■はじめに
どうも僕です。今回も、オフ企画の一環。「突然上がる海外ゲーム分析シリーズ」の第5弾になります。というか、最近海外ゲーム分析ばっかりじゃないか!というツッコミが待ってそうですが。
さて舞台は、サッカー王国イングランド。しかも世界中が注目したビッグマッチ。シティvsチェルシー。いわゆる、「ポジショナルプレー」の御旗のもと、前に進み続ける2チームの激突を取り上げる。例の如く、普段追いかけていないにわか勢なので、ひとつのゲームとして見ていく。では、レッツゴー。
■オリジナルフォーメーション
まずは、ペップシティ。1週間で3試合戦うという狂気の沙汰とは思えない日程を乗り越えるべく、選手の入れ替え。右WGには、B・シウバ、インテリオールにギュンドアン、左SBにはジンチェンコが入っている。まあ、誰が出てもサッカーをするのがペップのチームの印象だ。
そして、サッリチェルシー。ボコ負けしたり、ボコ勝ちしたり忙しい試合をこなしている。これまで、アザールのゼロトップだったが、サッリとナポリでFWをはっていたイグアインを獲得。早速ゴールを奪うなど、前回対戦時との変化点で気になるポイントになる。
■概念・理論、分析フレームワーク
- ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析。
- ピッチ横のエリアは、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
- 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
- なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。
(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
■思想に殉ずるサッリチェルシーの4-5-1
シティもチェルシーもオリジナルは、4-3-3。ボール非保持時には、4-5-1になるのが基本型だ。ただ、実際は、鏡のように似てはいるが異なっていた。それが全てとは言わないのだけれど、結果も正反対になった。ここで、2チームのボール非保持の立ち振る舞いを見ていく。
まずは、チェルシーのセットディフェンス。4-5-1から、インテリオールがボールホルダーに元気よく前プレを仕掛けていく。ただ、一発目は良いが、シティがバックパスやサイドチェンジで動かされると途端にスライドの甘さが目立った。この試合、シティにハーフレーンへ散々縦パスを出される要因になった。
*概念図
上記概念図は、一度シティが右サイドにボールを回してから、左にもっていった際の図になる。バークリーも前プレにいって、カバーにジョルジーニョが入る。アザールは、ウォーカーと牽制し合う形。そうなると、数秒だが、左サイドに回すとジョルジーニョのスライドが間に合わなくなる。それでも、カンテは、元気いっぱいにボールホルダーであるCBに前プレをしかけるので、ハーフレーンが空く。
なぜ、空くか?ジョルジーニョが間に合わないのと、ペドロが絞らないからなのだけれど、嫌なのは左SBのジンチェンコのポジショニングだった。時折、ハーフレーンにレーンチェンジする「アラバロール」を見せたり、サイドに張ったりなど、ペドロがジンチェンコに着く意識が強いのを利用して、ポジションをいじくりまわしていた。恐ろしい男。
結果として、チェルシーは、右ハーフレーン(シティの左ハーフレーン)を空けては使われを繰り返し、失点に積み重ねることにつながった。さすがに試合途中、遅くても後半から修正が入るのかと思っていたのだけれど、特に変わった様子は見られなかった。まるで何かを信じているかのように、2枚のインテリオールは、CBへ果敢にプレスをかけ続けた。味方や相手の位置や状況がどうであれ。信じる者は、救われる。
■ペップシティの可変ウィング「トムキャット」
さて、シティのセットディフェンス。オリジナルポジションは、4-5-1だが、チェルシーのビルドアップに合わせて、4-3-1-2に変形した。この変形がユニークだった。ウィングがウィングレーンからハーフレーンに絞って、3センター化して対抗。攻撃に移ると、持ち場に戻ってウィングロールを果たしていた。
シティも2枚のインテリオールが勢いよくビルドアップ妨害のために前プレするのだけれど、ウィングがハーフレーンを埋めるおかげで、スペースを空けさせない設計になっていた。もちろん、SBがフリーになるが、当然スターリングとシウバの走力も計算に入っている。間に合ってしまう。
*概念図
先日、ちょうどウィングの可変に関して、粉河高校サッカー部監督わっきーさんと戦闘機F-14「トムキャット」の可変翼(=羽が伸び縮みする機構)のようだと、個人的に呼んでいこうみたいな話をしてたところだったのだけれど、まさかここで見ることになるとは(笑)
もちろん、ウィングがハーフレーンにレーンチェンジすること自体は、それほど珍しくはないが、ボール保持時のほうが想像しやすい。ただ、実践例はあって、14年W杯のロシア、スイスや今イタリアで話題のサッスオーロもやっている。チャレンジ&カバーのひとつの形として、ウィングの3センター化は型になっていく気がする。気がするだけ。(個人的には、トムキャット呼びを推していきたい)
■「正論」で戦うペップと「思想」で戦うサッリ
試合は、一方的ににシティが得点を重ねる展開に。チェルシーも特に大きな変更を加えるわけでもなく、試合終了のホイッスルを聞いた。シティとしては、シンプルに相手が守ってないとこを攻める。守ってないなら、動かす、攻めるを繰り返した。そしてそれが、この試合においては、正しかったのである。
ペップはある程度、サッリがやり方を変えずに来ると踏んでいたのかなと。それは、ペップがサッリがどういう人間なのかよく理解していること前提で。最初の5分で対抗型を見極めて答え合わせをする。今回は、正論で殴り続けられると判断したわけなのだけれど、保険としてアラバロールができるジンチェンコ、CBもSBもできるウォーカー起用しておく用意周到さを見せた。非常に現代らしい、ゲームの進め方だ。
一方のサッリ。自分と、自分たちと、自分が信じるものと闘っているようにも見えた。迷いさまよい、自分との闘いに決着がついていない者がペップから勝利を奪うのは、並大抵のことではない。ここまで、思想に殉ずるタイプには、思っていなかったのだけれど、まだ1年目。いろいろと足りない部分が目立つが、やはり信じる部分がまだ足りないということなのか。
■おわりに
正直なところ、今回のゲーム分析は難しかった。試合自体は、形が目まぐるしく変わって、展開が刻一刻と変わるようなゲームではなかったのだけれど、もっと根っこの部分、本質的な部分を見ていく必要がある気がする。継続して見ていくことで、小さな変化から原理的な部分に迫れることが改めて分かった。あと、ちゃんと試合見て文字にすることも超大事。書いていて、頭のなかが筋肉痛だ。継続は力なり。ではまたどこかで。
■参考文献
東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう
「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)
http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html