蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。朗らかな戦い編

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散歩、散歩、私は元気

年が明けた1月2日。

受験、真っ只中である。

晦日も、正月も、すべてを受験勉強に捧げた僕は、外界に出ていた。

といっても、人混みに出ることは厳に、慎むべきである。

自らが風邪やインフルエンザの類にかかることも、かかって誰かにうつすことも許されないのである。

まさに、文字通りに、四六時中家のなかに籠って勉強をしようものなら、至極、これも至極当然に外の空気とやらを吸いたくなるのである。

まるで、囚人のように。

試験の囚人。

 

「おや?」

 

人気のない、正月三が日の神杉高校前から勾当台公園への道で出会うのである。

少年。

いや、高身長の少女に。

 

「ん?」

「これはこれは。朗先輩ではないですか。」

 

これは、ある正月休みの国府多賀城朗の問いへ問いかける与太話である。

 

「よう、東照宮。どうしたんだよ、こんなところで…」

参拝を終えた感丸出し。

いわゆる、初詣である。

黒い着物に身を包んだ彼女はたしかに、綺麗だ。

黒が高い背をより綺麗に見せている。

「どうしました朗先輩。もしかして綺麗すぎて声も出ないってやつですか?」

「え、あ、いやそれは…」

これはまずい。

直視は毒だ。

恋をしてしまう。

「いいんですよ?今日ぐらいしか見れないでしょうから。存分に舐めまわしてください。」

「し、し、新年から変態にしようとするの止めてもらっていいでしょうか東照宮後輩!」

 

「ふふふ。そういえばこんなところでどうしたんですか朗先輩。まあ、おおかた、プリズンブレイクしてきたのだと予想しますけれど。」

「他人を脱獄犯みたいな言い方は止めるんだ。」

「ではこれはどうでしょう?受験戦争に疲れ、すべてを投げうって外の世界に飛び出した朗先輩。そんな悲痛に暮れる朗先輩は、ひとりの少女と運命的な出会いを果たす。そして少女は言う『私と世界を救ってほしい』、と…」

「いやこれ世界系ラノベでも、異世界モノでもないから!変なモノローグ挟まないで!」

「おやおや。僕の推測が珍しく外れてしまうとは。」

「全然珍しくもないけどな!」

「しばらく朗先輩に会わなかっただけだというのにこの体たらく。これは、とても悲しいことです。ね、そうでしょう?」

相変わらずとんでもない少女である。

「いやいや、散歩したくてこの辺を歩いていたんだよ。」

 

引っ掛かり。

「『散歩をしたくて』…ですか?」

その言葉を逃すほど、彼女は錆びていない。

 

「ああ。ちょっと散歩したくて歩いてたんだ。」

「朗先輩、本当に散歩したかったのですか?」

「そうだよ。散歩したかったんだ。」

「本当に?」

 

「本当だよ。まさか僕を疑ってるのか?まあたしかに、現実逃避だとか言われたらそうかもしれないのだけれど、僕だってさすがに、目が覚めている時間はずっと勉強だと気疲れするし集中だって持たないよ。」

「いえ、ごめんなさい。どうやら勘違いさせてしまったようですね朗先輩。」

「勘違い?」

「ええ、勘違い。場違い。段違い。」

段違い?

平行棒か?

見当違い。

「僕が気になったのは、果たして朗先輩は本当に、散歩を目的として散歩をしているのかと思っただけですよ。」

「はい?」

「つまり、結論から言うと、いえ仮説と言うべきですか、『散歩という目的はこの世に存在しない。単なる行為であり、本来の目的は別にある』、ということです。」

普段何を考えていたらこんな仮説が思いつくのか。

感心してしまった。

「でも、僕はこうして散歩したくて散歩しているぞ。これはどう説明するつもりなんだ東照宮。」

それを聞くと彼女は微笑んだ。

不敵に。

 

「では、順を追って説明していきましょう。朗さん、単刀直入に聞きます。散歩は、何ができたら散歩として成立すると思います?」

さっそくついていけていない。

「?」

「物事には、目的があるのなら目標がある。目標があるのなら、それを達成するための手段がある。そして、目標を達成しているかを確認する評価がある。これは分かりますよね?」

「まあ、なんとなく。受験勉強に置き換えると分かりやすいな。」

「そうですね。大学に合格するという目的。〇〇点を取るという目標。参考書や問題集を使うという手段。実力を測るための試験。そのすべてに意味があり、繋がっています。」

「そうだな。」

「では、散歩はどうでしょう?散歩という目的を達成するために、何を目標とするのでしょうか?あるいは何を用いるのでしょう?」

「それは…」

「おそらくですが、いえこれは推測ですが、僕の問に対して朗先輩の頭の中はきっと、『散歩に出る前の自分』を思い出していたのではないでしょうか。」

「おお…まさしくそうだよ。よく分かったな…」

「やはりですね。僕は、朗先輩のことならすべてを熟知しています。どんなに厚着をしようが裸体にしか見えないのです。僕にとっては、ね?」

「ね?じゃねえよ!!!さらりと犯罪をほのめかすな!!!」

変態でしかない。

 

「朗先輩の想像、つまり前提は、散歩をする以前のことであって、僕が問いかけている散歩そのものの目的性であったり、目標については、ポッカリと抜けていたはずです。」

「たしかにそうだ…」

「それでは最初の問です。散歩の目的とは何なんでしょうか?何をしたら、散歩たらしめるのでしょうか?」

「…」

「分からないですか?ご安心を。いつものように、僕がレクチャーしてあげますよ朗先輩。朗先輩の頭のてっぺんからつま先まで舐め尽くした僕なら、すべてを捧げられますよ。」

「いつそんなことしたの??ねえ怒らないから教えて??」

一呼吸。

 

「朗先輩の最初にして最大の失敗は、『問に答えようとした』こと、ですよ。」

「?どういうことだ?」

何を言っているんだ。

問いは、答えるためにあるんじゃないか。

 

「朗先輩は、出題者である僕の問に忠実なまでに答えようとした…でもそれは、僕の出題が間違っていない前提です。出題者である僕を信じたこと…とでも言いますか。あなたを嵌めようした相手を信じてしまった…ここに落とし穴があるんですよ。」

「落とし穴…?」

「朗先輩は長引く受験戦争の末、出題者が絶対的な神様であることを前提に、いわば信仰して出題された問題を解いている。思考がそちらに偏っていても不思議ではない…」

なんだそれ。

受験信仰か?

いや、そんなことはどうでもいい。

 

「つまり、この場合、朗先輩が答えるべき正しい答えは、『散歩は目的ではなく手段』、ということです。」

「そ、そんなことなのか…?」

「おや?もしかして朗先輩は、大宇宙の発見みたいな答えを期待していたのですか?」

「いやだって東照宮が出題するなら、世界の理を突くような、それこそ森羅万象すべてを理解できるようなお手軽ウンチクかと思ったんだが。」

ちょっと期待しすぎたか。

「やれやれ。朗先輩、僕を買い被りすぎですよ。たとえ僕が森羅万象すべてを知っていたとしても、簡単に教えるわけないじゃないですか。」

「はいはい仲間外れですかそうですか。」

「少しずつ小出しにして、朗先輩から僕に近づこうと仕向けるに決まってるじゃないですか。」

抜け目ない。

やはり不敵か。

「いやそれ完全に罠だよねそれ!!!そうだよね!!!」

「まあ世紀の大発見なんてものは、過去の偉人たちが出し尽くしたので、残念ながら僕たちはその出し殻から学ぶしかないのですよ。朗先輩が今まさに取り組んでいるように。」

「それはそうか。というか、早く散歩の謎について教えてくれよ。これじゃモヤモヤのままで勉強に手が付かないじゃないか。」

「まったく。僕でそんなにムラムラしないでください。一応、先輩としてのなけなしの威厳を守ってください。それも無理なら、僕…がんばりますよ…!」

「ムラムラじゃくてモヤモヤだからね!!!」

 

「つまるところ、朗先輩は、気分転換がてら、リフレッシュがてら、ストレス解消がてら『散歩していた』のですよね?これはまさに、前者が目的であり、散歩はそれに付随する行為に過ぎないという決定的な証拠なんですよ。」

「…!」

「僕たちの生活のなかにあるあらゆる行動の選択肢。あらゆる優先順位。あらゆる目的。そのなかで、散歩のための散歩が果たしてあるのでしょうか?」

散歩のための散歩。

そうだ。

無い。

「そうですね。たしかにお爺ちゃんやお婆ちゃん達は、『散歩に行ってくる』と言って散歩に行きます。でも、本当に散歩のためでしょうか。おそらく違いますよね。ちょっとした運動がてら、気分を変えがてら、買い物がてら…」

がてら散歩。

がてらってなんだ。

いや、それはいい。

「先ほども言ったように、『散歩には何をしたら散歩』、『何が達成されたら散歩』が存在しない。これは見方を変えるのであれば、何をしていても散歩になるはずなんです。」

そんな欲張りセットみたいなことが許されるのか。

食いしん坊か。

「本人は、ただ河川敷や公園を歩くことを散歩している、散歩のために歩いていると言うかもしれない。百歩譲って、百万歩譲って、それが散歩のための散歩だとしても、散歩が何をもたらすのか。突き詰めれば、ダイエットだの、運動不足解消だの、リフレッシュのためだのと宣う。」

「宣うは少し言い過ぎなんじゃないか…」

いかん。

つい口に出てしまった。

宣ってしまった。

「つまりこれも、『ドーナッツの穴』と同じなんですよ。『散歩』と名付けるから散歩が存在する。目的は、本来果たしたい想いは、もっと別にあるというのに。」

本来果たしたい想い。

本当の目的。

こいつが言うとなかなかどうして重くなる。

「まあ要するに、東照宮が言いたいのは、『散歩は手段のひとつであって本来の目的にすり替えるな』ってことだな。いや、本来の目的を忘れるなってことか。」

「ご明察です。さすがは朗先輩、僕が愛する人。」

こいつの想いはどこにあるのやら。

「直球すぎて草すら生えんぞ。」

 

ここらあたりで、彼女の得意な口上<現象言語化論法>が来るのだけれど、彼女も変わっている。

成長している。

彼女は朗に、問いに対して、正確に答えることを要求される受験勉強的思考方法からの一時的な脱却を促したのである。

フランクに言えば、今回彼女が言いたかったことに準えて言えば、「息抜きがてら」頭の体操をしたというわけである。

 

「どうでしょう?絶対的な答えを尊崇し、出題者を神と崇める退屈な世界から少し抜け出せた気分は?」

「ああ、頭の体操になったよ。ありがとう東照宮。」

「そろそろ朗先輩を解放しないと、大真面目に受験に失敗してしまいかねないので、今日はこの辺で勘弁しておいてやります馬鹿野郎。」

「突然罵倒された!!??」

そんな趣味はない。

「本当は、もっともっともっともっともっともっと朗先輩と話したいし離したくないんですけれど。断腸の思いです。私の膵臓を食べてください。はい、あーん。」

これもそんな趣味はない。

「いらないから!!それに私って!!」

「いいじゃないですか。ケチ。朗先輩のドケチ。私が私って言うのレアだと思って受け取ってくださいよまったく。ケチケチケチケチケチケチ。」

「はいはい…」

「『はい』は、一回でいいんですよ朗先輩。習わなかったんですか?一体どんな高校に通っているのやら。」

「お前と同じ学校だよ!!!」

 

そういうやり取りをさらに何度か繰り返して、本当に解散した。

帰りに『Foot Lab』を買い忘れる僕ではない。

編集長の薬師堂さんと副編集長の榴ケ岡さんのサッカー対談なのだから。

随分と長い散歩になってしまった。

 

いや、散歩がてらの息抜きだった。 

 

人物紹介

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 神杉高校2年生。

 サッカーオタク。観る将。高身長で一人称が僕な不敵少女。

 おみくじは「小吉」だったらしい。 特に嬉しいも悲しいもなかった模様。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 神杉高校3年生。

 サッカーオタク。観る将。 受験勉強真っ最中(サッカー観戦も真っ最中)。

 

 

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