春の勾当台公園
場所を変えて。
いつもの。勾当台公園。
違うのは、ベンチに、1人、2人、3人。
「それで朗君。こうして公園に来たのはいいのだけれど、どうして金色イギリスかぶれピーキー女がいるのかしら?私は、朗君と『だけ』話したいのだけれど。何か間違っているかしら?」
黒い重力、宮城野原詩。
「ちょっと朗、これはどういうことなのよ!私は、ようやく朗とプレミア話で盛り上がれると思って超楽しみにしていたのに、なんでこんな黒髪根暗オタクグラビティ女がいるわけ?話が違うんですけど!」
金色の風、八乙女李七。
「グラビティグラビティうるさいわね八乙女さん。あなた、この半年でずいぶん重くなったように見えるのだけれど。物理的に。」
「う、う、うるさいわね!宮城野原詩!あんたこそ、だれがイギリスかぶれよ!ちゃんとした私の故郷よ!」
「でも、生まれも育ちも、激寒クソ田舎の東北宮城で育ったのでしょう?フッ…これをかぶれず、何をかぶれると言うのかしら?」
「ムキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「ちょっと二人ともやめて!!いろいろといろんな方面から怒られそうなワード連発しないで!!」
仲裁。しかし悪手。
「ん?それで朗君は、私とこの金髪とどっちと一緒にいたいのかしら?まあ、答えは聞くまでもないのだけれど、一応の確認よね?」
「え、いやそれは…というか君付けに戻ってるし…」
「ホントしつこいわね宮城野原詩!朗は私と一緒に決まってるでしょう!」
「主張するのは勝手なのだけれど、その腕をすぐにでも外してくれないかしら?誰の許可を得て、朗の腕にしがみついているのかしら…?」
「何よ、こんなこと小さい頃からずーーーーーーーーーーっとやってるもんね。あんただって羨ましいならやればいいじゃないの。腕は2本あるのよ?それとも何?もしかしてビビってるの?」
「いやおかしいよね、この腕2本とも僕のだよね?」
弱点を突かれた黒。一転、やや劣勢。
「……それは私だって、できるならくっついてたいよ…」
「…え?なんです?」
「…別になんでもないわ。良かったわね、朗君。八乙女さんとの再会を十分味わえて…!」
「ひえーー!!全然いいと思ってないでしょ!黒いオーラ閉まって!」
収拾がつかないからそろそろやめてほしいかな。
4-4-2の守備戦術
「はい、じゃあいいですか。落ち着きました?」
「まあまあねーーー」
「あら?オペラのケーキが良かったのだけれど。」
「そんなすぐに買ってこれないから!まったく、なんで僕がポッキーを買うことになるのか…」
ポッキー。それでいいのか。
「それで、朗君。」
「はい?まだなにか…」
いや、違う。いつものやつのスタートの合図だ。
「今日は、何を話したいのだったかしら?」
「そうそう!4-4-2ですよ4-4-2。前は、攻撃のことは聞いたんですけど、一般的というかどうやって守るのかを話したいです!」
「そうね、それは…」
やばいんじゃないか。目の前の英国面が蠢くぞ。
「4-4-2!そう4-4-2!英国クラシカルフットボール文化の原点にして、頂点にして、極み。至高!そして柔らかく。最高!そして優雅に。すべてのボールをはね返すセンターバックを中心とした4バック!両ゴール前にフルスプリントするセントラルハーフ!快速ですべてを置き去りにするウィンガー!そして、どんな城壁でも破るセンターフォワード!すべてが機能美。フットボールのすべてがそこに、4-4-2に詰まっていると言っても過言ではないわ!」
とんでもないスイッチ。
「……うざ…」
「ちょっと、うた…いや、詩さん!」
「……どうして照れちゃうのよ…まったく…」
「いや、だって…」
金色旋風。
「ちょっと、なに2人でブツブツ言ってんのよ!」
「あらごめんなさい八乙女さん。あなたの気色悪い4-4-2信仰のせいで、モウリーニョもびっくりするぐらいのドン引きリトリートしてただけよ。気を悪くしないで。」
「ドン引きってなによ!!!」
ゾーン守備の考え方
「まあまあ。それで、詩さん、4-4-2の守備ですけど。4-4-2って、まあ李七が言うほどかは別として、かなりバランスが取れたフォーメーションですよね。守る時も効率的というか、選手も統率が取れた動きをよく見ます。」
「そうね、朗君。3ラインでピッチをバランスよく守ることができるわ。基本的には、中央を3ラインで守って、ラインの裏にボールを入れられることを警戒しながら、ボール保持者にプレッシャーをかけるわ。大事なエリアを守りながら、ボールを取り上げにいくイメージね。」
「ゾーン守備…?ゾーンディフェンスとかの単語を聞いたことありますけど、ようするにみんなでしっかり守るってやつですか?」
「まあ…あながち間違いではないのだけれど。」
「ああ、もうじれったいわね!前でボールを奪えれば、ラインなんてものはあってないようなものじゃない!ボール持ってる選手にプレッシャーかけ続けて続けて、ミスを誘えばいいのよ!」
これは英国面というより個人の主張のような。
「物事を単純に考え過ぎよ八乙女さん。そうやって後先考えず、目の前のこともろくに観察せずに突っ込んでいくから、いつまでたってもその派手な髪の色のままなのよ。」
「か、か、髪の色のことは言うな!!!!!!」
「はいはい。で、詩さん続けてもらえます?」
「そうね、どこからかしら。ああ、私は長いからゾーン守備とかゾーナル守備と言うだけで、いわゆるゾーンディフェンスのことよ。」
「ふーん、なんだかいかにもオタクが考えそうな名前ね。」
「……」
ぎろりと向く黒い眼光。目を反らし黙る金色。
「ゾーン守備では、まずボールの状況が鍵になるわ。ボールを持っている選手に『時間』と『スペース』があれば、プレーの選択肢がたくさんできてしまう。逆に、ボールを持っている選手にプレッシャーがかかっていて、『時間』と『スペース』がなかったり、パスやトラップにミスがあれば、守備側は選択肢を限定したり予測しやすくなるのよ。」
「だからまずは、ボールを持っている選手の状態が守備の位置を決めるわ。ボールにプレッシャーがかかっているか、いないかで見てもいいと思うわ。」
「なんだか難しそうな…」
「攻撃側がやれることを無くすことだと考えておけばいいわ。そして、次に、『守っている場所』と『守っていない場所』を分けること。ボールを持っている選手にプレッシャーをかければ、プレッシャーをかけた選手がもともと『守っていた場所』が『守っていない場所』に変わる。そこを別の味方が守る…これが連鎖的に、鎖のようにつながっていく。ボールから遠い場所は、サイドチェンジされても、ボールが移動する時間があるから守備を整えられやすいって考え方になるわ。」
「まずはボールへのアプローチ。ボールを持っている選手にプレッシャーをかけて、時間とスペースを限定する。そして、空いたスペースを味方がカバーして守るって具合よ。」
「な、なるほど。なんとなく分かったような。」
「最初はなんとなくでいいわ。これに限った話ではないのだけれど、何となく分かったうえで試合を観て照らし合わせた方が手っ取り早いわ。」
人物紹介
宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタクなのは隠している。見る将。李七とはあらゆる面でライバル。
八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。見る将。父親が日本人で外交官、母親がイギリス人で作家でハーフ。
名前の「七」は、エリック・カントナの背番号から。
国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。
李七とは幼馴染。子どものころに李七をお嫁さんにすると約束したらしい。