蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。12

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終わりの序

急速に2学期が始まった。

夏での思い出は、またどこかで語られるだろう。

多分。

ありふれた放課後。あれほど長くなった陽も、心なしか夕暮れ時が早く訪れているかのようにも思える。

もちろんこの物語の主人公は、何も変わらず彼なのだけれど、今日は一人。

待つ。

彼女を。

そして、現れる。

ひとりの…

僕は、

「(詩、進路相談が長くなってるのか。)」

必然といえば必然。

建学以来、最高成績を収める少女が、地方の、いや東京のトップ大学ではなく、県内の平凡な大学に頑ななまでに行こうとしているのだから。

「(まあ無理もないか…)」

原因は君なんだけどね。

「あれ…?」

そして現れた。招かれざる客。

「あーやっぱり。朗さんじゃないですか。」

「ん?…」

「僕ですよ僕。お疲れさまです。」

「げっ…」

 

高身長。

黒のショートヘアがより似合うその少女はたしかに。

「いやだな、僕が挨拶しただけだというのに、何ですかその、ガムを踏んでしまったようなリアクションは。さすがの僕も傷つきますよ。朗さん。」

 

たしかに、一人称が僕なのだ。

 

「な、なんだよ…なんか用かよ…」

「 いやあ、この現象を言語化するのなら『ガムふんじゃったよ理論』ですね。」

口癖。

とんでもなく上手くない。

「僕が帰ろうとしたら、たまたま玄関口にいた朗さんを見かけたので、これもたまたま声をかけただけですよ。」

「あー…それは悪かったな…じ、じゃあお疲れ、また明日な…」

不敵な笑み。

「ちょっとつれないんじゃないですか?朗さん。それとも、宮城野原さんから他の女とは口を聞くなって言われてるんです?あとは、八乙女さんあたりが、いきなり突撃してくるとか。まあ、大体は察しがつくんですけどね。」

高い身長をかがめ、顔を、深淵を覗くように。

「ち、違うって!別にそういうのは無いから!」

「ふーん。じゃあ少しお話しましょうよ朗さん。」

「……お話?」

「僕は、朗さんと話がしたいんです。少しだけでも。ね?」

男女問わずの人気があるのも頷ける美少女。

いや、美少年と言うべきか。

とてもじゃないが、惹きこまれる。

「わ、分かったよ。じゃあ少しだけ…」

 

僕は、こいつが苦手だ。

はっきりとした物言いと、なんだか掴めない感じが。

詩は、この高身長美少女、東照宮 つかさを「中性的で中立的で不気味。」と評している。

一応、2年生なんだけど、口調も非常に丁寧なんだけど、どこまでも追い詰めるようなそんな圧迫感を感じる時がある。

物理的にも。

 

「ん?どうしたんですか朗さん。もしかして、緊張してるんですか?まあほんのちょっとではあるんですけど、僕も少しは界隈からの人気というものを背負っている自負はありますから。大丈夫ですよ、当然の反応です。」

「違う、違うから…!」

「別に恥ずかしがることはないです。今年も『ミス神杉』に推薦されてしまいましたし、緊張しても仕方ないです。それより、そんなに僕、綺麗でした?」

綺麗ではある。

喋らなければなおさら。

「し、し、知らねーよ!!」

「ふふふ。可愛いですね朗さん。大丈夫ですよ。別に長居するつもりもないですし、朗さんも宮城野原さんを待っているのでしょう?だから…」

「だから…?」

「本当に少しでいいんですって。」

そう彼女は、微笑んだ。

不敵に。

人物紹介

東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生

 サッカーオタク?観る将?

 高身長にショートヘアで一人称が僕。男女問わずの人気がある。詩曰く「中性的」、李七曰く「不敵な女」。

 

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

 いつのまにかつかさと顔見知りに。口調や態度から少し苦手にしている。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。暁の春休編

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待ちあう。街あい。

春は3月。

春休み。

心躍る春。

今だ寒く。

唯一の熱気。

スタジアムからこぼれる歓声。

泉中央。

ペデストリアンデッキ。SALVA前。

男子。スマホに目をやる。男子。

タクシー乗り場方面からやってくるひとりの。

女子。

これは、2人が付き合い始めたあの春の与太話。

カントリーロード

「お待たせしてしまったようね。朗君。」

見上げる。

肩ぐらいまで伸びた深淵の黒髪。

揃った前髪の隙間から、きらりと目が光る。

宮城野原詩。

「いえ、僕もさっき来たところですから。」

こう言ったのは、説明不要の今作主人公。

国府多賀城朗。

「ありがとう。待ち合わせた時に、待った側の99%が吐く見事な定型文だったわ。まるでサインプレーのコーナーキックのように、素晴らしいまでの美しさよ朗君。」

「いや本当にそうだったんだから人をセットプレー分析官みたいに言うのやめて…」

「本当にごめんなさいね。待たせてしまって。」

「大丈夫ですって。さあ行きましょう!」

歩くペデストリアン。

「僕の方こそ、スタジアムでサッカー観戦なんて、誘っちゃって悪かったですね。もう少し暖かくなると思ったんですけど、結構寒いですね。」

「それに関しては全く気にしていないわ。もともと、スタジアムにも行ってみたかったのだし。」

「そうなんですか?」

「ええ。極寒のスタジアムでホームチームが完膚なきまでに叩き潰されたうえに、内容的にももうどうしようもなく酷くて、日曜の試合結果をもってめでたく最下位になるスリルとサスペンスに溢れた展開が待っているなんて心が躍るわ。」

「そういう強いメンタルは、ぜひ応援やら何やらの正のエネルギーに変換してほしいですはい。」

特殊。

「そういえば、詩さんはスタジアム観戦ってほとんどないんでしたっけ?」

「そうね。小さい頃に父親に連れていかれた記憶しかないわ。」

「あれ?お父さんサッカー観るんですか?」

「いいえ、単なる家族サービスよ。公園や遊園地に行く感覚で。ま、とんだ災難だったのだけれど。」

「さっきのは実体験だったわけですね…」

人混み。

ペデストリアンデッキの階段を降りていく。

 

「だから今日は、いい試合になったらいいなって。」

「うん!そうですね!」

「………せっかくのデートだし。」

「ん?何ですって?」

「ああ、いえ、ひとりごとよ。ただのつまらないひとりごとよ…」

朴・念仁(1621-1701)。

「?お、着きますよ!」

 

眼前に広がる劇場。

 

ユアテックスタジアム仙台

 

通称、ユアスタ

 

C'mon

入場ゲート。

コンコース。

スタジアム観戦の通過儀礼を文字通り通過していく。

「えーっと今日はメインなんで…」

「メインって、ベンチ側の席ってことよね。」

「ええ、そうですよ。何かあります?選手や監督の動作チェック的な?」

何のチェックなんだ。

「いえ、阿鼻叫喚して顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした朗君がカメラに抜かれるようなことはないということね。残念、この試合、一応テレビ中継されるようだから、ちゃんと録画もしてきたのだけれど。」

「それ笑おうとして見直すつもりだったんだよね!!!そうなんだよね!!!」

スタジアムに入る。

眼前に広がる黄金の草原。

眼下に広がる文字通りの草原。

「お~…スタジアムに来たって感じですね!詩さん!」

「……っ!」

「詩さん…?」

「綺麗…」

「……!うん、そうですね!」

フォルツァ

着席。

スマホ。「今日はここから」。

「とてもいい眺めね。」

「……」

「何をしているの?」

「ああ、ごめんなさい。今Twitterで呟いてて。今日はここから見るよーって。」

「それって特定されたりとかしないの?」

「まあ…ある程度は分かっちゃうんじゃないかな…ははは…」

心配。

「……学校のひととかに分かっちゃったらどうするのよ…」

「ん?何です?」

「いえ、別に何でもないわ。私もTwitterで呟くくらいはしておこうかしら。」

「お、やっぱバックスタンドか!」

「何が?」

「せんだいしろーさんですよ!ベガルタの試合を分析してブログ記事にしてる戦術ブロガーですよ!」

「戦術ブロガー?」

「えーっと、試合の戦術的な狙いとか意図を解説してるんです。最近、色んなひとのブログも見てて。めちゃくちゃ面白いっていうか!こうやって試合観れたら面白いなって!」

『俯瞰厨乙。』

「それで、このオタクまるだしの恥ずかしいツイートをしているひとがその戦術ブロガーってやつなのかしら朗君。」

おい、そこ聞こえてるぞ。

恥ずかしさで言えば君も他人のこと言えないからな。

「えー恥ずかしくないですって。サッカーとかベガルタのこと好きなんだなーって分かるんで。詩さんもブログとかやってみたらいいんじゃないですか?合いそうですけど。」

「い、嫌よ。そんな廃人オタクか手遅れな重度狂人がやりそうなこと。」

不穏当な発言は謹んでほしい。

「ふっふっふ。実は、僕、ブログ始めちゃったんですよね!」

画面に映る。

観戦日記の文字。

「へーそうなんだ。それで、続いているのかしら。」

「……いやまあ、日記というか書きたい時に書いてるっていうか…」

「『ブログ始めました』の記事から更新が無いように見えるのだけれど。」

「きゃーーーーー!!!見ないでーーーー!!!!」

人生最高の90分間

開始前。

カントリーロード

選手入場。

試合開始の笛が吹かれる。

あっという間の前半は、0-0。

「結構押されてましたね…」

「押されること自体が問題ではないわ。どうやって押していくが分からないのだから、押されっぱなしになってしまうと思うのだけれど。」

「た、たしかに…ここは、カウンター局面に強いハモン・ロペスを…」

「いえ、石原のままでいいわ。彼なら、この難しい試合でもボールをキープできる。ロングカウンターも有効かもしれないのだけれど、チームが前がかかりになって、奪われた時に逆カウンターを食らうかもしれない。」

「う…それは…」

「攻防を忘れてはいけないわ朗君。野球なら、代打でハモン・ロペスもありかもしれない。でもこれはサッカー。攻守表裏一体なのよ。」

「さ、さすが詩さん…」

冷静。

「でも、試合中はわりと喜んだり悔しがったりしてましたよね。もっと、色々呟くのかなと思ってたんですけど。」

興奮。

「い、一応、こう見えてその場の感情に従いたいというか、楽しむべきものは楽しみ時っていうのものがあると理解しているつもりなのよ。」

「なるほどです!」

「……だから、ドキドキすればその、それに従いたいと思ってるし…」

「ん?なんです…あ、選手入ってきた!後半始まりますよ!」

「え、あ、うん。」

情熱。

ここはユアスタ劇場。

レッツゴーが降ってくる。

帰るまでがサッカー観戦

「いやーーー何度振り返っても最高でしたね!!」

「あら、まだ噛みしめ足りないのかしら朗。」

「いや全然足りないでしょ!!ほんのさっきのことですよ!」

「まあたしかに、あれはサッカーの全てが詰まったようなゴールだったわね…!」

「あーーもうなんでそんな冷静に振り返れるんですか詩は!!」

「何を言っているかしら?朗が興奮しまくってるだけよ…!」

2人ともサッカー好き。

「勝った後は、こうして駅に向かう車道も誇らしく思えてきますよ!」

「そうね…そう、私も、とても嬉しいわ。」

「そうだよね!苦い思い出払拭するには十分すぎるでしょ!」

再びペデストリアンデッキ

「それに、もうひとつ嬉しいことがあるわ。」

「ん?」

「名前、さん付け無しで読んでくれたんだ。」

「ん……あーーー!!!ごめんなさいつい!!!」

「別にいいわよ。私だって君付けしてなかったのだし。」

「すいません!!!早急に直させて…」

口をふさぐ。手。

「……直さなくていいから。じゃないと試合結果も直すわよ…」

「え、ああ、いや、そんな時空旅行できないでしょ…」

「………いいから…」

「はい……」

「ま、まあ、2人でいる時だけで勘弁してあげるから…」

「は、はい……」

「じゃあまたね。」

「うん…」

駆ける少女の足は軽い。

無重力

 

「あ、あのさ、詩!」

振り向く。

「きょ、今日の試合さ、どうだった?面白かった?」

微笑み。は、通り越して、満面の笑みで。

 

「人生最高の90分間に決まってるじゃない朗!」

全てが詰まった90分間。

 

「そっか、それは…良かったよ!」

もうすぐ4月。

後日

「ちゃんと起きているかしら朗。」

「もちろん起きてますよ。コーヒーばっかり飲んますけど…」

「全く。もっと良心的な時間にやってほしいわねプレミア。」

「ある一定層には良心的なんですよ…」

Skype

「そういえば、この前行ったベガルタの試合の記事で面白いのがあって。」

「何?また狂人の記事を見つけたの?」

「狂人というか…戦術記事と観戦記事に分かれてて。それがどっちもすげー面白くて!」

「え、え、えーっとそれはなんていうブログ名なのかしら朗?」

「ん?ああ、『うたかたサッカー観戦日記』ってやつです。」

「う、う、うあわあああああああ!!!!!!!」

「あれ?もしかして詩も知ってるんですか!めちゃくちゃ面白いですよね!戦術記事も、石原を90分間使い続けた狙いが書いててなるほどな!って思ったし、何より観戦記事!これがまた最高にエモーショナルで。『あの黄金に輝く草原が、ピッチという草原を、選手を、チームを光り輝かせていた。』って文章がマジ感動で最高すぎなんですよ!僕は、あの試合、戦術記事しか書いてなくて、いやーなんというかこういう感情の昂ぶりを書くのもありだなーって素直に感激しちゃいました!!」

「よ、よ、読むなあああああ!!!!!音読するなあああ!!!!!!!!!」

楽しい観戦で、本当によかったね。

 

 

 

某所。

某時刻。

「---ふふふ、はははははは!!!」

「…面白い…いいものを見つけた…」

「何としても、これを書いた奴を探さないと…」

画面に映るブログ。

そして、紅い眼。

 

ーーー神が、目を醒ます。

 

Fin

 

 付録

「うーん、黄色系の服なんて持ってないし…」

「春だからピンク系がいいのだけれど、相手チームカラーはさすがにまずいか…」

「……!いけないこんな時間!というか遅刻じゃない!!」

「サッカーデートってなんでこんなに難しいのよ!!!」 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。観る将。

 

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。観る将。 サッカーの見方を勉強中。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。11

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回想、原点

少し昔の話をさせてください。

李七と僕は、小学校からの幼馴染でした。近所ということもあって、母が李七の母親と友達だったのですけれど、いつから、どういうきっかけで交流ができたかは覚えていないのです。気がついたら一緒に遊んでました。

李七の母親は、重度のサッカーファンなので、家に行くと大体サッカーの試合を録画したビデオを見ていました。ユニフォームやグッズもいっぱいあって、僕がサッカーというものに初めて触れた瞬間とも言えます。昔李七は、あまり身体が強くなく、画面の前にいる機会がの方が多かったです。

ある日、李七が入院しました。生い立ちとか、髪の色、病弱なこともあって僕から見てもあまり学校に馴染めてなかった李七ですから、あまりというか、お見舞いのひともなく、先生が用意した色紙に「仕方なく」書いた応援メッセージだけが病室に飾られてたのを覚えてます。(机に伏せて置いてあったんですけどね。)

僕は、両親に頼んでサッカーショップで買った李七の好きだったマンチェスター・ユナイテッドのグッズを持ってお見舞いに行ったんです。初めて誰かにプレゼントを持っていった時でした。

あいつ、泣いてたんです。なぜか、それだけははっきりと覚えてます。その時です。たしか。李七が僕のお嫁さんになると言ったのは。

 

でも今は、それしか覚えてないです。

僕が約束したのかも、正直、思い出せない。

病気から立ち直ってほしい。その一心だけだったように思えます。

黒と金

子どものころの約束。

そんなお約束みたいな展開なんてない。

いずれ劇場<シアター>の幕は降り、覚めないと思ってた夢<ドリーム>も終わる。

 

「あ、り…」

放課後のチャイムがなり、みんな帰っていく。

そこにあるのはひとりの金色。みんなのなかに紛れるように。隠れるように。

黒い視線が朗に注がれ、そして、その弱弱しく張り合いのない金色の背中へと向けられる。

 

「どうして、ここに来ちゃったのかしら…」

勾当台公園

「……」

「…バカみたい。子どものころの約束をいつまでも覚えてるなんて。どうかしてる。」

ここには誰もいない。

「どうか…してるのかな…」

「まったくどうかしていると思うわ八乙女さん。」

いやいた。

「みみみみみみみ宮城野原詩!!!!!」

「ちょっと。人をミミックみたいに言わないでくれないかしら。」

「っどどおどどどどどどどどうしてここにいるのよ宮城野原詩!!!!!!!」

「あなたは少し落ち着きなさい。」

深呼吸。小休止。パウサ。

「……なによ。なにか用なの。」

「少し、そう、少しお話がしたくって。」

「別に私は、あんたなんかに話すことなんて無いわよ。」

「いいわ。私が一方的に話したいことを話すから。あなたが帰って来てから、まともに会話する機会もなかったのだし。」

「………。」

 

「あなた、朗のこと好き?」

この人はいつも直球だ。そして、優しい。

 

「なによ、勝利宣言のつもりなの。」

「違うわ。違う。あなたの気持ちを知りたいの。どうなの、朗のこと好き?こういうの『コイバナ』って言うのでしょう?したこともないし、これが初めてなのだから少しは思い出に残る会話にしたいわ。」

「し、しし知らないわよあんたの思い出なんか!」

「分かったわ。で、私の思い出はどうでもいいから、あなたはどうなの?」

直球には、直球で返すしかない。それが彼女だから。真っすぐに。

「好きに決まってるでしょ。私はお嫁さんになるんだから。」

 

「……なら、もし朗のお嫁さんになれなくても、朗のこと好き?」

攻められたら、もっと攻める。そうして生きてきたし、そうでしか生きられない。

 

「なに、なんなのよ!!!やっぱり勝利宣言じゃないのよ!!!」

「ねえ聞いて八乙女さん。私だって、正直、いつ朗に嫌われてしまうかとても不安なのよ。」

「……。」

「私よりもっと好きなひとが朗にできたら、私に全然魅力が無くなってしまったら。私、自分自身のことを一番信じていないから、なおさら信じられないのよ。」

「………。」

「もしそうだとしても、私は、それでも朗のことを好きなのか、それともフッた男のことなんか時間の流れとともに忘れられるのか、どうなのかなと思って。」

「……それで…あんたはどうなのよ…。」

 

それは偽りのない、檻の中にいない、扉を閉めていない、混じりけの無い純粋な微笑みで。

そう、彼のことなら笑うことだってできる。

 

「好きよ。まだまだ大好きよ。自分を信じるのはまだ先かもしれないのだけれど、朗をとても信じているわ。」

 

これは、勝利宣言ではない。宣戦布告。

 

「きっと私、根暗で暗黒でオタクで性格も悪くて友達もいないから、きっと好きでい続けると思う。まだ諦められない。それに、朗が好きだと言ってくれる自分をもう少し好きになれたらいいなと思ってる。」

「……そう。」

「ふふふ。この、『まだ』との戦いなのよね、きっと。ひとを好きになっていくって。初めてのことだし分からないのだけれど、多分、きっとこういうことなんだと思う。何かを、誰かを好きになっていくっていうことは。」

「なによそれ…何勝手に納得してんのよ。」

「それで、あなたはどうなの八乙女さん。朗のこと『まだ』好きなの?お嫁さんになるだなんて昔の約束とか、目の前の彼女とかそんなどうでもいいこと取っ払って、あなたはどう想っているのかしら。」

「…そ、それは…!」

立ち上がる。グラビティ。今の彼女は、無重力

「じゃあ、私帰るわ。そういうのは直接本人に言うといいわ。多分、彼も率直に今の気持ちをあなたにぶつけると思うし、あなたの気持ちも理解すると思うから。」

立ち去る。黒い足取りは軽く、そして、とても爽やかだった。

「………なによ。結局、あんたが一番好きなんじゃないの。」

一番輝くもの

帰宅。

の前に、国府多賀城家前。

チャイムも鳴らさず立ち去る。今日は帰ろう。

八乙女家。

そこには、彼が、いた。

「ちょっと、なに他人家の前で寝てんのよ。通報するわよ。」

「……!!!やべっ寝てた!!」

「ヤバイの十分知ってるっての。」

「ごめん李七!俺、俺ちゃんとお前に言わなきゃいけないなって思ってて。それなのに、引き伸ばしちゃって。寝ちゃったし。ごめん。怖くて。みんな感じ悪くなるのも嫌だったし。」

「……」

「ホントにごめん…」

「…もう十分聞いてるわよ。あんたの『彼女様』から。」

「…!!!え??」

「もうあんたに夢中じゃないの。誰にも渡しませんって感じで。マジムカつくんですけど。」

「ごめん、李七。でも、俺…」

「はいストップ。せっかくあんたみたいなオタクのこと、好きだって思ってくれてるんだから否定しない。」

「…は、はい…」

「あんた、あの女…宮城野原詩のこと、好きなの?」

「……。」

「いいよ。正直に言って。私たちそうしてきたじゃない。」

「………その…好きです…。」

「そう……。」

「…ごめん…。」

「はい謝らない。いいよ、私はそれが聞けてよかった。」

「……?」

「そうだよね。昔から。昔から、好きなものに一直線で、夢中になるのが『あーくん』だったよね。そんなあなたが一番、一番、好きだったから、私。もしかしたら、今が一番、『あーくん』のこと、好きかもしれない。不思議ね。あの重力が言うことが分かるような気がする。」

「李七……」

玄関に駆ける。夕陽が髪を輝かせる。

「ねえ…もう最後でもいいから、昔みたいに呼んでよ…」

「え…」

「ねえお願い…」

 

「……その、『びーちゃん』」

「ふふふ。なーに、あーくん?」

涙が、涙が、思い出とともに流れ落ちる。

ーーーびーちゃん絶対直してまた一緒にサッカー観ようね!

ーーーうん!私、あーくんのお嫁さんになる!そしてずっとあーくんとサッカー観るんだ!

 

それは、彼が彼女に贈った『初めて』のプレゼント。

 

「ありがと!また明日!花嫁修業、気合入れてやらないとね!」

そう彼女は、微笑んだ。

「ごめん…李七…ごめん本当に…俺…」

零れる涙。それは彼女の頬ではなく、彼の頬に。

夕陽が、涙も、輝かせる。

 

また明日がやってくる。

アーリーサマー!

「それで朗。これはどういうことか説明してくれないかしら。」

「いやですね、これは…。」

「どうして私が作ったお弁当の前に、海の物とも山の物とも分からない女からの弁当なんてものを食べているかしら?」

黒いオーラ炸裂。ここで起こす気か。セカンドインパクトの続きを。

「ふっふっふっふ。遅かったようね宮城野原詩!見なさい、この花嫁修業中に生み出される最高傑作の極みを!これで朗の胃袋がっつり掴んだもんねーだ!」

「どうせ食材が高いだけで何もしていないのに等しいんじゃなくって八乙女さん?」

「あーらまともな食材も道具も集められないようでどうやって料理をしているのかしら宮城野原詩?」

「あのーーー、とりあえず食べません?」

「「<あなたの><あんたの>食べさせて!!!!」」

 

青春とは、ずるい。都合よく、新しく生まれ変われるからだ。

青春の終わりは、新しい青春のはじまり。

 

今年も夏がやってくる。

Fin

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。ヴィクトリアからびーちゃんと朗が命名

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。

あとがき

 どうも、僕です。どうでしたか。李七が出てきて随分うるさくなりましたよね。僕もそう思ってます。(笑)詩は終始キレてるし、朗は圧倒されてるしで、パワーがありますよね。若いっていいです。(遠い目)

 さて、新しい登場人物として八乙女李七というキャラがでてきましたが、この物語における僕のミッションは、「彼女をいかに救うか」 でした。幼馴染、ツンデレ、金髪ときたら、負けヒロインのテンプレなんです。しかも子どものころの約束を守ってたり、朗に対して甘えがあったり。とても悩みました。そういう不遇というか、不幸の生まれにしてしまって僕は彼女に対して責任がありましたし、どうすれば救えるのか、幸せにできるのか考えてました。

  青春というものは、失うものも多いですけれど、常に新しい自分に生まれ変わることのできる素晴らしい時期だと思います。李七は、かつての自分の恋が終わりを迎え、新しい恋が始まりました。それが同じ人で別のひとが好きだとしても。サッカーが好きなのもそうですが、「好きなもの」へのエネルギーというものはそれは大きなものだと思います。何かを好きになるというのは、自分もエネルギーを使いますし、新しいエネルギーを生み出す原動力になります。これが尽きない限り、ひとは歩みを止めることなく進むことができるのではないでしょうか。それっぽいことを言ったところでこの辺で。

 僕は、進むたびにあちこちが痛くなるようになってきました。気持ちだけが、身体を追い越して風のように進んでいきます。どうか風だけは、止みませんように。それでは、また。

www.youtube.com

 

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。10

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インサイドハーフ?インテリオール?フロントボランチ

 「あと、トップ下とはいえないですけど、もう少しバランスを意識したような中盤がいますよね。インサイドハーフでしたっけ。」

「どうしてアウトサイドハーフもいないのか、私はそこが気になって仕方ないのよね。」

「ま、まあ、たしかに…」

「まーたオタクなこと考えて。別にいいじゃない。そう呼ばれるものだと思えば。だから重いって言われんのよアンタは。」

金色一閃。

「うわっ!李七いつから居たんだよ!」

「さっきよ。適当に時間潰そうと思って入ったらあんた達がいて。ずいぶんと楽しそうにおしゃべりしてるじゃないの朗。」

「べ、べつにいいだろ!それに居るなら先に声をかけろよ!」

着席。こういう突破力というべきか、鈍感力は習うべきところがある。

無意識ならともかく、意識的なら、なおさら。

「ちょっといいかしら八乙女さん。私のことはどう思ってもらっても結構なのだけれど、朗の言うとおり、もう少し気づかいがあってもいいじゃないのかしら。」

それでも動じない。

「はいはい、それは失礼しました。」

これには黙るしかない。

「で、一体何の話?またなんて呼ぶかの話でもしてたってわけ?」

「あ、ああ。4-3-3でアンカーが支える2枚の中盤の話をしてたんだよ。どういう役割があるのかなと思って。」

「ああそうなの。4-4-2のセントラルハーフと変わらないんじゃないの。4-4-2のフォワードを削って、中盤の選手を1人増やしたんじゃないの4-3-3って。」

「たしかに…ピッチを動き回ってるように見えるな…」

中盤を繋ぎとめるリンクマン

「あながち間違いではないわね八乙女さん。まあ、あなたが考えているのは、まるであなたが校内をあちこち馬鹿犬のようにはしゃぎまわるっているのと同じように、ピッチを駆け回るセントラルハーフのことだと思うのだけれど、ゴール前に飛び出したり、バックラインからボールを引き出したりいろいろな役割があるわ。」

「なによ宮城野原詩!!!オタクのあんたとは違って、あちこち皆が呼んでくるんだからしょうがないじゃないの!!!フットワークが軽いって言ってほしいわね!!!」

「フットワークが軽いというか、頭の方が軽いんじゃなくって。」

「ムキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

「ちょっと!ここで大声出して喧嘩するのやめて!!」

小休止。

「とにかく、あちこちに顔を出して味方を助ける動きをするってことでいいんですよね詩さん。」

「………さん(ボソッ)」

「い、いいんですよね…!!」

 「そうね。サイドの選手とトライアングルを作ったり、アンカーを助けたり、まるでトップ下のようにふるまったり。ここに入る選手の特徴次第でチームはいろんな顔を見せるわ。チームの命運とゲームの行く末を司り、過去と未来とを繋ぐポジション。まさに、『リンクマン』。」

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「リンクマン…繋げるひとか…すげーカッコいいです!!」

「あんた本当にそういう名前好きね。」

「ちなみに、吉武博文という指導者は、このポジションをフロントボランチパッセンジャーなんて呼んでいるわ。どうかしら朗。」

「ぎょえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!萌ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

うるさい。一番声がでかい。

反、それでも反。

「さて。私はこれで帰らせてもらうわ。うるさい跳ねっ返り女がいると疲れて仕方ないわ。」

「うるさいわね暗黒根暗オタク!」

「……それに、私だって気を遣ってしまうわ…」

「う、詩さん…」

見つめる視線。その呼び方は、2人の世界には存在しない呼び方。

無言でも分かる。それくらいには彼女のことを知っていた。

「じゃあね。八乙女さん、朗『君』。」

閉まる入口の扉。

「(あとで謝っておこう。多分、怒らせてしまった…)」

「ねえ、朗。」

「な、なんだよ。」

「ひとつ聞いていい?」

「だからなんだって。」

 

「あんた達、付き合ってるの…?」

 

向き合うべき時。

逃げるは恥だが役に立つが、逃げるだけでは解決できない問題もある。

 

「な、なんだよ急に。それがなんだっていうんだよ…」

「なんかさ、日本に帰ってきてから、あんた達すごく変わったなって思ってて。なんていうか、すごくいい感じというか。認め合ってるなって感じてて。」

それは、静かに。でも、確実に急所を突く。

いつもの跳ねっ返りはない。静かに、そして確信を掴むための。問い。

「別にいいのよ、私は。いずれ私は朗のお嫁さんになるから。その間にどこで誰と付き合っててもいいし、何をしてたっていいわ。だって、だって最後は、私のところに迎えに来るもんね。昔みたいに。私の前に来て、手を差し伸べてくれるもんね。そうだよね。朗…」

「李七…」

「それが、『たまたま』あの宮城野原詩だったってだけで、別に、その全然気にしてないから。2人で会ったって別にいいよ。別にさ。」

 

「じゃあお前、今日はどうなんだよ…本当に『たまたま』この店に入ったかよ…」

向き合うしかない。

近すぎるからこそ、見えない、ことなんてない。

見えていても、分かってるからあえて触れないこともある。でも今は、その小さな変化も見逃すわけにはいかない。

「それは…本当にたまたまよ…!」

「詩さんに喧嘩を仕掛けるような真似もたまたまって言うのかよ…」

「それは、あいつが本当にムカつくから自然と出ちゃうのよ、仕方ないでしょ…!」

 

「付き合ってるよ。僕は、詩と付き合ってる。」

反、反、反。

 

「…うるっさいわね!そんなことくらい分かってるわよ!」

「別に気にしてないって言ってるでしょ!そんなこと!ほんとどうでもいい!」

「……どうでもいいいって言うやつが言うセリフじゃないだろ。それに聞いたのはお前の方だ。」

うるさいうるさいうるさい!なんであいつなのよ!よりによってなんで…!どうして…私じゃないのよ…」

 

立ち上がる金色。

暮れかける夕陽に照らされる。

もうじき、夜がくる。

「……もういい。帰る。」

 

走る金色。扉は開き、そしてまた閉じられる。

輝いていた太陽がいま、沈んだ。 

 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。付き合いを大事にしたいタイプ?

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。恐れることを恐れるな。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。9

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続にして、続

放課後。

夕暮れの喫茶店。チェーンだけど。

今日の舞台。

話題は、もう説明する必要もないでしょう。

登場人物だけ紹介。2人、オタクがいる。

「まったく。それじゃあ全然説明になっていないじゃないの。」

「ん?詩、なにか言いました?」

「いえ、なんでもないわ朗。何か言うとしたら、あなただけと決めているから、安心をしておいてほしいわ。」

「いや他の人ともちゃんと喋ってくださいよ。生活できないじゃないですか。」

「あら嬉しいわ。私たちの生活をもうすでに心配してくれているなんて。これは良妻として、身が引き締まる思いよ。」

「……超次元空間跳躍して会話をしないでください。」

あと、第四の壁を突き破って話しかけないでほしい。怖すぎる。

逆三角形型4-3-3

「はー。」

「どうしたの朗。私の美しさと尊さに酔いしれて溜息しか出なくなったのかしら。まるで、ジネディーヌ・ジダンのダンスのようなドリブルのように。ぜひともキシリア様にも伝えてほしいわ。あれは、マジ卍だって。」

「自分の美しさは、世界最高だという傲慢を言ったんだよね!!そうなんだよね!!」

舞うように刺す。あながち間違ってないかも。

「珍しいわね。溜息をつくなんて。どうかしたのかしら。これでも少し、いえ、とても心配をしているのだけれど。少しは彼女らしく振舞わせてほしいものね。」

「ありがとう。まあ、たいしたことじゃないんだけど、バルサが結構プレミアのチーム相手に無双するというか、いつの間にか有利になっているんだよね。あの4-3-3に何か秘密とかあるのかなと思って。」

「何よそんなことだったの。卒業後に2人で暮らす間取りで悩んでいるのかと思ったじゃない。心配して損したわ。ちなみに私は、陸上トラックはいらなくってよ。最寄り駅も徒歩5分くらいが理想ね。坂道なんか昇らせたり、住宅街ラビリンスなんてやめてよね。」

「そういうコメントしづらい返しをするのやめてって!!あと後半は絶対スタジアムの話だったよね!!いろいろと心当たりはあったけど!!言わないからね!!」

高度な弄りになってきた。さすが。

バルサ?なら、アンカーがいる逆三角形型の4-3-3のこと言っているのよね。」

「そうそう!前に聞いたトップ下がいない代わりに、アンカー?中盤にひとりいましたね。そいつが鍵になっているっぽいというか。」

「そうね。特に4-4-2に対しては、FWの背後、セントラルハーフの前に立って、守備陣形を崩す一手になるわ。」

アンカーポジション

「アンカーってそんなに凄いんですか?」

「夕べの激しい行為に比べたら大したことは無いかもしれないわね朗。ただ、とても強力なポジションよ。」

「激しくないどころか何もしていない真っ新な大地から変な妄想膨らませるのやめてもらってもいいですか!しかも、比較対象に僕を入れないでくださいよ!」

「あら、私は少しくらい激しくても大丈夫よ。でも、優しくされた方が好みなのよね。たとえばそうね、マスチェラーノのようなボール狩りも好きなのだけれど、ピルロのアンカーも優雅で美しいわ。ふふふ…美しさでいえば、シャビ・アロンソのキックモーションも別格よ。クォーターバックのようにロングパスを通すわ。でもやはり外せないのは、セルヒオ・ブスケツね。チームに血を通わせる最高のアンカーよ。ああ!これはどうしたものかしら。やっぱり決められないわ…」

アンカーオタ。どこに地雷が埋まってるのか分からんな。

「あの…話続けてもらっていいですか…」

「これは失礼したわね…4-4-2は、3ラインがバランスよく守ると前に話したと思うのだけれど、実は、そのライン間を誰が守るのかが非常に重要になるわ。」

「誰がチャレンジするのか?ってことですよね?ラインを作ってる選手のなかで、誰がボールを持ってる選手にプレッシャーをかけるのかとか、空いたスペースをカバーするのかとか。」

「そうその通り。全くプレッシャーがかからなければ、アンカーにプレーするための『時間』と『スペース』を与えることになる。そうなると選択肢も多し、自由もあるわ。当然、誰かが見ることになるのだけれど、そうなるとアンカー以外の『どこかで、誰かが』空くことになる。」

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「相手のゾーン守備を逆手にとって、守備に穴を空ける役割…そう考えるととても恐ろしいことをやってるわけですね。」

「もちろん、アンカーにボールが渡れば問題が起こると思われないといけないし、プレッシャーやマークが厳しくもなるわ。ボールが簡単に奪われては、一気にカウンターを食らう危ない場所であるからそこは注意ね。」

「詩みたいにアンカー沼にハマりそうですよ…『頭』と『技術』が両立するからこそ、成り立つ役割か…」

ふ、フィリップ・ラームのアンカーとかいいよね…

「それともちろん『身体的』な部分でも。歩くたびにHPが減る沼なのだけれど、よければゆくっりしていくといいわ。もちろん宿屋は有料よ。100億ゴールドから。」

「それは、世界を半分もらうか選択する冒険ゲームの毒沼だよね!!あと観光地のホテルみたいな値段設定やめてって!!」  

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。 

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。8

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横+縦=斜めのスライド?

「でも、選手の判断は、どうやってやるんです?意思の疎通とかどうするんですか?」

「それは、横と縦のラインのスライドになるわ。さっきも言ったように、鎖でつながれたように、守っていた場所を維持する。ただ、単純に横と縦だけでは、簡単にラインの裏のスペースや空いたスペースを使われてしまう。だから、鍵になるのが、『斜め』の移動よ。」

「斜め?」

「横と縦のスライドを同時にやろうとしたら、自然となるから、別に構えることではないと思うわ。」

 すでに煙を上げる者。一名。

「あら、それほど難しいことも話していたつもりはないのだけれど八乙女さん。それとも、脳筋脳筋がぶつかりあうサッカーしか観てこなかったあなたにとっては、とても刺激が強すぎたかしら?」

首を横に振り(中盤の選手じゃないよ)、意識を取り戻す。

「べ、べ、別に大丈夫よこれくらい!か、完全に理解しているわ!理解が遅いあんた達を待っていたくらいよ。もう、待ちくたびれたわ!」

「あらそれはごめんなさいね八乙女さん。では、ここからは八乙女さんにお話ししてもらおうかしら。」

一閃。

「わ、わ、私が話すほどじゃないと思うわ…!宮城野原詩!あんたが続けなさいよ!」

「う、詩さん、お願いします…」

「また『さん』付けね…」

「お、お願いしますって!!」

「攻撃側の第一優先は、縦に、ラインの裏にパスを出すこと。理想は、ディフェンスラインの裏にパスを出すこと。つまりは、ゴール前への直線的なパスね。でも、守備側だってバカじゃないから、そうはさせない。それがさっき言ったゾーン守備に代表される守備側の考え方よ。だから、攻撃側は、横にパスを出すことで、守備側を動かして守備に穴をあけようとする。」

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「そうか!ボールが横に移動するのにあわせて、守備側も横にスライドするのか!」

「まあそうなるわね。たとえば、センターバックからサイドバックにボールが移った時、ウィングがサイドバックにプレッシャーをかけるために、構えている地点から縦への移動。これに呼応して、プレッシャーをかけた選手の背後をカバーするために、他のMFが横にスライドする。でもさっきも言ったように、ただ横に移動しても、縦にパスを入れられてしまう。」

「だから、縦にスライドもする。それを合わせてやるから斜めになるんでしょ、宮城野原詩。」

カットイン。さすが。

「そ、そうよ八乙女さん。」

「横と縦の移動。でも、わざわざ区切って移動しないから、斜めに移動するんでしょ選手は。試合観てるとよくそういう動きをするから、なんとなくあんたが言ってることが分かるわ。それを味方が全体でやるのがゾーン守備?ってやつになるんでしょ?」

「そうね八乙女さん。大原則として、中央の危険なエリアを守り続けることがある。それを維持し続けようとする、鎖に繋がれるとなると、こうやって斜め移動して自陣を守ることになるわ。まあ現象として捉えておけばいいと思うわ。」

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「すごいよ李七!試合を観ててそこまで分かるもんかよ!つまりは、トル○コが斜めにマス移動するみたいに、効率よく移動しながら、守っている場所をできるだけ維持するってことか!」

「ちょっと、その固有名詞は出していいの?ま、まあこのくらい分かってて当然よ!あ、でも…」

「でも?」

「こうやって、言葉にしてひとに話すのってとても大変なことだと実感したわ。私にはきっとできないことよ。悔しいけど…」

「別にできなくたっていいわ。こうして皆で話し合うだけで、いろんな気づきが生まれる。その都度、自分の知っていることなんて更新していけばいい。『これがすべてだ』なんてものは存在しないのだから。」

「出ました出ました!今日の宮城野原詩節!いやー今日もキレ味が違うッ!」

「私のこと少し馬鹿にしていないかしら朗。少しというかと、て、も…」

ぶっ刺さったな朗。出血多量じゃなければいいけど。

「す、すいませんでした!!宮城野原詩さん!!」

新であり続、続であり新

「へーあんたたち、こんなオタク丸出しの会話を公衆の面前で繰り広げてたってわけね。健全な高校生が何やってんだか…」

「えーっと、それについては全く異論がないというか、反論する余地がないというか…」

「でも、まあ、面白いじゃない。時々、混ぜてもらおうかしら。」

「おお!当店は誰でもウェルカムだ!あ、詩さん、いいですよね?」

どこの店なんだ。

「別に構わないわ。朗がいいと言うなら。しかもそれが、大切な幼馴染の八乙女さんならなおさら。私の意思が介在する余地なんて無いんじゃなくって。」

「えーっと、そういうリアクションに困るコメントやめて…」

「じゃ、ありがたく参加させてもらうことにするわ!あ、そうだ、もう帰らないと…じゃあまた明日ね!」

「おう、またなー…」

金色の背中を見送りながら。制服を小さく引っ張る黒い手。

「ねえ…」

「な、なんですか。」

「…もういいでしょ…」

「えー、あ、はい…その、詩…」

金色以上に輝く笑顔で。応える。

「なに朗?呼んだ?」

攻められっぱなし。

「…うん、そのちょっと…呼んだだけ…」

 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。李七とはあらゆる面でライバル。

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。父親が日本人で外交官、母親がイギリス人で作家でハーフ。

 名前の「七」は、エリック・カントナの背番号から。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。

 李七とは幼馴染。子どものころに李七をお嫁さんにすると約束したらしい。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。7

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春の勾当台公園

場所を変えて。

いつもの。勾当台公園

違うのは、ベンチに、1人、2人、3人。

「それで朗君。こうして公園に来たのはいいのだけれど、どうして金色イギリスかぶれピーキー女がいるのかしら?私は、朗君と『だけ』話したいのだけれど。何か間違っているかしら?」

黒い重力、宮城野原詩。

「ちょっと朗、これはどういうことなのよ!私は、ようやく朗とプレミア話で盛り上がれると思って超楽しみにしていたのに、なんでこんな黒髪根暗オタクグラビティ女がいるわけ?話が違うんですけど!」

金色の風、八乙女李七。

「グラビティグラビティうるさいわね八乙女さん。あなた、この半年でずいぶん重くなったように見えるのだけれど。物理的に。」

「う、う、うるさいわね!宮城野原詩!あんたこそ、だれがイギリスかぶれよ!ちゃんとした私の故郷よ!」

「でも、生まれも育ちも、激寒クソ田舎の東北宮城で育ったのでしょう?フッ…これをかぶれず、何をかぶれると言うのかしら?」

「ムキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「ちょっと二人ともやめて!!いろいろといろんな方面から怒られそうなワード連発しないで!!」

仲裁。しかし悪手。

「ん?それで朗君は、私とこの金髪とどっちと一緒にいたいのかしら?まあ、答えは聞くまでもないのだけれど、一応の確認よね?」

「え、いやそれは…というか君付けに戻ってるし…」

「ホントしつこいわね宮城野原詩!朗は私と一緒に決まってるでしょう!」

「主張するのは勝手なのだけれど、その腕をすぐにでも外してくれないかしら?誰の許可を得て、朗の腕にしがみついているのかしら…?」

「何よ、こんなこと小さい頃からずーーーーーーーーーーっとやってるもんね。あんただって羨ましいならやればいいじゃないの。腕は2本あるのよ?それとも何?もしかしてビビってるの?」

「いやおかしいよね、この腕2本とも僕のだよね?」

弱点を突かれた黒。一転、やや劣勢。

「……それは私だって、できるならくっついてたいよ…」

「…え?なんです?」

「…別になんでもないわ。良かったわね、朗君。八乙女さんとの再会を十分味わえて…!」

「ひえーー!!全然いいと思ってないでしょ!黒いオーラ閉まって!」

収拾がつかないからそろそろやめてほしいかな。

4-4-2の守備戦術

「はい、じゃあいいですか。落ち着きました?」

「まあまあねーーー」

「あら?オペラのケーキが良かったのだけれど。」

「そんなすぐに買ってこれないから!まったく、なんで僕がポッキーを買うことになるのか…」

ポッキー。それでいいのか。

「それで、朗君。」

「はい?まだなにか…」

いや、違う。いつものやつのスタートの合図だ。

「今日は、何を話したいのだったかしら?」

「そうそう!4-4-2ですよ4-4-2。前は、攻撃のことは聞いたんですけど、一般的というかどうやって守るのかを話したいです!」

「そうね、それは…」

やばいんじゃないか。目の前の英国面が蠢くぞ。

4-4-2!そう4-4-2!英国クラシカルフットボール文化の原点にして、頂点にして、極み。至高!そして柔らかく。最高!そして優雅に。すべてのボールをはね返すセンターバックを中心とした4バック!両ゴール前にフルスプリントするセントラルハーフ!快速ですべてを置き去りにするウィンガー!そして、どんな城壁でも破るセンターフォワードすべてが機能美。フットボールのすべてがそこに、4-4-2に詰まっていると言っても過言ではないわ!」

とんでもないスイッチ。

「……うざ…」

「ちょっと、うた…いや、詩さん!」

「……どうして照れちゃうのよ…まったく…」

「いや、だって…」

金色旋風。

「ちょっと、なに2人でブツブツ言ってんのよ!」

「あらごめんなさい八乙女さん。あなたの気色悪い4-4-2信仰のせいで、モウリーニョもびっくりするぐらいのドン引きリトリートしてただけよ。気を悪くしないで。」

「ドン引きってなによ!!!」

ゾーン守備の考え方

「まあまあ。それで、詩さん、4-4-2の守備ですけど。4-4-2って、まあ李七が言うほどかは別として、かなりバランスが取れたフォーメーションですよね。守る時も効率的というか、選手も統率が取れた動きをよく見ます。」

「そうね、朗君。3ラインでピッチをバランスよく守ることができるわ。基本的には、中央を3ラインで守って、ラインの裏にボールを入れられることを警戒しながら、ボール保持者にプレッシャーをかけるわ。大事なエリアを守りながら、ボールを取り上げにいくイメージね。」

「ゾーン守備…?ゾーンディフェンスとかの単語を聞いたことありますけど、ようするにみんなでしっかり守るってやつですか?」

「まあ…あながち間違いではないのだけれど。」

「ああ、もうじれったいわね!前でボールを奪えれば、ラインなんてものはあってないようなものじゃない!ボール持ってる選手にプレッシャーかけ続けて続けて、ミスを誘えばいいのよ!」

これは英国面というより個人の主張のような。

「物事を単純に考え過ぎよ八乙女さん。そうやって後先考えず、目の前のこともろくに観察せずに突っ込んでいくから、いつまでたってもその派手な髪の色のままなのよ。」

「か、か、髪の色のことは言うな!!!!!!」

「はいはい。で、詩さん続けてもらえます?」

「そうね、どこからかしら。ああ、私は長いからゾーン守備とかゾーナル守備と言うだけで、いわゆるゾーンディフェンスのことよ。」

「ふーん、なんだかいかにもオタクが考えそうな名前ね。」

「……」

ぎろりと向く黒い眼光。目を反らし黙る金色。

「ゾーン守備では、まずボールの状況が鍵になるわ。ボールを持っている選手に『時間』と『スペース』があれば、プレーの選択肢がたくさんできてしまう。逆に、ボールを持っている選手にプレッシャーがかかっていて、『時間』と『スペース』がなかったり、パスやトラップにミスがあれば、守備側は選択肢を限定したり予測しやすくなるのよ。」

「だからまずは、ボールを持っている選手の状態が守備の位置を決めるわ。ボールにプレッシャーがかかっているか、いないかで見てもいいと思うわ。」

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「なんだか難しそうな…」

「攻撃側がやれることを無くすことだと考えておけばいいわ。そして、次に、『守っている場所』と『守っていない場所』を分けること。ボールを持っている選手にプレッシャーをかければ、プレッシャーをかけた選手がもともと『守っていた場所』が『守っていない場所』に変わる。そこを別の味方が守る…これが連鎖的に、鎖のようにつながっていく。ボールから遠い場所は、サイドチェンジされても、ボールが移動する時間があるから守備を整えられやすいって考え方になるわ。」

「まずはボールへのアプローチ。ボールを持っている選手にプレッシャーをかけて、時間とスペースを限定する。そして、空いたスペースを味方がカバーして守るって具合よ。」

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「な、なるほど。なんとなく分かったような。」

「最初はなんとなくでいいわ。これに限った話ではないのだけれど、何となく分かったうえで試合を観て照らし合わせた方が手っ取り早いわ。」

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。李七とはあらゆる面でライバル。

八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。父親が日本人で外交官、母親がイギリス人で作家でハーフ。

 名前の「七」は、エリック・カントナの背番号から。

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。

 サッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。

 李七とは幼馴染。子どものころに李七をお嫁さんにすると約束したらしい。