プリン
01
「のう?」
「なんだよ」
「おぬし、わしに隠し事をしておろう。正直に申してみよ」
「ねーよ。別にお前に隠すことなんて、特に無いだろ」
「嘘を言うでない。わしには分かるのだぞ?わしに黙って、あるものを手に入れているのは」
「は?昨日買った『ジャンポ』、お前も読みたかったのか」
「違う違う。はぐらかしても無駄じゃぞ。わしとおぬしの仲。そのような白々しさ程度で、わしの追及をかわせるとでも思っておるのか」
「だから、何もねーって。お前の方こそ、一体僕が何を隠してるのか、見当くらいはついているんだろう?言ってみろよ」
「ならば言わせてもらうぞ。あの白く冷徹なまでに冷たい箱に、太陽よりも輝く黄金を見事なまでに隠しておろう?」
その白く、冷たい、つまりは、冷蔵庫のことなのだけれど、それを指さして言う。
「黄金?」
「そうじゃ」
「黄金……あー、プリンのことか」
02
「そう!!それじゃ!!その魅惑的な響きのやつじゃ!!」
「別に隠してなんかいねーよ。おやつの時間になったら、お前と食べようと思ってたよ」
「むー。それならそうと早くそう申せ!その、『おやつの時間』とやらが、どうやらお前たち日本人にとって重要な時間のようじゃが、わしにとってはどうでもよいのじゃ」
「わりと世界共通のような気もするが。気がするだけか」
「のうのう!そのプリンとやら、どのような食べ物なのじゃ?」
「どうって、甘くてぷるぷるしてて……」
「うんうん!」
「まあ……甘いおやつだな」
我ながら酷い説明だ。だけどこの幼女狐妖怪にとってはそれで充分だったらしい。
「なんと!!!そのような魅惑的な食べ物をなぜ早くわしに食べさせなかった?危うく食べ逃すところじゃったわ」
「たまたまだよ」
そのまま立ち上がり、冷たい白い箱から、黄金のぷるぷるを取り出す。
「ほら」
03
「おーーーー!!!」
一心不乱に食べる。
「うまいか?」
満面の笑みしか返ってこなかった。
「よかった」
「のう?おぬしはよかったのか?」
「ん?ああ、僕はいいんだよ。まあ本当は食べようかと思って買ったけれど、そんな気分じゃなくなったし。何よりお前がそんなに食べたいなら、取り上げるわけにはいかないだろ」
「なんじゃ。おぬしの『甘いものは食べない』というやつか」
「まあ、今の僕には関係ないんだけれど」
「『サッカー』とやらには甘いものは厳禁なのだろう?なんとまあ、軽薄な競技じゃ。少しくらい食べたって罰はあたりはせんじゃろ」
「…ま、そうだな」
「それにおぬしはもうそのサッカーとやらを辞めたと言っておったじゃないか。ならもう食べてもよかろう」
「まー、そうなんだけれどな。何というか、習慣というか、気が引けると言うか」
「ふむ…歯切れの悪い。未練があるなら、後悔のないようやり切ってみたらどうじゃ」
「うん。もういいんだ。僕にとって、サッカーはもう『やる』ものじゃなくなったから」
04
「フン」
「ん?」
「わしには隠し事はできぬと言うたであろうが」
「なんのことだよ」
「おぬしにはまだまだ未練と後悔が残っておる。それはわしでなくても、下界の人間どもにだって察知できるであろう」
「……」
「もう一度やることは叶わぬのか?『その足』はもう、サッカーとやらが出来ぬと言っているのか?」
「ああ。お前の言う通り、僕のこのどうにもならない足のせいで、サッカーができないことに対して、未練と後悔があるのかもしれないけれど、でもそれも含めて『もういいんだ』」
「……わしなら、その程度のケガぐらい直してやらんことはないぞ」
「…!」
「わしとおぬしの仲じゃ。特別にタダでやってやっても構わん。この美味なるプリンとやらを教えてくれたしのう」
「いやいい」
「……ほう?」
「もうやるのはいいから、ゆっくり『観れた』ら、今はそれでいいんだ」
「そうか……」
「ありがとうな」
「べ、別に、今は特別に、そう特別に気分がいいから提案してやったまで!!このような機会はそうそうあると思うなよ!!」
「分かってるよ。それでもいいさ」
残りのひとかけを口に。
「あ!!!」
「やっぱり久しぶりに食べたけれどうまいな。結構プリン好きだったんだよな」
「お・の・れ………!」
「ん?」
「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」
紅い眼が光る。
「お、おいやめろ!!うわっ―――」