蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。暁の春休編

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待ちあう。街あい。

春は3月。

春休み。

心躍る春。

今だ寒く。

唯一の熱気。

スタジアムからこぼれる歓声。

泉中央。

ペデストリアンデッキ。SALVA前。

男子。スマホに目をやる。男子。

タクシー乗り場方面からやってくるひとりの。

女子。

これは、2人が付き合い始めたあの春の与太話。

カントリーロード

「お待たせしてしまったようね。朗君。」

見上げる。

肩ぐらいまで伸びた深淵の黒髪。

揃った前髪の隙間から、きらりと目が光る。

宮城野原詩。

「いえ、僕もさっき来たところですから。」

こう言ったのは、説明不要の今作主人公。

国府多賀城朗。

「ありがとう。待ち合わせた時に、待った側の99%が吐く見事な定型文だったわ。まるでサインプレーのコーナーキックのように、素晴らしいまでの美しさよ朗君。」

「いや本当にそうだったんだから人をセットプレー分析官みたいに言うのやめて…」

「本当にごめんなさいね。待たせてしまって。」

「大丈夫ですって。さあ行きましょう!」

歩くペデストリアン。

「僕の方こそ、スタジアムでサッカー観戦なんて、誘っちゃって悪かったですね。もう少し暖かくなると思ったんですけど、結構寒いですね。」

「それに関しては全く気にしていないわ。もともと、スタジアムにも行ってみたかったのだし。」

「そうなんですか?」

「ええ。極寒のスタジアムでホームチームが完膚なきまでに叩き潰されたうえに、内容的にももうどうしようもなく酷くて、日曜の試合結果をもってめでたく最下位になるスリルとサスペンスに溢れた展開が待っているなんて心が躍るわ。」

「そういう強いメンタルは、ぜひ応援やら何やらの正のエネルギーに変換してほしいですはい。」

特殊。

「そういえば、詩さんはスタジアム観戦ってほとんどないんでしたっけ?」

「そうね。小さい頃に父親に連れていかれた記憶しかないわ。」

「あれ?お父さんサッカー観るんですか?」

「いいえ、単なる家族サービスよ。公園や遊園地に行く感覚で。ま、とんだ災難だったのだけれど。」

「さっきのは実体験だったわけですね…」

人混み。

ペデストリアンデッキの階段を降りていく。

 

「だから今日は、いい試合になったらいいなって。」

「うん!そうですね!」

「………せっかくのデートだし。」

「ん?何ですって?」

「ああ、いえ、ひとりごとよ。ただのつまらないひとりごとよ…」

朴・念仁(1621-1701)。

「?お、着きますよ!」

 

眼前に広がる劇場。

 

ユアテックスタジアム仙台

 

通称、ユアスタ

 

C'mon

入場ゲート。

コンコース。

スタジアム観戦の通過儀礼を文字通り通過していく。

「えーっと今日はメインなんで…」

「メインって、ベンチ側の席ってことよね。」

「ええ、そうですよ。何かあります?選手や監督の動作チェック的な?」

何のチェックなんだ。

「いえ、阿鼻叫喚して顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした朗君がカメラに抜かれるようなことはないということね。残念、この試合、一応テレビ中継されるようだから、ちゃんと録画もしてきたのだけれど。」

「それ笑おうとして見直すつもりだったんだよね!!!そうなんだよね!!!」

スタジアムに入る。

眼前に広がる黄金の草原。

眼下に広がる文字通りの草原。

「お~…スタジアムに来たって感じですね!詩さん!」

「……っ!」

「詩さん…?」

「綺麗…」

「……!うん、そうですね!」

フォルツァ

着席。

スマホ。「今日はここから」。

「とてもいい眺めね。」

「……」

「何をしているの?」

「ああ、ごめんなさい。今Twitterで呟いてて。今日はここから見るよーって。」

「それって特定されたりとかしないの?」

「まあ…ある程度は分かっちゃうんじゃないかな…ははは…」

心配。

「……学校のひととかに分かっちゃったらどうするのよ…」

「ん?何です?」

「いえ、別に何でもないわ。私もTwitterで呟くくらいはしておこうかしら。」

「お、やっぱバックスタンドか!」

「何が?」

「せんだいしろーさんですよ!ベガルタの試合を分析してブログ記事にしてる戦術ブロガーですよ!」

「戦術ブロガー?」

「えーっと、試合の戦術的な狙いとか意図を解説してるんです。最近、色んなひとのブログも見てて。めちゃくちゃ面白いっていうか!こうやって試合観れたら面白いなって!」

『俯瞰厨乙。』

「それで、このオタクまるだしの恥ずかしいツイートをしているひとがその戦術ブロガーってやつなのかしら朗君。」

おい、そこ聞こえてるぞ。

恥ずかしさで言えば君も他人のこと言えないからな。

「えー恥ずかしくないですって。サッカーとかベガルタのこと好きなんだなーって分かるんで。詩さんもブログとかやってみたらいいんじゃないですか?合いそうですけど。」

「い、嫌よ。そんな廃人オタクか手遅れな重度狂人がやりそうなこと。」

不穏当な発言は謹んでほしい。

「ふっふっふ。実は、僕、ブログ始めちゃったんですよね!」

画面に映る。

観戦日記の文字。

「へーそうなんだ。それで、続いているのかしら。」

「……いやまあ、日記というか書きたい時に書いてるっていうか…」

「『ブログ始めました』の記事から更新が無いように見えるのだけれど。」

「きゃーーーーー!!!見ないでーーーー!!!!」

人生最高の90分間

開始前。

カントリーロード

選手入場。

試合開始の笛が吹かれる。

あっという間の前半は、0-0。

「結構押されてましたね…」

「押されること自体が問題ではないわ。どうやって押していくが分からないのだから、押されっぱなしになってしまうと思うのだけれど。」

「た、たしかに…ここは、カウンター局面に強いハモン・ロペスを…」

「いえ、石原のままでいいわ。彼なら、この難しい試合でもボールをキープできる。ロングカウンターも有効かもしれないのだけれど、チームが前がかかりになって、奪われた時に逆カウンターを食らうかもしれない。」

「う…それは…」

「攻防を忘れてはいけないわ朗君。野球なら、代打でハモン・ロペスもありかもしれない。でもこれはサッカー。攻守表裏一体なのよ。」

「さ、さすが詩さん…」

冷静。

「でも、試合中はわりと喜んだり悔しがったりしてましたよね。もっと、色々呟くのかなと思ってたんですけど。」

興奮。

「い、一応、こう見えてその場の感情に従いたいというか、楽しむべきものは楽しみ時っていうのものがあると理解しているつもりなのよ。」

「なるほどです!」

「……だから、ドキドキすればその、それに従いたいと思ってるし…」

「ん?なんです…あ、選手入ってきた!後半始まりますよ!」

「え、あ、うん。」

情熱。

ここはユアスタ劇場。

レッツゴーが降ってくる。

帰るまでがサッカー観戦

「いやーーー何度振り返っても最高でしたね!!」

「あら、まだ噛みしめ足りないのかしら朗。」

「いや全然足りないでしょ!!ほんのさっきのことですよ!」

「まあたしかに、あれはサッカーの全てが詰まったようなゴールだったわね…!」

「あーーもうなんでそんな冷静に振り返れるんですか詩は!!」

「何を言っているかしら?朗が興奮しまくってるだけよ…!」

2人ともサッカー好き。

「勝った後は、こうして駅に向かう車道も誇らしく思えてきますよ!」

「そうね…そう、私も、とても嬉しいわ。」

「そうだよね!苦い思い出払拭するには十分すぎるでしょ!」

再びペデストリアンデッキ

「それに、もうひとつ嬉しいことがあるわ。」

「ん?」

「名前、さん付け無しで読んでくれたんだ。」

「ん……あーーー!!!ごめんなさいつい!!!」

「別にいいわよ。私だって君付けしてなかったのだし。」

「すいません!!!早急に直させて…」

口をふさぐ。手。

「……直さなくていいから。じゃないと試合結果も直すわよ…」

「え、ああ、いや、そんな時空旅行できないでしょ…」

「………いいから…」

「はい……」

「ま、まあ、2人でいる時だけで勘弁してあげるから…」

「は、はい……」

「じゃあまたね。」

「うん…」

駆ける少女の足は軽い。

無重力

 

「あ、あのさ、詩!」

振り向く。

「きょ、今日の試合さ、どうだった?面白かった?」

微笑み。は、通り越して、満面の笑みで。

 

「人生最高の90分間に決まってるじゃない朗!」

全てが詰まった90分間。

 

「そっか、それは…良かったよ!」

もうすぐ4月。

後日

「ちゃんと起きているかしら朗。」

「もちろん起きてますよ。コーヒーばっかり飲んますけど…」

「全く。もっと良心的な時間にやってほしいわねプレミア。」

「ある一定層には良心的なんですよ…」

Skype

「そういえば、この前行ったベガルタの試合の記事で面白いのがあって。」

「何?また狂人の記事を見つけたの?」

「狂人というか…戦術記事と観戦記事に分かれてて。それがどっちもすげー面白くて!」

「え、え、えーっとそれはなんていうブログ名なのかしら朗?」

「ん?ああ、『うたかたサッカー観戦日記』ってやつです。」

「う、う、うあわあああああああ!!!!!!!」

「あれ?もしかして詩も知ってるんですか!めちゃくちゃ面白いですよね!戦術記事も、石原を90分間使い続けた狙いが書いててなるほどな!って思ったし、何より観戦記事!これがまた最高にエモーショナルで。『あの黄金に輝く草原が、ピッチという草原を、選手を、チームを光り輝かせていた。』って文章がマジ感動で最高すぎなんですよ!僕は、あの試合、戦術記事しか書いてなくて、いやーなんというかこういう感情の昂ぶりを書くのもありだなーって素直に感激しちゃいました!!」

「よ、よ、読むなあああああ!!!!!音読するなあああ!!!!!!!!!」

楽しい観戦で、本当によかったね。

 

 

 

某所。

某時刻。

「---ふふふ、はははははは!!!」

「…面白い…いいものを見つけた…」

「何としても、これを書いた奴を探さないと…」

画面に映るブログ。

そして、紅い眼。

 

ーーー神が、目を醒ます。

 

Fin

 

 付録

「うーん、黄色系の服なんて持ってないし…」

「春だからピンク系がいいのだけれど、相手チームカラーはさすがにまずいか…」

「……!いけないこんな時間!というか遅刻じゃない!!」

「サッカーデートってなんでこんなに難しいのよ!!!」 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。観る将。

 

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。