蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第34節 ヴィッセル神戸vsベガルタ仙台(3-2)「それでも、可能性という名の神を信じて」

■はじめに

 さて、行きましょうかリーグ最終戦。相手は、リージョ率いるヴィッセル神戸。スコアだけ見れば、サッカーで最も美しいと呼ばれるスコアでの敗戦、一人少ない逆境の中、最後まで戦い続けたのかなと思っています。まさか最終戦まで記事を書き続けられるとは思っていなかったので素直に驚いています。飽き性の自分なりに、小さなサッカー脳で今回も鬼ゲーゲンプレスをかけていきます!では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、3-1-4-2を採用。守備時には、5-3-2になる陣立てだ。メンバーは左WBに関口、右WBに古林を起用。そして2トップの一角にジャメだ。押し込まれる状況を想定して、相手SB裏、CB脇をポジトラで突いていく狙いか。アンカーに富田を起用しているのもある程度ボールは譲るがスペースを譲らないといったところか。1年間続いた渡邉監督の壮大な冒険と実験がまずは一区切りする。レーン、立ち位置。昨日は今日の糧に、今日は明日の糧となれ。

 対する神戸。ポドルスキイニエスタのウィングなんて、数年前の自分に言ったらどれだけ信じてもらえるだろうか。しかも来年からはビジャが来るなんて。こちらは、ポジショナル王国、キングダムリージョからやってきたリージョとその哲学を共有するメンバー。思想家、哲学者という評価が一般的なリージョだが、神戸のサッカーはわりと論理的で現実に即した形になっている。それでも、70分以降の運動量低下や守備強度を見ると痛点もあるため、ベガルタとしてはそこを狙っていきたい。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

■前半

(1)攻撃:ポジショナルアタック  ビルドアップ:ポゼッションによるビルドアップ

 ベガルタのビルドアップは、この試合もポゼッションによるもの。これまであらゆるビルドアップ妨害を回避するために身に着けていったビルドアップを披露。5分には、早速、板倉、富田、大岩、ダンで菱形成。合わせ技で右ウィングレーンに平岡がレーンチェンジする擬似4バック+菱形ビルドアップを見せる。

 ポジショナルアタックも24分には、1stプレスラインの裏で富田がボールを受けて、石原に中盤スキップの楔パスをつけている。石原のレイオフがチャンネルランの奥埜につく。

 ボールを持たれる展開、奪って早くの展開のなかで、こうやって相手のプレスを回避して前線にボールを運ぶやり方をきちんと理解していると思うし、それを実行する能力を備えているのだなと改めて実感した。ポジショナルアタックは、死んでいない。

 

(2)ネガティブトランジション:リトリート

 いつも通り、奪われたらボール付近の選手がゲーゲン。その間にリトリート。

 

(3)守備  プレッシング:攻撃的   組織的守備:ゾーンの中のマンツー

 ベガルタのセットディフェンスは、5-3-2ブロック。しかも、2トップは前プレせず、3センターと協働して中央の密度を上げる役割。そこからサイドへ誘導させて、WBと2トップが挟み込んで奪いきる狙いだ。神戸のインテリオールの郷家、三田に加えて、ポドルスキイニエスタがハーフスペースに降りてくる。プラスでCBをサポートする伊野波もいる。こうなると中盤は5枚いた方が安心という考え方もある程度納得する。

 ただし、90分間同じ手で攻めてくるほど、神戸もただの札束チームではない。そちらがそうするなら、こちらもこうしよう!とばかりに、3センターの脇を狙い撃ちしてきた。当然、3センターは動くが、動けばもといた場所が空く。元いた場所を埋める動きをするれば、さらに元いた場所があく。

 ポジショナルプレーの恐ろしさ。私は、ポジショナルプレーを「その時、そいつが、そこに、居ること」だと解釈している(個人的な見解です)。3センターが動いた時、イニエスタが、空けたスペースに居ることで、さらに別な選手が立ち位置を取り続けていった。25分ごろまでベガルタの守備もうまくやっていた。狙い通りだったのだと思う。ただ、相手の攻撃の変化(変化というより状況に応じた攻撃と言った方が適切)に対して、守備の変化をつけられなかった、事前準備のままだったのだと思う。もちろん、相手はリージョ神戸。イニエスタがいる。簡単ではない。

*概念図(構造上フリーな選手をここではジョーカーと呼んでいます。ここだけ)

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 さらに悪いことに、イニエスタポドルスキ番の板倉、平岡が降りていく彼らにデートするかしないかの判断が曖昧になる。中途半端な立ち位置を取ることで、背中にギャップを作って、SBに裏を取られるシーンが25分以降増えていった。f:id:sendaisiro:20181208092758p:plain

 こちらは、イニエスタポドルスキがウィングレーン→ハーフスペース→ウィングレーンと2段階レーンチェンジでボールを持った場合の図。

 

(4)ポジティブトランジション  ショート:ジャメ/石原/WB ミドル/ロング:縦志向

 神戸がSBを高く上げるため、その裏を2トップとWBが狙っていく。また、伊野波がアンカー落としでビルドアップするため、瞬間的に、中盤のフィルターが無くなる。トランジション勝負になれば、ポドルスキイニエスタの怖さは一瞬なのだけれど消える。12分に、伊野波がボール操作を誤って、中央で石原がボールを奪ってカウンターのシーンは、一気に選手が上がってきた。やはり、試合を通しての狙いだったのだと思う。ただし、前半、試合を通してうまくいったのかと言われればちょっと分からなかった。

 

■後半

(1)攻撃:ポジショナルアタック  ビルドアップ:ポゼッションによるビルドアップ

  奥埜の退場で1人少ないベガルタ。ボール非保持時間が圧倒的に長かった。ただ、72分のハモンのゴール、78分の攻撃ではポジショナルアタックを見せた。駒落ちのオリジナルフォーメーションは、4-4-1。しかし攻撃時には、ハモン、アベタク、ジャメ+WB関口がウィンガーになり4トップ、3-2-4になる。72分、古林に代わって菅井が入ってきたありからそれが顕著になっていた気がする。気がするだけ。

 そして、78分。今度は、アベタクをトップに据えた4-2-3へと変わっていく。アベタクがエキストラレシーバー(トップの位置から降りて後方からボールをレシーブする役割)として、GKダンからのボールを引き出し、ハモン、ジャメの2トップ+関口にボールを運ぶ役割を担った。1人少ないベガルタ仙台が変形、いや、変身した。あれは、フェイク9だ。

 神戸のトーンも落ちてきたこともありゴール前までボールを運ぶ機会も増える。最後は、大岩を1バックの守備専として、他を攻撃に回す。追加タイムにジャメのゴールで加点し、スコア2-3とする。ただそれも時すでに遅し。タイムアップの笛が鳴る。

*概念図

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  この形から、板倉がSBロールもこなす。ウィングロールの関口、左ハーフスペースに陣取るハモンと共闘して左サイドを圧倒する。

 

(2)守備  プレッシング:攻撃的   組織的守備:ゾーンの中のマンツー

 1人少ない状況で、ポジショナルを標榜するチーム相手に難しかったと思う。52分の失点シーンは、たしかにイニエスタのゴールが素晴らしかったのだけれど、三田に釣られた平岡、平岡のギャップを埋められなかった大岩・富田、イニエスタに中途半端についていったジャメ。3つのエラーが発生すれば、失点もする。ローポストに侵入されて一発で仕留められるということだ。

 それまでは、5-3-1の形でセットしていたが、57分の交代を機に4-4-1に変更。4-4ブロックで対応している。62分に3失点目をもらっているあたりを見るとまだまだなところもありそうだが、実験と冒険を続けるチームに可能性を感じる。

 

 

■考察

(1)再び光るピッチ

 制約条件のあるなか、難しいスコア状況のなか2点を返したことは大きなことだと思う。アベタクのフェイク9や4バックなど、当然記号にも目が行くが、それ以上に0-3という状況にチームが満足していない、勝ちを諦めていないところが大きい。監督や選手が良く言うように、サポーターに勝利を届けたい思いを強く感じた。

 

(2)激突、ポジショナルプレー

 今回、明確にポジショナルプレーを掲げるチームの対戦だったのだけれど、やはり、守備の部分での課題が出たと思う。事前にデザインされた守備で25分程度はハメ殺していたが、欧州系のチームを見ていても、大体20分くらいで大局が決まり、ではそれに対してこう変化をしましょうが流れになる。ベガルタも、相手の攻撃が変化してきたなら、守備のやり方も判断して実行できたらなお良い。もちろん、すぐできるものではない。だけれど、できると思っている。

 

(3)ゼロ時間へ

 これでリーグ戦の全日程が終了。最終順位は11位だ。目標としていたトップ5入りはできなかった。達成できたこと、できなかったことをスケールを設けて評価して、次に進む道を決めていこう。終わりと始まりは表裏一体。また、来年。

 

■おわりに

 イニエスタがゴールを決めた瞬間、僕は、笑いながら拍手をしていた。世界一のプレーを観れた喜び、止められない圧倒的力の差、畏怖の念、絶望のスコア。理由はいくらでもある。もう終わりだと思った。ポゼッション型のチーム相手に1人少ない状況は、かなり悪い状況。勝つのは至難。ハーフタイムにどうやったら勝てるか考えていた全てを破壊するゴールだった。

 3点目が入る。僕は、神戸がサポーター向けに行うセレモニー、ショーか何かが始まったのだなと思った。僕らは添え物。神戸の勝利に花を添える役割。勝てない。勝てるわけがない。この状況でどうやったら勝てるんだ。僕は、勝つことなんて有りえないと勝利を諦めた。

 僕は、有りえないものを見た。ハモンが左足を振りぬき、ネットを揺らした。その瞬間、鹿島戦で僕が呟いた「まだ、負けてない」が聞こえてきた。まだ、負けてない。まだ、負けてない。まだ、負けてない。少しずつ大きくなって、センターサークルにボールがついた時には、僕は「まだ、負けてない」と声に出していた。

 そして、ジャメのゴールが入る。時間なんてもうない。けれど、僕は、最後ホイッスルが吹かれるまで、勝利を信じて疑わなかった。チームが勝ちを信じているのに、僕たちが信じていなくて、何を信じるんだ。

 僕は、僕たちは、強くはない。この変化の激しい世界、激動の時代において、自分を信じている者なんて、そうそう多くない。けれど、自分を信じることができていない人間を誰が信じることができるだろうか。

 これかも、たくさん負けて、たくさん勝って、たくさん悔しい思いをして、たくさん喜ぶことになる。 今日もまた、サッカーは続いていく。

 

 「恐れるな。信じろ。自分の中の可能性を。信じて力を尽くせば、道は自ずと拓ける。為すべきと思ったことを、為せ」こう言ったのは、カーディアス・ビストだ。

 

■感謝の言葉にかえて

 日頃、ブログを見ていただいている方々へ、こんな形で失礼しますが、感謝を申し上げます。およそ5か月前に始めた戦術ブログですが、毎試合見て、ゲーム分析をしてレポートにすることを果たして続けられるか多いに心配だったのですが、「見られているんだ」と思うと自然と体が動くもののようで、おかげ様で最終節まで続けられました(笑)

 旗揚げ当初は、しばらくは一人で細々やろうと思っていたのですけれど、「仙台界隈」の戦術班の皆さん、熱いサポーターの皆さんに取り上げてもらって、素直に嬉しかったです。当然、試合を観たり、本を読んだり、Twitterでディスカッションしたりしてより良いアウトプットを出したいなと思う気持ちも強くなりました。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、天皇杯の決勝前日に書いているのですが、当日はこの瞬間を楽しみたいです。色んな思いとか理由、背景、文脈ありますけど、こんなイベントなかなか経験できないです。いつものように、「まだ、負けてない」と心で叫びながら楽しみたいと思います。

 人生最高の90分間にしましょう。

 

■参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html