はじめに
さあ、いきましょうか!ホームマリノス戦のゲーム分析。ついにこの時がやってきた。昨年、ユアスタで屈辱的な敗北をもたらしたマリノスを再び招き入れる時が。時は巡り、メンバーも変わっている。ただ、変わらない大敗という事実。意思をもって攻める相手に、ベガルタも意思貫き通すことを選ぶ。逆転を信じて走り続けたチームにもたらす未来とは。そして、サポーターは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。
目次
オリジナルフォーメーション
ベガルタは、4-4-2。右SBに大岩が入っている。ハモンも2試合連続スタメン出場。
一方のマリノス。喜田、ティーラトンが出場できず。4-2-3-1のマルコス王様フォーメーション。仲川が1トップを張っている。怖い。
概念・理論、分析フレームワーク
- ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
- 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
- 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
- なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
- また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。
ボール保持時
マテウスの外への意識の裏を取るSB大岩
ベガルタの数少ないボール保持時間は、いつものトムキャット型4-4-2。この試合、おそらくはボールを持っていない時への期待で起用されたSB大岩。僕の解釈は、マテウスのボールを持っていない時、つまりは守備時の判断があまり良くないところを突いていくためにも起用されたのかなと思っている。ハチは、良くも悪くもバランスをとって、味方が突っ込んだ後のフォロー、あとは頑張り屋が出て、とにかく何枚も剥がそうとドリブルしていく。大岩は、どちらかというと、オフボールでの動きだしが良い。ミチがハーフレーンにレーンチェンジして、シマオからボールが刺される。長沢へのワンタッチパスで相手SBからのプレスを回避。SB背後を大岩が突いた。
ここでは、シマオがボールを持った際に、マテウスは大岩へのパスレーンを警戒して、体が開いている。シマオも基本的には、SBへのパスが多いのだけれど、この試合は、ハーフレーンへ刺すパスが多かった。また、38分ごろには、ミチから大岩にSB背後を取るボールが出されている。このシーンも、マテウスが大岩を気にして、ミチへの警戒が薄れている。マテウスがミチを見た瞬間に、大岩は裏に思い切りよく走り込んでいる。
ボールを持つ時間が短いというのもあるのだけれど、そのため、守備時のがんばりがクローズアップされるが、この再現性には大岩が攻撃時の背後のスペースを狙っていたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。狙っていた気がする。気がするだけ。多分。
2トップの槍
もちろん、相手が攻撃陣形時にボールを奪えば、いわゆるポジティブトランジション時には、すばやくハモン、長沢へとボールを供給する。マリノスは、2バックだったり、3バックだったりするのだけれど、自陣に広大なエリアがある。GK含めて守る姿勢を見せるものの、明らかに、極端に高い位置を取るSB後方のエリアを攻める策を取った。そしてそれは、ほぼ成功を収めている。前半11分ごろのハモンの決定機がゴールになっていれば展開的にもかなり理想だったと思う。ただ、そこで折れず、焦れず、貫き通したことにこのチームの成長を感じた。
ゴール前の両大外が空くマリノスと事前研究で攻めるベガルタ
70分を過ぎたあたりから、ベガルタが相手ゴールに迫るシーンが増える。最終的には89分に永戸のゴールが生まれるのだけれど、マリノスはボールサイドのワイドレーンと逆サイドのワイドレーンが大きく空く。中央を締めるといったら聞こえは良いのだけれど、だんだんとボールに集まって密集守備し始めるので、ペナルティエリア内でもマーク番がいない選手が生まれてしまう。事前スカウティングでも分かっていたのか、交代で入ったジャメ、蜂須賀は右サイド、ゴールを決めた永戸は起点となるパスをその右サイドに送っている。おそらく、徹底的に研究したのだと思う。SB裏といい、敵陣ゴール前の両ワイドといい、研究で勝てた部分も大きかった。
ボール非保持時
「13-4」への回答は、4-4-2ゾーナルブロッキング
ベガルタの非保持時の陣形は、4-4-2のフラットタイプ。意識は、ゾーンを守る意識が強い4-4-2だった。今季のチームは、かなり人への強い意識、いわゆる決闘重視の守り方が主軸だった。シマオや富田のような、ボール奪取能力が高い選手が相手と1対1の競り合える状況をピッチ各所で作った。これは、渡邉ベガルタの特徴ともいえる。「球際、切替、走力」を守備のプレー原則に掲げる監督のもと、チームは、「人」という明確な戦う基準があると迷いなく守備ができる反面、縦横のポジション移動、瞬間的、局地的な密集とローテーションを組まれると途端に頭が沸騰してしまい、高い戦術負荷をかけられたまま敗着するケースが多かった。その代表例がマリノスだった。昨年の2試合合計スコア「13-4」は、そのすさまじさ、相性の悪さを感じるのには十分な数字だ。
図1
図2
だからこの試合の研究手、対抗型が何でくるのかに注目が集まった。まるで、ペップバルサ相手にどんな策で臨むのか注目されたように。答えは、ゾーナル守備。ボールサイドと逆サイドのウィングは、中央レーンまで移動して、まるで3CHのような立ち振る舞いをする。2トップは、相手のアンカーポジションの選手(厳密には、SBやマルコスなど、3列目に入ってくる選手といったところか) へのパスレーンを警戒して、CBにはある程度時間とスペースを与えるスポイル策を取った。
マリノスのビルドアップの不思議。学習するベガルタ。
マリノスは、両SBがハーフレーンに移動して、しかも第3レイヤーのライン間に立つこともあるいわゆる偽サイドバック。可変インテリオールと言った方がよさそうなくらいにSBポジションにはいなかった。右SB松原は、CB化して3バック形成することもあるが、CH扇原がCB間にアンカー落としするのなら、高い位置を取る。
図3
図4
図5
マリノスのビルドアップは、とても不思議だ。相手を嵌める前、自分たちあるいは相手と調律する前に、「可変して外してしまう」のだ。本来、相手が守っているところを確認するソナータイムが10分間ほどあって、それから、相手が守っていないところから、ズレを創っていくのがいわゆるポゼッション型ポジショナルプレーチームの基本型。ベガルタが4-4-2で守るなら、あえて2バックでポゼッションして、4-4もあえてマークしやすくポジショニングして「嵌める」作業をする。そしてベガルタが守備の「今日の守備のやり方」に慣れてきたころにそれを「外す」作業が入る。そうなると、ベガルタに混乱が起きて、ズレが生まれるというロジックだ。もちろん、守備側のベガルタも生きているので、マリノスの立ち位置やスペーシングロジックを「観察」して、どこを守るか相談して決めることになる。
そして今度はマリノスが…といったぐあいに、目が離せない戦術的なやり取りが発生するのだけれど、マリノスの場合は、最初はグーの段階でグーもチョキも、パーも出してくるので、ベガルタは慌てず、チョキのタイミングでグーを目押しして出せば良くなる。この試合のベガルタのゾーナル守備は、まさにその沢山の手を変え品を変えに付き合わず、大事だエリアを守るやり方をとった。そしてそれが、昨年13失点した相手に、たった1点しか取られなかった要因になったのだと思う。
考察
戦い続けた90分
攻守での狙いを明確に、そして確実に実行した試合だった。擬似カウンター現象のような形で先制は許したものの、最後までその意思を貫き通した。これまで、マリノスに主導権を握られ、思うがままにやられていたのだけれど、この試合は相手を観察しながらでも自分たちの意思を忘れず戦えていたと思う。やはり、大なり小なり、札幌やマリノスのような、大正義を掲げて攻めてくる方がやりやすいのかもしれない。そうであれば、次節の松本戦が持つ重要性というのは、またチームの新たな側面を問われる戦いになるかもしれない。
おわりに
試合開始前。アウェイゴール裏から轟音が鳴り響く。まるで波のように歌うマリノスサポーター。鳥肌が立つ。ここユアスタ。あれほどの相手の賛歌を聞いたのは初めてだった。対照的に、衝撃的な敗北を重ねたチームを見たベガルタサポーターは、先制を許すとトーンは抑えめ。 トラップミス、パスミスをすれば「あああ」の声が屋根から降ってくる。どちらのボールか分からないトランジション局面こそ、今のチームの醍醐味というのに。でも、その心情はよく理解できる。当然の感情だと思う。
そして、また声が降ってきた。前半終了間際、同点直後のレッツゴーは、ひときわ大きく、そしてスタジアムを制圧した。このクラブに、このサポーターには、まだまだ勝利が必要なのだなと思う瞬間だった。上手くいきそうなら声は大きく、いかなそうなら残念そうに。当たり前かもしれない。単純かもしれない。でも、ゴールを奪って、勝利すれば、声はどこまでも大きくなるということなのでしょう?であれば、僕たちは、とても野心に溢れている証拠で、もっともっともっともっともっと勝って、タイトルも獲って、もっと大きな声を上げれば良いと思う。まだまだ僕たちには可能性がある。大きな可能性がある。一番怖いのは、勝利への野心が無くなった時だと思う。そうなった時、屋根から声は降らなくなる。降るなら、雨と声でいい。この日のように。でも、雪とひょうは嫌だ。寒くて痛いのは、僕が嫌いだからだ。
「あたしはもう、ここにはいない。 でも、この日のあたしは、ずっとここから あなたを応援している。 たった一人の、あたしへ」こう言ったのは、フェイ・ヴァレンタインだ。
参考文献
東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう
「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)
http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html