蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【重力への抵抗】Jリーグ 第8節 鹿島アントラーズvsベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

  では、いきますか、アウェイ鹿島戦のゲーム分析。去年のアウェイでは、良いイメージをもっていただけに少し残念な結果に。まあ、いつまでも茨城に魂を引かれるわけにもいかないので、いつもの振り返りをやっていきましょう。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、前節同様3-1-4-2でセット。兵藤に代わって新加入の松下がインテリオールでスタメン入り。左利きのキック、パス、動き回ることでを期待しての起用か。あとは同じメンバー。こうなるとやることはひとつで、鳥栖戦からの継続で2トップの攻撃とCBがボール持った時に時間とスペースの活用が肝だ。

 一方の鹿島。SHに移籍してきた白崎がスタメン入り。ただし、安部とポジションを入れ替えたりするのであくまでオリジナル上の話。昨年のユアスタホーム最終戦ではズタズタにされた。今シーズンも立ちはだかる強敵として手合わせ願いますといったところだ。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

軸は2トップへのボール。セットオフェンスの型は発展途上。

 ベガルタのビルドアップは、3CB+アンカーのいつもの形。WBが高い位置を取り、CB常田からのフィードを待つ、あるいはビルドアップの踊り場としてCBをプレッシャーから解放させる。

 すっかりおなじみになった平岡、常田、ジョンヤによるビルドアップ。やれシマオが降りるだ、兵藤が降りるだ、おいおい石原先生まで降りるんかいと言っていた湘南戦が懐かしい。 

 そしてポジショナルアタックにおいては、理想型が78分。リャンがレオシルバをおびき出し、ハモンの扉を開く。ジョンヤが楔を打ち込む。ハモンに引き寄せられるDFとフリーになるタカチョー。選手の質と立ち位置、最後に一人余るところなど、きちんと優位な状態を作り出していた。コンセプトとして、第一優先がSB裏へのランニングがあるチーム状況において、こういったセットオフェンスを大事にしたい。

 またクロスマシーンハモンについては、ポジティブトランジションで書くのだけれど、ハモンはエルボー、つまりはハーフレーンの出口・ローポストの入口で待機させて、ボールレシーバーに専念させた方が彼にとってもチームにとっても良い気がする。気がするだけ。シュートブロック、ローポスト防衛のためにDFがくるなら誰かが空くし、来ないなら彼の左足が活きる。まあ、盤上の話かもしれないのだけれどさ。

図1

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中央3レーンを封鎖する鹿島

  さて、鹿島。4-4-2のセットディフェンスなのだけれど、キーはアンカーを2トップがチェックするのとハーフレーンをSHが封鎖することだ。中央3レーンを8人~10人でブロッキングする。ベガルタの2トップ+2インテリオールの4人を自由にさせない対抗型できた。代わりにCBとWBは放置。ベガルタが縦志向強くくること、WBにボールが渡ってからスライド対応で消し込めば中央を割られるよりは良い判断だと思う。多分。

 実際、吉尾、松下は、息継ぎのためにブロックの角、SH前あたりに降りるシーンが見られた。ワンタッチターンで前を向いて、ハーフレーンを襲撃してほしい彼らが降りると怖さが半減してしまう。ただ、ボールが来ないなら、居ないのと同じ。悩ましい。だからこそ、リャンのようなおびき出しとハーフレーンで前を向くことの2つをチラつかせて、判断を迷わせたいところ。言うは易し。まずはできることから。

  

ボール非保持時

見事なスライド。快進撃に向けたキーポイント

  ベガルタのセットディフェンスは、5-3-2。ジャメ・ハモンの2トップが2センターを監視して、2CBは放置。吉尾・松下のインテリオールがSB、蜂須賀・タカチョーのWBがSBにつく。基準を明確にすることで、スライドも思い切り行うことができる。鹿島は、2バックがボールを持てるが出し先がSBになる。その瞬間がベガルタの狙い。5-3-2の守備結界を広げ、押し出すことで、ボールを下げさせることに成功。そのまま、ビルドアップ妨害に移行していく形だ。結。滅。

 大分戦にも見られたが、セットディフェンスから一気にスライドすることでボールを相手陣地に押し込みビルドアップ妨害に移行していければ、相手の最初のレイヤーを圧縮し窒息させることにつながる。

 このブログで「攻撃」「守備」といった分け方をしていない理由でもある。どっちが攻撃しているかなんて、簡単に分けられない。ピッチから境目が見えるか?白線が俺たちに何をくれた?あるのは、ボールを持っているか、いないかだ。

図2

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図3

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左SH安部の存在

 ひとつ気になったのは、鹿島のSHポジション。特に前半は、安部が左SHにポジションチェンジすることで、ベガルタの右サイドで問題が起きていた気がする。安部が押し込むことで蜂須賀が迎撃ポジションをとれず後退。安西の進出、土居、2センターを中心としたボール交換、ポジションローテをやられた印象だ。もし上手くいかなかくても、サイドチェンジすることで、ベガルタをスライドさせることに成功。そこから失点にはつながらなかったのだけれど、何度か危ないシーンを創られた。

 スライドが得意なチームには、スライドさせるのがひとつの策だ。得意なことをあえてさせることで、安心感を与えつつ限界を悟らせなくできる。大分戦のGK高木にボールを持たせたのに通じる。得意なことをやらせられるとやりたくなるのが人間だ。必要なのは、必要なことを必要なときにやることなのに。今回も、縦横のスライドを見せるベガルタに対して、サイドチェンジでスライドを強要させることで、ほころびを見つけようとした鹿島。そもそも3センターの横スライド、WBの縦迎撃スライドは、判断と体力を使う。頭と身体が疲労すれば、当然穴が空く。

 鹿島は、昨年のホーム最終戦でもCBのボール供給能力の低さを突いてきた。今回も、ベガルタの守備に対する対抗型を用意してきた印象で、各チームが参考にする気がする。ベガルタとしても、鬼スライドで対抗できるメンバーなのだけれど、ボールを持つ時間を増やす、ポジティブトランジション移行の整理をきちんとやっていきたい。

図4

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ポジティブトランジション

狙いはいつも通りSB裏。「再現」されるクロスマシーンハモン

  鳥栖戦から継続しているSB裏。ここをハモンとジャメが突く。そこにプラスして、タカチョーが一緒に攻めあがっていく印象だ。3人とも速く、ポジティブトランジション、攻撃状態への移行も速い。その分3人でミドル・ロングトランジションからのカウンターで仕留められれば良いのだけれど、そうもいっていないのが、今のチームのサッカーを難しくしている要因のような気がする。3人とも空を裂く号令を聞いたハネウマのように乱暴なだけに、周りがついて来れない。しかも、君が飛ばせと煽るから、小休止(ポーズ)プレーでボール保持の時間を創ることもないので、次の瞬間には家に帰って、対面する相手選手に付き合うはめになる。

 左ハーフレーンから左ウィングレーンにカットアウトラン、外流れすることでボールを引き出し光速クロスを上げる。これが今のハモン・ロペスのパターンだ。難しい。再現性があるのだから、有効と見るべきなのか。ボックス内に入ってこれない選手がいけないのか、そこを整理すれば、ハモンのクロスが報われるのか。

正解ではなく答えを探したい

 僕にはとうとう分からなかった。ハモンが報われるには、ハモンの心臓の鼓動、すなわちリズムに合わせて行動する必要があるように思える。ドリブルの方向、クロスのタイミング、シュートマシーンになりたい時、ずんだシェイクを食べたい時とかとかとか。そんなこと可能なのだろうか。だからと言って、彼に重税を課して、大人しくさせるのも何だかなあって感じだ。彼がそれで相手に勝って突破している、何度も繰り返せてる、それでオッケーなのか。分からない。

 ひとつ言えるのが、彼も人間で、一緒にプレーしている選手も人間だ。誰だって試合に負けたくないし、もっと良くしたいと思っているわけで。「クロスを上げました」「ボックス内に入ってきました」みたいな真似だけはしないでほしいなと思っていたり、思っていなかったり、やっぱり思っていたり。みんなで攻めて、みんなで守れたら、とっても良いなと思いましたとさ。

 

考察

守備構築に成功

 一時期の誰が何を守っているのかよく分からない守備から随分整理された。そこから、素早く攻撃に転じていく意識も統一されている。それがだめなら、CBを中心にポジショナルアタック。一本槍で難しいのだけれど、突き詰めるしかない。

だからこそ序盤の急戦で仕留めたい

 この試合も13分、15分にチャンスがあったわけで。ああいうところで決めきれないと、今のチームは難しくなってしまう。ありったけの殺意?を込めてボールを強くぶっ叩くこと。まあ、結果ジャメは大外ししたのだけれど。

現実と理想との狭間で

 ある意味今年のテーマでもあった、立ち位置を変えながら優位性を維持しつつ、数的優位を保つやり方。本来、ゴール前で力を発揮する選手がバックラインに降りることになる。優位もへったくれもなくなり、途中で変えた。

 ある意味すでに現実路線に入っているのかなと。というより、より現実的な理想といった方が正しいか。より勝ち点を意識した形。叶えられることから叶える。時間も無いし。ブロックを低く構えて2トップの個の力に任せるあたりは、今あるリソースを最大化するひとつの策に思える。だからこそ、やらねば、やられるのだ。

 

おわりに

  やりたいことを否定され、できることに舵を切る。決して悪いことではない。皮肉なことは、できることを封じられたからこその変化を封じられ、立ち帰ってきた。そしてまた、それだけでは解決しない問題に直面することになった。咎。報い。業が深い。

 冗談だろ。どれだけ僕たちを試したら気が済むんだ。神様は。でも、毎朝起きると新しい自分に生まれ変わっているのなら、毎日が試練で、チャレンジなのかもしれない。そこに正解はないのかもしれない。少しずつ、高いところに登っているのかもしれない。かもしれないかもしれないかもしれない。今はそう言い聞かせてみる。

 

 「後悔するよりも反省する事だ。後悔は、人をネガティブにする」こう言ったのは、ソリッド・スネークだ。

 

 参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html