蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【抜錨】Jリーグ 第1節 ベガルタ仙台vs名古屋グランパス (1-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか!開幕戦のゲーム分析!ついに始まる2020年シーズン。不安と期待を胸に始まる初戦。新しい戦い舞台に踊りだす戦士たち。黄金のピッチ。赤い春雷がユアスタに襲いかかる。今季もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタ仙台は、FWにケガ人続出の影響でキャンプで取り組んでいた4-2-3-1ではなく2トップの4-4-2。新加入で古巣対戦となる赤﨑をスタメンで抜擢。また、手薄の左SBには緊急補強で加入した柳が登録直後にスタメン。匠は左ウィングで起用。

 名古屋は、ルヴァンの鹿島戦と同じメンバーとフォーメーション。SBに離脱者が出ているのと、こちらもFWが離脱中。本来1トップを期待されている山﨑が途中出場カードに。両ウィングのカウンターアタックが強力。

sendaisiro.hatenablog.com

 概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 本ブログにおいては、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)局面に分けている。

ボール保持時

主戦場はサイド。そして速く。

 攻守にハードワークと強度の高いプレッシングを今季テーマに掲げる木山ベガルタ。フルメンバーをなかなか揃えられないなか、この試合でもその取り組みの一端が垣間見えた。ベガルタのポジショナルアタックは、縦志向が強く、CBがボールを持つとウィングをターゲットにボールを蹴りこんだ。特に、右ウィングに入った道渕をターゲットに相手を押し込み、トランジション勝負に持ち込もうという意思を感じた。1トップ不在のベガルタ。攻撃ルートが両ウィングの2方向しかない「頭をもがれた鳥」状態なのだけれど、この試合の左ウィングは匠。決してハイボールを競らせたくないし、王にそれは相応しくない。そこは、加入したばかりだが木山さんが良く知っている柳が担う。

図1

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 185㎝、80キロの柳の決闘相手は、19歳のSB成瀬。なるほど、色々と捗るな(違う)。1トップを張れる選手がいないなか、ポイント作りたかったのは両ウィングになった。もともとウィングがキーになるというコメントもみかけた木山さんのサッカーにおいては、非常に重要なポジションになる気がする。気がするだけ。プレビューでも触れたのだけれど、ゼロトップ的に2トップが動き、ウィングはSBを狙い撃ちする策だ(実際はゼロではなく2トップのままだったのだけれど)。名古屋のウィングは、スピードもありがんばれるタイプでもあるので、守備で不利な状況になれば果敢にプレスバックしてくる。また、SBが高いポジションを取れば、追従して自陣深くまで下がってくる。そんな「ベガルタがやりたいこと」と「名古屋の戦術的習性」を重ねることで、より高い位置で優位性を築こうとしたのがこの試合の木山ベガルタだった。実際に先制して失点するまでそれなりに実行できていたように見える。ただ、そう簡単にいかないのが、サッカーというスポーツの良いところであり、意地悪なところだ。

左ハーフレーンは誰のもの?問題とマッシモ流電撃プレスバック

 実際には、サイドで高い位置でポイントを作る作業がうまくいっていたかと言われるとそうとも言えない。左サイドは、柳、匠、ジャメの連携がまだまだ。当然といえば当然だった。木山さんの言うように柳も攻撃的な選手なので、自らボックス内に向けて仕掛けるシーンがあった。これは彼の良さでもあり、問題のあるプレーではないのだけれど、向かう先は左ローポスト。インスタ映えする大人気エリアだった。匠もそのエリア付近でプレーしたがるし、左利きのジャメはやはりカットアウトで外流れしてくる。そうなると、「誰が前に出て、誰が後ろをフォローして」のスペーシング的思考からは遠く、結果左ハーフレーンで渋滞を起こす結果になった。もちろん、19歳SB成瀬の対応の良さや中谷・丸山の2BCコンビ、米本・稲垣の鬼センターのケアもあったのだけれど、簡単には崩せなかった。いくつかシュートシーンまでもっていったので、そこは今後突き詰める部分になる。

図2

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 ただし、問題は、名古屋のプレスバックがかなり強力だったことだ。名古屋のトランジション時のプレッシングは、敵陣ではエリア制圧型になって、ボールを奪って超ショートトランジションを発動して攻め切ってしまう意思を感じられた。ベガルタも、戦前にその特徴を理解していたのか、前述の縦に速い攻撃であったり、なるべくなら敵陣にボールを運びたい意図を感じた。それでも、名古屋のスピードは速く、なかなかポイントを作るまでに至らなかった。それでも、道渕を中心に相馬やマテウスの背後にできたエリアをポジティブトランジション時には攻撃していたのだけれど、プレスバックに加えて、両SBがカウンター予防で残っているので、2CBと1CHと合わせて5枚との対決になってかなり難しかった。

 また、この試合で名古屋の2センターが強力だったこともボールを持った攻撃を難しくした要因にも見えた。たとえ、SBを引っぱり出したとしても、米本と稲垣がSB-CB間チャンネルを埋めるので、簡単にチャンネルアタックを繰り出すことができなかった。高く上がれば背後を突かれる不安もあるので、SBが深くマイナスクロスを出せる位置まで前進できなかったのも、こうした「前線でのポイント」づくりがなかなかうまくいかず、全体的に低い立ち位置を取らざるを得なかったのかと思う。多分。 

図3

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ボール非保持時

ゾーンごとで変身するセット守備

 ベガルタのセット守備は、4-4-2でセットアップ。ゾーン2~ゾーン3のハーフラインから敵陣では、SBが高い位置まで縦迎撃する。ウィングはもちろん相手SBをターゲットにチェックをかける。2トップは、相手CBへ強烈にプレスをかけるわけではないのだけれど、2センターを意識しながらサイドを限定して、前述のウィングとSBで取り切ってしまう意図が見えた。また、押し込まれた時は、SBがディレイディフェンス。ウィングがリトリートする時間を稼ぎ、ウィングvsウィングの構図を作る。SBは後方のスペースを埋める手厚い形に。名古屋の4バックがゴール前を守る形を堅持するのに似ている。似ているが、自陣にリトリートしてしまった時の対策であって、基本型は前プレで嵌めこみたいのだと思う。

 守備の約束事。かなり整備されて意図的なものを感じるので、キャンプ中も注力したのだなと感じる部分だった。ただし課題になるのが、その「継ぎ目」の部分であって、「どこまでは前プレでどこからはリトリートなのか」は、試合やトレーニングを重ねて練度を上げないといけない部分に見えた。特に、蜂須賀、柳は、ウィングにバックカットやドリブルで背後を取られるシーンもあり、ウィングが素早くフォローにこないとリトリートもままならず迎撃で対応⇒背後を取られるの悪循環が生まれそうだ。この辺りは、木山さんが言う攻守にハードワークする部分の気がするし、個人的な感情を言わせてもらえれば、「頭をハードワーク」させていち早くその場所にかけつける、先に潰し込んでおくやり方が見られたらいいと思うし、そこがチームの進化代だと考えている。

図4

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図5

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 また、この試合でいえば、4-4-2の構造的痛点である2トップ脇を2センターに使われ、そのまま全体を押し下げられる展開になったのもどう対応するのかは、今後の彼らの対応を見たい。2トップは相手2センターと2CB、ウィングがSBに対応となると、誰がみるんだ?問題が発生する。しかも、ハーフレーン/第3レイヤーにトップ下やウィングが入ってきて、背中でマークするとなるともう相手CHにプレスをかける余裕はなくなる。というか過負荷になる。そこは2トップの一角にがんばってほしいのだけれど、あるいは全体として前プレ傾向にして、CBにもプレスをかけてビルドアップの根本からそぎ落とす策もある。そんなこんなもあり、蜂須賀にとっては、かなり大変な試合だったのかなと思っている。攻撃で高い位置を取れないのも構造的な問題の犠牲になった気もするのでやむなしだという説を取る。選手が良くないと感じる時は、そいつが悪いのか、そいつが悪いように見えているのかをよく観察する必要がある気がする。気がするだけ。見るのではなく、観察。多分。

図6

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ゲーゲンプレスが、来る。  

 前半は敵陣でなかなか嵌らなかったボール非保持になった瞬間の6秒。いわゆるネガティブトランジションというやつだ。自分たちの陣形も崩れているので、ゲーゲンプレスによる即時奪回か4秒リトリートで陣形を整えるか、その両方かになる。この試合は、わりと即時奪回を目指すシーンがあったのだけれど、するっと抜かれてしまってもいた。ただ、後半入りからそこを修正したのか、ボールを失った瞬間の初速があがった。ただ、やはりボールを高い位置に運べず、回収地点も自陣深くなってしまったので、あまり長い時間は見られなかった。それでも、54分ごろのジャメのシュートがあった辺りはゲーゲンプレスも決まっていたので、いい流れからゴールを決めたかった。こういう一本入る入らないが、新しい取り組みにおいては大事になってくると思う。 

考察

やりたいことはいっぱい。できないこともいっぱい。

 とにかく目先の試合は、今できることを最大限出すことが至上命題になりそうだ。高い位置からのプレッシングや即時奪回。狙いや意図が見えるポジショナルアタックなど、表現したいと思われる記号が見えた。ほんのチラッとだけど。昨季までのベガルタは、可能性は無限大にあって、その無限大の可能性の宇宙をいかに広げるかの作業だった。だから、その辺の惑星が崩壊の危機にあろうが、宇宙を大きくすることでメリットを最大化する作業だった。今は、どちらかといえば最適化。いくつか可能性があって、その可能性をひとつつずつ実現していく作業になると予想している。どちらがいい悪いはなくて、目指す先、目的地は同じく勝利することでしかない。個人的な感情でいえば、早く攻撃の形を見たいなと思っている。まあそれもひとつずつ。何というか後回しにしたり、放置したりするような感じが、肌感覚的にはないので必ず見えてくると思っている。 

おわりに

  コンコースに溢れる活気。寒く冷たいコンクリートが少しだけ暖かくなったように感じた。ゲートをくぐれば旧友への挨拶があちこちで交わされるのを見かける。最上段の席は、七北田川を通る風の通り道。やはり、寒かった。アウェイ席はマグマのように、赤く、そして熱かった。午後のユアスタ。時折輝く太陽がスタンドを照らす。金色の壁が姿を現した。帰り道は、車が主役の道が僕たちのレッドカーペットになる(勝って輝かせたかったけど)。毎年のことなににどこか緊張感もある開幕。今年もありがたいことに、サッカーが僕たちの街にもやってきた。こうして、2020年のJリーグが、ベガルタ仙台が始まった。さあ、いくぞ。

 

 「この感覚… 行くぞ!」こう言ったのは、アンジェだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html