蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【逃げなければその場所が前線】Jリーグ 第26節 コンサドーレ札幌vsベガルタ仙台 (1-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか!アウェイ札幌戦のゲーム分析!敗北の九州決戦。それでも試合は待ってくれない。今度は、長年の呪縛がベガルタに襲いかかる。それでも目の前の試合に、ボールに、すべてを注ぐ。厚別に灯った勝利がもたらす未来とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。左ウィングに関口がアメリカンコミックに出てくるスーパーヒーローになって復帰。また、FWにはハモンが入っている。

 さて札幌。3-4-2-1ではあるのだけれど、ここから可変して形が変わる。CB進藤が抜けたことが痛手か。それでも、控えメンバー含めて非常に強力な陣容。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

崩せないなら崩れている時に攻撃すれば良いじゃない

  こう言ったのは、僕でマリーのオマージュなのだけれど、今のチームにおいて相手陣形が整っている状態での崩しについてはそれほど重要視というか、優先順位は高くない。どちらかというと、相手がボールを持ってブロックを崩した状態で自陣に引き込みその背後を狙うやり方に傾倒している。仮に陣形が整っていたとしても、ちょっとしたズレや背後を狙って、その穴を拡大することを第二目標としている。

 この試合、ミシャ率いるコンサドーレ革命軍に対して、札幌がボールを持った時の可変後の立ち位置の脆さを突くことが知将・渡邉晋が選んだ策だった。GK含めたビルドアップやマンチェスター・シティが見せるようなゴールキック時の特殊な立ち位置には、やはり実行する側の大いなる意思があり、実行するだけの力がある。ただ、唯一の弱点としては失敗は許されないということだ。つまりは、ボールを奪われれば、ゴールを守ること、スペースを守ることに関しては最適化されていない、選手一人ひとりの担当エリアが広く、ピッチいっぱいに広がっている状態での守備はなかなかに難しいものがある。

 札幌についても、その独特な攻撃陣形は相応のリスクがある。ボールがベガルタに移った瞬間の立ち位置が勝負を分けることになる。しかも一瞬。ベガルタはその「立ち位置」を咎め続けた。

図1

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 主役はハモン。これまで中央からサイドに流れる「カットアウトラン」は、ある意味彼の十八番なのだけれど、いかんせんその先がない。せいぜい、エリア深い位置からのバッティングセンタークロスだった。ただこの試合、ある程度その改善というか、もう少し弱いクロスやニアクロスも見られた。練習でも調子が良く、状態としても余裕があったのかもしれないし、別にそうじゃないかもしれない。いずれにせよ、可変後のCBミンテ脇を撃ち抜き続けた。札幌としては、せっかく選手がピッチ全体に広がるのだけれど、ミスすれば徹底的に狙い撃たれれば守備における構造的な欠陥に化けてしまう。それでも大きく手を入れた様子があまり見られなかったのがミシャらしさといえばそうなる。

図2

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 ハモンが狙い撃つ前段で、中央でCHがいなくなったエリアを活用してトランジション時の息継ぎに使っていた。こうやって、ロングキック一本槍ではなく、相手が守っていないエリアを使ってリズムを整える、息を整えることが重要で、今のチームになってから縦に急ぐ傾向があったなかで、相手が空けた場所とはいえ有効に使えていたと思う。

ボール非保持時

準備してきた守備の研究手

 当然というか、チームとしては試合前の準備段階でボールを持たれることを予想していただろうし、もっといえばその状態で相手の弱点を突くことが第一優先となっただろうと思う。ハモンも調子が良い。では、どうやって最大化するか。答えは、4-4-2で罠に誘い込むことだった。  

図3

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図4

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図5

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図6

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 図3のように、2トップの一角が片側のCBをマーク。もう一人がアンカーロールを警戒しつつ、ミンテが右足でボールを出せるようにプレス。カバーシャドウ。背中で見る。1人で2人守る守備だ。そうすると関口や松下が網を張り、前線には門番・シマオが完全にブロッキングする。こうなると、たとえボールが出たとしても、パスレーンも限定されて予想しやすく、後方のマーカーもさらに強く当たることができたのだと思う。当然、ボールを奪えば、カウンターの地獄の門が扉を開く。

図7

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 最終的にまとめると図7のようなイメージに。ハモンの攻撃力、シマオの守備力を最大化する攻守表裏一体の策だと思う。あとは、富田がチャナティップ番を完璧に果たした。どこまでもついていく。食う時も寝る時も、母国に帰省する時も富田はチャナティップとともにあった。母なる大地のように、決して優しくはないのだけれど、時間もスペースも与えず自由にさせなかった。これで、右サイドに混乱が生まれず、より左サイドで戦える舞台を整えた。MOMは、富田。おそらく誰もが望むゾーナル守備で輝くことが難しいと思われる富田は、今のやり方では、王になれる。だから、サッカーは難しい。簡単にはいかない。

考察

一丸となって戦うことの本当の意味

 文字通りなのだけれど、きちんと一つの目的・目標に向かって、手段を共有して実行する。目を揃えるなんて言われるのだけれど、今のチームにとっては特に重要になるのかなと思う。低いボールポゼッション、パス成功率、シュート数。ワンチャンスをものにする。針の穴を通す精度で必ず成功させるメンタル的負担。身体的にも、精神的にも負荷の高いサッカーではあるのだけれど、成功するのには理由がある。だから、上手くいかなければ修正も早い。それを鳥栖から厚別に移動するなかで示したのだと思う。アジャストし続ける。靴紐を結び直す作業を常に行う。これが求められるだと思う。

対策への対策への対策

 例えば、札幌が前半の早い段階で4バックにしてきたとか、SB化するCBがハーフレーンに移動して、WBが列降ろしでボールを受けにきたりとかとかとかとかとか、相手がベガルタのやり方に対して対抗型を試合のなかで繰り出してきた時、どこまで対応できたか。それが鳥栖戦で突きつけられた課題のひとつだった。小野の投入に対して、あまりにも無策すぎたし、無謀すぎた。これは、今シーズンの課題でもあるので、すぐにとは言えないのだけれど、今シーズンの課題と言っているうちに今シーズンが終わりそうになっている。後半に兵藤をSHとして投入したり、ジャメを入れて4-5-1にしたり変化も見せた。あとはそれが「あれ?おかしいな」と感じた時から実行できるか。あるいは、この試合のように、初手から一気に終盤戦にもっていき息の根を止めることができるか。やはり、ヘッドオンでの一騎打ち決闘は、これからも続きそうだ。

 

おわりに

  答えは、2通り考えられた。良い立ち位置を取り続けてボールを持つ時間を長くして攻撃試行回数を増やすこと。もう一つは、今のチームの決闘を先鋭化させること。僕はどちらでもよかった。どちらをとってもそれが積み上げになるし、経験するべきことは多い方が良い。答えは後者だった。一番勝てる可能性が高いやり方が何かを考えた末の選択だろうということもよく分かった。それでいいと思う。

 良いサッカーなんて存在しない。絶対的に悪いサッカーもまた存在しない。周りのチーム、勝敗でサッカーなんて大なり小なり形を変える。昨日まで称賛されていたサッカーがもう古いことなんてよくある。今のチームは、これがMAX値かもしれない。なら、MAX値を出し続けるんだ。それもまた、個性になる。ベガルタらしさなるものに繋がる。これだって挑戦だ。恐れず進んでいけ。

 

「私は自分で生き方を決めたかったの。たとえそれが間違っていたとしても」こう言ったのは、フェイ・ヴァレンタインだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html