終わりの序
急速に2学期が始まった。
夏での思い出は、またどこかで語られるだろう。
多分。
ありふれた放課後。あれほど長くなった陽も、心なしか夕暮れ時が早く訪れているかのようにも思える。
もちろんこの物語の主人公は、何も変わらず彼なのだけれど、今日は一人。
待つ。
彼女を。
そして、現れる。
ひとりの…
僕は、
「(詩、進路相談が長くなってるのか。)」
必然といえば必然。
建学以来、最高成績を収める少女が、地方の、いや東京のトップ大学ではなく、県内の平凡な大学に頑ななまでに行こうとしているのだから。
「(まあ無理もないか…)」
原因は君なんだけどね。
「あれ…?」
そして現れた。招かれざる客。
「あーやっぱり。朗さんじゃないですか。」
「ん?…」
「僕ですよ僕。お疲れさまです。」
「げっ…」
高身長。
黒のショートヘアがより似合うその少女はたしかに。
「いやだな、僕が挨拶しただけだというのに、何ですかその、ガムを踏んでしまったようなリアクションは。さすがの僕も傷つきますよ。朗さん。」
たしかに、一人称が僕なのだ。
「な、なんだよ…なんか用かよ…」
「 いやあ、この現象を言語化するのなら『ガムふんじゃったよ理論』ですね。」
口癖。
とんでもなく上手くない。
「僕が帰ろうとしたら、たまたま玄関口にいた朗さんを見かけたので、これもたまたま声をかけただけですよ。」
「あー…それは悪かったな…じ、じゃあお疲れ、また明日な…」
不敵な笑み。
「ちょっとつれないんじゃないですか?朗さん。それとも、宮城野原さんから他の女とは口を聞くなって言われてるんです?あとは、八乙女さんあたりが、いきなり突撃してくるとか。まあ、大体は察しがつくんですけどね。」
高い身長をかがめ、顔を、深淵を覗くように。
「ち、違うって!別にそういうのは無いから!」
「ふーん。じゃあ少しお話しましょうよ朗さん。」
「……お話?」
「僕は、朗さんと話がしたいんです。少しだけでも。ね?」
男女問わずの人気があるのも頷ける美少女。
いや、美少年と言うべきか。
とてもじゃないが、惹きこまれる。
「わ、分かったよ。じゃあ少しだけ…」
僕は、こいつが苦手だ。
はっきりとした物言いと、なんだか掴めない感じが。
詩は、この高身長美少女、東照宮 つかさを「中性的で中立的で不気味。」と評している。
一応、2年生なんだけど、口調も非常に丁寧なんだけど、どこまでも追い詰めるようなそんな圧迫感を感じる時がある。
物理的にも。
「ん?どうしたんですか朗さん。もしかして、緊張してるんですか?まあほんのちょっとではあるんですけど、僕も少しは界隈からの人気というものを背負っている自負はありますから。大丈夫ですよ、当然の反応です。」
「違う、違うから…!」
「別に恥ずかしがることはないです。今年も『ミス神杉』に推薦されてしまいましたし、緊張しても仕方ないです。それより、そんなに僕、綺麗でした?」
綺麗ではある。
喋らなければなおさら。
「し、し、知らねーよ!!」
「ふふふ。可愛いですね朗さん。大丈夫ですよ。別に長居するつもりもないですし、朗さんも宮城野原さんを待っているのでしょう?だから…」
「だから…?」
「本当に少しでいいんですって。」
そう彼女は、微笑んだ。
不敵に。
人物紹介
東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生
サッカーオタク?観る将?
高身長にショートヘアで一人称が僕。男女問わずの人気がある。詩曰く「中性的」、李七曰く「不敵な女」。
国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。
いつのまにかつかさと顔見知りに。口調や態度から少し苦手にしている。