蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。朗らかな戦い編

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散歩、散歩、私は元気

年が明けた1月2日。

受験、真っ只中である。

晦日も、正月も、すべてを受験勉強に捧げた僕は、外界に出ていた。

といっても、人混みに出ることは厳に、慎むべきである。

自らが風邪やインフルエンザの類にかかることも、かかって誰かにうつすことも許されないのである。

まさに、文字通りに、四六時中家のなかに籠って勉強をしようものなら、至極、これも至極当然に外の空気とやらを吸いたくなるのである。

まるで、囚人のように。

試験の囚人。

 

「おや?」

 

人気のない、正月三が日の神杉高校前から勾当台公園への道で出会うのである。

少年。

いや、高身長の少女に。

 

「ん?」

「これはこれは。朗先輩ではないですか。」

 

これは、ある正月休みの国府多賀城朗の問いへ問いかける与太話である。

 

「よう、東照宮。どうしたんだよ、こんなところで…」

参拝を終えた感丸出し。

いわゆる、初詣である。

黒い着物に身を包んだ彼女はたしかに、綺麗だ。

黒が高い背をより綺麗に見せている。

「どうしました朗先輩。もしかして綺麗すぎて声も出ないってやつですか?」

「え、あ、いやそれは…」

これはまずい。

直視は毒だ。

恋をしてしまう。

「いいんですよ?今日ぐらいしか見れないでしょうから。存分に舐めまわしてください。」

「し、し、新年から変態にしようとするの止めてもらっていいでしょうか東照宮後輩!」

 

「ふふふ。そういえばこんなところでどうしたんですか朗先輩。まあ、おおかた、プリズンブレイクしてきたのだと予想しますけれど。」

「他人を脱獄犯みたいな言い方は止めるんだ。」

「ではこれはどうでしょう?受験戦争に疲れ、すべてを投げうって外の世界に飛び出した朗先輩。そんな悲痛に暮れる朗先輩は、ひとりの少女と運命的な出会いを果たす。そして少女は言う『私と世界を救ってほしい』、と…」

「いやこれ世界系ラノベでも、異世界モノでもないから!変なモノローグ挟まないで!」

「おやおや。僕の推測が珍しく外れてしまうとは。」

「全然珍しくもないけどな!」

「しばらく朗先輩に会わなかっただけだというのにこの体たらく。これは、とても悲しいことです。ね、そうでしょう?」

相変わらずとんでもない少女である。

「いやいや、散歩したくてこの辺を歩いていたんだよ。」

 

引っ掛かり。

「『散歩をしたくて』…ですか?」

その言葉を逃すほど、彼女は錆びていない。

 

「ああ。ちょっと散歩したくて歩いてたんだ。」

「朗先輩、本当に散歩したかったのですか?」

「そうだよ。散歩したかったんだ。」

「本当に?」

 

「本当だよ。まさか僕を疑ってるのか?まあたしかに、現実逃避だとか言われたらそうかもしれないのだけれど、僕だってさすがに、目が覚めている時間はずっと勉強だと気疲れするし集中だって持たないよ。」

「いえ、ごめんなさい。どうやら勘違いさせてしまったようですね朗先輩。」

「勘違い?」

「ええ、勘違い。場違い。段違い。」

段違い?

平行棒か?

見当違い。

「僕が気になったのは、果たして朗先輩は本当に、散歩を目的として散歩をしているのかと思っただけですよ。」

「はい?」

「つまり、結論から言うと、いえ仮説と言うべきですか、『散歩という目的はこの世に存在しない。単なる行為であり、本来の目的は別にある』、ということです。」

普段何を考えていたらこんな仮説が思いつくのか。

感心してしまった。

「でも、僕はこうして散歩したくて散歩しているぞ。これはどう説明するつもりなんだ東照宮。」

それを聞くと彼女は微笑んだ。

不敵に。

 

「では、順を追って説明していきましょう。朗さん、単刀直入に聞きます。散歩は、何ができたら散歩として成立すると思います?」

さっそくついていけていない。

「?」

「物事には、目的があるのなら目標がある。目標があるのなら、それを達成するための手段がある。そして、目標を達成しているかを確認する評価がある。これは分かりますよね?」

「まあ、なんとなく。受験勉強に置き換えると分かりやすいな。」

「そうですね。大学に合格するという目的。〇〇点を取るという目標。参考書や問題集を使うという手段。実力を測るための試験。そのすべてに意味があり、繋がっています。」

「そうだな。」

「では、散歩はどうでしょう?散歩という目的を達成するために、何を目標とするのでしょうか?あるいは何を用いるのでしょう?」

「それは…」

「おそらくですが、いえこれは推測ですが、僕の問に対して朗先輩の頭の中はきっと、『散歩に出る前の自分』を思い出していたのではないでしょうか。」

「おお…まさしくそうだよ。よく分かったな…」

「やはりですね。僕は、朗先輩のことならすべてを熟知しています。どんなに厚着をしようが裸体にしか見えないのです。僕にとっては、ね?」

「ね?じゃねえよ!!!さらりと犯罪をほのめかすな!!!」

変態でしかない。

 

「朗先輩の想像、つまり前提は、散歩をする以前のことであって、僕が問いかけている散歩そのものの目的性であったり、目標については、ポッカリと抜けていたはずです。」

「たしかにそうだ…」

「それでは最初の問です。散歩の目的とは何なんでしょうか?何をしたら、散歩たらしめるのでしょうか?」

「…」

「分からないですか?ご安心を。いつものように、僕がレクチャーしてあげますよ朗先輩。朗先輩の頭のてっぺんからつま先まで舐め尽くした僕なら、すべてを捧げられますよ。」

「いつそんなことしたの??ねえ怒らないから教えて??」

一呼吸。

 

「朗先輩の最初にして最大の失敗は、『問に答えようとした』こと、ですよ。」

「?どういうことだ?」

何を言っているんだ。

問いは、答えるためにあるんじゃないか。

 

「朗先輩は、出題者である僕の問に忠実なまでに答えようとした…でもそれは、僕の出題が間違っていない前提です。出題者である僕を信じたこと…とでも言いますか。あなたを嵌めようした相手を信じてしまった…ここに落とし穴があるんですよ。」

「落とし穴…?」

「朗先輩は長引く受験戦争の末、出題者が絶対的な神様であることを前提に、いわば信仰して出題された問題を解いている。思考がそちらに偏っていても不思議ではない…」

なんだそれ。

受験信仰か?

いや、そんなことはどうでもいい。

 

「つまり、この場合、朗先輩が答えるべき正しい答えは、『散歩は目的ではなく手段』、ということです。」

「そ、そんなことなのか…?」

「おや?もしかして朗先輩は、大宇宙の発見みたいな答えを期待していたのですか?」

「いやだって東照宮が出題するなら、世界の理を突くような、それこそ森羅万象すべてを理解できるようなお手軽ウンチクかと思ったんだが。」

ちょっと期待しすぎたか。

「やれやれ。朗先輩、僕を買い被りすぎですよ。たとえ僕が森羅万象すべてを知っていたとしても、簡単に教えるわけないじゃないですか。」

「はいはい仲間外れですかそうですか。」

「少しずつ小出しにして、朗先輩から僕に近づこうと仕向けるに決まってるじゃないですか。」

抜け目ない。

やはり不敵か。

「いやそれ完全に罠だよねそれ!!!そうだよね!!!」

「まあ世紀の大発見なんてものは、過去の偉人たちが出し尽くしたので、残念ながら僕たちはその出し殻から学ぶしかないのですよ。朗先輩が今まさに取り組んでいるように。」

「それはそうか。というか、早く散歩の謎について教えてくれよ。これじゃモヤモヤのままで勉強に手が付かないじゃないか。」

「まったく。僕でそんなにムラムラしないでください。一応、先輩としてのなけなしの威厳を守ってください。それも無理なら、僕…がんばりますよ…!」

「ムラムラじゃくてモヤモヤだからね!!!」

 

「つまるところ、朗先輩は、気分転換がてら、リフレッシュがてら、ストレス解消がてら『散歩していた』のですよね?これはまさに、前者が目的であり、散歩はそれに付随する行為に過ぎないという決定的な証拠なんですよ。」

「…!」

「僕たちの生活のなかにあるあらゆる行動の選択肢。あらゆる優先順位。あらゆる目的。そのなかで、散歩のための散歩が果たしてあるのでしょうか?」

散歩のための散歩。

そうだ。

無い。

「そうですね。たしかにお爺ちゃんやお婆ちゃん達は、『散歩に行ってくる』と言って散歩に行きます。でも、本当に散歩のためでしょうか。おそらく違いますよね。ちょっとした運動がてら、気分を変えがてら、買い物がてら…」

がてら散歩。

がてらってなんだ。

いや、それはいい。

「先ほども言ったように、『散歩には何をしたら散歩』、『何が達成されたら散歩』が存在しない。これは見方を変えるのであれば、何をしていても散歩になるはずなんです。」

そんな欲張りセットみたいなことが許されるのか。

食いしん坊か。

「本人は、ただ河川敷や公園を歩くことを散歩している、散歩のために歩いていると言うかもしれない。百歩譲って、百万歩譲って、それが散歩のための散歩だとしても、散歩が何をもたらすのか。突き詰めれば、ダイエットだの、運動不足解消だの、リフレッシュのためだのと宣う。」

「宣うは少し言い過ぎなんじゃないか…」

いかん。

つい口に出てしまった。

宣ってしまった。

「つまりこれも、『ドーナッツの穴』と同じなんですよ。『散歩』と名付けるから散歩が存在する。目的は、本来果たしたい想いは、もっと別にあるというのに。」

本来果たしたい想い。

本当の目的。

こいつが言うとなかなかどうして重くなる。

「まあ要するに、東照宮が言いたいのは、『散歩は手段のひとつであって本来の目的にすり替えるな』ってことだな。いや、本来の目的を忘れるなってことか。」

「ご明察です。さすがは朗先輩、僕が愛する人。」

こいつの想いはどこにあるのやら。

「直球すぎて草すら生えんぞ。」

 

ここらあたりで、彼女の得意な口上<現象言語化論法>が来るのだけれど、彼女も変わっている。

成長している。

彼女は朗に、問いに対して、正確に答えることを要求される受験勉強的思考方法からの一時的な脱却を促したのである。

フランクに言えば、今回彼女が言いたかったことに準えて言えば、「息抜きがてら」頭の体操をしたというわけである。

 

「どうでしょう?絶対的な答えを尊崇し、出題者を神と崇める退屈な世界から少し抜け出せた気分は?」

「ああ、頭の体操になったよ。ありがとう東照宮。」

「そろそろ朗先輩を解放しないと、大真面目に受験に失敗してしまいかねないので、今日はこの辺で勘弁しておいてやります馬鹿野郎。」

「突然罵倒された!!??」

そんな趣味はない。

「本当は、もっともっともっともっともっともっと朗先輩と話したいし離したくないんですけれど。断腸の思いです。私の膵臓を食べてください。はい、あーん。」

これもそんな趣味はない。

「いらないから!!それに私って!!」

「いいじゃないですか。ケチ。朗先輩のドケチ。私が私って言うのレアだと思って受け取ってくださいよまったく。ケチケチケチケチケチケチ。」

「はいはい…」

「『はい』は、一回でいいんですよ朗先輩。習わなかったんですか?一体どんな高校に通っているのやら。」

「お前と同じ学校だよ!!!」

 

そういうやり取りをさらに何度か繰り返して、本当に解散した。

帰りに『Foot Lab』を買い忘れる僕ではない。

編集長の薬師堂さんと副編集長の榴ケ岡さんのサッカー対談なのだから。

随分と長い散歩になってしまった。

 

いや、散歩がてらの息抜きだった。 

 

人物紹介

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 神杉高校2年生。

 サッカーオタク。観る将。高身長で一人称が僕な不敵少女。

 おみくじは「小吉」だったらしい。 特に嬉しいも悲しいもなかった模様。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 神杉高校3年生。

 サッカーオタク。観る将。 受験勉強真っ最中(サッカー観戦も真っ最中)。

 

 

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「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。金色の歌声編

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夏の進路相談

アジアの極東。

とある夏。

8月31日。

18回目の夏。

高校最後の夏。

八乙女・ヴィクトリア・李七にとっては、憂鬱な夏。

目の前には2つの道。

路。

未知。

 

これは、彼女が彼女の進路と、彼女の欺瞞と向き合う与太話。

世界で一番の応援を受けながら過ごした、

 

夏。

 

「あづう…」

典型的な日本の夏。

目を醒ます11時。

「午前中溶けちゃったわ…」

ベッドから降りる。

机に広がる白紙の進路相談用紙を横目に。

クーラーをつけ、部屋を出る。

階段を降りてリビング。

「(適当にパンでも焼くか…)」

トースト。

パン。

8枚切り。

朝は、これで十分。

「もう昼だと言うのに、これを朝食にカウントするだなんて、なんて怠慢かしら八乙女さん。」

重力少女のツッコミが幻聴する。

でもここには、もう一人、怠慢がいる。

 

「あらーおはよう李七ちゃん。」

寝癖がついた髪のままの黒髪を縛りながら。

母。

この場合、ママ。

「おはようママ。なんだ、ママもまだ起きてなかったんだ。」

「ええ、ちょっとヤバい〆切があってねー…しかも今日までのやつ。」

「いやもう午前中消えてるんですけど…」

「まあある程度はできてるしヨユーヨユー。」

「ある程度って…どのくらいなのよ?」

「ん?まあ、ある程度よ。」

「そう…」

だからどれくらいなんだってさ。

「あたしのパンも焼いておいてー李七ちゃん。」

洗面台へと向かう。

まったく勝手ばっかり。

「はいはい分かりましたよ。これじゃどっちが親か分からないわね…」

 

エリー・ヴィクトリア。

八乙女 英梨は、結婚してからの名前。

娘の前では、ママ。

 

食卓につく。

他愛のない、よくある休日の朝。

親子。

髪を下した金色とヘアゴムで縛った黒色。

 

「最悪よ。」

 

「何が最悪なのよ。」

「さっき洗面台で鏡を見たんだけどね。」

「何?シワでも増えてたの?」

「違うわ。この前染めたばっかりだというのに、もう黒色が剥げてきたの。」

知らないわよ。

「ふーん。この前っていつよ。」

「それは、この前よ。」

そもそも何で黒染めしてるわけ?

「まあ、ブロンドを黒くしてるんだから、そりゃ時間が経てば取れてくるでしょ。」

「ほんと、李七ちゃんは大人だねー。」

「ママが少し子どもっぽいだけよ。今時の高校生なんてこれがフツーよ。」

「それはそれは。世のママさんの井戸端会議が長くなるわけだ。」

食べ終わり。

用意する紅茶。

12時を回る。

まだ朝食後の紅茶。

贅沢。

イングリッシュブレックファストもびっくりだ。

 

「それで、李七ちゃんはまだ大学が決まらないのかなー?」

吹き出る紅茶。

「ま、まだよ考え中!簡単になんか決まらないって。というか、どうして分かるのよ?」

「親なんてものはね…」

またいつもの台詞か。

「親なんてものはね、子どものことなら何でもお見通しなの。『透明マント』を着て、あちこちついて回ってるからね。」

「ぷ、プライバシーの侵害よ!まったく…」

 

「ふーんそっかー。まだ迷ってるんだ。朗君のこと。」

 

「ちちちちちっちちちちち、違うわよ!!!あああああああああああああ朗は関係ないでしょ!!!」

ほんと嫌い!

何言ってんのよ!

「北海道なんかに行ったら、朗君と離れ離れになっちゃうもんねー。彼、地元に残るんでしょ?」

「そ、そうよ。それに、あいつがどこ行こうと別にあいつの勝手じゃない。」

「お嫁さんになるのに、遠くなっちゃうのは嫌だもんねー。」

イングリッシュブレックファスト!

吹き出る紅茶。

「だだだだだだだだから!!!それとこれとは関係ないっての!!!」

「えー寂しいじゃないの。ママ、李七ちゃんが朗君と一緒じゃないと寂しくて死んじゃうとか言い出すんじゃないかって心配してるのよ。」

「い、言わないわよ!!それに…」

「それに?」

「それに、あいつは別に寂しくないから…」

「そうなの?李七ちゃんが離れたら朗君だって寂しいんじゃないの?」

「あ、あ、あ、あいつにはた、たた、た、た、大切な彼女がいるから別に大丈夫なのよ!!!」

なんで私が説明しているのよ。

「あら!朗君たらいつの間に。ママには何の報告もなかったなー。」

「あるわけないでしょうが…」

「で、それでも迷ってるんだ、李七ちゃんは。」

「……」

 

「自分のために宮城を離れるか。大好きな朗君が振り向いてくれることを期待して残るのか。」

「う、うるさいわね!ママに私の気持ちが分かるわけないでしょ!」

嘘。

全部お見通し。 

 

「……」

「………ごめん。」

「…いいのよ…」

ママに当たっても仕方ない。

「そうね、ママには、李七ちゃんの本当の気持ちは分からない。親なんていうのは…」

またいつもの。

「親なんてものはね、子どものことなら何でも知っている。知っているのだけれど、それは昔からのあなただけ。これからのあなたをママは知らない。」

「分かってるわよ…私、馬鹿だなって。」

「でも李七ちゃんは、自分で納得して、その馬鹿とやらをやっていたわけなんだよね?」

「……うん…」

「自分を騙すような、都合よく考えるような真似と言われても、李七ちゃんは李七ちゃんの気持ちに正直になったわけだ。」

「…うん…」

「それで?今の気持ちはどうなのかな?ママに話してごらん?」

まるで。

まるで、子どもの嘘を見抜こうとする母親ね。

魔法の言葉。

何でも話してしまう魔法の言葉。

 

「私、馬鹿だって思う…」

多分、一生叶わない。

願い。

夢。

もしかしたら、呪いに変わっているかもしれない。 

 

「……そっか。」

「…」

「ねえ、李七ちゃん。どうして、ママが北海道の大学を薦めたと思う?」

「え?音楽を勉強するためじゃなくて?」

「まあ、それもあるわ。そう3割ぐらいは。それだけじゃなくて、もっと他にあるのよ。」

「?」

もっと他の何があるの。

 

「李七ちゃん、あなたも知らない、あなたのことも知られていないところへ踏み出してみてもいいのかなーって。」

 

「……!」

「ママさ、パパとも話してたんだけれど、李七ちゃんのこと私たちの近くに置いておきすぎたなって思ってて。小さいころ、身体が強くなくて入院とかもしたじゃない。あと学校にも馴染めなかったり。だから、どうしてもあなたが可愛く、いえ、可哀そうに見えてしまってね。」

可愛い。

可哀そう。

「これは親として失格だなーって、しまったなーって思ってさ。李七ちゃんの可能性を狭めるようなことしちゃったなって思ったの。親なんてものは…」

また…

「親なんてものは、自分の子どもを世界一信じなきゃいけないのよ。ママたちが信じなくて、誰が信じるんだって思ってさー。パパと反省したんだよねー。」

「ママ…」

「だから、親のエゴもワガママももう終わり。もちろん、李七ちゃんには、地元の大学に行ってほしいと思うわ。親としてね。やっぱり離れて暮らすの、少し寂しいわ。」

 

私も寂しいよ。

寂しくないわけないよ。

ママたちにも寂しい想いをさせたくない。

 

「でもね、それはやっぱり私たちのワガママ。あなたの人生は、あなたのものなのだから、あなたが主役として物語らないといけない。私にストーリーテラーは務まらないわ。」

 

主役。

私が主役の物語。

物語の主役。

 

「好きだったサッカーも観れるし、ピアノだってずっと続けられたらいいなと思って、それであの大学を薦めたの。結構イケてない?」

イケてるって。

ナウい

「…うん…こんなことができるんだって、こんな先生がいるんだって、正直ワクワクした…」

「そう!その感情こそ大事にするべきよ!」

「……うん…」

「あなたは、あなたが望む方向に進んでいいのよ。昔の自分も、親からの期待も関係ない。あなたはあなたしかいないのだから。」

 

私の望み。

願い。

 

時計は、13時半ごろを目指そうと疾走していた。

 「少し…もう少しだけ考えてみる。」

「うん。納得いくまで考えてみなさいな。」

「ママは…パパも、私が何を選んでも大丈夫…?」

「うん?まあもちろんよ。死にたいとか言われない限りはね。」

「言わないわよこの文脈で。」

「親なんてものはね…」

ああ、また。

「親なんてものはね、子どもがどこいっても、何やってても、応援してしまうものなのよ。」

「そうなの?」

「そうなの。そういうものなの。」

「そう…」

そうなんだ。

「いい李七ちゃん。私たちは、世界で一番、あなたを応援している。声を嗄らして、手を高く掲げて、飛び跳ねて、あなたのチャントを歌って応援しているわ。だから…」

「…?」

 

「だから、いつでも帰ってきなさい。ここは、ママたちは、あなたの家で、家族で、ホームなのだから。」

 

こらえる涙。

ふり絞る。

言葉。

「……ありがとう。ママ。」

撫でる頭。

ママの手、こんなに大きかったっけか。

 

「そうそう!〆切がヤバいんだった!」

「そうよね。もう14時になるけど。」

「ヤバイヤバイ!このあともオファー来てるのもあるし。どうしたものかしらね。」

「さすが売れっ子作家。」

「それが聞いてよ李七ちゃん。次のオファーは、小説とかじゃないのよ。」

「へー。またインタビューとか?」

「これよこれ。サッカー専門誌の『Foot Lab』への寄稿記事なのよ。」

「ふーん。名前は、どっかで聞いたことあるわね。それこそ朗あたりが読んでたような。」

「なにやら骨太な専門誌らしくて、サッカーマニアたちの間で話題沸騰の雑誌らしいのよね。」

「へー、サカオタ量産雑誌というわけね。」

あの界隈(朗、詩)は必読本じゃないの。

「そこの副編集長から直々にアポを受けてねー。まあ、これがエキセントリックな人だったこと。」

「そうなの?出版関係とかって多いのかしらね、そういうの。」

「でも悪い人じゃないのよ。情熱もってポリシー持ってやってるのが凄く伝わってきたわ。その人もいろんな記事書いてきて、界隈じゃそこそこ有名らしいのよねー。」

「ある意味ママもエキセントリックというか…」

「これこれ名刺。」

「ふーん。Foot Lab 副編集長…って!女だったの!」

「そうよー。あー、李七ちゃんぐらいの年頃の女の子は、バリバリの男性副編集長を思い浮かべちゃうわよねー。」

な、何言ってるのよ。

「ち、ち、ち、違うから!!!ちょ、ちょっと驚いただけよ!!!」

「なかなか面白そうでねー。『あなたの心を揺さぶられたフットボールとは』ってのがテーマらしいのよ。」

「へー意外ね。もっと戦術オタクなことかと思ったけれど。」

「特別誌らしいのよね。来年の春とかあたりに出るらしいのよね。」

「随分と先なのね。」

「まあそのくらい時間があった方がいいわ…なにせ、こちとら40年間の英国サッカーを総復習して臨もうと思っているんだから…クククククククク…」

「頼むからオタク精神発揮しないで。身体を壊すから。」

 

「まあ、ママだって、それなりにはがんばっているんだから、李七ちゃんもたくさんがんばってほしいなって。」

「どうして努力の不均衡が起きているのかしら。」

「こんな親ウザいよね。でも、親って言うものはね…」

いつものがくる。

 

「子どもには、無限の可能性が秘めているって信じちゃう。期待しちゃうものなのよ。」

「そうなの?」

「そうなの。そういうものなの。」

「分かった。私、私の答えを出すわ。自分に正直になって。」

「うん。きっと、きっと李七ちゃんならできるわ。パパもママも応援してる。」

 

この後、李七がどの道を選んだかは、言うまでもない。

彼女にとってそれは、人生で初めてと言っていい冒険になる。

目一杯の応援を背に受けながら。

 

夢の劇場が、幕を開ける。

 

人物紹介

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 神杉高校3年生。

 サッカーオタク。見る将。

 将来の夢は、オールド・トラフォードで、ピアノのワンマンライブをやること。

八乙女・ヴィクトリア・英梨 (やおとめ・ヴィクトリア・えり)

 英国生まれで作家として活動する李七の母親。夫は、外交官である日本人。

 2人がどのようにして出会ったのかは、トップシークレット。朗曰く、真相を知った者は消されるとか消されないとか。

 

 

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「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。17

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不敵の意味

あの子、そうね、東照宮つかさという子は、それはとても人気がある子だったわ。バスケやら陸上やらサッカーやら運動も得意だった。特定のどこかには所属しないのだけれど、ひとたび出場すれば一番になるくらいには。それに容姿端麗ってこともあって、「カッコいい」と評判だったわ。僕っ娘なのは…まあ、相変わらずだったのだけれど。

でも、おかしいのよ。あの時、あの子あんな話し方<現象言語化論法>していなかったのよね。もっと、いわゆる普通の話し方だったわ。だから、私にとっては、彼女があんな話し方をするのがとても違和感で、というか、高校に入ってからもあんな話し方ではなかったはずよ。何かがあったはず。彼女にとって、雷にも撃たれるような転機が。

私としては、前も言ったのだけれど、今の彼女がとても不気味よ。どこか俯瞰しているような、諦観のような。中立的で、もとからの中性的な雰囲気が強化されている。

そうね、心が感じられないのよ。そんなもの、取るに足らないって、どこかで信じているような気がしてならない。だからこれは、私のワガママ。あなたに頼ることになるなんて。あの子、東照宮さんのこと、お願いしたいの朗。多分、私では、彼女に接近することもできないで終わる。ごめんなさい。でも、万が一にでも浮気したら殺すから。よろしくお願いします。

等身大自分次第

あんなお願いをされたら会うしかない。

会ってどうする?

話すしかない。

あいつの得意論法で?

話すしかない。

勝算はあるのか?

分からない。

でも、詩があそこまで言うなら。

死にたくもない。

 

決戦の勾当台公園

いた。

「…おい!東照宮!」

振り向く。

不敵に。

微笑んだ。

「おや?」

「はあ、はあ…」

息切れ。

運動はしよう。

「どうしました朗さん?もしかして僕を見つけて発情してしまったのですか?いけない人ですね…」

「…ち、違う…これは…走ってきた…からで…」

「まあそう仰らずに。逆に言えば、よくここまで興奮せず僕と対面で会話できていましたね。」

「そ、その…自信過剰なまでの…愛情表現は止めるんだ…」

落ち着く。

ルックアップ。

「それで、なんでしょうか?朗さんから僕のところに来るということは、これはかなりの大事ですよ。サードインパクトでも始まるんですか?」

「違う!今日は、お前と僕が満足するまで、いや、お前が満足するまで話がしたい!」

またも不敵に。

「おやおや。これはこれは大事だ。いいですよ、何万光年でも付き合いますよ。地の果てにだって行きます。」

 

「それで、僕とどんな話がしたいのですか?」

意を決して。

不敵の海へと、飛び込む。

「お前、俺のことが好きか?」

攻めには、攻めか。

「ほう、今日はそういう話ですか。いいですよお答えします。大好きですよ朗さん。」

ここまでは想定通り。

畳みかける。

「じゃあ、サッカーも同じように、大好きだって言えるか?」

 

間。

 

「ええ、大好きですよ。」

「違うな。お前は無理をしてる。俺や詩、李七と張り合うために。」

急所を突いた。

「どうしてです?なぜ僕が、そんな不毛な争いをしかけると思ったんです?」

「その喋り方だよ。それ、俺たちがそんな感じで喋ってると思って、そんな話し方にしてるんだろ?」

「…」

不敵が、静まった。

「それに、お前の『僕』って呼び方、それも、誰かの受け売りなんだろ。それか、誰かに認めてもらいたいからなのか…。ごめん間違っていたら悪いけど、でもお前を知る奴から聞いた限り、直接こうして話して知った限り、きっとそうなんだろ?」

 

間。

 

不敵が口を開く。

宮城野原さんですね…。やれやれ、結局僕は、あの人に勝てないのか。」

「え、それってどういう…」

 

「みんな、僕に『僕であること』を期待していたんです。僕は、それに応えたかった。いや、応えてきた。」

 

「僕であること…?」

「昔から僕は、身長が他の女子よりも高かった。いや、男子だって僕の方が高かったと言っても差支えはなかった。髪も短く、運動もそこそこにできた。そうすると、周りは僕をどう評価すると思います?」

「評価…?」

 

「『東照宮さんカッコいい』って言うんです。女子である、この僕に。」

 

「別に言うなとは言いませんよ。でも僕だって、ピンクや白のひらひらを着たいですし、『ケーキ屋さんになりたい』って言いたいんです。でも、」

「…でも…?」

「でも…そんなことをすれば、僕の存在は、きっと皆のなかから消えてしまう。僕は、みんなの期待に応えなければいけない。そう、『背伸び』をしてでも。」

「…それで、今みたいにしてるってことなのか。」

「ええ、お察しの通りです。髪も『ボーイッシュ』に。呼び方も『僕』に。みんなが僕に期待しているもの全てに応えてきた。でも、夏休みに朗さん、あなた達と出会った。」

「あ、あの時のあれは…」

「いいんですよ。宵闇の世界しか知らなかった僕にとっては、とても輝かしく、羨ましかった。そして、宵闇もまた、あなたの期待に応えたいと思った。」

「それで、いつもの癖が。」

「まあそれもあるのですけれど、もう一つ、今回の件で重要な人物がいたんです。」

「そうか…」

「ええ、宮城野原さんです。僕の過去を知り、朗さんの現在を知る人。」

「…そうか、お前は、詩のトレースを…」

 

「意地悪な言い方をしますね朗さん。僕はただ、好きな人に振り向いて欲しかっただけですよ。」

風が吹く。

寂しいほどに、冷たい秋の風が。

 

「どうでしたか?僕の半生は。とても、ありふれていて平凡な人生でしょう?結局僕には中身がない。誰かが好きだと言えば、僕も好きだと言う、そんな存在です。」

「でも…」

「?」

「でも、お前がサッカーを好きなことは変わらない。何がどうあれ、お前とサッカーを語ったことには変わらない。」

「それは、朗さんが…」

「違う!何で気づかないんだよ!」

「え…?」

「どうだっていいんだよ。どんな形でもいんだよ。俺と話を合わせなくたっていいんだよ。お前は、お前自身に期待し過ぎなんだ。背伸びし過ぎなんだ。」

「それはどういうことなんでしょう…」

「いいんだよ、お前のサッカーに対する愛情だとか、情熱が俺みたいなクソオタクより小さくたって。誰だって最初の火は、小さいんだから。そのままのお前で喋れよ!お前の灯した火を語れよ!」

 

「あ、ああ…」

不敵が、不敵でなくなる。

流れるのは、涙だけ。

両目から。

風に乾くことなく、流れ、流れ、流れ、流れ、流れ、流れ落ちる。

 

「どんなに小さくたっていい。背が高くなくたっていい。でも、等身大のお前自身の背筋だけは、きちんと伸ばしていけよ!!!」

 

流れ、流れ、流れ。

 

「お前は間違ってる!お前は、俺の期待に応えてると錯覚してる。逆だよ。お前は、俺の期待に何にも応えてない!俺は『等身大の東照宮つかさ』と話がしたい!!!」

 

僕は僕でいい。

いや、私のそのままで。

背伸びも、背中を丸めることも、もういらない。

この人の前では、サッカーの前では、多分、『私』でいられる。

 

涙を拭き。

背筋を伸ばし。

「ひどいですよ、朗先輩。後輩女子を泣かせるなんて。明日どんな顔で学校に行けばいいんですか。責任、取ってくださいね…」

「ああ、いや!!!ごめん、そんなつもりは!!!」

「いいですか?世の犯罪者は、大体そうやって言い訳するんですよ…!」

「ごめんごめんごめん!!!」

「ふふふ、私、こんなに人前で泣いたことないから、びっくりしちゃった。」

「そ、そうだったのか…って!今、『私』って!?」

「なんですか?私が私のこと『私』って言っちゃいけない法律か条例かローカルルールでもあるんですか?」

「いやいやいやいやいや!!!!!」

「ほんと、ズルいなあ、朗先輩は。なんでこんなに『カッコいい』んですか。しかも彼女持ちの癖に、私をこんなに、こんなに…」

「いや、マジでごめんなさい!!!先輩後輩関係なく、人類として謝りたい!!!誠に申し訳ございません!!!」

「まあ、いいですよ。そんな朗先輩、大好きですから。」

「…そ、そ、そういや、『先輩』って…」

「あーもううるさいなあ!いいじゃないですか、朗先輩のこと先輩って呼んだって!私だってねえ、先輩のこと先輩って呼びたい女子なんですよ!」

胸倉をつかむのは女子のやることではないと思うが。

「い、いや、分かったから、分かったって…!」

「あーもう、ズルいな宮城野原先輩は。ズルいなあ…」

「お前、心の声ダダ洩れだぞ…」

「朗先輩が言ったんですからね!背伸びするなって。僕…あ、いや、私だって色々と我慢してきたんですからね!」

「だから、その都度、オープンマインドにしてた方が精神衛生上にも、先輩衛生上にも良くてだな…」

「うるさいうるさい!先輩のバカ!こんな可愛い後輩を目の前にして、カッコいいことしか言わないなんて!バカバカバカバカバカバカバカバカ!」

「…ご、ごめん…」

 

ひとしきり叩くと、彼女は、

 

微笑んだ。

終わりの序の終

こうして不敵な秋が終わり、冬を迎えようとしている。

「朗先輩!」

「げえっ…!」

振り向く。

そこには、高身長美少女がひとり。

髪は、両肩を目指して少しだけ伸びている。

「どうしました?通学中に朝食べた物でも吐こうとしていたんですか?さすがに、僕にそんな趣味ないですよ。」

「僕を特殊性癖者にしようとするな!!!

歩く。学校へ。

「結局、僕のままなんだな。」

「ええ。長年の癖というものは、そうそう簡単には解けないものです。それに、ああは言ったものの、結構気に入っているところもあるんです。」

「そうか。まあ、お前が気に入ってるって言うなら、僕からは何も言えないな。」

「でもお気遣い、感謝してますよ。」

「まあいいよ。また、サッカー談義しようぜ。この前のチャンピオンズリーグで話したいことがあって…」

「まったく、衰え知らすのサッカー熱ですね朗先輩は。」

「あ、べ、別に、話を合わせてくれなくたっていいんですからね!」

「急にツンデレキャラへキャラ変しても無駄ですよ。」

「たしかに、そうだな。」

「ええ、僕は僕が面白いと思ったことをそのままにしか言えませんから。」

少し駆けだす。

高身長。

もう、背伸びする必要はない。

 

「お、おい、走るのか?」

「いえ、先に行く用事を思いだしたので。」

駆ける。振り返る。

「それと朗先輩。僕、最初から背伸びしていないことがあったんですよ?お気づきですか?」

「え、なんだよ。サッカー関係じゃないんだろ。」

 

「僕が朗先輩のことを大好きだという気持ちは、いつだって等身大だったんですよ。本当はもっと背伸びしたいくらいに。」

自信を持って言える。

 

「それじゃあ、また放課後にでも!」

朗らかに。

後輩は、駆けていく。

 

「あいつ…道端で話さなくても…」

警告!重力3倍!ブレイク!ブレイク!

 

「朗…少しいいかしら…」

 「ヒエッ」

 

振り向くと黒い笑顔がそこにいた。

「随分と楽しそうに登校しているわね、『後輩ちゃん』と。」

「いやいあやいあいあああああいいいいあやあ、これは、あ、、あだな!!」

「よろしくとは言ったのだけれど、少し違うんじゃないかしら…朗…」

「これがセカンドインパクトの続き、サードインパクトのはじまりか。世界が終わるのか…」

「……言い残す言葉はそれでいいかしら?」

「ぎょええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

冬は、もうすぐそこ。

 

 Fin

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。観る将。

 黒髪、肩ぐらいまで伸びた髪は変わらず。つかさとは中学が同じ。

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生

 サッカーオタク?観る将?

 高身長にショートヘアで一人称が僕。背伸びしていた少女。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

www.youtube.com

 

あとがき

  どうも、僕です。無事3rdシーズンが終わりましたね。今度は、後輩キャラが出て来て彼の、いや、彼女の独擅場でしたね。東照宮 つかさという少女は、おおよそ後輩とは思えないような自信と自負と不敵さをもった子です。詩曰く中性的で中立的で不気味と言ったのはよく言っていて、盤上を制圧するには十分すぎる個性でした。でも、そういう一見強さにも見えるものが、人間にとってあまり強くない部分だったりもします。ましてや、高校2年の少女ですから。

 誰しもが、見栄を張ったり、背伸びしたりするものですけれど、それをしてしまう心情も状況も分かります。でもいつかは、その伸びた分の筋肉痛が来る。それはやはり本人にとっても不幸ですから、どこかで等身大の自分を受け入れないといけないのかなと思います。できないことだらけかもしれないですが、そうやって見ることで本当に自分ができること、思っていることが少しでも見えてくるのかなと思います。

 絶賛その小ささに頭を抱えて絶望するような豆腐メンタルでこの物語を書いていますが、小さくても何でもゼロではなくイチであることが大事なのかなと最近考えています。朗が言った「お前の灯した火を語れよ!」は、中々どうして、自分にとってもくるものがあります。

 さて、いわゆるナンバリングタイトルとしては、次のシーズンがファイナルシーズンになる予定です。その前に、色々とすっ飛ばしたところを書いていければいいかなと。まだもう少し…少しになるかは分からないですが、きみせめとサッカー与太話とお付き合いいただければと思います。では、また。 

次回予告

受験、卒業式と渦巻く早春。

ある一人の狂人、いや、これは神との出会い。

業界を震撼させる新進気鋭の物書きの神様からの挑戦。

好きを好きで押し通した時、その「好き」は、本当に原型をとどめているのか。

すべてが変わる世界で、変わらない想いは。変わらないと信じることはできるのか。

これは、国府多賀城 朗にとっての「最後の問題」。

彼が彼たる理由を探す旅の終着駅。

次回、「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。ファイナルシーズン。

「 紅神と最後の問題 」

「お前が好きなのって、別にサッカーでもなんでもないんじゃねえのか?」

 

 

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。16

   f:id:sendaisiro:20200402212035p:plain

そういえば

「というか。」

「何よ八乙女さん。」

「そんなの、3バックになれば、簡単にかわせるんじゃないの?」

「李七、そんな『パンが無ければケーキ食えばええやろ』みたいなノリに簡単にいく訳ないだろ。」

「…あんたの中のマリー・アントワネットは関西人なの?」

「珍しいわね八乙女さん。あなたがわりとまともなことを言うなんて。1000ギル上げちゃうわ。」

「そんな最後の物語でしか使えない通貨なんていらないわよ!それに、別にあんたのために言ったわけじゃないんだから!」

「うわー、ベッタベタのツンデレ。」

「うっさいわね!!!ツンデレとか言ってジャンル分けしないでほしいわね!!!」

「いやだって完全にそうじゃん。金髪だし。あれ?そういえばお前、いつの間にかポニーテールにしてんじゃん。」

「は?いまさら気づいたわけ?もう最低最低最低!朝からそうだっつーの!それを放課後に気づくなんて最低!」

「まあ、そんなに髪型とかよく見てないというか…」

「ちぇっ何よ…いつだったか、あんたがポニーテール好きだって言うから、やってみただけなのに…」

「なんだよ?マルキーニョスの髪型?」

「違うわよ!!もう知らない!!なんでもないわよ!!」

 

ダン!(シュミット・ダニエルじゃないよ)

テーブルを叩く拳。

重力4倍(べぇ)だ。

 

「その金髪幼馴染ツンデレキャラとのイチャラブイベントは、いつ終わるのかしら朗?」

「ひーーーーーー!!!!」

オワコンドサンピン金髪のポニーテールが好きなんですって?私もしてあげようかしら?」

「大丈夫です!!!大丈夫ですから!!!」

前も聞いたわよね?どんな髪型が好きかって。どうしてその時言ってくれないのよ…どうして私にだけ言ってくれないのよ…私だけが、私だけが、私だけが、朗の好きな髪型にできるんだから…!私の私の私の私の私の私の王子様…!

「スーパーヤンデレヒロインになってるから!!!」

「さりげなくディスられてるけど、これは完全に朗が悪いわね。」

攻撃側の対応について

「そうね。八乙女さんの言う通り、サイドバックやセントラルハーフがセンターバックと近いポジションを取って、相手の2トップに対して、3人でビルドアップする対応もあるわ。」

「そうなると…もう一人のセントラルハーフもいるし、2トップだけじゃプレッシャーかけるの難しくなるんじゃ…」

「だから、フォワードは、背中でパスコースを切りながらプレッシャーをかけたりするの。」

「なんか大変そうね。フォワードなんて、ゴールを決めてこその役割だと思うのだけれど。」

「まああながち間違いではないわね八乙女さん。でも、フォワードがパスコースを限定したり、ボールを持っている選手にプレッシャーをかけたりすることで、ディフェンスが助かるのよ。」

「そうよね…私も試合観てて、『どうしてもう一度追いかけないのよ…!』って思うシーンあるし。」

「あとはサイドハーフが加勢して数を合わせることもあるわね。」

サイドハーフですか?」

「もちろん、相手のビルドアップを破壊するために。前線からのプレスを成立させるためにね。相手と同数でプレッシャーをかけるのよ。」

「そうするとまた、守る側の状況が変わってきそうですね…」

「ええ。もともとサイドハーフが担当していたサイドバックが浮く。彼を誰が見るのか、あるいは、サイドハーフがさっきも言った背中でパスコースを切るのか。前で奪えればそれでOKなのか。これは、チームのスタイルやゲームプランにかかわるところよね。」

 

「でもそれ、どうせボールが自陣に向かってくるんだったら、センターバックなんて無視すればいいじゃない?ゴール前とかサイドではね返せれば。」

「驚いたわね、あなたの口から核心めいた言葉が出てくるとは八乙女さん。どうしたの?今日は、八乙女ではなくて九乙女なのかしら?」

「人の苗字を調子のバロメーター表示みたいに言うんじゃないわよ宮城野原詩!」

「あら?この前は、三乙女だったわよ。」

「な、なんですって…!!」

「いや、素直に信じるなよ。」

「まあこれも、スタイルやプランにもよるのだけれど、自分たちのストロング、つまりはゴール前だったりサイドの攻防にあえて持ち込ませてもいいわね。それは、センターバックのキャラや自分たちの狙いにもよる。実際、センターバックがボールを持ってもあまりプレスをかけず、ボールが出た先で奪うのを狙うこともあるわね。」

帰路で出会う

「じゃ、あんた達も真っすぐ帰りなさいよ!公園とかプリクラとか下着コーナーでお泊りセット揃えたりしないでよ。模試も近いんだから。」

「さりげなく混ぜた最後のやつは怒ってもいいですよね李七さん。」

帰る金髪。

「さ、私たちも帰りましょう朗。悔しいのだけれど、あの跳ね返り金髪の言うように、模試も近いのだから。」

「えーっと、今日は深夜にチャンピオンズリーグを…いでででででで!」

つねる。

頬。

ーーーグラビティハンド

「大人しくしなさい朗。あなたが大学合格しないと私が困るんだから。」

「ふぁいふぁかりぃましふぁふぁらふぉのふぇふぉふぁふぁふぃふぇふふぁふぁふぁい!」

離してから話して。

 

「おや?」

現れた。

「これは、随分と珍しいペアですね。朗さん、宮城野原さん。」

「げげ…」

「…」

 

高身長から、ショートヘアの不敵が現れた。

 

「?ああ、大丈夫ですよ、決してあなた達を張ってたとか、パパラッチしようとなんてほんの一ミリでも考えたことはないですから。僕も、一応家に帰るって行為を毎日しているわけで。その一環ですよ。」

そりゃそうだ。

「……帰るわよ朗。」

足早に立ち去ろうとする。

 

 

止める。

「そんなつれないですね宮城野原さん。僕とあなたの仲じゃないですか。」

「別に、あなたとそこまで仲良くしていた記憶は無いのだけれど。あなたの一方的な愛情なんじゃないかしら。」

「そうですか?まあ、それはそれでもいいですけれど。」

「い、いや……二人とも…」

「僕があなたをよく知っているように、あなたも僕のことをよく知っているはずですよ宮城野原さん。」

「ただ中学が同じだったというだけで、そんなに親近感を持たれても困るのだけれど。まあ、あなたは学校のエースだったから、逆に言えば私なんて眼中になかったはずでしょう。」

 

刺す。

「ええ、僕は、あなたには興味がない。」

不敵に、嗤う。

 

「あなたからの期待には応えられないですし。いえ、答えられないというべきか。」

「……詩…」

沈黙の重力。

 

「違いますね。あなたが僕に興味がないのですね。これは失礼しました。」

「…」

「ではこれで。お邪魔虫は消えることにしましょう。この現象を言語化するのなら『邪魔者抹消理論』ですね。」

いつもの笑えない口上。

ジャマモノハダレ。

 

「……あなた、それで本当にいいのかしら。」

「それは、僕が決めることじゃないですよ宮城野原さん。」

立ち去る不敵。

 

「…おい!東照宮!」

「……」

「ちょっと僕、あいつに注意してきますよ。いくらなんでも失礼すぎる。こんな挑発するような…。」

「いいのよ朗。私は、少しも気にしていない。むしろ、久しぶりにあの子と対面して、少し懐かしさも感じたところよ。」

「で、でも…」

「いいの。でもありがとうね。」

「あの口ぶり、東照宮とは中学で一緒だったんですか?」

「ええ、そうね…そう。でも、私は彼女を知らない。」

「知らない?でもああやって喋ってたじゃないですか。」

「違うのよ。正確には、今の彼女がどんな人なのか、私は知らない。きっと、彼女自身も知らない。」

「それってどういう…」

「知りたい?彼女の過去を。」

 

陽はまだ沈まない。

これは、たったひとりの、

 

少女の物語。   

 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。観る将。

 黒髪、肩ぐらいまで伸びた髪は変わらず。

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。

 今は金髪ポニーテール。 赤いリボンは変わらず。

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生

 サッカーオタク?観る将?

 高身長にショートヘアで一人称が僕。男女問わずの人気がある。不敵な女。 

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。15

 f:id:sendaisiro:20200402211920p:plain

終わりの序の続

とりあえず喫茶店

高校生が3人。

黒髪、金髪、男子。

「えーっと、またこうして3人で喫茶店に居るわけだけど…」

「何言ってんのよ。こんなの、単なる作者の使いまわしに決まってるじゃない。」

「ちょ、ちょっと李七…!」

「完全に同意ね八乙女さん。ただのネタ切れ導入なだけ。いいアイデアが思いつかなくて、昔のプロット引っぱり出してくるなんて、愚かさここに極まれりね。まったく。」

まさか冒頭からこんな仕打ちを受けるとは思わなかった。

「ま、まあまあ…僕たちも、結構放課後には立ち寄っているというか…」

ナイスフォロー朗。

「大体、喫茶店でサッカーの話って設定に無理があるんじゃないかしら。」

「どうせ高校青春物ならカフェにでもぶち込んでおけって思ってるんでしょ!」

ひどいな君たちは!

「……(とりあえず矛先がこっち向いてないから今日はツイてる)」

おい裏切者!

2トップの守備

「それで、今日は何の話題でいくの?」

「そう慌てないで八乙女さん。先に言っておくのだけれど、あなたが人生のすべてを捧げてるプレミアリーグの話は一切しないから安心してほしいわ。そんな重いテーマ、あなたは良くても周りがうんざりしてしまうのよ。」

「なによ宮城野原詩!せっかくポール・スコールズのプレー集動画をダウンロードしてきたってのに!少しは語らせなさいよ!」

「そういう恥ずかしげもなく趣味全開に自分の性癖を晒すスタイル、別に構わないと思うのだけれど、誰にも需要がないのだから、家でPCの前でやってほしいものね。誰もあなたの裸なんか見たくないから。」

「わ、わ、私がそんな、脱ぐわけないでしょ!そ、それにアンタみたいに、部屋暗くしてPCの前で『デュフフフッ!エジルたん萌えええええ!!!!』なんてやるわけないでしょ!サッカーなんてものは、みんなで観るからより一層楽しくなるんじゃない。ねえ朗?」

「あ、ああそうだな!好きなものは共有していくのは、オタクとしての鉄則だからな!宣伝!布教!これですよ!そういえば、シャビのマタドールターンの動画を見つけたから今度見せるぜ!」

「あー、私、プレミア専なんで。」

「ちっ、プレ専乙。」

 

高濃度の黒オーラを確認。

「……誰が根暗陰キャぼっち重力女ですって…?

 

「言ってない!言ってないから詩!というか、なんで僕が釈明してるわけ!」

とんだとばっちり。

「あーら、分かってたんだったらいいわよ宮城野原詩。別にあんたがどうしても一緒に見てほしいのなら、その重い頭を下げるっていうなら、考えるかもしれないし、考えないかもしれないわね。」

「……覚悟はいいかしら…八乙女さん…!」

「何よ。もうこっちは、エクスカリバーを抜いてるっての…!」

金黒戦争。

 

「気をとりなおして…。今日も、僕からお題を持ち込んだんですけれど。」

コーヒー。

コーラ。

調停材料。

「ハーフライン付近で守備をする時、2トップって色んな動きをしてるなーと思って。それで、2トップの守備とか攻撃側の対策とか議論できれば最高だなと!」

 

「はいはい続けて続けてー。」

「さっさと本題に入ったらどうかしら朗。」

低調。

 

「ぼ、ボールを持たずに攻撃するって考えたら激萌えじゃん…??え、えーっと、じゃあまずは、2トップの守備について、よろしくお願い申し上げます詩!」

司会進行。

面倒そう。

「毎回毎回私のターンからって言うのは、正直どうかと思うのだけれど。でも、そういう、何の恥ずかしげもなく丸投げしていくスタイル嫌いじゃないわよ朗。」

「いやいやいや丸投げじゃないって!」

「本当に信頼されているのだと強く実感できるわ朗。そう思うと、こんなに興奮することはない…。」

「あのー、何の脈略もなく突然彼女に、コ○ファイターで脱出してきた天パみたいな興奮の仕方をされる彼氏の気持ちも少しは考えてほしいっすー。」

「あ、あ、あんた達、公衆の面前でいい加減にしなさいよ…!」

「あらごめんなさい八乙女さん。あなたがいきなり香川のハットトリック動画を見せて来て興奮していた時は、もっと恥ずかしかったのだけれど。電車のなかだったし。」

「う、うるさいわねーーーー!!!ムキーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

「まずは、一般原則というか、基本的な部分について言えば、詩に聞いた方が確実かなと思ってさ。」

「全く。少しは受験勉強で疲れた頭を休ませてほしいのだけれど。」

「う……それについては、そういう咎も甘んじて受け入れていくしかないと言いますか…」

「まあそうね、相手が4バックだと想定した時、2トップは相手の2センターバックと対面することになる。いわゆる管轄担当ってやつね。」

「まずは、そこで自由にさせないようにするってことですよね。」

「そうね。ボールを持ってる選手の時間とスペースを限定するってのは、前にも話をしたと思うのだけれど、まずはそういう理屈ね。」

センターバックは、ボール扱いがあまり得意じゃない選手が多いから、そうやってフォワードがプレスのターゲットにするってわけね…。」

「ええ八乙女さん。ただ、これも前に話したとは思うのだけれど、たとえば、アンカーのような選手がいる場合、2トップだって無暗矢鱈にプレッシャーをかけられなくなる。」

「アンカーが構造的に浮いたポジションにいるというか、2トップの背後にいて、誰かがチェックしない限り、フリーでボールを受けられるんですよね!」

「結果として、2トップの片割れがアンカーをフリーにさせないようマークする。そうなると実質、センターバックの1人をフリーにさせるような守備になっていくわ。まあ、もう少し細かくプレスのかけ方とかはあるのだけれど、それはまた別の時に話すことでいいと思うわ。」

 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。観る将。

 黒髪、肩ぐらいまで伸びた髪は変わらず。

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。

 今は金髪ポニーテール。 赤いリボンは変わらず。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

 受験勉強とサッカー観戦、3:7ぐらいだったのを詩に怒られ4:6にした。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。14

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数的優位でプレスをかわす

「『数的優位性』?数で勝ってるってこと?」

「ご明察です!さすが朗さん。僕が生まれてから初めて好きになった人だけあってさすがの洞察力です。」

「その何の惜しげもなく愛情を安売りされると何とも言えない気持ちになるけどな…」

「そうですか?すでに一部の読者は、一人称が僕しかないので、健全な男子高校生同士が極めて清楚な愛を叫びあっているようにしか読めていないと思うんです。」

「え、えっと…そ、それって…」

 

「これはつまり、通俗的に言うのであれば、ボーイズラブ<禁断の恋>ってやつですよ朗さん。」

 

とんでもない娘だな。

「そんな間違った認識は無いし!!!読者って何???分からないな!!!それにお前は女子高生だろ!!!」

頼む一般向けなんだ。

この物語は。

「おやこれは失礼。でも、嬉しいですよ朗さん。僕のこと、ちゃんと女として見てくれて。感涙にむせび泣くところでしたよ。危ない危ない。」

「あ、ああ、あ当たり前のことだろ!!!か、からかうのもいい加減にしろよな!!!」

「別に禁断の恋でもないというのに、慌てふためてしまって可愛いですね朗さん。ご安心ください。この東照宮つかさは、自分のことを女性だと認識して、朗さんのような男性のことが好きですから。」

「この流れで何をどう安心しろっていうんだ…」

君たち学校の軒先でなんていう会話してるんだ。

 

「ボールを持ってビルドアップする側は、相手のプレスに対して、『10vs8』の状況を作ることができるんです。さて、ここで問題です。どうやって+2を作るのか?分かりますか?」

「えーっと、そうだな。ディフェンスは、相手のフォワードに対して、+1人余らせて守るのがセオリーだったはず。だから、プレス側の自陣にディフェンスが1人残ってるはずだ。」

「正解です。では、もう一人は?」

「えー、でももう選手はいないんじゃ。」

「おやおや、朗さんともあろう人が、大事な大事なフィールドプレーヤーをお忘れのようで。少しがっかりしてしまいましたよ。」

フィールドプレーヤー?」

「この現象を言語化するのなら『僕の大事なフィールドプレーヤーはどこにいったの?理論』ですね。」

そのまんますぎて草も生えない。

「もしかして、ゴールキーパーのことを言ってる?」

「大正解ですよ朗さん。ご褒美に僕から情熱的なチューをあげましょう。さ、目をつぶってください。」

とんでもない女子高生だ。

いや、男子か?

「いらないから!!!あと男子かどうか迷うなよそこ!!!」

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最後方の時間とスペースを最前線へ

ゴールキーパーセンターバックが中心となって、ビルドアップの土台を作るんです。ディフェンスの枚数が3バックだろうが、4バックだろうが。まあ、大体は、2人のセンターバックゴールキーパーの3人でやるのが基本といえば基本でしょう。」

「へー。そうなると、プレスする側は、ゴールキーパーにもプレッシャーを与えるか迷うってわけか。」

「その通り。 息継ぎをする時間とスペースを確保できます。しかも、ゴールキーパーにプレッシャーをかけられても、今度は他の誰かが空く。そういう二段構えなんです。」

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「なるほど。じゃあ、プレスをかければかけるほど、芋づる式に自陣が空いて来るってわけか。」

「これもまたその通り。さすが察しが良いですね朗さん。自陣の一番後ろにあった時間とスペースを最前線に運ぶことができる。こう考えただけでも、むやみやたらにプレスをかけられないことが分かりますよね。」

少し陽が傾いてきた。

夕方も終わりそう。

部活動は続く。

僕の、

「なんだかんだいってお前もそれなりに詳しいよな。サッカーのこと。」

「いえ、朗さんほどではないですよ。選手の上腕二頭筋を見ただけで、いつの時代の、どこのチームの誰なのかを判別できるほど、僕はサッカーに詳しくは無いのですから。」

「そんな特殊技能は、僕も持ち合わせていないんだけどな。」

「ありがとうございます。こうしてサッカーの話ができて楽しかったですよ。」

「なんだよ。普段クラスとかでしゃべらないのか。」

取り繕う。

不意の質問に。

「まあ…あれですよ、こんな話はしないというか。できる人、そうそういないじゃないですか。」

居ないだろうな。

「そうか。それは少し残念だな…ん?」

ぐっと顔を近づけ見つめる。

喋らなければ、こいつは学校で一番の美少女と言ってもいい。

「だからこうして、朗さんとお話できるのが、至上の喜びなんですよ。僕にとってはね。」

「ちょ、ちか…」

 

「文字通り、僕の生きる世界には、あなたしかいないのだから。」

 

ゆっくりと。

深く突き刺すように囁く。

「い、いや、だから、別にサッカーのことを話す分には別に構わないっていうか…」

たじろぐ。

勝ち筋など存在しない。

「どうです?本当に『少し』でよかったですか?」

「そ、それってどういう…」

 

「世界の『続き』、見てみたいと思いませんか?」

 

その時、黒いオーラが辺りを包み、重力が通常の3倍になる。

「ちょっと、東照宮さん。」

登場。

 

まだ陽は落ちていない。

でも、暗くなってきたのは彼女の登場が影響しているのか。

 「私が待たせていた朗の相手をしていてくれていたことについては、とても感謝しているのだけれど、ゼロ距離になったり、これ以上の関係を迫ると言うのなら、あらゆる対抗手段をもって、戦闘準備を整えたうえでもう一度あなたに問いかけることになる。『そこで何をやっているの?』とね。」

重く問いかける。

「そしてあなたを始末したあと、朗をこの世から塵ごと抹消するわ。完膚なきまでってやつで。」

重く宣言する。

「ち、ちょっと!なんで僕まで!」

相手も、攻め方を分かっているのだから、守り方も知っている。

不敵に、不敵に答える。

「いやだな宮城野原さん。お二人の関係を壊そうだなんて一ミリも考えていませんし、宮城野原さんがおっしゃるように、『ただの』時間潰しですよ。」

「果たしてそうかしら。」

「そうですって。ただ、僕は、朗さんの幸せをこの世界で一番願っているだけですよ。あなたとは戦いたくない。」

事実上の宣戦布告。

「そう。じゃあお礼は言っておくわ。ありがとう。待たせてしまってごめんなさいね朗。」

「い、いや……」

 

高身長は立ち上がり、逃げ口上をひとつ。

「この現象を言語化するのなら『彼女を怒らせてはいけない理論』ですね。」

「全く上手くもないし面白くもないのだけれど。その台詞、止めたらどうかしら。全然似合ってないわ。」

「いえ止めませんよ。僕の理解のためでもあるんですから。それに…」

負けない。

こいつは敗けない。

こうして不敵に、不敵な字面のまま。

 

「それに名付けられなければ、僕たちは、この世界の理のほとんどを認知することもなく、ただ静かに死んでいく存在なのですから。」

 

「ドーナッツの穴は、今や世界中に浮遊しているのですよ。」

厳密には、ドーナッツの穴は、存在しない。

でも、あの空白部分を「ドーナッツの穴」と名付けられた以上、ドーナッツの穴はたしかに、存在することになる。

認知主義的思考。

 

「たとえそれが、喜怒哀楽のような、刹那的な感情だったとしても。そう、愛だの恋だのの類も同様に…」

高身長な不敵な微笑みは、闇夜に消えようとする。

静寂が押し黙る2人も包み込んでいく。

 

「それじゃあこの辺で。また、明日会いましょう。朗さん、宮城野原さん。」

そして陽が、落ちる。

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。観る将。

 つかさを知っているが中性的で、中立的で、不気味だと思っている。

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生

 サッカーオタク?観る将?

 高身長にショートヘアで一人称が僕。男女問わずの人気がある。 不敵な女。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

 いつのまにかつかさと顔見知りに。口調や態度から少し苦手にしている。

 

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「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。13

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玄関の戦い

とりあえず、玄関に座って、校庭を眺めながら。

「それで、何を話したいって言うんだよ東照宮。」

少し苛立ちながら。

警戒しながら問う。

その質問を待っていたかのように、これもまた不敵に答える。

「そうですね。では、僕がどれだけ、朗さんのことを愛しているのかについてから、紐解いていきましょうか。」

動揺走る。

「ち、ちち、ちょっと!!!その返答しにくい問いかけはやめロッテ!!!」

「いいじゃないですか。どれだけ朗さんが宮城野原さんのことが大好きで、毎晩毎晩激しく愛し合っていようと、それほど気にもなりませんよ。」

「そのオブラートに包んでるのか包んでいないのか分からない表現を今すぐにでも止めるんだ。」

包まれていない。

赤裸々に、白々しく、堂々と。

話す。

「それか、幼馴染として、お互いの身も、心も、裸も知った八乙女さんとウェイン・ルーニーのシュートを食らい続ける遊びをしようとも、僕にとっては、そこまで魅力的ではないですから。どうぞご自由されたらいいと思います。」

「裸は知らないからな。でも、ルーニーのシュートは受けてみたい気もする…」

受けたいんかい。

「相変わらずの変態さんですね朗さん。そういうところも、僕、大好きですよ。」

ボールを繋ぐ意味とは

「で、本題は…」

「おっと、これはいけない。あやうく忘れるところでしたよ。見出しでいい感じに転換が入っていた間に、すっかり僕は脳髄を溶かされてしまうほどの愛情表現を朗さんから受けていたものですから。そう、生まれてからの記憶がすべて吹き飛んでしまうほどに。」

「もうツッコまないからな。あと見出しとか転換とかもよく分からないってことでいいね?」

あまりこっちに触れるな。

 

「ビルドアップ。しかも、自陣でゴールキーパーを含めたビルドアップについてです。」

「えー、そんなの僕に分かるのか…」

「大丈夫ですよ。朗さんは、僕なんかよりも、よっぽどサッカーについて詳しいと思うので。それと、ある程度は、僕の方から話を進めていくのでご安心ください。

「まあ、それなら助かる。」

「朗さん的にも、読者の皆さん的にも、僕という『新しく出てきたキャラクターがどんな感じなのか?』を掴むのに、良いきっかけになるんじゃないかって思うんです。」

「ツッコんだら負け、ツッコんだら負け、ツッコんだら負け…」

メタメタしく。

恥じらいなく。

臆することなく。

不敵に、話す。

「そうですね、この現象を言語化するなら『へー新キャラってこんな感じなんだ理論』ですね。」

全く意味不明。

 

「その妙な理論については、全力をもってスルーするとして。それでその、ビルドアップ?の何を話すの?」

ゴールキックにおいて、ゴールキーパーは、ボールをセンターバックやセントラルハーフにパスで繋ぐことなんて、まあごく普通にありますよね?」

「ああ、普通にあるな。」

「不用意にボールを蹴って、相手に取られるくらいなら、自陣からきっちり味方に繋いでいく。この一見すると健気な行為が、非常にリスクを伴ったプレーだというのは、想像に難くないと思います。ですよね朗さん?」

「まあな。自分たちのゴール前で繋ぐんだから、ミスったら相手にボールを奪われてゴールまで一直線だもんな。守備だって整ってわけだし。」

「お察しの通りです。僕たちがボールを持っていない側なら、相手がゴール前でちまちまボールを回していようものなら、狂犬となって、ケルベロスとなって、獰猛にハンティングすると思うんですよ。そう、朗さんが宮城野原さんをハントしたように…」

「そ、それとこれとは話が全く違うと思うんだ!!!」

ハンティングされかけた。

「ま、僕は、そんな朗さんが好きですよ。そういう好きなものに一直線になる姿、とても朗さんらしくて良いと思うんです。」

「お、おう。なんというかリアクションには困るんだけどな…褒め言葉として受け取っておくよ…」

褒められてるのか?

 

「それでも、自陣でゴールキーパーからボールを繋いでいくメリットって、一体なんなんだと思います?」

いきなりくる。

確信を突くかのような質問。

攻めっぱなし。

「え……えっと、そうだな…」

「分からないですか?大丈夫ですよ。僕が教えてさしあげますから。そうですね、たとえば、口移しとかで。」

「いいから普通に教えてよ!!」

「ふふふ、そう慌てないでください。相手がプレスをかけてきても、それでもゴールキーパーからボールを繋ぐ利点。それは、ビルドアップする側がプレスする側に対して、『初めから人数で勝ってるから』なんですよ。」

「え…それってどういう…」

「『数的優位性』ってやつですよ。どうです?ご存知でしたか?」

そう彼女は、不敵に微笑んだ。

人物紹介

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生

 サッカーオタク?観る将?

 高身長にショートヘアで一人称が僕。男女問わずの人気がある。不敵な女。

 

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

 いつのまにかつかさと顔見知りに。口調や態度から少し苦手にしている。