蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。11

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回想、原点

少し昔の話をさせてください。

李七と僕は、小学校からの幼馴染でした。近所ということもあって、母が李七の母親と友達だったのですけれど、いつから、どういうきっかけで交流ができたかは覚えていないのです。気がついたら一緒に遊んでました。

李七の母親は、重度のサッカーファンなので、家に行くと大体サッカーの試合を録画したビデオを見ていました。ユニフォームやグッズもいっぱいあって、僕がサッカーというものに初めて触れた瞬間とも言えます。昔李七は、あまり身体が強くなく、画面の前にいる機会がの方が多かったです。

ある日、李七が入院しました。生い立ちとか、髪の色、病弱なこともあって僕から見てもあまり学校に馴染めてなかった李七ですから、あまりというか、お見舞いのひともなく、先生が用意した色紙に「仕方なく」書いた応援メッセージだけが病室に飾られてたのを覚えてます。(机に伏せて置いてあったんですけどね。)

僕は、両親に頼んでサッカーショップで買った李七の好きだったマンチェスター・ユナイテッドのグッズを持ってお見舞いに行ったんです。初めて誰かにプレゼントを持っていった時でした。

あいつ、泣いてたんです。なぜか、それだけははっきりと覚えてます。その時です。たしか。李七が僕のお嫁さんになると言ったのは。

 

でも今は、それしか覚えてないです。

僕が約束したのかも、正直、思い出せない。

病気から立ち直ってほしい。その一心だけだったように思えます。

黒と金

子どものころの約束。

そんなお約束みたいな展開なんてない。

いずれ劇場<シアター>の幕は降り、覚めないと思ってた夢<ドリーム>も終わる。

 

「あ、り…」

放課後のチャイムがなり、みんな帰っていく。

そこにあるのはひとりの金色。みんなのなかに紛れるように。隠れるように。

黒い視線が朗に注がれ、そして、その弱弱しく張り合いのない金色の背中へと向けられる。

 

「どうして、ここに来ちゃったのかしら…」

勾当台公園

「……」

「…バカみたい。子どものころの約束をいつまでも覚えてるなんて。どうかしてる。」

ここには誰もいない。

「どうか…してるのかな…」

「まったくどうかしていると思うわ八乙女さん。」

いやいた。

「みみみみみみみ宮城野原詩!!!!!」

「ちょっと。人をミミックみたいに言わないでくれないかしら。」

「っどどおどどどどどどどどうしてここにいるのよ宮城野原詩!!!!!!!」

「あなたは少し落ち着きなさい。」

深呼吸。小休止。パウサ。

「……なによ。なにか用なの。」

「少し、そう、少しお話がしたくって。」

「別に私は、あんたなんかに話すことなんて無いわよ。」

「いいわ。私が一方的に話したいことを話すから。あなたが帰って来てから、まともに会話する機会もなかったのだし。」

「………。」

 

「あなた、朗のこと好き?」

この人はいつも直球だ。そして、優しい。

 

「なによ、勝利宣言のつもりなの。」

「違うわ。違う。あなたの気持ちを知りたいの。どうなの、朗のこと好き?こういうの『コイバナ』って言うのでしょう?したこともないし、これが初めてなのだから少しは思い出に残る会話にしたいわ。」

「し、しし知らないわよあんたの思い出なんか!」

「分かったわ。で、私の思い出はどうでもいいから、あなたはどうなの?」

直球には、直球で返すしかない。それが彼女だから。真っすぐに。

「好きに決まってるでしょ。私はお嫁さんになるんだから。」

 

「……なら、もし朗のお嫁さんになれなくても、朗のこと好き?」

攻められたら、もっと攻める。そうして生きてきたし、そうでしか生きられない。

 

「なに、なんなのよ!!!やっぱり勝利宣言じゃないのよ!!!」

「ねえ聞いて八乙女さん。私だって、正直、いつ朗に嫌われてしまうかとても不安なのよ。」

「……。」

「私よりもっと好きなひとが朗にできたら、私に全然魅力が無くなってしまったら。私、自分自身のことを一番信じていないから、なおさら信じられないのよ。」

「………。」

「もしそうだとしても、私は、それでも朗のことを好きなのか、それともフッた男のことなんか時間の流れとともに忘れられるのか、どうなのかなと思って。」

「……それで…あんたはどうなのよ…。」

 

それは偽りのない、檻の中にいない、扉を閉めていない、混じりけの無い純粋な微笑みで。

そう、彼のことなら笑うことだってできる。

 

「好きよ。まだまだ大好きよ。自分を信じるのはまだ先かもしれないのだけれど、朗をとても信じているわ。」

 

これは、勝利宣言ではない。宣戦布告。

 

「きっと私、根暗で暗黒でオタクで性格も悪くて友達もいないから、きっと好きでい続けると思う。まだ諦められない。それに、朗が好きだと言ってくれる自分をもう少し好きになれたらいいなと思ってる。」

「……そう。」

「ふふふ。この、『まだ』との戦いなのよね、きっと。ひとを好きになっていくって。初めてのことだし分からないのだけれど、多分、きっとこういうことなんだと思う。何かを、誰かを好きになっていくっていうことは。」

「なによそれ…何勝手に納得してんのよ。」

「それで、あなたはどうなの八乙女さん。朗のこと『まだ』好きなの?お嫁さんになるだなんて昔の約束とか、目の前の彼女とかそんなどうでもいいこと取っ払って、あなたはどう想っているのかしら。」

「…そ、それは…!」

立ち上がる。グラビティ。今の彼女は、無重力

「じゃあ、私帰るわ。そういうのは直接本人に言うといいわ。多分、彼も率直に今の気持ちをあなたにぶつけると思うし、あなたの気持ちも理解すると思うから。」

立ち去る。黒い足取りは軽く、そして、とても爽やかだった。

「………なによ。結局、あんたが一番好きなんじゃないの。」

一番輝くもの

帰宅。

の前に、国府多賀城家前。

チャイムも鳴らさず立ち去る。今日は帰ろう。

八乙女家。

そこには、彼が、いた。

「ちょっと、なに他人家の前で寝てんのよ。通報するわよ。」

「……!!!やべっ寝てた!!」

「ヤバイの十分知ってるっての。」

「ごめん李七!俺、俺ちゃんとお前に言わなきゃいけないなって思ってて。それなのに、引き伸ばしちゃって。寝ちゃったし。ごめん。怖くて。みんな感じ悪くなるのも嫌だったし。」

「……」

「ホントにごめん…」

「…もう十分聞いてるわよ。あんたの『彼女様』から。」

「…!!!え??」

「もうあんたに夢中じゃないの。誰にも渡しませんって感じで。マジムカつくんですけど。」

「ごめん、李七。でも、俺…」

「はいストップ。せっかくあんたみたいなオタクのこと、好きだって思ってくれてるんだから否定しない。」

「…は、はい…」

「あんた、あの女…宮城野原詩のこと、好きなの?」

「……。」

「いいよ。正直に言って。私たちそうしてきたじゃない。」

「………その…好きです…。」

「そう……。」

「…ごめん…。」

「はい謝らない。いいよ、私はそれが聞けてよかった。」

「……?」

「そうだよね。昔から。昔から、好きなものに一直線で、夢中になるのが『あーくん』だったよね。そんなあなたが一番、一番、好きだったから、私。もしかしたら、今が一番、『あーくん』のこと、好きかもしれない。不思議ね。あの重力が言うことが分かるような気がする。」

「李七……」

玄関に駆ける。夕陽が髪を輝かせる。

「ねえ…もう最後でもいいから、昔みたいに呼んでよ…」

「え…」

「ねえお願い…」

 

「……その、『びーちゃん』」

「ふふふ。なーに、あーくん?」

涙が、涙が、思い出とともに流れ落ちる。

ーーーびーちゃん絶対直してまた一緒にサッカー観ようね!

ーーーうん!私、あーくんのお嫁さんになる!そしてずっとあーくんとサッカー観るんだ!

 

それは、彼が彼女に贈った『初めて』のプレゼント。

 

「ありがと!また明日!花嫁修業、気合入れてやらないとね!」

そう彼女は、微笑んだ。

「ごめん…李七…ごめん本当に…俺…」

零れる涙。それは彼女の頬ではなく、彼の頬に。

夕陽が、涙も、輝かせる。

 

また明日がやってくる。

アーリーサマー!

「それで朗。これはどういうことか説明してくれないかしら。」

「いやですね、これは…。」

「どうして私が作ったお弁当の前に、海の物とも山の物とも分からない女からの弁当なんてものを食べているかしら?」

黒いオーラ炸裂。ここで起こす気か。セカンドインパクトの続きを。

「ふっふっふっふ。遅かったようね宮城野原詩!見なさい、この花嫁修業中に生み出される最高傑作の極みを!これで朗の胃袋がっつり掴んだもんねーだ!」

「どうせ食材が高いだけで何もしていないのに等しいんじゃなくって八乙女さん?」

「あーらまともな食材も道具も集められないようでどうやって料理をしているのかしら宮城野原詩?」

「あのーーー、とりあえず食べません?」

「「<あなたの><あんたの>食べさせて!!!!」」

 

青春とは、ずるい。都合よく、新しく生まれ変われるからだ。

青春の終わりは、新しい青春のはじまり。

 

今年も夏がやってくる。

Fin

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。ヴィクトリアからびーちゃんと朗が命名

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。

あとがき

 どうも、僕です。どうでしたか。李七が出てきて随分うるさくなりましたよね。僕もそう思ってます。(笑)詩は終始キレてるし、朗は圧倒されてるしで、パワーがありますよね。若いっていいです。(遠い目)

 さて、新しい登場人物として八乙女李七というキャラがでてきましたが、この物語における僕のミッションは、「彼女をいかに救うか」 でした。幼馴染、ツンデレ、金髪ときたら、負けヒロインのテンプレなんです。しかも子どものころの約束を守ってたり、朗に対して甘えがあったり。とても悩みました。そういう不遇というか、不幸の生まれにしてしまって僕は彼女に対して責任がありましたし、どうすれば救えるのか、幸せにできるのか考えてました。

  青春というものは、失うものも多いですけれど、常に新しい自分に生まれ変わることのできる素晴らしい時期だと思います。李七は、かつての自分の恋が終わりを迎え、新しい恋が始まりました。それが同じ人で別のひとが好きだとしても。サッカーが好きなのもそうですが、「好きなもの」へのエネルギーというものはそれは大きなものだと思います。何かを好きになるというのは、自分もエネルギーを使いますし、新しいエネルギーを生み出す原動力になります。これが尽きない限り、ひとは歩みを止めることなく進むことができるのではないでしょうか。それっぽいことを言ったところでこの辺で。

 僕は、進むたびにあちこちが痛くなるようになってきました。気持ちだけが、身体を追い越して風のように進んでいきます。どうか風だけは、止みませんように。それでは、また。

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