体の策だと思う。あとは、富田がチャナティップ番を完璧に果たした。どこまでもついていく。食う時も寝る時も、母国に帰省する時も富田はチャナティップとともにあった。母なる大地のように、決して優しくはないのだけれど、時間もスペースも与えず自由にさせなかった。これで、右サイドに混乱が生まれず、より左サイドで戦える舞台を整えた。MOMは、富田。おそらく誰もが望むゾーナル守備で輝くことが難しいと思われる富田は、今のやり方では、王になれる。だから、サッカーは難しい。簡単にはいかない。

考察

一丸となって戦うことの本当の意味

 文字通りなのだけれど、きちんと一つの目的・目標に向かって、手段を共有して実行する。目を揃えるなんて言われるのだけれど、今のチームにとっては特に重要になるのかなと思う。低いボールポゼッション、パス成功率、シュート数。ワンチャンスをものにする。針の穴を通す精度で必ず成功させるメンタル的負担。身体的にも、精神的にも負荷の高いサッカーではあるのだけれど、成功するのには理由がある。だから、上手くいかなければ修正も早い。それを鳥栖から厚別に移動するなかで示したのだと思う。アジャストし続ける。靴紐を結び直す作業を常に行う。これが求められるだと思う。

対策への対策への対策

 例えば、札幌が前半の早い段階で4バックにしてきたとか、SB化するCBがハーフレーンに移動して、WBが列降ろしでボールを受けにきたりとかとかとかとかとか、相手がベガルタのやり方に対して対抗型を試合のなかで繰り出してきた時、どこまで対応できたか。それが鳥栖戦で突きつけられた課題のひとつだった。小野の投入に対して、あまりにも無策すぎたし、無謀すぎた。これは、今シーズンの課題でもあるので、すぐにとは言えないのだけれど、今シーズンの課題と言っているうちに今シーズンが終わりそうになっている。後半に兵藤をSHとして投入したり、ジャメを入れて4-5-1にしたり変化も見せた。あとはそれが「あれ?おかしいな」と感じた時から実行できるか。あるいは、この試合のように、初手から一気に終盤戦にもっていき息の根を止めることができるか。やはり、ヘッドオンでの一騎打ち決闘は、これからも続きそうだ。

 

おわりに

  答えは、2通り考えられた。良い立ち位置を取り続けてボールを持つ時間を長くして攻撃試行回数を増やすこと。もう一つは、今のチームの決闘を先鋭化させること。僕はどちらでもよかった。どちらをとってもそれが積み上げになるし、経験するべきことは多い方が良い。答えは後者だった。一番勝てる可能性が高いやり方が何かを考えた末の選択だろうということもよく分かった。それでいいと思う。

 良いサッカーなんて存在しない。絶対的に悪いサッカーもまた存在しない。周りのチーム、勝敗でサッカーなんて大なり小なり形を変える。昨日まで称賛されていたサッカーがもう古いことなんてよくある。今のチームは、これがMAX値かもしれない。なら、MAX値を出し続けるんだ。それもまた、個性になる。ベガルタらしさなるものに繋がる。これだって挑戦だ。恐れず進んでいけ。

 

「私は自分で生き方を決めたかったの。たとえそれが間違っていたとしても」こう言ったのは、フェイ・ヴァレンタインだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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【強い自分取り戻して】Jリーグ 第25節 サガン鳥栖vsベガルタ仙台 (2-1)

はじめに

 では、いきましょうか。アウェイ鳥栖戦のゲーム分析。ついに決戦に決着がつく。自分たちの戦う舞台を決める戦いに身を投じるベガルタサガン鳥栖。リードされながら、攻防逆襲の一手を放った鳥栖。防戦一方のベガルタに失点は時間の問題だった。身を削る戦い。斬るか斬られるかの戦いの果てに辿り着いたひとつの未来。いまベガルタに問われている答えとは。ベガルタの本当の戦いがはじまる。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは前節同様、左ウィングにジャメを起用する4-4-2。

 鳥栖も4-4-2。金崎とクエンカが2トップ。シーズン途中登板の金監督に去年からのダブルを食らいたくはなかった。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

狙う場所と狙いたい場所の一致

 ベガルタのビルドアップは、いつもの2CB+2CHのボックス型。最近は特に、2CBからFWへのDF背後のボールが多くなっている。この試合も例外ではない。左サイドは、永戸、松下、ジャメの左利きが揃うことでボール循環はスムーズにいく。ハーフレーンを中心に立ち位置をとり、相手に選択を迫って戦術的負荷をかけ右SB金井の背後をジャメが狙う仕組みだ。右サイドの場合は、ミチがハーフレーンでインテリオール役を担うので長沢か石原先生のFWがSB背後を狙う形が多かった。

 今のベガルタにとって、SB-CB間はさほど重要ではない。もっと言えば、ハーフレーンだってそれほど優先順位の高いエリアではない。SBを誘き出した後にできたエリアを前線4人が狙うこと、相手がケアすれば、永戸と蜂須賀がフリーになる。2人からゴール前にクロスを送る。簡単に書いてしまえば、これがベガルタの攻撃戦術になる。鳥栖戦については、このSB背後という使いたい場所がわりと空くので積極的に使った形だ。

図1

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攻撃することとの向き合い方

 鳥栖2CHが中央レーンを警戒意識が高いこともあって、逆サイドに展開した際、SHが孤立して守備することになる。そこでスクエアを作って、エリア全体をピン留めすることでジャメの背後へのランニングが生きてくる。ある意味これはポジショナルプレー。自分たちは極力楽に。相手は極限まで過酷に。歩いて勝てるならそれに越したことは無い。止まっていればなおさら。

 与太話はさておき、ただこの2人称の崩しが今のベガルタにとっては精一杯で、ジャメが空けたスペースに誰かが入るわけでもなく、サイドにボールがつけば、ゴール前でクロス乞食が口を開けて待っているわけだ。先制点のシーンも、ミチと石原先生がハーフレーンからセントラルレーンに斜めランしたことで、ウィングレーンのハチが空いた。1本のパスですべてが解決できるのであれば、いいのだけれど、相手だって自分と同じくらい負けたくないはずであって、簡単にはやらせてくれない。ならばスペーシングで、位置的優位性を持続させ、新たな優位性を生み出すことが必要になる。

 小野の投入でセット守備を4-5-1で守って来た鳥栖に対して、5レーンを埋められると途端に攻撃力が落ちる脆さも相変わらず見せた。待っていればできるようになるのか。少なくとも今は、少し待たなければいけない。 

ボール非保持時

小野の登場。攻防の銀。

 ベガルタはセット守備を4-4-2で構える。後半、鳥栖は4-3-3に変更して、初期立ち位置を変更してきた。投入は小野。左インテリオール。これがこの試合を決める最善手であり、正解であり、良主であり、攻防に利く一手だった。0-1の状況で、鳥栖としてはこれ以上リードを広げられるわけにはいかない。でも、最低1点、もしくは2点取りに行く状況で、最も守備力のある攻撃、攻撃力のある守備はなにかと問われた金監督。答えは小野のインテリオール起用だった。

図2

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 まずは、小野の列降ろし。4-4-2の痛点である、2トップ脇、ハーフレーン入口にポジションを取り始める。ベガルタの対抗手。アンカーをFWが見るだった。結果これが悪手に。小野に時間とスペースを与えることになり、右ウィングのミチに高負荷状態を強いることなる。鳥栖は、合わせで、SBがウィングレーン/第3レイヤーに進行しウィングロールに。クエンカがレーンチェンジで、ハーフレーンに立つローテーションでベガルタサイドハーフレーン一帯を支配した。

 この一連の問題は、ベガルタのブロック全体にも影響を及ぼす。全体的に中央に絞ることで支配エリアによって、守備が分断されないように踏ん張った。これがさらに問題を引き起こす。右サイドのアンと金井に時間とスペースを与えることになる。結論、小野が2トップ脇に立つだけで、ベガルタがボールを持っていない、陣形が整った状態での守備に対して、これだけの問題を引き起こした。

図3

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図4

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 小野はさらに、ハーフレーン入口から出口へと縦に抜ける、インテリオール突撃を敢行。クエンカもウィングポジションからカットインランを繰り出すことで、ベガルタの右サイドに対して、前への推進力を奪い取った。小野の投入とクエンカの復活。ボックス内での仕事に徹する金崎。そして、縦に強く主張するこで、ベガルタの右サイドからのカウンターを封殺し、ボックス磔の刑が完成した。後半の残り20~30分が耐える時間だったベガルタは、完全に翼をもがれた鳥になった。

考察

鳥栖と異なるファイナルサードの崩し

 ハーフレーンを有効活用する鳥栖に対して、クロス乞食を量産するベガルタのファイナルアタッキング。あまり詳しくないので勝手なことは言えないのだけれど、カレーラス前監督が採用しようとした4-3-3アタッキングも決して無駄ではなかったのかなと思う。多分。一方のベガルタは、積み上げた立ち位置攻撃の3年。自らそれを押し殺し、あえてカオスの道を選んでいる。

Get wild and tough

 積み上げって何だろうか。継続とは何だろうか。連続性って何だろうか。短い時間でも表現できているポジショナルな裏への攻撃。これだって立派な継続の結果だと思う。なぜそれを徹底しないのだろうか。ボールを持ったら蹴らないといけないルール改正があったのだろうか。鳥栖の自陣への戻りが遅いのに、攻撃を遅くしてわざわざ相手守備陣形を崩すような戦い方を選ぶのだろうか。相手がブロックを固めているのにわずかなスペースに蹴り込むのだろうか。ボールから遠いと真っ先に離れていくのに、ボールが近いと我先にと近寄るのだろうか。目指していたものは何で、やりたいことは何なのか。できることは何なんだろう。少なくとも勝つために、幾千もの選択のなかから、針の穴を通すような精度で勝ち筋を見出した鳥栖に対して、何か主張できただろうか。表現できただろうか。それでももっと上の格で戦うのは自分たちだと言い張ることはできたのだろうか。

 そろそろ、思っていることを、自分を吐き出したらどうだろう。僕は、新しいことに臆することなく挑戦して、いつもなにかを提案する渡邉ベガルタが面白く、そして貴重な存在だと思っている。ジョンヤと常田のCBには感動を覚えたし、ウィングの可変も痺れた。ミシャ式じゃないモダンな3バックだってそう。それが今度は、カウンターの槍を新たな武器として提示するならそれでもいい。でも、僕たちが見ているのは、彼らが表現しているのは一体なんなんだろう。僕には、君が何を言っているのかが分からない。だから、もう一度、しっかり顔を洗ってしゃんとして、教えてくれればそれでいい。

 

おわりに

  決戦の終幕は第三幕の終わりも同時に告げた。第三幕とはつまり、お辞儀をして決闘する今の戦いのことだ。まさかこれで終わりではないだろう。序破急にしては、出来が悪い。それに、サッカーは続く。次の試合。遠い北海道の地で、彼らがどんなことを表現するのか。第三幕の続きか、新たな戦いの舞台か。見届けるよりほかない。怒っていても、文句を言っていても仕方ない。良く寝て、よく食べて、いつもと同じように試合とチームと関わって、いつものように激励すればいい。さあ、シーズン最終章を見届ける準備はいいか。

 

 「失敗してもせいぜい死ぬだけよ。」こう言ったのは、ヴィクトリア・テルプシコレだ。

 

参考文献

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【ただ進んでゆけ】Jリーグ 第24節 ベガルタ仙台vs湘南ベルマーレ (1-1)

はじめに

 さて、いきましょうか。ホーム湘南戦のゲーム分析。決戦の幕が上がった。監督がいなくとも戦う魂とスタイルを引き下げユアスタに乗り込む湘南ベルマーレ。これを迎え撃つ渡邉ベガルタに、ケガから帰ってきた戦士が急先鋒となる。いわばこれは、誰と戦い、どの舞台で戦うかを決める戦い。幾千もの生まれ変わりを経て、長いキックを蹴る先に見える世界とは。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。前節負傷した関口に代わり、左SHに名乗りを上げたのはジャメ。湘南の攻め上がり、激しい守備の後ろを狙う役割だ。

 さて湘南。監督の不在でもスタイルは継続。これがこのチームの強さ。ルヴァン杯優勝チーム相手に通用する、勝てるチームかどうかを試したい。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

湘南のセットディフェンス

  ベガルタのセットオフェンスは、いつものトムキャット型4-4-2。左SHに入ったジャメが相手WB背後とハーフディフェンダー脇を狙う形。理想は、前節川崎戦の先制点のシーン。ファイナルラインからスペースと時間を直接前線に届けることができれば理想的だ。ポジショナルプレーの要諦、自分たちの負荷を極力下げて優位性を生み出す。そして遠くを見る。遠くが空いてなければ近くを空けるといった具合だ。

 湘南は5-2-3を対抗型に採用。3-4-2-1からの派生で、5-4-1、5-3-2にも変形できる形。いずれにせよ、5バック系のチームだ。それぞれユニットごとで役割をもっており、そのユニットが訪問販売の営業マンのようにそれぞれのエリア担当を割り振られており、構造で迎撃する形をとっている。

 前線のFW-CHの3-2、WBの2、CBの3がユニットを組んで守っていた。もちろん、どのユニットも、守備のプレー原則は前に激しく、そのエリアでは好きにさせないといったものだ。信念。だから、ある意味、ベガルタがトムキャット可変をしようがそのエリア内に入って来た相手を倒す形になる。しかも、中央3レーンへの警戒レベルが非常に固く、後述するのだけれど、5-4-1と形が変わってもそれは変わらなかった。これも信念。

図1

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図2

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 イメージは、図1、図2のようなイメージ。中央は五角形、サイドは長方形に、最終ラインは3CBがはね返す。シャドー2人がハーフレーンを封鎖しつつ、シマオ、平岡の2CBにプレッシャーをかける。ベガルタは、中央3レーンへのパスだったり、CHへの誘き出しパスがほぼ皆無なので、守る側としては非常に楽だったと思う。特にルックアップさせる時間を与えなければ、致命的なファイナルラインへのパスは出ないといった感じで、強く当たってきた。

ジャーメイン良という翼

 ではベガルタのポジショナルアタック。この試合の注目ポイントは、もちろん左ウィングのジャメ。湘南の守備の仕組みを逆手にとり、WBが永戸を迎撃にくるタイミング、3CBが中央を固めるタイミングを見極め、その隙間に雷撃のように縦にランニングするのが狙いだ。いわゆる、SB-CB間へのラン、チャンネルランというやつだ。カットアウトと呼んだ方が分かりやすいかもしれない。相手CHが引っ張られれば、中央3レーンを解放できるし、3CBの一角がくれば、長沢、石原先生が解放される。

 このジャメの一手というのは、非常に効果的な一手になる可能性がある。パスを繋ぐことがポジショナルの要諦ではない。いかに、こちらの労力を減らして、敵に致命的な一撃を与えられるのか。そのためにどこで数増しするのか、質勝ちするのか、位置優位取るのかを考えることが重要だ。このジャメのカットアウトランも、ジャメのスピードと永戸や長沢、石原先生の位置を活かして生みだしたものだ。ジャメをつかってよし。FWに放り込んでよし。逆サイドのステルスミチを使ってヨシ。何も目の前に立ちはだかる壁を壊したり、乗り越えなくてよい。

図3

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 ただ、ジャメ本人が初めてやるポジションと言ったり、渡邉監督が居心地悪いと認めたように、付け焼刃感はあった。ジャメ本人の精度もあるが、カットアウトしてほしいところを躊躇して永戸に近寄ったり、ジャメが空けたスペースを誰かが使うとか、個人においても組織においても連動しているようにはあまり見えなかった。

 相手の陣形が崩れた状態でボールを持つポジティブトランジションにおいても、たしかに左サイドを徹底的に狙われたため、その背後を突くことは容易ではあったのだけれど、結局、永戸がルックアップ即クロスチャレンジしたり、自陣におびき寄せて背後を刺すようなシーンはあまりなかったように見える。

立ち位置変更とゾーン守備で対抗する湘南と変わらないベガルタ

 湘南は、後半入ったあたりから立ち位置を変えている。無理やり電話番号をたたくなら5-4-1ぽい。どちらかというと、担当エリアにエリア担当者の配置転換をしただけだ。サイドの守備を2人にして、ジャメやミチ、FWの飛び出しをケアしてきた。

図4

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 その代わりに、中央の五角形は消えるのだけれど、ゾーン守備の鎖理論が発動。2CH+SHが差金の形をつくり、中央3レーンの監視を継続した。背後のスペースを消し、中盤は連携で封鎖。こうなると、今のチームでは中央にパスを打ち込んで鎖を絶つプレーが圧倒的に少ないので、CBを経由して逆サイドのSBにボールが回る寸法だ。その間に湘南は、ブロックラインをラインアップさせ、前線へのプレスに移行し、ビルドアップ妨害へと可変していった。これはなかなかに練度が高い。

図5

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ロングキックを蹴ることについて

 「長いキック」「ロングキック」といっても色々ある。レイヤースキップパスなのか、2レイヤースキップパスなのか、テレポートパスなのか、キックアンドラッシュなのか、イングランドなのか、ストークなのか多種多様だ。

 当然、ボールを持ったらまず遠くのスペースに素早く出すのが最優先だ。でもそれが難しいなら、前線に飛び出した選手が空けたスペースを使うとか、ボールを持って持ち上がるとか、もっとサッカーを自由にやっていいはずだと思う。多分。サッカーとサッカーをしたいのか、サッカーにサッカーをさせられたいのか。問われているような気もするし、しない気もする。

 あとそのロングキック、効果的ですか?何のために蹴ってますか?という話だし、8mのパスは大事に蹴るのに、どうして距離が長くなると繋がらなくても良いロジックになってしまうのだろう。トライするなかで、精度を上げるなかでの失敗なら歓迎だ。むしろ成功するまで失敗しよう。それを続けて、あの春先の躓きから立ち上がったその時から続けているのだけれど、一向に攻撃にならない。立ち位置勝ちできない、しない理由に使っていないかい。やるなら徹底的に。誰が何と言おうと。冷酷にやり続けるべきだ。これは、ポジショナルだろうが、カウンターだろうが関係ない。 

ボール非保持時

ひとにつく4-4-2を先鋭化させましょう

 コントラストで、ベガルタの守備は非常にひとに、というかボールによくつく守備だなと感じる。だからダメとは言わない。ゾーン守備なんて、Jリーグで実現できるチームの方が少ないし、欧州だって、きちんとしてるチームが強いのであって、そのほかの星の数ほどあるチームの守備については僕たちは恐ろしいほどに無関心だ。そうではなくて、自分たちができることをきちんと自覚したうえで、やりぬいてますかという話だ。シマオが潰す、クヴァ様が止める、それで良いじゃないか。でも、それだけでは厳しいので、切替の速さと球際の激しさ、つまりは無秩序状態で確固たる目的をもってプレーできることを渡邉監督は求めている。ここを突き詰めましょう。湘南から得た教訓は、監督が去った後に実現できるのが、スタイルなんだと。

考察

細かな部分についてもっとできること

 ジャメやミチがカットアウトで抜けるラン、チャンネルランとかパラレラとか言われるものなのだけれど、結局それが単発で終わっているのがなんだかなあって感じだ。ゴール前で池の鯉のようにクロスを待つのではなく、一人ぐらいは、彼らが空けたスペースを使って、もう一回相手DFを引き寄せて、裏を使う、ジャメやミチに死んだはずのパスレーンを使ってローポスト突撃させてあげるとかあるはずなのだけれど。今のベガルタの攻撃でとても気になるのは、2人称の崩しが多いこと。SBからウィング、ウィングからFWのように。もちろん、CBからFWがあるので、それは有効なのだけれど、敵陣に飛び込んだからには、あの手この手で崩す必要がある。

賢攻

 チームとしてやるべきこと、監督からの指示、これは守る必要がある。チームだから。でも、走っていてたら目の前の橋が落ちて、対岸に渡れなくなっても走り続けるのか。少し止まってもいいし、走りながら考えたっていい。そのまま、落ちていく、落ちたら気づくなんてことないようにしてほしい。ただ、一番怖いのは、対岸に渡るという目標が無いこと。去年からの西村が去った後のファイナルサード攻略問題にも通ずる気がする。気がするだけ。 

おわりに

 なぜ勝てなかったんだろう。試合が終わって、時間が経つごとにその思いが大きくなる。そしてそれは、試合を見直すほどに、湘南のほうがより当てはまることが分かってきた。悔しさが切なさに変わった。別に悲観はしていないし、絶望も全くしていない。そんなものは棺桶に入ってからするべきだ。サッカーを通して、何を表現して、何を実現して、どうなりたいのか。ベガルタというチームから、輝かしいほどに発信されてきたメッセージ。今そのメッセージは、僕たちからチームに届けるべきなのかもしれない。 そのぐらいにチームは、理想と現実の狭間で揺れ動いているのかもしれない。勝つための今のスタイルなのか、積み上げてきたスタイルなのか。

 多分僕は優しすぎる。クヴァがセーブできなかったことを責めることができず、クヴァ様クヴァ様と連呼している。同点に追いつかれたチームを責められない。勝てるチーム、タイトルを取るチーム、格が違うチームは、勝てなかったことを責めるだろうし、なぜ勝てなかったかを徹底的に追及する。理想?現実?狭間?そんなのもののために割く時間はない、そして次勝つためのことを淡々とするといった感じで。勝てるやり方なら全部やればいい。それならそれでいい。僕はもう一度、ベガルタというチームからの意思を決断を聞きたいのかもしれない。まだ、決戦は始まったばかり。

 

 「死を恐れるな。死はいつもそばにいる。恐れを見せた途端、それは光よりも早く飛びかかってくるだろう。恐れなければ、それはただ優しく見守っているだけだ」こう言ったのは、ラフィング・ブルだ。

 

参考文献

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

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【Head on】Jリーグ 第23節 ベガルタ仙台vs川崎フロンターレ (2-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム川崎戦のゲーム分析。激闘の果てにあったもの。勝ち点を分け合う両者に惜しみない拍手が送られる。王者相手に真正面から撃ちあい仕留めにかかったベガルタ。自分たちの弱さ。立ちはだかる壁。ピッチで起こることすべてに意味がある。臆病者と呼ばれたチームが真正面から王者に一撃を放つ。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2のメンバーそのままに、3-1-4-2を採用。完全に奇襲を仕掛けた。しかも相手が4-2-3-1で来る予想ができるなか、あえて噛み合う対抗型を用意した。

 対する王者川崎フロンターレ。CBに異常事態が発生しているのだけれど、ほとんど主力級。天皇杯の岡山からの帰りを差し引いても、サブには齋藤学レアンドロダミアンがいる。格の違いへの挑戦。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

フェイク4-4-2

 ベガルタのオリジナルは、いつものトムキャット型4-4-2。ではなく、メンバーが同じで、前輪駆動型の3-1-4-2。完全に奇襲をかけた。フロンターレの守備は、4-2-1-3の陣形からの前プレスが基本。CBのボールを取り上げる作戦にでる。このセットされた状態において、両者のフォーメーションは噛み合う。個人と個人との力関係が物を言う世界を創り出すことになる。試合後コメントでも、カオスを創り出したいと言っていたのにも関係する。ただ唯一の誤算は、試合序盤での関口の負傷。ジョンヤの投入。もう一度、自分たちと相談してパワーを出すことが求められる展開となる。

図1

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 相手に考える時間を与えるなか、それでも実行した奇襲作戦の狙いは2通り考えられる。ひとつは、 完全に噛み合った状態での決闘勝負。もうひとつが相手と調律してから外す、つまりはポジション移動で相手に選択を迫るやり方。結果として、決して成功したとは言えない攻撃の狙い。それでも、ベガルタは、絶対王者フロンターレに2本の剣を突きつけ決闘に挑んだ。

図2

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再び出現した3-1-4-2。狙いはフロンターレゴールただひとつ。

 まずは決闘勝負から。ターゲットは、前線、FW長沢。フロンターレのCBコンビは、谷口とジェジエウが出場できないというスクランブル状態。コンビを組んだ山村と車屋。もちろん、サイズと重さ的な部分もあるのだけれど、ここの連携に風穴を開けたい。そんな意図だった。それが良く見えたのは、平岡や永戸からのロングキック。3-1-4-2になれど、まずは遠くのFWへ。石原先生やWBの曖昧なポジショニングに少しでも誘き出されれば間髪入れずにロングキックが飛んでくる。この試合は、特にFW対CBの構図を作りたかったのだと思う。スタートからロングキックで挨拶する。勝負。

図3

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図4

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 次はポジショナルな攻撃。こちらは、蜂須賀、永戸のWBの列移動で相手のSBとSHに選択を迫る。誘き出し。CBがボールを持った時、蜂須賀と永戸が高い位置を取っていれば、相手SBをピン留めできる一方、列を降りてアンカー高さまで降りれば、構造的なスペースに立つことが可能になる。相手SBが迷って誘き出されれば、SB背後を石原、長沢のFWかインテリオールの道渕、松下が縦にハーフレーン突撃を発動。4-2-1-3ディフェンスの構造的な弱点、中央2-1の脇を使う形で、最も使いたいCB脇、SB背後に勇気をもって、正面から飛びこんだ。

図5

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図6

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 ベガルタの狙い。ファイナルラインの鎖。特にSBとCBを一撃で仕留める刺突剣と相手を誘き出してから攻撃する刺突剣で絶対王者のゴールへと迫った。すべてが上手くいったとは言えない。フロンターレがボールを持つ時間も長かった。それでも、2本仕留めた。1点目は、平岡のロングキック。2点目は、ジョンヤの一人飛ばしパスからの敵陣封じ込めのポジショナルアタック。アクシデントもありながら、狙いを強く実行した結果のひとつが見えた気がする。

 渡邉vs鬼木 

 この試合、鍵になったのはベガルタの右サイド、フロンターレの左サイドの攻防戦だった。永戸は、ウィングロールのSBマギーニョが決闘相手だったのだけれど、この勝負は見もの。永戸はマギーニョに振り回されながらもほぼ互角。引っぺがされて裏を取られることや独走を許すシーンはほぼなかった。また、攻め上がりに臆して前へのパワーを忘れることもなかった。この試合の影の立役者は永戸だったと思う。

 そこで、鬼木監督が動く。同じくウィングロールができる齋藤学を投入。2枚のウィングで永戸を粉砕する策で来た。そのあたりから、石原先生がボールを持っていない時は降りていたので5-4-1のような形になっていた。体力切れの石原先生がついて来れないとみての采配。妙手。ただ、齋藤学も家長同様、ハーフレーンに立ち皇帝ジョンヤの射程範囲内立ち入ってしまう。結果、交代前と立ち位置の変化も付けられず、シンプルに選手の質を上げた形になった。

 渡邉監督も動く。石原先生に変わってハモンを投入。これは攻撃的。一種の賭けだったのかもしれない。少なくとも、セットディフェンスのことはある程度目をつぶり、一撃必殺に勝機を見出した。勝算はもちろん、齋藤学のポジション。マギーニョが高い位置をとれば、その背後を突くことができる。両監督が蓋をするのではなく、剣先を突きつけることで、どっちが臆して一歩踏み出すことを躊躇するかの「攻撃的我慢比べ」を選んだ。知将と呼ばれる2人。博打采配ではないのが、最後まで勝利を目指す姿勢に僕たちは拍手を送らないといけない。そして、この采配勝負を生み出したサッカーに感謝しなければいけない。 

ボール非保持時

5-3-2とフリーロール家長との相性

 ベガルタのセットディフェンスは、5-3-2。関口の代わりに入ったジョンヤが左CBに。  フロンターレは、中村が列を降りて下がり目に位置し、両SBが高い位置を取るので2-3-5やアンカー落としで3-2-5のように見えた。前線5枚に守備5枚で対応の対抗型を取る。あとは前線の3-2がフロンターレの攻撃型に合わせて決闘相手を見つける形で、ピッチ各所である程度両者の守備陣形が整わない状態を作って、その瞬間の勝負に勝つ形をとった。

 ただ、フロンターレがボールを長く持つので、なかなかうまくはいかなかったのだけれど。そのなかでも、家長がフリーロールなので、特定の場所にいない。対面するジョンヤもどこまでついていけばいいのか、少し迷っていたように思える。もちろん、ついていけば、自分がいたスペースを空けてしまう。ついていかなければ、味方の仕事量が増える。こんなジレンマを抱えていたように思える。逆サイドの平岡も。阿部が列を降りるケースがあるので、どこまでついていくのか、いかないのか。

図7

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 とても懐かしい。なんだか書いていて、昨年とか春先に似たようなことを考えて書いていた気がする。気がするだけ。気がするだけなのか?結局は、3センターのスペース管理が肝なのと、相手が数増ししてきたらやっぱり耐えられないのが人海守備戦術の限界のような気がする。これは気がするだけ。そんなこんなで、徹底的に左サイドから攻撃されたのだけれど、それでもやっぱり人につくことを徹底して対応。ジョンヤは地の果てまで家長を追い詰めた。これはこれで正しい。やるなら徹底抗戦だ。

3-1-4-2のネガティブトランジション

 攻守表裏一体。攻撃は、FWを中心とした前線への一本のパスがまずは狙いのベガルタ。カットされれば、インテリオールやWBのベクトルは前へ向いている。奪われた瞬間、後方の1-3の空いているスペースを突かれることになる。しかも相手の両SHにアンカー脇に陣取られてしまっているので、カウンターの急先鋒になる。3CBへの前プレとカウンター要員を兼ねている。そうまさに攻守表裏一体。アンカー脇は、ベガルタの攻撃時にも当然有効なスペースになる。CBがボールを運ぶ場所、インテリオールが降りてくる場所、WBがレーンチェンジする場所とかとかとかとか。

 こちらが使いたい場所を先に使う。将棋の手筋にあるのように、絶対王者は、ボールを持ってようが持っていないようが敵に致命的な一撃を加えるための準備をしている。ベガルタからすれば、ホーム磐田戦で狙っていたスペースを完全に使われた。こうなると、ボールと味方とが一緒に前に進むことがカウンター対策になると思うのだけれど、攻撃優先は前線への一本。なかなか難しいところだ。

図8

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止める、蹴る、外すではなく、立ち位置を選んだ川崎

 後半、特に2点目が入った後から、ベガルタは5-3-2でローブロックを組む。フロンターレのボール保持時間が長くなったひとつの理由だ。フロンターレは、5-3-2攻略の定石型、2と3の脇のスペースでボールを持つこと、サイドでオーバーロードして人海守備を破綻させること。特に左サイドを徹底的に突く。中村が3センターの脇で受け、マギーニョがウィングロール、家長がハーフレーンに。そこにプラスワンされることで、ベガルタ守備陣を過負荷状態にした。

 ではサッカーの要諦、ローポスト攻略はどうだったか。答えは否。2点とも、ボックスに入るまえに中央、クロスとなっている。ポジショナルプレーが負荷を下げても優位に立ち、負荷を上げることで相手の追従を許さない無慈悲なやり方だとすると、どこで負荷を受け入れるのかがフロンターレにとって重要だった。それが風間八宏監督時代は、止めるであり蹴るであり、そして外すだった。一人が相手を1人、2人と外していく。正確に止め、次のプレーにシームレスに移れるよう蹴ることで、相手を圧倒した。もちろん、技術難度は高い。難度が高い故に高負荷の状態でもプレーできてしまう、あえて難しいことをする、がんばってしまうのが我々日本人の良いところでもあり悪いところでもあるのだけれど、いずれにせよ、どこかで負荷を受け入れなければいけない。サッカーはそんな神々の戦いになりつつある。

 そんな与太話はさておき。この試合のフロンターレの立ち位置攻撃はほぼ完ぺきだった。ベガルタの守備時に選択と負荷を与えるのには、十分だった。ただその先が分からなかった。だから、レアンドロダミアン、齋藤学で質増しして強引に外すことを期待したのかもしれないのだけれど、時間が短いこともあるし、立ち位置の波間に消えてってしまった。ベガルタの5-3-2が初めから5レーンと中央3レーンを埋めることで、相手が使いたい立ち位置を先に使ったのは意外と良手だったのかもしれない。

 この先フロンターレが進む道が正しいのかどうかは分からない。僕が語る話でもないと思う。きっと正義なんて無いんだろうと思う。ちなみに田中碧は凄かった。マークもプレスも決闘もかわすエルマタドール。田中碧がボールが来た方向とは遠い足でトラップすることで、ベガルタのマークを外していたのが、もしかしたらヒントかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 

考察

格の違いに挑み続けた90分間

 5-3-2と聞けば、相手対策を重視した我慢のサッカーになりがちだった。それがこれほどまでに、攻撃的で戦術的に戦い続けたことはひとつの成長だと思う。いかに得点に繋がるプレーをし続けたか?信じて続けられますか?を自分たちに問い続けながら戦った。それでも同点にしてしまうフロンターレはやはり強い。格が違う。いかにして逃げ切るか、勝ち切るのか、苦しくても点数を取るか。どうすれば彼らを振り切れるのか。答えを見つけるには、挑み続けるしかない。 

おわりに

  首位決戦でもない。残留争いでもない。それでも、これほど勝利のために戦い続けたチームに祝福があるべきだし、サッカーとは元来そういうものだと思う。お互いに戦う理由がある。正面から向かいあい決闘した。コンコースに混じり合うベガルタサポーターとフロンターレサポーター。お互い勝利を目指すから、真剣に戦うからこそ、この光景がなおいっそう光り輝いて見える。

 

 「撃て 臆病者!撃て!(C'moooon! )」こう言ったのは、ラリー・フォルク(pixy)だ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

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【ベガルタ選手分析】ハモン・ロペスとシュートと約束の日

はじめに

 どうも、僕です。今回は、ベガルタネタ。データで紐解くベガルタ選手分析です。分析というよりは、どちらかというと紹介に近い形になりそうです。こんな選手がベガルタにいるよが紹介できれば良いなと思っています。今回は、FWハモン・ロペスです。では、レッツゴー。

ハモン・ロペスについて

 ハモン・ロペス(以下、ハモン)は、ブラジル出身の30歳です。ポジションはFWです。2014年にベガルタに加入。着々とゴール数を増やし、2017年には、柏レイソルに移籍します。ただ柏では残念ながら、期待されていた活躍ができず、2018年途中にベガルタに帰還しました。今季は、9番をつけ、エースとしての活躍を期待されている選手になります。

ハモン・ロペスの特徴とある仮説

 ハモンの特徴といえば、左足から放たれる強烈なシュートになります。サポーターからは、「ハモン砲」と呼ばれ親しまれています。一部の熱狂的なファンの間では、波動砲やサテライトキャノン並みに愛好されているとかいないとか。当然、このハモン砲がバリバリゴールに突き刺さって、何度もゴールネットを張り替えるような事態になれば、僕たちは喜んで「ハモン砲によって壊れたネットを張り替えるための募金活動」に取り組むのですが、そんな簡単にはいかず。まるで必殺技のように、決める時は決めるのですが、必殺技を乱発したうえなので、一部のウルトラマン仮面ライダーで育った世代からは不評なようです。というか、サポーターの多くが「頼むから1本決めてくれ…!な…!」とまるでなかなか寝付かないこどもに懇願するような気持ちで応援しています。

 ここで、僕は疑問を持ちました。「ゴールを決めるだけなら、もっと良い体勢で、自分の得意な形に持ち込んで撃つはず。でも、センターサークルから撃つは、相手が2人、3人で前に立ってるのに撃つは、というか触った瞬間撃つわで、ゴールする気ないんじゃないか。もっと別な理由があるのでは?」と考えたわけです。

 そこで思いついた仮説は、「柏時代のチームメイト、クリスティアーノとシュートを撃ち続ける約束をした」のではないかということです。クリスティアーノもめちゃくちゃシュートを撃つイメージがあります。ここは、ロジカルな検証が必要なので、数字ベースであくまで客観的に見たいと思います。

ハモンとクリスティアーノの約束

 まずは、ハモンの今季ここまでのスタッツです。データは、Football LABさんからお借りしました。ありがとうございます。これで、極めて客観的な確認ができそうです。

www.football-lab.jp

ハモン・ロペスのスタッツ

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 まずは、シュート部位のデータです。部位と言っても、ハツやミノのことではなく、どこでシュートを撃ったかです。御覧ください。いっぱい赤くなってます。見事にいっぱい左足からシュートを撃ってます。クロスもいっぱい左足からクロスしてます。ちなみにアンデルソンロペスも指標が近い選手として紹介されると、「ロペスはシュート撃ちまくる説」が出てしまうので本当に勘弁してほしいです。

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 次に、シーズン記録の実数とFootball LABさんが独自にサンプリングしているチャンスビルディングポイントを見てみましょう(横文字が並ぶとそれっぽくなります)。

 ここまで19試合に出場。撃ったシュートは73本、ゴール数4、決定率5.5%という数字です。何が何やらさっぱりです。とにかくいっぱいシュートを撃ってるようです。計算してみると18.25本のシュートを撃つとゴール上げられる計算になります。1試合に5~6本のシュートと考えると3試合に1本はゴールに入っている皮算用になります。このデータからも、ハモンはゴールの他に何か理由があってシュートをいっぱい撃っていることが推測できます。ちなみにチャンスビルディングポイントで見ても、シュートは6位と輝かしい成績を残す一方、ゴールは32位と良いのか悪いのか何ともコメントしづらい順位になっています。

クリスティアーノのスタッツ

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  さて、クリスティアーノの今季のスタッツです。利き足は右足なので、青いです。いっぱい右足でシュートを撃っています。クロスもいっぱい右足から送っています。これは、あの日の約束を守っている感がいっぱい出ていい感じです。 

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 次にシュート数です。まさに圧倒的。チャンスビルディングにおいても、シュート・クロスともに1位。攻撃のキーマンとしてバリバリ活躍しています。というか、真面目な話、約束とかなくてもこのぐらい活躍してそうな気がする。気がするだけ。なんだかこんなことを書いているのが恥ずかしくなってきましたが、どんどん行きましょう。

 今季は、ここまで27試合出場。シュート数は115本、ゴール数は9ゴール、決定率が7.8%となっています。試合数がハモンより多いとはいえ、すでに三桁超えのシュート数。やはり、いっぱい撃ってるようです。シュートを12.77本撃つと1点決まる計算になります。1試合6本くらい撃ってれば、2試合に1本ぐらいはゴールに入る計算です。しかもアシストもここまで12アシストを記録。チャンスビルディングポイントの攻撃においても堂々の2位と、完全にエースの働きじゃないですか。

ピッチで会う約束の日まで

 2人のデータ比較から見えてきたものとしては、ハモンは「とにかくシュートを撃ちまくる」に対して、クリスティアーノは「シュート、クロス含めて攻撃全般のエースとしてバリバリやっている」でした。仮に2人が「シュートを撃ち続ける約束」を交わしたとしても、律儀に約束だけを守っているのはハモンの方というか、真に受けたとかいわないのそこ。あとは、クリスティアーノ側については、そんなにがんばらなくてもシュート撃てるしゴール決まるし別に約束してもええで!ぐらいの感覚かもしれないです。知らんけど。もしかしたら、ハモンも柏に行って学んだことで、「まずはシュートを狙う」をクリスティアーノから学んだのかもしれません。FWには必要な考え方かなと思います。

 まあ、いろんな邪推はさておいて、また2人がピッチで出会える日が来れば良いですね。柏がJ2で破竹の勢いらしいので、ぜひとも昇格いただき、来季ユアスタでその再会を目撃できれば良いなと思います。ーーーまた出会うその日まで。今日もユアスタでハモン砲が炸裂する。

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おわりに

 まずはここまで読んでいただいた方々に感謝を申し上げます。どう見てもおふざけ記事です。すみません。弁解は罪悪と知っていますが、あえて弁解すれば、とにかくハモンはシュートを撃つなーと思ったのがことの発端です。しかも試合を見ている皆同じような感想を持っているので、いわゆる期待感というより、なんで撃つん?ってな具合で。まあ色んな仮説がありましたけど、ハモンにとっても柏レイソルへの移籍、同郷のエースクリスティアーノから受けた影響もあったのかなーと素朴に思って、今回の記事を書くきっかけになった「シュートを撃ち続ける約束をした」を思いつきました。あとやっぱり、なんだかんだ言って、ゴールを決めて活躍してほしいなという思いもあります。

 正直、データで選手を見る機会って普段ほとんどなくて、自分が見た実感をデータで見て照らし合わせて見るのは好きなので、今回もさっくりデータを見て書いてみました。Football LABさん、本当にありがとうございます。眺めるのは好きなので、シーズンオフとかにお世話になっています。ぼやーと思ってることを可視化するのってすごく大事なことですし、そこに立てられる仮説と考察に個性が出るんじゃないかなと思っています的なアレを書いておけば許されると思ってたり、思っていなかったりです。今回はこの辺で。では、また。 

 

【Dr.トゥヘル研究所】PSGの攻撃戦術。鍵は3つのトライアングル。

はじめに

 どうも、僕です。今回は、監督トーマス・トゥヘルのPSG攻撃戦術について取り上げます。もともと、好きな監督なのと、PSGでの物語も無事?2年目に入ったので、戦術的な成熟もしているだろうという予測のもと開幕戦を見ました。シーズン最初の試合ですし、まだまだこれからだと思いますが、予想以上に印象良かったので今回記事にしました。研究熱心な監督に選手と札束が渡されたらどうなるのか。個人的な興味もありますが、彼らしい機能美あふれる攻撃が今シーズン見られそうです。では、レッツゴー。

トゥヘルPSGと三角形

アンカーとセンターバックでビルドアップの土台を作る

 オリジナルフォーメーションは、ウィングとCF、アンカーを置くスタンダードな4-3-3。そこから、左WGのムバッペがハーフレーンに移動するのに呼応して、左SBがウィング化するウィングロール。逆サイドの右SBのケーラはアンカー高さぐらいでステイ。ただし肝はハーフレーンとウィングレーンの継ぎ目ぐらいにポジショニングする。

 前線が動的にポジションが変わるのに対して、アンカーと2CBはポジション維持。昨今の流行型は、ビルドアップ隊がゾロゾロ変わるのが流行っているのだけれど、大きく動かさず。開幕戦の相手ニームが4-5-1、押し込まれると5-4-1のような、つまりは1トップの相手に対してプラス1の2CBとアンカーを加えることでビルドアップを安定化させた。前線の選手が無理に降りて来たりして、相手を引き連れてしまって、ボール保持者付近がサポートしているのに、クリーンにならない現象は、世界各地であっちこっちそっちで起こっているのだけれど、そういったデメリットを回避できる。もちろん、ボール持った時に強力なCBがいる前提なのだけれど、居るなら使わない手はない、ということだ。

 そんなこんなで、相手が「これはまずいな」とCBやアンカーにプレッシャーをかけに出てくるのであれば、今度は、前線のトライアングルが躍動する設計だ。

図1

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 4-3-3からの可変。あえて、電話番号をたたくなら、2-3-5といったところか。ビルドアップ型は、W字型。トゥヘルドルトムントでもよく見られた型。PSGでは担当者が異なり、左インテリオールのヴェラッティと右SBのケーラーがW字に入る。ただ、アンカーとCBのトライアングルが軸になるのは変わらない。

図2

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 状況によっては、2-4-4のような形もある。よく分かるのは、ヴェラッティとドラクスラーの役割は、同じインテリオールでも異なるということだ。ドラクスラーの方がより、ファイナルサードで力を発揮するように、ヴェラッティはビルドアップを助けるように役割を与えられている。個と組織。この辺りの配分は、トゥヘルがPSGに来てうまくなったのかなと。

ウィング、インテリオール、サイドバックのポジション交換でローポスト狙い撃ち

 さて、前線のトライアングルについて。この3人の動きでファイナルサードを攻略していく。まずはインテリオールのローポスト襲撃。左はムバッペがレーンチェンジしているのでムバッペが。右はドラクスラーがそのまま縦のランニング、あるいはボールを受けると進出していく。ローポストは、サッカーのルールが変わらない以上、ここからのマイナスクロスとセグンド(ファー詰め)クロスがゴールを上げるうえで最も得点確率の高いプレーになる。ここをまずダイレクトに狙う。当然相手もCBやCHがついてくるので、簡単にクリーンな状態にはなれない。

図3

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 右サイドは、ウィングのサラビアがカットインして、ドラクスラーが空けたスペースを使う合わせを行う。第2手は、そのままSBケーラーがウィング化するか、ドラクスラーが外流れでウィング化して三角形を循環させる。

図4

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図5

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方の左サイド。エース級のムバッペがいる。彼がハーフレーンの第3レイヤーに立つことで、相手SB-CB-CH-SHに対してまずはシンプルに、焦点プレーで守備の選択を迫る。 合わせで、ウィングレーンにベルナト、ハーフレーンの第2レイヤーにヴェラッティが立つことでその焦点が絞られるのを緩める。そこに緩みがでれば、そのままムバッペがハーフレーンを駆け上がり、ローポストを強襲する。単純だが、これが一番強力だ。ポジショナルプレーの考え方である、「味方の負荷を出来る限り下げて、相手の負荷を上げて優位性を作る」に則った極めてポジショナルな攻撃だ。また、ベルナトの攻撃も強力でまさにウィングロールでサイドからローポストを襲撃することもあれば、サイドチェンジキックを受け取ることもある。また、サラビアが流れてきて、ムバッペがサイドから突撃する形も見られる。

図6

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図7

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図8

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 いずれにせよ、①ウィングロールで幅取りがいること、②ハーフレーン/第3レイヤーに立つこと、③ハーフレーン/第2レイヤーに立つことの3点でトライアングルを形成して、ローポストへの進入を狙う。

図9

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ネイマール退団濃厚と言われているが…

 2019年8月12日時点で彼にはいろんな噂があるが、ほぼ間違いないとされているのがPSGを去るということ。その代わりに誰が来るとか、来ないとか言われているのだけれど、現時点でもPSG攻撃としての完成度も高く、ビッグクラブ特有の悩みにトゥヘルも挑戦することになりそうだ。ネイマールにしても、この攻撃戦術のなかに織り込むのであれば、ムバッペのポジションになりそうだし、サラビアのようにタッチライン際に張って裏へのランニングのようなプレーを求めるなら、それこそネイマールである必要ではなくなる。居ても居なくなっても悩ましい存在。いずれにせよ今後の編成に注目することにしたい。 

おわりに

  簡単ではあったのだけれど、トゥヘルの攻撃戦術を読み解いた。個人的にトゥヘルは、研究者、実験好きで敬意をこめてドクターと呼びたくなるサッカーオタクなのだけれど、PSGというビッグクラブを率いること、過去のドルトムントでの教訓から学んだことで選手の個性を最大化させるような組織化を目指しているように見えた。選手の入れ替わりとか難しい部分もあるとは思うのだけれど、コレクティブなチームで欧州サッカー戦線に挑んでほしい。

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