玄関の戦い
とりあえず、玄関に座って、校庭を眺めながら。
「それで、何を話したいって言うんだよ東照宮。」
少し苛立ちながら。
警戒しながら問う。
その質問を待っていたかのように、これもまた不敵に答える。
「そうですね。では、僕がどれだけ、朗さんのことを愛しているのかについてから、紐解いていきましょうか。」
動揺走る。
「ち、ちち、ちょっと!!!その返答しにくい問いかけはやめロッテ!!!」
「いいじゃないですか。どれだけ朗さんが宮城野原さんのことが大好きで、毎晩毎晩激しく愛し合っていようと、それほど気にもなりませんよ。」
「そのオブラートに包んでるのか包んでいないのか分からない表現を今すぐにでも止めるんだ。」
包まれていない。
赤裸々に、白々しく、堂々と。
話す。
「それか、幼馴染として、お互いの身も、心も、裸も知った八乙女さんとウェイン・ルーニーのシュートを食らい続ける遊びをしようとも、僕にとっては、そこまで魅力的ではないですから。どうぞご自由されたらいいと思います。」
「裸は知らないからな。でも、ルーニーのシュートは受けてみたい気もする…」
受けたいんかい。
「相変わらずの変態さんですね朗さん。そういうところも、僕、大好きですよ。」
ボールを繋ぐ意味とは
「で、本題は…」
「おっと、これはいけない。あやうく忘れるところでしたよ。見出しでいい感じに転換が入っていた間に、すっかり僕は脳髄を溶かされてしまうほどの愛情表現を朗さんから受けていたものですから。そう、生まれてからの記憶がすべて吹き飛んでしまうほどに。」
「もうツッコまないからな。あと見出しとか転換とかもよく分からないってことでいいね?」
あまりこっちに触れるな。
「ビルドアップ。しかも、自陣でゴールキーパーを含めたビルドアップについてです。」
「えー、そんなの僕に分かるのか…」
「大丈夫ですよ。朗さんは、僕なんかよりも、よっぽどサッカーについて詳しいと思うので。それと、ある程度は、僕の方から話を進めていくのでご安心ください。
「まあ、それなら助かる。」
「朗さん的にも、読者の皆さん的にも、僕という『新しく出てきたキャラクターがどんな感じなのか?』を掴むのに、良いきっかけになるんじゃないかって思うんです。」
「ツッコんだら負け、ツッコんだら負け、ツッコんだら負け…」
メタメタしく。
恥じらいなく。
臆することなく。
不敵に、話す。
「そうですね、この現象を言語化するなら『へー新キャラってこんな感じなんだ理論』ですね。」
全く意味不明。
「その妙な理論については、全力をもってスルーするとして。それでその、ビルドアップ?の何を話すの?」
「ゴールキックにおいて、ゴールキーパーは、ボールをセンターバックやセントラルハーフにパスで繋ぐことなんて、まあごく普通にありますよね?」
「ああ、普通にあるな。」
「不用意にボールを蹴って、相手に取られるくらいなら、自陣からきっちり味方に繋いでいく。この一見すると健気な行為が、非常にリスクを伴ったプレーだというのは、想像に難くないと思います。ですよね朗さん?」
「まあな。自分たちのゴール前で繋ぐんだから、ミスったら相手にボールを奪われてゴールまで一直線だもんな。守備だって整ってわけだし。」
「お察しの通りです。僕たちがボールを持っていない側なら、相手がゴール前でちまちまボールを回していようものなら、狂犬となって、ケルベロスとなって、獰猛にハンティングすると思うんですよ。そう、朗さんが宮城野原さんをハントしたように…」
「そ、それとこれとは話が全く違うと思うんだ!!!」
ハンティングされかけた。
「ま、僕は、そんな朗さんが好きですよ。そういう好きなものに一直線になる姿、とても朗さんらしくて良いと思うんです。」
「お、おう。なんというかリアクションには困るんだけどな…褒め言葉として受け取っておくよ…」
褒められてるのか?
「それでも、自陣でゴールキーパーからボールを繋いでいくメリットって、一体なんなんだと思います?」
いきなりくる。
確信を突くかのような質問。
攻めっぱなし。
「え……えっと、そうだな…」
「分からないですか?大丈夫ですよ。僕が教えてさしあげますから。そうですね、たとえば、口移しとかで。」
「いいから普通に教えてよ!!」
「ふふふ、そう慌てないでください。相手がプレスをかけてきても、それでもゴールキーパーからボールを繋ぐ利点。それは、ビルドアップする側がプレスする側に対して、『初めから人数で勝ってるから』なんですよ。」
「え…それってどういう…」
「『数的優位性』ってやつですよ。どうです?ご存知でしたか?」
そう彼女は、不敵に微笑んだ。
人物紹介
東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生
サッカーオタク?観る将?
高身長にショートヘアで一人称が僕。男女問わずの人気がある。不敵な女。
国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。
いつのまにかつかさと顔見知りに。口調や態度から少し苦手にしている。