蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【新たな皇帝CB】成長を止めない金正也。「最初のレイヤー」からゲームを動かす。

はじめに

  どうも僕です。今回は、初めてのプレー分析、ベガルタ仙台DF金正也選手(以下、ジョンヤ敬称略)のボールを持った時の立ち振る舞いを見ていきます。使用するフレームワークは、5レーン&4レイヤー理論。なにせ初めて一人の選手にスポットを当てて文章にするので、どういう顔して書けば良いか分からないのだけれど、「このプレーいいな」「感動しちゃったな」のプレーを主にしています。そんな、「親の目ゲーゲン」で9節ガンバ戦の全タッチを見直して書いています。よろしければどうぞ。では、レッツゴー。

5レーン&4レイヤー理論

sendaisiro.hatenablog.com

CB(センターバック)を巡るあれこれ

最終ラインに彼の玉座は無かった

 いわゆるCBとは、ゴールを守り、相手と競り合い、ボールを奪いあう星のもとに生まれた戦士だ。ジョンヤも例外ではない。もっといえば、対人守備に優れ、良い意味でファイトできるタイプのCBだ。CBらしいCB。そんな彼がベガルタに加入して、目の当たりにしたのは、自分の力を「闘い」以外に使うことだった。

 エレガントにボールを繋ぎ、相手の立ち位置を動かし、自分たちが優位に立つためのボールとひとの移動が必要だった。ジョンヤは苦しんだ。少なくとも、継続的にはスターティングメンバーに入れなかったし、今シーズン彼がメンバー入りする姿を想像するひとは少なったように思える。申し訳ないが、少なくとも、僕はそうだった。

皇帝の帰還

 今時、CBがボールを持って、自らアクションを起こしていくこと自体、特段不思議なことではない。ピケだ、フンメルスだ、もちろんそれぞれタイプが異なるのだけれど、大枠で言えば、ボールを持っても苦にしないタイプだ。むしろ、彼らが最終ラインからゲームを創る。今流行り、というより、チームにとって標準装備だ。ボールを扱う技術そのものは、伸ばそうと思えば伸びるものだと思う。ただし、じゃあ誰に、いつ、どのようにボール出しをするのかは、また別の話だ。やりたくても自分の技術ではできないこともある。「足元のあるCB」だなんて簡単に言うのだけれど、難しい話だ。

 そんななか、ジョンヤは帰ってきた。ルヴァンで名乗りを上げ、上向かないチームの快進撃を支える、狼煙を上げるべく帰ってきた。加入以来、長い苦難と努力の果てに、チームが最も必要としているものを携え、いや、強力な武器を持って立ち上がった。

 その武器とは、二つのパスだ。

皇帝・ジョンヤ

第2レイヤーへ面とベクトルを操るおびき出しパス

 ジョンヤの基本ポジションは、FWの前。いわゆる最初のレイヤーだ。ここからボール供給を行うのだけれど、むやみにレイヤースキップを狙ったり、DF背中(最後のレイヤー)に送ったりはしない。そこで引っかけられて、前掛かりになったチームがカウンターを受けていては、攻撃の勢いがそがれてしまう。

 急がば回れ。まずは、最初-第2レイヤー間のボール交換だ。しかも、FWがCH(アンカー)の選手をケアしていようが、まずはボールをレイヤー移動させる。つまりは、前にボールを進めることだ。相手がCHにチェックにくれば、リターンパスを受ける。これによって、ジョンヤ周囲のエリアがクリアリングされる。FWが急いでジョンヤにプレッシャーをかけにくれば、今度は、逆サイドのCBが空いている。または、チェックに来たFWが空けたスペース(第2レイヤー)でCHが受け直すことができる。

 一連のジョンヤのパス交換は、一見地味に見える行動なのだけれど、よく効いている。ポイントは以下だ。注目なのは、これが「対人守備が強い」と呼ばれていたDFがやっていることだ。すでに30歳。学びに限界はない。

  • 恐れず、FWの間を通してCHにボールをつけることから見える、ボールを前進させる意識
  • リターンパスを受ける技術的、精神的な余裕
  • 相手と味方のベクトル、立ち位置を操る。また、マークを預けたり引き受けたりを繰り返す

図1

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図2

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第3レイヤーへ「刺す」スキップパス

 そして、ジョンヤの真骨頂。レイヤーを飛び越すパス、レイヤースキップパスを通せる。レイヤーをスキップさせると相手のスライドが遅れるので、ボール保持側の展開がスピードアップする。しかも、最初のレイヤーから第3レイヤーへのスキップとなると、ボールを受けたレシーバーが勝負するのは、DFファイナルラインだけになる。いわゆるバイタルエリアが丸裸になる。

 前述のおびき出しパスで相手を引き出したり、警戒させつつ、スキップパスを刺す。もちろん前進すれば、DF背中の最後のレイヤーへもパスを通す射程範囲に入る。長短のパスで展開を操り、会心の一撃も持ち合わせる新たな皇帝CBだ。

 

図3

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図4

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おわりに

 この試合のジョンヤを見て、シンプルに感動してしまったのが事の発端です。正直、ほかのボール扱いが上手いDFと比較したら大したことないのかもしれないのですけれど、彼から色んなことが学べると思います。自分の不得意なことから逃げずに克服することの大切さ、学びに年齢は関係ないこと、新時代のDFに求められる2つのパスとかとかとか。まだまだな部分もありますけれど、彼ならきっと打ち克つでしょう。

 今回は、ガンバ戦のボール保持だけでしたが、ぜひ色んなジョンヤを見たいなと、これからも見たいなと思いました。フィールドプレーヤーの一番後ろから味方を一望しながら、いま、彼は黄金に輝いている。それでは、また。

<<こちらも合わせて読みたい!>>

 板垣晴朗さんのジョンヤの記事。「パスワークの号砲」は、良い言葉だなと思いました。

www.jsgoal.jp

 

 

【重力への抵抗】Jリーグ 第8節 鹿島アントラーズvsベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

  では、いきますか、アウェイ鹿島戦のゲーム分析。去年のアウェイでは、良いイメージをもっていただけに少し残念な結果に。まあ、いつまでも茨城に魂を引かれるわけにもいかないので、いつもの振り返りをやっていきましょう。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、前節同様3-1-4-2でセット。兵藤に代わって新加入の松下がインテリオールでスタメン入り。左利きのキック、パス、動き回ることでを期待しての起用か。あとは同じメンバー。こうなるとやることはひとつで、鳥栖戦からの継続で2トップの攻撃とCBがボール持った時に時間とスペースの活用が肝だ。

 一方の鹿島。SHに移籍してきた白崎がスタメン入り。ただし、安部とポジションを入れ替えたりするのであくまでオリジナル上の話。昨年のユアスタホーム最終戦ではズタズタにされた。今シーズンも立ちはだかる強敵として手合わせ願いますといったところだ。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

軸は2トップへのボール。セットオフェンスの型は発展途上。

 ベガルタのビルドアップは、3CB+アンカーのいつもの形。WBが高い位置を取り、CB常田からのフィードを待つ、あるいはビルドアップの踊り場としてCBをプレッシャーから解放させる。

 すっかりおなじみになった平岡、常田、ジョンヤによるビルドアップ。やれシマオが降りるだ、兵藤が降りるだ、おいおい石原先生まで降りるんかいと言っていた湘南戦が懐かしい。 

 そしてポジショナルアタックにおいては、理想型が78分。リャンがレオシルバをおびき出し、ハモンの扉を開く。ジョンヤが楔を打ち込む。ハモンに引き寄せられるDFとフリーになるタカチョー。選手の質と立ち位置、最後に一人余るところなど、きちんと優位な状態を作り出していた。コンセプトとして、第一優先がSB裏へのランニングがあるチーム状況において、こういったセットオフェンスを大事にしたい。

 またクロスマシーンハモンについては、ポジティブトランジションで書くのだけれど、ハモンはエルボー、つまりはハーフレーンの出口・ローポストの入口で待機させて、ボールレシーバーに専念させた方が彼にとってもチームにとっても良い気がする。気がするだけ。シュートブロック、ローポスト防衛のためにDFがくるなら誰かが空くし、来ないなら彼の左足が活きる。まあ、盤上の話かもしれないのだけれどさ。

図1

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中央3レーンを封鎖する鹿島

  さて、鹿島。4-4-2のセットディフェンスなのだけれど、キーはアンカーを2トップがチェックするのとハーフレーンをSHが封鎖することだ。中央3レーンを8人~10人でブロッキングする。ベガルタの2トップ+2インテリオールの4人を自由にさせない対抗型できた。代わりにCBとWBは放置。ベガルタが縦志向強くくること、WBにボールが渡ってからスライド対応で消し込めば中央を割られるよりは良い判断だと思う。多分。

 実際、吉尾、松下は、息継ぎのためにブロックの角、SH前あたりに降りるシーンが見られた。ワンタッチターンで前を向いて、ハーフレーンを襲撃してほしい彼らが降りると怖さが半減してしまう。ただ、ボールが来ないなら、居ないのと同じ。悩ましい。だからこそ、リャンのようなおびき出しとハーフレーンで前を向くことの2つをチラつかせて、判断を迷わせたいところ。言うは易し。まずはできることから。

  

ボール非保持時

見事なスライド。快進撃に向けたキーポイント

  ベガルタのセットディフェンスは、5-3-2。ジャメ・ハモンの2トップが2センターを監視して、2CBは放置。吉尾・松下のインテリオールがSB、蜂須賀・タカチョーのWBがSBにつく。基準を明確にすることで、スライドも思い切り行うことができる。鹿島は、2バックがボールを持てるが出し先がSBになる。その瞬間がベガルタの狙い。5-3-2の守備結界を広げ、押し出すことで、ボールを下げさせることに成功。そのまま、ビルドアップ妨害に移行していく形だ。結。滅。

 大分戦にも見られたが、セットディフェンスから一気にスライドすることでボールを相手陣地に押し込みビルドアップ妨害に移行していければ、相手の最初のレイヤーを圧縮し窒息させることにつながる。

 このブログで「攻撃」「守備」といった分け方をしていない理由でもある。どっちが攻撃しているかなんて、簡単に分けられない。ピッチから境目が見えるか?白線が俺たちに何をくれた?あるのは、ボールを持っているか、いないかだ。

図2

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図3

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左SH安部の存在

 ひとつ気になったのは、鹿島のSHポジション。特に前半は、安部が左SHにポジションチェンジすることで、ベガルタの右サイドで問題が起きていた気がする。安部が押し込むことで蜂須賀が迎撃ポジションをとれず後退。安西の進出、土居、2センターを中心としたボール交換、ポジションローテをやられた印象だ。もし上手くいかなかくても、サイドチェンジすることで、ベガルタをスライドさせることに成功。そこから失点にはつながらなかったのだけれど、何度か危ないシーンを創られた。

 スライドが得意なチームには、スライドさせるのがひとつの策だ。得意なことをあえてさせることで、安心感を与えつつ限界を悟らせなくできる。大分戦のGK高木にボールを持たせたのに通じる。得意なことをやらせられるとやりたくなるのが人間だ。必要なのは、必要なことを必要なときにやることなのに。今回も、縦横のスライドを見せるベガルタに対して、サイドチェンジでスライドを強要させることで、ほころびを見つけようとした鹿島。そもそも3センターの横スライド、WBの縦迎撃スライドは、判断と体力を使う。頭と身体が疲労すれば、当然穴が空く。

 鹿島は、昨年のホーム最終戦でもCBのボール供給能力の低さを突いてきた。今回も、ベガルタの守備に対する対抗型を用意してきた印象で、各チームが参考にする気がする。ベガルタとしても、鬼スライドで対抗できるメンバーなのだけれど、ボールを持つ時間を増やす、ポジティブトランジション移行の整理をきちんとやっていきたい。

図4

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ポジティブトランジション

狙いはいつも通りSB裏。「再現」されるクロスマシーンハモン

  鳥栖戦から継続しているSB裏。ここをハモンとジャメが突く。そこにプラスして、タカチョーが一緒に攻めあがっていく印象だ。3人とも速く、ポジティブトランジション、攻撃状態への移行も速い。その分3人でミドル・ロングトランジションからのカウンターで仕留められれば良いのだけれど、そうもいっていないのが、今のチームのサッカーを難しくしている要因のような気がする。3人とも空を裂く号令を聞いたハネウマのように乱暴なだけに、周りがついて来れない。しかも、君が飛ばせと煽るから、小休止(ポーズ)プレーでボール保持の時間を創ることもないので、次の瞬間には家に帰って、対面する相手選手に付き合うはめになる。

 左ハーフレーンから左ウィングレーンにカットアウトラン、外流れすることでボールを引き出し光速クロスを上げる。これが今のハモン・ロペスのパターンだ。難しい。再現性があるのだから、有効と見るべきなのか。ボックス内に入ってこれない選手がいけないのか、そこを整理すれば、ハモンのクロスが報われるのか。

正解ではなく答えを探したい

 僕にはとうとう分からなかった。ハモンが報われるには、ハモンの心臓の鼓動、すなわちリズムに合わせて行動する必要があるように思える。ドリブルの方向、クロスのタイミング、シュートマシーンになりたい時、ずんだシェイクを食べたい時とかとかとか。そんなこと可能なのだろうか。だからと言って、彼に重税を課して、大人しくさせるのも何だかなあって感じだ。彼がそれで相手に勝って突破している、何度も繰り返せてる、それでオッケーなのか。分からない。

 ひとつ言えるのが、彼も人間で、一緒にプレーしている選手も人間だ。誰だって試合に負けたくないし、もっと良くしたいと思っているわけで。「クロスを上げました」「ボックス内に入ってきました」みたいな真似だけはしないでほしいなと思っていたり、思っていなかったり、やっぱり思っていたり。みんなで攻めて、みんなで守れたら、とっても良いなと思いましたとさ。

 

考察

守備構築に成功

 一時期の誰が何を守っているのかよく分からない守備から随分整理された。そこから、素早く攻撃に転じていく意識も統一されている。それがだめなら、CBを中心にポジショナルアタック。一本槍で難しいのだけれど、突き詰めるしかない。

だからこそ序盤の急戦で仕留めたい

 この試合も13分、15分にチャンスがあったわけで。ああいうところで決めきれないと、今のチームは難しくなってしまう。ありったけの殺意?を込めてボールを強くぶっ叩くこと。まあ、結果ジャメは大外ししたのだけれど。

現実と理想との狭間で

 ある意味今年のテーマでもあった、立ち位置を変えながら優位性を維持しつつ、数的優位を保つやり方。本来、ゴール前で力を発揮する選手がバックラインに降りることになる。優位もへったくれもなくなり、途中で変えた。

 ある意味すでに現実路線に入っているのかなと。というより、より現実的な理想といった方が正しいか。より勝ち点を意識した形。叶えられることから叶える。時間も無いし。ブロックを低く構えて2トップの個の力に任せるあたりは、今あるリソースを最大化するひとつの策に思える。だからこそ、やらねば、やられるのだ。

 

おわりに

  やりたいことを否定され、できることに舵を切る。決して悪いことではない。皮肉なことは、できることを封じられたからこその変化を封じられ、立ち帰ってきた。そしてまた、それだけでは解決しない問題に直面することになった。咎。報い。業が深い。

 冗談だろ。どれだけ僕たちを試したら気が済むんだ。神様は。でも、毎朝起きると新しい自分に生まれ変わっているのなら、毎日が試練で、チャレンジなのかもしれない。そこに正解はないのかもしれない。少しずつ、高いところに登っているのかもしれない。かもしれないかもしれないかもしれない。今はそう言い聞かせてみる。

 

 「後悔するよりも反省する事だ。後悔は、人をネガティブにする」こう言ったのは、ソリッド・スネークだ。

 

 参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

【明日はきっといい日になる】Jリーグ 第7節 大分トリニータvsベガルタ仙台 (0-2)

はじめに

 さて、行きますか。アウェイ大分戦のゲーム分析。今シーズンリーグ戦初勝利を得たベガルタを迎え撃つは強敵揃い。まずは、大分だ。やりたいことを続けることは、それなりにしんどいのだけれど、やらなければやられる。やるか、やらないかだ。ということで、今回もゲーゲンプレスで振り返りをやります。では、レッツゴー。

 

目次

 

オリジナルフォーメーション

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 さて、ベガルタ。前節メンバーと変わらず。勝利メンバーを送り込む。前回と違うのは、相手が5バックになるということ。ひと手間、二手間かけないことには崩せないぞ。それとも、トランジション時に守備の約束の束が解けている間に攻め切ってしまうのか。はたまた前からビルドアップ妨害で嵌め殺すのか、塩漬けるのか。大分も策を巡らすチームなだけに楽しみだ。

 一方の大分。様々な苦難を乗り越え、堂々とJ1リーグを戦っている。監督は、軍師片野坂監督。強敵たちを必殺の擬似カウンターで仕留めてきた。ワンタッチゴーラーの藤本も好調だ。ここまでは3-4-2-1、3-1-4-2を使用。この試合、ベガルタの戦型予想がしやすいなかだが、どのような策を立てるのか。果たして結果は。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

ビルドアップ:ポゼッション(時々ダイレクト)  ポジショナルアタック:ポゼッション

  ベガルタのビルドアップは、前節同様、3CB+アンカーによる逆丁字ビルドアップ。この試合は、大分がこの4人に同数プレスをかけてビルドアップ妨害を図るのか、それいともCBは放置してアンカーを誰かが見るのかが注目ポイントだ。なので、上記で3-4-2-1と3-1-4-2と書いたのだけれど、あくまでここまで採用したフォーメーションであって、4-2-3-1で「1-3」にあわせたり、4-3-1-2でアンカーとボールサイドのCB、中央CBに息継ぎさせないのかも想定された。片野坂監督は、本当にフォーメーションを電話番号のように使う。4バックも3バックも。いかに数的優位を創るか。そこに注力する。

 正解は3CB放置。藤本にアンカー富田を見させた。最初のレイヤーの優位性、つまりはボールと時間とスペースは与える。その代わり、自陣で好きにはさせないといった狙いだ。狙い通り、5-4-1ブロックを組む大分。シャドーと呼ばれる4のサイドの選手は、ハーフレーンに立ち封鎖。5バックは無暗に迎撃せず、後方でブロックを創ったままだ。

 こうなるとベガルタのポジショナルアタックに影響する。わりとクリーンにボールを持てるCB。でもその先が難しいかった。大分の狙いはこれだ。前節のように、2トップがカットアウトランでレーンチェンジしてサイドに流れると対応が後手になる。しかも、2人のインテリオール(吉尾、兵藤)についていくのも得策でないし、レーンの隙間で受けられると厄介だ。ならばと後方でブロックを創ろう。供給先が無ければ、供給元にボールがあっても死んだも同然だ。と軍師片野坂監督は考えたのだろう。

図1

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 では我らがベガルタ。どうもこうも、やることはひとつ。後ろの優位性を前に繋ぐこと。ビルドアップのタスキをFWに託すことだ。WBの蜂須賀、タカチョー、インテリオールの吉尾、兵藤がボールホルダーであるクイーン(CB)に近いポジションを取り出す。段々と我慢できなくなる大分。瞬間的に、刹那的に、大分WBとCBが引っ張り出されて中央CBとのギャップ、ラインの段差ができる。ジャメがそこを突いた。

 そして続けた。僕たちの声がまるで届いているかのように、逃げずに、勇気をもって続けた。結果は、終盤のインテンシティ(プレー強度、集中力、そのほか正の要素諸々)の低下につながったと言える。難しい。サッカーは難しい。ゲームコントロールが一番の近道のような気がする。気がするだけ。でもそれはどの国も、どこのチームも、どの時代も難しいテーマだ。サッカーは生き物だ。簡単ではない。

図2 

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 そして、大分の対応手。対抗型として3-4-2-1を採用したが、前半終了前ぐらいから3-1-4-2に変更。5-3-2系のフォーメーションでベガルタの攻撃をロックし始める。狙いはもちろん、自陣に飛んでくる優位性の矢の出どころと出した先を封じること。加えて、その矢のために門を開く2人のインテリオールに対して手を施しておくこと。恐ろしい。やはり、軍師だ。

図3

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 交代とフォーメーション変更で、中盤・終盤で差を広げ、ベガルタを窒息させた大分。ベガルタとしては、序盤の急戦でさっさと勝負を決めたかった。というより、今のベガルタにはそれぐらいしかない。交代投入された選手が何か違いを見せたかというと、なんとも言えないというのが今日の結論だ。特に大分とのコントラストがはっきりしてしまった。それが悪いというわけではないのだけれど、後述するビルドアップ妨害で仕留めきれなかった部分など、やらなければやられるのだ。

 

ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲン+リトリート

 僕からは書くことは無いです。申し訳ない。特筆すべきところは少しなかったような気がする。多分。いつものようにゲーゲンプレスをボール付近で行い、リトリートしていくいつもの形。ロングキックを蹴られても、常田が藤本番を勤め上げた。 

 

ボール非保持時

プレッシング:攻撃的プレス  セットディフェンス:ゾーンの中のマンツーマン

 ベガルタのビルドアップ妨害を見ていく。この試合のひとつの狙いだった。それは、あくまでGKまで深追いはせずボールを持たせること、3人のビルドアップ隊の目の前で牽制することで、 選択させつつ選択肢を削るやり方だ。アプローチは若干異なるのだけれど、大分が仕掛けてきた策に共通する部分だ。時間とスペースはやる。ただ、この先は通行料がいるぜ。と言った具合だ。あとは、前に行くのであれば、擬似カウンターの急先鋒、FW藤本を封じる必要がある。その役割は常田が担い全うした。完璧だった。それだけに、失点シーンは実に勿体なかった。若さゆえの過ち。それがひとを強くする。これから通常の3倍になればいい。

図4

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 大分はビルドアップパターンがいくつかあるが、図4が大体の形。すべてではない。基本は2トップとインテリオールが3トッププレスをかける。CB岩田がレーンチェンジでSBロールをするおかげで、ハモンがめちゃくちゃ気にして、5-4-1のように見えることもあった。現象。

 そこには兵藤が加わって同数プレスを継続。GK高木が加わってきたら、前に立って様子を見るが、パス交換をしている間にジワジワ距離を詰める。GK高木の弱点は足元のうまさだ。え?強みでは?当然強みなのだけれど、なまじボールを触れると味方とボール交換してしまう。結果、2vs2の状況を創る。21分の伏線、43分にはゴール前で2本のシュートを浴びせ先制するところまで行った。

図5

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 ベガルタとしては、ここで仕留めたかった。前節も先制した余裕を使ってゲームを進めていた。ここでやらなければ、いつやるんだ。ハモンもアリバイシュートは良いのだけれど、せっかく運んだ優位性をバッティングセンターのように消費されては何だかなあといった感じだ。2本のシュートで世界一になったFWがいる。リオネル・メッシだ。

 

ポジティブトランジション

ショートトランジション:縦志向 ミドル/ロングトランジション:ポゼッション

  前線がハモンとジャメ、WBにタカチョーが入ると奪ってからは速くなる印象だ。特に3CB脇は狙いたくなる。ビルドアップ妨害からゴールに迫るシーンもあり、そちらに書くこととする。

 

考察

目には見えない頭脳戦

 お互い、後ろでボールを持つ時間があったのだけれど、不用意にはボールを入れない。相手の動きを観察して、隙を見せたら刺す。ベガルタとしても、採用できる戦型、手筋が一本槍のところがあるが、それでも今できる最大限の手を投入していた。

引き離されると難しくなる現実

 フォーメーション変更、選手交代と段々と差を広げた大分。もちろん、先制を許したのも大きい。色々な要素で後手に後手にといつの間にか対応になっていた。だからといって何かを変えるのかと聞かれると難しい。強いて言うのであれば、ジャメかハモンのどちかがゴールを決めていれば、全く違った顔を見せたゲームになっていたかもしれない。

続けることの恐怖に勝て!

 前節に大きな決断を下し、勝利を得たベガルタ。たった1試合上手くいかなかったからって首を引っ込めるような真似はしないでほしい。というかできないのかもしれないのだけれど。 勝利と敗北と。我々ができること、できないことが明確に分かったのだから、あとは自分たちがやりたいことを貫くために、相手に、状況に、環境にどう対応するのか。勝負はこれからだ。あとはもっとボールを持って攻撃をする時間を長くしたい。良い攻撃は良い守備から。良い守備は良い攻撃から。

 

おわりに

 論理的に投了まで追い込まれた。完璧に仕留められた。難しい。サッカーはやはり難しいし、勝つのは同じくらい難しい。やりたいことを貫くことも難しいし、相手に応じて変えるのも難しい。難しいことだらけ。足が遅いことが分かっているなら、相手がスタートするよりも早くスタートする必要がある。相手もスタートが早かったら?途中で昼寝をするような愚か者ではなかったら?やっぱり難しいじゃないか。

 その難しさのなかで、自分らしさという檻のなかでもがいているのが今のチームだ。もっと難しくなる。昔の方が良かったかもしれない。明日は今日より悪くなるかもしれない。それでも明日がほしい。ようやく夜明けを迎えたのだから。また陽の光を見たい。今日よりずっと、明日はいい日になる。いい日にするんだ。

 

 「簡単な人生を願うな。困難な人生を耐え抜く強さを願え」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

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footballhack.jp

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

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【夜明けの最前線】Jリーグ 第6節 ベガルタ仙台vsサガン鳥栖 (3-0)

■はじめに

 さあ!いきましょうかホームサガン鳥栖戦のゲーム分析!桜開花の仙台。春一番の仙台。担げるゲンは何でも担いだ、拝める神は全て拝み倒したわけではないのだけれど、勝利を願い信じ続けたサポーターにやってきたのは夜明けの明かりだった。ということでゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

■目次

 

■オリジナルフォーメーション

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 まずは我らがベガルタ仙台。フォーメーションを前輪駆動型4-4-2抹殺兵器3-1-4-2に。インテリオールに兵藤と吉尾を起用。CB中央に構えるのは左足のフィードが得意な常田。ジョンヤが前節引き続きクイーン(左CB)の位置に。2トップはハモンとジャメのコンビ。今節は、3-4-2-1のベールクト型をやめて、3-1-4-2と前掛かりな狙いだ。これがベガルタのナベさんの決断だった。

 対する鳥栖カレーラス監督になってやりたいサッカーはありつつも、現状の戦力だったり相手だったりに微調整するあたり手練れだなと思わせる。今節は4-4-2。おそらくなのだけれど、3-4-2-1を想定するなかでの4-4-2だったのかなと思う。3トップを顔面からぶち当てるやり方もあったはずだがかっちりとしてきた。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

ボール保持時

ビルドアップ:ダイレクトなビルドアップ

ポジショナルアタック:ポゼッション

 まずはベガルタのビルドアップ。3CB+アンカーの逆丁字型ビルドアップだ。そこにGKダンが加わったり一手間加えることもあったのだけれど、基本型はこの形を維持した。これまでCHが降りるわ、シャドーが降りるわ、多くのお手伝いさんがいた状況だったが、この試合はまるで何かの強い意思を感じさせられるように3CBでビルドアップを進めた。

 鳥栖の狙いは、後方でブロッキングする、パスレーンを封鎖してWB裏、CB裏をクエンカや金崎に狙わせることのように見えた。よって、ベガルタCBには強いプレッシャーがかからなかった。というより、金崎もクエンカも、ボール非保持時において、二度追い、三度追いしたり、限定・誘導するようなFWには見えなかった気がする。気がするだけ。おかげで、ジョンヤに、平岡に、そして常田にボール供給の時間、息継ぎする時間ができた。

 そしてポジショナルアタック。そもそもの話をすると、3-1-4-2に対して、4-4-2はすこぶる相性が悪い。一般的に。3-4-2-1も4-4-2が守っていないところ(2トップ脇、SH脇、DFとMFの間)に選手をはじめから配置しているので同じようなことが言えるのだけれど、4-4-2にとって3-1-4-2がややこしいのは、4-2は4-4で相手がはっきりしているが、3-1は2で見るのはしんどい。かといって、CHやSHが応援にいけば、WBやインテリオールをフリーにする。しかも2トップなので、1人がサイドに流れても1人は中央に残って牽制できる。いわゆるピン留めだ。こうやって4-4-2に対する3-1-4-2は、「嵌めて外す」が構造的にできてしまう混ぜるな危険状態にできる。ま、数字遊びなのだけれど、これもひとつの事実だ。

*概念図

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 話をベガルタに移す。この試合のインテリオールに起用されたのは兵藤と吉尾。横浜が生んだアタッカーだ。吉尾は、縦のボールをワンタッチターンで前を向く「カイナターン」でスペースやハーフレーンを襲撃。兵藤もスペースやSB・CBの間を攻撃。何度もCBからのボールを受け前進していく。後ろの優位性を前に繋ぐ。実現された瞬間だった。

 鳥栖のSBの迎撃意識の高さも要因だった。何度も迎撃したSB後方のスペースに、「花火の中につっこむぞ!」とばかりに飛び出していくジャメとハモン。そして吉尾と兵藤との合わせ技。強力なコンボ攻撃。おそらく今日のベガルタの狙いだった。構造的な部分による最初期の奇襲。嵌めてから外すことで小さなズレを創り世界に選択を迫る。選択の結果。大きなズレを生み出した。ズレは得点に。得点は勝利へと昇華された。

 そしてポジショナルアタックを最後に彩ったのが常田とジョンヤ。狙いが狙い通りいかなければ、常田のチェンジサイドキックで世界線をリセット。リセットパスで局面を変えてしまう。シンプルに空いている蜂須賀、タカチョーにキックを蹴り込む。そしてジョンヤ。ジョンヤのキックの特長は、最後のレイヤー狙い、つまりはゴールに直結する、死に至らしめるパスだ。ジャメとハモン、2人のインテリオールがSB裏を狙うのと相乗効果でこうかはばつぐんだった。逆に鳥栖は、SBが上がらない選択肢もあったが選ばず。どうして、いつも、常にそうなのか少し分からなかった。

 ベガルタのCBにはCBの、FWにはFWのそれぞれの役割がある。監督には監督の。サポーターにはサポーターの。遅いも早いもない。優れているも劣っているのものない。境目などない。その役割に気づけるか気づけないか。それだけだ。戦う理由が見つかった。

*概念図

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■ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲンプレッシング(エリア制圧型)

 今回はいつものアリバイゲーゲンではなかった。これまでは、リトリート時間を稼ぐためのゲーゲンプレスだったが、目的が変わった。必ず奪う。そして、ゴールを目指す。2点目のシーンもボールを素早く奪い返す。これが吉尾、兵藤の連続シュートにつながっていく。もちろん、ピッチ各所でも奪っていく、奪って攻めるんだと意欲と行動が見えた。ボールの主であり続けようと戦い続けた。

■ボール非保持時

プレッシング:攻撃的プレッシング

セットディフェンス:ゾーンのなかのマンツー

  セットディフェンスは5-3-2。鳥栖の2CB+2CHのボックスビルドアップに対して、2トップが2CHを監視。SBにボールが出たらWBが猛烈に迎撃。あるいは、3センターが鬼スライドする。迎撃、スライド。これらは記号だ。ここと決めたらボールを奪いにいく、守る。振り切ってやり続ける。

 鳥栖はクエンカが降りたり、SHが降りる、CB間にCHが降りるなど工夫を見せた。それが有効かと言われたらよく分からなかったのだけれど、僕たちも勇気が少し足りなかったころやっていたわけで。動じることもまたなかった。戦う理由が見つかった者は強いのだと思う。 

■ポジティブトランジション

ショートトランジション:縦志向強い

ミドル/ロングトランジション:縦志向強い

  ポジショナルアタックに繋がっていくが、鳥栖が高い位置に取るSB裏へのアプローチが主軸。ボールを奪われ、前にいくのか撤退するのか迷っている間に行けるぜ!とばかりにボールを送り込む。ここは試合を通じて徹頭徹尾行われていて、やはり狙いだったと言える。 

■考察

殉ずるがいい己の答えに。

 弱点を補いあう。聞こえは良かったのだけれど、出来ないことを無理くりやろうとしていびつな構造になっていた前節までのベガルタ。シンプルに立ち位置攻撃で攻略する。できなければ、レーンチェンジでズレを創る。サイドチェンジでリセットする。見事に正面から戦った。そして、勝利を得た。

もう1歩、あと1歩

 ここまで構造的に攻略したのだから、淡々と壊し続けることも必要になる。もちろん今日の狙いとは別の部分になるのかもしれないのだけれど、ひとつひとつ点数を重ねることも求められていくことになる。高いレベルの話だ。ここまで来たのだ。

夜に腐っていた僕たちは間違いなく明日に向かっていく

 目指している良い立ち位置での攻略。ここをもっと突き詰めていかないとけない。明日からまたがんばれるか。大丈夫。忘れたのではない。思い出せないだけだ。できないのでもない。やらないだけだ。君ならやれる。 

■おわりに

  僕はピッチに展開されるサッカーとは、そのチームの監督の意思を表現するひとつの方法だと思っている。それが喜びであれ、怒りであれ、悲しみであれ決断であれ。僕はそれを読み解きたいと思っている。対話だ。サッカーを通じた対話だ。僕は渡邉監督と選手と対話している。そして言葉に置き換えている。

 ひとつの意思はより強大な意思を発揮する。一人一人は微弱でも、次第に大きくなる。それがスタジアムという場所だと思っている。

 今の世の中において。サポーターが勝たせたなんて幻想だ。そしてサッカーは、勝たなければ意味がない。良い試合だったなんて、記録にも記憶にも残らない。勝つ者と敗ける者がいる、それだけだ。ただ、それでも、たとえそうだとしても、言えることがある。とても良い試合だった。チームもサポーターも勝利という一点を見つめ戦い、そして勝ち取った。これを良いと言わず、何を良いと言うのか。

 僕たちは決して負けない。それは目の前の試合に、それぞれが立ち向かう苦難に、僕たちは決して負けない。負けるわけにはいかないんだ。そんな春一番だった。

 

 「よう相棒。まだ生きてるか?ありがとう戦友。」こう言ったのは、ラリー・フォルク(pixy)だ。

 

■参考文献

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【閉ざされたいまに風穴を開けよう】Jリーグ 第5節 ベガルタ仙台vsセレッソ大阪 (0-2)

■はじめに

  さて、いきましょうか。ホーム、セレッソ戦のゲーム分析。春とは思えない寒さのなかで、雪が降るなかで、まだ夜明けが見えない我らがベガルタ。冬があれば必ず春がやってくる。明けない夜はない。ということで、いつものように振り返っていきます。では、レッツゴー。

■目次

■オリジナルフォーメーション

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 さあ、我れらベガルタ。メンバーを大きく変更する。石原の欠場もあったなかで、5人の新加入選手をスターティングメンバーに起用。右WBには道渕がリーグ初スタメン。新加入ではないのだけれど、左CBにはジョンヤが入った。3CBと富田で底堅く、前線5人のベールクトとリンクマンの兵藤。左利きのシャドー。緻密に守るロティーセレッソに、剣を引き抜いた。

 一方のロティーセレッソ。ポジショナル対決だ。しかも本場の。WBに逆足を使っていたことで有名だったのだけれど、順足の松田、丸橋に落ち着いたようだ。シャドーも清武と柿谷、センターはソウザ、奥埜と現状のベストメンバーと言えるだろう。よりレーンを意識して、攻守に立ち位置を取る。アタッカーで迫る渡邉ベガルタに強固な城壁を築いた。

■概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

ボール保持時

ビルドアップ:ポゼッション

ポジショナルアタック:ポゼッション

 左利きの2シャドー。ハモンと吉尾。全く性格の異なる2人なのだけれど、前後半で立ち位置を変えた。特にハモン。前半は、サイドチェンジキックを受ける役でボールに競り、カットイン。後半は、WB背後を何度も突き、クロスマシーンに。

 吉尾はハーフレーンの出入口が彼の舞台。第2レイヤーに降りて、ボールを受けたり、ダンからの瞬間移動パス(第1レイヤーにいるGKから第3レイヤーへのスキップパス)を受けるなど、技術の高さを優位性として戦った。

 どちらが良いかどうかではないし、どっちのやり方が良いという話ではないと思う。相手があって、自分たちがあって。ただし少なくとも、自分たちが試合で何を表現できるか分からなければ、相手を超えることは難しい。けれどそれは、試合でしかできない逆説。難しい。

*概念図

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■ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲンプレス(エリア制圧型)

 いつものようにリトリート時間を稼ぐものだったのだけれど、今回は敵陣でボールを奪う、あるいは下げさせて次にボールを奪う機会を狙うものだった。若く、そして走力があると可能なのかなと。若さは良い。失うものがない。失っても取り返せる。 

■ボール非保持時

プレッシング:攻撃的プレス

セットディフェンス:ゾーンのなかのマンツー

 ベガルタの狙いは、前線から、いわゆるビルドアップ(構築)局面から妨害をかけてボールを奪っていく狙い。これは、これまでのセレッソの失点シーンが自陣でボールを奪われるケースが見えたことから、セレッソのビルドアップが成熟しきっていないと判断からだと思う。実際にこの試合でも14分、17分と相手のビルドアップ局面からボールを奪ってシュートを撃っている。合わせ技で、WBとCBの縦横スライドが肝だった。WBが果敢に相手WB(CB)を迎撃。空いたスペースをCBがスライドして埋める。

 ただ、20分ごろから前から嵌められなくなる。ロティーナとその教え子たちが手を打ったからだ。奥埜、ソウザの2センターが3トップの間にポジションを取る。それまでのベガルタは、「3CBに対して3トップ」、「2センターに対して2センター」で嵌めていた。ロティーナは選択を迫った。続けるか、続けないか。答えは後者だった。

 吉尾、ハモンの2シャドーは降りてきた奥埜とソウザ、同時にWBにもプレスをかけられるポジションをとった。結果、セレッソの第1レイヤー、CBに時間を与えることになった。あとは、芋づる式で降りる清武、柿谷への対応の選択。ただ、一番の変化はレーンチェンジ。柿谷、清武だけでなく都倉、CBも実行してきた。3手詰めまでは対応できる。それ以上複雑に絡むとパンクする渡邉ベガルタディフェンス。先制点の場面も判断を多く要求されて、約束事の束が解けてしまった。

 3‐4‐2‐1は難しい。いや、サッカーが難しいのだけれど、5レーンを攻守で埋めるためのフォーメーションが結局のところ、レーンを空けたり、かぶったりしなければ相手を崩せない、守れない気がする。気がするだけ。

*概念図

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■考察

前から前へ

 狙った形は出た。あとは決めるだけ。言うのは簡単なのだけれど、なかなか難しい。ただ、メンバーも大きく変えたなかで、渡邉監督のひとつの決断、意思を見つけた気がする。相手の弱点を突く、そのために前に出なければいけないのであれば出る。結果は仕留められなかった。今度は必ず仕留めるだけだ。

■おわりに

 負けてしまった。負けたくない、負けるのは死ぬほど悔しいから。勝ってタイトルを取るんだ。最後まで勝利を信じて尽くした者が敗北を肯定できる。そして僕たちは勝つことができなかった。何も手に入れられなかった。大切なものを失った。ベガルタのサッカーをした。結果は負けてしまった。たとえそうだとしても、最後まで、その一瞬まで僕たちは勝ちにいくんだ。

 人間は誰しもいつか最後は死ぬ。どんなチームも敗北する。いま僕たちが考えなければいけないのは、目の前のサッカーだ。ベガルタだ。まだ、死なない。死ぬわけにはいかない。痛みを感じるのは、生きている証だ。

 

 「生きる」こう言ったのは、村山聖だ。

■参考文献

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【未来へと続く扉】Jリーグ 第4節 湘南ベルマーレvsベガルタ仙台 (2-1)

■はじめに

  ではいきましょうか、湘南戦のゲーム分析。お世辞にも開幕ダッシュに成功したとは言えない我らがベガルタ。ルヴァンで勝利しているものの、リーグ戦の夜明けを見たいぜよ。しかも、内容ももがいているような、いないような、いや、いるような。ということで、今日もいつものようにゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

■目次

 

■オリジナルフォーメーション

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 連敗中のベガルタ。ルヴァンでゴールを決めている長沢、リャンを起用。あとは、現時点のベストなメンバーといったところか。段々とバランスを見出しつつあるなかで、トランジション局面に強いメンバーというより、様々な場面に対応可能なメンバーともいえる。勝ちたい。

 一方の湘南。ルヴァンを制覇して、自分たちのスタイルにより自信を深めている。長期的な目線で、クラブが一体となってチーム構築を行っている姿勢を僕たちも見習う必要がある。辛く苦しい時期にも信じて続けられるか、湘南からのメッセージのような気がする。

■概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

ボール保持時

ビルドアップ:ポゼッション

ポジショナルアタック:ポゼッション

 まずはビルドアップ局面。この試合の焦点は、ボールを奪う、奪われる局面において強力な湘南。 自陣近くでのロストを警戒して、長沢をターゲットに使うかと思いきや、意外とポゼッションを高める形に。

 戦型としては、大岩、兵藤+シマオ+ダンのスクエアビルドアップ。平岡、永戸をシマオの位置まで上げることで、W字型ビルドアップともとれる。平岡と永戸はウィングレーンに、大岩と兵藤がハーフレーンに立つことで相手のビルドアップ妨害を防ぐ狙いだ。

 湘南の対抗型、というよりいつもの形だろう妨害は、前線がW字型に合わせる形でプレッシャーをかけてきた。特に、シャドーがハーフレーンを封鎖して、CHが大岩にプレッシャーをかけていくシーンが印象的だった。CHが空けた場所をCBが迎撃することで湘南のディフェンスラインは、4-4-2のような形にも見えた。数字遊び。

 ベガルタが湘南のプレスの狙いを外すためかどうかは分からないのだけれど、平岡、永戸はハーフレーンに入らず、あくまでウィングレーンでポイントを作っていた。位置取ることで相手に焦点を与えてしまう恐れがある。であるなら、その外側で待機しておけば良いといったところか。実際、平岡、永戸の前進、あるいは、さらに高い位置を取るWBやシャドーへのボール供給場所になる。

 そこからポジショナルアタックへと移行していくのだけれど、擬似2バックがプレスを顔面から受けることで難しさもあった。心配したのか、あるいはそれが狙いなのか、どっちもなのかもしれないのだけれど、シャドーの石原、リャンがシマオの高さまで降りてきてポゼッション確立を目指した。シマオも時には、擬似2バック間に降りることで2センター+CBの擬似3バックポゼッションも見せた。ミシャ式と呼ばれるものの派生型だ。後ろのポゼッションを安定させ、多くの選手を前線に送り込み手厚くする。その代償として、ネガティブトランジションで地獄を見る。大半の選手が敵陣、ゴール前を守るのがMF2枚とCB1枚、GKだけだ。

 この試合、永戸や平岡がハーフレーンに入って、シマオと一緒に擬似センターハーフをやることはなかった。CB(クイーン)→擬似SB→擬似CH→CBとビルドアップポジションで循環できたら面白そうだったのだけれど、あくまで、センターハーフポジション、いわゆるハーフレーン/第2レイヤーに顔を出したのはシャドーの2人だった。おそらく、新生ベガルタの狙いとして、シャドーを降ろして(レイヤーダウン)ポジションのローテーションを狙っているのではないかなと思っている。レーンは守りつつ、それを利用して変えていく。一方、7分には石原がそのままの位置に居て、蜂須賀の突破とクロスを生み出すシーンもあって、使い分けができたら最高だ。

 新しい挑戦。失うものもある。アタックを期待されるシャドーがこの位置に居て良いのか。平岡、永戸にボールがついても肝心のローテショーンが起きず、誰もいないこともある。向かいのホーム。路地裏の窓。こんなとこにいるはずもないのに。表裏一体。光を得たら影も生まれる。

*概念図

◆ビルドアップ(構築)局面

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◆ポジショナルアタック(前進)局面

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■ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲン+リトリート

 ここはいつものように、ボールを奪われると近くのひとがゲーゲンプレス。リトリートの時間を稼ぐ。ボールサイド、2レーンにひとが多く配置されてたので、ここでの奪回も目指していたのかもしれないし、目指していないのかもしれない。ただやはり、リトリートスピードは速い。

■ボール非保持時

プレッシング:攻撃的プレス

セットディフェンス:ゾーンのなかのマンツー

 いつものように、5-2-3、5-4-1のような形でセットディフェンスを敷いた。ハーフライン付近、ミドルゾーンからのプレス。ただ、湘南のビルドアップは、3+1で対抗。1付近の空いているエリアにシャドーの選手やWBが降りることで、ベガルタDF陣を引っ張りだして、空けたエリアにオフボールの動きで侵入してきた。このベクトルの違う動きは、試合開始から見られ、WBが引っ張られたスペースにシャドーが入るお手本のような形だった。先制点のシーンは、ビルドアップ妨害時にチェンジサイドされた結果、2トップが追いきれず、CHとWBが協力して空けたスペースにCB小野田のドリブルを許したことから始まっている。着いていくならついていけばいいし、行かないならだれかにバトンを渡すべきだ。

■ポジティブトランジション

ショートトランジション:ポゼッション

ミドル/ロングトランジション:ポゼッション確保

 奪ったらボール保持のシーンが多かった。あまりトランジション局面を作らないで、湘南の良さを消しつつ、自分たちがボールをもって崩す意識が高かったように思える。

■考察

新しく見えた攻撃の形

 セントラル、ハーフ、ウィングレーンの3レーンでスクエア+1を作って攻撃していたこと、シャドーが降りて、CBが高い位置を取る、WBがハーフレーンにレーンチェンジするローテーションをすること、これはチャレンジしている攻撃の形だと思う。ミシャ式だ、4バックビルドアップだと言われているが2バック+アンカーをシャドーが助ける形でビルドアップを安定させ、後方の選手が高い位置を取ってギャップを創ろうとしている気がする。シャドーがハーフレーン/第2レイヤーに降りることで、ネガティブトランジション対策にもなる。

 

でもそれが果たして良いのか

 良い悪いがあるのは当然なのだけれど、きちんとローテーションしなければ、効果的に第3レイヤーに位置取ることができない。あえて、攻撃力のある選手を自陣近くに帰ってこさせるのだ。それ相応の対価がほしい気がする。気がするだけ。

 

新加入選手との調和

 新たに入った選手の吸収力は、今までいる選手よりは多いはず。多分。渡邉監督に与えられた難しいミッションは、去年の課題である守備の部分、攻撃の質の積み上げの部分と野津田、板倉、奥埜、西村がいなくなった穴を埋めることだ。その両方の作業を同時進行で、しかも結果を出すことも求められている。それは並大抵のことではない。

■おわりに

 惨めな思いをする一週間が続く。結果?内容?どちらかもしれないし、ピッチ外でおきる、チームとは全く関係ないところのせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。答えなんか分からない。分からないのだけれど、明日はやってくるし、雨が降ってくるかもしれない。今の世の中において、誰もが予想だにしない未来がやってくるし、想像以上の結果を得るかもしれない。誰もが答えを探しながら闘っている。クラブか、それとも選手か、サポーターか監督か、結果か思想か、クラブへの誓いか、選手への情か。その時に信じられるものとは。それでもベガルタは、選手は、闘っている。闘い続けている。生きる理由はいくらでもある。僕はこの試合にベガルタの未来を見出した。それが今の僕の答えだ。これ以上は止めておく。それを語るに相応しい選手たちがいる。

 

 「カッコ悪くたっていいじゃないか、ぼくは未来をあきらめたくないよ!!」こう言ったのは、風祭 将だ。

■参考文献

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【転んでもいいよ、また立ち上がればいい】Jリーグ 第3節 ベガルタ仙台vsヴィッセル神戸 (1-3)

■はじめに

 さあいきましょうか、神戸戦のゲーム分析。いろんな文脈がある試合なのだけれど、どんな時でも90分間の試合に全てが詰まっている。ということで、いろいろと目線が空高い神戸との対戦なのだけれど、ベガルタがどこを向いていて、どこに向かっていくのか世界最高の選手たちを相手に表現してほしい試合だ。ということで、鬼のゲーゲンプレスいきます。では、レッツゴー。

■オリジナルフォーメーション

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 さてベガルタルヴァン杯も戦った影響で、メンバーを少し変えている。WBにタカチョー、シャドーにアベタク、1トップにジャメを起用。シマオはリーグ戦2試合連続出場だ。長沢、ハモンの高さが無いなか、機動力のあるメンバーで前からプレスで嵌めてしまう、トランジションで上回る狙いか。ボールを持つ、エリアの主人であるか否かがテーマになりそうな試合。飛ばすぜ、振り落とされるなよ?といった具合か。

 一方の神戸。キングダムリージョ軍は、ビジャという最高のFWを前線に加えて、CBにはボール出しができるダンクレーを獲得。もはやリーグの枠を超越している。4-2-3-1がオリジナルなのだけれど、この数字にあまり意味はない。隙を見せたら、死はすぐそこまでやってくる。

■目次

■概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

ビルドアップ:ポゼッション

ポジショナルアタック:ポゼッション

 ベガルタのビルドアップは、ダン・永戸・大岩・シマオのスクエア+平岡ビルドアップだ。ビジャがカバーシャドウで1人で2人守るプレスをかけてきたが、ここは、クォーターバックのダン。ウィングレーンに開いている平岡にボールを出すなど落ち着いていた。

 特に、この試合の一番の狙いは、左ハーフレーン・第3レイヤーで構えるエキストラキッカーのアベタクだ。QBダンのキック精度。アベタクのトラップ能力、レシーブ能力。持てるリソースを最大限に活かして、相手DF陣に迫った。選手個人に起因する能力を最大限発揮させれるという意味における質的優位性、位置的優位性を発揮する形だ。たとえそこで攻撃が完結しなくとも、スムーズにポジショナルアタックに移行していった。

 ただ、試合途中~後半になるとアベタクが警戒される。山口がデートなのか、ハーフレーン封じなのか、アベタクを封殺する時間が増える。21分、ダンからのキックを西が対応。67分には山口がアベタクからカットしている。この対応力はさすが代表級選手といったところか。これを利用してどこかで空く選手を使ってゴールに迫りたかった。タカチョーが余るシーンが多かったので、あとは練度を高めるだけか。

*概念図

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 15分ごろのプレー。神戸のビルドアップ妨害の連携が取れない、前プレが効いていない状況を利用して石原が三田、古橋の背中に降りる。スクエア+石原でプレス網を突破。

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 QBダンからのレイヤースキップパス。通称擬似カウンターだ。しかもこの試合のベガルタは、レーンの意識が強く、攻撃シーンは3レーン、5レーンアタックのような形になっていた。

 ポジショナルアタックにおいても、攻撃の一手目はアベタクのローポストアタックだ。まずはアベタクが狙う。山口に埋められたり、ボールが出なくても、誰かが代わりに入ったり、アベタクがいたスペースを使うことでひとの循環を起こしていた。スペーシングというやつだ。そこまで高尚ではないかもしれないのだけれど。

 ポジショナルアタックの出口が見つからなかったベガルタにとって、これはひとつの解答かもしれない。ルヴァン杯では、左ローポストに侵入したアベタクがゴールを決めている。このエリアへの警戒度合いを上げれば、こんどはウィングレーンが空く。クロス。ゴール前。ズドン。これだ。

*概念図(呼び方は、footballhackさん、バスケの考え方から引用)

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■ネガティブトランジション

プレッシング:ゲーゲンプレス&リトリート

 ゲーゲンというより、平岡や永戸が前で潰す意識が強かった気がする。というより、WBも含めて高い位置まで迎撃する意識だ。こちらもボールを奪われると高い位置までボール奪取に向かった。ただ、やはりベガルタの場合はそこからのリトリートの時間を稼ぐためのような気もする。

 

■ボール非保持時

プレッシング:攻撃的プレッシング

セットディフェンス:ゾーンのなかのマンツー

 この試合、WBとクイーン(左右CBいわゆるハーフディフェンダー)が高く迎撃するのが特徴だった。まるで1階から3階まで。階段を駆け上がるかのように。前で潰せばラインなんてあってないようなもの。それが4-4-2なのか、4-3-3なのか、5-4-1なのかはさして重要なことではない。ポジションレス。ボーダーレス。そんな相手に、数字遊びなんてしたところで意味がない。数字がないなら、数字無しで対応するしかない。

*概念図

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 イニエスタを中心にロジカルにぶっ壊された去年のリーグ最終戦から見ると、今年の守備への取り組みの成果が出た気がする。ただ、失点はどれもひどい。31分の失点は、アベタクのクリアミスから。その前に29分には平岡が似たようなクリアをいわゆる「バイタルエリア」に放り上げてる。いのちをだいじに。2失点目も、キックオフボールを奪われ簡単に背後を突かれた。3点目は進行方向を塞がれ蹴っ飛ばしたボールが相手に。

 これだけミスをしていれば、見逃すほど簡単な世界ではない。しかも、ビジャだ、ポドルスキだ、イニエスタだ。何度でも言うさ。簡単ではない。みんなが前掛かりになっているのに後方でミスをして奪われる。チャオ、君は終わりだ。 

*概念図

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 無理くり神戸の形を概念化した。これがすべてではない。ただ、キーになるのはジャメの両脇と石原の後方(というよりイニエスタゾーン)かなと。あとは、両SBが幅をとって、古橋、ビジャが神戸の最後のレイヤーを狙い続ける。ベガルタは、ミドルゾーンでは5-2-3のような形。ローゾーンでは5-4-1で迎撃した。

 

■ポジティブトランジション

ショートトランジション:前線の選手へ

ミドル/ロングトランジション:縦志向

 さて、ポジティブトランジション。この試合の勝負手だ。自陣で奪えば前の選手に繋ぎ、コレクティブカウンターを繰り出していた。3分の3線速攻なんかは、喉元にナイフを突きつけて「覚悟はいいか?」といった宣戦布告だった。ほかにもCB脇あるいは背中を狙うジャメ、ハーフレーンで構えるアベタクにボールつけていった。

 ただ20分あたりから、GKスンギュがノイヤーロールで対抗。もっとジャメがスペースに走り込むシーンを増やしたかったが、この対応スピードの速さ、さすがとしか言えない。兵は拙速を貴ぶ。兵は機動なり。

 ■考察

ダンとアベタクのポジショナルアタック

 よく後方の貯金を前方へなんて聞く。この形が一番なのかなと思う。ダンのキック能力が日本代表級であって、この質的優位性を利用しない手はない。個人的には、去年の年末から実装してくれないか願っていたのでうれしい。レシーバーとしての能力を開花させているアベタクとのユニット攻撃だ。ただ、どちらかというと、瞬間移動攻撃か。それとも瞬神の術とでも呼ぶべきか。

 

過ちを認めるか認めないか。若さか大人か。

 結局ミスからの失点。まあ、ミスからじゃない失点は厳密にはないのだけれど、少なくとも自分たちから招いた、相手に手を貸した失点だ。丁寧に。丹念に。そうでなければ、僕たちは終わる。

 

良い立ち位置の未来の先へ

 前半に今年一番の輝きとバランスを見出した我らがベガルタ。尻すぼみしてしまったのが痛かった。久々にレーンを強く意識した攻撃を見ることができたし、それに縛られない形でのポジショナルな攻撃も見ることができた。レーン導入3年。J1在籍10年。クラブ創設25年。続けていく。まだ始まったばかりだ。

■おわりに

 壁。壁。壁。三重の壁が僕たちの前に立ちふさがる。結果という壁。スコアという壁。闘い方という壁。失ったものを取り戻す形で創り上げてきたもの。それが壁として目の前に、四方に広がる。壁同士で声が反響する。不安も、心配も、恐怖も、怒りも、苦痛の声もまた、反響して、大きくなって自分の耳に届く。試合後のユアスタは、壁に取り囲まれていた。あれも、これも、それも、どれも何もかも足りない。僕たちは、速く走れないし、空だって飛べない。努力は報われないし、夢も叶わない。

 でも、このクラブ以上に一番だと言えるクラブがあるか。選手がいるか、監督がいるか、スタッフがいるか。スタジアムも、この土地も。唯一無二。天国にするのも地獄にするのも僕たち次第のような気がする。多分。偉そうなことは言えない。高ければ高い壁のほうが登った時気持ちいもんなって、誰かが歌っていた。ひとつ、昇ってしまいましょうか。

 

「スクラップ&ビルドでこの国はのし上がってきた。今度も立ち直れる」こう言ったのは、赤坂秀樹だ。

 

■参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html