この素晴らしいサッカーに祝福を
「それではさらに進めてみましょう。フォワードが空けたスペースに、セントラルハーフが入る。これでどうでしょう」
「もう誰が誰についていった方がいいのか……」
「そして、これが守備側にとって最悪型です」
「うわ…DFラインを突破されちゃった……」
「こうやって、フォワード、ウィング、セントラルハーフによるダブルパンチで配置転換して、守備側が判断を間違えたら突破できる仕組みなんです」
「これどうやって守るのよ……」
「それが今回の問題というわけなんです。御前さん」
つとめて笑顔に。
でなければ釣り合わない問題。
気に食わない問題。
「そんな笑顔で言われても…実際に突破される可能性があるってことでしょ?どこを防いだら……」
「では、最初の盤面まで戻しましょうか」
「この場面、注目は左サイドハーフの位置です」
「位置?ここじゃダメだってこと?」
「いえ、そういうわけではないのですが、もっと内側に絞り込むべきでしょう」
「内側に?外にいるウィングはどうするの?」
「まあ落ち着いて聞いてください。サッカーにおいて、中央3レーンは非常に重要なエリアです。特に、ハーフスペースの攻防は、さらに厳しくなっています。そのハーフスペースを守るんです」
「ほ、ほう……」
「こうして、フォワードへの縦パスを防ぐ位置を取るんです」
「フォワードが降りた時は?セントラルハーフとの、その、『ダブルパンチ』ってやつが発動した時は?」
「そう焦らないでください御前さん。フォワードは、サイドハーフの目の前ですし、ゴールから遠くなったのですから、ボールが入ってからの対応でもいいです。セントラルハーフにこそ、縦にボールが入らないよう警戒するんです」
「な、なるほど。そうなると攻撃側としては、無理やりロングボール入れるのもどうかと思うし…空いてるウィングを使うのかな……?」
「ご明察です!御前さんにもまともな頭があることに、激しい感動を覚えていますよ!」
「アンタさらっとディすってんじゃないわよ!!」
つかさの刃
「ウィングにボールが出ることは織り込み済みです。今度こそ、サイドハーフがスライドして対応します。連動して、ライン全体は、後ろに下がることになりますが」
「なるほど!これで後ろを守れるのか!サイドバックが引っ張り出されることもなくなる!」
「ええ。だから僕は、この問題が気に食わないんです」
「え…?それってどういうこと?」
気に食わない。
答えも、証明も。
いやこれを問題と呼ぶべきなのか。
これは、いわば処刑台。
僕に負けを強いるための。
こんなことをよく考えつくものだ。
「答えは……」
戦術ボードにペンを走らせる。
想像はできていたが、本当にこんな答えになるとは。
書き終えると御前さんの顔は、青ざめていた。
『僕の負け。』
僕がこう書いたからだ。
人物紹介
東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)
神杉高校3年生。
サッカーオタク。観る将。
高身長。肩ぐらいまで伸びた髪をバレッタで束ねるスタイルに。
一人称は僕、一人の時と朗と話す時は私になる不敵少女。
佳景山 御前 (かけやま みさき)
神杉高校3年生。東照宮つかさの同級生。
自称永遠の宿敵<エターナルライバル>。
東照宮への対抗心、闘争心で勝負し超越したいと考える普通の宿敵少女。