蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第24節 川崎フロンターレvsベガルタ仙台(1-0)「何度でも何度でもベガルタは生まれ変わっていく」

■はじめに

 さあさあ彼の地等々力での川崎フロンターレとのゲーム分析いきます!震災をきっかけに、クラブ以上の間柄となった友人のフロンターレ。優勝なんかしちゃったおかげですっかり大人びた雰囲気で、地元でつるんでた頃が懐かしくなった。そんな友人君に「あの頃のことはいい加減忘れろよ。俺たちいつまでも子どもじゃないんだぜ」とでも言われたような我らがベガルタ君。待ってろ、すぐ行くぜ。では、レッツゴー。

■オリジナルフォーメーションf:id:sendaisiro:20180826214433p:plain

 ベガルタは、3-1-4-2を採用したが、天皇杯のターンオーバーからメンバーを入れ替えている。CBには金、勤続疲労の奥埜に代わって椎橋が3センターの一角に、2トップにはジャーメインが入った。狙いはSB裏、CB脇を俊足FWが突く狙いだ。渡邉監督のコメントの通り、過去川崎と対戦するなかで同様の策で挑んでいる。他にもやり方は考えているようだが、メンバー構成からそれが最適解といったところか。

 川崎は、前節広島との首位決戦を制し、首位奪還の覇道を突き進んでいる。メンバー天皇杯明けだが王道メンバー。ボールを握って、殴って、奪って、握ってを繰り返す。いざとなれば齊藤学がリザーブでスタンバっている。川崎のブロック崩しが先か、ベガルタのカウンターが決まるか。あとは、予想される対抗策に対してどんな対抗策を持っているのか注目だ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃 -ビルドアップ妨害を突破せよ-

 ベガルタは、3バックビルドアップから攻撃構築を図る。プラスして富田が加わることで、スクエア形成。相手の前プレに関して、ダンや富田が加わり擬似4バックになることでプレス回避に工夫を加えていた。

 川崎は、442でミドルゾーンでのブロック。ただ、ケンゴウのCBへのプレスを合図に、マンツーによるビルドアップ妨害に変形。さらにケンゴウは、GKダンへも深追いしていった。ポゼッション型チームのボール非保持時の標準装備であるゲーゲンプレスと同様、前プレによるビルドアップ妨害も必須項目だ。

 10分、3バック+富田のスクエア。前プレスイッチはケンゴウ。プレスVSビルドアップの火ぶたが切られた。

 17分、同じく3バックとアンカーによるポゼッション。川崎はミドルゾーンで442ゾーンを形成していたが、ケンゴウのチェックを合図に一斉に前プレを開始。ケンゴウはGKダンまで深追いする徹底振り。

 19分、ダン、大岩、ジョンヤから富田のアンカー落とし。右ウィングレーンに平岡がレーンチェンジし、プレス回避に工夫を加える。

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 ベガルタとしてもそれを剥がす術もいくつかあって、本当はそれを見せないといけなかったのだが、それ以前にミスしてしまった点が課題だった。まあミスを強いられたとも言える。あとはシンプルに、狙いであるSB裏にロングを蹴ることももっとあっても良かったのではと思う。

 

(2)守備 -532連鎖崩しを許すな-

 ベガルタ守備陣は532ブロックを形成。3センター+3バックで川崎に使われると厄介なエリアに人を割く算段だ。また、相手CBが前進してきたところを待ち構え、その裏にスペースを作る狙いだ。ここはある程度やれていたと思う。川崎相手に論理的に崩されたシーンは少なく、ゲームプラン通りだったかと思う。やはりこの守備を攻撃のために使いたかった。

 22分のシーン、小林が降りてきているが3センターが閉鎖。

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(3)ポジティブトランジション -コレクティブカウンターへの道のり-

 ベガルタの狙いは、ここ、ポジトラだ。いかに前がかかりになったSB、CBの裏を俊足FWがアタックするかが勝負の分かれ目だ。にもかかわらず、あまり効果的ではなかった。というより、きちんと狙ってやっていたのか少し分からなかった。奪うエリア、奪ってから展開するエリア、走りこむエリアとかとかとか。どちらかというと、ジャーメイン、西村のクオリティに任せていた部分があったと思う。ま、それがカウンターの質を決めるといえば、そうでもある。

 13分、ジャメがCBと1対1に。これがベガルタの狙いだ。

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 32分、椎橋がボールカットし、西村、中野へ。CB脇に走りこむジャメにボールが出るが、谷口にディレイされ、カウンタースピードを殺された。

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 36分、ボールを奪い、ポジトラ開始。椎橋からジャメに。

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*狙い通りミドルゾーンで。しかも、左から攻める川崎の攻撃を防ぎ、裏を狙う理想的な展開だ。

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*ジャメがCB脇で受ける。谷口と1対1だ。行け!ジャメ行け!だったが、鬼のトランジションで戻って来た大島にボールを回収されてしまう。このシーンだけ見れば、完全に川崎の失点シーンなのだが防がれてしまう。そうなると、ちょっと今日の狙いはうまくいかない様子だ。

 

■後半

 ベガルタは、ジャメに代えて石原投入。後半開始からの投入は、事前に予定されていたものかは不明だが、どこかで石原が投入されることは予想できていた。やはりジャメの出来具合が影響か。

(1)攻撃 -ケンゴウがいてもいなくなっても-

 後半も変わらず、ケンゴウがプレススイッチだ。CBからCBへのパスを見るや、チェックをかけてきた。ダンへの深追いも健在だった。ペップバルサでメッシ、シャビがGKまでチャージしたのを思い出す。ただ川崎の凄みは、ここからだった。ケンゴウが下がると442のゾーンディフェンスに移行。CB同士のパスにも442は崩さない。CBのドライブには、差し金のチャレンジ&カバーでディフェンスしてきた。ベガルタは、これを崩せなかった。例えケンゴウがピッチにいなくても、いない時の守備ができていたし、やれていた。中村憲剛という存在が作り出した守備体系と言っても良いと思う。

 *概念図

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(2)ネガティブトランジション -攻撃できないゲーゲンプレス-

 ベガルタのネガトラ。相変わらずだが、即時奪回ではなくリトリートを採用。ただ、まるで即時奪回のようにボールホルダーに対して、エリアを密集するような動きを取った。当然、同点、逆転を狙ってのことだとは思うがちぐはぐさは否めなかった。

 66分、敵陣でボールを奪われ、ネガティブトランジションに移行。

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*川崎は7枚、ベガルタは4枚だが、ボールホルダーに対して3枚。

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*ロンドでかわそうとする川崎。石原、奥埜、蜂須賀がエリア密集でプレーを限定させる。リトリートまでの時間を稼ぐ。まあ分かる。

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*平岡がヘルプ、西村が気持ち寄って来た。5枚がこのエリアにいるにもかかわらず、エリアの凝縮率は高くない。そして取られる背中。取ったのは誰?大島だ。

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*嫌な予感しかしない。ほとんどノープレッシャーでボールを蹴りだす大島。よく見ると、中野、富田も寄ってきている。リトリートは?

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*大島から降りてきた小林へ。マークする大岩、後ろのスペースが怖いのか潰し役になり切れていない。そして用意されたレイオフをするためのスペース。レシーバーは、大島だ。我らベガルタプレス部隊、ハーフコートに8枚を集めるがボールにはほぼプレッシャーがかかっていない。パスカット狙いでしょうか、いいえ、引き付けられたのです。

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*大島から、右サイドでアイソレーションの家長へ。教科書通りのオーバーロードアイソレーションだ。結局、ベガルタは、ハーフコートに9枚を送り込んでいた形だったが、右への展開を許している。プレー原則なのか、ゲームプランなのか修正する術はなかったのだろうか。

 

(3)守備 -鎖でつながれ3センター-

 ベガルタは引き続き3センターでブロック形成。最近は、541ブロックではなく、試合を通して532での中央閉鎖を選択している。この試合でも川崎相手にもかかわらず効果を発揮。ただ、後半になるとプレー強度が落ちるのかスライド、チャレンジ&カバーが間に合わないシーンが目立っていった。

 64分、川崎の3+1ビルドアップに対して、2トップ+3センターで構えるベガルタ。そこを神出鬼没のトーマス・ミュラーではなく、小林悠に、車屋から楔パスが入る。

 69分、今度は、大島にたった1人で、ベガルタの選手3枚が無力化された。

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*ハーフスペース入口に立つ大島。ここは通さないよと門番の中野が立ちはだかる。ただし、富田、奥埜が中野が空けたエリアを埋め切れていない。

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*大島は、一度谷口に出そうとするがキャンセル。石原のポジションをいじり、中野をひきつけた。

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*右サイドにつける大島。ボールが自分の足から離れ、サイドの選手につくまでの間、中野はボールウォッチャーになった。中野がセントラルをやる限界がここだ。後方のスペース管理ができていない。それを見逃す10番ではない。プレジャンプでスペースランの準備。

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*あっさりハーフスペース侵入を許した。中野は必死に追いかけるが、西村は逆方向に体が向いているし、蜂須賀はマークを捨てられない。富田、奥埜は相変わらず中央に。大島はプレジャンプ1本で3枚のディフェンスを無力化に成功した。このあと小林のシュートにつながっている。

 

(4)ポジティブトランジション -残念、そこは-

 この試合を通しての狙いは、ポジティブトランジション時のカウンターだ。珍しくというか、なかなか立ち振る舞いが決まらないベガルタだったが、この試合はある意味やることが決まっていたためか、出してと受けてが意思統一されていた。ただ試合を通して存在感を増したのは、西村や石原、ジャーメインではなかった。そう、川崎の2セントラルだった。

 53分、自陣で平岡がボールをカットし富田へ。カウンター待機だったが、守田がパス予測しカット。カウンター予防となる。

 64分、ボールを奪い狙いの右SB裏へ西村が走る。でも、大島がピタリとつきカウンターの速度を殺した。

 65分、ミドルゾーンでボールをカットし西村。石原とクロスランを絡めてカウンターを完結させたかったが、そこには大島が。2人とも縦に走るしかなく、チャンスをつぶしている。

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■考察

(1)強固なボックス6

 川崎相手に6枚でバイタルエリアをロックしたベガルタ。川崎相手にロジックで失点しなかった事実には自信をもっていいと思う。あとは、試合通しての強度をどこまで保てるか、スペースを人で埋めるので、動かされた時に自動的にスペースができる構造的な問題をどう解消するか。どちらも立ち位置で解決できるものと思っている。

(2)消えたスクエアアタック

 消えた。気づけばファイナルサードでスクエアを形成するシーンがほとんどなかった。82分に椎橋、奥埜、中野、西村で形成するシーンぐらいだったか。当然、この試合のゲームプランは、CB脇・SB裏へのカウンターが第一優先だったこともあるが、二次・三次攻撃でスクエアを作って攻撃に厚みを作るシーンは少なかった。メンバー構成もある。疲労もある。川崎相手だ。ポジションに人をつけて、狙いで選手をセレクトするベガルタだ。でも色々あるけれど、誰もが息を吐くように作れるようにはなりたい。ひいてはボールを持ち続ける手段なのだから。

(3)主導権

 自分たちの狙いを出して、相手の狙いを潰すのは、だれが監督だろうとまずは考えることだ。そのなかに、相手の良さを消すやり方だってある。ただ、もっとベガルタの良さを出しても良いのではと思う。湘南やガンバ、川崎もそうだが、相手に合わせ過ぎてペースを握られ、そこを跳ね返さなければならない状態になっていた。この試合もそうだ。今回ははじき返せなかった。相手が首位争いしているチームだからだ。いかに自分の土俵に引きづり込むか、ポジショナルワールドに引き込めるかトライしていきたい。

■おわりに

 攻守、トランジション、ポジション、選手の質、ゲーム運びいずれをとっても一味も二味も違かった川崎君。ディフェンス裏へのカウンターを防がれ、2手目、3手目を出せなかったベガルタ君。たしかにディフェンスはやれた。でもそれだけでは勝てないし、それで満足するような時期は遠の昔に過ぎ去っていると思う。紙のようなディフェンスと言われた川崎が重厚長大な442ブロックを構築しているところを見ると、勝つために何が必要かを何個も何個も持っているのように思える。やりたいことをやるために、やり方を変える。やりたいことと試合ごとの狙いとは、違うように思える。その狭間に今やるべきことがある気がする。気がするだけ。また、友人に課題を与えられてしまった。

 「僕は毎日朝起きると新しい自分に生まれ変わるんだ」こう言ったのは、リチャード・ギアだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

 footballistaRenato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com