蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【Without haste, but without rest】Jリーグ/第3節 vsザスパクサツ群馬【ベガルタ仙台】

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はじめに

 さあ3試合目。ユアスタ初勝利ゲットなるかって、相手はあの大槻監督。広大に小島に、仙台に因縁浅からぬゲームになるかもしれないし、ならないかもしれないし、それ以上に今はとにかく、自分たちとも戦わねばならぬ。今回もゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

ベールの向こう側で

 さて、この試合をどう見るか。仙台は、多くの時間でボールを持って過ごし、ピッチの2/3を自分たちのエリアでプレーしたとも言える。一方で、群馬が4-4-2のブロックで固め、前半途中から左ウィングがバックラインに入って刹那的な5バックになる伏線からの後半スタートから5-4-1で、自陣ゴール前1/3のエリアを支配したと見るべきか。いずれにせよ、仙台にとっては、これまでの新潟、水戸に比べ、自分たちの時間とスペースを自分たちの時間軸上でプレーすることが可能だったとは言えると思う。思うし、群馬もセンターバック若狭に対してはFWが素早く横切りからの制限をかけていたが、群馬の右サイド、仙台の右サイドについてはある程度許容していたように見えた。最悪、ウィング風間が、仙台の3-1ビルドに対してFWと同時攻撃(プレッシング)する。

 仙台のボール保持攻撃というのは、ハーフライン手前、自陣にて始まる。大体はMFがバックラインに、若狭、平岡の横に落ちて疑似的な3バックを形作る。この試合においても、富田が横に落ちることで3バックになるいつもの形をとった。前半初めの方、何分だったか、若狭から横パスを受ける時に受ける前、受ける直前合わせて4,5回首を振って前方のスペースを確認していた。見直している僕は確信した。「前方がオープンであるなら、センターバックはボールを運んで、ウィングと正対する」をやる!と。実際、対面するウィング風間は、ワイドの左サイドバック内田のポジションを気にしてか後方で4-4ブロックの側面を担当していた。結果は、平岡はバックパスだか横パスだったかを選んだ。ちなみにこのプレー、富田であってもそう変わらなかったし、若狭も、あまり右からの攻撃が少なかったとはいえ、同様だったと思う。開幕戦で(本人がそう言っていた)アドリブで上がったと若狭がコメントしていたように、仙台の3バックビルドの左右は、自らボールを持ちあがってウィングと正対、マーク不一致を起こすようなプレーはしない、あるいはあまりやらないようになっているのではと。

 考えてみれば、ボール保持攻撃における3バックは前方を裏抜けする中山へのロングキックや逆サイドでワイドに高い位置を取るサイドバック真瀬へのキックはあるが、ウィングに正対するプレーは無かった気がする。気がするだけじゃないぞ今回は。ボールを持った、この試合なら平岡やら富田やらに相手ウィングがプレッシャーをかけてきたのなら、迷わず前方のスペースにボールを送り込んでいた。なぜなら、群馬も死なばもろともでプレッシングするのだから、ワイドで構える内田には群馬の右SB小島が、インサイドMF化する名倉にはセントラルMF岩上がつく。そうなると、センターバック横が空いてくるのでFW中山大観音の得意技が発動する。

 問題は、群馬が早々に来なくなったことだ。4-4-2リトリート、ウィング肩下げによる疑似5バック、後半からははっきりと5-4-1に。水戸戦で、中山にボールが入りまくったのは水戸は4-2-4とも言えるような形で、とにかく「今」のボールホルダーを捕まえに来たからだ。だから今捕まらないと、未来のボールも捕まらなくなる。原崎ベガルタとしては、この未来にできるスペース、出してほしいボールを共有しているから、先手先手で攻撃できる、そんな目論見なんだと思う。仮にボールを奪われても、両ウィングはボールサイドに集合する。この試合も、左サイドに右ウィング遠藤がタッチライン際でプレーしていた。もう驚かないわ私。ボール周辺の密度上げて、カウンタープレスからの即時奪回。逆サイド、仙台の場合はそのほとんどが右サイドになるが真瀬への解放パス(サイドチェンジパス)。多分、ボールサイドにできるセンターバック横のスペースと、相手がボールサイドに寄ってDFされた時の逆サイドのスペース、このあたりは共有されていて実際に攻撃している。吉野と富田がセントラルMFなのもより前から、しかもボール周辺でボールを奪う役として期待されているのだろうし、吉野については長いボールを蹴る。この試合も、ワイドに高い位置をとる内田にボールを供給していた。新加入のデサバトもおそらく、このプレーができるので獲得したのだと思う。

 ただまあ、それは相手からやってきたからであって、さすがJ1監督、分析コーチだった群馬の大槻監督。当然前から行く姿勢もありながら、最終ラインで中山や富樫に抜けられるのを見て、あとはセントラルMF細貝の負傷交代も影響したと思うけれど、後ろで構える策で通したわけだ。仙台としては、当然平岡や若狭が持ち上がっても、ボールを奪われればカウンター時に大惨事になるし、攻撃ポジションに最適化されている仙台にとっては致命傷になりかねない。とはいえ、たとえば放置していると危険な縦に刺すパスが刺さるとか、裏一本取られてしまうとか、DFにとってリスクになるプレーが無いと、前線から(DFもリスクをとって)プレッシングには来てくれない。MF化している名倉や遠藤へのリターンパスで相手を誘き出したり、後半は真瀬劇場だったが、ファイナルラインへのバックカットで背後をとったりして行けたら良いのかと思う。自ら主導して攻撃すると、旗印を掲げるのであれば、ぜひに挑戦してほしい。

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おわりに

 ほとんど前述してしまったが…仙台は、まだ原則を守っている段階で、自分たちのプレーで精いっぱいかもしれない。ただ、相手があって自分たちがあり、自分たちが相手に影響を与えるのが、サッカーというスポーツである。相手も自分たちも同じ景色を見ていて、それをどう解釈するか、解釈させるか。この辺までいけたら、結構最強な感じだけれど、まあまだまだですよ。原崎ベガルタがボールサイドにひとが集まりまくってボールが行ったり来たりする古来より日本に伝わる集合合体型サッカーになるか、スペースと時間をつかさどる本来のサッカーを正攻法として突き詰めていけるか。ま、そんなものは結果に過ぎなくて、今はまず目の前のことに集中していって、いやいていると思うけれどがんばってほしいなと思っている。共有したいスペースは共有できている。あとは相手に防がれた時に意地でも押し通すのか、別のルートを作るのか、このあたりは原崎さんの主義主張の出番だ。

 

「急がずに、だが休まずに」こう言ったのは、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだ。

 

 

【The chain of destiny】Jリーグ/第2節 vs水戸ホーリーホック【ベガルタ仙台】

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はじめに

 J2初アウェイ。ベガルタ仙台は、アウェイ水戸に乗り込む。強風吹く水戸の地で繰り広げられたのは、久しく忘れていたJ2での闘いだった。今回もゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

最速・最奥を攻撃する両者がもたらした劇的な展開

 仙台は今日も4-4-2。セントラルMFに富田、左ウィングに氣田、FWに富樫が入る。仙台の最初の目論見は、富田がバックラインにドロップして3バックビルドからの前線へのロングボール。前半、風上をゲットしたこともあって、長いボールを使っていこうという算段。

 ただそれ以上に、前節の反省、という色合いもあったと想像する。原崎ベガルタにとって、MFがバックラインに落ちて、3-1ビルドするのはなんといか最終手段のような気がしていて。なるべくなら、2人のセントラルMFは、中央のセンターサークル付近でプレーしてほしくて、それでもボール循環が詰まる、相手を困らせられないと判断すると、その禁じ手を開封するような気がする。気がするだけ。なので、試合開始早々から、富田がセンターバック横にポジションを取るところから、前節サイドバックを使った形でのビルドアップが機能しなかった反省と見たわけだ。それで、後半からはサイドバックの内田、加藤が低い位置にポジションをとって、3-2ビルドに変わった。開幕戦とは逆に、ハイプッシャーな水戸ウィングの背後を2人のMFが使おうと変えてきた形。

 「手前を埋めて、一番遠くを空ける」。昨季2試合、今季2試合を見ての原崎ベガルタのスペース活用のような気がする。気がしてばかりだが、気がする。この試合も、開始は若狭、平岡、富田+MF吉野の3-1ビルドで水戸のFWとウィングを引き付ける目論見だ。水戸は、前線4人がかなりプレッシャー意識が高く、CB横にポジションを取る富田に対しては新里、曾根田のウィングがプレッシャーをかけていった。そうなると当然、仙台はサイドバックの加藤、内田がマーク番の水戸ウィングから解放されるので、ボールを受ける時間とスペースができる。

 水戸は全体が前がかりでプレッシャーをかける。仙台のサイドバックにはサイドバックが迎撃しにくるが、その背後をFW中山がオフボールランで使う。この辺が仙台の試合開始からの狙いなのかと読み取れたし、水戸のハイプレッシャーはおそらく90分通して実行されるだろうし、急にリトリートして仙台を困らせるようなタイプでもないことはおそらく分かっていたのだと思う。だから、手前で引き付けて、一番奥を狙いたかったのだと思う。しかも仙台は、名倉、氣田の両ウィングがインサイドでプレーするので、水戸はセントラルMF前田、平塚がマーク番に。水戸は、さながら4-2-4のような形でのDFになり、仙台がサイドでボールを持って前線にボールを供給する時には、6人で守るような、しかもMF横が空くようなDFだったので仙台としては水戸の守備骨格がバラバラにしたかったところだ。使っていたスペースやポジションもそんな感じしたし。

 ただ1失点目に現れたように、攻撃ポジションに最適化された陣形から自陣に撤退してDFするのは至難の業だ。特にサイドバックの加藤と内田がロングスプリントで自陣に変えならなければならない。ワイドに高い位置を取るサイドバックの宿命だが、構造的な恩恵とネガというのは、今季のベガルタを悩まさせそうな気もする。

 DFにおいても、仙台もウィングを縦を切るので、サイドバックが相手サイドバックを見る形になって背後を使われる…という、まあ両者似たような形でボールを前進させたわけで、そこに対する手入れは、上のディビジョンを目指すうえでは必要な部分だと思う。これだけ攻撃されて、自陣ゴール前にボールを運ばれて、2点で済んだと思うべきだと思う。仙台からしたらね。

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おわりに

 お互い風上になるとロングボールを使って、相手サイドバックの背後にFWを走らせて攻撃してきた試合。ただボール保持攻撃にはある程度形があって、3バック化からのFW横の利用。相手を誘き出して背後を、さらにその背後をと、ボールが前に前に行った展開だった。ボールホルダーに対して、常にプレッシャーをかけ続けたい思想は、ホルダーの時間とスペースを埋める。さらに素早くプレーしようと早くなれば、試合全体のテンションも高く早くなる。

 最初から最後まで自分たちのプレーをやり切ろうとする水戸と、少しでも良い形を目指そうとする仙台。そこのコントラストはあったかな。最後は交代投入の遠藤康のゴールが決勝ゴール。劇的で見ごたえあるゲームだった一方で、攻撃時に可変後のポジションからのDFや一番奥以外にも共有するべきスペースはあったかなと思う。そういう意味では、原崎ベガルタはまだまだだと思っていて、今は原理原則を守るので精一杯というか、相手や自分たちの状況を観察しながら変えたり、あえて変えなかったりはさすがに難しそうに見える。試合前からの準備で11人の目が揃っているのはたしかで、新潟戦では固さがあったチームもこの試合では、しっかりと実行していたと思う。手前のスペースを使って、一番奥に空いているスペースを利用する。しばらくはこの攻撃が続くと思うし、プレーも早くなると思う。そこを少しずつゆっくりやるとか、二番目に奥に空いているところを使うとか、それはまだまだ先だと思う。なので、やはり今年の目標通り、ゆっくり見ていこうと思う。

 

「先を見すぎてはいけない。運命の糸は一度に一本しかつかめないのだ」こう言ったのは、ウィンストン・チャーチルだ。

 

 

【dominate】Jリーグ/第1節 vsアルビレックス新潟【ベガルタ仙台】

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はじめに

 J2開幕戦。ベガルタ仙台は、ホームユアスタに新潟を迎える。いまだ雪降る杜の都から、長いJ2の戦いが幕を開ける。開幕戦からゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

どうやってスペースを攻略するかの攻防

 ベガルタ仙台は、4-4-2。注目は、右サイドバックで加藤千尋が開幕スタメンをゲット。当確だったFW中山の相棒は、赤﨑。GKはネージャを押しのけて杉本が抜擢されるなど、新加入選手7人が開幕戦のピッチに立った。仙台は4-4-2であるが、攻撃時にはセントラルMFがバックラインにドロップで3-1に、WGがインサイドにポジショニングすることで3-3-2-2のような攻撃陣形を取る。ボール非保持時には、4-4-2の陣形を維持したまま、人を主体としたマンツーマーキングだ。新潟はポジションチェンジや縦の移動があるため、自分のエリアに入ってくる相手選手をマークする。ボールホルダーからのパスラインやドリブルコースを制限するより、初めからボールホルダーにプレーさせないよう、時間を与えないよう相手に近い位置にポジションを取った。

 さて新潟。アルベル元監督が残した遺産に、松橋監督のアタッキング攻撃が上乗せされている。自陣でのビルドアップはオーソドックスで、過激なポジションチェンジもない。GKと2人のCBで3バックを作り、アンカー高と3-1ビルドになったり、ハーフラインからのボール保持攻撃では左SB堀米の肩下げで3バックを作ったり許容範囲内。アンカー、CBは基本オリジナルポジションで、堀米も時々ハーフスペースからパラレラを繰り出すが、ワイドレーンが彼の主戦場だった。その堀米。左サイドバックでありながら、ハーフスペースとワイドレーンの継ぎ目のような曖昧なポジションに位置。仙台WG-FWライン上に対して焦点プレーになった。仙台としては、FW横は4-4-2の構造上の痛点。対面するWG遠藤が中央3レーンへのパスラインを警戒するが、背後をインサイドMF高木に使われまくる。セントラルMF吉野が鬼のスライドで対応するが、今度は加藤千尋の背後へ飛んでいくなどやりたい放題。

 仙台の左サイドもあまり変わらない状態。仙台が前線からのプレッシングの意思表示で、4-2-4っぽくもあったことから、WGの背後にスペースを創ることになった。2FWがアンカーを消すと、遠藤、名倉のWGは相手CBをターゲットにする。CBというより両サイドの右が舞行龍ジェームズ、左は堀米か。特に名倉にとっては、対面する舞行龍ジェームズの刺すパスを警戒しつつ、サイドバックまで見るダブルタスクはしんどかったように見える。途中から自陣で4-4-2を作って落ち着かせたあたりからペースを取り戻した仙台だったが、また4-2-4をやったりなど、やはり前で奪いたい主張はありそうだ。

 ちなみにこの曖昧な堀米ポジショニング。仙台の両サイドバックも密かに狙っていた節がある。右の加藤も左の内田も、ボールサイドでは低めにポジショニングしていて、相手のWGあるいは、インサイドMFを誘き出したい思惑もあったように思う。新潟は4-1-4-1でFW横は1人だし。ただ加藤がボールを持つと、新潟のプレッシングベクトルが一気に向いてしまって、加藤自身が相手WGに正対したりハーフスペースを刺したりするのが難しくなってしまったのが少し誤算だったか。加藤も内田も、ワイドでありながら、インサイドでのプレーも難なくこなすし、下がっても上がってもプレーできることからこの試合で抜擢されたのだと思う。

 話を少し新潟に移す。新潟は、主に左サイドから攻めていたが、ハーフスペース魔人・高木、曖昧な堀米、ウィングイッペイシノヅカは、オリジナルのポジションを基本としながら、仙台の4-4-2ブロックの隙間を攻撃してきた。堀米をワイドに、高木が列を降りながら、イッペイがインサイドに。仙台の構造上の痛点であるFW横、DFの仕組み的に痛点であるWG背後を浮いた選手で殴り続ければかなり厳しかったが、特に仙台のDFが大きく変わらずとも、ポジションを変えてきたのが面白いというか、新潟は自分主体の攻撃をまずは主眼としているのかもしれない。仙台目線でいけば、マンツーマーキングでドラスティックに、しかも高速でポジションを入れ替えられてしまえば、DFが後手に回りそうだったが、新潟が「見た目より」劇的ではなかったこと、使う場所はある程度決まっていて予想しやすかったことから、CB平岡、若狭のベテランを中心に守り切れたのでは?とも思っている。唯一、センターFW鈴木のゼロトップ発動が、アナーキーな感じがあって嫌な予感がしたが交代もあってか大事に至らずだった。

 さてもう一回仙台に話を。後半からは吉野のCB間へのドロップを解禁。梁がアンカーポジションで相手FW背後に潜伏。サイドからのボールをもう一度中央に戻す際の橋渡し役になった。その梁もCB横に降りるなど、CBとCMFを使った自陣でのビルドアップに変えてきた印象だ。あと一応WGではあるが、遠藤も名倉も、中央3レーンが彼らの生活圏になっていて、ほとんどインサイドMFだ。相手陣でのボール保持攻撃だと、2人とも自分のサイドからは離れて、新潟のMF間にポジショニングする。原崎さんが話す「スペースの共有」。吉野、梁、遠藤、名倉の中盤カルテットで、新潟の4-3-3の中盤3人が持つスペースを支配しようとしたことと、大きく関係しているだろうと思う。とにかく、ビルドアップは、ワイドには必ず1人は立って避難所を設けてSBやCBを使う形、従来のMFとCBによる3-1ビルドだったりと、相手や自分たち、スペースの都合で変えてきそうだ。

 

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おわりに

 この試合では、ボールを奪ったあとの新潟のポジションが攻守ともに劇的な変化(サイドバックが前線に行ったり高木がバックラインに入ったりとか)がなく、ボールを奪われてもカウンタープレスからの即時奪回がやりすそうに見えた。仙台もそこに苦労していたが、逆サイドへの解放だったり、GKを経由したりなど打開策はまだありそうだ。そうすれば、先に言った自陣でのビルドアップであったり、相手陣でのボール保持攻撃の時間も増える。前半はかなり押し込まれて、自分たちでボールを持っての時間も少なかったが、4-4-2の自陣撤退やマンツーマーキング、平岡・若狭コンビのDFなど、耐える判断と実行ができたのはポジティブな内容だ。

 スペースの共有と良い立ち位置。プレーする選手には、おそらくレベルの高さが要求される。判断とか実行とか。インテリジェンスといえばその通りだけれど、堀米の曖昧さにも通ずる、中間だったり曖昧さははっきりと決められていない(ピッチに3線引いて5分割するとか)分、よく考えてプレーすることが必要だ。一朝一夕ではない、日進月歩ではあると思うけれど、でもその分継続して取り組めれば、簡単に他者に模倣されない強さになる。その一歩が、2022年2月20日のゲームだったのだと思う。

 

「小さいことを重ねることがとんでもないところに行くただ一つの道だ」こう言ったのは、イチローだ。

 

 

Gold Rush!

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THE ALFEEの曲で、『冒険者たち』という曲がある。

かの有名な『モンタナ・ジョーンズ』のオープニングテーマである。

そのなかで、「国境が消えたその時、新しい時代見えてきた」という歌詞がある。

1994年の曲である。

いまでこそ、ソーシャルメディアや動画・配信サイトのおかげ、国境も、人種も、言語も消えて、僕たちはディラックの海に散らばる虚数となった。

境。

境界線なんてもいう。

あるラインを超えたところに、まだ見ぬ世界が広がっていて、自分の限界のさらにその先が見えてくる。

J1とJ2との境界線。

選手と監督との境界線。

サポーターとクラブとの境界線。

勝利と敗北との境界線。

生き死にの、境界線。

我らがベガルタ仙台もまた、多くの線を踏み、超えてきた。

超えてしまった、こともある。

それでも、新しい世界、新しい時代がやってきて、僕たちはその先へと踏み出していく。

まさに、冒険者のように。

この曲、なかなかによくて、どこを引用してきても一歩を踏み出す者を後押しする。

僕も、90分を闘う者たちを支え、讃えられたらと思っている。

今季もどれだけの後押しができるのか、後押しする側も様々なリスクを抱えながら、不安を抱えながらであることは、認めたくはないが間違いのないことだろう。

それでも、あの興奮へ、週末の試合へ。

新たな境界線を超えていく冒険が、明日からまたはじまる。

 

だから行くのさベガルタ仙台

死ぬか生きるか、ゼロから始まる。

 

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【2022年完全攻略版】新加入分析&スタメン予想【ベガルタ仙台】

はじめに

 

ベガルタサポーター、Jファンのみなさん、こんばちわ。

蹴球仙術のなかのひとこと、せんだいしろーこと、どうも僕です。

今回は、2022年ベガルタ仙台の新加入分析とスタメン予想をお届けします。

記念すべき1回目は、すべてがアグエロへと帰結する形で幕を閉じました。

昨季なんかは、『世界でもっとも遅いベガルタ仙台選手分析』をぶちかましました。

おかげさまで、たくさんのご好評をいただきました。

 

今 年 も や り ま す 。

 

流出があれば、流入がある。

一期一会の世界で、新たに仙台の地へとやってきた選手、帰って来た選手を紹介したいと思います。

忌憚なく、丁々発止に。

じゃあ早速、新加入分析いきますか。

では、レッツゴー。

 

2022年ベガルタ仙台新加入選手 *加入順

 

オウオウオウオウオウソネエクスプロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

MF/24番 大曽根 広汰

ワイドのポジションからのドリブルを得意とするプレーヤー。

連続して正対するところを見るに、フィジカルさえ上げてくればインサイドMFでも面白そうだ。

DF時にもポジションに戻るところから、小難しい守備の約束事とかなんかいろいろアレしてくれそうなアレだ。

おそらくウィングが予想されるが、サイドバックに攻撃力を求める原崎ベガルタなら、サイドバックもありそう?いや、ウィングだな。

かなりの激戦区だが、思い切り割り込んでいってほしい。

 

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(ドン)(クワッ)えんどうあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいうぃるおるうぇいえずあびゅうううううううううううううううううううううううううううう

 

MF/50番 遠藤 康

塩釜FCユースが生みだしたレフティー。

高いキック精度で、アシスト王になった永戸勝也以来の活躍が期待できる。

主戦場は右サイド。

カットインから逆サイドへのシュート、クロスなんかもパターンとして増えそうだ。

攻撃時には、ウィングがインサイドに入る形が予想される原崎ベガルタ

まさに遠藤はうってつけというわけだ。

安定の鹿島補給戦線。

てかなんで永戸を返さなかったんだ?全然使わへんやんけというツッコミは、今は止めておこうと思う。

 

そういうとこだぞ。

 

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仙 台 大 観 音

 

9番/FW 中山 仁斗

宮城県仙台市泉区実沢中山南に位置する仙台大観音。

正式名称、仙台天道白衣大観音。

地上100mの高さがある日本最大クラスの観音様だ。

内部はエレベーターの利用が可能で、最上階からの窓から景色を一望できる。

しかもレフティーのストライカー。

水戸での実績も十分で、即戦力FWとして期待大だ。

ボックス内での動き出し、特に相手センターバック横へ瞬時に裏抜けランを繰り出す。

ストライカーには必殺技があるものだが、左足に裏抜け、あと意外に右足でも決めるあたりたくさんの必殺技がありそうだ。

左利きのストライカーといえばドラゴン久保を思いだすが、ドラゴンに観音様に武将顔と、属性てんこもりなところもいい。

 

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https://www.sentabi.jp/guidebook/attractions/76/

www.sentabi.jp

 

ロ ッ ク ン ロ ー ル

 

DF/41番 内田 裕斗

「うちだあああ」でも「うちだゆうとおおお」でもscreamingしやすそうな内田裕斗

もしかしたらフルネームで呼びたい選手選手権に登録しているかもしれない内田裕斗

思い切りの良い縦突破と、思い切りのよいシュート。

非常に攻撃力の高いプレーヤーだ。

もしかしてポジションはサイドバックだが、3バックの左ウィングバックが適正なのか?

サイドで奪って縦突破。そのままシュートでスーペルゴール。

やっぱり叫びたくなる選手っぽい気がするような気がする。

 

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ブルブルブルブルブルブルアイアイブルベリアイブルブルブルブルブルブルアイアイブルベリアイ

 

DF/5番 若狭 大志

名門・東京ヴェルディからやってきたベテラン。

センターバックサイドバックからMFまで対応可能な、田村直也型DFだ。

基本ポジションはセンターバック

ただサイドバックからインサイドにポジションを変えて、MFに変身する技も得意としている。

ボールを持つこと、良いポジションを取ることでいえば、我らが期待のテル君(照山)の先生役にもなってほしいところだ。

個人的な感情だが、非常に激萌なタイプ。

居てほしい時に、居てほしいところにいる。

そんなのを超期待している。

 

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防 弾 少 年 団

 

DF/20番 キム・テヒョン(サッカー選手)

とは、まったく関係ない、韓国期待の若手DF。

アンダー世代代表にも呼ばれており、新世代というか今時のセンターバックらしくボール扱いを苦にしない。

ボールを持つとハーフスペースをドリブルしていく海より深いプレーもある。

入国時期が未定だが、センターバックとして定着してくれたらチームとしても大きいだろう。

ちなみにBTSは一切見たことも聞いたこともない。

シブがき隊(SGT)みたいなものか。

 

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燃えあが↑れ~♪燃えあが↑れ~♪ガンダム~♪

 

GK/23番 杉本 大地

磐田からやってきたGK。

確かなセービングと、キャラで若手が多いGK陣を引っ張ていくだろう。

クヴァが去り、ポジション争いが激化しているGK。

そこに割って入ってける実力者。

ボールを動かすことが求められるなか、GKの基本である止める力でアピールできるか。

あのクヴァだってビルドアップへの参加が苦手だったが、徐々に克服していった。

すべてを力に変えてほしい。

 

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リャーンヨーンギーゲットゴールリャーンヨーンギーオイオイオイオイリャーンヨーンギーゲットゴールリャーンヨーンギーオイオイオイオイリャーンヨーンギーゲットゴールリャーンヨーンギーオイオイオイオイ

 

MF/10番 梁 勇基

杜の都へと帰還した王。

ロストナンバーとなっていた10番を再び身に着け、玉座へと還ってきた。

ポジションはおそらくセントラルMF

ウィングでのモビリティはさすがに厳しいだろう。

ただ、本人も試合に出るとコメントしているので、まだまだ老け込むつもりはなさそうだ。

今は手薄のセントラルMFが務まれば、ボールを持って戦うチームの戦術にも貢献するだろう。

10番の後継者は、10番だったとさ。

まったく、ドラマ以上にドラマチックだぜ。

 

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名倉やないかい

 

MF/28番 名倉 巧

長崎からの期限付き移籍で加入したワイドのドリブラー

氣田、富樫とはチームメイト、原崎さんとはコーチと選手の間柄だった。

フィットするのに時間はそうかからないだろう。

オンボール魔人で、狭いハーフスペースでボールを受けてからターン、ドリブルからのパス、中央でのシュートとまさにアタッカー。

さっきのカステラ三人組が近いポジションでプレーしたら何かが起こりそうだ。

衝撃の氣田と巧みな名倉。

2人のアタッカーが、新生仙台の攻撃の急先鋒となる。

#期限付き移籍は完全移籍

 

 

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カッコデサバト宣言!

 

MF/6番 レアンドロサバト

僕「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃ先輩マジ最強っすよねー先輩に敵う奴なんているんですか?」

サバト「いねーだろ。いるか?いねーだろ」

僕「やっぱそうっすよねー俺先輩のことマジリスペクトしてるっす先輩!先輩!」

サバト「仙台で暮らしてえな。冗談ぬきで。仙台に暮らしてえマジで」

後輩「ほー!かっけー!仙台で暮らしたいなんてかっこよすぎるっすよ!しかも冗談ぬきでなんてマジかっけーよ!」

 

『照らしそう』

地元で一番強そうなデサバト。デサバトならマジでイタリアのマフィアとか潰せるんじゃねえかな。もしかしてもう潰してるんじゃないんですか?もしもしデサバトですか!今潰してますか!?

 

サバト「(今日も僕に俺の凄さを存分に感じさせてやったわ。だりーけどまあ僕をビビらせるのがデサバトの勤めだしな。しかたねえな。あ、っべーすっげえボール狩り取れそうだっべー。っべーんだけどマジでこれっべー。っべーわマジっべーわ。ボール奪ったあとドリブルで上がりゃよかった。っべーな横から近づいてボール奪おうとしてるとこ相手にバレたらボランチとしての威厳がっべーよな。クッソ気づいてねえ内にサッと奪っちまうか。いやっべーな変な動きをして背後にスペース作ったらそれこそっべー。失望されるに決まってる)」

(僕「先輩ガッカリっす。ふー。あと早く勝ち点3万ください」)

サバト「(前線にロングキック蹴るの催促されるに決まってる。うわあドンドンボール奪えちゃう。こんなんじゃ仙台で暮らせねえよ■■■■■■■■■■■■で暮らすはめになっちまうよ。っべーこんなんでボール奪ってたら、そのうち地球上からボールが消えちまうなんとかしねえと。あっそうだ。ビルドアップする時に、バックラインに降りて3バックでビルドアップするやつだ。あれしかねえ。あれなら原崎さんがやりたがってる攻撃の形をやれる。あ、ダメだわ。もうボール奪ってすぐに逆サイドへロングキック蹴ったら相手どうしようもねえわ。ビルドアップとかの前に奪ったらすぐに攻撃できるわ。奪えたわ。相手はボールだけ置いていく形になったわ。(俺が)通りすがりにボールを奪っていく選手だわ。通りすがりにボールを奪っていく選手にかかればこの通りだわ。背後に蹴るか蹴らないか微妙な高さのラインだわ。いっつも迷うわ。っべーこうなったらこいつが気がつかないことを願うしかねえ。ばれたら終わりだ。頼むバレないでくれ、頼む頼むぞ」)

僕「先輩。なんでボール奪ってるんですか」

サバト「(バレた)」

サバト「いやあ…あのー…ほらな、(相手は)ボールいらねえと思って…捕った」

僕「……」

僕「えー!マジすか!マジかっけえんすけど!ボール捕るなんてマジかっけえんですけど!」

サバト「こいつちょろいわ」

 

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ビ ッ グ ド リ ー ム

 

MF/32番 鎌田 大夢

福島ユナイテッドから加入したテクニシャン。

10番を背負い新体制発表までしたところを確保。

去年といい、仙台もえぐいことをやってのける。

ポジションはセントラルMF

少し松下に似ているか?近中距離の必殺パスを狙う。

パスを出したあとのランニングと、自陣ゴール前に戻ってくるようになれると強度の高いMFになれそうだ。

上のディビジョンあるある、フィジカルとスピードの違いに追いつくのがまずはか。

 

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バロテッリアグエロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

FW セルヒオ・アグエロ

もはや触れない方がおかしいくらいになった実質アグエロ

不本意ながら引退することになってしまったが、永遠に、彼は僕たちの心のなかにいるだろう。

 

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さて、スタメン予想です。

僕が予想するスタメンがこちら。

 

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いやもう当てる気ないやん。

 

基本フォーメーションは、4-4-2。

攻撃時には、左サイドバックのタカチョーがインサイドに。

インバーテッドフルバックってやつだ。

肩上げ3バックにデサバト、吉野という最強MFコンビで3-2ビルドを敢行。

ハーフスペースをタカチョーとカルドーゾが使い、相手サイドバック背後への裏抜けも狙う。

そしてなぜそこにいる真瀬。

右サイドの遠藤がカットインして左足からのクロスに飛び込んだのは真瀬だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

これですよ。

GKは、明日のナージャこと細川ガラシャことネージャが最有力だが、ヒロイン小畑を入れることで萌え度が上がる。

まあこの予想の一番の目的は、若狭がバックラインに入ってビルドアップしてほしいし、タカチョーはインサイドに入ってほしいってただそれだけなんですよ。

自分目線最優先で迷う時には自分を叱ってきましたが、これはもっと叱られるべきですね。

開幕戦。

どんなスタメンか楽しみですね!!

 

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おわりに

 

いかがだったでしょうか。

真面目な仙台の編成分析を期待していたみなさん。

大変に申し訳ないです。

申し訳ないですが、毎年こんな感じなので、もうあきらめてほしいです。

過去の分析記事はリンク貼るの面倒になったので気になったら見てみてください。

気にならなくても見てみてください。

久しぶりのJ2の戦い。

存分に味わいましょう。

 

では、また。

 

黒松華憐に花束を。 #6 (LAST)

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こうして俺達は、国立へ向かうべく、新幹線に乗っている。

ありがたいことに道中の交通費を親が出してくれた。

両親としても、小学校以来のレオン応援となって、少し安心というか、俺に対して禁句ワードにもなっていた『仙台レオン』をすると言うのだから、行ってこいといった感じなんだと思う。

サポートしてやる。

そう言われた。

親父からは託すとも言われた。

懐かしいな。

現地に向かう者にその想いを託す行為。

 

そして肝心の華蓮だが。

さっきから緊張で背筋を伸ばしたまま座席に座っている。

もう大宮だと言うのに。

針金のように硬直した彼女にとって、この試合は試合の重み以上に、彼女の人生にとっても大きな試合になる。

人生初の現地観戦。

もう俺はあんまり覚えていないけれど、目の前に広がった色鮮やかな光景に感動したのは覚えている。

どんな試合になっても、今日という日を決して忘れないような、そんな体験をしてほしい。

まあ今は、それどころではないのだけれど。

 

「長町」

「ん?」

「勝てるかな」

「さあ」

「相手は埼玉なんだろ。強いじゃないか」

「レオンにとっては全部が格上だよ。関係ない。誰だろうと倒すだけだ」

「……そうだな」

「それよりトイレとか大丈夫か。会場でも行けるけど人も多いし、これから移動ばっかりだぞ」

「うん。行ってくる」

 

会場へ向かう道中に、少しずつ今日の2人の主役をサポートしようと集まって来た人を見かけるようになる。

最初はキーホルダーだったりスマホケースだったり。

それが会場に近づくにつれ、マフラーに変わり、帽子が出て来て、ユニフォームへと変わる。

俺達は、決戦の舞台に辿り着いた。

「買い物とかいいのか?」

「うん。大丈夫」

「そうか」

華蓮は、緊張しているが、未知の空間を味わうのと同時に独特の緊張感を味わっているようだった。

スタジアムという治外法権

ここでは大きな声で応援するチームの名前を叫んでも変人扱いされない。

祭りのような日常が目の前に広がっている。

まだ勝敗が決まっていない。

早く決まってほしいような、ほしくないような。

今が一番幸せかもしれない。

いや、一番の幸せは、カップを掲げた時だと思う。

「長町」

「なんだ?」

「スタジアムって、いいな」

そうだ。

そうだよ。

「ああ。俺もそう思う」

 

コンコースを歩く。

私たちは、人垣をかき分けながら、ゲート入り口を目指す。

こんな大群衆、私だけなら怖くて無理だった。

花江が来てくれてよかったと心から思う。

でもそれだけじゃなくて、私の恐怖心は、この会場に着いてからだんだんと薄れていった。

なんでだろう。

多分なのだけれど、みんな、レオンを応援しにきてるんだ。

みんなだって怖くて、不安で、心配なんだ。

それでも、レオンのみんながたくさんがんばれるように、こうやって来ているんだ。

だから怖くない。

私は、怖くない。

 

「ここだ」

入口の前に立つ。

2人一緒にその入口を進み、大舞台へと入っていく。

 

真っ黄色の草原、マグマのように真っ赤の壁、そして空よりも碧いピッチがそこにあった。

まるで、花のように。

大きく振られている幾千もの旗、太鼓の音。

俺は、ここに戻って来た。

頬を伝う涙を俺は拭いもせず、直利不動で、この光景を眺めていた。

全身でスタジアムを感じ、五臓六腑に、レオンの鼓動を感じ、俺はここに居ることを痛いほどに感じていた。

鮮やかなまでの黄と赤。

腹の底まで響く声と太鼓の音。

生きてる。

白黒の世界に、彩りが、水に溶けだしたインクようによう流れ込んでいく。

 

「きれい…」

「ああ、きれいだ」

 

「おかえり、花江」

黒松華蓮は、そう言った。

登場人物

黒松華蓮 ・・・勾当台高校2年生。

長町花江 ・・・勾当台高校2年生。

 

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あとがき

黒松華蓮に花束を。を読んでくださった皆さん、どうも僕です。

最終回、いかがでしたか?

勝戦はどんな結果になったんでしょうかね。

スタジアムに行きたくても行けない黒松華蓮と、スタジアムに行きたくなくてしょうがない長町花江の物語でしたが、彼ら彼女らが少しずつ歩みを進めながら決勝の「舞台」に立ったのは素晴らしいことだったかなと思っています。

誰もが過去に後悔を抱えていて、でもそれを否定も肯定もせず、今や明日の希望を語ることで過去の後悔を救うこともできるのかなあと思っています。

救うと言うと大げさですが、嫌いになったもの、別の誰かが好きだと言ってくれるとなんだか嬉しくなったりするもんです。

何かを好きだと思う感情はすなわち、自分のなかにある好きの感情が無ければ成り立ちません。

それを思い出させる、サッカーを通じて、自分の存在の肯定というのもまた、サッカー観戦の一部なのかなあと思ったり思わなかったり、やっぱり思ったりしていたりします。

声が出せない状況で、サッカーのスタジアム環境が変わってしまいましたが、サポーターの物理的、精神的距離も出てしまいますが、少しでも観戦賛歌、スタジアム賛歌、人間賛歌になればいいなあと思っています。

どうかみなさんお元気で、サッカー観戦ライフを。

では、またどこかで。

せんだいしろー

 

黒松華憐に花束を。 #5

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01

―――さあ後半アディショナルタイムも5分台に突入した!

仙台レオンの勝利は目前か!

今主審の笛が吹かれました!

仙台レオンの勝利!

これで仙台レオンが、初めての天皇杯決勝に進出することが決まりました!

決勝は、12月4日の国立競技場!

仙台レオンは、初のタイトルを狙います―――――

 

02

仙台の11月は寒い。

教室から廊下に出るのも嫌になるくらいに、俺は寒いのが嫌いだ。

しかし、こんな時だというのに、黒松華蓮は席にいない。

いつもならいるはずだと言うのに。

まあいい。

たまには、黒松華蓮の突然の問いかけに振り回されないことがあったっていい。

「長町」

俺は、仰天した。

驚天動地だった。

黒松華蓮は、俺の背後から静かに近づき、そしていつものフレーズを言い放った。

俺は、自分の苗字を呼ばれた回数なら、世界大会にだって出られるくらいにたくさん呼ばれている自信があった。

「長町」

驚く俺が無反応だった、いやあくまでも外見上の話ではあるが、何も応えないから黒松華蓮から追加で呼びかけがあった。

一度に2回攻撃。

「…どうした黒松」

「私とスタジアムに行ってほしい」

 

03

黒松華蓮の人生の目標は、サッカースタジアムに行くことだった。

問題は、本人の畏れ多いという感情、というより、サッカーに対する極度なコミュ症と対象への尊ぶ気持ちが大きすぎて、なかなか一歩を踏み出せないことだった。

それが、今、なんて言った?

「ごめん黒松、今なんて?」

「私、スタジアムでサッカーを観たいの」

感慨深い。

ついにここまでになったか黒松華蓮。

俺はまるで親にでもなったかのような、親になったことは無いのだけれど、ついに人生の目標が達成される瞬間が来たのかと思うと感動すら覚えた。

「そうか、ついに行くのか」

「うん」

黒松華蓮は少し恥ずかしそうにして、目線を反らしたが、やはりうれしそうだった。

「よく行こうと思ったな。あんなに恐縮していたのに」

「いや…そうだな…」

「ん?なんだよ」

「長町となら行けそうだなって…」

「俺でいいのかよ」

「…………長町がいい…」

そう言って俺の制服の袖をつかむな。

どう反応したらいいか、困るだろ……

「まあいいけど…で、いつ行くんだ」

「まだ来月なんだけれど、12月」

「だいぶ寒くなって…」

「それでもいい」

「はぁ…」

「寒くてもなんでも、どうしても行きたいし、長町と一緒に行きたいんだ」

「そう…それで、いつなんだ?どこに行く?」

 

「12月4日。国立に。天皇杯を見に行きたい」

 

俺はそれ聞いて、人生で一番、サッカーを憎んだ。

 

04

「長町…!」

俺は、走っているのかと思うくらいの早歩きで、黒松華蓮の追撃をかわそうとしていた。

よりによって天皇杯

よりによって仙台レオンの試合。

決勝。

初のタイトル。

このあたりから、俺の胸の中で何かがグルグルと回り始め、それを吐き出したくなった体を押さえつけるに必死な自分がいることに気づいた。

喉につかえて嗚咽をしながら、それでも俺は自分の首を絞め続けた。

このまま、息絶えてほしかった。

「長町!」

黒松華蓮が叫ぶ。

彼女が叫ぶんだ。

よほどのことに違いない。

それはそうだろうな。

冷静な自分もいる。

それでも俺は、歩みを止めなかった。

 

俺にとって不幸だったのは、学校に逃げ場所は無く、屋上にまで追い詰められた。

「長町!」

黒松華蓮がまた袖をつかむ。

袖と言うより、手首を引いた、というのが正しい。

「長町……どうして…?」

どうした?ではなく、どうして?

そのくらいには彼女も俺を知っている。

「俺は行けない。行けないよその試合」

「どうして?一緒は嫌?」

耳鳴りがひどくなってきた。

大きな音で、規則的に、ドンドンという音も聞こえる。

「そういうわけじゃないけど…」

鼓動を感じる。

全身が心臓のようで痛い。

「レオンがダメ?」

「……」

端的に言うと、ダメだった。

「初めての決勝だよ?タイトルかもよ?応援…行かなくていいの?」

罵詈が聞こえる。

うるさいな。

「寒いけど、国立だけど、みんながいるから選手のみんなも安心するよ?」

涙をすする音が聞こえる。

うるさい。

「私たちのレオンだよ?」

あいつらの泣き声が聞こえる。

うるさい、うるさい。

「私、長町と一緒に行きたい。長町となら…だって私、長町が…」

 

「うるさいんだよ!!!!!」

俺は、大きな声で、黒松華蓮に一喝した。

 

黒松華蓮は、泣いていた。

サッカーなんて嫌いだ。

レオンも……

 

05

俺はひどく後悔していた。

あの日以来、黒松華蓮は、俺の名前を呼ばなくなった。

あの日以来、俺の頭のなかは別の何かで支配され、寝つきも悪くなった。

何かをしなければいけない。

でも何をすればいいのか。

そんなしょうもない輪廻を頭の中で回し続けた。

少なくとも、今の状態が、俺は悲しかった。

自分で招いたことなのに、それも情けなかった。

俺は、黒松華蓮と離れたくなかった。

 

一人また一人と下校していく。

教室には、俺の視界には黒松しかいなくなった。

「黒松」

俺は、突然、黒松華蓮に話しかけた。

「……」

振り返っただけで、黒松華蓮は、何も言わなかった。

「俺、俺さ…」

彼女は、じっと、俺を見続けた。

何を話せばいい。

何かを話さなければ、彼女は離れていってしまう。

嫌だ。

彼女が振り向き直って前を向く前に。

何かを。

「俺……」

黒松華蓮は、まだ見ている。

話せ!

負けるな!

 

「俺、ちゃんと仙台レオンの試合を観たい。いや、もう一度、応援に行きたい」

「俺はずっと逃げてた。いや避けてた」

「降格が決まったあの日、小学生だった俺は、大人たちの罵詈雑言とむせび泣く真ん中に居た」

「それまでずっと、『諦めない』とか『信じてる』とか言ってた連中が、まるで手のひらを反すかのように、一緒に闘ってきた奴らをなじりはじめ、すべてが終わったかのように絶望したんだ」

「俺は、それが耐えられなかった」

「そんな想いをするなら、俺は、サッカーなんてものから、レオンから離れたいと思ったしそうしてきた」

「でも……」

私は、ずっと花江のことを見ていた。

絶対に目を反らしてはいけないと思った。

花江が自分からサッカーのこと、レオンのことを話している。

私は、花江を応援している。

「俺はでも後悔していて…でも逃げ出した俺に、あいつらを語る資格もないし、今更どの面を下げて戻って来たんだって…だから俺…俺…」

俺は泣いていた。

知らない間に泣いていた。

「でも嬉しかったんだ。黒松が俺を誘ってくれたこと、レオンを好きになってくれたこと、本当は、心の底では、いや、心の底『から』嬉しかった」

もうほとんど言葉になっていなかった。

でも、私は、彼を見届ける。

花江は、決着をつけようとしている。

昔の自分に。

 

「今、俺は黒松と一緒にスタジアムに行きたい。レオンを応援したい。俺も、黒松とならスタジアムに行ける…!」

 

やっと。

やっと、来てくれるんだね。

 

「長町」

「黒松…?」

僕たちは、誰も居ない教室で、二人抱擁を交わした。

 

登場人物

黒松華蓮 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、スタジアム観戦。

長町花江 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、特になし。

 

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