蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【Head on】Jリーグ 第23節 ベガルタ仙台vs川崎フロンターレ (2-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム川崎戦のゲーム分析。激闘の果てにあったもの。勝ち点を分け合う両者に惜しみない拍手が送られる。王者相手に真正面から撃ちあい仕留めにかかったベガルタ。自分たちの弱さ。立ちはだかる壁。ピッチで起こることすべてに意味がある。臆病者と呼ばれたチームが真正面から王者に一撃を放つ。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2のメンバーそのままに、3-1-4-2を採用。完全に奇襲を仕掛けた。しかも相手が4-2-3-1で来る予想ができるなか、あえて噛み合う対抗型を用意した。

 対する王者川崎フロンターレ。CBに異常事態が発生しているのだけれど、ほとんど主力級。天皇杯の岡山からの帰りを差し引いても、サブには齋藤学レアンドロダミアンがいる。格の違いへの挑戦。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

フェイク4-4-2

 ベガルタのオリジナルは、いつものトムキャット型4-4-2。ではなく、メンバーが同じで、前輪駆動型の3-1-4-2。完全に奇襲をかけた。フロンターレの守備は、4-2-1-3の陣形からの前プレスが基本。CBのボールを取り上げる作戦にでる。このセットされた状態において、両者のフォーメーションは噛み合う。個人と個人との力関係が物を言う世界を創り出すことになる。試合後コメントでも、カオスを創り出したいと言っていたのにも関係する。ただ唯一の誤算は、試合序盤での関口の負傷。ジョンヤの投入。もう一度、自分たちと相談してパワーを出すことが求められる展開となる。

図1

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 相手に考える時間を与えるなか、それでも実行した奇襲作戦の狙いは2通り考えられる。ひとつは、 完全に噛み合った状態での決闘勝負。もうひとつが相手と調律してから外す、つまりはポジション移動で相手に選択を迫るやり方。結果として、決して成功したとは言えない攻撃の狙い。それでも、ベガルタは、絶対王者フロンターレに2本の剣を突きつけ決闘に挑んだ。

図2

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再び出現した3-1-4-2。狙いはフロンターレゴールただひとつ。

 まずは決闘勝負から。ターゲットは、前線、FW長沢。フロンターレのCBコンビは、谷口とジェジエウが出場できないというスクランブル状態。コンビを組んだ山村と車屋。もちろん、サイズと重さ的な部分もあるのだけれど、ここの連携に風穴を開けたい。そんな意図だった。それが良く見えたのは、平岡や永戸からのロングキック。3-1-4-2になれど、まずは遠くのFWへ。石原先生やWBの曖昧なポジショニングに少しでも誘き出されれば間髪入れずにロングキックが飛んでくる。この試合は、特にFW対CBの構図を作りたかったのだと思う。スタートからロングキックで挨拶する。勝負。

図3

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図4

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 次はポジショナルな攻撃。こちらは、蜂須賀、永戸のWBの列移動で相手のSBとSHに選択を迫る。誘き出し。CBがボールを持った時、蜂須賀と永戸が高い位置を取っていれば、相手SBをピン留めできる一方、列を降りてアンカー高さまで降りれば、構造的なスペースに立つことが可能になる。相手SBが迷って誘き出されれば、SB背後を石原、長沢のFWかインテリオールの道渕、松下が縦にハーフレーン突撃を発動。4-2-1-3ディフェンスの構造的な弱点、中央2-1の脇を使う形で、最も使いたいCB脇、SB背後に勇気をもって、正面から飛びこんだ。

図5

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図6

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 ベガルタの狙い。ファイナルラインの鎖。特にSBとCBを一撃で仕留める刺突剣と相手を誘き出してから攻撃する刺突剣で絶対王者のゴールへと迫った。すべてが上手くいったとは言えない。フロンターレがボールを持つ時間も長かった。それでも、2本仕留めた。1点目は、平岡のロングキック。2点目は、ジョンヤの一人飛ばしパスからの敵陣封じ込めのポジショナルアタック。アクシデントもありながら、狙いを強く実行した結果のひとつが見えた気がする。

 渡邉vs鬼木 

 この試合、鍵になったのはベガルタの右サイド、フロンターレの左サイドの攻防戦だった。永戸は、ウィングロールのSBマギーニョが決闘相手だったのだけれど、この勝負は見もの。永戸はマギーニョに振り回されながらもほぼ互角。引っぺがされて裏を取られることや独走を許すシーンはほぼなかった。また、攻め上がりに臆して前へのパワーを忘れることもなかった。この試合の影の立役者は永戸だったと思う。

 そこで、鬼木監督が動く。同じくウィングロールができる齋藤学を投入。2枚のウィングで永戸を粉砕する策で来た。そのあたりから、石原先生がボールを持っていない時は降りていたので5-4-1のような形になっていた。体力切れの石原先生がついて来れないとみての采配。妙手。ただ、齋藤学も家長同様、ハーフレーンに立ち皇帝ジョンヤの射程範囲内立ち入ってしまう。結果、交代前と立ち位置の変化も付けられず、シンプルに選手の質を上げた形になった。

 渡邉監督も動く。石原先生に変わってハモンを投入。これは攻撃的。一種の賭けだったのかもしれない。少なくとも、セットディフェンスのことはある程度目をつぶり、一撃必殺に勝機を見出した。勝算はもちろん、齋藤学のポジション。マギーニョが高い位置をとれば、その背後を突くことができる。両監督が蓋をするのではなく、剣先を突きつけることで、どっちが臆して一歩踏み出すことを躊躇するかの「攻撃的我慢比べ」を選んだ。知将と呼ばれる2人。博打采配ではないのが、最後まで勝利を目指す姿勢に僕たちは拍手を送らないといけない。そして、この采配勝負を生み出したサッカーに感謝しなければいけない。 

ボール非保持時

5-3-2とフリーロール家長との相性

 ベガルタのセットディフェンスは、5-3-2。関口の代わりに入ったジョンヤが左CBに。  フロンターレは、中村が列を降りて下がり目に位置し、両SBが高い位置を取るので2-3-5やアンカー落としで3-2-5のように見えた。前線5枚に守備5枚で対応の対抗型を取る。あとは前線の3-2がフロンターレの攻撃型に合わせて決闘相手を見つける形で、ピッチ各所である程度両者の守備陣形が整わない状態を作って、その瞬間の勝負に勝つ形をとった。

 ただ、フロンターレがボールを長く持つので、なかなかうまくはいかなかったのだけれど。そのなかでも、家長がフリーロールなので、特定の場所にいない。対面するジョンヤもどこまでついていけばいいのか、少し迷っていたように思える。もちろん、ついていけば、自分がいたスペースを空けてしまう。ついていかなければ、味方の仕事量が増える。こんなジレンマを抱えていたように思える。逆サイドの平岡も。阿部が列を降りるケースがあるので、どこまでついていくのか、いかないのか。

図7

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 とても懐かしい。なんだか書いていて、昨年とか春先に似たようなことを考えて書いていた気がする。気がするだけ。気がするだけなのか?結局は、3センターのスペース管理が肝なのと、相手が数増ししてきたらやっぱり耐えられないのが人海守備戦術の限界のような気がする。これは気がするだけ。そんなこんなで、徹底的に左サイドから攻撃されたのだけれど、それでもやっぱり人につくことを徹底して対応。ジョンヤは地の果てまで家長を追い詰めた。これはこれで正しい。やるなら徹底抗戦だ。

3-1-4-2のネガティブトランジション

 攻守表裏一体。攻撃は、FWを中心とした前線への一本のパスがまずは狙いのベガルタ。カットされれば、インテリオールやWBのベクトルは前へ向いている。奪われた瞬間、後方の1-3の空いているスペースを突かれることになる。しかも相手の両SHにアンカー脇に陣取られてしまっているので、カウンターの急先鋒になる。3CBへの前プレとカウンター要員を兼ねている。そうまさに攻守表裏一体。アンカー脇は、ベガルタの攻撃時にも当然有効なスペースになる。CBがボールを運ぶ場所、インテリオールが降りてくる場所、WBがレーンチェンジする場所とかとかとかとか。

 こちらが使いたい場所を先に使う。将棋の手筋にあるのように、絶対王者は、ボールを持ってようが持っていないようが敵に致命的な一撃を加えるための準備をしている。ベガルタからすれば、ホーム磐田戦で狙っていたスペースを完全に使われた。こうなると、ボールと味方とが一緒に前に進むことがカウンター対策になると思うのだけれど、攻撃優先は前線への一本。なかなか難しいところだ。

図8

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止める、蹴る、外すではなく、立ち位置を選んだ川崎

 後半、特に2点目が入った後から、ベガルタは5-3-2でローブロックを組む。フロンターレのボール保持時間が長くなったひとつの理由だ。フロンターレは、5-3-2攻略の定石型、2と3の脇のスペースでボールを持つこと、サイドでオーバーロードして人海守備を破綻させること。特に左サイドを徹底的に突く。中村が3センターの脇で受け、マギーニョがウィングロール、家長がハーフレーンに。そこにプラスワンされることで、ベガルタ守備陣を過負荷状態にした。

 ではサッカーの要諦、ローポスト攻略はどうだったか。答えは否。2点とも、ボックスに入るまえに中央、クロスとなっている。ポジショナルプレーが負荷を下げても優位に立ち、負荷を上げることで相手の追従を許さない無慈悲なやり方だとすると、どこで負荷を受け入れるのかがフロンターレにとって重要だった。それが風間八宏監督時代は、止めるであり蹴るであり、そして外すだった。一人が相手を1人、2人と外していく。正確に止め、次のプレーにシームレスに移れるよう蹴ることで、相手を圧倒した。もちろん、技術難度は高い。難度が高い故に高負荷の状態でもプレーできてしまう、あえて難しいことをする、がんばってしまうのが我々日本人の良いところでもあり悪いところでもあるのだけれど、いずれにせよ、どこかで負荷を受け入れなければいけない。サッカーはそんな神々の戦いになりつつある。

 そんな与太話はさておき。この試合のフロンターレの立ち位置攻撃はほぼ完ぺきだった。ベガルタの守備時に選択と負荷を与えるのには、十分だった。ただその先が分からなかった。だから、レアンドロダミアン、齋藤学で質増しして強引に外すことを期待したのかもしれないのだけれど、時間が短いこともあるし、立ち位置の波間に消えてってしまった。ベガルタの5-3-2が初めから5レーンと中央3レーンを埋めることで、相手が使いたい立ち位置を先に使ったのは意外と良手だったのかもしれない。

 この先フロンターレが進む道が正しいのかどうかは分からない。僕が語る話でもないと思う。きっと正義なんて無いんだろうと思う。ちなみに田中碧は凄かった。マークもプレスも決闘もかわすエルマタドール。田中碧がボールが来た方向とは遠い足でトラップすることで、ベガルタのマークを外していたのが、もしかしたらヒントかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 

考察

格の違いに挑み続けた90分間

 5-3-2と聞けば、相手対策を重視した我慢のサッカーになりがちだった。それがこれほどまでに、攻撃的で戦術的に戦い続けたことはひとつの成長だと思う。いかに得点に繋がるプレーをし続けたか?信じて続けられますか?を自分たちに問い続けながら戦った。それでも同点にしてしまうフロンターレはやはり強い。格が違う。いかにして逃げ切るか、勝ち切るのか、苦しくても点数を取るか。どうすれば彼らを振り切れるのか。答えを見つけるには、挑み続けるしかない。 

おわりに

  首位決戦でもない。残留争いでもない。それでも、これほど勝利のために戦い続けたチームに祝福があるべきだし、サッカーとは元来そういうものだと思う。お互いに戦う理由がある。正面から向かいあい決闘した。コンコースに混じり合うベガルタサポーターとフロンターレサポーター。お互い勝利を目指すから、真剣に戦うからこそ、この光景がなおいっそう光り輝いて見える。

 

 「撃て 臆病者!撃て!(C'moooon! )」こう言ったのは、ラリー・フォルク(pixy)だ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html