蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

完全蹴球2日制 #3

プリン

 

01

「のう?」

「なんだよ」

「おぬし、わしに隠し事をしておろう。正直に申してみよ」

「ねーよ。別にお前に隠すことなんて、特に無いだろ」

「嘘を言うでない。わしには分かるのだぞ?わしに黙って、あるものを手に入れているのは」

「は?昨日買った『ジャンポ』、お前も読みたかったのか」

「違う違う。はぐらかしても無駄じゃぞ。わしとおぬしの仲。そのような白々しさ程度で、わしの追及をかわせるとでも思っておるのか」

「だから、何もねーって。お前の方こそ、一体僕が何を隠してるのか、見当くらいはついているんだろう?言ってみろよ」

「ならば言わせてもらうぞ。あの白く冷徹なまでに冷たい箱に、太陽よりも輝く黄金を見事なまでに隠しておろう?」

その白く、冷たい、つまりは、冷蔵庫のことなのだけれど、それを指さして言う。

「黄金?」

「そうじゃ」

「黄金……あー、プリンのことか」

 

02

「そう!!それじゃ!!その魅惑的な響きのやつじゃ!!」

「別に隠してなんかいねーよ。おやつの時間になったら、お前と食べようと思ってたよ」

「むー。それならそうと早くそう申せ!その、『おやつの時間』とやらが、どうやらお前たち日本人にとって重要な時間のようじゃが、わしにとってはどうでもよいのじゃ」

「わりと世界共通のような気もするが。気がするだけか」

「のうのう!そのプリンとやら、どのような食べ物なのじゃ?」

「どうって、甘くてぷるぷるしてて……」

「うんうん!」

「まあ……甘いおやつだな」

我ながら酷い説明だ。だけどこの幼女狐妖怪にとってはそれで充分だったらしい。

「なんと!!!そのような魅惑的な食べ物をなぜ早くわしに食べさせなかった?危うく食べ逃すところじゃったわ」

「たまたまだよ」

そのまま立ち上がり、冷たい白い箱から、黄金のぷるぷるを取り出す。

「ほら」

 

03

「おーーーー!!!」

一心不乱に食べる。

「うまいか?」

満面の笑みしか返ってこなかった。

「よかった」

「のう?おぬしはよかったのか?」

「ん?ああ、僕はいいんだよ。まあ本当は食べようかと思って買ったけれど、そんな気分じゃなくなったし。何よりお前がそんなに食べたいなら、取り上げるわけにはいかないだろ」

「なんじゃ。おぬしの『甘いものは食べない』というやつか」

「まあ、今の僕には関係ないんだけれど」

「『サッカー』とやらには甘いものは厳禁なのだろう?なんとまあ、軽薄な競技じゃ。少しくらい食べたって罰はあたりはせんじゃろ」

「…ま、そうだな」

「それにおぬしはもうそのサッカーとやらを辞めたと言っておったじゃないか。ならもう食べてもよかろう」

「まー、そうなんだけれどな。何というか、習慣というか、気が引けると言うか」

「ふむ…歯切れの悪い。未練があるなら、後悔のないようやり切ってみたらどうじゃ」

「うん。もういいんだ。僕にとって、サッカーはもう『やる』ものじゃなくなったから」

 

04

「フン」

「ん?」

「わしには隠し事はできぬと言うたであろうが」

「なんのことだよ」

「おぬしにはまだまだ未練と後悔が残っておる。それはわしでなくても、下界の人間どもにだって察知できるであろう」

「……」

「もう一度やることは叶わぬのか?『その足』はもう、サッカーとやらが出来ぬと言っているのか?」

「ああ。お前の言う通り、僕のこのどうにもならない足のせいで、サッカーができないことに対して、未練と後悔があるのかもしれないけれど、でもそれも含めて『もういいんだ』」

「……わしなら、その程度のケガぐらい直してやらんことはないぞ」

「…!」

「わしとおぬしの仲じゃ。特別にタダでやってやっても構わん。この美味なるプリンとやらを教えてくれたしのう」

「いやいい」

「……ほう?」

「もうやるのはいいから、ゆっくり『観れた』ら、今はそれでいいんだ」

「そうか……」

「ありがとうな」

「べ、別に、今は特別に、そう特別に気分がいいから提案してやったまで!!このような機会はそうそうあると思うなよ!!」

「分かってるよ。それでもいいさ」

残りのひとかけを口に。

「あ!!!」

「やっぱり久しぶりに食べたけれどうまいな。結構プリン好きだったんだよな」

「お・の・れ………!」

「ん?」

「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」

紅い眼が光る。

「お、おいやめろ!!うわっ―――」