蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【ただ進んでゆけ】Jリーグ 第24節 ベガルタ仙台vs湘南ベルマーレ (1-1)

はじめに

 さて、いきましょうか。ホーム湘南戦のゲーム分析。決戦の幕が上がった。監督がいなくとも戦う魂とスタイルを引き下げユアスタに乗り込む湘南ベルマーレ。これを迎え撃つ渡邉ベガルタに、ケガから帰ってきた戦士が急先鋒となる。いわばこれは、誰と戦い、どの舞台で戦うかを決める戦い。幾千もの生まれ変わりを経て、長いキックを蹴る先に見える世界とは。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。前節負傷した関口に代わり、左SHに名乗りを上げたのはジャメ。湘南の攻め上がり、激しい守備の後ろを狙う役割だ。

 さて湘南。監督の不在でもスタイルは継続。これがこのチームの強さ。ルヴァン杯優勝チーム相手に通用する、勝てるチームかどうかを試したい。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

湘南のセットディフェンス

  ベガルタのセットオフェンスは、いつものトムキャット型4-4-2。左SHに入ったジャメが相手WB背後とハーフディフェンダー脇を狙う形。理想は、前節川崎戦の先制点のシーン。ファイナルラインからスペースと時間を直接前線に届けることができれば理想的だ。ポジショナルプレーの要諦、自分たちの負荷を極力下げて優位性を生み出す。そして遠くを見る。遠くが空いてなければ近くを空けるといった具合だ。

 湘南は5-2-3を対抗型に採用。3-4-2-1からの派生で、5-4-1、5-3-2にも変形できる形。いずれにせよ、5バック系のチームだ。それぞれユニットごとで役割をもっており、そのユニットが訪問販売の営業マンのようにそれぞれのエリア担当を割り振られており、構造で迎撃する形をとっている。

 前線のFW-CHの3-2、WBの2、CBの3がユニットを組んで守っていた。もちろん、どのユニットも、守備のプレー原則は前に激しく、そのエリアでは好きにさせないといったものだ。信念。だから、ある意味、ベガルタがトムキャット可変をしようがそのエリア内に入って来た相手を倒す形になる。しかも、中央3レーンへの警戒レベルが非常に固く、後述するのだけれど、5-4-1と形が変わってもそれは変わらなかった。これも信念。

図1

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図2

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 イメージは、図1、図2のようなイメージ。中央は五角形、サイドは長方形に、最終ラインは3CBがはね返す。シャドー2人がハーフレーンを封鎖しつつ、シマオ、平岡の2CBにプレッシャーをかける。ベガルタは、中央3レーンへのパスだったり、CHへの誘き出しパスがほぼ皆無なので、守る側としては非常に楽だったと思う。特にルックアップさせる時間を与えなければ、致命的なファイナルラインへのパスは出ないといった感じで、強く当たってきた。

ジャーメイン良という翼

 ではベガルタのポジショナルアタック。この試合の注目ポイントは、もちろん左ウィングのジャメ。湘南の守備の仕組みを逆手にとり、WBが永戸を迎撃にくるタイミング、3CBが中央を固めるタイミングを見極め、その隙間に雷撃のように縦にランニングするのが狙いだ。いわゆる、SB-CB間へのラン、チャンネルランというやつだ。カットアウトと呼んだ方が分かりやすいかもしれない。相手CHが引っ張られれば、中央3レーンを解放できるし、3CBの一角がくれば、長沢、石原先生が解放される。

 このジャメの一手というのは、非常に効果的な一手になる可能性がある。パスを繋ぐことがポジショナルの要諦ではない。いかに、こちらの労力を減らして、敵に致命的な一撃を与えられるのか。そのためにどこで数増しするのか、質勝ちするのか、位置優位取るのかを考えることが重要だ。このジャメのカットアウトランも、ジャメのスピードと永戸や長沢、石原先生の位置を活かして生みだしたものだ。ジャメをつかってよし。FWに放り込んでよし。逆サイドのステルスミチを使ってヨシ。何も目の前に立ちはだかる壁を壊したり、乗り越えなくてよい。

図3

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 ただ、ジャメ本人が初めてやるポジションと言ったり、渡邉監督が居心地悪いと認めたように、付け焼刃感はあった。ジャメ本人の精度もあるが、カットアウトしてほしいところを躊躇して永戸に近寄ったり、ジャメが空けたスペースを誰かが使うとか、個人においても組織においても連動しているようにはあまり見えなかった。

 相手の陣形が崩れた状態でボールを持つポジティブトランジションにおいても、たしかに左サイドを徹底的に狙われたため、その背後を突くことは容易ではあったのだけれど、結局、永戸がルックアップ即クロスチャレンジしたり、自陣におびき寄せて背後を刺すようなシーンはあまりなかったように見える。

立ち位置変更とゾーン守備で対抗する湘南と変わらないベガルタ

 湘南は、後半入ったあたりから立ち位置を変えている。無理やり電話番号をたたくなら5-4-1ぽい。どちらかというと、担当エリアにエリア担当者の配置転換をしただけだ。サイドの守備を2人にして、ジャメやミチ、FWの飛び出しをケアしてきた。

図4

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 その代わりに、中央の五角形は消えるのだけれど、ゾーン守備の鎖理論が発動。2CH+SHが差金の形をつくり、中央3レーンの監視を継続した。背後のスペースを消し、中盤は連携で封鎖。こうなると、今のチームでは中央にパスを打ち込んで鎖を絶つプレーが圧倒的に少ないので、CBを経由して逆サイドのSBにボールが回る寸法だ。その間に湘南は、ブロックラインをラインアップさせ、前線へのプレスに移行し、ビルドアップ妨害へと可変していった。これはなかなかに練度が高い。

図5

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ロングキックを蹴ることについて

 「長いキック」「ロングキック」といっても色々ある。レイヤースキップパスなのか、2レイヤースキップパスなのか、テレポートパスなのか、キックアンドラッシュなのか、イングランドなのか、ストークなのか多種多様だ。

 当然、ボールを持ったらまず遠くのスペースに素早く出すのが最優先だ。でもそれが難しいなら、前線に飛び出した選手が空けたスペースを使うとか、ボールを持って持ち上がるとか、もっとサッカーを自由にやっていいはずだと思う。多分。サッカーとサッカーをしたいのか、サッカーにサッカーをさせられたいのか。問われているような気もするし、しない気もする。

 あとそのロングキック、効果的ですか?何のために蹴ってますか?という話だし、8mのパスは大事に蹴るのに、どうして距離が長くなると繋がらなくても良いロジックになってしまうのだろう。トライするなかで、精度を上げるなかでの失敗なら歓迎だ。むしろ成功するまで失敗しよう。それを続けて、あの春先の躓きから立ち上がったその時から続けているのだけれど、一向に攻撃にならない。立ち位置勝ちできない、しない理由に使っていないかい。やるなら徹底的に。誰が何と言おうと。冷酷にやり続けるべきだ。これは、ポジショナルだろうが、カウンターだろうが関係ない。 

ボール非保持時

ひとにつく4-4-2を先鋭化させましょう

 コントラストで、ベガルタの守備は非常にひとに、というかボールによくつく守備だなと感じる。だからダメとは言わない。ゾーン守備なんて、Jリーグで実現できるチームの方が少ないし、欧州だって、きちんとしてるチームが強いのであって、そのほかの星の数ほどあるチームの守備については僕たちは恐ろしいほどに無関心だ。そうではなくて、自分たちができることをきちんと自覚したうえで、やりぬいてますかという話だ。シマオが潰す、クヴァ様が止める、それで良いじゃないか。でも、それだけでは厳しいので、切替の速さと球際の激しさ、つまりは無秩序状態で確固たる目的をもってプレーできることを渡邉監督は求めている。ここを突き詰めましょう。湘南から得た教訓は、監督が去った後に実現できるのが、スタイルなんだと。

考察

細かな部分についてもっとできること

 ジャメやミチがカットアウトで抜けるラン、チャンネルランとかパラレラとか言われるものなのだけれど、結局それが単発で終わっているのがなんだかなあって感じだ。ゴール前で池の鯉のようにクロスを待つのではなく、一人ぐらいは、彼らが空けたスペースを使って、もう一回相手DFを引き寄せて、裏を使う、ジャメやミチに死んだはずのパスレーンを使ってローポスト突撃させてあげるとかあるはずなのだけれど。今のベガルタの攻撃でとても気になるのは、2人称の崩しが多いこと。SBからウィング、ウィングからFWのように。もちろん、CBからFWがあるので、それは有効なのだけれど、敵陣に飛び込んだからには、あの手この手で崩す必要がある。

賢攻

 チームとしてやるべきこと、監督からの指示、これは守る必要がある。チームだから。でも、走っていてたら目の前の橋が落ちて、対岸に渡れなくなっても走り続けるのか。少し止まってもいいし、走りながら考えたっていい。そのまま、落ちていく、落ちたら気づくなんてことないようにしてほしい。ただ、一番怖いのは、対岸に渡るという目標が無いこと。去年からの西村が去った後のファイナルサード攻略問題にも通ずる気がする。気がするだけ。 

おわりに

 なぜ勝てなかったんだろう。試合が終わって、時間が経つごとにその思いが大きくなる。そしてそれは、試合を見直すほどに、湘南のほうがより当てはまることが分かってきた。悔しさが切なさに変わった。別に悲観はしていないし、絶望も全くしていない。そんなものは棺桶に入ってからするべきだ。サッカーを通して、何を表現して、何を実現して、どうなりたいのか。ベガルタというチームから、輝かしいほどに発信されてきたメッセージ。今そのメッセージは、僕たちからチームに届けるべきなのかもしれない。 そのぐらいにチームは、理想と現実の狭間で揺れ動いているのかもしれない。勝つための今のスタイルなのか、積み上げてきたスタイルなのか。

 多分僕は優しすぎる。クヴァがセーブできなかったことを責めることができず、クヴァ様クヴァ様と連呼している。同点に追いつかれたチームを責められない。勝てるチーム、タイトルを取るチーム、格が違うチームは、勝てなかったことを責めるだろうし、なぜ勝てなかったかを徹底的に追及する。理想?現実?狭間?そんなのもののために割く時間はない、そして次勝つためのことを淡々とするといった感じで。勝てるやり方なら全部やればいい。それならそれでいい。僕はもう一度、ベガルタというチームからの意思を決断を聞きたいのかもしれない。まだ、決戦は始まったばかり。

 

 「死を恐れるな。死はいつもそばにいる。恐れを見せた途端、それは光よりも早く飛びかかってくるだろう。恐れなければ、それはただ優しく見守っているだけだ」こう言ったのは、ラフィング・ブルだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html