蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【振り向くな、突き進め】Jリーグ 第29節 名古屋グランパスvsベガルタ仙台 (0-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか!アウェイ名古屋戦のゲーム分析!ユアスタでの敗北。それでも時は待ってはくれない。敗戦のショックと未来への希望を抱え、次なる戦いへと挑むは瑞穂。どんな理由があれ、負けるわけにはいかない。どちらかが生き、どちらかが死ぬ。私たちはそういう宿命。生き残りをかけた戦いの先に見えてきた世界は。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

f:id:sendaisiro:20191022102245p:plain

 ベガルタは、いつもの4-4-2。CBにシマオが復帰。ハモンはコンディションの良さが継続できているのか、今日もスタメンに。

 一方の名古屋。風間八宏革命軍は解散され、FC東京鳥栖で実績のあるマッシモ・フィッカデンティを招聘。フォーメーションも4-3-2-1と、よく言えばバランスの良い、ひねくれた言い方をすれば、後方が重いやり方で臨む。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

数少ないボール保持で見せた4-4-2攻略のお手本

 ベガルタのボール保持時、相手の守備陣形が整っている場合は、3-1-4-2へと変形。 試合序盤はFW前田がアンカーケアをしていたのだけれど、シャビエルがトップ下になってからは、強度が低くなったこともあって松下がボールを持つ時間とスペースができた。43分に永戸のアイソレーションからあわや決定機を創り出すなど4-4-2の弱点であるワイドゾーンを利用してボールを前進させた。また、アンカー松下の脇のスペースを道渕が有効活用。トムキャット可変で下がって受けて、そのままCHポジションでボールを受け直すシーンもあった。CBがワイドに広がり、蜂須賀が高い位置を取るので、5レーンの原則からするとなんら問題はない。富田と道渕がCH、松下がより高い位置にポジション取りした場面もある。道渕は、トランジション、ボールを持つ・持たないが切り替わる局面における速度、初速が非常に速い。たとえば、ポジション移動していても、ボールを奪われたら奪い返す、奪ったら前に出る速度がチームでも高速だ。この「トランジションの初速」のおかげで、自分の持ち場を離れていてもすぐにリカバリーできる気がする。気がするだけ。

図1

f:id:sendaisiro:20191022110403p:plain 

ボール非保持時

名古屋の左右非対称攻撃と4-4-2ゾーナル守備

 ベガルタのセット守備は、4-4-2のまま。2トップが相手CH、アンカーに基準を置いて、CBにはスペースと時間を与えるやり方だ。自陣近くでボール回収できる自信と算段が無い限りは、採用にはリスクが伴うのだけれど、我々にはシマオ・マテがいる。基本は、というより、札幌戦から表現しているCBからCHへのパスレーンを切りながら、ボールサイドを限定して、CBがパスを出した先で決闘して潰し込むやり方だ。前節山雅戦では、誘導してパスを出させてもシマオがいないことがもろに出てしまった。この試合では、2週間の準備とシマオの復帰で、ボールを持っていない時の振る舞いについては、ほぼ完璧なブロッキングを見せた。

 対抗する名古屋は、4-3-2-1なのか、4-3-シャビエル-2なのか、4-4-1-1なのか、シャビエルのポジションがフリーロールっぽいので、なかなか数列表記にするのが難しい。電話番号。総じていえば、4-4-2系のチームで捉えておけば良いと思う。さらには、シャビエルがいる左サイド、前田がいる右サイドで攻撃構造が少し違っていた。

図2

f:id:sendaisiro:20191022103312p:plain

 名古屋左サイドの攻撃は、SB吉田が高い位置を取るウィングロール。シャビエルがハーフレーンや列降ろしでポジションを変える。CHの米本とハーフレーンで協働して、ベガルタ4-4-2の痛点である2トップ脇、ハーフレーンを利用して、ボール前進を図っていた。対するベガルタ。関口の5バック化で吉田のウィングロールに対抗。初めから使いたいスペースを埋めるやり方だ。こうなると名古屋にとっても、左サイドが埋められている状況で、しかも守備バランスの大義名分でカウンター予防にひとを割くことで、ブロックを決壊させるまでには至らなかった。であればと、サイド振り替えで右サイドにボールを移動させる。

図3

f:id:sendaisiro:20191022103707p:plain

 その名古屋右サイド攻撃。こちらは、FWの前田がハーフレーンからSB背後へ飛び出していくカットアウトでベガルタ守備を混乱させようとしていた。実際、ベガルタの陣形が整っていない、トランジション局面においては、シマオをサイドに誘い出すシーンもあり有効であった(開始54秒の初撃は新体制において狙いの形だったのではと思う)。ただ、ベガルタもリトリート速度が速く、攻撃時に陣形が崩れていてもボール付近にゲーゲンプレスをかけることで、リトリート時間を稼ぐことができた。できるだけ名古屋に「ベガルタの陣形が整った状態で攻撃させる」ことで、相手を焦れさせ、守備を意識した攻撃陣形を崩して攻めてくれることを誘った。前田、太田の2人称攻撃においては、蜂須賀と道渕がスペースと時間を圧縮するような守備で対応。2トップもCHを監視することで、相手が「守備バランスを崩して攻めたくなる守備」を表現できていたと思う。

4-4-2の痛点「2トップ脇」を構造で突く名古屋

 対する名古屋の攻め手。サイド振り替えるものの、ベガルタとしては想定通り。クロスを上げても中央には、シマオ含めたCBとSBが構えている。でも守備陣形は崩せない。となると、構造的に時間とスペースがあるところから攻めるしかない。それがベガルタ2トップ脇だった。そもそも、2vs3で数的不利で理論上ボールを持てる場所だ。そして実践上でも持った。それが3センターのひとり和泉だった。和泉は、2トップの脇、道渕の正面、ハーフレーン入口からハーフレーンに侵入。太田を意識する道渕に対して選択を迫った。蜂須賀が対応するシーンもあったのだけれど、もちろんその裏を太田に使われている。

 ベガルタの対抗型は、全体のブロックラインを下げることだった。和泉の前進を許しつつ、太田に出たら対応。そうなると前進された分押し込まれて、よりリトリート現象が進む。これが前半の途中あたりから、自陣での守備を強いられた要因だと思う。引き付けて受けるとは聞こえは良いのだけれど、自陣で窒息しかねないやり方で、長沢、ハモンの出口があったからまだ成立していた。アウェイマリノス戦のように、「自陣回収→ロングキックで陣地回復狙う→収まらず相手ボール」の無間地獄になりかねない。長沢とハモンがボールを収められ続けた理由は、少し分からなかった。日ごろの行いが良かったことにする。するだけ。

図4

f:id:sendaisiro:20191022105300p:plain

 後半、名古屋がネットと赤崎を投入して、明確な4-4-2で攻めるようになってからは、4-4-2vs4-4-2の展開らしくプレスも嵌り、剥がすか剥がされないかの個人の戦いになった。ネットがアンカー落とで3バックビルドになるので、やはり2トップ脇からボールを前進させられた。結果としては押し込まれたのだけれど、ではそこからのクロスで危ないシーンは、まあ2回くらいあった気がするけど、破綻するようには見えなかった。最後はジョンヤを投入して5-4-1に、椎橋投入で5-3-2にしてクロージング成功。「勝ちをもぎ取る作業」を徹底して達成した。

考察

勝ち点を得るサッカー

 この試合の得点は、CKとPKの2点。スタッツで見てもボール支配率もパス成功率も相手を下回る。まあ言ってしまえば、結果だけをもぎ取った、とも言える数字になる。前節山雅戦、今節名古屋戦は、ボールを持ってがテーマになる、なりそうな試合だった。前節敗戦を喫したことも影響があってなのか、この試合は徹底的にボールを持たない時に注力した。今シーズンは、春先の咎を受けていることから、勝ち点を得る作業に重きが置かれているし、実行できたりできなかったりしている。残り5試合についても同様で、ルヴァンや天皇杯で置いてきた勝利を得ることに対してのチャレンジングなテーマになるのだと思う。

おわりに

 いつのまにか、霧雨は止み、曇天の瑞穂になっていた。灰色の世界に、赤と黄金と芝の緑が見事なコントラストを描いていた。たなびく旗。覚悟を決めたチャント。ベガルタ仙台コール。時折訪れる静寂の瑞穂には十分すぎるほどに響き渡った。名古屋に訪れる静寂は、静観か、不安か、それともビッグクラブの矜持か。試合後の道中、感情が消えた名古屋サポーターの子どもを相手に、休日のイベントとしての思い出写真を嬉々として撮ろうとする両親。サッカーは勝ち負けの結果でしかないと同時に、それが僕たちの人生まで浸食するものではない。

 それでも、相手がどうあれ、僕たちは勝った。サッカーで勝った。一体何が正しいのか分からないこの世の中において、こと、サッカーの試合においては勝ち負け引き分けが正当に線引きされる。その線引き作業を自ら突き進んで行うのだと、チームが意思表明するのであれば、僕たちもまたそれが折れないように支えるほかない。何よりこのクラブには勝利が足りない。もっと貪欲に、何が何でも勝利を。もっともっと。ここで止まるわけにはいかない。サポーターに挨拶を終えた選手たち。ロッカールームに引き上げる背中。進め。

 

「You just wait. I’m going to be the biggest Chinese Star in the world.(覚えてろよ、俺は世界一の中国人スターになる。)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html