蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【転んでもいいよ、また立ち上がればいい】Jリーグ 第3節 ベガルタ仙台vsヴィッセル神戸 (1-3)

■はじめに

 さあいきましょうか、神戸戦のゲーム分析。いろんな文脈がある試合なのだけれど、どんな時でも90分間の試合に全てが詰まっている。ということで、いろいろと目線が空高い神戸との対戦なのだけれど、ベガルタがどこを向いていて、どこに向かっていくのか世界最高の選手たちを相手に表現してほしい試合だ。ということで、鬼のゲーゲンプレスいきます。では、レッツゴー。

■オリジナルフォーメーション

f:id:sendaisiro:20190312232522p:plain

 さてベガルタルヴァン杯も戦った影響で、メンバーを少し変えている。WBにタカチョー、シャドーにアベタク、1トップにジャメを起用。シマオはリーグ戦2試合連続出場だ。長沢、ハモンの高さが無いなか、機動力のあるメンバーで前からプレスで嵌めてしまう、トランジションで上回る狙いか。ボールを持つ、エリアの主人であるか否かがテーマになりそうな試合。飛ばすぜ、振り落とされるなよ?といった具合か。

 一方の神戸。キングダムリージョ軍は、ビジャという最高のFWを前線に加えて、CBにはボール出しができるダンクレーを獲得。もはやリーグの枠を超越している。4-2-3-1がオリジナルなのだけれど、この数字にあまり意味はない。隙を見せたら、死はすぐそこまでやってくる。

■目次

■概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

ビルドアップ:ポゼッション

ポジショナルアタック:ポゼッション

 ベガルタのビルドアップは、ダン・永戸・大岩・シマオのスクエア+平岡ビルドアップだ。ビジャがカバーシャドウで1人で2人守るプレスをかけてきたが、ここは、クォーターバックのダン。ウィングレーンに開いている平岡にボールを出すなど落ち着いていた。

 特に、この試合の一番の狙いは、左ハーフレーン・第3レイヤーで構えるエキストラキッカーのアベタクだ。QBダンのキック精度。アベタクのトラップ能力、レシーブ能力。持てるリソースを最大限に活かして、相手DF陣に迫った。選手個人に起因する能力を最大限発揮させれるという意味における質的優位性、位置的優位性を発揮する形だ。たとえそこで攻撃が完結しなくとも、スムーズにポジショナルアタックに移行していった。

 ただ、試合途中~後半になるとアベタクが警戒される。山口がデートなのか、ハーフレーン封じなのか、アベタクを封殺する時間が増える。21分、ダンからのキックを西が対応。67分には山口がアベタクからカットしている。この対応力はさすが代表級選手といったところか。これを利用してどこかで空く選手を使ってゴールに迫りたかった。タカチョーが余るシーンが多かったので、あとは練度を高めるだけか。

*概念図

f:id:sendaisiro:20190313000045p:plain

f:id:sendaisiro:20190313000152p:plain

 15分ごろのプレー。神戸のビルドアップ妨害の連携が取れない、前プレが効いていない状況を利用して石原が三田、古橋の背中に降りる。スクエア+石原でプレス網を突破。

f:id:sendaisiro:20190313000115p:plain

 QBダンからのレイヤースキップパス。通称擬似カウンターだ。しかもこの試合のベガルタは、レーンの意識が強く、攻撃シーンは3レーン、5レーンアタックのような形になっていた。

 ポジショナルアタックにおいても、攻撃の一手目はアベタクのローポストアタックだ。まずはアベタクが狙う。山口に埋められたり、ボールが出なくても、誰かが代わりに入ったり、アベタクがいたスペースを使うことでひとの循環を起こしていた。スペーシングというやつだ。そこまで高尚ではないかもしれないのだけれど。

 ポジショナルアタックの出口が見つからなかったベガルタにとって、これはひとつの解答かもしれない。ルヴァン杯では、左ローポストに侵入したアベタクがゴールを決めている。このエリアへの警戒度合いを上げれば、こんどはウィングレーンが空く。クロス。ゴール前。ズドン。これだ。

*概念図(呼び方は、footballhackさん、バスケの考え方から引用)

f:id:sendaisiro:20190313001008p:plain

 

■ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲンプレス&リトリート

 ゲーゲンというより、平岡や永戸が前で潰す意識が強かった気がする。というより、WBも含めて高い位置まで迎撃する意識だ。こちらもボールを奪われると高い位置までボール奪取に向かった。ただ、やはりベガルタの場合はそこからのリトリートの時間を稼ぐためのような気もする。

 

■ボール非保持時

プレッシング:攻撃的プレッシング

セットディフェンス:ゾーンのなかのマンツー

 この試合、WBとクイーン(左右CBいわゆるハーフディフェンダー)が高く迎撃するのが特徴だった。まるで1階から3階まで。階段を駆け上がるかのように。前で潰せばラインなんてあってないようなもの。それが4-4-2なのか、4-3-3なのか、5-4-1なのかはさして重要なことではない。ポジションレス。ボーダーレス。そんな相手に、数字遊びなんてしたところで意味がない。数字がないなら、数字無しで対応するしかない。

*概念図

f:id:sendaisiro:20190313002000p:plain

 イニエスタを中心にロジカルにぶっ壊された去年のリーグ最終戦から見ると、今年の守備への取り組みの成果が出た気がする。ただ、失点はどれもひどい。31分の失点は、アベタクのクリアミスから。その前に29分には平岡が似たようなクリアをいわゆる「バイタルエリア」に放り上げてる。いのちをだいじに。2失点目も、キックオフボールを奪われ簡単に背後を突かれた。3点目は進行方向を塞がれ蹴っ飛ばしたボールが相手に。

 これだけミスをしていれば、見逃すほど簡単な世界ではない。しかも、ビジャだ、ポドルスキだ、イニエスタだ。何度でも言うさ。簡単ではない。みんなが前掛かりになっているのに後方でミスをして奪われる。チャオ、君は終わりだ。 

*概念図

f:id:sendaisiro:20190313002022p:plain

 無理くり神戸の形を概念化した。これがすべてではない。ただ、キーになるのはジャメの両脇と石原の後方(というよりイニエスタゾーン)かなと。あとは、両SBが幅をとって、古橋、ビジャが神戸の最後のレイヤーを狙い続ける。ベガルタは、ミドルゾーンでは5-2-3のような形。ローゾーンでは5-4-1で迎撃した。

 

■ポジティブトランジション

ショートトランジション:前線の選手へ

ミドル/ロングトランジション:縦志向

 さて、ポジティブトランジション。この試合の勝負手だ。自陣で奪えば前の選手に繋ぎ、コレクティブカウンターを繰り出していた。3分の3線速攻なんかは、喉元にナイフを突きつけて「覚悟はいいか?」といった宣戦布告だった。ほかにもCB脇あるいは背中を狙うジャメ、ハーフレーンで構えるアベタクにボールつけていった。

 ただ20分あたりから、GKスンギュがノイヤーロールで対抗。もっとジャメがスペースに走り込むシーンを増やしたかったが、この対応スピードの速さ、さすがとしか言えない。兵は拙速を貴ぶ。兵は機動なり。

 ■考察

ダンとアベタクのポジショナルアタック

 よく後方の貯金を前方へなんて聞く。この形が一番なのかなと思う。ダンのキック能力が日本代表級であって、この質的優位性を利用しない手はない。個人的には、去年の年末から実装してくれないか願っていたのでうれしい。レシーバーとしての能力を開花させているアベタクとのユニット攻撃だ。ただ、どちらかというと、瞬間移動攻撃か。それとも瞬神の術とでも呼ぶべきか。

 

過ちを認めるか認めないか。若さか大人か。

 結局ミスからの失点。まあ、ミスからじゃない失点は厳密にはないのだけれど、少なくとも自分たちから招いた、相手に手を貸した失点だ。丁寧に。丹念に。そうでなければ、僕たちは終わる。

 

良い立ち位置の未来の先へ

 前半に今年一番の輝きとバランスを見出した我らがベガルタ。尻すぼみしてしまったのが痛かった。久々にレーンを強く意識した攻撃を見ることができたし、それに縛られない形でのポジショナルな攻撃も見ることができた。レーン導入3年。J1在籍10年。クラブ創設25年。続けていく。まだ始まったばかりだ。

■おわりに

 壁。壁。壁。三重の壁が僕たちの前に立ちふさがる。結果という壁。スコアという壁。闘い方という壁。失ったものを取り戻す形で創り上げてきたもの。それが壁として目の前に、四方に広がる。壁同士で声が反響する。不安も、心配も、恐怖も、怒りも、苦痛の声もまた、反響して、大きくなって自分の耳に届く。試合後のユアスタは、壁に取り囲まれていた。あれも、これも、それも、どれも何もかも足りない。僕たちは、速く走れないし、空だって飛べない。努力は報われないし、夢も叶わない。

 でも、このクラブ以上に一番だと言えるクラブがあるか。選手がいるか、監督がいるか、スタッフがいるか。スタジアムも、この土地も。唯一無二。天国にするのも地獄にするのも僕たち次第のような気がする。多分。偉そうなことは言えない。高ければ高い壁のほうが登った時気持ちいもんなって、誰かが歌っていた。ひとつ、昇ってしまいましょうか。

 

「スクラップ&ビルドでこの国はのし上がってきた。今度も立ち直れる」こう言ったのは、赤坂秀樹だ。

 

■参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html