「最後の問題」
僕は、少し急いでいた。
詩や李七、東照宮たちが、楽しい楽しいサッカー話をしていると言うのに。
もう少しで、僕たちの高校生活が終わる。
この道も、風景も、いつか昔の思い出となっていましまう。
僕、国府多賀城 朗は、無事に大学受験を合格という形で終え、何の憂いもなく卒業式に臨むのだけれど、3月9日の卒業式前に少し、感傷に浸ってしまった。
悔いはない。
けれど、この機会が唯一の悔いになるかもしれない。
詩はともかく、李七や東照宮にも用事があるのだろうしこの時間を大事にしたい。
その時、僕は二度、その人を見てしまった。
紅い鮮やかな髪。
紅い眼。
僕は、その人に見覚えがあった。
「あ……」
つい、声が出る。
その人が僕に近づいて来るのだから。
そして、僕の前で止まる。
「あ、あ、あの…」
「お……」
「お……?」
「お前が国府多賀城 朗か?」
どうして、僕の名前を知っているんだ。
どうして、僕だと分かった?
「ええ、そうですけれど。」
僕は、この人を知っている。
だから、答えた。
「お前を探していた。」
探していた?僕を?なぜ?
「あ、あの、もしかして、人違いでしたらすみません。」
確信があった。
「榴ケ岡 神奈子さん、ですよね?Foot Lab副編集長の。」
だって、雑誌の対談を読んだから。
「ああ、そうだ。」
「ああやっぱり!あの、Foot Lab毎月読んでます!まさか、こんな形で出会えるとは!」
まさかこんなところで本人に会えるなんて。
「あ、えーっと、どうして僕を探していたんです?何か用事でも…」
思い当たることはない。
「もしかして、紙面オファーですか!なんかのきっかけで僕のブログが読まれてそれで…。」
「宮城野原 詩を探している。どこだ。案内しろ。」
え?
この人は、今、詩の名前を。
「お前、同級生なんだろ?連絡先ぐらい知らないのか?じゃなきゃ知ってる奴を教えろ。私は、あいつに用がある。」
榴ケ岡さんが詩に用がある…
どうして?
「いや、あの、知っていますけれど…。」
「なんだあ?知らない大人には、教えられないってのか?これだから最近の高校生ってやつは…。」
「ああ、いや、そういうわけじゃあ…。」
名刺。
大人と大人とが交わす、挨拶。
「ほら名刺だ。それでいいだろ。それを宮城野原に渡しておけ。」
分からない。
名刺を出すほどに探す理由が。
「あの…どうして、詩に何の用が…。」
「お前は、聞かない方が身のためだと思うけどな。」
どういうことだ。
どうして、榴ケ岡さんが詩を探している理由を聞かないことが、僕のためになるというんだ。
「いえ、一応理由を聞かせてください。本人の連絡も、本人への案内もそれで決めたいですし。」
「チッ…しょうがねえなあ…。」
僕は、その後の会話をあまりよく覚えてはいない。
ただひとつ、特段覚えていることと言えば、その話は僕にとって悔いが残る話だったことだ。
神との戦い
「じゃあ、また卒業式で会いましょう。」
「それまで風邪引くんじゃないわよ!」
「宮城野原先輩、今日はありがとうございました。」
別れ。
スマホに通知。
「(朗から…学校の正門で待ってて…?)」
数分後。
紅い神とともに現れる。ひとりの少年。
「朗……!」
喋らない。
どうしてか、彼は一言も発しない。
近づく、紅い神。
「あの…どちら様でしょうか。」
「私は、Foot Lab副編集長の榴ケ岡 神奈子だ。宮城野原 詩だな?」
「ええ、そうですけれど…。」
「単刀直入に言う。お前、ライターになれ。じゃなきゃ何でもいい。物書きやれ。」
人物紹介
宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタクなのは隠している。観る将。重力少女。
黒髪、肩ぐらいまで伸びた髪は変わらず。
八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。見る将。マンチェスター・ユナイテッドファン。金色少女。
金髪ツインテール。 赤いリボンは変わらず。
東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生
サッカーオタク。観る将。不敵少女。
高身長。一人称が僕。髪は肩ぐらいまで伸び始める。
国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。
榴ケ岡 神奈子 (つつじがおか かなこ)
Foot Lab副編集長。
紅い髪の女。