蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第23節 ベガルタ仙台vsガンバ大阪(2-1)「ピッチ上の選択は。そして手にした勝利」

■はじめに

  ではではガンバ戦のゲーム分析いきます!すでにゲーム分析の前に天皇杯が行われており(マリノス戦)、果たしてこの分析にどのくらいの価値があるのか疑問だが、 Jリーグ屈指のイケメンショナルプレー対決、攻撃面で良いシーンが見られた我らがベガルタ。更新しないわけにはいかない。今回は、ゲーゲンプレスをかわされ、必死に80mのロングランで何とか書き上げました。もしよかったら、見ていってください。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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  ベガルタの3-1-4-2は、4-4-2系のチームに対してテンプレートになっている。2トップのコンビは、西村、アベタクの元気いっぱいコンビだ。狙いは、5レーンを意識して、粛々と立ち位置を取り続け、ゴールを奪うことだ。

 ガンバは、移籍してきた渡辺をFWに入れ4-4-2に。中央でガチャピンが攻撃のタスクを握る。監督は、ツネ様こと宮本恒靖監督になっている。ガンバはクラブOBに修羅場を経験させて監督としての経験を積ませる育成方針なのか。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃 -スクエアアタックとチャンネルラン-

 ベガルタの攻撃のキーは、チャンネルとスクエアだ。ガンバの守備意識は高かった。SBもSHも献身的にボールにプレスをかける。けれど、自分が立っていた場所から動けば、そこは空く。当然、味方が入れば、埋めに入った選手が立っていた場所が空く。立ち位置攻撃の特性をガンバは対応しきれていなかった。ベガルタは、そこを突いた。

 

 17分ごろ、渡邉監督が外した1本とコメントした西村の決定機。GKを始点にチャンネルラン、スクエアを織り交ぜた攻撃。機能美あふれたトータルアタックだった。

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*始まりは、ダンのキック。

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*中央のアベタクがポスト、中野にボールがつく。そして左ハーフスペースへ。ガンバは、ネガトラ時だが自陣への戻りが遅い。

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*中野は、左ウィングレーンの関口に展開。そのまま、左ハーフスペースを駆け上がる。マーク役の小野瀬は、そのまま中野につき、結果チャンネルを埋める形になる。

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*関口の選択は、カットイン。チャンネルランにボールを合わせる選択もあるが、関口はレーンチェンジを選び、マーク役の三浦、ボランチの高に対して、「選択」を迫った。

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*ガンバ三浦はついていった。高は、何を守るか曖昧になった。結果は、ガチャピン1人でバイタルケア、富田が前を向いた。

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*富田は、右ウィングレーンの蜂須賀への展開を選択。倉田が対応する。ボックス内、ベガルタ4枚に対して、ガンバは6枚。ベガルタ+2枚だ。どこかでだれかが余っている。そう、左ウィングレーンの関口だ。アイソレーション、ステンバイ。

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*右ウィングレーンの蜂須賀のフォローに入ったのは、ハーフディフェンダー平岡。蜂須賀は、ボールを渡し、倉田の背中を取るランニング。倉田は、オジェソクに蜂須賀のマーク受け渡しを指で指示している。引き続きボックス内を見るが、マークがズレている。圧縮しているはずなのに、圧縮していない。西村が、浮いている。小さなズレが大きなズレを生み出す。平岡の選択は。(ちなみに、蜂須賀のランは、平岡、富田、中野でスクエア形成になる)

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ベガルタ、ガンバ、それぞれの選手がそれぞれの「選択」をした結果、平岡は、フリーでルックアップしてクロスを上げることに。倉田は「そこ」にいるが、平岡のクロスを防げていない、中央を中野へのパスコースを防げていない、蜂須賀も見切れていない。平岡のフォローが倉田を迷わせ、蜂須賀のランが頭をパンクさせ、「そこ」にピン留めさせた。

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*審判の時が来た。選択の結果、アベタクと奥埜がディフェンス2枚に、中野は、ファビオ、オジェソク、遠藤の頂点に。そして、ハーフスペースに西村が。ボックス内、5対4だ。奥埜のポストから、西村へ。その時が来た。ゴールシーンが決定機になった。

 

 決まっていたら先制点だったシーン。ダンのキックに始まり、中央→左→中央→右と振って、チャンネルラン、スクエアを織り交ぜて、平岡のクロスから西村のシュートが。特に、中野のチャンネルラン・スクエア頂点作りと関口のレーンチェンジ、平岡のフォロー・蜂須賀の背中取り、小さなズレは、大きなズレとして、ゴール前にフリーの西村を作り上げた点が素晴らしかった。大岩、椎橋以外が直接絡んだトータルアタックは、ベガルタの選手にとっても選択の連続だったが、同時に、ガンバの選手にも選択を迫った。決まっていれば、今季ベガルタのベストゴール!は言い過ぎだと思うけれど、立ち位置攻撃の極みだった。

 

 31分、右ウィングレーンで蜂須賀がボールを持ち、ここでも平岡がフォローに入る。オジェソクが食いついたタイミングでアベタクがチャンネルラン、ローポスト侵入。左ウィングレーンから入ってきた関口にマイナスクロス、シュートに繋がる。

 32分、右ハーフスペースを平岡がドライブ、倉田に仕掛ける。右ウィングレーンの蜂須賀につけ、リターンを受ける。平岡、蜂須賀、富田、西村でスクエア形成。平岡は下がってきた蜂須賀に預け、前へ。開けたスペースに富田が入り、蜂須賀からボールを受けるローテーション。

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 36分、奥埜が右ハーフスペースでボールを受けシュートを放つ。

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*始まりはやはり、クォーターバックのダンから。中央の富田につけ、右ウィングレーンの蜂須賀へ。倉田とオジェソクが対応する。オジェソクはWBへの食いつきが良かったが、チャンネルを広げる結果に。遠藤か倉田が埋めるか、逆サイドのSHがディフェンスラインに吸収されるかで圧縮を維持するが、倉田が頑張り過ぎるのかできていない。

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*それを見逃すデュエルマスター奥埜ではない。しっかりとチャンネルラン、右ハーフスペース、ボランチ背中でボールを受けることに。ちなみにボックス内は3対2だが、アイソレーションで関口がいる。

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*アベタクに楔パス、レイオフレイオフレシーブからのシュート。ガチャピンがアベタクのポストを潰しにいくが、結果、奥埜のシュートスペースを空ける。

 

(2)ネガティブトランジション -トランジションマン奥埜-

 ネガティブトランジションは、やはりデュエルマスター奥埜が主役。あとは3センターの距離を調整しているか。あとは、パスカットを狙うのか、パスレシーバーをマークするのか、奥埜のがんばりを昇華させる仕組みを構築したい。

 と言いつつ26分は、先制点を許したシーン。クリアボールを拾われた流れから、渡辺千真に移籍後初ゴールを許す。

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*ボールを持ったのは、ハーフスペースの高。前節一人ゲーゲンプレスを支えていた奥埜を振り切り、3センターの中心に侵入。渡辺はつかさず、バックドア。中野、奥埜はボールホルダーに絞り切れず、高のパスコースも切れていない。3人のレシーバーに対しても、マンマークでも、パスカットでもない気がする。エリア密集でもない。果たして、ゲーゲンプレスのタイプは。奥埜のがんばり+他の選手の立ち位置で調整か。

 

(3)守備 -5-3-2ブロック-

 ハイゾーンでは、マンマークでビルドアップ妨害。ミドルゾーンでは、5-3-2ブロックで進出を防ぐ狙い。3センターの脇をSBが進出するが、そこはスライド対応。

 9分、仙台のビルドアップ妨害。2トップと奥埜、中野、SBへは蜂須賀が準備。

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*ガンバは2バック+GK+ガチャピンでスクエア。ベガルタは、人につくで妨害を図っている。

 20分、ミドルゾーンでのビルドアップ妨害。

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*2バックポゼッションに対して、5-3-2-0の形でミドルゾーン圧縮・中央閉鎖。CBにフリーでボールを持たせて、ボランチを2トップ脇に落とさせる。落ちてきたところで、センターの一角が追いかける。ボールを下げさせて、ラインを上げる狙いだ。

 

■後半

(1)攻撃 -ポジショナルワールドへようこそ-

 同点、逆転を狙うベガルタの攻撃は、やはり、チャンネルラン、スクエアアタックだ。特に、オジェソクは蜂須賀へのチェック意識が高く、チャンネルを空けるケースが目立った。倉田も平岡への意識が強かったのか、埋める動きもなく、ガチャピン、高もケアしなかった。結果、奥埜のチャンネルランが決まった。また、スクエアも作れているので、ガンバは誰かにつくと誰かが空く、空けてもいいけれど、支出を回収する動き(最後はゴール前ではじき返す、サイドで奪う等)があまりできていなかった。

 *攻撃概念図。

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 49分、スクエア形成。蜂須賀が右ハーフスペース、奥埜が右ウィングレーン、平岡、富田の2センターのような形で立ち位置ローテ。倉田、オジェソクのポジションをズラすことに成功。

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 同49分、今度は、関口のカットインから、中残り、左ハーフスペース侵入。右サイドにボールがつくと今度は蜂須賀から西村、蜂須賀はハーフスペースにランニング。

 51分、ダンから富田へ。ここでも3バック+GKでスクエア。富田から蜂須賀へ展開し、蜂須賀にオジェソクを食いつかせることに成功。奥埜がチャンネルラン、ハイポストへのパスに繋がる。

 

(2)守備 -意地でも5-3-2ブロック-

 ベガルタは、試合通して5-3-2ブロックを敷く。対するガンバは、4-2-2-2で3センター攻略戦に挑む構図に。ベガルタは、スライドが間に合わないケースやサイドチェンジされたら明らかに決定機を迎えていたが、そこは何とか耐えた形だ。

 70分、5-3-2の痛点を突かれる。奥埜がサイドに釣られ、中央のガチャピンがリターン、間髪入れず楔パスを渡辺に打ち込んでいる。渡辺はサイドにレイオフ

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(3)ポジティブトランジション -迷っている間に行けるぜ-

  ベガルタは、奥埜、富田がポジトラのスイッチ役だった。これまでポジトラ時の立ち振る舞い、ポゼッション確保なのかカウンターなのか明確ではなかったが、この試合では、前に前に出ていった。ガンバのネガトラ時のポジション、動きとも関係すると思う。明らかに後ろのカバーを無視したボール奪取を試みて、外され、カウンターを受け続けた。西野ガンバを思い出させるような守備陣に、ディフェンスリーダーの宮本は、何を思ったのだろうか。 

 52分、パスカット型包囲?から、奥埜がカット。富田が左ハーフスペース脇に位置する西村へ。なぜか3人で奪いに行くガンバ。背中をアベタクが取る。奥埜、蜂須賀は、空いているバイタルエリアに向かう準備をする。奥埜にボールが入り、倉田が寄せるが、そこは引き付けて話す。アイソレーションの蜂須賀は、ボールを受けるとシュートまでいく。

 53分、富田がトランジションスイッチをオンに。西村に楔パスを入れた瞬間、ガンバ守備部隊は、9人がベガルタ陣に入ってきた。左ウィングレーンのアベタク、ボックス付近で中野にスイッチすると、ローポストで構える奥埜、そして西村の日本人トップタイのゴールで同点にすることに成功。

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*サイドで3枚がかわされるガンバ。むき出しのバイタルエリア。裸になった3枚のディフェンス。奥埜、蜂須賀が広大なエリアに向けてスプリント準備だ。

 56分、今度は奥埜がデュエル勝利。平岡、そして蜂須賀へ。ここでも平岡、蜂須賀、奥埜、西村でスクエア形成。蜂須賀の右ハーフスペースへのレーンチェンジから奥埜へ繋ぐ。左ハーフスペースで受けた奥埜は、レーンスキップで左ウィングレーンでアイソレーションの関口へ(渡邉監督の試合後コメント通り)。関口のアベタクへのクロスは、オジェソクのオウンゴールとなっている。オジェソクは、チャンネルを空ける、アイソレーションに対応するで苦慮していたところにオウンゴール。辛すぎる。ケガ明けの藤春と交代に。

  

■考察

(1)This is ベガルタ

 立ち位置を意識した良い攻撃ができたベガルタだったと思う。監督交代した、4-4-2系のチーム相手だったとはいえ、相手を見てどこが空いているのか、空いているところを攻撃することができていたと思う。今シーズンは、なかなか、相手にさせてもらえないケースが多く、質や数の力で勝ち点を得てきている。このタイミングで、きちんと立ち位置攻撃が出来るのだと証明できたことは大きい。

(2)調律するか、調律されるか

 やはり先制点を許したことはいただけない。渡邉監督の言うように、逆転する力はあるが逆転にはパワーがいるのだ。そのパワーをどこか別の場所で使いたい。ベガルタがポジショナルワールドに相手を引き込むか、相手がどんなワールドを展開するのか見てみようじゃないかなのか、それはもう将棋棋士の棋風に近い。でも、相手の手の内を知るために失点までする必要はないと思う。

(3)野津田がいなくても勝てるサッカーをしていれば、野津田が出てくる

 吉武博文が「10人のバロッテッリがいたら、1人は長谷部になる。その逆もしかり」と言っているが、今のベガルタは、野津田不在のなか、どうサッカーを進めていくか模索し続けていた。要するに野津田がいなくても勝てるサッカーを目指していた。結果はどうだろう、やっぱり野津田はでてきた。それが奥埜だと思う。当然、全く同じタイプの選手だと言いたいわけではなく、攻守・トランジション時において、タスクを持ち、相手の狙いを崩し、自分たちの狙いを実行できる選手になった。だから多分、今我々が目にしているサッカーは、選手の無限の可能性を引き出すサッカーなのかもしれない。

■おわりに

 「俺たちはゴールまで一度も間違えない。さあいくぞ」といった具合に、常に相手に対して選択を迫り続けたベガルタ。あとはそれを前後半の開始からやりたいし、もっと自分たちがやっているサッカー(プレー原則)に対して、自信を持つべきだ。そういう意味ではまだまだ伸びしろのあるチームだと思うし、個々の選手においても、まだまだ成長する余地もあると思う。誰かがいなくて自分たちのサッカーができないのであれば、それができるように、自分は何をするべきなのか。それを自分自身に問いかけ続けるサッカーだから、僕たちはどこまででも行けるのかもしれない。

 「恐れることを恐れるな、進め」こう言ったのは、イビチャ・オシムだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballista, Renato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012) 

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフあまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com