蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【軌道】コラム【ベガルタ仙台】

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 更新が滞っていて申し訳ない。そろそろ更新したいなと思っただけなんだ。まあだからといって何をってことではないのだけれど……この前試合に行ったことについて書きたくてね。徳島との試合を圧倒的な傾斜形式である俯瞰厨席ことバックスタンドから拝見してきた。遠藤康の華麗な肘打ちとか、25番の魂がこもったヘッドとか、仁王立ちでこっちを見てるAKIRAさんとか、水を飲む姿がシンクロしていた中山大観音と中島元彦とかとか。原崎さんが解任されてから幾日か経ち、数試合を経験し、すでに目の前にあるのは伊藤彰監督のチームになっている。J1昇格への可能性に懸けて全身全霊をかけて、一所懸命にやっている。復活したといってもいい。試合は一人少ないなか同点に追いついた。スタジアム全体でもぎ取った勝ち点といってもいいくらいに、この試合にみんな懸けていた。試合後に挨拶へやってきたAKIRAさん。来ると思った。正直試合後にあんなコメントするひとなんだから、今日来るだろと思ってたら来た。やっぱり来た。そういうひとなんだ。だから仙台の監督を担うにふさわしいと思っている。僕は原崎さんが辞めてすごく残念だった。正直なことを言うととても残念だ。もっといえば、新しく仙台の監督になるひとが表現するサッカーをとても楽しみにしている。それが、すこし、いやかなり残念な形で終わってしまったことに、僕は正直なところムカついている。それがサッカーの世界にとってはありふれた日常であっても。まだ僕もサッカーで怒れるのかと、思ったのもあるけれど…だからAKIRAさんにも同じ運命をたどってほしくないと思うし、磐田で悔しい思いをしたひとにまた同じ思いをさせたくないと思っている。クラブがやったことが正しいか分からない。でも、正しいひとがベンチにいて、仁王立ちしている。バックスタンド、ゴール裏、メインに拍手をしてお辞儀をしている。死んでいたチームを不死鳥のごとく蘇らせて、たとえ10人であっても勝利を掴み取るまで闘い続ける、俺たちが知っているベガルタ仙台を作り上げている。俺以上に、ベガルタ仙台を理解している。「いまは残留に集中」「いまは昇格に集中」。よく聞いてきたセリフ。喉元を過ぎるとまた貼った貼ったが始まる。でもいまは、このひとが諦めず、ベガルタ仙台のためにやっている以上、いまだけは信じて進んでいこうと思う。試合の帰路。バスの車窓から自転車で帰るサポーターが目に入った。小雨振るなか、自転車のペダルをこぎ続ける2人。試合のことだろうか、明日のことだろうか、何かを話しながら、車輪はまっすぐ道を進んでいく。少なくとも、彼ら彼女らの自転車を漕ぐ足が止まらないうちは、何も間違っていないんだって、僕はそう信じている。

 

 

立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は鬼

空の星

「ご都合主義だな」

青く広がる空。

そんな空を睨むように、仰向けのまま少女はうそぶく。

「何が?」

「この本だよ」

「何がご都合主義なんだ?」

微妙にかみ合わない会話に、細かい説明は不要だった。

ん、と少女は本を差し出す。

―――『それでも攻める君へ』。

本のタイトルだ。

「これがなんだって?」

僕は、重ねて聞く。

「『諦めずに挑み続けることが、いずれ自分の未来を創る』だそうだ」

とても不満そうに、彼女は言う。

「そんな、そんな簡単に自分の望むような未来になるわけないだろ」

「自分だけが自分の望むような世界になるわけないがないのと同じように」

僕は、差し出された本を手に取ると、パラパラと中身を眺めた。

眺めたというより、さらった、が正しい。

巻末に目をやる。

「へー、この本の作者、うちの学校出身じゃん」

話題をそらした。

彼女にとって意味がないのなら、きっと僕にとっても、この本は意味がないんだと思う。

マイは空を見上げたまま、返事をしない。

「こんなこと、私だって書けるさ」

私だって……

そう小さくつぶやくと、目をつぶってしまった。

そうだね。

今の君なら、きっと書けると思う。

ずっとずっと、ずうっと、君は諦めず、受け入れず、チャレンジし続けてきたのだから。

彼女が人生で2度目の、利き足を大怪我した日から、半年が経とうとしていた。

 

夕刻。

下校する僕には、少し不思議なルーティンがある。

変な幼女との会話だ。

一見すると僕は不審者だが…その子は誰が聞くわけでもないのに、自分について話す。

道路で見つけた花の話、家族で行った水族館がとてもつまらなかったという話、初めてサッカーボールを蹴った話とかとかとかとか……

まるで時間が止まったかのように、その子が話す時は「時」が止まったかのように、僕はただ話を聞いている。

白色のワンピースに、少し華奢な身体がひらひらと公園で舞っている。

幼女とは言ったけれど、さすがにもうすこし歳はいっている。

ただ、大人というには幼いし、僕と同年代にも見えない。

見えないけれど、中身はなんというか、僕とは別世界の住人のよう。

僕を見つけるとピタリと止まる。

そして、ゆらゆらと僕の方へと近寄ってくる。

「あら阿霄月さん。こんにちは」

「こんにちは」

「侭ノ上ユリよ。この前も言ったでしょう?」

「いや、今初めて聞いたよ。君の名前?」

「でなければ説明がつかないでしょう?」

「ごめん」

「呼んでほしいだけ。謝るのは最後」

「えー……侭ノ上さん、こんにちは」

「こんにちは、阿霄月さん」

「今日はどうして」

「私ね、きっと似合うと思ったのよ」

「何がだい?」

「分からない?あなた彼女はいらっしゃって?もしそうなら今ごろひどい目にあっているわきっと」

「そうかもね。まだ分からないから」

「すごく良いワンピースだと思わない?私感激してしまって」

「この前も着ていなかった?それとも似た感じの服なのかい?」

「違うわ。違う。全然違う。まったく違う」

「ごめんよ」

「一度だっておんなじことなんか無くってよ阿霄月さん。どんなことでも。二度も三度もあるとあなたが『勝手に』思っているだけ」

「……どんなとこが良かったんだい、今日の服」

「素敵な色だと思わない?思わず見とれてしまったの」

「綺麗な白色だと思うよ。君にピッタリだ」

「白?違うわ阿霄月さん。これはピンク色よ?あなた大丈夫?」

「ピンク?白だよ、どう見ても。君こそ大丈夫かい?」

「あなた、女性を怒らせる才能はありそうね。私だからよかったものの、ほかのひとにはやってはいけないわ。決して」

「いやでも、これは白色のワンピースだ」

「そうやって自分の正しさを確かめるような言い方はよしなさいな。自分を苦しめるだけよ」

「……ごめん」

「言ったでしょ、謝るのは最後だって」

「き、綺麗なピンク色だ。君らしい。すごくいいと思う」

「そうでしょ!ああ、あなたにもそうやって褒めてもらえて、私今日死んだっていいくらい。そう思うでしょ阿霄月さん」

「死んではいけないよ。でもすごく良いと思う」

「死なんて怖くないわ。だって人間はみないずれ死ぬのよ。爪が伸びたり、髪の毛が伸びたりするのと同じように、動いてるものが止まるってだけ」

「でも、今死んだら、君の家族が悲しむ」

「家族?」

「そう家族だ」

「他人のせいにするのね」

「何がさ」

「私の家族、知らないのに」

「……」

「そうやって逃げるんだ」

「逃げる?」

「逃げてるわ。あなた。他人のせいにして、誰かに合わせて、私はずうっとあなたに聞いているのに私が何を考えているかにばかり気にして」

「だって白いものをピンクだというから…」

「それが何?それであなたは幸せになれるの?それが明らかになると私は幸せになる?あなたの大切なひとは救われるの?」

「いや」

「阿霄月さんって不思議なひと」

「君、それいつも僕に言うけれど、君の方が十分…」

「十分?十分なにって?気が触れてるって言いたいの?」

「ごめん、今のは言い過ぎた。ごめん」

「ほんと、不思議なひとね。私、阿霄月さんが心配よ」

「……」

「辛くない?」

……

…………

…………

「……なにもつらいことなんかないさ。高校生だぜ?遊んでばかりさ」

「いつも帰りが早いのは感心しているの」

「そう……」

「もっといろんな世界を知るべきよ。アリの一生を追いかけるとか、水の感触を知るとか、空を飛んでみるとか」

「いや、日中は学校もあるし……」

「世界は素晴らしいわ。とてもね。あなたは知らないかもしれないけれど」

「知らないことばかりだよ」

「じゃあね阿霄月さん。私、あなたに会えてとても嬉しかったわ。あなたにこのワンピースを見せれてよかった。あなたに最初に褒めてもらいたかったの」

「それはどうもありがとう。僕も君に会えてよかった」

「本当?ならもっと嬉しいわ。また会いましょう。私、あなたのこと、好きよ」

「僕も、僕も……」

言い終わらないうちに、白い花は夕暮れとともに消えていった。

 

 

「それで?最近の雲雀野はどうなんだ?」

「変わらずだよ。今日はリハビリで、学校終わったら病院に行くことになってる」

「お前もすっかり保護者だよな。大したもんだぜ」

「別に…もう慣れたよ」

「靭帯断裂…だっけか。二度目の」

僕もよくは知らない。

大きな怪我、としか、マイはいつも僕に話そうとしない。

ただマイの親かから聞くに、利き足……右足の靭帯断裂らしい。

二度目かは…聞こうとも思えなかった。

そこまで「今どんな気持ち?」って聞くような真似、僕にはできなかった。

「それじゃあ、お前も病院に行って見舞うのか」

「いや。リハビリは壮絶だから、マイが絶対に見られたくないって。両親は付き添ってるみたいだけれど」

「そらそうか。すげえ辛いみたいだからな」

「知ってる」

「宮良って知ってるか?サッカー選手なんだけどな、それこそ何度も大怪我してそのたびに復活してさ。めちゃくちゃかっこいいんだけど、そんな人でもリハビリはきついって地獄だって言ってたからなあ」

僕にはサッカーの学は少ししかない。

多分有名な選手なんだろうけれど……

霊屋下の話についていけないのがつらいというか、彼に不義理をしている気になる。

マイもサッカー選手、なんだよな。

女子高生だけど。

「じゃあどうよ、帰りちょっと寄り道してこうぜ」

「いやいい。ほかに寄るとこあるから」

「お前まだあの幼女のとこ行ってんのか!?」

「まだってなんだよ、まだって」

「やめておいた方がいいぜ。今から貢ぎ癖がついたら身が持たんぞ」

「なんの話だよ」

「だいたい、その幼女って何者なんだ?お前の話だとずいぶんと偉そうじゃあないか」

「偉そうとは感じないけれど。少し不思議な子だよ」

「だいたい、いくつぐらいなんだ?学校とかどうしてんだよ」

「さあ……僕よりは少なくとも年下だと思う。でもそこまで幼女って感じではないよ。それなりの背丈はあるし」

「ますます分からんなあ。不登校とかそんなんか」

侭ノ上ユリ。

昨日、僕も初めて知った彼女の名前。

それ以外、何も知らない。

「知ってることの方が少ないものよ阿霄月さん」

なんて言われそうだ。

「怪しい子ではないし、少し喋る分なら特段問題ないよ」

「そうかもしれないけどよ、不登校とか家庭内暴力とか、わりとマジな話でありそうだぜ」

「身なりもキチンとしてるし、アザみたいなのもなかったよ。霊屋下が考えすぎ」

「アザもなかったって…お前まさか、その子を脱がして…」

「馬鹿野郎!そんなことしねえよ!」

「ゼロにロリコンの趣味はないはずだから大丈夫…か…」

「大丈夫だよ。まったく」

「でもさマジな話、素性の知れない奴とつるむのは気をつけろよ。たとえ年下だろうとなんだろうと、俺たちみたいなクソ高校生に近づいてくる奴なんてろくなもんじゃないて」

たしかに。

あの子との出会い、いや、出会いなんてもではなくてただの、偶然だった。

 

雨は嫌いだ。

傘を差さないといけない。

それに…

マイが怪我をした試合も、雨が降っていた。

ピッチはぬかるんでいた。

公園を横切ろうとしたとき、関節視野に白い何かが映った。

……

…気のせいか。

さっさと帰ろう。

「どうして、どうして傘を差しているのかしら?」

「…え?」

いつのまにか横に、少女…幼女…が水たまりを踏みながらぴちゃぴちゃと楽しい音を奏でていた。

傘を、差していなかった。

「君、傘差さないと濡れるよ」

僕はとっさに自分の傘を差しだした。

ぴちゃぴちゃをやめた少女は、ゆっくりと僕を見上げる。

傘の影に隠れていてもはっきりと分かるように、まるで発光しているかのように、少女は僕を見ていた。

「あら、雨音も素敵じゃないの」

「え?」

「ありがとうね阿霄月さん。私知らなかったわ。水たまりの音しか知らなかったの」

この子は何を言っているんだ。

「雨音はまるでバロックね。素敵。私好きよ」

とても穏やかに、柔らかに微笑む。

「私、あなたのこと好きよ」

この子は何を言っているんだ。

「と、とにかく家まで送るよ。しばらく雨も止まないだろうし」

「ねえ、どうしてみんな、雨になると家のなかに籠ってしまうの?水の竜が現れて滝登りでもするのかしら。それとも鏡水面と異世界が繋がってしまうからかしら。ねえ、阿霄月さんはどう考えている?私はきっと、この雨がすべてを流し尽くすからだと思うの」

僕の頭はまったく何の役にも立たなかった。

少女がいったい何の話をしているのかも何もかもが分からなった。

「悲しみも憎しみも後悔も絶望も怒りも妬みも。雨がこの世のすべてを洗いつくしてしまう。だからみんな家から出てこない」

「絶望がなければみんな幸せなんじゃないの?むしろ家から出たいと思う気がするけれど」

「絶望が消えたら希望はどうなる?希望も消えてしまってよ阿霄月さん」

「それってどういう…」

「都合がいいこと」

「え…ごめん」

「謝るのは最後よ阿霄月さん」

「そうなの…」

「私たちが普段から忌み嫌っている感情たちだって生きているの。それに彼ら彼女らがいなければ、新しい生命の誕生を迎えられない。それはとてもとても不幸なことでしょう?」

「悲しさや怒りが、新しい希望を生むっていうのかい」

「それは合っていて間違っている」

「違うの?」

「あなたが雨を嫌うのも、雨音を聞いてうれしくなるのも、全部一緒。同じ場所。そのどれもがひとつの生命体」

「む、難しいよ」

「だから、私も雨は嫌いよ」

まるで禅問答だ。

この子は一体何者なんだ。

「帰れるわ。一人で。独りは嫌だけれど」

「そう…」

傘の影からひょいっと少女は飛び出すとけんけんぱをしながら帰りはじめた。

「あっ、待って!」

振り向いた少女に、僕は持っていた傘を渡した。

「僕は大丈夫だから使いなよ。走ればすぐ家につくし、明日とか晴れた日にでも公園のベンチに置いてくれたらいいよ」

じーっと傘を見つめる少女は、少しの間無言だった。

「いらなかったかい?」

僕は少し不安になって聞いたが、それは杞憂だった。

「ありがとう。この公園のベンチで傘を持って待つことにしようと思う。あなたの気が向いた時に会いにきてちょうだい」

「うん、わかった。じゃあまた」

「それではね、また会いましょう」

そう言い残すと彼女は再びけんけんぱをしながら道を進み始めた。

傘も差さずに。

 

 

僕はいつしか、彼女のことをふと思い出すどころか、その正体を探りたいとすら思い始めた。

侭ノ上ユリ。

いったい、ぜんたい、何者なんだと。

気づいたら、いつものあの公園にいた。

まだ誰もいない。

そういえば、この公園。

あの子以外、誰かがいたところを見たことがない。

見たことがない気がする。

気がするだけ、かもしれない。

いつもあの子は一人だ。

家族の存在も、いまだに不明。

見た目と中身のギャップ。

幼女?少女?らしからぬ態度。

マイもあのくらい話してくれたらいいんだけれど―――

一瞬、余計な考えが左脳の片隅を泳いだ。

「意味なんかあるのかしら」

そして唐突に、ふいに、彼女は現れた。

「わっ!」

「こんばんわ。阿霄月さん」

「こ、こんばんわ」

「…」

「侭ノ上さん」

「…」

「ん?」

「…」

彼女は僕を見つめて何も言わない。

世界が止まったかのようだった。

彼女が動かない限り、時計の針は動かない。

「ゆ…」

「んん?」

「…ユリって呼んでくれないかしら。とても窮屈だわ」

そうひとこと言い放った。

「そ、そんなこと?」

「そんなこともこんなことよ阿霄月さん。あなた全然、私のことユリと呼ばないじゃない。失礼だと思わない?」

「いや、別にそんなつもりは…」

僕は言い淀んだ。

いつの間にか、なんとなくそう呼んだ方がよさそうな気がして、彼女のことは苗字である侭ノ上、さらには「さん」付けまでしていた。

畏怖。

なのかな。

でもたしかに、少し窮屈さを感じていた。

「……そうか、それはすまなかった」

そう言いながら僕を見つめる少女に向かって。

「ユリ」

「あなたは?」

「僕?僕は…」

なんだろう。

このやり取り、前にもやった気がする。

「僕はゼロ。ゼロって呼んでもらっていいよ」

昔、昔だれかとこんな風に。

「そう、よろしくね

 

思い出せない。

思い出せないよ、マイ。

 

―――ゼロ君」

 

遠くから空を叩く音が聞こえる。

1回、2回、3回。

少し間を置いて、また1回、2回。

時折、夏の夜空を閃光が走る。

家や木々の隙間から覗ける程度ではっきりとその光は捉えられない。

「隣町の花火だ。うちの町でもそろそろだったはずだよ」

「綺麗ね」

「はは、もう少し見やすいところじゃないと綺麗かどうかも分からないね」

ドン、ドン、ドン。

「――好きよ」

「え?」

「私、ゼロ君のこと好き。大好き」

僕の心臓は、そのお世辞にも見やすいとはいえない花火が鳴らす鼓動よりも早くなっていった。

「ありがとう。私、あなたに感謝している」

「いつかこうして、あなたに伝えたかった」

「いや……僕は何も…」

「あなたが会いに来てくれたから、私は今日まで走ってこれた」

「雨の日も、雪の日も、暑い夏の日も。そして今日も」

「いつも私を必要としてくれたゼロ君が私にとっては希望だった」

話し方はいつものユリだった。

けれど、よくわからない哲学的な一問一答的会話などではなく。

ただただ、彼女の想いのたけを聞かされる新しいパターンだった。

しかも、僕は、告白をされている。

大告白を。

「あなたが望むのなら、私は必ず応えたいと思うほどに」

「ゼロ君」

僕の口の中は乾ききっている。

かすかに火薬のにおいが漂っている。

夏のまだ暑い夜に。

 

「ごめんね」

 

最後に、彼女はそう言った。

 

 

続く*随時更新

【Giving light】Jリーグ/第30節 vsツエーゲン金沢【ベガルタ仙台】

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はじめに

 もはや月1更新のような頻度のブログも第30節まできた。シーズンも中盤を折り返し、終盤戦の入り口に入っていく。場所は熱波届く金沢。金沢といえば、雪降るなか兼六園に行ったのが思い出に残る。白く雪化粧した風景がひどく美しく見えたけれど、ことこの試合においては熱気に包まれた金沢となった。声出し応援の解禁。解禁というと語弊があるけれど、声出し応援検証試合。ベガルタ仙台のゲームメイカーである声援がピッチに、スタンドに、帰ってきたのである。魂焦がして。そんな試合を振り返る。では、レッツゴー。

 

展開が加速していくなかで

ベガルタ仙台

GK/杉本大地、DF/蜂須賀・佐藤瑶大・平岡・内田、MF/フォギーニョ・中島元彦・名倉・衝撃氣田、FW/富樫Cayman・中山大観音

ツエーゲン金沢

GK白井、DF毛利・黒木・孫・長峰、MF/嶋田・藤村慶太・平松・松本、FW/林、豊田陽平

 

 まずツエーゲン金沢のDFから書こうか。4-4-2の守備陣形からホルダーと次のホルダーへの意識が強く、ある程度のマーク担当があり、足を出せばボールに触れるポジションでDFするマンツーマーキング志向の強いDFだった。仙台が4-4-2であることもあるが、金沢の基本スタイルだと思う。前線からのプレッシング意識も強く、仙台のビルドアップ、ボール保持攻撃に対してもプレッシャーをかけるようなチームだ。ただ、仙台のポジション移動に対してマークしていくので、別のスペースを空けるような展開が目立っていく。また、プレッシング後のプレー、前線のプレッシャー姿勢に対する後方の追従に甘さというか、プレスバックが足りなかったりオリジナルポジションに全力で戻ってプレーをリセットするようなプレーが足りなかったように見えた。

 「マンツーマーキング」「前線からのプレッシング」「リトリート意識の低さ」。これを並べるだけで、僕はなんというか、なぜだろうか既視感があるというか2020年ごろを思い出すというかいろいろと思い当たる節しかないのだけれど……まあその話はいいだろう。金沢としてもCOVID-19による選手離脱だったり、あらゆるリソースが限られるJ2での戦いに順応するためにも、細部へのこだわりというのは詰め切れない、というのはあるのかもしれない。かもしれない。そんな感想を(感傷を)中山大観音の裏抜けに手を焼きPKを与えた金沢の2バックに感じてしまったのである。

 そんな金沢の景色もあってかなのか分からないけれど、仙台はより強く「縦への誘惑」に駆られていた。CB佐藤がボールを持つと、前線で駆け引きする中山大観音へロングボール一本を入れていく。リードした後、飲水タイム後くらいから、フォギのバックラインへのドロップが増える。右SBに入った蜂須賀をワイドに高い位置にポジション取りさせて、問題のある金沢バックラインへのクロス攻撃を準備させた。形は異なるが、中島元彦がドロップして平岡と2バック、佐藤をワイドにやや低い位置にポジションを取らせてよりサイドに人数をかける形も何度か見られた。

 前述通り、人につく金沢DFはワイドに高い位置をとる蜂須賀にマンツーマーキングしていく。そうなるとやや5バック気味になり、FW横には広大なスペースができることになる。仙台としては相手のプレッシャーターゲットをCBの2人から外し、ワイドにポジションをとる選手(この場合平岡だったり佐藤だったり降りるMFだったり)をボール保持攻撃の起点にしていきたかったのだと思う。中島元彦-フォギ着火ファイヤーで縦のラインを作って8mリターンパスからのワイド展開なんかは、やりたかったひとつの形だったのだと思う。ただスペースも広くなっている、DFもギャップができている状況で、そこからの勝負パスがやや早かった印象だ。明確にドロップして3-1になったりするとプレッシャーターゲットも明確になって、制限される時間も早くなる。回避しようとしてプレーを速くして展開も早くなって……なんていうのは、マンツーマーキングを相手にするとあるあるの展開だ。だから、「3」の内訳を内田をいれたり、広めのポジションにしたりして工夫していた気がする。気がするだけ。

 いずれにせよ、攻撃が速くなるのは想定していて、それを少し落ち着かせる意思とプレーはあった。あったけれど、チャンスがあれば…スペースが空いていれば…そこに味方が走りこんでいれば…ボールを届けたくなるのは当然で、一番奥を狙うのは大事なことなので、まあ簡単なように言ってしまうがバランスが必要で、2点リードした展開でのプレーをもっと詰める必要はあるだろうと思ったかな。まあ難しいな。

 

おわりに

 ダラダラと書いてしまったが、4得点を上げて勝利したことは素晴らしかった。失点の部分と最後にPKを外したところの記憶をハードディスクから消し去ってしまえばね。サポーターの超声援で選手のテンションもフルマックスだったろうし、最後まで走りきるガソリンにもなったと思う。なんてことのない一つの試合、30節の試合だったかもしれない。けれど、固まっていた時が動きだし、新しい時代を創る準備がようやく始まったのだと思う。声援あっての仙台なので。終盤、氣田亮真がふらふらになりながら敵陣に突っ込んでいった。ありえないことが起きるのが、本来のスタジアム、なんだと思う。

 

「為すべきことは熱を与えることではなく、光を与えることなのだ」こう言ったのは、ジョージ・バーナード・ショーだ。

 

 

【The door of destiny】Jリーグ/第22節 vs横浜FC【ベガルタ仙台】

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はじめに

 戦術的目線を除いたスタジアムレポをアップして1日。某所にてこの記事が執筆されることになる。まさか2本も書くとは。というより、戦術的な部分については、ことこの試合においていえば、限っていえば、どれほど重要かという悩みが左脳の片隅にいたわけで。ただそれも時間経過とともに、感情が冷まされるとやはり書いておくべきだろうという囁きがやってきたのである。前置きはともかく、いや、言い訳はともかく、今回もそんな感じで振り返っていこうと思う。では、レッツゴー。

 

▼精神論全快のスタジアムレポはこちら。

sendaisiro.hatenablog.com

 

 

中身は同じでも表情は違うのはサッカーも同じ

 この試合、原崎さんが採用したのは富樫、中山大観音という2人の純粋なFWを置く4‐4‐2であった。最近、遠藤康をトップ下に置く4‐2‐3‐1も採用し、対戦相手や自分たちの狙いに応じて採用する型を変えていた。この日は、中盤をWG名倉、衝撃氣田、MFレアンドロ・デサーバト、中島元彦の「クアトロ」に任せ、遠藤康個人であったり、徳島戦で見せた遠藤康を中心とした負担の分散ではなく、あくまで2人のMF、レアンドロ・デサーバト、中島元彦の2人に中盤MFとしてコントロールする戦い方を選んだ。

 とはいえ、この戦い方の肝である4バック+2MF+2WGによる6人のロンド円でのビルドアップではなく、デサーバトが右CB横、中島元彦が左CB横に降りる「ドロップ」で、疑似的な3バックを形成。3‐1でのボール保持攻撃を志向したのであった。これには、2人のSBのキャラも関係していると思う。右SB真瀬、左SBタカチョーは、ワイドに高い位置でその攻撃能力を発揮するタイプの選手だ。内田、若狭がやや低めにワイドに構え、左右非対称3バックを形成するのに対して、より高い位置で攻撃していく意図を感じられる。横浜FCのMFが人意識の強い、ワダタクとハイネルで、彼らのプレッシャー回避とともに彼らの担当エリアから引っ張り出すことができれば、インサイドを攻撃する名倉と衝撃氣田が躍動する。加えて、5バック攻略となると後方からの飛び出しということで、真瀬、タカチョーが高い位置をとっていこうとしたのだと考えている。

 相手FW‐WGのラインにポジションを取り、プレッシャーの「焦点」に位置するのが誰か?これまでは若狭であり、内田であり、中盤の2人はあくまでセンターサークルで中盤を支配するべくポジションをキープしていた。ただこの日でいえば、その「焦点」を攻めるのは、中盤MFである中島元彦であり、レアンドロ・デサーバトである。この変化点は非常に重要で。この焦点を真瀬が使うより、デサーバトであれば逆サイドへのサイドチェンジキックもあり、縦に刺す、トランジションが起きてもファーストDFとして即時奪回も可能だ。左の中島元彦も同様である。5‐4‐1を攻略するうえで、相手の縦に強くいくDFを逆手に、①縦方向のポジションチェンジ、②横方向への正対、があるが、徳島戦でも見せた①にビエルサラインを意識した②の合わせ技にも見えた。①は遠藤康ありきにも見えたが、チームとしてのトライの部分であるとこの試合で推測もできるし、これまでの積み上げプラスで新しい攻撃方法への積み重ねのような気がする気がするだけ。

 ただし少し難しかったのは、完全に2人がボールルートの始点、というわけでもなく今まで通り、ワイドに位置するSBからの縦および斜め攻撃、中→外→中だったりして、誰がボールを持つかでポジションをとるのが遅れ気味だったり、正しく相手MFの背後でポジションをとれていてもパスラインが通っていないとか。自分たちのミスもあり、やり直したり、いったんポーズを入れることもなかなかできずにいた。また、やはり富樫、中山大観音になると、ホルダーに寄る動きより飛び出していく動きが活性化して、全体的に急ぎすぎの展開もあって、寄っても背後にボールが出てきたり、WGがズレても頂点にいないとか、本当に難しいのだけれど本当に少しの違いが大きなズレになったのかもしれない。やや大げさすぎるかもしれないが…

 

おわりに

 いずれにせよ、ハイネル、ワダタクの2人MFに対して、2人のMFで対抗した、遠藤康を入れて3人にしなかった、あくまでWGがスペースを使って瞬間的に4人(クアトロ)になることを選んだ原崎さんは、ロマンチズムより勝負をとった印象だ。そしてその勝負に、結果として負けた。しかも出鼻をくじくような失点に、冷や水のような連続失点。なんの誤魔化しもきかない失点で敗北した。たとえば、得点できなくても最後に1点取れば勝てる、そんなメンタリティが必要だったかもしれないし、ユアスタの熱狂を背中に、さらに狂って攻撃していくことも必要だったかもしれない。でもたぶん、その真ん中の、冷静さと熱さをこの試合に持ち込みたかった、いや、サポーターの熱狂に応えて自分たちもプレーしたかったのでは、と思うのはさすがに論理飛躍がすぎるか。試合後にサポーターへの謝罪から会見を始めた原崎監督。気合入りまくりだった若手たち。これまで忘れていた興奮をピッチで披露してくれただけ、彼らはベガルタ仙台の戦士だし、この結果で苦しむのは僕たちだ。この興奮も苦しみもすべて背負って、また今日から闘いを始めるべきだと思う。まだ試合は続くが、強くなるにはどんな時間も惜しくなる。

 

「運命のドアも玄関のドアも開ける鍵穴は小さいものだよ」こう言ったのは、スナフキンだ。

 

 

【Hand to Hand】Jリーグ/第22節 vs横浜FC【ベガルタ仙台】

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はじめに

 まず先に断っておくが、今回は戦術的な視点での振り返りは無い。別に中身のなかった試合だったという文脈ではなく、僕が書きたい、書くべきと思ったことは、それではなかっただけである。では、レッツゴー。

 

金色の渦の底から

 2位仙台と3位横浜FCの激闘は、90分のフルスコアを終わって2-3。終盤の追い上げも叶わず、ベガルタ仙台は敗北した。終了のホイッスルと同時に、ピッチに倒れこんだ若者がいる。1人は中島元彦。そしてもう一人は、キム・テヒョンだ。テヒョンは、立ち上がると一番遅れて列に加わり、みんなと一緒に「お辞儀」した。

 ずっと、ずっとだ。そのあとずっと、テヒョンは「2-3」を表示した、ユアスタゴール裏南にある電光掲示板を見つめていた。開始早々に失点し、その後も横浜FCのFWサウロミネイロとの1対1の競り合い、背後への飛び出しへの対応。ゴール前からボールをはじき出し、前半の追加点を防いだ。決して楽ではない。決して同等でもない。かつてのシモン・マテのごとく、J1の主力級FWに対して勝ち続けたような戦いではない。必死に、相手に食い下がり、必死にボールをはじき出し、相手よりも誰よりも速く走っていた。ボールを持てば、ピッチ後方から、ベガルタ仙台原崎監督が目指すサッカーを体現するべく、パスを刺し続ける。右SBの真瀬に対角のロングフィード。まるで矢のようにボールが空中を飛翔している瞬間、ユアスタは一瞬の静寂を迎え、まばたきする間もなく歓声があがった。韓国からやってきたこの若者は、間違いなく、ベガルタ仙台の戦士だった。それでも、電光掲示板には、「2-3」の数字が表示されている。後半の2失点はベガルタの左サイド。サッカーに夢なんてない。あるのは、現実だった。

 試合開始前、やや曇りがちになったユアスタに太鼓の音が轟いた。まるで、雷鳴を内包した黒雲のように、風雲のように、ドコドコドコとそのエネルギーの解放を今か今かと待っているような。試合が始まれば、耳を引き裂くように鳴り響く、手拍子。鋭く乾いたその「声」は、反響し、乱反射し、ピッチへと降り注いでいった。1万人のエネルギーは、勝利への爆発に向けて、力を溜めに溜めていった。スタジアムもまた、この試合に懸ける熱量は、段違いだったんだ。

 画面が切り替わっても、この20番の視線はゴール裏南に向いたままだった。ピッチに立ち尽くすという表現は、そのまま、この瞬間のテヒョンにふさわしかった。2000年生まれの若者が、いまだCOVID-19の脅威が収まらないなか来日し、この試合の重みを、熱を、十分すぎるほど感じ背負い闘っていた。その結果が、現実が、だからこそとてもとても重くのしかかった。

 スタジアムを回る選手たち。その一番後ろで遅れてやってくる20番。手を叩き、感謝の意思表示をする。僕は彼に精いっぱい、拍手で応えた。拍手するべきではなかったかもしれない。重要な上位対決を勝ち点0になって、しかも簡単に立て続けに失点して、手放しですくなくともすべてを許容できる内容でも、結果でもなかったと思う。それにさっきも書いたがサッカーにあるのは現実だ。物事は、結果の積み重ねで成り立っている。でもやはり、試合でのプレー、試合後のふるまいを見て僕は少なくとも、彼を責めることはできなかった。確実に、人事を尽くし、この90分に全力で挑み、粉骨砕身していたのは明白だった。それで結果負けであれば、また努力して挑み続けるしかない。「2-3」は、そう僕たちに、テヒョンに告げていると、今はそう信じてくしかない。彼は、いつものように拍手し感謝を告げると、ピッチから去っていった。

 

おわりに

 歩行者天国を帰る僕は、泉中央駅へと延びる車道の中央線を歩いていた。白くまっすぐに伸びているその線は、ところどころかすんでいたり、消えていたりもしていた。目指しているものに向かっていても、途中で視えなくなったり、ある出来事がきっかけで消えてしまうことがある。それでも、ただ真っすぐに前を見つめて歩き続けていかなければ、目指したところへは辿りつかない。ずうっとスタンドを見つめる20番。暗闇に白線が伸びる。僕は、ユアスタを後にした。

 

「本気でやった場合に限るよ。本気の失敗には価値がある」こう言ったのは、南波 六太だ。

 

 

【Your'S Time】Jリーグ/第19節 vs栃木SC【ベガルタ仙台】

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はじめに

 しばらく更新できなかった。申し訳ない。4節盛岡戦以来の更新になる。寒かった宮城の地も、夏が気合入れて前乗りしたおかげで最高気温29度というふざけた気候になった。仙台は、ミッドウィークに岡山と対戦。カレーを飲んで、思い出深い木山さんに挑んだがドロー。なんだか懐かしくなった。この日は、ホームで栃木戦。朝から泉中央の街に繰り出していた栃木サポ。19位にも関わらず、サポの気合も十分だった。そんなこんなで試合を振り返ります。では、レッツゴー。

 

暑さのなかで手繰りよせた糸口

 仙台のスタメン、GK/小畑、DF/若狭、平岡、テヒョン、内田、MF/鎌田、中島元彦、遠藤康、衝撃氣田、FW/皆川、富樫で、いつもの【4-4-2】。タカチョー、中山大観音が怪我から復帰してベンチに。一方の栃木SCは、GK/川田、DF/鈴木、グティエレス、大谷、福森、MF/黒﨑、谷内田、神戸、植田、FW/瀬沼、矢野貴章、の【5-3-2】。

 仙台のビルドアップ(以下自陣でのポゼッションについては【ビルドアップ】で書きますね)は、平岡、テヒョンの2CBに、MFの中島元彦、鎌田が加わる形。右SBに入った若狭がワイドに低い位置に構えるため、2-2ビルド+1の形で相手のプレッシャーを分散ささせる狙い。さらに、GKヒロイン小畑を経由することで、疑似的な3-2ビルドにもなったし、そこまで低いと左SB内田も低い位置に構えるため、仙台が広範囲にエリアとボールをコントロールする時の形、GK+4バック+2MFにかなり近い形になった。

 そんな仙台のビルドアップを妨害する栃木。形は、右シャドー瀬沼を高い位置にして左CBテヒョンを警戒させ、左シャドー植田が若狭をチェックする左右非対称型前線プレッシングを披露。仙台MFにそのままMFを当てる形で仙台の「やや右偏重」のビルドアップに蓋をしようとした。仙台としては、慌てずに浮いている若狭やヒロイン小畑を使って逃げつつ、栃木が前に来るならシンプルに栃木ファイナルライン背後へボールを供給した。ただ、どうしてもCBとMFとの関係性で完結してしまったというか、そこで精度の問題で時間を使ってしまったり、栃木のMF横でポジションを取る遠藤、氣田にシンプルに繋いで前進ができずで、なかなか前に進めなかった印象だ。

 栃木が速く、しかも強く、J2のなかではかなり高い強度を誇っていた(強度というのは何をするのかがはっきりしていてかつそれを集中力高く実行すること)ように感じたし、この暑さのなかでもかなりのハイプレッシングできたのは、仙台のフィジカル面も考慮して電撃戦で優位に立とうとした気がする。気がするだけ。なんというかすごくシンプルだし、ボールを持つと仙台SB背後を使って攻撃する、セカンド回収してボールを運んで高精度のクロスをゴール前に送る、DFでは仙台のビルドアップに呼応して前プレしつつ後方を固めるのは、仙台にとっては苦戦模様だった。

 ただ後半。すべてはこの男、遠藤康がトップ下に入ることでピッチの風景が変わっていく。富樫に代わって中央に入った遠藤。いわゆるトップ下として、中央だけでなく、サイドタッチライン際までプレーするエリアを広げた。特にサイドにボールが入ったあと、遠藤が相手DF背後にポジションを取ると、遠藤に当てて3人目を使うとか、遠藤を飛ばして(ひとつ飛ばしパス)遠藤に落として遠藤が4人目を使うとか、ボールを前進させる、するためのプレーが出てきた。まあ単純にいえば、MF2人→MF3人になったのだから、相手MFに対して+1できているとも言えるのだけれど、それだけではないポジション取りと、本来やりたかったことを原崎さんと一緒に修正して解決しようとしたのはさすがの一言に尽きる。まさに遠藤康タイムだった。

 

おわりに

 疲労と暑さで、ひとつひとつのプレー精度が落ちたなかで、「いかにプレーするか」がこの試合におけるメタ認知的な課題だったかもしれない。氣田がボールを受けられるポジションに居てもボールが来なかったり、来てもミスをしてしまったり、中島元彦もらしくないミスをしてしまった。ベテランがチームの中心にいるなか、若いプレーヤーも多い仙台。この辺のメンタルだったり、フィジカルの長期的なメンテナンスや悪い時なりのプレーというのは共有していければ、チームとしてもっと強くなれると確信している。同点に追いつかれたが、最後までボールを追いかけ続けた皆川がゴールを決めコーナーフラッグを掴んだ瞬間、このスタジアムがどうして「劇場」と呼ばれているのか、思い出すのには十分すぎた。心技体。心身ともに充実することが、心を見たし、体を突き動かすのだと思う。僕だって、あの暑い帰り道をいとも簡単に歩いて帰ったのだから、選手もいわんやである。

 

「いつも太陽の光に顔を向けていなさい。そうすれば影を見なくてすむ。いつも真理に目を向けていなさい。そうすればあなたの心から不安や心配は消える。」こう言ったのは、ヘレン・ケラーだ。

 

 

【Bless your destiny】Jリーグ/第4節 vsいわてグルージャ盛岡【ベガルタ仙台】

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はじめに

 さて、ホーム盛岡戦。東北ダービーである。勝ち点は積んでいるものの、まだまだ納得のいく内容には遠い我らが仙台。1試合1試合が超重要。急がず、しかし休まず、が前回の教訓だったけれど、今日はどうか。仙台、いわて、盛岡、秋田がそろい踏みしたダービーの幕があける。今回もゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

3試合を終えて

 ベガルタ仙台は、今季4試合目。ここまで1勝2分無敗で勝ち点5。上々のスタートだが、なんというか、内容としてはまだ自分たちの理想的なゲームには遠そうだ。開幕戦の新潟戦は、ボール持って主導してプレーすると意気込みながら、相手のカウンタープレスからの即時奪回と高速アタックに、プレーできるエリアが限られる展開になった。一方、アウェイ水戸戦は各地で戦闘が起きる非常にオープンな試合になった。遠藤康の劇的なゴールで幕を引いたものの、最後まで水戸とシーソーゲーム、勇敢な恋の歌を歌いあげた。そして前節群馬戦は、一転してクローズドな試合になりスコアレスドロー。内容もスコアも【血圧の上と下の値の振れ幅がデカい】サッカーになっている。黒烏龍茶が必要だ。

 DFライン背後、CB横へのスペースアタックを第一信条としている原崎ベガルタだが、そこを空けてでも前から来る相手とは殴り合いに、閉じてくるところには打開に時間がかかると十把一絡げにまとめてしまうとそんな感じだ。まだまだ、大学生になったばかりで緊張しているのに新歓でなんか盛り上げないといけないからがんばったけれど次の日死んだように寝てた大学生】のような、相手に合わせすぎるとどうしても引っ張られてしまう。言うのは簡単だけれど、いかに主体的に、目の前で起きていることを解釈して、自分たちで解決していくか。そんな、ビズリーチが飛んできそうなプレーが望まれてるんだと思う。

 

盛岡の5-4-1DFは諸刃の剣

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 さて、ホームユアスタに乗り込んでくるのは、あの秋田豊監督率いるいわてグルージャ盛岡全員がヘディングでリフティングしながら、仙台入りするほどの気合の入れようだ。5-4-1のDFから、ボールコンタクトを信条として、ポジトラからの攻撃を仕掛けていく。仙台に対しても、次のホルダーはともかく、今のボールホルダーの時間とスペースを制限しようとDFした。ただ、4-1が非常に落ち着いているというか、仙台のポジショニングで前からプレッシャーをかけづらいにも関わらず、バック5は全速前進で縦迎撃する。前輪駆動でプレッシャーをかけ続けようとしたチームがあったらしいが、盛岡はどちらかというとDFラインがファイター。自分たちの前にやって来た敵はすべて、そうすべて撃滅する勢いだ(前輪駆動のチームがどこかあまり調べない方がいいぞ)。

 インサイドにポジションをとる偽ウィング遠藤、氣田に対しては、左右CB小野田、深川がそのポジションに呼応して、仙台ウィングがボールを持ったらすぐにボールへコンタクトできるポジションまで接近してきた。ワイドに開くSB真瀬、タカチョーに対しても、盛岡WBがプレッシャーをかける。するとどうだろう、それが同時に起こるものだから、バックラインにはセンターバックが2人しかいなくなる。え?逆サイドのWBはって?5バック系チームあるある、というか、1on1DFのチームあるあるで、ボール周辺は熱を帯びているのだけれど、中央から逆サイドは2日目のドミノピザのように冷たく、そもそもDFに関与しない。もっと具体的に言うのなら、絞らない、ディアゴナーレで味方のカバーポジションにつかない、だ。盛岡のサイドハーフ、ウィングバックは、ボールサイドが逆だと中央への横移動に乏しく、鎖が切れた、糸の切れた凧のようにピッチを漂っている。なので、仙台の偽ウィングはどちらもインサイドウィンガー、ポジションを取るサイドに対して逆足のウィンガーなのだけれど、ゴールに向かっていくようにボールを運ぶことが多いが、彼らがゴールに向かうと盛岡DFは集まってくるが肝心の中央が手薄になっていたりする。仙台の3点目は、あれほどFW中山がフリーでは、GKとしてはノーチャンスである。

 盛岡は、いや水戸もそうだったけれど、そしてかつての木山ベガルタもだったけれど、後ろのことはともかく、とにかく前で潰せればラインなんてあってないようなもんだを地で行くようなチームで、たとえばだけれど群馬のようにサッと自陣に引いて相手を困らせるようなことはしない。しないのかできないのかやってる途中なのかは分からないけれど、強いチーム、J1のチームは特に、ボールを持てなくても「プレーを待てるチーム」が多い。まあそれは置いておくとして、若い連中を率いて強者にアップセットを起こすのであれば、電撃戦が有効だったりするのはあったりするだったりするったりする。ボール非保持時における、DFの横の距離だったり、逆サイドの選手のかかわり方だったり、盛岡もまだまだ若いチームだなと思う一方で、DFがファイターだったのは監督の意思がこもっている気がするし、センターバックの中央に入った牟田は獅子奮迅だったと思う。あれだけ両サイドにカバーに入りながら、仙台のアタッカーを引き付けてDFしたのはさすがだった。

 

スペースを叩き、ベクトルはゴールへ

 さてさてさてさてさてさて仙台。盛岡の超エキサイティングなDFに対して、やることは明確。そのDFライン背後を攻撃することだ。前述したとおり、WBと左右CBの背後は空く。そこへFW中山大観音、Cayman Togashiが狙うし、この試合は偽ウィングの突撃も解禁。加えて、右サイドは遠藤がワイドに開き、真瀬がアンダーラップで突撃もするので盛岡左サイドはホットスポットとなった。ハーフタイムで深川が交代した遠因にもなった気がする。気がするだけ。でも僕が注目したのは、左サイド。氣田、タカチョーである。昨季の降格を経験した連中だ。面構えが違う(芋を食うサシャ)。特に氣田は、ボールを持てば、斜めにゴールへ一直線で攻撃していく。縦横に網の目を張る盛岡DF網を斜めに縦断していく。まあそれ以上に、彼はファンタスティコ。マジで手をつけられんくらいにヤバったぞ未来の俺。タカチョーはそれを後方でサポートする感じ。それでも2点目の起点になったのはさすが。

 この試合実は、MFフォギーニョ、梁の2人は出来る限りセンターサークルでのポジションをキープし、CB平岡、若狭と2-2ビルドでボール保持攻撃していた。さっき言った盛岡の4-1が静かになったのも、仙台のCB(+GK杉本)に対してはFW枚数不一致だし、FWとMFでも3人に対して、仙台は4人。いずれはだれかがどこかでボールが持てた。盛岡は前半の途中から、突然サイドハーフが前線からのプレッシングでCBにプレッシャーをかけ始めたりするなど、やっぱり我慢ならなかった感もあった。もちろんその背後には、遠藤だったり、氣田が構えているし、中山もMF-MFライン上にいる。てんやわんやよ。盛岡としてはもっと前からDFで攻撃したかったのかもしれない。それを忠実に実行したDFラインと、【いやいやレインボーブリッジ封鎖できませんから…】のミドルライン+FWブレンネル。遠藤康のファンタスティックゴールに、大観音からの慈悲2発。終わってみたら3-0のクリーンシート付で、4試合連続無敗で、ホームユアスタ勝利を収めた。

 

おわりに

 たくさんゴールが入って、内容的にも攻撃的な内容で終わったベガルタ仙台。これまでやってきたことからは大きく変えていなくて。ただ、偽ウィングの突撃だったり、真瀬のアンダーラップだったり、少し型を破ってきた印象だ。盛岡のウィーク、仙台が狙いたい場所とそのための手前2-2ビルド。気づけば自分たちがプレーするエリアも広くなり、自然とボールポゼッションも高くなった。まあなんとなくではあるが、先制となった遠藤康のスーペルゴール。あれでなんというか、重しが取れたんじゃないかなって。良い意味で、J1晩年の苦しさを知らない2人がスコアラーというのも、ベガルタ新生の象徴となりそうだ。ま、エモーショナルな振り返りはこのくらいに。シーズンはまだ始まったばかり。良い勝利だったと思う。自分たちの取り組みを正当化して、信じて続けるのには十分な勝利だ。このまま恐れず、焦れずやっていこう。

 

「祝福しなさい、その運命を。信じなさい、その意味を」こう言ったのは、ヴィクトール・フランクルだ。