蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【奇跡】Jリーグ 第2節 湘南ベルマーレvsベガルタ仙台 (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ湘南戦のゲーム分析です。まずは、COVID-19と最前線で戦っている医療従事者の方、また、Jリーグを再開するために尽力されたリーグ関係者、クラブ、チーム、スタッフ、選手すべての関係者の方に、感謝を申し上げます。今回も、気合入れてゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタ仙台は、4-3-3。ケガ人続出の開幕戦から大きくメンバーを変更している。ウィングには、予想されていた左に西村、右には開けてビックリジャメが入った。シマオがケガで吉野がCB、クヴァ神もケガで18歳GK小畑がスタメン入り。

 湘南は、5-3-2。ボールを持つと3-1-4-2っぽくなる。FWには石原先生、CBに大岩、リザーブに古林と元ベガルタ戦士たちが入る。注目は、セントラルハーフの齊藤。

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

関口とタカチョーの『ゾーン撃ち』

 ベガルタのセット攻撃は、左右のウィングがアウトサイドレーンいっぱいに広がる4-3-3でスタートする。ジャメと西村という、タッチラインを駆ける純粋なウィンガーというより、アタッカータイプを起用したことで、ぺナ幅3レーンのインサイドレーンを使うかと予想されたが実際はバリバリのウィングロール。特に、ジャメがいる右サイドをベースサイドとしてボールを前進させた。セット攻撃でも、ポジティブトランジションでもジャメが相手WBの背中を取る動きで、右サイドに問題を起こしていた。 

図1

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 図1は、アクチュアルフォーメーションと選手のペアリング。無理くり言えば、3-2-5とも言えるのか。ジャメがいるサイドは、ボールロストのリスクがあるので、SB蜂須賀が後方のスペースを埋める。ハーフレーンからセントラルレーンは、アンカー椎橋と2CBで封鎖することで、カウンター予防とした。

 ボール保持攻撃の号令は、ウィングにボールがつくこと。右サイドだと、ジャメにボールがつくことで、インテリオールの関口が選手間である『ゾーン』をオフボールランする。参考までに、レーンが被らないような原則がありそうで、ジャメがワイドレーンなら関口はハーフレーン、そのまた逆もしかりといった具合だった。ただ、ワイドレーンの選手にボールがついたら、その横のスペース、『ハーフゾーン』を走るというのは約束事のように見えた。「翼がボールを握ったら、廊下を走れ」だった気がする。気がするだけ。

図2

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図3

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参考図

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 右サイドは、右インテリオールの関口がサイドの選手ということもあって、ゾーンを走っていくことに違和感は無いのだけれど、左サイドは誰が担当するのか。答えは、左SBの石原 崇兆、タカチョーだった。タカチョーのランニングスタートポジションはハーフレーン。ウィング西村がワイドレーンなので、さきほどの「レーンを被らない」原則と、いくつか要因があるので後述する。西村にボールが入ると、タカチョーも逆サイドの関口同様、『ゾーン撃ち』を実行。相手WBに瞬間的な数的優位(2vs1)を創り出しピン留め、西村がボックス内にドライブできる時間とスペースを創った。

 この『ゾーン撃ち』自体は、それほど目新しいことではないのだけれど、サイドバックが実行したところが、新鋭で、先鋭で、新規的で、提案的だ。4-3-3はウィングが相手ブロックを広げるので、その間をオフボールランする(突く、突撃する)ことが大事になるのだけれど、この試合の関口のように、その役割はインテリオールが担うことが多い。サイドバックだと上がるのに時間が入るのと、ボールを奪われると自陣に戻るまで距離があるので、体力的にもしんどくなる。これを木山式4-3-3では、タカチョーがハードワーカーである選手特性での解決と、構造的な仕掛けで解決しようとしている。それが、『サイドチェンジ』だった。

蜂須賀のサイドチェンジキック

 リバプールの右SBアレクサンダー=アーノルドが、右SBのポジションから逆サイドへサイドチェンジキックするシーンをよく見かける。たしかに、SBという、時間とスペースがある程度あるポジションからキックを蹴る余裕はあるのだけれど、相手側からすると、ピッチの端っこで相手陣に近いところでボールを持たれてもそれほど脅威ではないどころか、そこに誘導させてすらいる。ただ、そのポジションから、鋭いサイドチェンジキックが飛ぶなら、話は変わってくる。

 この試合、ジャメのウィングロールを支えた蜂須賀にはもう一つ攻撃のタスクがあった。それが、左サイドへのサイドチェンジキックだった。湘南の5-3-2は、高い位置にウィングがいないので、右SBにプレッシャーをかけるなら2トップか3センターがスライドする必要があるのだけれど、それなりに時間がかかる。また、ジャメと関口がファイナルラインで問題を起こしているので、蜂須賀にボールが入ることへの守備の優先順位は低かったようにも思える。そんな湘南要因とベガルタの狙いが相まって、蜂須賀は数本のサイドチェンジキックを左ウィングの西村、SBのタカチョーに蹴りこんでいる。

図4

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 インサイドアウト。ホルダーの蜂須賀周辺を攻めながら相手DFを寄せ、広く空いているオープンエリアへとボールを展開するやり方。ハーフレーンに立つタカチョーへのキックは2レーンスキップ。相手のスライドが間に合わないキックで、左サイドからの攻撃へと繋げていった。右サイドのジャメ、関口が『第一の槍』。左サイドの西村、タカチョーが『第二の槍』だ。また、ツーマンセルのペアリングに1人加わることで、自然とトライアングルを創っていたのも、ファイナルサードを崩すやり方のひとつのような気がする。気がするだけ。

図5

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タカチョーは、『ファントム』

 タカチョーがハーフレーンに立っていることで、①ゾーン撃ち、②サイドチェンジキック(2レーンスキップパス)が成立している。そもそも、どうしてタカチョーは、サイドバックの主戦場であるワイドレーンではなくて、ひとつ内側のハーフレーンなのか。ひとつの解釈として、『カウンター予防』だったのではと考えている。左サイドのセット攻撃が少なかったので、確認が難しかったのだけれど、ボールサイドと逆のSBは、ハーフレーンまで絞るような立ち位置を取るようにしているのだと思う。多分。蜂須賀もそのような立ち位置をしていた。いわゆる、『カウンター予防(スペア)』ポジションである。

図6

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 いわゆる『偽SB』という、カウンター予防のために、ハーフレーンに立つやり方はだいぶ市民権を得ているやり方だ。さらに、ポゼッションにも加わって、相手の守備基準をズラす効果もある。Jリーグだとマリノスが有名どころか。もちろん、タカチョーも、椎橋や松下などと同じ高さにいたのだけれど、それは蜂須賀も同様。これは、チームとして『SBはアンカー高さまで。ボールがアンカーを超えたら(ウィングについたら)前進』という原則があって、そちらの方が優先順位が高いようにも思える。カウンター予防でハーフレーンに立っているのだから、今度は『ウィングとレーンを被らない』の原則で西村はワイドレーンに。さらに『ウィングについたらウィング横(ハーフゾーン)を走る』の原則追加で、タカチョーがハーフレーンを駆け上がり、ゾーン撃ちしたのではと解釈している。

 当然、元来のSBの役割とは大きく違うという点においては、『偽のサイドバック』ではあるのだけれど、本当の役割は①カウンター予防、②関口同様、インテリオール突撃なのだと思う。①がチームとしての守りの戦術なら、②は「タカチョーの特徴とチームの攻撃戦術の融合」と言える。まだこの役割の全貌を把握はしていないのだけれど、この試合のタカチョーは、「サイドバックであり、インテリオールであり、ウィング」だった。サイドバックだと思った選手が、ファイナルラインの背後に向かって突撃してくる……ウィングのカットインに合わせて、ウィングロールをする……。

 まさに、幻影。『幻影の攻撃者』とも呼ぶべきか。今のところは、『ファントム』ロールで落ち着いている。神出鬼没。幻影とは、「まぼろし。幻覚によって生ずる影像。心の中に描き出す姿」だそうで、「目の前にいるタカチョーは、本当にサイドバックでしょうか?」という初見の僕の感想そのままの意味だった。幻のサイドバック

 タカチョー自身が、両脚のキック精度が高くテクニックもあるので、オフボールだけでなくオンボールでも違いを出せるので、非常に面白い、そしてキープレイヤーになれると考えている。

 

ボール非保持時

4-3-3と4-5-1ディフェス

 セット守備は、ミドルサードでは4-3-3のまま、『3-3』が六角形のように、インサイドレーンを防衛する。3トップは、相手3バックの正面にたちハーフレーンを封鎖。3センターは、椎橋を中心にセントラルレーンを塞ぎ、相手2トップや2センターへボールが刺されることを警戒した。当然、湘南としては、アンカー落としてで4バックビルドにして枚数優位をつくるのだけれど、ベガルタの4-3-3ディフェンスの外周に選手がいるだけで、決定的な手にはならなかった。WBにボールが入っても、蜂須賀、タカチョーが拒絶型縦迎撃で押し返した。また、ウィングのプレスバック、3センターのスライド強度も高く、ピッチ中央に巨大な六角形を創り上げた。

図7

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図8

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 自陣、ファーストサードでは、4-5-1のブロックを形成。5ハーフが5レーンを埋めあくまでぺナ幅3レーン、インサイドレーンへのボール供給を拒んだ形で対抗型を組んだ。また、状況次第では、関口や西村が前進してプレッシャーをかけて4-4-2っぽくもなっていたので、いわゆる4-3-3でのボール非保持時の振る舞いを身に着けつつあると見えた。

 

考察

ウィングサッカーへの挑戦

 ジャメと西村にタッチライン際でのプレー、ウィングロールを仕込んでいたのは素直に驚いた。もっと内側で勝負させる『偽物のウィング』かと思ったのだけれど、結構ウィングをやっていた。特にジャメは、利き足の左足を活かすようにカットインするのではなく、縦へドライブしていたのが印象的だった。先制ゴール自体は、風のおかげとも言えるのだけれど、縦への突破がなければ無かったゴールだ。ウィングが難しいのは、縦に相手を抜くことだと言われている。また、タッチラインがすぐそばであり、簡単に抜けないことからボールロストしやすいポジションとも言える。ただ逆に言えば、「どこでボールをロストするのか計算を立てやすい」とも言えるし、そう言われているような蜂須賀や椎橋のポジショニングだった。外と内。2つの選択肢を持って、3人関われば、2×2×2=8通り。相手はついてこれない。こういったのは、吉武博文だ。

 

強度をどこまで持たせるのか

 先制後の試合の進め方として、当然色々なやり方があるのだけれど、たとえば後半交代を機に試合を落ち着かせるようなゲームコントロールも必要になると思う。もっと暑くなって連戦が続く。ローテーションで対応したとしても、自分や相手の状況加味せず同じテンションで戦うのは難しいし、効率的でもない。今は、今やっているサッカー、取り組みを試合で試すという作業も必要なので、バランスという使いやすい言葉に逃げてしまうのだけれど、もっと時間とスペースを支配してもいいのかなと。ひとつの解としては、エリアごとのブロックを仕込めているので、それを進化させるのと、ボールを持った時にもどうかといったところか。

 

おわりに

 奇跡だと思っている。僕がこうして試合を観れて、記事を書けることに。当たり前だが、僕だけの努力では無理だ。すべての、試合に関係するすべてのひとの努力が結集した結果があの、あの90分間だった。連戦が始まる。あの憎いウィルスは、まだ沈静化していない。静かに繁栄の機会を伺っている。ひとつひとつが奇跡と思って、すべてのひとに敬意と、祝福と、感謝を持つべきだと思う。生きていることは、元来、奇跡的なことなのだと、そう、少し、ほんの少しだけ思い出したのだった。

 

「破壊するがいい…でも、人の勇気を壊す事なんかできない」こう言ったのは、オタコンだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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