蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「流れよ僕の涙」と、少女は微笑んだ。

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とある不敵少女の超夏休み

夏。

今年も、夏が来てしまった。

「来てしまった」なのだ。僕にとってはね。

外に逃げる場所などないような、情け容赦のない暑さ。

こうして屋内の、図書室なんかにいたほうが賢明です。

ーーーまったく、どうしてこんなにも暑いのでしょう…

 

「つかさあああああああああ!!!!!!!!!」

おや?

「アンタなんで待っててくれないのよ!!!探したじゃないの!!!」

やれやれ紹介しましょう。

彼女は、僕の友人で、3年の佳景山 御前です。

いわゆる、宿敵少女といったところでしょうか。

この暑い夏にぴったりな熱血具合に、僕は少し辟易としていたところなんです。

「なんで何も言わず黙ってんのよ!!!なんか言いなさいよ!!!」

まったく。

ここは図書室ですよ。あまり大きな声を出すと、周りに迷惑というもので…

「だから無視するなあああああああああ!!!」

「おや!これは失礼。心の声だけで喋っていましたよ」

「そんな都合の良い喋り方するな!!!」

 

東照宮 つかさが経験する3年の夏。

高校最後の夏。

先輩になって初めての夏。

これは、彼女が初めて語る与太話。

 

戦術ボードに出会いを求めるのは間違っているのか

「そういえばアンタ、最近運動とかやってるの?」

運動。

昨日、家の階段を上り下りした記憶が。

リビングと部屋の移動のためですけれど。

「ええ、それはもう、バリバリとやっていますよ。息抜きがてら、ですが」

「いいことだと思うわ。私なんか、妹と弟に付き合わされて半ば強制的に外を走り回っているわ。」

受験生が、外を、走り回る?

「御前さんのお家はご兄弟が多いですからね。気苦労も絶えないのでしょう?」

「まあもう慣れたわよ。でもたしかに、今年ぐらいは少し気を遣ってもらってもばち当たらないと思うのだけれどね」

家族に気を遣うなど考えもしなかった。一人っ子の僕にとっては。

「だからこうして、夏休み中の学校の空き教室を使ってはどうかと思いまして」

「さすがのつかさよね。冴えまくり」

「意外といいものですよ。窓際の席にいるとさすがに、室内で日焼けしてしまいますが」

「たしかに。今年の夏は、さすがに暑すぎるわ……」

「だから御前さんには、ぜひ窓際最後列の人気席に座っていただきたいなと思っているんですよ」

「『だから』の前後が意味分かんないでしょうがつかさ!」

 

空き教室といっても、自習室として開放されているだけで、数教室しかない。

僕たちは、そのひとつの教室、といいますか僕たちのクラスの教室が解放されているので、普段通り足を運んだのです。

いつもの通り扉を開けて座る。

そんな何気ない行為を、習慣をしようとしたら、「それ」はあったのです。

その教室には、おおよそ似つかわしくない。

 

黒板ではなく、白板が。

 

「ちょっと…なによこれ……」

「ホワイトボードですね」

「いやそんなことは分かってるわよ。なんでこんな物があるのかってことよ」

では、なぜ初めに「なによ」と言ったのでしょうか。

この場合、「なんで」が正しい。

「それは分かりかねますが、ひとつ言えるのは、これを置いた張本人はきっとサッカーが好きなんでしょう」

「どうして分かるのよ?」

どうして。この場合、正しい。

 

「それは、これがサッカーの戦術ボードだからです」

 

青春サッカー野郎はサッカー選手の夢を見るのか

「戦術ボードって、よく監督とかコーチが持ってるあれ?」

「そうです。あれです」

「なんでこんな物がここに。誰かが、置き忘れていったのかな」

「だとすれば、『どうしてここに持ち運んだのか』という疑問が出てくるのですが、それについてはいかがです御前さん?」

「そ、それは……」

 

「僕の仮説は、ここに置き忘れたのではなく、『ここに置いている』のだと思うのですよね」

 

「どういうこと?こんなところに置く理由なんて……」

「ええ、理由までは、まだよく分からないです。ですが、ここに置き忘れる方が不自然なので、ここにあえて置いているのだと推測しているわけです」

「忘れることだってあるんじゃないの?そんな人間、完璧じゃないわけだし」

「そうでしょうか。たとえばペンや消しゴムの類なら別として、こんなサッカー戦術ボードを、ましてこんなに書き込みがされているボードを忘れるでしょうか。教室から出てすぐにでも気づくはずです。来るときにはたしかに手に持っていたボードが無いことに」

「た、たしかに」

「では五百歩譲ってこれが置き忘れだとすれば、持ち主がこれから取りに来るはずです。理由は、さっきと同様。ようするに、こんな物を忘れるお馬鹿さんはいないということです」

「じゃあ、アンタの言う通りここにあえて置いているのだとすれば、忘れ物だとしたら持ち主が取りに帰ってくるのだとしたら、職員室に届けた方がいいんじゃない?」

「仰る通りですが、後者の線が消えない以上、ここに置いておく方がベターでしょう。下手に動かして、持ち主が取りに来たときに混乱させるので」

「それもそうね……で、これは、何を書いているの?」

サッカーはするけれど、観ない、のか。

というより、スポーツを、運動を、勝負をするというだけで。

「これは、局面図のようですね。実際の試合を想定してなのか、あくまで盤上なのかは分からないですが、試合のなかの選手の配置や動きを想定して書いていると思います」

 

ボード裏を見る。

見た瞬間に分かる。

この持ち主は、出題者であり、挑戦者であることに。

「……つかさ?」

 

「……持ち主は、取りに戻っては来ません。なぜならこれは、忘れ物ではないのですから」

 

「どういうことよ。なんでそんなことが分かったのよ」

この場合の「なんで」、それは正しい。

でも僕には、『なんでこんなことをするのか』が分からない。

分からない。

部分部分を分からないようにしている。

無造作に、このボードだけを置いて、いや切り抜いて、「お前はこの問題に集中しろ」と言われている気分だ。

いや、実際にそう言われている。

 

「裏に問題が書かれています。そして……」

ボード裏を見せる。

御前さんの顔が驚きに変わる。

 

「『東照宮 つかさ へ』。つまり、このサッカー戦術ボードは、僕宛てに置かれた物です」

 

人物紹介

 

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 神杉高校3年生。

 サッカーオタク。観る将。

 高身長。肩ぐらいまで伸びた髪をバレッタで束ねるスタイルに。

 一人称は僕、一人の時と朗と話す時は私になる不敵少女。 

佳景山 御前 (かけやま みさき)

 神杉高校3年生。東照宮つかさの同級生。

 自称永遠の宿敵<エターナルライバル>。

 東照宮への対抗心、闘争心で勝負し超越したいと考える普通の宿敵少女。