蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【俺を】CL 決勝T 1stレグ アヤックスvsR・マドリー(1-2) 【落としてみせろ】

■はじめに

  どうも僕です。今回も、「突然上がる海外ゲーム分析シリーズ」第6弾になります。舞台は、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント。トータルフットボールの起源たるアヤックスと3年連続頂点を極めているR・マドリーの対戦となります。そんな、「起源」vs「頂点」、決勝トーナメントの雰囲気をおおいに感じるゲームになりました。今回は、アヤックス目線でチーム分析、ゲーム分析を進めています。では、レッツゴー。

■目次

■オリジナルフォーメーション

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  ホーム「ヨハン・クライフ・アレナ」に覇者を招き入れたアヤックス。オリジナルは、4-2-1-3でセット。4-2-3-1ともとれるが、オランダといえば3FW。しかもアヤックス。ここは敬意をこめて4-2-1-3と表記しておく。来季バルサへの移籍が決まっている話題のデヨングは、2センターの一角に。なお、CLというとホームチームは、アウェイゴールを嫌って0-0でゲームを運び、アウェイで決着をつけるといった戦い方を多くみかける。さて、クライフの名前がスタジアムについているチームは、どのような戦い方をするのか。

 一方のR・マドリー。魔術師ジダンによって3連覇。今シーズンは、ロペテギをぶっこ抜いては首を切ったり、ロナウドとお別れしたり、いつものように忙しいシーズンを送っているようだ。今、話題急上昇のヴィニシウスは、左ウィングに。CBナチョ、SBレギロンは申し訳ないがよく分かっていないので、試合のなかで見ていく。こちらは、アウェイゴールを奪えれば優位に立てるが、 先制を許すとスタジアムの雰囲気が変わる。横綱相撲なのは変わらないとは思う。 

■概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析。
  • ピッチ横のエリアは、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

ボール保持時

ビルドアップ:ポゼッション
ポジショナルアタック:ポゼッション

  ビルドアップは、CBが開きGKがボールを持つ、GK+ CB+2センターのオランダ伝統の形。相手がその5人のビルドアップ隊へビルドアップ妨害をかけてきたら、中央にひきつけて開くの原則通り、センターハーフにボールをつけ、SBへレイオフ。そこから、ウィングへの展開とお手本通りのプレス回避を見せる。もちろんマドリーが死んでもボールを繋がせないぜ!ではなかったので、ある程度、自陣のブロックではね返せればOKといったチームだったのもある。ただ、デヨングが相手を背中に引き連れながらボールキープして空いている選手に展開するなど、彼がいるからこそのプレーもあった。

 ポジショナルアタックは、レーンに2人、3人と集めて突破を図り、ファイナルサードで、空いているハーフレーン、セントラルレーンを使用する形を見せた。マドリーがセットディフェンスを4-4-2のような形(ベンゼマモドリッチ2トップ)だったので、よりレーンを意識した攻撃になっていた。

 特に興味深かったのが、ある時まではレーンにオーバーロードさせたと思ったら、一気に開放させて、均等に空いているレーンに立つなど、スペーシングで良い立ち位置を取っていた。特に、「離れる」のスペーシングは、前線4枚は必修項目のような気がする。気がするだけ。

*概念図 

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 左ウィングレーンに3人。左ハーフレーンに1人。綺麗な丁字アタック。

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 左SBにボールがつく。バックステップで離れる準備。

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  SB-CB間でボールを受けるネレス。中央3レーンに配置準備完了。

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 あとは、芋づる式でCB引っぱり出せる。ボックス内、3対2。

■ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲンプレッシング(レシーバー制圧型)

 ネガティブトランジションは、ゲーゲンプレッシングを採用。パスの受け手に厳しくプレッシャーをかけるレシーバー(受け手)制圧型だ。ボールホルダー付近の1人、2人がプレッシャーをかけている間、周りの選手がレシーバーと1対1の状況を作る。結果、前線4人+センターハーフ2人の6人がボールホルダーとレシーバーを圧迫することとなった。レシーバーとのデュエルも制し、何度もボールを奪い、カウンターにつなげていた。

*概念図

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■ボール非保持時

プレッシング:超攻撃的プレス
セットディフェンス:マンツーマン

  アヤックスの相手ボックス付近からのプレッシングでビルドアップ妨害を図る超攻撃的プレスを採用。マンツーマン、あるいは近い選手への1対1のプレッシャーでビルドアップの基礎から破壊する策をとった。マドリーの4-1-2-3への対抗型で、4-2-1-3とがっつり噛み合わせた形だ。特に15分までは、一貫してこの姿勢で臨み、マドリーにまともにビルドアップさせなかった。30分以降になるとそれが落ち着いてきたのだけれど、その理由は次のセットディフェンスの時に。

 セットディフェンスは、マンツーマンを採用。おそらくだが、それにプラスしてボールホルダーに近い選手が第一プレスマンになっていた気がする。そのため、3ライン形成というより、そのまま4-2-1-3セットディフェンスとなっていた。8分に決定機を迎えるなど、策としては成功していた。ただ、30分ごろから、マドリーのビルドアップの形が変化したあたりから若干プレスが大人しくなった。

*概念図

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 マドリーは、対応手として、CB脇にクロースが落ちることでプレス基準をズラすことに成功。アヤックスは、右サイドのマーク対象を変えることに。右ウィングのツィエクがクロース、右SBのマズラウィがレギロンにつく形に。もちろん状況によって、レギロンをフリーにすることもあったのだけれど、相手ウィングを放置して前線でがっつり捕まえてしまおうという形は維持されていた。じゃあウィングは誰が見るの?答えはCBのスライド。その際は、逆サイドのSBは頑張ってボックスに戻ってCBをこなすことになる(あとはデヨング)。

 そもそも、マンツーマンディフェンスには、2つの弱点があると考えている。①ポジションチェンジ、②サイドチェンジだ。

 ①はどこまでついていくのか?が当然課題になる。地の果てまで追いかけることで有名なビエルサのマンツーマンですら、逆サイドまでついていくのか判断に迷うようで、受け渡しについては「雰囲気で」というのを聞いた。さすが、エル・ロコ。今回も、降りるクロースに、センターハーフがトイレまでついていった感じではなかった。おそらく原則としてマンツーマンだが、ポジションチェンジに対しては、近くの選手に受け渡すことになっていたのでは予測している。多分。

 さて、②は、当然追いかけることになるので、相手が動くところに自分たちも動くことになる。行動の決定権が相手にあるなかで、右に左に動くことになれば、小さなズレが出てくる。①の原則もあればなおさら。それを分かったのか、マドリーも30分以降、特に59分のゴールシーンは、左サイドから右サイド、中央に戻して、左サイドを突破している。トランジションを考慮して、選手間の距離を短く設定していたアヤックスにとって、「広く攻められる」とトランジションの束が解けてしまう。

 上記の対応手については、特に見られず、試合を通してこの形を貫いたアヤックス。ただ、無謀なことを続けていた印象はなく、どちらかというと、マドリーの対応手も織り込み済みといった気がする。気がするだけ。あんまり慌ててなかった。リヌス・ミケルスのプレッシングを現代版に蘇らせたひとつの形として、2ndレグも採用する可能性が高いと思う。

■ポジティブトランジション

ショートトランジション:前線の選手につける
ミドル/ロングトランジション:縦志向

 ショートトランジションは、74分のゴールに代表されるように、奪ったら、前線のウィングやトップにボールを付けていた。そこにはあまり時間をかけずにゴールに直接かかわるプレーが多かった。また、自陣や中盤からのトランジションも、縦志向が強くカウンターに移っていて、何度か決定機を迎えていたうちの1本でも入っていれば、ゲームの行方は変わっていたかもしれない。

■考察

フットボールは戦争だ

 同サイドへのオーバーロード、レーンでの圧迫、もっとミクロにひと対ひとの部分での局地戦で優位に立とうとしたアヤックス。覇者に対して、「俺たちは、相手が絶対王者だろうが、臆せすることなく勝利のためにボールを奪い続ける。さあ、覚悟はいいか?」といった具合に、トランジション勝負をしかけ、勝利を収めた。 

 あとは、そこのがんばりを最後のゴールの部分につなげたかった。VAR判定も含めれば、前半で4度の決定機があった。ある意味、それをしのいだマドリーは、強者らしいといえばそれまでだ。

美しく、勝利せよ

 2ndレグどう戦うのかも楽しみだが、ビハインドを背負っている状況で、前から行くだろうがマドリーがトランジション局面を極力出さないような展開になるだろう。そこをポジショナルに崩せるか否かがかかっている。多分。

■おわりに

  面白かった。ドイツ系のゲーゲンプレス!ゲーゲンプレス!がバリバリ発動するのも面白いし、トランジション局面、デュエルが激しいプレミアも面白いが、オランダのプレッシングも忘れてはいけない。合理的で、一貫してロジカルにやり切ってしまうのがオランダ流のプレッシャー術のような気がする。立ち位置の読み合いの部分で制するのもある。美しい激しさを見せてもらえた。

■参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html